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Journey's End(たびのおわり)

ストレンジャーが去った後。

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 ストレンジャーと呼ばれる一人の奇妙な男がいた。
 数奇な運命から来る理由で死を免れ続けた彼は、慣れない足取りで見知らぬ世紀末の世界を彷徨った。
 墓と棺桶から無縁な旅路をした結果、世の中は変わってしまった。



 あれから『プレッパーズ』はスティングでの戦いを経て、シド・レンジャーズと共にその名を広げることとなった。
 だがウェイストランドも著しく変わった。勢力図が書き換わったことによって、遠い地から招かれざる客がやってきたのだ。
 西側の土地は勢いを取り戻したミリティアどもが間近に迫り、北西の『ヴェガス』には新たな賊どもが入れ替わるように現れた。
 しかし老いた狙撃手の率いる彼らからすれば「ぶっ殺す相手に事欠かない」だけのことである。
 剣と魔法の世界の力を取り入れ、愉快な仲間を得たプレッパーズは西側のまとめ役としてあり続けた――適当にね。

 ボスと呼ばれる年老いた狙撃手は時々、どこかを見るようになった。
 ボケたわけじゃない。ただ明確に、誰かの旅路をなぞってこう考えたのだ。
 「あんたは自慢の息子みたいなもんさ」と。
 『ストレンジャー』と呼ばれる奴に向かって、どうしても言えなかった一言だった。
 別に寂しくなんてなかった。何せ彼女には気さくな相棒と、忠実についてくる褐色肌の姉弟がそばにいたからだ。
 ああそれから飲み仲間も。チャールトンという異世界から来た奴だそうだ。
 
 あれからツーショットは少し忙しくなった。
 プレッパーズとして戦い、レンジャーとして任務に赴き、その傍らで一企業の長として勤めなきゃならないのだから。
 彼は三つの勢力を繋ぐかけ橋として活躍した。今日もボスの右腕として誇らしくやってるわけさ。
 そういえば、愛車でひび割れた道路を走ってると時々こう思ったそうだ。
 アイツは元気にやってるだろうか? だとか。向こうの世界とやらに一度行ってみたいもんだ、だとか。そんな他愛もない考えだ。
 まあうまくやってるだろうさ。楽しくなった世の中を見てそう結論付けた。

 世紀末世界のニンジャを名乗る十五歳児は更に腕を磨き、数々の術で戦場を引っ掻き回す恐ろしい存在に化けた。
 問題は相変わらず何人ものお姉ちゃんにいじられ続けられてるということだが。
 どんなに強くなっても、けっきょく「やめてよ姉ちゃん」は変わらずだった。
 ……そんな彼の姉も何やら変わったことができるようになったらしい。
 尋常ではない速度で野を駆けまわり、姿を消し、自然を操る狙撃手がいると噂されたそうな。
 二人は自分たちと楽しくやった奇妙な男を時々思い出しながら、いつまでもボスのそばにいた。

 ヒドラとスピネルはその芸術性もあっていいコンビになった。
 幼馴染たちも巻き込んで『ウェイストランド・ワークショップ』というささやかな工房を開いたそうだ。
 ウェイストランドにまた脅威が訪れたその時、彼らの武器は非常に役に立ったという。
 今日も彼は愛しい彼女と共に芸術を爆発させるんだ。こんがりとな。
 いい縁に巡り合わせてくれたダチは元気だよな? いや、きっとそうか。



 『シド・レンジャーズ』は長きにわたる因縁の一つをようやく終わらせた。
 彼らが生まれてからもなお続く人食い共産主義者どもとの戦いだ。
 代わる代わるに起きたブルヘッドでの大企業にちなんだ出来事も経て、この世におけるレンジャーたちの影響は深まった。
 彼らの行動を理解し、支持する人間が増えたのだ。
 そして世界の情勢が変わってしまった今、様々な者たちと手を取りつつ四方八方から来る新たな勢力と戦い続けるのであった。

 シド将軍の仕事は増していく一方だが、それでも晴れやかな気分だった。
 かつての相棒と共にまた武器を手に取り、宿敵に終止符を打った時はどれほど報われたものか。
 スティングでの再戦はなんと奇妙なめぐりあわせだったのだろうか?
 あの相棒が、擲弾兵の姿をした奇妙な男を連れてクソ野郎どもの親玉をぶちのめしたのだ。
 "我々の人生も数奇なものだな、ジニー" 彼はそう笑っていた。

 シエラ部隊の面々は助けを必要とする人々のため、また戦うことになった。
 ストレンジャーに『シエラ流』を叩き込んだ彼らは、去ってしまった彼が心配しないようにと悪者相手に暴れ回った。
 きっとまた会えるだろうな、戦友――厳つい部隊長はいつだって、共に戦った余所者のことを忘れないだろう。
 そんな彼らだが、ある時ベースに帰還した時にドローンがやってきた。
 敵襲と思い身構えるところ、そこにトヴィンキーが降り注いでとある伍長が喜んだそうだ。
 『あの野郎! マジでやりやがったな!』と。もしアイツが来ることがあれば、彼の推薦のもとレンジャーになれるはずだ。

 北部部隊の連中はブルヘッドの一件もあって、今や北の人々により一層頼られる存在だ。
 壁の『下』でも堂々と活動できるようになり、より広く手が及ぶようになった彼らは特に洗練された戦力を持つ部隊として敵に恐れられた。
 それはつまり新たな脅威がやってきた証拠ではあるが、心配はご無用だ。
 エグゾアーマーを駆使した精鋭部隊からの狙撃と砲撃、そして突撃がお前たちを待ってるぞ――ああっと、ウォーカーもいるぜ。



 ミリティアどもの侵略を受けてからというものの、サーチ・タウンはどうにか復興することができた。
 問題はそれからだった。目まぐるしく変わる情勢に巻き込まれ、町は新たな姿に生まれ変わった。
 『プレッパーズ』や『スティング』までを繋ぐ、西側からの脅威に対応するための重要な拠点としてあり続けることになったのだ。
 いつぞや誰かが破壊した戦車は、その証拠として残され続けてるらしい。



 キッド・タウンで活動する『エンフォーサー』たちはあれから変わった。
 傭兵集団の侵攻がおさまり、スティングでの戦いを支えた実績もあって自信を取り戻したのだ。
 西側を繋ぐ組織の一つとして、また戦前の技術を収集する集団としてこれからもずっと栄えていくことになるだろう。

 ……そうそう、メンバーの一人が誰かさんからもらったPDAを材料に無人兵器を作ったらしい。
 40㎜グレネード発射機と五十口径を搭載した小回りの利く無人戦車で、製作者は「ダーリンとの愛の結晶」と呼んでいた。
 ぱっと見イケメンの彼女は今日も元気だ――いつでも帰ってきてねダーリン!



 ストレンジャーの旅路によってガーデンは栄えた。
 ウェイストランドに新たな脅威が広まった際、誰よりも先に西からの敵に切り込んだのは彼らだった。
 プレッパーズからスティングまでの繋がりを強固に保つ役割を果たしつつも、新たな部下たちに支えられながらも成長し続けて行った。
 更に在留することになったフランメリア人の協力を得て、東に続く汚染地域を除染する計画を成し遂げたのだ。
 こうしてベーカー将軍は母親と気軽に会いに行けるようになった。装備も充実して、『ホームガード』たちは勇敢な兵として人々に覚えられた。

 チャールトンはあれから立派なウェイストランド人になった。
 共に残ることになった二人の部下のオークと共に、そして人間の癖に逞しい友をいっぱいにガーデンの守護者として戦った。
 「豚のような姿をしたやつはこの世の何より危険だ」、いまだ野望に燃えるミリティアどもはベレー帽をつけたオークをひどく恐れた。
 吾輩もまだまだ捨てたものではないな――ボスという飲み仲間を得た彼は、今日も楽しく徳を積んでいる。

 フロレンツィアはこの世界に残ることにしたフランメリア人と数多く交流することになった。
 何よりその優しい人柄は人間、人外問わずに多くの心を救うものだ。
 ガーデンに咲くりんごの木々と共に、彼女はホームガードやその戦友たちの心の拠り所であり続けた。
 もちろん去っていったストレンジャーや飢渇の魔女の「これから」を祈って。
 余談だがかなりの酒豪らしい。みんなが集まる中、りんごで作った酒を樽一つ分ほど軽く飲み干したそうだ。



 人食い族の隠れる忌まわしき土地として利用されたクリンは、どうにかそのイメージを払拭することができた。
 というのも西の世界からの脅威があったからだ。レンジャーの名の下、強固な要塞としてその脅威から守る役割が与えられた。
 街の長は決して頭が良いわけでもなく、決断力に長けているわけでもない。
 しかし人のためになればという考え方は多くの人たちをつなぎとめるものだ。彼なりに頑張った結果、再び美食の街として立ち直った。
 駐留する兵士たちは食べ物に困ることがなく、また手厚く歓迎されることもあって希望者は続出したそうだ。
 それなりにやっているらしい。時々やってくる銃撃戦の中でも落ち着いて食事をするぐらいには。



 『ブラックガンズ』という戦前の退役軍人をルーツに持つ連中は、フランメリアの土壌と作物によって周辺の食糧事情を安定させた。
 ウェイストランドが再び不安定になろうが、彼らの作る食べ物は侵略者たちにも負けない力の源になったのだ。
 誰が言ったか「食べることは生きること」の通りだった。
 やがてはるか遠くの『サムズ・タウン』という場所と縁を持つことになって、そこで生産される大量の小麦と共に多くの食卓を支えたという。

 ストレンジャーの奇妙な人生に付き合わされた『ハーヴェスター』はまたもおかしな光景に見舞われた。
 ある日突然にドローンがやってきて、聞き覚えのある言葉を残して段ボールを落としていったのだ。
 爆弾でも投下しやがったのか? そこで爆弾魔の友人をけしかけて確かめると、中から出てきたのはコーヒーの生豆だ。
 手元に届いたそれを見て彼は「やりやがったな」と珍しく笑ったのだった。
 ブラックガンズはこうしてコーヒー農園を取り戻して、かつての名前を取り戻したのである。

 ……ああ、その後コーヒーマイスターも仲間に加わった。
 彼女は「コーヒーを飲むか、死か」をモットーに今日も生きている。ちなみに迫撃砲の名手だったそうだ。



 ストレンジャーが去ってしばらくして、スティングは変わった
 *本物*の擲弾兵に戦い方を教わり、シド・レンジャーズにも劣らない精鋭揃いの自警団を得たのだ。
 また、世紀末世界に残ることを決めたフランメリア人の居場所でもある。
 様々な異世界の者たちから知恵と技術を授かった結果、彼らは北の汚染地域から放射能を除去するというプロジェクトを立ち上げた。
 どうなったかって? 大成功だ。おかげでシド・レンジャーズの活動範囲も増えて、スティングの守りは強固なものだ。
 ライヒランドがなくなり新たな勢力が押し寄せる中、南側をまとめる重要な場所として繁栄することになったのである。

 それから、誰かさんは無事に新築の我が家を手に入れたそうだ。
 棍棒を振りかざす頼れる部下もついて、街を管理する忙しさに追われつつもそこそこに豊かな暮らしを得たそうだ。
 ただし立地条件は最悪だった。扉を開ければ最後、槍で貫かれた戦車が見える駅前だ。
 まあ武器庫のお隣よりいいか――そう納得するしかなかった。

 あのあとヴァナルはフランメリア人と一緒にウェイストランドを放浪し、異世界からやってきた珍しい品を集めるようになった。
 やがてスティングに【ヴォイド・ヴァナルのアーティファクト博物館】がリニューアルオープンすると、そこそこにぎわったという。
 おすすめの展示物は蘇った擲弾兵が身に着けたという曰く付きのアーマーだ。
 ……しかしやっぱり、犬にすら入館料を要求するようだ。
 
 ビーンは誰かに言われた通りに勉強をした。
 彼は驚くような速さで賢くなり、すぐにスティングの市長になったという。
 やがてかつての自らの行いを悔い続けるようになり、毎朝美食の街に向かって静かに祈り続けるのが日課となった。
 自警団と一緒にママを支えつつ、牛くんは今日も成長し続けているのだ。

 ガレットはウェイストランドで一番クールな男になった。
 いつしかレプティリアンな妻と同じように氷の魔法を操るようになり、またドワーフたちの協力もあって酒造で富を築くことになった。
 ブラックガンズと提携して冷たいビールを世に放ったのだが、実は甘いアイスクリームの方が売れていることに不満だったそうだ。
 ――まあ、妻が喜んでくれているからいいか! 可能性は無限大だ!
 それとメイドがもう一人増えたらしい。妻の元部下のリザードマンだ。

 ……しかしだ。皮肉なことにストレンジャーの存在は強すぎた。
 姿を消した伝説の擲弾兵を崇拝するやっかいな集団が生まれた。
 カルトを何より嫌った彼から生まれたそいつらは、その過激さもあって問題を起こすことも少なくなかった。



 ライヒランドの消滅というのはあっけない形だった。
 過去の遺恨を引きずるままにスティングを手に入れようと目論んでおり、ウェイストランドを一つにするという夢を捨てきれなかったのだ。
 長き時をかけての緻密な計画をぶち壊され、それでも諦めきれずにいた彼らはとうとう破綻した。
 なんてことはない。戦いで大損害を被った後に不幸がやってきただけだ
 豊かな土地を聞きつけた賊どもが南から押し寄せ、そこにミュータントの群れが押し入り、騒ぎを感じたテュマーが押しかけたのだ。
 これにてライヒランドは消滅した。今や残るのは混沌とした廃墟だけである。

 誰かさんに無理矢理墓場から引きずり出された擲弾兵たちは、またかつてのように世紀末世界を歩いた。
 あの戦いの後、グレイブランドは鉄道を復旧してスティングとの深いかかわりを得るに至った。
 足がかりを得たかつての英雄たちは混乱が再び訪れたウェイストランドで活躍するが、その足取りは軽かった。
 各地にどでかい足跡を残してくれた新兵のおかげで、道に迷う心配などなかったのだから。
 曰く、彼らの指揮官はスティングで西側の代表者たちと時々酒をたしなむのが楽しみらしい。

 ◇

 スピリット・タウンの出来事は住民たちからすれば忘れられない思い出だ。
 ディアンジェロのもたらした危機を乗り越えた今、けっきょく西部劇らしい町並みにならって保安官が取り仕切ることになったらしい。
 北側のコミュニティとの道のりを繋ぐ場所でありながらも、腕のいい狩人や北の大廃墟に通うスカベンジャーたちの憩いの場として名を馳せて行った。
 古き良き昔を体現した町にはちょっとした観光スポットもあるぞ。クソ野郎の墓と、戦車が突っ込んだそいつの職場だ。
 ――ついでにアドバイスだ、カジノはやめとけ。賭博はほどほどにな。



 フォート・モハヴィは正常になったセメタリー・キーパーたちが眠りについた後、またスカベンジャーたちが競い合う場所になった。
 いまだ居座るテュマーたちを出し抜き、競合相手と全身を使って公正に競い合う刺激的な職場だった。
 まだまだ物資は山ほどあるが、そんな宝物めがけて飛び込む奴らの一部はこう思ってるだろう。
 「擲弾兵のアイツはどうしたんだろうな」と。ウォーカーがぶち壊した街並みを見るたびに、時々話題になってるそうだ。



 ようリスナー、ブルヘッド・シティはいいところだぜ。
 チャレンジ精神とノリの良さが際立つバロール・カンパニー、堅実でこだわりを重んじるニシズミ社、それとしぶとく立て直したラーベ社が企業同士で争う刺激的な場所だ。
 ストレンジャーっていう規格外のバケモンがお友達を連れて暴れ回った後、壁に覆われた都市は新たな一歩を歩んだのさ。
 上を目指せってね。おおっと「壁の外」って意味さ、ここは下だろ?
 ところで最近出た面白い映画は見てるか?
 その名もハードコア・ストーナー! 傭兵集団に目をつけられた不運な男が、お友達の擲弾兵と共に苦境を突破する一人称視点の作品さ。
 やけにリアルな描写が売りだそうだ。ハードコア!

 そういえばスカベンジャーの諸君、おたくらは仕事道具に困ってないかい?
 ハハ、オイラは別になくても困らない身分だけどな。
 さてそんな奴らに朗報だ、イタリア系の血を引く若き職人が作った、洗練されたスカベンジャーグッズを作る工房があるんだ。
 『ヴィラ・ワークテーブル』っていう場所さ。チップをちゃんと払ってくれるならどこのどいつだろうが売ってくれるそうだ。
 注文した品は配達ドローンですぐ――おっと、彼氏持ちの美女が営んでるんだ。口説くのはやめとけ?

 そうだった、近々また少しだけお休みさせてもらうが……代理の奴に放送を任せるつもりだ。
 名前はローレルってやつだ。そこそこ話せるし、仲良くしてやってくれ。
 さて次のお話だ、ニシズミ社が『百鬼』っていうカッコいいウォーカーを公表しやがったぜ。
 新米のメカニックがどこぞの擲弾兵をイメージして改良した鉄鬼らしいが、その稼働する様子を一般公開するみたいだ。
 見たい奴は急げよ、なんたってありゃブルヘッドを救った英雄の――



 ポトックはひっそりとしたところだったが、かつてはアタック・ドッグで栄えた場所だった。
 しかし彼らを育てる最高のブリーダーも世の変化にしたがって死んだ。残ったのは自信を失った息子だけだった。
 だが、何があったんだろうか?
 彼は突然やる気を取り戻し、この過酷な世界を歩む者を支えてくれるようなグッドボーイを育てた。
 せめて父のように立派になろう、理由はそれだけで十分だった。



 サムズ・タウンは紆余曲折を経て、伝説のドーナツを手に入れるに至った。
 広大な小麦畑もブラックガンズと共に食糧事情を支える重要なものとして残り続けたが、ここで一つ問題が起きた。
 町長が死んだのだ――ところで聞くけど「ドーナツ過剰摂取による心不全」と「窒息死」どっちが可哀そうだと思う?
 答えは両方だ。やっぱりドーナツの食べ過ぎなんて身体に悪いのだ。
 仕方がなく警備についていた者たちが管理するようになったが、住民は前より快適になってると感じてるらしい。



 ファクトリーは世の中が変わろうがすることは一つだった。
 職人たちを集わせ、荒野に転がる材料を集めさせ、良き武器を作るのだ。
 西側にある放射能地域の隔たりが除去されると、危険こそ近づいたがさぞ繁盛したそうだ。
 それに『マダム』はガーデンを治める自分の息子との距離が縮まったこともあってご機嫌だった。
 そのためか月に二回、豪快なバーベキューをするようになった。プレッパーズのボスとは酒の趣味が合うそうだ。

 ウェイストランドに居座る異世界からの職人は、この世界に来て一つ変化があったらしい。
 それは弟子を通じて周りと関わるようになったことだ。
 相変わらず不愛想で工房からめったに出てこない身だが、彼の伝える技術は間違いなく品質を向上させていた。
 実際のところ、彼もまたこの世の流れを楽しんでいたのである。

 ファクトリーにゆかりを持つトレーダーたちは情勢の変化に敏いもので、各地で盛んに売り込んだ。
 ナガンと呼ばれるベテランは放射能汚染地域の除去の恩恵をもっとも受けていた。何せかつての上官と会う機会が増えたのだから。
 ストレンジャーに売り込んで自信を得た誰かさんもそうだった。
 相手の手を見て売るスキルが功を成したのだ。どうも擲弾兵という買い手を得られたらしい。



 クリューサとクラウディアがフランメリアに渡ったあと、二人でまた旅を続けた。
 故郷を回り、そしてめぐって機械仕掛けの都市という場所に住みついた。
 ところが錬金術師ギルドのお偉いさんに目をつけられ、フランメリアらしいパワフルな貴族たちに仲良くされ、騒がしい日々を過ごしてる。
 彼の存在や周りを取り巻く環境は、フランメリアの医療の発展に強く影響を与えたという。
 ――お前の家族は何様だ? 俺の顔を見た途端に「不治の病か」だと?



 イグレス王国の女王様は相変わらずだった。
 フランメリアにつくなり農業都市によって紅茶をたしなみ、ついでにお土産も買い足して国へ戻った。
 特に大きな成果はチャールトンの元気な様子だ。それもあってかつての冒険者仲間に「面白い人」を紹介したらしい。
 いずれストレンジャーのもとに何かしら接触しにくるだろう。果たしてそれが彼にとって穏やかなものかは定かではないが。
 なお、彼女の夫は高身長で胸も尻も大きなイケメン美女である。
 良かったねストレンジャー、捕食者が一人増えたよ。



 帰路についたフランメリア人はまるで旅行から帰ってきたようだったという。
 ドワーフどもは大はしゃぎだった。異世界から持ち帰った技術と共に凱旋して、ついでに『愛車』も自慢した。
 連れ帰った向こうの人間たちの協力もあってドワーフの里は栄えたそうだが、それはまた別の話。
 共に過酷な世界を歩んだ亜人たちに至っては積んだ徳のせいなのか、前よりも逞しくなって帰ってきたらしい。
 「俺も行きたかったのに」そうひどくうらやむ者たちが耐えなかったし、「いいな」と妬まれるほどだ。

 エルフたちがミスリルやらを手に意気揚々と帰る中、スラックス姿の誰かさんはふと首都のある方を見た。
 アバタールが復活したのだから忙しくなるでしょうなあ?
 楽しかったあの世界から心を切り替えて、彼は楽し気に職場へ復帰した。
 でもやっぱり気がかりが一つあった。あのドーナッツをまた食べたいし、しれっと料理ギルドに「食文化の調査」ということで作らせてしまおうか。
 ストレンジャーとまた会えることを楽しみにしつつ、伝説のドーナツをどう再現させるか思いを馳せるのであった。

 元魔王の四人組が帰還すると、彼らはフランメリアをまた楽しく歩いた。
 話にいろいろと華を咲かせた。クラングルは今熱いだとか、ミスリルをどうするかだとか、これから何しようというところまでに及んだ。
 けっきょく彼らは最高純度のミスリルを一部だけ加工して、残りはどこかに寄付した。
 まあ、別に金に困ってないし? 元気なリーダーはみんなでおそろいの装備を作って、旅を共にした証として大切にしたのだ。

 ミノタウロスが長い旅を終えて我が家に帰ると、心配した妻が「おかえり」と出迎えてくれたそうだ。
 彼らは世紀末世界から持ち帰った変異したクランベリーを育てて 末永く栄えることとなった――自慢の『息子』と共にいつまでも幸せに。
 それから、白くて大きなミュータントは自慢のペットとして飼われてる。
 名前は「ユリ」だ。親友の熊の獣人が勝手に名付けたのであった。



 ノルベルトは同郷の者と共にしばらく帰路についた。
 その間に考えることは山ほどだった。
 あの戦友はどうしてるのだろう、あの物言う短剣は無事に戻れたのだろうか、またみんなと会えるのか。
 心配などいらない。そんな不安も克服する術を彼は知っている。
 強く笑うのだ。そのおかげで助けられた友がそばにいたことを、オーガの子が忘れることはないだろう。
 それに手元には思い出が山のようにあるではないか。変形する戦槌に、過酷な世界で得た身なり、そして数々の姿を書き留めたノートだ。
 また会おう、戦友よ。



 ロアベアはフランメリアに戻ってふらふら帰還すると、魔女様から呼び出しを食らった。
 クビのお知らせ? いいや、アバタールについての質問だ。
 彼女は「ほんとにクビっすね!」というつもりで首を抱っこしてたが、一つ一つを確かめられた末に再雇用された。
 ついでに先輩どもとまた相まみえると、彼女はとても心配されていることが分かった。どつかれたが。
 でもお土産をいっぱい持ってきてくれた挙句、ちゃんと仕事をするようになっていたのでみんな「まあいいか」と思ったらしい。
 


 飢渇の魔女リーリムはフランメリアに戻ってすぐ多忙になった。
 異世界からきた者たちの奪い合いに遅れないように働きかけたり、今までの出来事をしかるべき場所に伝えたり、料理ギルドの運営やらと様々だ。
 そんな彼女を見て誰もが口をそろえてこういうはずだ。
 「フランメリアのためにあった」と。
 目まぐるしい変化が続く中、彼女の働きぶりが国を発展させていくことになった。
 なお、ウェイストランドにはこんな伝説が一つ流れてる。
 死滅したはずの穀物がこの世に戻ったのは、裂ぱくの気合を込めて地面にじゃがいもを叩きつける魔女のおかげだとか。



 剣と魔法の世界にたどり着いたヌイスは、エルドリーチの紹介状やドワーフたちの車列にあやかって東へ向かった。
 けっきょく、彼女はリーリムと別れてツチグモごとドワーフの都市に落ち着くことになったのだ。
 現地の人々は機械に対する理解もあるため困りはしなかったが、一人だった。
 だからといって寂しがってるだけの彼女じゃない。住民たちの力になったり助けられたりもしながら、この世で信頼を勝ち取っていった。
 人工知能という生まれだが私は確かに生きている。その実感が心地よかった。



 長い旅をずっと共に歩いてきたジャーマンシェパードがいた。
 彼は不思議な力で姿を変えたが、そのご主人たるストレンジャーは変わりなく頼れる相棒として接している。
 お互いに感謝していたからだ。それが犬だろうが、化けてしまった可愛い(男の)娘だろうが、深い絆は変わらない。
 剣と魔法の異世界に来てもそれは同じだ。ご主人と共に尻尾を振って歩く姿は犬の頃からずっと続く姿だった。
 ……まあ、愛が強すぎて致してしまうことが多々あるが。



 ミセリコルデはあれからしばらく、クランの仲間たちと共に過ごした。
 久々に振舞ってくれた手料理は彼女たちにとって実に美味だったようだ。
 料理が前よりうまくなってることに驚いたが、何より周りを驚かせたのは本人の心の変化だ。
 はっきり物申すようになったし、自分の気持ちを堂々と伝える強さがあった。
 だからこそエルフィーネというヒロインは複雑な気分だった。
 確かに過酷な旅だったには違いないが、私たちの誰よりも成長している――立派になった家族がそこにいたのだから。



 不死身の亡霊、蘇りし擲弾兵、戦車殺しと様々に呼ばれる彼はフランメリアでの暮らしを始めた。
 過酷な旅ですっかり変わった彼は周りから奇異な視線を浴びせられ続けた。
 それに剣と魔法の世界の暮らしにもまだ不慣れだ。またかつてのように、足取りのおぼつかない余所者に戻ったのだ。
 心配はいらない。頼れるグッドボーイもいるし、馬鹿だけど面倒見のいい幼馴染もいる、もうひとりじゃない。
 けれども相棒が幸せな暮らしを取り戻したのを見て、やはり後ろめたいものがぬぐいきれなかった。
 次第に彼女と距離を置くようになってしまった。今では彼女をそっと見守り続けているという。



 その昔、ウェイストランドの乾いた大地にはレンジャーたちの流した血がしみ込んでると言われていた。 
 死んだ世界でなおも生きる者たちが争い、中でも古き血を引く者たちは秩序を求め続けた。
 シド・レンジャーズ。善人が何もしなければ悪はどこまでも蔓延るものだと、その将軍は語った。

 ウェイストランド中の富を我が物にしようと軍人崩れが跋扈する。
 飢えたカルトたちが血肉を漁り、偽りの預言を世に広める。
 自由を与えられた機械たちが人間たちにとって代わろうとする。
 理想郷を作るべく、過去の栄光を忘れられない者たちが暗躍する。

 四方八方からやってくるそれを、壁のように立ったレンジャーが食い止めていた。
 不毛な争いはいつまでも繰り広げられ、とうとう世の中の悪が抑え込めなくなってきたその時だ。

 そこに一人の余所者が入り込んで来た。
 その日置かれた自分の状況どころか、自分がなんなのかも分からない漠然とした男だった。
 彼はかつての英雄に育てられ、物言う短剣と犬を連れてウェイストランドを歩み続けた。

 やがてそいつは立ちふさがるカルトどもにトドメを刺した。
 西からやってきた傭兵崩れの賊たちをレンジャーと共に蹴散らした。
 満たされぬ飢えを何が何でも満たそうとする人食いどもを皆殺しにした。
 理想を捨てられぬ侵略者たちにその手で現実を叩きこんだ。
 犬を崇拝する狂った奴らを力づくで地獄の底まで追い払った。
 イカれた機械どもを無理矢理シャットダウンさせてやった。
 企業の手のかかった連中を全力をもって返り討ちにした。

 そして、ストレンジャーは*勝利*した。
 今やウェイストランドはレンジャーたちが世のために流した血ではなく、彼の道を阻んだクソ野郎たちの血で塗り固められていた。

 彼にとっては何が何でも前に進んでいただけだったかもしれない。
 だが少なからず、ウェイストランドは彼のことを二度と忘れないだろう。
 黒いジャンプスーツが辿った道に助けられた人は数え切れぬほどいるのだ。

 そして過酷な旅路は終わった。
 彼が去った後のウェイストランドに平和が訪れたかって? そんなわけない。
 世の中が動けば新たな勢力も動くものだ。血を流す戦いがまた続いた。
 定番のセリフだが『人は過ちを繰り返す』のだ。もっとも彼らには何を間違えているかなんてわからないだろうが。

 それでも、荒れ果てた地はいつだって彼の帰りを待っている。
 世紀末世界の『ストレンジャー』、あるいは『擲弾兵のアイツ』だ。

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