435 / 581
剣と魔法の世界のストレンジャー
九尾院
しおりを挟む青白のワンピースとくねくねしてる尻尾を追いかけることしばらく。
ご機嫌な自称おねえちゃんを追いかけた先はクランハウス用の居住区だった。
――そもそもクランハウスってどんなん、と先輩どもに質問したことがある。
いわくクランのリーダーが所持できるすごく便利なお家、だそうだ。
冒険者なり料理人なり、何かしらのギルドに所属している誰かがある目的を掲げて結成するのがクラン。
最低四名、所属ギルドの混成も可、ある程度の実績がある者が揃って申請、そして諸々の審査が通って形になるそうだ。
そこから結成後の方針を掲げ、貢献ぶりが評価され、その具合に応じて恩恵が与えられる。
要するに「フランメリアのためにいいことしたら飴あげる」である。
まさしくそれを体現するのが『クランハウス』だ。
この世に蔓延る魔女様のご機嫌をとれば気前よくくれてやるらしい。
クランの活躍ぶりで増改築、建て替えまで全て市と魔女どもが負担してくれる。
しかしこの世界の実情はこうだ、そんな恩恵にあやかれるほど活躍できるのは人外なヒロインたちだけなのだ。
「――こちらです。あれがわたくしたちの活動拠点である『九尾院』でございます」
だいぶ通りを渡った頃、小さな白いローブ姿がくるっと振り返る。
ニクほどに変化量の少ない顔と、そっと撫でるような声が示すには――
「まさかこれがお前らのクランハウスなのか? なんていうか……」
「おー……」
ぴんと立つツキミのうさぎ耳越しに大きな建物の構えがあった。
それはお隣のわん娘と一緒にこうして呆気にとられるほどだ。
ミコたちの拠点を何倍も大きくしたような屋敷と、相応の土地の広さだった。
つまりそれだけクランとしての力を示すわけだが、何より目立っていたのは。
「すごいでしょ? シズクおかあさんがね、九尾院のみんなと一緒に和風の住まいに建て替えたんだよ!」
ふふん、と得意げそうにするおねえちゃんの言う通りなのだ。
和風だ。ささやかな庭園があって、瓦屋根で白塗りの建物がどこか懐かしい。
あちこちにぶら下がる提灯なんてまるでお祭りみたいだ。
「すげえ、祭りにきた気分だ。屋台でも開けばもっと賑わいそうだな」
キャロルのドヤ顔通りに関心するしかなかった。なにこれすごい。
それに日本を思い出すにはいい光景だ。日本人の心に刺さるだろう。
「あっ、でもね? あくまで既存のクランハウスに手を加えただけだから本物の和風じゃないの。ほんとはみんなでもっとそれっぽくしたかったんだけど、手に入らない飾りとか家具とかが多くて……」
「それでもここまでやれるなんて大したもんだと思うぞ。撮影していい?」
「うん、おねえちゃんと一緒に写ろっか! ツキミちゃんスクショよろしくね!」
お土産にこの観光スポットを撮影しようとするとぐいぐい引っ張られる。
腕にしがみつく金髪ロリ、反対側でべったり「ぴーす」してるわん娘、間に挟まれ「これすげえ」な表情が揃うと。
「……では撮影させていただきますね。いきますよ……?」
「イエイ!」「いえーい!」「いえい」
いいなりの頼みに応じてくれたウサギッ娘が宙をひっかいて――撮影完了。
さぞいいのがとれたはずだ、どうもと撮影者に一礼すると。
「……本当にその人連れてきたんですね、キャロルねえさま」
庭の方からやる気のなさそうな声が送られてきた。
呆れさえ混じってそうだが、落ち着きのありすぎてウィスパー加減が強まってるこの感じはどこか覚えがある。
いた、近くの赤色揃いの傘と縁台に狸耳な少女がごろっと寝転がってた。
「コノハちゃん見て見て! わたしの弟くん連れてきたよ!」
そんなぐでっとした姿に「弟です」とキャロルに紹介させられた。
キモノ風の軽装で装った狸耳のロリが怠惰にくつろぐ最中だったはずが、唐突な家族の増え方に「は?」な顔だ。
「あ、どうも。なんか弟にされてましたパン屋見習いです」
「ええ……なんでその人のおねえちゃんになってるんですか、説明を求めます」
「だってみんなのおねえちゃんだから!」
「答えになっていませんよ。こんにちはあにさま、『バケダヌキ』のコノハです、よろしくです」
俺たち姉弟に何を思ったのやら、横倒れにぐでっとしたまま挨拶してきた。
というかあにさまってなんだ。また家族が増えるのか?
「バケダヌキってなんだ?」
「なんかこー、タヌキなんです。こうしてたぬたぬしてます」
「そうか……ところであにさまってなに?」
「年上は敬うのがコノハの流儀なのです。こうして並んでみるとキャロルねえさまはただのロリですね、これはもう妹と兄なのでは?」
コノハとか言う子は確かに前でたぬたぬしてる。怠けるという意味で。
犬猫とも違うふっくらした尻尾をたしたししていいくつろぎ具合だ。
「――おねえちゃんだよ?」
なおキャロルは人の腕をひしっとしつつ、頑なに姉を主張してる
「いい加減言わせてもらうけど年齢的に無理があると思う」
「ふふん、いちくんにいいこと教えてあげるね? ヒロインはみんな二十歳なの!」
見た目を指摘するもない胸張ってどやっと偉そうに主張してきた。
ミコもこいつも等しく二十歳なのか、それなら事実を突きつけてやろう。
「キャロル、俺からもいいこと教えてやるよ。今年で二十一だ、つまり俺が年上」
なんであれ俺の方が一つ上なのだ、こっちも得意げに返してやると。
「――おねえちゃんだよ!!」
弾けるような勢いと元気で姉の押し売りが返ってきた、もうだめだ。
「んもーおねえちゃんごり押してくるこの子……」
「ごめんなさいあにさま、その人姉になってマウント取ろうとするロリなのです」
「……ん、じゃあぼくもおとうと?」
引っ付く姉をそろそろ引き剥がそうとしてると――ニクがきょとんとしてた。
もちろんだと言わんばかりにキャロルは胸を張るも。
「おとうと……?」
すぐに違和感に気づいたらしい。次には「妹でしょ!」とか言いそうだが。
「ちなみにこいつは俺の相棒のニクだ。男だぞ」
「ぼくはニク、よろしくね。オスだよ」
後々のために可愛らしい男の子であることを伝えておいた。
「えっ男……!? 男の子……? この子が……?」
「えっ、男の……? どういうことなんですかあにさま。男の娘のヒロインとか聞いたことないんですけどもしかしてステルス実装されてた……?」
じとっとした美少女顔に自称姉はだいぶ戸惑ったみたいだ、タヌキ耳も。
「ちょっといろいろあったんだ。こんなかわいい見た目してるけど立派な男の子だぞ」
「うそだー! こんなかわいい女の子が男の子のわけないでしょ! ちょっと確かめるねニクちゃん!」
「いやほんとだって! 嘘だと思うならほら!!」
「あんっ……♡ ふ、太もも掴んじゃ……あっあっ……♡」
「なにしてるんですか二人とも」
論より証拠だ、二人でわん娘のスカートをめくった。白だった。
やる気なく呆れるコノハと、じっと澄まして見守るツキミの前で姉弟揃っての性別チェックをしてると――
「にーちゃんだ! にーちゃんがいる!」
夕暮れ間近の空からとっても元気な声が降ってきた。
声を辿れば和風のお屋敷の瓦の上、そこでちょこんと佇む茶色い鳥が一羽。
元気そうな短い茶髪に短パン、脇もお腹も見える身軽な女の子がばさっと羽ばたいてる。
「ピナリア! また会ったな!」
「ピナだよー! にーちゃんきてたんだね、よーこそ九尾院へ!」
ピナリア、もといピナだ。ハーピーらしい小さな体で降りてきた。
人間7と鳥3を混ぜた姿はかしっと着地、翼を広げてとことこやってくる。
抱っこしろとばかりに迫られたのでそうした、軽くてふわふわ。
「うへへー♡ また会えて嬉しいなー♡ 遊びにきたの? ボクと遊ぶ?」
「三歩以上歩いたのにちゃんと俺のこと覚えててくれたか。お呼ばれしたから来てやったぞ」
「あにさま、言っときますけどピナねえさまは鳥頭じゃありませんからね」
「ハーピーに鳥頭とかいうのは差別だよ! めっ!」
「誠にごめんなさい」
記憶力が心配だったがしっかり覚えてくれてるし、人懐っこい上目遣いだ。
おかげでまたロリまみれだ、あの時の依頼よりは幾分マシだが。
「……なになに? 男の人が来てるけど……?」
「パン屋のお兄さんだ……」
「デストロイヤーのお兄ちゃんがいる……!」
更に追加だ、クランハウスから人外な可愛い顔ぶれがひょこっと見てる。
猫に狼、植物にスライム、多種多様な――ロリしかいねえ。
思わず「まーーーーたロリか」と失礼な形でため息が漏れるも。
「あらあら……来てくれたのね? あなたがいちくんかしらー?」
そこへ大人びた柔らかい調子の声がだいぶ場違いに混じった。
するとぎゅっと抱き着いてた鳥ッ娘も離れてキャロルも駆けて、遅れてウサギも狸もそこへ向かうほどで。
「この人だよ! ボクたち助けてくれた人!」
「シズクおかあさん! 弟くん来たよー!」
「シズクおかあさま、この人です。なんだかキャロルねえさまの弟にされてますけど」
「ただいま連れてまいりました。こちらの殿方がそうなのですが……」
「ふふふ、ずいぶん大きな弟くんができちゃったわね? あなたが九尾院の子たちを助けてくれたのね?」
小さな子供たちをまとった誰かがゆるりと近づいてきた。
上品な赤色の髪を大人しく下ろした、とても穏やかで背の高い女性だ。
着物めいた着こなしに静かな赤色を浮かべて、しとやかな狐の耳と尻尾を柔らかく揺らす美女がいた。
元気なロリどもとは違う大人びた表情はこっちをとろんと見てる。
「……あー、どうも。イチです、弟にされてます」
「こんにちは、ニクだよ。お邪魔してます」
キャロルより百倍ほど穏やかで母性のある様子に流石の俺もたじたじだ。
そいつはクランハウスの子供たちを背にゆっくり近づくと。
「……くふふ♡ どんな方なのかなあって思ったけれど、こんなに元気で優しそうな子なのね? イチ君って呼んでいいかしら?」
おっとりとまどろむ目でくすっと笑って手を伸ばしてきた。
さわっと髪に指先が触れた。そのままかき上げてさわさわくすぐってくる。
そのせいもあって目の前の人柄がよく分かった。
いろいろデカい、着物越しの背丈も、そこに浮かぶ上や下やも――というか、開いた胸元が谷間を重く表現してる。
「どうぞご自由に。なんかご招待されたんでお邪魔してます」
「私の大切な子たちを助けてくれてありがとうね? こうして来てくれて先生とっておも嬉しいわ」
「あいにく子供を見捨てるような教育されてないもんで。ええと……」
「私はクランマスターのシズクよ。このクランで身寄りのないヒロインたちと一緒に暮らしてるの、良かったら中にいらっしゃい? おもてなししてあげるからね?」
こっちの調子が狂うぐらい優しくにっこりしたまま引かれた。
慕われる様子やこうも感じる包容力はまさに「お母さん」という感じだ。
特定の人、特に毒親絡みの思い出があるなら複雑極まりない――うん俺のこと。
「……じゃあ、お邪魔します」
「くふふ♡ 緊張してるのかしら? 大丈夫よ、怖くないですからねー? 先生のことは好きに呼んでね? お母さんでもいいわよ?」
嬉しそうに揺れる狐の尻尾のせいで「それでは」断りづらいのは確かだ。
甘ったるくてご機嫌な声に引っ張られ、ついでにロリにも囲まれ和風建築の中へ案内された。
◇
1
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる