魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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剣と魔法の世界のストレンジャー

春のタンクキラーゴーレム粉砕祭り(2)

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「もう一仕事か!」

 またピンチだなあの鳥ッ娘、親しくしてくれたお礼に助けに行こう。
 何か武器はないかと探ったが都合のいいものがない。
 しいて言えばあった――粘土人形がぶん回してた長さ数メートル以上の槍だ。

「ど、どうしたんですかイチ君!?」
「お困りの奴がいるらしいぞ。ついてこい!」

 タカアキやニクはまだ屋敷か? いや、悠長にやってる暇はない。
 振り回すにも投げるにも不都合な長槍を握って走る。
 リスティアナも「はいっ!」と元気についてきたのが救いだ。

『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 さぞ金がかかってそうな庭を抜ければあのデカいやつがよく見えた。
 装飾のついた鎧を着て持ち主の趣味の悪さがいかほどか物語ってる。
 そいつは人一人分を軽々潰せる拳を何かにぶんぶん叩きつけてるようだが。

「くっ……! お姉ちゃんが、どうにかするから……!」

 あの金髪の姉を称する奴がまさにその相手だった。
 巨体はそいつにしか興味がないとばかりに暴虐を振るっていて、周りにはぐったり倒れたヒロインどもでいっぱいだ。
 まさか死んだのか? そんな心配はあれど俺は足を速めた。

「キャロルねーちゃんがやられちゃう…! た、助けないと……!」
「な、なんでキャロルねえさまばっかり……!?」
「キャロル様! だ、誰か――」

 あの取り巻き三人の姿もいた、蹴散らされてたたらを踏んでる。
 状況は読めないがあのデカいのは金髪ロリにただならぬこだわりがあるようだ。

「クルースニク・ベーカリーだぁぁぁぁッ!」

 そこへ文字通りだ、長すぎる槍を構えて突き進む。
 名乗りを上げれば特大サイズのゴーレムはびくりとこっちを睨んだ。

「あっ……あぶないっ……! 逃げて!?」

 ボスキャラを横取りされて"自称姉"の顔がひどく驚いてたが。

「――来いやあああああああああああッ!」

 石突で芝生をがっしり突いて、穂先を斜めに待ち構えた。
 この柄の長さじゃ突くのもダメ、投げてもダメ、振り回すのも大変だ。
 じゃあ単純な話、突き出して迎え撃つって言うのはどうだ?

『ゴ、ゴ、ゴゴゴゴオオオオオオオ――!!』

 思った通りだ、ロリに飽きたまがい物の巨人がこっちに矛先を変えた。
 だからこそいい。魔壊しつきの槍がお前を待ってるんだからな!

 ――ごしゃっ。

 そう思った矢先に伝わったのは手に圧し掛かる重たい感触だ。
 襲い掛かる拳がデカい図体ごとぴたりと押し留まった、が。

「すごく疲れちゃいましたけど――【ルーセント・ブレイド】!」

 本命はその股下に颯爽と駆けつけるリスティアナだ。
 動きを止めたデカい獲物なんて必殺の一撃に相応しい供え物同然だ。
 そいつの腹めがけて跳躍すると、マナをまとった青い一撃が眩く食いつき。

『ゴッ……』

 斬り抜ける姿が輝かしい鎧ごと腹をぶち破り――

 ずずんっ。

 横倒れになった。巨躯が柵をぶち破り屋敷の景観破壊に一役買う始末だ。

「…………またデカいの撃破だな。これで二万メルタって安いのか高いのかどっちなんだ?」

 周りがずいぶんと静かになったのはちょうどその時だ。
 他も収まったようで、ぼろぼろに疲れたヒロインたちがそこらじゅうにいた。

「やりましたよ! やっつけちゃいました! 今晩はご馳走ですね!!」

 それからクソ元気にやってくるリスティアナも。

「お見事、ついでにその元気を少し分けてくれると助かる」
「はっ、イチ君大丈夫ですか!? まさかどこかお怪我でも!?」
「ちょっと腰が抜けた」

 少しして自分がとんでもない無茶をしたことにようやく気付けた。
 だって目の前を見ればウォーカーばりのゴーレムが転がってるんだぞ?
 魔壊しがあるとはいえそんな相手に挑んだわけだ――尻もちをついた。

「……や、やった……の……?」

 お隣にいた金髪なヒロインもそうだった、一緒にぺたんってやつだ。

「やったらしいぞ。くそっ、タケナカ先輩といいギルマスといい、まさかこんな仕事だと分かって行かせたのか?」
「キャロルねーちゃん!! 良かった、無事だったんだ!」
「キャロルねえさま……! なんて無茶を……!?」
「ご無事で何よりです。お怪我はございませんか……?」

 すぐに鳥やら狸やら兎やらもやってきたし後は任せるとしよう。
 周りでぐったりしてる連中も心配だったけど――よかった生きてる。
 具体的には「お腹すいた」とか「疲れた」とかの愚痴だ、余裕そうだ。

「……お前さあ、もうちょっと命を大事にした方がいいと思うぜ」

 隣で抱き合う四人から離れるととタカアキもすたすたやってきた。
 ぐるぐる巻きにされたさっきの野郎を連行しながらだが。

「ご主人、無茶しちゃだめ」

 ニクも尻尾をぶんぶんしながら駆けつけてきた、ジト顔は不満そうだ。

「でもすっきりしたぞ。これでクラングルも少し綺麗になったんじゃないか?」
「あちらのお嬢さんがたも片が付いたみてえだぜ。つまりこれで任務完了だ」
「これで二万メルタか」
「それに関しては俺も物申してえわ、立てるか?」

 タカアキに手を取られて立ち上がることにした。
 向こうで衛兵たちが集まってる。このまま依頼の締めに向かおうとするも。

「……腰、抜けちゃった……」

 そばであの金髪ヒロインが力なくへなへなしてた。
 よっぽどこたえたのかまだ身体が震えてる――しょうがない。

「ほら、いくぞ。依頼の報告ってやつだ」

 『お姉ちゃん』に手を貸してやった。
 まだ混乱したまま取ってくれたが、ふらつく足が明後日に歩きそうだ。
 仕方ないので抱っこした。不審者扱いしたことにも目を瞑ろう。

「ごめんね」

 腕の中でそんな声がした。
 何がだって気分だ。後ろめたそうな上目遣いを背に感じる。

「何がだ」
「……変な人って言っちゃったこと」
「全っっっっっっっ然気にしてないぞ」
「おいそれ気にしてる言い方じゃねーかまだ根に持ってんのかお前」
「本当に根に持ってるやつならこんなことすると思うか?」
「いや、お前のことだし直接ぶちのめしにいきそう」
「分かってるじゃないか、まあそういうことだ」

 タカアキに茶化されながら俺たちは人だかりへと向かった。

「やっぱりにーちゃんはいい人だったんだね! キャロルねーちゃん助けてくれてありがと!」

 ピナリアも羽をばさばささせてついてきた。早くこのロリだらけの場所から宿に帰りたい。



 こんなとんでもない(あるいはろくでもない)仕事がやっと終わった。

 あたりはヒロインたちの人外なフィジカルでぶちまけられたゴーレムの残骸。
 幾分か景観を損ねたお屋敷と敷地。
 それからぐったり疲れたヒロインたちの無事な姿とトカゲの衛兵たち。
 安全な場所で見守っていた連中が押しかけて「おしまい」な雰囲気だ。

「まさかやつらがこれほどまでにタチの悪いゴーレムどもを隠していたとは。本当にありがとうございます、冒険者の皆様には報酬を上乗せさせていただきますので……」

 まずそこらを見れば、ひと働きした面々に片眼鏡のオークが平謝りしており。

「よくぞ戦ったな冒険者たちよ。いや流石だな、そんな見てくれで来られた時は正直不安だったんだが」
「私たちよりもやるじゃないか。どうだ、衛兵にならんか?」
「いやそれよりもだ。人間、お前はなんなんだ? ゴーレムを殴り壊すと聞いていたが本当にやるとはな……」

 事後処理として呼ばれた衛兵の増援がわらわら押しかけてた。
 掃除が面倒くさそうな「元ゴーレム」の散りように満足気味な様子だ。

「――この裏切り者め! 錬金術師ギルドに泥を塗った挙句にこんなセンスのない汚物みたいなゴーレムを作るとは! お前を素材にハエと融合させてやろうか!?」
「んん……! んぐぐ……!」

 そして蜘蛛の糸にぎっちぎちにされた男をどつきまわす錬金術師もいる。
 どういう事情かはさておき、怒鳴るたびにビンタがいい音を奏でてる。

「……流石に疲れたな、こんなひどい仕事は初めてだ。貴官はよくやった」

 アラクネの軍曹殿も帽子をくいっとしながらお疲れの様子だった。

「つ、疲れたよー……」
「もう無理、戦えない……」
「なんなのこの数……錬金術師嫌い……」
「も、もうマナが……こんなに魔法使ったの初めてです……」

 ヒロインたちに至ってはもう完全にぐったりだ。
 人外な顔ぶれが腰を下ろしてひーひーいってるんだから、軍曹の言うようによっぽどひどいものだったに違いない。

「おい、これで仕事は完了か?」

 片眼鏡なオークに少し尋ねることにした。
 屋敷への被害に難色はあれど仕事ぶりには明るい表情だ。

「ええ、あのゴーレムたちは全て駆逐されました。これも皆様のおかげです」
「屋敷に傷つけちゃったけど大丈夫?」
「仕方がありません、よもやこれほど物騒で悪趣味極まりないものが跋扈しているとは思いませんでしたから……これは皆様へ支払う報酬の額を改めねばなりませんね。どこかお怪我はありませんか?」
「ご覧の通り五体満足、やることやってすっきりだ。帰っていいか?」

 俺は「ギルドに報告いっていいですか」とばかりに顔で伺った。
 向こうはこっちの身なりを見るに少し悩ましくした後。

「もちろんです、後処理に関しては業者に……おっと、そういえば貴方は先日のゴーレム騒ぎで活躍したという――」
「よし帰るか!!」

 オーケーだそうだ、よし帰る。
 パン屋が心配だしちょっと見に行こう。ついでに腹減ったし飯だ。

「またれよ貴官、こいつはどうするのだ」

 さっさと抜け出そうとするとシディアン軍曹の蜘蛛ボディが立ちはだかった。
 強気な目線を辿るに、どうも高度な拘束プレイでぎちぎちになったあの男だ。

「どうするって?」
「この趣味の悪い輩から特別報酬が出るのだが、ならばその分け前はどうするかという話だ」
「現在進行形で悪趣味な縛られ方してるこいつか」
「うむ。貴官と私の手柄だ、半々というところでどうかと思うのだが」

 そうか、こいつは幾らほどかのメルタの価値があったらしい。
 そんなものを律儀に持ち掛けてくれるなんていいやつだ。
 さて――俺にはまだやることがあったな。

「あーそうか、ところでそこのご迷惑かけた馬鹿野郎ってどんな奴なんだ?」

 ふと梱包された野郎について周りに尋ねてみた。

「その男は錬金術師ギルドの一員、つまり我々の顔に泥を塗った大馬鹿者だ。その最低のゴーレムを作ったことにも携わってるぞ」

 事情を知ってる男がそう話してくれたんだからつまり悪いやつだ。
 そうかそうか。なので幼馴染に「やるぞ」と目配りした。
 リスティアナはよく分からないまま「リーダーに任せます!」で、ニクは「いいよ」だ。

「オーケー、軍曹。まず分け前について話したいことがある」
「うむ。貴官らは四名のパーティか?」
「ああ、初めてのパーティ・プレイだ。それじゃさっそく――」

 腕を組んでビジネスな雰囲気を漂わせる軍曹からそっと外れた。
 向かう先は糸に捕まった名も知らぬ哀れな男、総じてクソ野郎だが。

「歯食いしばれオラァッ!」
「……待て貴官、一体何を」

 頬にぶちかましてやった。いい挨拶が入ってよく吹っ飛んだと思う。
 「ごふっ」と倒れて次はタカアキだ、あいつはあろうことか助走をつけて。

「ぼ、冒険者殿!? なにをなさって」
「俺からもプレゼントだオラッ!」

 大の字に広がったボディプレスをお見舞いした、ごしゃっと潰れた。

「な、なにをしているお前は! よせ! 殺す気か!」
「一応そいつは気に食わんが重要参考人だ! 手荒な真似はやめろ!」
「いいボディプレスだ! よっしゃ帰るぞ!」
「ハッハァァァッ! いい連携だぜ! こいつは手間かけさせやがった礼だ!」

 さすがにこれ以上はさせまいと衛兵が駆け寄ってくるがもう十分だ、ハイタッチして離れた。
 『ざまあ! マジざまあ!』と錬金術師ギルド寄りの雄たけびが聞こえたがまあこれくらい許してもらおうか。

「分け前はこれでいいぞ。せいせいした」
「よーしこれで終わりだな帰宅だ!」
「……つかれちゃった」
「え、遠慮ないですねー二人とも……? 私、スキルの撃ちすぎでお腹ぺこぺこですー……」

 呆れるアラクネの上官に「じゃあ元気で」と手で送ってから逃げた。
 そろそろ夕暮れだ。もう店は仕込みをやってる頃だろう。
 どうしようか、いや腹減った――よし飯だ!

「なんか食うかー!!!」
「焼肉とかどうよ! 日本人がやってる店あるぜ!」
「おにく?」
「焼肉ですか!? 食べます食べます!」
「よし焼肉だやってられっか!」

 後ろからがやがや何やら言われてるが知らん顔した、今日は焼肉だ。
 俺たちはさっぱりと屋敷を後にした――ギルドへの報告も忘れずに。

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