魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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Journey's End(たびのおわり)

ミセリコルディア

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 本当に大きな門だった。
 仮に横並びの百鬼が仲良く手を繋ぐシチュエーションがあったとして、ここは容易く受け入れる度量があるはずだ。
 それほどの門の面構えの向こうで、高低差のある地形ごと飲み込んだような街並みが大げさに広がっていた。
 ようこそクラングルへ。整然とした石畳の道は都市のどこまでも続いてるようだ。 

「今日はポーションの材料採取のお仕事だよ! お姉ちゃんについてきて!」

 まだ少し遠いファンタジーな街並みまでの道中、すれ違う子供たちが目に付く。
 四人ほどの小さな――ヒロインの集まりだと思う。
 ふわっと明るい金髪の女の子が元気に先頭を歩いていた。まあ、黒一色の角と尻尾と羽は悪魔さながらだったが。

「キャロルねえさま、あのお金に糸目をつけない魔女のおばあちゃんからですか。日に日にギルドに貼られる依頼が勢いを増してるんですよ、そのうち変な注文されても私知りませんからね」
「……シズクお母様も、わたくしたちを心配しておられますからね。気を付けてまいりましょう、みなさま」
「ねえねえ、さっきまた「くるま」がきてたよ! そこの黒いにーちゃんたちが乗ってた!」

 ドレスみたいな鎧を着た姉を自称する何かに続くのは、やはり人外だ。
 着物めいた格好にタヌキな耳と尻尾が浮かぶ子供。白髪に兎の耳が踊るお淑やかな子供。何ならさっき見たハーピーもいた。
 けれどもこっちを見た第一印象は「なんだあれ」だ。怪訝に避けられた。

「……おいおい。まさかあんなガキがお外で冒険でもしてるのか?」

 一体何をしに行くのやら、子供たちはクラングルを発つらしい。
 けれども誰もが明るいのだ。まるで散歩にでも赴くような雰囲気で楽し気にしてた。
 世紀末世界ならではの生きるか死ぬかの空気と比べるとひどいギャップだった。俺には悪い冗談にすら思える。

「今のフランメリアじゃ日常茶飯事だぞ? いや別にをする必要ないんだけどな、食い物は安いし仕事だって他にはいろいろあるし、ここにいる奴らは好きなこと得意なことでその日を楽しくやってるのさ」

 タカアキは人外な子供を見送りながら歩き続けていた。あれが当然のように。
 その言葉は事実に違いない。少し遠くはもう人通りが濃くなってる。
 門のそばで「隣街まで荷を運んでくれ」とオークがプレイヤーらしい連中にする場面、暇そうに仲間と話を他愛なく続ける様子、この世界が垣間見えてた。

『懐かしい……。ずっと前に見た頃と、全然変わってないや……』

 それは肩の相棒にとっての普通だったんだろう。
 信じられないほど賑わっていて、それでいて穏やかなのだ。

「……人がいっぱいだし、みんな楽しそう。これがミコさまのいた場所なんだ」
『うん。わたしの故郷、なんていったら大げさかもしれないけれど……ここが帰るべき場所だったんだ。あっ、にゃんこもいる……』

 隣でニクもどこに目を向ければいいのやらとばかりだ。
 無限にさえ思えるほど長い街の中は、人間とヒロインたちの日常があった。
 そしてなぜか猫たちも。白黒茶色といろいろな色合いが人混みにまぎれて優雅に練り歩いていた。

「にゃおん」

 どうも白い猫が誰かさんを気にしたらしい。「なにこいつ」と見上げてきた。
 俺たちを真ん丸の目で一舐めすると、にゃんこはつまらなさそうに去っていく。

「……猫だ、久々に見たな」
「今の生き物、なに? 犬じゃないけど」
『ニクちゃん、猫知らないのかな……? あれはね、猫っていうの。可愛いでしょ?』
「ねこっていうんだ。ふわふわしててかわいい……」
「クラングルはお行儀のいいにゃんこがいっぱいだぜ。仲良くしようね!」

 猫はともかく、俺は今ある目の前を向いた。
 明るくて賑やかで――平和な世の姿がただそこにあった。
 生き方を変えられてしまった人間プレイヤーたちがいて、それを上回る人外ヒロインたちの明るい振る舞いがたくさんだった。
 だからだ。なぜだか自分の身がひどく場違いだと感じてる。

「……ねえ、あの人はプレイヤーさんなのかな?」
「違うと思うよ。顔が全然違うし、それにちょっと、怖いし……」
「格好も違うじゃない、この世界らしくないから『外の人』じゃないの?」

 通りに差し掛かる寸前、道の傍らで猫だの魚だのといった風貌ヒロインからそんな言葉が飛んでくるほどだ。
 そういうことなんだろうな。俺は元の世界らしさを失った身だ。
 この世界なりの暮らしをしてきた連中とは、もう同じ足並みでいられない存在になってしまったのか。

 こうして余所者と思われるほどに。

 それだけここは豊かで希望のある場所なのだ。
 数千年後の地球、このフランメリアで不運な転移者たちはこうして過ごしてる。
 そこに水や食い物を求めて争う姿もなければ、命がけの生き様なんてものもない。

「……こんなに平和だったのか、フランメリアって」

 道行く人たちにいろいろな目で見られつつだが、ふと立ち止まった。
 過酷な日々を裏切るような楽し気な様子がなぜだか心地悪かった。
 いや。恐れていたことが起きてるに違いない。俺はもうこの平穏をまともに受け取ることができないのだ。

『半年前からずーっと、みんな手を取り合って過ごしてたんだね……よかった』

 だけどミコは安心していた。これがあいつが元々過ごしていた世界なのだから。
 だからこそだった。ようやく理解できたよ、お前にどんなことをしてしまったのか。
 を過ごしていたミセリコルディアの奴らからこいつを奪って、暴力と火薬が支配する世界へ連れて行ったんだ。

「これがお前の故郷だったんだな。ミコ」

 俺は立ち尽くしていた。
 この世界らしく生きようとするプレイヤーたち、剣と魔法の世をいっぱいに受けて楽しむヒロインたち。
 みんなまだまだ不器用にこの世を過ごしてるらしいけれども、今の自分たちを受け入れてしっかりと生きていた――肩にいる相棒もそうだったはずだ。

『ふふっ、いいところでしょ?』
「……ああ、いいところだ」
『懐かしいや……。私たちがこうなってからみんな手探りで暮らし始めてたんだけど……そんなに変わってないみたい。クランのみんなもそうなのかな? ちゃんとご飯食べてたかなあ?』

 でも、もしもだぞ?
 そんな沢山の生き様から無造作に一つ選んで、過酷で理不尽な世界へ放り込んだら?
 そいつはひどく苦しむだろう。地獄のような日々を死ぬまで味わうに違いない。
 居場所があって、共に生きる誰かがいて、そんな日常から引きずり降ろされた苦しみは死ぬほど辛いだろう。自分がそうだったように。

 ――やっと分かったよ相棒。

 馬鹿だろうな。一体どれほど苦しかったのか、ようやく感じ取ることができたよ。
 思えばミコ、お前も死ねない身だ。同じだったんだ。
 死ねない恐怖も共にしたお前にはここでの穏やかな暮らしがあったはずだ。
 世紀末世界で「もっとも不運なやつ」は俺こそだと、あの時からずっと思ってた。

「……悪いな、あんな風に連れ回して」
『いちクン? ど、どうしたのいきなり……?』
「いや、気にしないでくれ」

 今はもう違う。俺の肩にはずっと不幸に見舞われた奴がいる。
 進んだ。ニクがそっとくっついて上目遣いにしていた、撫でてやった。

「――待たれよ! そこの男、少々お尋ねしたいのだが」

 街中へ入ると、また変わったやつと接触した。
 爬虫類らしい造形が手足に浮かんだ女性だ。人間的な部分は鎧に覆われていて、威圧感のある槍をこれでもかと主張してる。
 恐らくこの街を見張るご身分なんだろうが。

「おっと衛兵さん、心配しなくていいぜ。こいつはリーゼル様のだ」

 タカアキが割り込んでくれたおかげで仕事は台無しになったらしい。
 そいつはすぐに信じられなさそうな顔でこっちの姿を眺めてきて。

「な、なんと……では、アバタール様が復活されたというのは本当なのだな?」

 だそうだ。ちゃんと未来の名前が通ってるようだ。
 けれども今はそんな気分じゃなかった。真剣な目つきにどうしても軽口が浮かばない。

「よお、アバタールの話題はまた今度な。それよりミセリコルディアっていうクランを探してる。どこだ?」

 だから手短で尋ねた。相手は少し面食らったようで、戸惑い半分で頷き。

「あ、ああ……東の方に居住区域がある、そこにクランに属する者たちが住んでいるぞ。しかしミセリコルディアか――」

 ちょうど俺の口から出た言葉に触れるものがあったらしい。
 肩の短剣やらもじろじろ見てきて、そいつは何か考えた後。

「もしやだが、行方不明だったミセリコルデという者が見つかったのか?」

 当てはまる言葉を返してきた。
 どうも事情を知ってるご様子だ。肩の短剣を示した。

「そいつを連れて来たところだ」
『あ、こ、こんにちは衛兵さん……! わたしです、ミセリコルデです!』

 しかし、ミコから出た言葉は意外だ。まるで見知ったような話し方だった。
 すると人外な見張り番は驚きと嬉しさをまぜこぜして、ぐっと肩を覗いてきた。

「ミセリコルデ! お前、戻ったのか!? 帰ってきたのか!?」

 びっくりだ。知り合いだったらしい。
 周りもその言葉に気づいたんだろう。人間だのヒロインだの、一斉にこっちを見てくる。

『ただいま戻りました。お久しぶりです、衛兵さん』
「ははっ、そうか……お前のことはこうしてちゃんと覚えていたぞ。さあ、早く帰って安心させてこい』

 爬虫類さながらの衛兵は喜んでた。そんな縁があるなんて全く知らなかった。
 そいつの次の興味はちょうどストレンジャーに向いたらしく。

「お前がこいつを連れ帰ってくれたのか、旅人よ。今日はなんとめでたい日だ」

 親し気な笑顔を振舞ってくれた――どうしても、乗る気にはなれない。

「無理やり連れ回しただけさ」

 それだけ残して進むことにした。
 困惑混じりの「良き滞在を」という言葉を受けて、通りを東へ進んでいった。



『ここはね、クラン所属者が使える土地なの。魔女様に認められたクランには住まいが与えられるんだけど、前よりいっぱい増えてるなあ……』
「ああ」
『クランハウスっていうんだけど、すごいんだよ? お風呂もあるし台所もあるし、プレイヤーさんたちは元の世界より快適って言うぐらいで……』
「……ああ」

 石畳は丁重にそれらしい道なりを作ってる。
 少し歩いた先、高低差の強い土地に幾つもの建物が並んでた。人が住むのにちょうどよさそうな佇まいが揃ってるようだ。

「おい、シューヤ。お前」

 タカアキが追いついて気にかけてくれた。手で払った。
 それでも人の顔を見て何か分かったんだろうか。小さなため息が聞こえた。

「……そうだ。ミコ、さっきの人は知り合いか?」

 居住区域とやらが見えてくる。看板が次の通りへの入り口を示してた。

『さっきの衛兵さんはね、前にわたしたちがお仕事を手伝った時に知り合った人なんだ。衛兵さんたちのお手伝い、ってことで昼食を作るのを手伝ったり……一緒に見回りしたり、大変だけど楽しかったなあ』
「そうか。だからあんなに親し気だったのか」
『うん、すごくいい人だよ。見た目はちょっと怖いかもしれないけど、わたしたちにいろいろ親切にしてくれたの』

 また一つ罪状追加だ、その衛兵の知り合いとやらを心配させた。
 荷物を抱えてわん娘を連れて、肩の短剣もろとももっともっと進んだ。
 変わった土地がそこにあった。適度に間隔をとった中々な家屋が、ところどころに住まいを構えてた。
 デザインもそれぞれだ。和風だったり、緑が豊かだったり、温かみがあったりと利用者の個性が現れてる。

『……あっ……』

 その数多の顔ぶれの中、さほど遠くない場所にそれはあった。
 木造の穏やかな家があった。見ていて気持ちのいい広さがあって、二階建てのつくりがどことなく親しみが湧くというか。

「……ミコ!」

 そこに誰かがずっと立っていた。
 トカゲさながらの手足と尻尾があって、爬虫類らしい鋭い目をしたヒロインだ。
 身体の曲線を隠す服装に鎧を浮かべた、結んだ栗色の髪の持ち主だった。
 きりっとした声で呼ぶその名前は、間違いなく肩の相棒のことを良く知ってる。

『エル……さん?』

 ミコだってもう声が泣いていた。
 あれがミコの言う家族なんだろう。トカゲっぽい女の子は急いで駆け寄ってきた。

「ミコ……! 良かった、帰ってきたんだな……!?」

 そいつだって泣いてた。それだけの仲が物言う短剣にはあったんだ。

「ミコさん! やっと帰ってきたんですね!?」

 すると扉も開いた。中から青いショートヘアの女の子が飛んで出てくる。
 ニクそっくりな犬のような四肢を持つヒロインだった。毛色も青かった。
 ワンピースに重ねたパーカーをゆらゆらさせつつ、尻尾もぶんぶん振ってこっちに一直線だ。

『セアリさん! わたしだよ! ごめんね、心配かけて……!』
「おかえりなさい、セアリさんずっと寂しかったんですよ!? どこいってたんですかまったく!?」
『うん、ごめんね。本当にごめんなさい』
「いいんです、特別に許しましょう! ……ほんとに寂しかったです、帰ってくるってずっと信じてたんですから」

 肩の短剣に食いついたようだ。俺のことなんて知らずまっしぐらだった。
 鞘から外すことにした。ずっと身に着けていた相棒に手をかければ。

「帰ってきたの!? どこ!? ミコはどこ!? ねえ!?」

 遅れて慌ただしく三人目がやってきた。
 すらっとした長身に竜っぽい角やら翼やら尻尾やらのある赤色強めなお姉さんだ。
 全力で泣いていた。動きやすそうな格好で今にも転びそうなほどの勢いであたふた迫ってきて。

『フランさん、落ち着いて!? ここだよ! ここにいるよ!?』
「みっ……ミゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! 良か゛った゛ァァァァ!」
「フラン、あんまり叫ぶな……! 近所迷惑だろう? ははっ、帰ってきたんだな!?」
「セアリさんほんと苦労してたんですよ!? お料理できないのが三人もいるんですからね! エルさんだってずっとあなたのこと心配して毎日毎日……」
『大丈夫! 大丈夫だから! 心配かけてごめんね!? 元気に帰ってきたよ! みんなほんとに落ち着いて!?』

 まるでストレンジャーがおまけの付属品とばかりに抱き着いてきた。
 いや、もうミコのことしか見えてないんだろうな。それだけの仲だったんだ。

「……ミコ、続きはそっちでやれよ」
『……うん。ありがとう、いちクン』

 俺は――笑えなかった。
 軽い言葉も浮かばない。だからそっと、赤い髪の竜らしい姿に鞘を渡した。

『……ごめんなさい、みんな。わたしも寂しかったよ、また会えて嬉しいな?』

 そして、やっとその言葉を言えたのだ。
 みんな泣いてた。短剣姿の家族をあの手この手で回して、大事に大事に確かめてる。

「ミコ、すまなかった。きっとお前をぞんざいに扱った罰だと思ってた」
『ううん、そんなことないよ。いつもエルさんには助けられてたもん』
「セアリさんたちはずっとミコさんのことを探してたんですよ。こうして会える日までずっと、諦めませんでした。すごいでしょう?」
『うん……。ずっと、わたしのこと覚えててくれたんだね』
「元気そうで本当に……へへへ、なんかミコ、前より明るくなってるじゃん。団長なんだか嬉しいよ……」
『ふふっ、みんなは変わってないみたいだね?』

 やっと帰れたんだな。相棒。
 少し離れた。できればこのまま、ずっと遠くまで逃げたかった。

「……タカアキ」

 今はまだ蚊帳の外だ。
 皮肉だ。物言う短剣に食いつく様子は猶予になっていた。
 再会を喜ぶこいつらに最低の真実を伝えなきゃならないのだ、ストレンジャーは。

「お前さ、さっきからずっとおかしいと思ってたぜ? 言ってみろよ」

 でも、幼馴染は気づいてくれたのか。
 まるでこれから何をするのか分かったような口ぶりだった。

「少し頼みがあるんだ」
「場合によっちゃ守らねえぞ、それでいいか?」
「じゃあできればでいい。二人とも、これから俺が何言っても口出さないでくれ」

 そんな態度に俺は頼んだ。
 ニクにもだ。流石はわん娘、心配げな顔で見上げてくれた。

「ご主人、もしかして……」

 お前は賢い犬だな。あの時からずっと。
 撫でてやった。そのがこれから始まるのだ。

「悪いな、このまま『家族を連れ戻した恩人』にはなれないんだ」

 元々、そう覚悟してただろ?

 温かい世界から残酷な世界に引きずり連れ回した事実は揺るがないのだ。
 ましてそれが、あの楽し気なフランメリアの営みを見たとなればなおさらだ。
 そして消えた彼女を気にかけて、涙を流すぐらいに再会を喜ぶ仲間だっていれば。

「あいつらに全部話す。だから、黙って聞いててほしい」

 離れたミコに聞こえない程度に、ストレンジャーはお願いをした。
 ニクはぴとっと無言でくっついてきた。ごめんな、付き合わせて。
 タカアキは――

「自分で選んだ道なんだろ、じゃあ無粋な真似はしねえよ。でもな、お前一人じゃないってことを忘れるなよ」

 ぽん、と頭を撫でてくれた。
 諦めたようなため息も聞こえてきて、ずいぶんと無茶な頼みをしたなと思った。

「ありがとう。二人ともいつも助けてくれたな」
「馬鹿言うな、これからもしばらくだ。世話焼けるわマジで」
「大丈夫だよご主人、ずっとついてくから」

 二人はを認めてくれた。
 よし、最後の一仕事と行こうかストレンジャー。

「……悪いな、遅れちまって。確かに届けたぞ」

 俺は再会の場面に水を差しに行った。
 喜びいっぱい、涙もいっぱいの様子はそっと解れて。

「貴様が連れ帰ってくれたのか、人間。本当にありがとう」

 ああそうだろうな。エルと呼ばれた子は何も知らぬまま嬉しそうに寄ってくる。
 その笑顔も、ずっと一緒にいると誓った相棒も今から裏切らなくちゃいけない。

『……いちクン?』

 けれども、あいつめ、どうしてここで気づくんだ。
 不安そうなミコの声がおっとり聞こえた。歯を食いしばって、深く呼吸をして。

「そのことだけどな、あんたらに話さないといけないことがある。聞いてくれないか?」

 まっすぐと相手を見た。
 目の前のトカゲらしい割れた瞳はどこか敏く察したに違いない。
 『嬉しい再会で済むわけがない』と。
 きりっと真面目な顔立ちが、どういうことなのかを物言わずに知りたがっていた。

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