魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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剣と魔法の世界のストレンジャー

おっかないヒロインの【スペシャルスキル】(対してこっちは現代火器)

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【あああああばばばばばばばばばばばばばあばっ】

 巨体がナノマシンゾンビより下手な断末魔を残してどしんと地に落ちた。
 次の獲物は白さをこねくり回してできたいびつな人型の群れだ。
 銃撃で数を減らしたいが弾は有限だ、それに屋敷の中に引っ込まれたら困る。
 でも今回は頼れる先輩どもがいるんだ、仲良く分け合おうじゃないか。

『お、ぼ、ぼぼ……』『んぼぼぼ……!』『ぼっ、ぼぼぼぼ……』

 原材料粘土の背丈が俺たちよりも一回り大きな存在感で構える。
 顔のない白い頭は潰れ音で「こっちくんな」とばかりに威嚇してきた。
 鎧を着こんで槍なりを持った"侵入者お断り"な姿がざくざく揃いだすが。

「よお、銃なんざアンフェアだろうけどくたばれ」
『――ぼっ?』

 突撃銃を持ち上げた、照準に近くのクレイ・ゴーレムを乗せて撃つ。

*PAKINK!!*

 『魔壊し』の単発射撃だ、槍衾やりぶすまの一体を軽鎧ごとぶち抜く。

『ぼっ……!』

 ところがぐらぐらよろめくだけだ、元気なやつめ。
 多少動きを鈍くした程度で槍の構えも解けちゃいない。
 鎧のせいか? まあいい――防具がかからないむき出しの首元と顔面を狙う。

*PAPAKINK!*

『ぼぼぼっ……おぼっ……』

 二連射のトリガさばきでヒット、白い槍持ちがよろけてどろっと崩れた。
 死に様はさながら溶けたろうそくだ。
 なるほど、どろどろに職務を全うしたってことは効いてるわけか。
 前進しつつ次の敵をエイム、槍の間合いぎりぎりで弾を叩き込んでいく。

「ぼくもついてく。行こ、タカアキさま」
「なんか考えがあるって信じてやるぞ! よっしゃ俺も行くー!」
『ちょ、ちょっと正気なのあのお兄さん!?』
『行っちゃった……!? ど、どうしよ……?』
『あの男がやるといってるのだ、なら任せてみようではないか』
『ご、ゴーレムが溶けちゃってる……』
『ほんとうに無茶苦茶ですねあの新入りさん!?』
『わー、パン屋のお兄ちゃんつよーい! わたしたちも行こっかー?』

 ノリのいいわん娘と幼馴染はヒロインたちを差し置いてきたらしい。
 横から割り込み敵を槍が迎え撃って、進む粘土を散弾が弾き飛ばした。
 プレッパーズで習った的当てを思い出しつつ歩く、狙う、撃つ、目につくゴーレムを撃って溶かして進んだ。
 お屋敷の玄関を目指すと剣を持ったやつらが「おぼっ」と立ちふさがるが。

「で、何考えてやがるって質問していいよな!?」

 横からタカアキの散弾銃が伸びた、少し避けて射線を作る。

*Baaaaam!*

 迫る敵の兜が吹っ飛んだ、飛び散る粘土を探すように倒れた。
 魔法でできた作り物にも散弾は効くみたいだ。
 関心すると前から槍が突き出る、退きつつ翻って【レッグパリィ】で弾く。

「簡単だ、包囲する」
「俺たちだけでか!?」

 突き進む先で『ぼっ……!』と槍持ちが態勢を崩した。
 もつれつつの穂先がぶぉっと払いにきた、腰を落として膝撃ちの姿勢を取る。

*PAPAPAPAKINK!!*

 屈んだまま白いお顔を撃ち上げた、そこへ黒い影がしたっと割り込み。

「ん……こいつら、大したことない?」

 返り血ならぬ返り粘土を浴びたニクが槍を手に戻ってきた。
 ジト顔をところどころ白濁させた愛犬は一体どれほど屠ったのやら、屋敷を守る槍持ちに近づいていく。

「――邪魔」

 片手でぶぉんっとスイング、敵の長槍の間合いを強く払う。
 打ち合うつもりだった粘土人形が防ぎつつ数歩下がるが、次はとても不幸だ。

*papapapapapapam!*

 わん娘の片手がファクトリー謹製のV85機関拳銃を抜いていた。
 九ミリ弾を一方的に浴びせると、脱力した粘度が鎧に潰された。
 そこへまた散弾銃が唸る、片足が吹き飛んだゴーレムがぐしゃっと崩れる。

「なるほど! 良く分からないけど分かりました! じゃあ頑張っちゃいますねー!」
「あーリスティアナちゃんきたぞ、ちょっと道作ってやれイチ」
「ヒロインがどれだけ強いのかお手並み拝見だな。とにかく屋敷までこじ開けろリスティアナ!」

 ついてきてくれたかリスティアナ。見れば数体屠ったまま流れてきた。
 お人形なお姫様は重たげな剣を軽々に敵陣に迫り、俺たちの間を抜けて――

「いきますよー……! 私の必殺……!」

 あいつは何を考えてるんだ。揃った敵の守りに迫って剣を堂々に構えた。
 傍目には、ものものしく出迎える粘土人形どもに自殺しにいくうな背中だ。
 と思った次の瞬間、その両手にマナ特有の青い光が強くきらめき。

「【ルーセント・ブレイド】!」

 いっぱいの輝きにそんな名を乗せて剣を強く払った。
 すると信じられないことに、青輝きする一閃が咲くように広がった。
 鮮やかな衝撃と刃が列の並びを大きく刈り飛ばしていく――なんだこれ!?
 ニクのジト顔に「なんだあれ」と合わせてから改めて前を向けば。

「……ワーオ」
「今の何……? 敵が吹き飛んだけど……」

 一体あいつは何をしでかしてくれたんだろう?
 前方のちょうど邪魔だった敵が半ダースほどまとめて破壊されてる。
 転がる防具と溶けた粘土がその証拠だ、余波も屋敷の窓を開放的にしてた。
 ついでに後ろから『屋敷に傷がァ!』とか聞こえたが誰も気にしちゃいない。

「おいなんだ今の、アーツか?」
「イチ、あれは【スペシャルスキル】ってやつさ。やっぱ持ってたかあの子」
「なんだそりゃ!?」
「ヒロインが固有で持ってる必殺技みたいなもんだ!」
「んなもん初めて聞いたぞ!? 本にも書いてなかったよな!?」
「そりゃあの本出回った後に分かったことだからな!」

 唖然としつつ聞けばヒロインの特権らしい、なんてもん実装しやがった未来の俺め!

「――どうですか! これが私の全力です!」

 そんなえらいことしでかしてくれたご本人はドヤ顔で褒めてほしそうだ。グッドヒロイン。

「恐れ入った。ヒロインには逆らわないと思う」
「それがいいぜ、てことはミコちゃんには尻に敷かれた方がよさそうだな」
「今日からあいつも似たようなことしないことを全力で願うばかりだ」
「敵が一気に減っちゃった……リスティアナさま、すごい」

 野郎三人がついていけない威力を見せつけられたが驚いてる暇もない。
 リスティアナの【スペシャルスキル】とやらのおかげで屋敷までもうすぐだ。
 タカアキとニクに攻撃を頼んで弾倉交換、大げさな両開きの扉までたどり着く。

『ぼぼぼぼぼっ……立ち、立ち立ち立ち立ち入り、禁止……!』

 そこで一際目立つ防具を着たクレイ・ゴーレムが立ちふさがる。
 装飾の付いた斧槍を前構えに迫ってくるが、そいつの白い足に銃身を下げた。

*PAPAPAPAPAPAPAKINK!*

 すかさず弾をばら撒いた。膝の支えが崩れて姿勢がぐらぐら落ちる。
 それでも得物の長さが遮ってくるも、身体を丸めて擲弾兵のアーマーでごつっと弾く。

「ふんっっ!」

 続けざまに踏み込んで間合いゼロだ、白い顔にヘルメットをお見舞いした。
 泥を潰すような感触そのままに頭が凹んだ。銃床を首にねじ込んで跳ね飛ばす。

『ボオオオオオオオオオオオオオオオオ……!』

 続いて二メートル強ほどの巨体が立ちふさがる。
 全身鎧の手間がかかったやつだ、大斧がこれでもかと威圧的に振り上がった。

「イチ君、私に任せてください!」
「やっぱショットガン持ってきて正解だわこれ! ぴったりだぜ!」

 リスティアナが出た。そこへばぁんっと散弾銃が炸裂、散弾が横入りだ。
 膝を撃たれたゴーレムが『ボオッ』とくぐもって、押し入る大剣はそこを逃さない。

「せえええええええええええええい……っ!」

 可愛らしい雄たけびの混じった低い横薙ぎがそこを捉える。
 大げさなゴーレムは気の毒だ、高級そうな鎧ごとがんっと半身を叩き潰された。
 さんざんなやられようだがまだやる気だ、跪いたまま俺たちに得物を向けるも。

「ん、トドメはぼくがもらうね」

 最後はニクの跳躍が締めくくった。
 地面につっかえる得物を辿り渡ってうなだれる頭を一刺し、兜の隙間を突く。
 どどん、と壮大な音で倒れた。そうして目につく敵を一掃すれば――

「よし、これで無事に屋敷に到着だな」
「そうだな、俺たち敵の本拠地に一番乗りみてえだ。で、どうすんだこれ」
「まだいっぱいいるけど。やる?」
「ここまで来れたのはいいんですけど……まだたくさんいますよ? このままお屋敷へゴーですか?」

 扉を前に俺たちは振り返った。
 突破されてご立腹なのかクレイ・ゴーレムたちが追いかけてきてる。
 こうしてる間にも向けられた槍の穂先は「走ればすぐ届く」ところまでだ。
 問題は数だ、騒ぎを聞きつけたのか敷地のいたる場所からこっちに集まってる。

「ワオ、こんだけ騒げばみんな大騒ぎでやってくるだろうな。すごい光景だ」
「これでこそこそしてるやつ全員引きずり出せたな、おかげでタゲられまくりだぞ俺たち」

 俺は敵の顔ぶれに突撃銃を重ねた。
 さっき四人で倒した数を二、三倍したような軍勢がじりじり動いてた。
 そんなゴーレム軍団が不埒な侵入者のもとへ後もう少し、というところで。

「……ところでクソ真面目なゴーレムの諸君、後ろをご覧ください」

 屋敷を守るべくやってきた圧倒的な数に対してそう問いかけた。

「パン屋のお兄さんほんと無茶するなー……【シャドウ・レイン】!」

 そこに、ぶょん、とマナの震える音が混ざる。
 敵の背まで迫った青肌な悪魔のロリが魔法の名をにやにや呼んでいた。
 するとマナの作用の後、空にどんより浮かんだ暗がりから黒色が落ちてくる。
 まるで黒い矢だ、当たればさぞ痛そうな不吉な尖りが雨のごとく降り注ぐ。

『ぼぼぼぼぼっ……!』
『おぼぼっ』
『マスターマスターますたっっ』

 一瞬にして土砂降りだ、都合よく固まってた一団が黒くて鋭利な何かに串刺しにされた。
 黒く塗りつぶされた粘土人形たちがじたばたもがく。ワーオ怖い。

「でもおかげで……戦いやすくなったねっ!」
「お兄さんありがと~♡ じゃあやっちゃおうかー!」

 獣系ロリなヒロインの姿も素早く割り込んできた。
 猫の四肢から繰り出される曲刀が数体まとめて横からぶったぎり、かと思えば狼な誰かが粘土の兜を叩き割る。

「――続けッ! あの男のお膳立てを無駄にするな、突撃!」
「何考えてるんだかあの新入りさん……行くよッ!」
「たしかに包囲してるけどさー……まあいっか、やっつけちゃうよ!」
「ほんと無茶苦茶なんだけどあの人!?」
「稼ぎ時じゃー!」
「奇襲ってこういうことなのですね!? うおおおおおお突撃いいいいいい!」
「にーちゃんすごーい!」
『屋敷に傷がああああああああああああッ!』
『ええい屋敷なんて知ったことか! あの裏切者の芸術的価値もないゴーレムなど全部ぶっ壊せ! 全部だァ! あーっはっはっはっはっは!』
『もうめんどくせーしその屋敷爆破しちまえばいいんじゃねーのイっちゃん!』
『フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 それからあの軍服アラクネ娘の強気な声をきっかけにヒロインたちが殺到した。
 次の瞬間には無機物系の敵はパニックだ。
 前か後ろかどうするか、魔法に矢玉が飛んできていい的当て会場である。
 これで敵を包囲したぞ。ストレンジャーとロリどもでサンドイッチだ!

「なるほどこりゃ確かに包囲だ――四人でやるとか何考えてんだ馬鹿かお前!」
「ウェイストランドじゃだいたいいつもこうだったぞ」
「どんな人生歩んだか心配だよ俺!」

 こっちからもお見舞いしてやろう、挟み撃ちになった手近な敵を撃ちまくる。
 タカアキも短機関銃に切り替えて射撃、迫る敵の足を潰してくれてるようだ。
 そこで戦線を抜け出した忠実なゴーレムが『ぼっ』と片手斧をかざしてくる。

「こういう時ノルベルトがいれば一網打尽なんだけどな!」
「誰だその子!?」
「俺の戦友! いい奴だぞ!」
「顔が広くなったもんだな!」

 お出迎えは銃剣だ。弾倉交換中のタカアキに割り込んで刺突。
 顔をぶち抜けばさっくり柔らか、そのまま捻じればあっという間に破壊だ。

「ご主人、敵の数が減ってきた。うまくいったかも」
「あいつらが単純で助かったな、ヒロインども万歳だ」

 刺し倒すと別のゴーレムが迫るが、ニクの横槍が「どいて」と頭を潰し。

「イチ君すごいですね! どうしてそんなに戦い慣れてるんですか!?」
「話したら一晩どころじゃすまない話題だぞ!」

 リスティアナも敵を剣で捌いて、反撃の一撃が安っぽい鎧ごとぶち壊す。
 すると眼前のゴーレムの兜にクロスボウの太矢がばすっと生えた。
 混戦の中に犯人はいた、敷地の木の上で黒髪ロリなクモ娘が得物を構えてる。

「で、こっからどうすんだ!?」

 敵の数を減らしてると幼馴染の短機関銃がぱぱぱぱっと敵戦列を掃いた。
 九ミリ弾の足止めを食らったようだが、そこへずずんと巨体が混じる。
 手足四つで這うやつとひょろっと背の高いやつだ、駆けつけてきたか。

「ある程度減らしたら残りは任せて『どうもお邪魔します』だ!」

 ヒロインたちが優位に立ったら突入だ、そいつに突撃銃を向けるも――

「――お姉ちゃんの全力だぁぁぁぁぁッ!」

 いきなり可愛い雄たけびが向こうで響いた。
 さっきの金髪悪魔な自称お姉ちゃんだ。
 そいつは自分より大きな剣を斜めに掲げて、四つん這いのゴーレムの脇へ駆け込み。

 ――ずずんっ!

 すれ違いざまのたった一振りで半身をぶった切りやがった。
 あれが姉の力なのか、ヒロインはどうもストレンジャーよりお強いようだ。

「あの不審者さんっ! 本当にっ! やることなすことがおかしいですよ!」

 そんな彼女のお仲間三名、狸に鳥に兎という顔ぶれも奮戦してる。
 忍者姿の狸耳がの剣を小刀で弾いて、跳ねて避けて、その合間に棒状の何かを投げる。
 図が高い粘土の人型はぴたっと停まった――【シャドウスティング】だ。

「にーちゃんは不審者じゃないよー!」

 そこへあの茶髪ショートなハーピー、ピナリアが回し蹴りで足を斬り崩し。

「お二方、あまり前に出過ぎぬよう……【アイシクル・ジャベリン】!」

 仕上げに兎なロリが魔法を詠唱、ぎくしゃく暴れる頭を抜いてトドメだ。

「……ボスが見たら頭痛で死にそうだな」

 ひでえ光景だ、クソ強い子供たちが無双してる。
 敵を探ると戦線を破って暴れ回る四つ足ゴーレムを発見。

「くぁっ……!? ま、まずいかも……! 誰か助けてくれないかなー!」

 さっきの悪魔ッ娘が必死に大きな斧でがんがん受け止めてる。
 ゆっくり構えた。敵の背中にトリガを小刻みに切る。

*PAPAKINK! PAPAPAKINK!*

 数発刻みの射撃がヒット、巨体の揺れ動きがぬらりと鈍った。
 その隙を逃さないのは流石だ、止まった手を反撃に転じてる。

「パン屋のお兄さんありがとー♡」
「どういたしまして! パンは是非クルースニク・ベーカリーで!」
「お前がこんなとこでパン屋の宣伝してて奥さん喜んでると思うよ……」

 お礼にそいつの頭を斧でカチ割ったみたいだ、どうもと銃を掲げた。
 見渡す限りヒロインの勢いはいい感じに押してる。
 けれども敵もしぶといもので、どこからか湧いた粘土人形がまた押し寄せて合戦さながらの光景だ。

「敵が多すぎますね……! ちょっと私、皆さんの援護をしてきますっ!」

 リスティアナも手近な敵を蹴散らしつつ、そこへ加わろうと一声かけてきた。
 さっきのスペシャルスキルでもぶち込みたさそうな顔だ。どうぞやってこい。

「援護するから行け! ぶちかましてこい!」

 見送ることにした。道中を塞ぐゴーレムたちにぱきぱきと短連射を浴びせた。
 そうして散った敵を軽々薙ぎ払って一戦交える横合いにまっしぐらだ。

『みなさーん、スペシャルスキルいきますよー! 【ルーセント・ブレイド】!】

 どーんと派手なやつが一塊をぶっ飛ばした。相手の守りがまた崩れた。

「いやヒロインすげーなおい、無双してやがるぞ。いつもこうなのか?」
「ん……みんな強いね」
「だから言っただろ? あいつらやばいんだよ、俺たちよか優秀だからプレイヤーの立場がちょっとあれなんだ」

 野郎三人の目の前にあるのは調子が乗ってきたロリどものバーサクぶりだ。
 その暴れっぷりはもはや敵を圧倒してる――ということは頃合いか。
 閉ざされた両開きの扉に向かおうとすると。

「でかしたぞ貴官。先に行かせてもらうぞ」

 いつの間に軍帽を被ったちっこいアラクネが屋敷の壁に引っ付いてた。
 は割れた二階の窓に向かったようだ。
 了解、軍曹。頷いて合図した。

「ノックしろ! 突入!」
「オーケーお邪魔しまあああああああああああああああああああす!」

 こっちも押しかけるぞ。タカアキのドロップキックが解錠しにいった。
 突然のマフィア姿の来訪に内開きの扉が派手に解き放たれたが――

「馬鹿かお前!? こういう時はショットガンでぶち破るぐらい気を使……」
『侵入者はお帰り下さい』『侵入者はお帰り下さい』『侵入者はお帰り下さい』

 先に見えたのはホールで俺たちを構え狙うメイド姿の泥人形だった。
 ああ、つまり、まずい。横目でタカアキやニクとそんな気持ちが一緒になり。

「あー、ほんとに邪魔しちまったみたいだぞ」
「そうだなあ、歓迎されてら――避けろォ!」
「あのメイドさん、なに……?」

 慌てて両端に引っ込んだ。お出迎えの何かがびゅんっとそばを過る。
 発射物を感覚で辿れば運悪く仲間のゴーレムをぶち抜いたらしく。

『おぼっっ』

 玄関の向こうで大きな粘土がひどくよろめいた。
 足元にゴルフ・ボールぐらいあるかどうかの鉄球がごろっと転がる。
 一目で嫌でも分かった。お客様にそんなものを打ち出す教育が徹底されてる。

「なんだありゃ銃か!?」

 おかげでタカアキがびびってる。もし当たれば頭蓋骨の健康を損ねるはずだ。

「クロスボウで打ち出してるみたいだぞ、ひでえ歓迎のされ方だ」
「ああそうかよ! じゃあどうするかってわけだが!」
「爆破して吹き飛ばすぐらいのプランがあったけど依頼者のご機嫌取った方がよさそうだしな」
「俺も爆破してえ気分だよ! おいイチ、なんかないのか!?」

 一緒に身を乗り出して得物をひけらかした。
 小銃弾と散弾をそこらに散らすも、そいつらは着弾に怯まなかった。
 すぐ引っ込んだ。そしてやってくる何倍もの鉄球が玄関の縁をべきっと砕く。
 どうする、頼もしいリスティアナはヒロインたちのために奮闘中だ――じゃあ。

「よーしはどうだ?」

 俺はベルトから『取っ手』を取り出した。
 幼馴染はすぐ分かってくれた。満面の笑顔になるぐらいだ。

「シールド・デバイスかよ! 本物初めて見た!」
「まだ持ってなかったのか?」
「あったら俺も欲しいぐらいだ。よっしゃ、そういうことだな?」

 「ああ」と合図した。
 突撃銃のスリングを背に回してシールドのトリガを引く。
 ぶぉんと電磁的な膜が前方を覆った――行くか。

「相手は装甲なしだ、お前は足を狙ってバランス崩せ」
「オーケー、転がしてやんよ」
「ニク、お前は間合い詰めたら切り込め」
「ん、任せて」
「リスティアナ! お手すきなら突撃するからついてこい!」
『はいはい! 今いきますねー!』

 即興のチームはすぐにやることが定まった、今日も突撃!
 『リージョン』自動拳銃を抜いてシールド片手に飛び込むと。

『お帰り下さい』『お帰り下さい』『お帰り下さい』

 可愛くないし嬉しくもない粘土細工のメイドたちが一斉に構えた――!
 次にはクロスボウの投射音、広場から踊り場から階段から無数の鉄球が来る。

 ――びょんっ。

 しかしウェイストランドのシールドはこんな武器すら弾いてくれた。
 電磁的なそれに殺人級の鉄球がごろごろ落ちた、敵は次弾装填中だ。 

「近いやつは二人に任せろタカアキ! 援護!」
「ハッハァァ! お邪魔します、死ねってか!」
「行ってくるねご主人……!」
「援護お願いしますね! 行きますよー!」

 拳銃を突き出した、横で短機関銃の銃身も持ち上がる。
 階段当たりのメイドにトリガを絞りまくる――!

*Bababababam!*

 45口径の衝撃力は流石に効いたか、装填中の泥メイドがのけぞった。
 タカアキも何発も撃ちまくって転ばせた、片っ端から撃って動きを妨げる。
 するとかしゅっと鉄球が来る、シールドに当たってぶよっと音を立てるも――

「あー……故障か?」
「……ばっ、バッテリー切れしてんぞオイ! ちゃんと補充しとけ!?」

 まずい、膜が消えた。
 眼前には階段脇で構える可愛くない方のクソメイドだ、二人で飛んで避けるが。

「ご主人に手は出させない」

 ダウナーでクールに回り込んだニクが横から槍で串刺しだ。
 ありがとうわん娘、向こうにいる一体をポイント、二発連射で身体をはじく。

「よしっ! これで……制圧、ですっ!」

 リスティアナも元気に切り込んだ、装填が終わったばかりの一体を両断だ。
 気づけば玄関は持ち主が気の毒なほど粘土色でぐちゃぐちゃだ。

『マスタアアアアアアアアア! マスタアアアアアアアアアアアアアアア!』
『ぼぼぼぼぼぼっ……』
『おぼぼぼぼぼ!』
「喜べリスティアナ、たった今おかわり来たぞふざけやがって」
「え、ええ……!? まだくるんですか!?」
「そりゃあこれでおわりなわけねえよな。持ち主ぶん殴りてえ気分だ」
「ご主人、なんか気持ち悪いのがいっぱいきてる……!?」
「くそっまさかあれ悪霊かなんかか!? そういうのだったらごめんだぞ!?」
「そういえばお前、昔っから幽霊とかだめだったよな! ここがそういう屋敷じゃねえことを祈れ!」

 今度は階段の上から、あんまり喜ばしくない類の賑やかさがやってくる。
 四つん這いの巨体がホラー映画さながらに階段を下り、武装した泥人形がぞろぞろ押し掛けるという嫌な歓迎の仕方である。
 いっそHE・クナイで吹き飛ばすかと手が伸びるも。

 ギギギギギギッ……!

 階段の中途半端な場所で一斉にその動きが止まる。
 大きなご一行が、急に金属がきしむような音を交えて固まったのだ。
 どういうことだ? 顔で「誰かなんかやった?」と尋ねるも答えは出ず。

「遅くなったな貴官、手助けにきたぞ」

 代わりに頭上から一声混じた。
 見上げれば黒いコートを着たロリな軍曹殿がこっちを見てた。
 正体に関してはその手袋越しの細腕が証明しており、よく見ると――

「あーなるほど、ずいぶん頼もしい手助けなことで軍曹殿」

 屋敷の証明にぼんやりと細い輝きが浮かんでいた。
 目を凝らしてようやく分かったが『糸』だ。
 細い白色がクレイ・ゴーレムたちをがんじがらめにしていたわけだ。

「まだまだ敵は中にいるぞ上等兵。私についてこい、速やかに制圧だ」
「了解、軍曹。後片付けは俺たちがやっとくよ」

 そんなことをしでかした黒髪ロングなクモ娘は「やれ」と顎で示してきた。
 ありがたくそうすることにしよう、突撃銃をそっと構えた。

「……なあタカアキ、ヒロインってこんなにやばかったのか?」
「ああ、ミコちゃんも多分これくらいやばいと思う。あの子もうスチール級まで復帰したって聞いたぜ」
「もう絶対逆らわないようにしとく」

 タカアキの短機関銃も狙いに加わった――トリガを引く。
 ぱきぱき、ぱらぱらと現代火器の火力が身動きの取れない相手をずたずただ。

「残りは任せて……!」
「後はお任せあれ、ですっ! ええええええええええいっ!」

 ダメ押しとばかりにわん娘と人形姫が突いて叩けば、あれだけいたゴーレムはあっという間に機能停止だ。

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 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

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