魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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剣と魔法の世界のストレンジャー

相棒の元へパンを届けに

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「あら、ミセリコルディアのマスターさんじゃない。あなたのこと覚えてるわよ、半年ぐらい前にうちの塩抜きパンをいっぱい買っていったわよね?」
「お前さんがあの何かと有名なクランの長か? えらく美人なお嬢ちゃんが勤めてると聞いたが、まさかここまでとはのう」

 「元気だ」ぐらい曖昧な返しが出かけたが、奥さんと爺ちゃんの探るような言葉がずっと早かった。
 出迎えの質問にミコはどうも落ち着かない様子でぺこぺこ頷いて。

「あっ……こんにちは。『ミセリコルディア』のマスター、ミセリコルデです。あの、いきなり押しかけてごめんなさい、ちょっとその人とお話がしたくって……」

 とうとう寂しそうな表情が浮かんでしまった。
 ヒスイ色の綺麗な瞳もふるっと潤みかけて、そんな様子を目の当たりにして良心にちくっときたのは言うまでもない。
 「なんやなんや」と厨房から赤いスライムなヒロインも這い寄ってくると。

「いいのよ、もう売るものも売れて暇な頃合いだったしここで好きなだけお話しなさい」
「わしは暇をつぶしてるような退屈なジジイだし? 水は差さんからたっぷり言葉を交わすがよい」

 いろいろ察してくれたんだろうか、二人が距離を置いてくれた。
 ニクもスカーレット先輩を引いて「二人きり」を設けてくれたらしいが。

「…………元気だよ。最近やっと生活も安定してきて、まあ楽しくやってる」
「……そっか。あの、いちクンのこと……何度か耳にして心配だったの」
「どんな噂だ?」
「問題を起こしたプレイヤーさんたちと決闘して追い出したとか、あのおっきなゴーレムと戦って倒したとか、それから悪徳錬金術師を捕まえたとか……いろいろ?」
「総じていつも通りって感じだな。ウェイストランドほどじゃないけど」
「うん。いちクンらしいなって思ってた」

 どうしても話がぎくしゃくしていた。
 短剣じゃない相棒がそこにいるものの、あの時みたいにスムーズなやり取りがうまくできない。
 あのおっとりした可愛らしい顔にもまっすぐ目を向けれなかった。
 
 そもそもだ。ミコはここにこぎつけるまで肩にべったりだったが今は違う。
 ここじゃ相棒は冒険者としてそれなりの責任を背負った先輩、それも名の知れたクランのリーダーだ。
 依頼書と同じだ。ひとたびこの稼業に足を突っ込んだ以上、等級の隔たりはここまでやってくる。

 タケナカ先輩はいいさ、一緒に泥臭くやってやるって覚悟した仲だから。
 でもミコは? ウェイストランドより幾分穏やかな世界で、名の知れた冒険者として華やかに生きてる。
 一方こっちはどうあがいても訳あり品、アバタールが根付いた余所者だ。
 相棒は四人で幸せに暮らしてるらしいが、ストレンジャーが片足を突っ込めばどうなるか――そんな心配だ。

「……いちクン?」

 果たしてこんな考えはどれほどの沈黙になったのやら。
 ミコの表情がすぐそこで不安そうに誰かを見てくれていた。

「あれからずっと特に問題なく過ごしてるよ。タカアキにも相変わらず世話焼いてもらってるし、心配しなくて大丈夫だ」

 だから、つい、目を反らしてしまう。
 そんな反応をされたらいやなことぐらい分かってるが、それをやってしまったのだ。
 何やってんだ馬鹿野郎。そう思って向き合い直すも既に遅く。

「……そう、なんだ。良かった」

 相棒はしょんぼりしてた。
 というか泣きそうだ。生きててこれほど胸をやられたのは初めてだ畜生。
 呆れるような爺ちゃんの息遣いも届いてきた、俺はどれだけしくじったのやら。

「……あ、そ、そうだミコ。えーと、実は俺、フレンド登録できることが分かってさ。メッセージとかも送れるんだけど」

 どうにか慌てないように振舞うけどさぞ見苦しいはずだ。
 左手のPDAを見せると、ミコは少し縮こまりながらもこくりと頷いて。

「……忙しいところに押しかけちゃって、ごめんね? えっと……フレンド申請、送っておくから……」

 向こうだって同じなんだろう。口元をきゅっと引き締めて宙をかいた。
 指先も震えてるし、身体の緊張も店の外へ逃げ出しそうな感じだ。

【フレンド登録申請を受信しました...】

 視界に電子的なメッセージがそう見えると、あいつは早足で出て行ってしまう。
 「待ってくれ」という言葉も伸ばした手も届かず、これで店じまいだ。



「……ご主人、まだミコさまのこと後ろめたいの?」
「あなたねえ、あの表情を見たでしょう? あれはね、私の故郷では相方を理解してくれてる女性の顔なの。そうやすやすと千切れない縁があなたたちの間にはあるのよ?」
「ミセリコルデさんあんなに寂しがっとったでえ、なにしとんねんイチ君。どんな事情だろうがそこは胸張らなあかんやろお」
「ありゃな、まっすぐお前さんを想っとるよ誠実なものだぞ若いの。いつどれだけ距離を離しとったか知らんが、それでもこうして会いにくるとか恵まれすぎだからな? なんと勿体ない……」

 あれから午後の仕事に力も入るはずもなかった。
 四人に根掘り葉掘り聞かれた挙句、ミコの背景まで白状してこの有様だ。
 四人がかりでこんだけ言われてるのだ。もう返す言葉もない。

「……何も言えない」
「何も言えないわけないでしょう? あなただって言いたいことがあるはずよ」
「それ言ったら言い訳になる」
「言い訳でけっこう。しっかり前を見て言いなさい」

 ここまできて「ミコの暮らしに関わりたくない」といったらどうなるんだ?
 そんな不安も奥さんの言葉にかなうはずもなく。

「……あいつ、クランのみんなで楽しくやってるんだよな。なのに俺がずかずか踏み入ったらどうなるか不安なんだ」
「どう不安なの?」
「せっかく四人でいつもの生活に戻ったのに、台無しになったらどうしようって」

 正直に話して数秒の間の後、呆れいっぱいに肩を落としてきた。
 いつもの頼もしい表情からは到底想像できない仕草でびっくりだ。
 その上で彼女はまっすぐな目をしてこういうのだ。

「馬鹿ねえあなた。逆よ」
「逆って?」
「今のあの子はね、あなたがいないと台無しなのよ。さぞ大変な経験があったんでしょうけど、でもあなたの律儀さが彼女との縁を強く結んでるの。パンと同じよ、もう完璧に焼きあがってるのよ」
「お前さんの背中にどんな物語があろうとあの嬢ちゃんからすりゃあ「知ったことか」だぞ? あの娘には受け入れる余地がとっくにできとるし、お前さんだってその一歩手前まで踏み込んだんだろ? なら大したもんだ、あと一歩進めば済む話よ」

 そこに爺ちゃんも混ざって、おかげでどれほどやらかしたか身に染みた。
 あの表情の深刻さだってそうだ。人生で一番無責任なことをしてしまった。

「うちなあ、イチ君のこと勢いのある男だって思ってる反面、誰よりも純粋で繊細な人やとおもっとるでえ。しゃあないわあって思うかもしれへんけど、その気持ちはあの時こそ向けるべきやったんやないかなあ」

 スカーレット先輩の言い分だってもっともだ。
 人をよく見てる言葉はどうするべきだったかを示してくれてる。

「……俺もそうだったと思う」

 本当に何も言えなくなった。その通りだと頷くだけだ。
 そんな時だ、爺ちゃんがいきなりがしっと肩を掴んできて。

「いいかイチ、ようく聞け」

 老人とは思えない力強い目と合った。

「冒険者稼業ってのはフランメリアらしさを表現するもんだし? お前さんらの関係ってのはそういうのも絡んだ複雑なもんだとわしの目に映ったんだが」
「……うん」
「お前さんを見るにそういうのに疎い人間なのはよーくわかっとるよ、ここ最近見せてもらった人柄さ。でもだからってあんなうら若き乙女、それも純真でお前さんに向き合ってくれるようなのをほっとく言い訳にはならんぞ」
「うん」
「物事ってのには優先順位があるもんよ、わしの生業である魔術の仕組みもそう変わらんさ。お前さんだってお互い信頼してるよ~に見えたが、だからって連絡もなし、距離も置いたままじゃダメなのよ。二人で話し合ってそう定まったのならともかく、一方的じゃ流石にひどい仕打ちだからなそれ」
「……うん。あんな顔されるなんて考えてなかった俺が悪い」
「クソ真面目な新米め。だったらその気概を使え、お前さんなら簡単に挽回できるさ」

 そう言って心配するような笑顔を浮かべてた。
 知り合って間もない仲なのに、この人はどこまで俺を見てくれたのか。
 でもひどく心を打たれた。賢者という肩書の重みは本当なのかもしれない。

「俺にできるかな」
「こんなクソジジイを楽しませてくれるクソガキならできるさ」

 心なしか、アルゴ神父だとかボスだとか、そういう人間に触れた気分だ。
 ついでとばかりに頭も撫でられた。そうか、俺もまだまだクソガキか。

「……分かったよ爺ちゃん。このミスは必ず取り返してくる」
「それでよい。まったく、お前さんはすごいんだかダメなんだかよーわかん」
「うちの店員にご助言ありがとう、おじいちゃん。この子に私の故郷の男たちを紹介してあげたいわ、この世界で誰よりも彼女に尽くす姿勢だもの」
「ジョルジャ、お前さんの国の男は愛が強すぎてもはや嫉妬深いだけだろ。おまけに揃いも揃ってマザコンときた」
「でも好きな女性には徹底的に身を張るいい男よ。彼らほどになれとはいわないし、今すぐになれとはいわないわ、一歩進んであなたもあの子に相応しいいい男になりなさい」
「あのおねえさんのことでここまで悩めるんならええ証拠やでえ。明日にでもいっといでえ」

 奥さんやスカーレット先輩も困ったやつを見るように笑ってる。
 実際困ったやつだけど、ひどく励まされた――分かったよみんな。
 どうにか頷いた。ニクもぴとっとくっついてきた、今日も撫でてやった。

「こういう時の私の国でのやり方を伝授するわ。明日彼女のところへ行ってあげなさい。それがあなたの仕事よ」
「キリガヤ君もサイトウ君もようやってくれるからなあ、店のことは心配せんでええでえ」
「ゴーレムぶちのめしたときみたいに堂々と行ってくるんだぞ。なあに、次相まみえる時きっとお前さんは笑ってるさ」

 三人がそう言うのだ、どんな顔だろうがミコに会いにいかなきゃいけない。
 みんなの気持ちに感謝してびしっと背筋を伸ばした。

「……分かった、必ず会ってくる。暗い気持ちにさせるなんて相棒失格だ」

 そして口にした。必ずミコを明るくして戻ってくると。
 向こうは「それでいいんだ」とばかりの表情だ、パン屋に勤めて良かった。

 ――がたん。

「困ったらいきなり抱き着けばどうにかなるぜ! 勢いで行けイっちゃん!」

 あとなんか来た。ドアの隙間からドラゴン系のイケメンがアドバイスしてる。

「こんな雰囲気なのに本当に申し訳ございません皆さま――おいっいい加減にしろ!」

 ――ばたん。
 ドラゴン男回収業者が今日もやってきた。甲冑姿は今日も忙しそうだ。

『フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
『今日もごめんなさーい、彼女さんと仲良くするんですよー』
『茶化す空気じゃないだろう馬鹿大将が!』

 彩り豊かなボイスも続く。何してんだ元魔王ども。

「あの子たちったら盗み聞きしてたわねえ、ほんとお茶目で飽きないわ」
「フェルナー君まーたきおったで。楽しそうやなあ」
「最近目にせんと思ったら戻ってきおったかあのクソガキども!? またやかましくしおって!」
「ん、フェルナーさまたちだ。今日も元気」
「あれ、もしかして爺ちゃんあの人たちと知り合い?」
「わしがまだ塔に勤めてた頃なんだがな、あの馬鹿ドラゴンめちょくちょくアホなことしとったよ。わしの机の中アメだらけにしたり、召喚した光の精霊焼き鳥にしたり……」

 また意外な一面を発見だ。爺ちゃんもフェルナーの知り合いだったらしい。



 ――そんなこんなで翌日だ。

 ミコの件で虚無なる一日を過ごす羽目になったけど腹が決まった。
 さすがのタカアキに「なにあったん?」と感づかれてしまったが。
 幼馴染に話すこと話せばそれはもう面倒くさそうな顔をされて。

『そうか、頑張れよ。冒険者たるもの連絡は迅速にやっとけよ』

 と、アドバイスされたのでその通りにPDAのメッセージ機能を起こして。

【昨日はごめんミコ。会いに行っていいか?】

 そんな文面を送ったわけだ。
 直後「返事来なかったらどうしよう」「既読スルーされたら怖い」などと不安があったものの。

【わたしもごめんね。クランハウスで待ってるから、いつでも来てね?】

 速攻でそう返信が来て、タカアキに感謝しつつすぐにお出かけの準備だ。
 ニクと適当に朝食を済ませて、シャワールームで身と心を清めて、同期のキリガヤとサイトウに仕事を頼んで、【ミセリコルディア】へどう押し掛けるか考えた。

 タカアキとの相談の結果午前十時あたりが妥当ということになった。
 ついでに手ぶらでお邪魔するのもあれなので散歩も兼ねて買い物へ行くと。

『あらおはよう。これ持っていきなさい』

 と、宿を出て先で奥さんに捕まってパンを押し付けられてしまった。
 パン屋で働いて良かった理由がまた一つ増えた。まあそんなこんなで――

「……よし、準備はいいなニク」

 午前十時前、俺はとある建物の前にいた。
 都市の壁をなぞって進んだ先の区画、そのどこかにあるクランハウスの佇まいだ。
 そこらの宿よりもワンランク上な格式の高さもあって少し踏み込みづらい。

「ご主人、緊張しすぎだよ」

 隣の今日もわん娘はじとじとだ、心配気味にくっついてくれてる。
 深呼吸した。服装よし、パンよし、覚悟よし。

「こんなに緊張したのは初めてウォーカーに乗った時ぐらいだ、行くぞ」
「へへっ……腕が鳴るぜ、やってやろうじゃねえかイっちゃん」

 それから隣にいるフェルナーも――いやなんでいるんだお前。
 顔いっぱいに「なんだお前」と浮かべると甲冑が無言で回収してくれた。

『フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「……ヨシ!」

 なんか不純物が見えたがいいとしよう、ゆっくり近づいて扉に拳を添えて。

*Knock Knock*

 下品にならないように最善を尽くして叩いた。

「……あっ、やっぱりイチ君でしたか。待ってましたよ」

 するとゆっくり開いた扉からミコ……じゃなくて違うものが出てくる。
 青い髪のワーウルフ系ヒロインだ。セアリとか名乗ってたはず。

「あー……どうも。お邪魔しにきました」
「ん、ぼくも来た」
「どうぞお邪魔してください。あっちなみにセアリルっていいます、以後セアリさんでいいですよ」

 特に嫌そうな態度でもなく、彼女は尻尾をゆるく振って招いてきた。
 お言葉に甘えて軽い会釈で入ると、宿とはだいぶ違う甘ったるい香りだ。

「……いちクン!」

 クランハウスの落ち着いた内装からあの声がした。
 とろけそうな繊細な桃色の髪と、相応に柔らかく笑んだ背の高い女性だ。
 間違いなくミコだった。俺が世界で一番信頼する相棒だ。
 ゆったりした普段着姿がいそいそ近づくのを見て、さっきまでの緊張がばかばかしくなった。

「噂のイチ君きた! ようこそミセリコルディアへ!」

 ドラゴン系の四肢つきの赤いお姉さんも明るくくすぐったい声で続く。
 尻尾も振って翼も広がって、情熱的な赤い衣装から小麦肌をたっぷり見せながらすたすたお近づきにきた。

「貴様か、よく来たな」

 トカゲなヒロインもそっと出迎えてくれた。
 きゅっと結んだ栗色の髪の下で表情はだいぶ穏やかだ、手招きすらしてる。

「――ああ、ついにきちまったな。ここがあのミセリコルディアってやつか」

 がたん。
 後ろで扉が開いた。緊張感のある面持ちのイケメンドラゴンが並んだ。

「本当に申し訳ございませんきつく痛めつけておきますので」

 ばたん。
 安心してくれすぐ回収された。レイナスがあるべき場所へ連れ帰った。

「……今フェルナーさんいたよね!?」
「おい待て!? なんだ今のは!? 貴様の知り合いか!?」
「なんか変な人たちが外にいるんですけど、あれなんなんですか……」
「えっ何今の、ミコの知り合い……? 顔広くなってて団長怖い!」

 おかげでミセリコルディアは総じて困惑してる。フェルナアアアアアアア!

「なんか気づいたら後ろにいた」
『あれがミコちゃんかよ! 美人じゃねえか!』
『この馬鹿者が! イチ殿が真摯に挑んでるというのに茶化すなといってるだろう!』
『短剣の精霊っていうかもっと硬いイメージあったんですけどふわとろ系でしたねー』
『申し訳ございません皆さま! おいっいい加減にしろこの馬鹿大将め!』
「う、うん……なんかこの前からたまーに街で見かけてたんだけど、フェルナーさんたち相変わらず元気そうだね……?」
「パン屋にまで押しかけてきてるけどレイナスがちゃんと回収してるから心配しないでくれ」
『緊張をほぐすために身を張ってるだけだ! 俺は何も悪くねえ! あばよイっちゃんミコちゃん!』
『フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
『うるさくてごめんなさーい。それじゃごゆっくりー』
『まことに申し訳ございません! きつく言っておきますのでどうかお許しを!』
「うるさいよお前ら!!!!」

 やかましいわボケ!!!!
 窓越しに口頭注意すると元魔王四人はがしゃがしゃ退散していった。

「……もしやと思うが、あれは貴様らの知り合いか?」

 あいつらとの関係性にトカゲなヒロインがとても戸惑ってた。
 どう答えればいいのやら困った、確かなのは悪い奴じゃないことだ。

「たぶんな。いきなり賑やかにしにくるってことは友達みたいなもんだ」
「うん……知り合いっていえばいいのかな? っていうからさっきからレイナスさんの怒鳴り声が聞こえてて、まさかって思ったよ……」
「そ、そうか……あの不審な連中が貴様らの知人というなら別にいいんだが」

 一応クランマスターの知り合いということは伝わったらしい。
 それでもすごく煮え切らない感じで仔細を求めてる、よし教えてやろう。

「ああ、あれは元魔王四人組だ」
「なるほど、魔王――いや待てどういうことだ!?」
「今は四人で楽しく旅してるだけのやつらだから気にするな。近所の悪ガキ程度に思っとけって常連の爺ちゃんが言ってた」
「本当にどういうことだ!?」
「いちクンの言う通りです……」
「ミコさん、顔が広くなったんですね……セアリさんそう思います」
「ミコにお友達が増えてて団長嬉しいよ……えっ魔王?」

 嘘か真かはともかく、元魔王が自由奔放にやってることに驚かれた。
 でもおかげで雰囲気が良くなった、ありがとうフェルナー。
 俺はさっそく個性豊かな四人に紙袋をちらつかせて。

「まあとにかくお邪魔します。こいつはパン屋の奥さんと先輩からだ、クロワッサンサンドとか入ってるぞ」

 クランの長、もとい相棒に手渡した。

「あっ……い、いいのかな、こんなにもらって……!?」
「二人して作りすぎたってさ。まあ店のためと思って食ってくれ」

 おかげであいつは安心したように笑ってた。
 奥さんやスカーレット先輩、それに爺ちゃんが言う通りだったな。
 俺もつられて笑ってしまった。

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