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剣と魔法の世界のストレンジャー
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少し遅めの昼飯をとりながらタカアキは教えてくれた。
この世界のプレイヤーやヒロインはゲームに則ったシステムを持ってると。
いつぞやミコがいってたが転移に巻き込まれた者全員がその恩恵を得たらしい。
つまりステータスを開けるし【モンスターガールズオンライン】に準じた能力も使える――まあ俺だって似たようなもんだが。
ところが二つの世界が混ざってしまったせいで誰もが妙なことに気づいた。
銃だ。剣と魔法の世界に混じった現代の廃墟からそんなものが見つかった。
そんな便利なものがあったらつい使いたくなってしまうと思うはずだし、今時銃の使い方なんて動画サイトを見ればわかってしまうご時世だ。
しかしひとたび銃を握ってトリガに手をかければ。
【スキルエラー】
――と目の前にウィンドウが浮かんで弾が出ないとか。
あの手この手を尽くしても撃てず、けっきょく観賞用モデルガン程度の価値しかないそうだ。
「……っていう理由があって、撃ちたくても撃てないのさ。おかげでフランメリアで銃撃戦おっ始める奴はいないぜ」
という会話をしてしばらく、俺たちは都市を抜けて壁の外にいた。
あいつは下ろしたダッフルバッグから大小さまざまな空瓶を掘り出してる。
「そりゃよかったな、もし使えたら面白いことになってただろうな」
「この世界、ましてこんなシチュエーションで迷い込んだ俺たちがいきなりそんなもん手にしてみろよ? さぞ地獄だぜ? 動画サイトを見れば銃の使い方が投稿されてて、ちょっと探せば銃器のマニュアルも普通に売ってるご時世だ、絶対撃つね」
「そのエラーとやらに感謝した方がいいだろうな」
「まったくだ。んで、この件について大体検討がついてる」
「何か分かったのか?」
で、俺の幼馴染は銃に纏わるお話について何か「ご存じ」な様子だ。
その説明のためにこうして郊外までやってきたわけだが。
「なあに難しい話じゃねえよ、単純にスキルがないから使えないだけさ」
空き瓶をそこらに並べる幼馴染はさも簡単そうな口ぶりだ。
スキルがないから。そういわれて不意に思い当たるフシがあった。
「……そういえばタカアキ」
「お、なんか心当たりある感じだな? 言ってみ?」
「デュラハンのメイドが一緒に来てたのは話したよな?」
「聞いた聞いた、面白そうな生首取れる姉ちゃんもいたそうだな?」
「そいつがスキル画面開いたらG.U.E.S.Tのスキルが追加されてたらしいんだ。【小火器】とか【重火器】とかが一覧にぶっこんであったって言ってたな」
そうだった、ロアベアの奴が言ってたよな。
あっちの世界に来てから知らないスキルが増えてて、しかもそれが上がっていたとかなんとか。
まさかとタカアキを見れば。
「そーいうこと。取り扱うためのスキルが必要なのさ」
さっき手に入れたばかりの短機関銃と弾倉を引っこ抜いていた。
フルロード済みだ。曲がった細長い形には九ミリ弾がたらふくぶちこまれてる。
そんなものをそれらしく構えて見せると。
「俺の考えはこうさ。あのゲームの登場人物になれば使うことができるってな」
よくわからないことを(いつも通りだが)発しつつ手渡してきた。
それは外の広い風景に興奮してるニクでもなく、ましてとんでもない事実を伝えられてる俺でもなく。
「……あのー……お二人とも、これから一体何をするんでしょうか? まさかそれ、撃てちゃったりするんですか?」
目をぱちくりさせたまま会話に混ざりかけてるさっきの女の子だ。
リスティアナだ。どうしてこいつはついてきてるんだろう。
「何か発見したのか分かった。じゃあ次はなんでこいつがいるかって話だ」
「そりゃあ実際に見てもらった方が早いからだろ?」
「俺たちのお話はそこらの奴には重すぎると思わないのか?」
「どうせお互い目立っちまうし共犯の身だ、早めに打ち明けて受け入れてもらえるための第一歩さ」
「前向きなことで、お前と共にいれて嬉しいねほんと」
こいつの口ぶりで分かった。このお人形さながらのヒロインに試させるつもりだ。
銃床を展開して弾倉を装填、チャージングハンドルを引くと。
「さーて、リスティアナちゃんだっけか? ちょっと撃ってみてくれ」
青と白のワンピース風の装いをした『戦うお姫様』みたいな姿にそれが渡った。
そして二十メートルほど離れたボトルに「撃て」と仕草を送りやがった。
本当にやらせる気かこいつは。ご本人は戸惑い半分な様子だ。
「え、えーと……こうですか……?」
たどたどしく、かつ腰だめに大事に抱え込むような変なスタイルで構えた。
セレクターはフルオートだ。不用意に指をぎゅっと絞れば大変なことになるが。
「い、いきますよ~……えいっ!」
かちん。
銃から妙な音が虚しく響いた。
空打ちを起こした感じがするけど妙だ、作動音が何一つ伴ってない。
「……おい、どうなってんだ? 空打ちしたみたいな音がしたぞ?」
【小火器】スキルが高まったせいで分かるが、弾詰まりやら撃針不良だとかそういう類じゃない。
不自然だ。まるで撃つのを世の理に無理やりお断りされたような強引さだ。
「ほら、だからいったじゃないですか~……プレイヤーの皆さんとか私たちヒロインが使おうとすると絶対に撃てないんです!」
「ほんとだなっておい待て構えたままこっち向くな馬鹿野郎!!」
リスティアナは腰だめの短機関銃をカチカチ言わせながら振り向いてきた。
慌ててニクと射線から外れれば、タカアキはそんな物騒な得物を取り上げ。
「こんな風に何が何でも撃てないのさ。でもまあ……」
そんな彼女の代わりに構えた。
少し動きがなっちゃいないがそれなりにまっすぐ銃口を向けると。
*pam!*
撃った。
九ミリの乾いた銃声がしたし空薬莢だって弾かれた。
離れた標的に向かって確かに撃ったのだ――ただし見事に外してる。
「う、撃てた……!? えっ!? あの、今撃ちましたよね……?」
「タカアキ、じゃあなんでお前は撃てるんだって話に切り替えた方がいいか?」
「ちゃんと撃ててる。でも撃てないんじゃないの……?」
三人でいきなり銃をぶっ放したスーツ姿をこうして拝むことになったわけだ。
ちょうどご本人は「銃を撃てない」という法則をぶち壊したばかりで。
「どうも俺は向こうの登場人物になってるみたいでな。この世界に来た途端、スキル画面見たらG.U.E.S.Tのもんがいっぱいあったのよ」
そう説明しながらまた撃った。ぱぱぱぱっと短い連射だ、一発だけ命中。
いや、そもそもタカアキがあの世界の登場人物になったって?
ロアベアが言ってたみたいに世紀末世界のスキルが付け足されてたのか?
「まさかお前、さっき俺が言ったみたいに小火器だのなんだのある感じか?」
「そのまさかなんだよな。で、いろいろあってすぐ分かったんだ」
「色々は後で聞くとして、一体何が分かったんだ?」
「あの世界に関わっちまった奴はそうなるみてえだ。そのロアベアちゃんだっけ? そいつも向こういってそうなったんだろ?」
つまりあのクソ生首メイドは転移した時点で向こうのスキルを取り込んでたことになる。
あの世界に触れたやつ全員に引き金を引く権利が渡ってるようだ。もちろんミコも。
「待てよタカアキ、じゃあお前が使えるってことは……」
「……まさかウェイストランドに転移してた?」
じゃあなんでこの幼馴染は銃を使えるかって話だ。
ニクと首をかしげてみせると、しかしタカアキは複雑そうな顔で。
「それなんだけどよ、お前DLCは覚えてるか?」
「ああ、一緒にダウンロードしたよな」
「それだよ。ひょっとしたら俺、そいつの影響でこうなってんのかも」
「どういうことだ、なんでDLCの話なんて――」
DLC。そう言葉が出てきて少しの考えの末にあることが過る。
そう言えばなんだか口走ってたな。出資しただとか自分が登場するとかなんとか……まさか。
「東洋の殺人鬼ってことで出演させてもらったわけだけどよ、そうなると俺ってあのゲームの登場人物じゃん?」
その設定どおりになぞってそうなスーツ姿の幼馴染は得物を手渡しにきた。
そうだった。こいつ何をトチ狂ったのかゲームに出演してやがった。
ってことは転移せずともあの世界のキャラになったのかこいつは。
「まさかお前ゲームのNPCになってるとかそういうオチか? えーとこういう時はお気の毒とおめでとうどっちだ?」
「うーん微妙、まあでも俺だけハイブリッドな感じしてお得だし悪かねえわ」
「お前の前向きさには助けられてるよタカアキ」
廃墟から出土したばかりの得物を掴むと【ZIG-MPX】と名が浮かんだ。
この滅茶苦茶な状況はともかく撃てってことらしい。
チャージングハンドルを引いても薬室に問題なし、おかしな様子はない。
「ああそうだ、あと車あるじゃん? あれも【運転】スキルないと何も動かないんだわ」
「そこらへんのやつが好き勝手に乗り回せないようになってるのは訳があったか」
「恩恵に与れるやつが限られてるのは逆にいいと思ってるぜ。これで良かったんじゃねえか?」
更に情報追加だ、現代文明はウェイストランド人の証がないと鉄くずらしい。
ともあれ戦前らしい黒い造形を構える、すんなり肩に収まった。
この銃は人付き合いのいいバランスだ。離れたプラスチックに照準を置く。
*papam! papam! papam!*
二連射ずつなぞるように撃った、これで一発も外さず全弾命中だ。
「おーすげえ、全部当てやがった。どっかの映画みてえだな」
「いい銃だな、反動が素直に吸い付くみたいだ」
「うん、セリフもだな。方向性はともかくお前が成長してお兄さん嬉しい」
「生活能力がなかった理由がこれで判明したな。神は二物を与えずって言葉はマジだったらしいぞタカアキ」
「そんなもん犠牲にして得た戦闘力からしてポテンシャルはあったんだろうな」
「でも未来の俺は炊飯器使っただけで暗黒生み出したそうだ」
「暗黒使いにでもなったのか俺も心配だったよそれ聞いて」
更に続けた。横並びのボトルをなぞってトリガを次々に引く。
結果はぱぱぱぱぱっと壊滅だ。幼馴染にこれ見よがしに得意げな顔を送った。
「え、う、撃てちゃってる……? あ、あのっ、お二人とも、どうしてそんなものが使えるんですか……?」
さて、一仕事終えるとリスティアナが驚いていた。どうしたものやら。
しかしどうせ隠し切れない事実だ。タカアキの言う通り早めに打ち明けて認めてもらったほうが気楽なもんだろう。
もしもそれで変な輩がきたとしても問題ない、力づくでねじ伏せる。
「説明面倒くさいから俺の手心で簡単に言うとだな、訳ありだ。まあ別にこいつで侵略しに来たエイリアンでも未来から送られた殺人マシンでもないことは保証させてくれ」
中央の的に照準を重ねて撃った。ばすっとフタが吹っ飛んだ。
ちょうど弾切れだ。タカアキに返せばぽかーんとしてるお人形のお姫様がそこにいた。
「こいつは俺の幼馴染なのさ。あっ俺タカアキね、二人してちょっと訳ありの身になってこうして仲良く苦労してるぜ」
そんなフォローも入った。弾倉を取り換えてセレクターを動かしたらしい。
ぱんぱんっと軽い銃声が会話に混じっていく。全弾外れだ下手くそめ。
「そっ……そうなんですね……あ、あはは……なんだかすごい人と出会っちゃった気分です……」
「おかげで今あんたに生きててごめんなさいって謝罪がでかけてる――おい下手だなお前」
こんな不運な出会いにリスティアナの包容力たっぷりな笑顔は引き気味だ。
せめてもの思いで申し訳なさそ~~な表情を伝えると。
*papapapapapapapam!*
あの野郎連射しやがった。離れた標的は立ち上がる土煙に紛れて倒れたようだ。
「どうだ、当たったぞ」
弾倉一本分ぶちまけたあいつはサングラス乗せの邪悪なスマイルだ。
「まぐれ当たりっていうのは無理やり起こせるもんなんだな」
「これだから銃っておっかないよな。そういうわけでご協力ありがとう人形のお姉ちゃん、これはお兄さんからのささやかなお礼だぜ」
こうして実験と説明ができたタカアキは「やるよ」と紙幣を取り出した。
数千ほどの手間賃だ。ところが相手はふるふるとした首の振り方で。
「――よくわからないけど、お二人とも苦労なされてるんですね? でしたらこれも何かの縁! 何かありましたらこのリスティアナにお任せくださいっ!」
ものすごく穢れのない強い顔で頼もしいことを言われてしまった。
親切なのはありがたいけどこんな二人分の面倒に付き合わせたくはないのは確かだ。
「なあタカアキ、ヒロインってみんなこうなのか?」
「基本的にはこうだ、ゆるく付き合ってやった方がいいぞ」
「そうする。今ウェイストランドのクソ強い淑女の方々が懐かしい気分」
「どんな出会いがあったん?」
「子供からおばあちゃんまで逞しかったよ」
「うわーあの世界観らしい」
これでプレイヤーたちの抱えるスキル問題については分かった。
ミコに会う機会があればこのことは聞いとくべきだろうな。会えるその時が来ればだが。
ともあれ実験は終わった。短機関銃をバッグに捻じり込むと。
「あっそうだ! 良かったらですけど、皆さん私とフレンド登録しちゃいませんか?」
リスティアナが親し気ににこにこしてるけど何を言ってるか俺には謎だ。
どういうこと? とニクと一緒に疑問を仕草に変えれば。
「あーお二人さん? フレンド登録ってのはゲームのシステムのことだぜ。実は俺たちプレイヤーやヒロインはステータス画面を介してチャットとかメールとか送れるんだけどさ」
そんなところにタカアキの説明が分かりやすく挟まった。
この世界にやってきた皆さまは自前の能力を生かしてコミュニケーションをとれるようだ。
が、困った。俺のステータス画面はあいにく左腕にある。
「そりゃ便利だな。でも残念なことに俺のステータスはあいにくこっちだ」
だからPDAを掲げた。
タカアキは「あーそうか」な困った反応で言葉に詰まったようで。
「って……それ、なんですか? 腕に取りつけるスマホ……みたいですけど?」
好奇心強めなお人形系ヒロインなんてきょとんとしてる。
そう、もれなく俺もそんなMGOの恩恵にあやかれるか怪しいのだ。
「訳ありその二、これが俺のステータス画面。そっちの申し出は嬉しいけど規格があうかどうか謎だぞ」
「イチ君、本当にいろいろあるんですね……! でも大丈夫です! MGOの懐の広さを信じて申請してみます!」
ところがリスティアナの底抜けの明るさはどこまでも信じてくれるようで、急にふらふら空中をなぞり始めた。
ぱっと見なんらかのまじないでも施してるようにも見えなくはないが。
【フレンド登録申請を受信しました...】
ワーオなんてこった奇跡が起きた、ありがとう未来の俺。
「撤回する、たった今なんか届いた。お前の言う通りMGOは懐がデカいな」
「おいマジかよ! えっじゃあ俺も!」
「あっ届いたんですね? やりました!」
続いてタカアキからも飛んできたがP-DIY2000は問題なく受け入れてる。
【ソーシャル】とそれらしい部分を開くと『リスティアナ』と『タカアキ』が友達になりたがってる。
承諾すると何事もなくフレンドリストに二人分の名前が追加された。
「これでまた一つ分かったな、俺のPDAでもそっちと連絡取れるみたいだ」
「流石G.U.E.S.Tだな、拡張性抜群だぜ」
「ふふふっ、よかったですね! あっニクちゃんとタカさんにも送りますね~?」
これでいつでも連絡できるわけか。ありがとう俺のPDA、もしくはMGOのシステム。
さっそく新しい機能を試してみるか。
「……ん。なにこれ」
ところがニクが耳をピクっとしていた。
何かに感づいた時のそれだ。訝しみつつ空中を見てる。
「あれ? もしかしてステータス機能をご存じじゃないんですか?」
「すてーたすがめん?」
「知らないんですか……!? えーとですね、空中に触れてみてください、こうすーっとなぞるみたいに」
「おい待てリスティアナ。言い忘れたけどニクはヒロインじゃ……」
するとわん娘は元気な水色髪にレクチャーされながら空中をなぞった。
犬の手がぎこちなく文字を書いてるようにも見えるが何か違和感がある。
いやまさかな。けれども思わず見守ってしまうが。
「ん、目の前にいろいろ広がってきた。なにこれ」
「そうです! それがステータス画面ですよー、そこのフレンド機能ってところを触って……」
……おいおい。
予想外の出来事が起きてるぞ、まるでニクがステータスを開いてるみたいだ。
「タカアキ、また問題発生だ」
「らしいな。どうなってんだ」
「ニクはヒロインじゃないぞ、なのにステータス開いてるような気がする」
「俺もそう見えるな。もしそうなら悩みの種がまた増えるわけだ」
予想外の成り行きを見守っていると、うちのわん娘はリスティアナと一緒に手を動かした挙句。
「り、す、てぃ、あ、な……って書いてる」
「じゃあそれをOKしちゃってください! これで私たちお友達ですね!」
「できたよ」
「じゃあ今度は二人も登録しちゃいましょうか、イ・チとタ・カ・ア・キですよ!」
ぴこん、とPDAに通知が浮かんだ。
コミュニケーション担当の項目に『ニク』とある――おいマジかよ。
「たった今増えた。おかげでニクがヒロインだって証明された」
「俺にも来ちゃったなあ……どうなってんだマジで」
「ご主人とタカアキさまの名前が浮かんでる」
「よくできました、えらいえらいっ♡ その機能を使えばいつでもみんなで連絡できますからねー?」
そしてタカアキにも届いたようだ。
つまりこれでステータス画面を通じて四人仲良く友達になれたわけだ。
「……よくわからないけど、これで他の人とやりとりができるの? 便利かも」
きっとわん娘は少し楽しかったに違いない。
俺には見えないが、そこにあるだろうウィンドウに尻尾をふりふりしていた。
◇
この世界のプレイヤーやヒロインはゲームに則ったシステムを持ってると。
いつぞやミコがいってたが転移に巻き込まれた者全員がその恩恵を得たらしい。
つまりステータスを開けるし【モンスターガールズオンライン】に準じた能力も使える――まあ俺だって似たようなもんだが。
ところが二つの世界が混ざってしまったせいで誰もが妙なことに気づいた。
銃だ。剣と魔法の世界に混じった現代の廃墟からそんなものが見つかった。
そんな便利なものがあったらつい使いたくなってしまうと思うはずだし、今時銃の使い方なんて動画サイトを見ればわかってしまうご時世だ。
しかしひとたび銃を握ってトリガに手をかければ。
【スキルエラー】
――と目の前にウィンドウが浮かんで弾が出ないとか。
あの手この手を尽くしても撃てず、けっきょく観賞用モデルガン程度の価値しかないそうだ。
「……っていう理由があって、撃ちたくても撃てないのさ。おかげでフランメリアで銃撃戦おっ始める奴はいないぜ」
という会話をしてしばらく、俺たちは都市を抜けて壁の外にいた。
あいつは下ろしたダッフルバッグから大小さまざまな空瓶を掘り出してる。
「そりゃよかったな、もし使えたら面白いことになってただろうな」
「この世界、ましてこんなシチュエーションで迷い込んだ俺たちがいきなりそんなもん手にしてみろよ? さぞ地獄だぜ? 動画サイトを見れば銃の使い方が投稿されてて、ちょっと探せば銃器のマニュアルも普通に売ってるご時世だ、絶対撃つね」
「そのエラーとやらに感謝した方がいいだろうな」
「まったくだ。んで、この件について大体検討がついてる」
「何か分かったのか?」
で、俺の幼馴染は銃に纏わるお話について何か「ご存じ」な様子だ。
その説明のためにこうして郊外までやってきたわけだが。
「なあに難しい話じゃねえよ、単純にスキルがないから使えないだけさ」
空き瓶をそこらに並べる幼馴染はさも簡単そうな口ぶりだ。
スキルがないから。そういわれて不意に思い当たるフシがあった。
「……そういえばタカアキ」
「お、なんか心当たりある感じだな? 言ってみ?」
「デュラハンのメイドが一緒に来てたのは話したよな?」
「聞いた聞いた、面白そうな生首取れる姉ちゃんもいたそうだな?」
「そいつがスキル画面開いたらG.U.E.S.Tのスキルが追加されてたらしいんだ。【小火器】とか【重火器】とかが一覧にぶっこんであったって言ってたな」
そうだった、ロアベアの奴が言ってたよな。
あっちの世界に来てから知らないスキルが増えてて、しかもそれが上がっていたとかなんとか。
まさかとタカアキを見れば。
「そーいうこと。取り扱うためのスキルが必要なのさ」
さっき手に入れたばかりの短機関銃と弾倉を引っこ抜いていた。
フルロード済みだ。曲がった細長い形には九ミリ弾がたらふくぶちこまれてる。
そんなものをそれらしく構えて見せると。
「俺の考えはこうさ。あのゲームの登場人物になれば使うことができるってな」
よくわからないことを(いつも通りだが)発しつつ手渡してきた。
それは外の広い風景に興奮してるニクでもなく、ましてとんでもない事実を伝えられてる俺でもなく。
「……あのー……お二人とも、これから一体何をするんでしょうか? まさかそれ、撃てちゃったりするんですか?」
目をぱちくりさせたまま会話に混ざりかけてるさっきの女の子だ。
リスティアナだ。どうしてこいつはついてきてるんだろう。
「何か発見したのか分かった。じゃあ次はなんでこいつがいるかって話だ」
「そりゃあ実際に見てもらった方が早いからだろ?」
「俺たちのお話はそこらの奴には重すぎると思わないのか?」
「どうせお互い目立っちまうし共犯の身だ、早めに打ち明けて受け入れてもらえるための第一歩さ」
「前向きなことで、お前と共にいれて嬉しいねほんと」
こいつの口ぶりで分かった。このお人形さながらのヒロインに試させるつもりだ。
銃床を展開して弾倉を装填、チャージングハンドルを引くと。
「さーて、リスティアナちゃんだっけか? ちょっと撃ってみてくれ」
青と白のワンピース風の装いをした『戦うお姫様』みたいな姿にそれが渡った。
そして二十メートルほど離れたボトルに「撃て」と仕草を送りやがった。
本当にやらせる気かこいつは。ご本人は戸惑い半分な様子だ。
「え、えーと……こうですか……?」
たどたどしく、かつ腰だめに大事に抱え込むような変なスタイルで構えた。
セレクターはフルオートだ。不用意に指をぎゅっと絞れば大変なことになるが。
「い、いきますよ~……えいっ!」
かちん。
銃から妙な音が虚しく響いた。
空打ちを起こした感じがするけど妙だ、作動音が何一つ伴ってない。
「……おい、どうなってんだ? 空打ちしたみたいな音がしたぞ?」
【小火器】スキルが高まったせいで分かるが、弾詰まりやら撃針不良だとかそういう類じゃない。
不自然だ。まるで撃つのを世の理に無理やりお断りされたような強引さだ。
「ほら、だからいったじゃないですか~……プレイヤーの皆さんとか私たちヒロインが使おうとすると絶対に撃てないんです!」
「ほんとだなっておい待て構えたままこっち向くな馬鹿野郎!!」
リスティアナは腰だめの短機関銃をカチカチ言わせながら振り向いてきた。
慌ててニクと射線から外れれば、タカアキはそんな物騒な得物を取り上げ。
「こんな風に何が何でも撃てないのさ。でもまあ……」
そんな彼女の代わりに構えた。
少し動きがなっちゃいないがそれなりにまっすぐ銃口を向けると。
*pam!*
撃った。
九ミリの乾いた銃声がしたし空薬莢だって弾かれた。
離れた標的に向かって確かに撃ったのだ――ただし見事に外してる。
「う、撃てた……!? えっ!? あの、今撃ちましたよね……?」
「タカアキ、じゃあなんでお前は撃てるんだって話に切り替えた方がいいか?」
「ちゃんと撃ててる。でも撃てないんじゃないの……?」
三人でいきなり銃をぶっ放したスーツ姿をこうして拝むことになったわけだ。
ちょうどご本人は「銃を撃てない」という法則をぶち壊したばかりで。
「どうも俺は向こうの登場人物になってるみたいでな。この世界に来た途端、スキル画面見たらG.U.E.S.Tのもんがいっぱいあったのよ」
そう説明しながらまた撃った。ぱぱぱぱっと短い連射だ、一発だけ命中。
いや、そもそもタカアキがあの世界の登場人物になったって?
ロアベアが言ってたみたいに世紀末世界のスキルが付け足されてたのか?
「まさかお前、さっき俺が言ったみたいに小火器だのなんだのある感じか?」
「そのまさかなんだよな。で、いろいろあってすぐ分かったんだ」
「色々は後で聞くとして、一体何が分かったんだ?」
「あの世界に関わっちまった奴はそうなるみてえだ。そのロアベアちゃんだっけ? そいつも向こういってそうなったんだろ?」
つまりあのクソ生首メイドは転移した時点で向こうのスキルを取り込んでたことになる。
あの世界に触れたやつ全員に引き金を引く権利が渡ってるようだ。もちろんミコも。
「待てよタカアキ、じゃあお前が使えるってことは……」
「……まさかウェイストランドに転移してた?」
じゃあなんでこの幼馴染は銃を使えるかって話だ。
ニクと首をかしげてみせると、しかしタカアキは複雑そうな顔で。
「それなんだけどよ、お前DLCは覚えてるか?」
「ああ、一緒にダウンロードしたよな」
「それだよ。ひょっとしたら俺、そいつの影響でこうなってんのかも」
「どういうことだ、なんでDLCの話なんて――」
DLC。そう言葉が出てきて少しの考えの末にあることが過る。
そう言えばなんだか口走ってたな。出資しただとか自分が登場するとかなんとか……まさか。
「東洋の殺人鬼ってことで出演させてもらったわけだけどよ、そうなると俺ってあのゲームの登場人物じゃん?」
その設定どおりになぞってそうなスーツ姿の幼馴染は得物を手渡しにきた。
そうだった。こいつ何をトチ狂ったのかゲームに出演してやがった。
ってことは転移せずともあの世界のキャラになったのかこいつは。
「まさかお前ゲームのNPCになってるとかそういうオチか? えーとこういう時はお気の毒とおめでとうどっちだ?」
「うーん微妙、まあでも俺だけハイブリッドな感じしてお得だし悪かねえわ」
「お前の前向きさには助けられてるよタカアキ」
廃墟から出土したばかりの得物を掴むと【ZIG-MPX】と名が浮かんだ。
この滅茶苦茶な状況はともかく撃てってことらしい。
チャージングハンドルを引いても薬室に問題なし、おかしな様子はない。
「ああそうだ、あと車あるじゃん? あれも【運転】スキルないと何も動かないんだわ」
「そこらへんのやつが好き勝手に乗り回せないようになってるのは訳があったか」
「恩恵に与れるやつが限られてるのは逆にいいと思ってるぜ。これで良かったんじゃねえか?」
更に情報追加だ、現代文明はウェイストランド人の証がないと鉄くずらしい。
ともあれ戦前らしい黒い造形を構える、すんなり肩に収まった。
この銃は人付き合いのいいバランスだ。離れたプラスチックに照準を置く。
*papam! papam! papam!*
二連射ずつなぞるように撃った、これで一発も外さず全弾命中だ。
「おーすげえ、全部当てやがった。どっかの映画みてえだな」
「いい銃だな、反動が素直に吸い付くみたいだ」
「うん、セリフもだな。方向性はともかくお前が成長してお兄さん嬉しい」
「生活能力がなかった理由がこれで判明したな。神は二物を与えずって言葉はマジだったらしいぞタカアキ」
「そんなもん犠牲にして得た戦闘力からしてポテンシャルはあったんだろうな」
「でも未来の俺は炊飯器使っただけで暗黒生み出したそうだ」
「暗黒使いにでもなったのか俺も心配だったよそれ聞いて」
更に続けた。横並びのボトルをなぞってトリガを次々に引く。
結果はぱぱぱぱぱっと壊滅だ。幼馴染にこれ見よがしに得意げな顔を送った。
「え、う、撃てちゃってる……? あ、あのっ、お二人とも、どうしてそんなものが使えるんですか……?」
さて、一仕事終えるとリスティアナが驚いていた。どうしたものやら。
しかしどうせ隠し切れない事実だ。タカアキの言う通り早めに打ち明けて認めてもらったほうが気楽なもんだろう。
もしもそれで変な輩がきたとしても問題ない、力づくでねじ伏せる。
「説明面倒くさいから俺の手心で簡単に言うとだな、訳ありだ。まあ別にこいつで侵略しに来たエイリアンでも未来から送られた殺人マシンでもないことは保証させてくれ」
中央の的に照準を重ねて撃った。ばすっとフタが吹っ飛んだ。
ちょうど弾切れだ。タカアキに返せばぽかーんとしてるお人形のお姫様がそこにいた。
「こいつは俺の幼馴染なのさ。あっ俺タカアキね、二人してちょっと訳ありの身になってこうして仲良く苦労してるぜ」
そんなフォローも入った。弾倉を取り換えてセレクターを動かしたらしい。
ぱんぱんっと軽い銃声が会話に混じっていく。全弾外れだ下手くそめ。
「そっ……そうなんですね……あ、あはは……なんだかすごい人と出会っちゃった気分です……」
「おかげで今あんたに生きててごめんなさいって謝罪がでかけてる――おい下手だなお前」
こんな不運な出会いにリスティアナの包容力たっぷりな笑顔は引き気味だ。
せめてもの思いで申し訳なさそ~~な表情を伝えると。
*papapapapapapapam!*
あの野郎連射しやがった。離れた標的は立ち上がる土煙に紛れて倒れたようだ。
「どうだ、当たったぞ」
弾倉一本分ぶちまけたあいつはサングラス乗せの邪悪なスマイルだ。
「まぐれ当たりっていうのは無理やり起こせるもんなんだな」
「これだから銃っておっかないよな。そういうわけでご協力ありがとう人形のお姉ちゃん、これはお兄さんからのささやかなお礼だぜ」
こうして実験と説明ができたタカアキは「やるよ」と紙幣を取り出した。
数千ほどの手間賃だ。ところが相手はふるふるとした首の振り方で。
「――よくわからないけど、お二人とも苦労なされてるんですね? でしたらこれも何かの縁! 何かありましたらこのリスティアナにお任せくださいっ!」
ものすごく穢れのない強い顔で頼もしいことを言われてしまった。
親切なのはありがたいけどこんな二人分の面倒に付き合わせたくはないのは確かだ。
「なあタカアキ、ヒロインってみんなこうなのか?」
「基本的にはこうだ、ゆるく付き合ってやった方がいいぞ」
「そうする。今ウェイストランドのクソ強い淑女の方々が懐かしい気分」
「どんな出会いがあったん?」
「子供からおばあちゃんまで逞しかったよ」
「うわーあの世界観らしい」
これでプレイヤーたちの抱えるスキル問題については分かった。
ミコに会う機会があればこのことは聞いとくべきだろうな。会えるその時が来ればだが。
ともあれ実験は終わった。短機関銃をバッグに捻じり込むと。
「あっそうだ! 良かったらですけど、皆さん私とフレンド登録しちゃいませんか?」
リスティアナが親し気ににこにこしてるけど何を言ってるか俺には謎だ。
どういうこと? とニクと一緒に疑問を仕草に変えれば。
「あーお二人さん? フレンド登録ってのはゲームのシステムのことだぜ。実は俺たちプレイヤーやヒロインはステータス画面を介してチャットとかメールとか送れるんだけどさ」
そんなところにタカアキの説明が分かりやすく挟まった。
この世界にやってきた皆さまは自前の能力を生かしてコミュニケーションをとれるようだ。
が、困った。俺のステータス画面はあいにく左腕にある。
「そりゃ便利だな。でも残念なことに俺のステータスはあいにくこっちだ」
だからPDAを掲げた。
タカアキは「あーそうか」な困った反応で言葉に詰まったようで。
「って……それ、なんですか? 腕に取りつけるスマホ……みたいですけど?」
好奇心強めなお人形系ヒロインなんてきょとんとしてる。
そう、もれなく俺もそんなMGOの恩恵にあやかれるか怪しいのだ。
「訳ありその二、これが俺のステータス画面。そっちの申し出は嬉しいけど規格があうかどうか謎だぞ」
「イチ君、本当にいろいろあるんですね……! でも大丈夫です! MGOの懐の広さを信じて申請してみます!」
ところがリスティアナの底抜けの明るさはどこまでも信じてくれるようで、急にふらふら空中をなぞり始めた。
ぱっと見なんらかのまじないでも施してるようにも見えなくはないが。
【フレンド登録申請を受信しました...】
ワーオなんてこった奇跡が起きた、ありがとう未来の俺。
「撤回する、たった今なんか届いた。お前の言う通りMGOは懐がデカいな」
「おいマジかよ! えっじゃあ俺も!」
「あっ届いたんですね? やりました!」
続いてタカアキからも飛んできたがP-DIY2000は問題なく受け入れてる。
【ソーシャル】とそれらしい部分を開くと『リスティアナ』と『タカアキ』が友達になりたがってる。
承諾すると何事もなくフレンドリストに二人分の名前が追加された。
「これでまた一つ分かったな、俺のPDAでもそっちと連絡取れるみたいだ」
「流石G.U.E.S.Tだな、拡張性抜群だぜ」
「ふふふっ、よかったですね! あっニクちゃんとタカさんにも送りますね~?」
これでいつでも連絡できるわけか。ありがとう俺のPDA、もしくはMGOのシステム。
さっそく新しい機能を試してみるか。
「……ん。なにこれ」
ところがニクが耳をピクっとしていた。
何かに感づいた時のそれだ。訝しみつつ空中を見てる。
「あれ? もしかしてステータス機能をご存じじゃないんですか?」
「すてーたすがめん?」
「知らないんですか……!? えーとですね、空中に触れてみてください、こうすーっとなぞるみたいに」
「おい待てリスティアナ。言い忘れたけどニクはヒロインじゃ……」
するとわん娘は元気な水色髪にレクチャーされながら空中をなぞった。
犬の手がぎこちなく文字を書いてるようにも見えるが何か違和感がある。
いやまさかな。けれども思わず見守ってしまうが。
「ん、目の前にいろいろ広がってきた。なにこれ」
「そうです! それがステータス画面ですよー、そこのフレンド機能ってところを触って……」
……おいおい。
予想外の出来事が起きてるぞ、まるでニクがステータスを開いてるみたいだ。
「タカアキ、また問題発生だ」
「らしいな。どうなってんだ」
「ニクはヒロインじゃないぞ、なのにステータス開いてるような気がする」
「俺もそう見えるな。もしそうなら悩みの種がまた増えるわけだ」
予想外の成り行きを見守っていると、うちのわん娘はリスティアナと一緒に手を動かした挙句。
「り、す、てぃ、あ、な……って書いてる」
「じゃあそれをOKしちゃってください! これで私たちお友達ですね!」
「できたよ」
「じゃあ今度は二人も登録しちゃいましょうか、イ・チとタ・カ・ア・キですよ!」
ぴこん、とPDAに通知が浮かんだ。
コミュニケーション担当の項目に『ニク』とある――おいマジかよ。
「たった今増えた。おかげでニクがヒロインだって証明された」
「俺にも来ちゃったなあ……どうなってんだマジで」
「ご主人とタカアキさまの名前が浮かんでる」
「よくできました、えらいえらいっ♡ その機能を使えばいつでもみんなで連絡できますからねー?」
そしてタカアキにも届いたようだ。
つまりこれでステータス画面を通じて四人仲良く友達になれたわけだ。
「……よくわからないけど、これで他の人とやりとりができるの? 便利かも」
きっとわん娘は少し楽しかったに違いない。
俺には見えないが、そこにあるだろうウィンドウに尻尾をふりふりしていた。
◇
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