魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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Journey's End(たびのおわり)

ポトック(2)

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 ブルヘッド北東にあるポトックの正体はトレーラーハウスの集まりだった。
 タイヤ付きのシャーシの上に住居を乗せた『持ち運べる家』のことだ。
 そんなものが荒野の上で広く列を成して、ちょっとした町程度には盛り上がっていた。
 もっとも150年も経過すれば旅立つためのタイヤもなければ、どこかに引きずってくれる親切なやつもいないが。

「――おい! 止まれ! 何だその馬鹿でかい車は!?」

 ストレンジャーズを乗せた車がそこに近づけば、向けられるのはこんな声だ。
 銃座から見る限り『ポトック』はものものしいバリケードで囲まれていた。
 トレーラーハウスたちを匿うような障壁の四隅では監視塔が立ち、どうもそこから誰かが見下ろしてるようだ。

「落ち着け! 俺たちが侵略者かなんかに見えるか!?」

 見つけた、南側の櫓に散弾銃を握った男がいる。
 次第にその数はどんどん集まって、見張りの連中は道路を陣取る巨体にすっかり釘付けだ。

「今のところはな! だいぶ穏やかには見えないぞ!」
「そりゃ中身が穏やかじゃないからな!」
「こうして話せるってことはステップ1の「まずはご挨拶」ができる客らしいな! なんの用だ!」
「旅の合間の一休みってところだ! あと朝飯!」

 キャンピング・キャリアーのエンジン音やら距離感を埋めるための大声のやり取りはすぐ終わった。
 これだけ伝えると向こうは「分かった」と頷いて降り始めたらしい。
 俺も銃座を手放して外に出れば、軽装姿の集団が小火器もろともやってきて。

「おい、おい! その擲弾兵の格好は……」

 さっき見上げた先にいた男が近づいてきた。武器も下ろしながらだ。
 どうも装甲服に思い当たるものがあるようで、急に態度が柔らかくなってる。

「ストレンジャー上等兵だ、朝から賑やかにして悪かったな」

 ヘルメットを脱いでお互い顔を合わせれば、ポトックの連中の目は真ん丸だ。
 信じられない、といった感じのものからそれはもう親しい笑みに変わって。

「あんたがあのストレンジャーか。驚いたな、思ったよりずっと若いじゃないか」
「ほんとに擲弾兵の格好……いや、もうあいつらの戦友なんだな。奇跡でも拝んでる気分だぜ」
「あんたのこといろいろ聞いたぞ! ライヒランドの野望をぶち壊したとか、テュマーも逃げ出す男だとかな!」
「さっきブルヘッド・ラジオで聞いたんだがラーベ社の悪行を台無しにしたらしいな? よくやったなお前、北の連中は今頃大喜びだ」

 一変して歓迎ムードだ。今までの所業が良く伝わってるようで何より。
 さばききれないほどわらわら集まる連中はさておいて。

「哨戒任務の途中でな、ちょっと休憩したいんだけどいいか?」

 背後に控える巨体を指で示した。
 ウォーカーさながらの角ばった装甲をまとった『走る家』だ。
 運転席からは金髪碧眼な白衣姿が「まだかい?」と退屈に伺っている。

「ずいぶんデカいクルマだな、『下』の新型か?」
「ウォーカー・キャリアーを改造したのか? なんて使い方しやがる」
「ニシズミ社からのもらいものだ。こうしてみるとほんとにデカいな……」

 見張り連中はアスファルトを陣取る車の姿をよく確かめながらも。

「また変なもん作ったみたいだな、あの会社は。ならあんたらの足を停めるスペースがちょうどそこにある、見張ってやるから好きに使ってくれ」

 トレーラーハウスだらけの街の外側を案内してくれた。
 金網やら阻害用の障害物に囲われたすぐそば、ちょうどいい空き地が平たく作られていた。
 見張り塔にいる親切な連中の目も届く場所だ。感謝しつつ向かわせた。

「良く来てくれたなストレンジャー、何もないところだけどゆっくりしていってくれ」
「むしろ何もない方が好都合だ、さんざん暴れたからな」
「聞いたよ、壁の中で大暴れしたって?」
「もう届いてるのか」
「そりゃブルヘッドの『下』の奴らが酔狂にもラジオ放送を始めたからな。それにここまで派手な音が届いてたんだ、あの大騒ぎが広まるのはあっという間さ」
「お騒がせしてすみませんでした」
「いや、俺たちからすればウェイストランドの歴史が変わる瞬間を目の当たりしたような気分だ。あんたが来てくれて嬉しいよ」

 見張りの男はゆるやかに駐車しにいった車を見て「世の中も変わり始めてるもんだな」と感心してる。

「やっぱりいくら快適でも疲れちゃうっすねえ、外の方が気持ちいいっす~」
「俺様はウェイストランドの乾いた空気の方が好きだがな、旅をしているという気持ちで引き締まるからな」
「ダークエルフの感覚だとやっぱり野外活動の方が身の丈に合ってるぞ。それで飯はまだか」

 まあ、すぐに降りて来た異形の数々にぎょっとしたようだが。
 特に生首が取れたメイド姿がそうだ。
 胸に抱いたによっとした顔が「あ、どうもっす」と伝えてきたところで全員ドン引きである。

「おい! 初対面の前で生首取るなって何度言ったら分かるんだ!?」
『ロアベアさん! 首! 首!』
「ごめんなさいっす~。ごきげんようっす皆さま、ちょっとお邪魔するっすよ」

 そして肩の短剣が喋ってしまうとなるとなおさらだ。
 しかしすぐに慣れたのか、見張りの男はひとしきりすると苦笑して。

「喋る短剣の噂といい、人間と仲良くする『モンスター』といい、南は面白いことになってるそうだな?」

 この状況をどことなく掴んでるように感心してた。
 周りもそうだ、金網越しに見える住人たちもさほど驚いてないというか。

「まあな、驚いたか?」

 続々と外の空気を吸いに来た連中を案内してると、そいつは首を振って。

「いや、この前もファンタジー作品にでてきそうなエルフたちがやってきたんだ」

 そういいながら街の中に指を向けてきた。
 入ってすぐのところに何やら無残にぶち壊された軍用車が飾られてる。

「それ俺の知り合いだな。なんかあったのか?」
「実はレイダーに襲われてたんだが、あいつら全員ぶち殺してどっかいっちまったんだ。そりゃもうとんでもない戦いぶりでな、ああして記念に飾ってるよ」

 言われてからよく見ると……うん、ボンネットに巨大な矢が刺さってた。
 あの白いエルフの仕業か。おかげでここは平和にやってるらしい。

「あいつらか。悪いやつじゃないから心配しないでくれ」
「そりゃもちろんさ。おかげでいいレイダー除けができたんだからな」

 見張り連中もすっかり安心したようだ、持ち場に離れて行った。
 俺たちの車をしっかり見てやるとばかりに意気込んでらっしゃるのだから、ありがたい話だ。
 そういうわけでポケットからチップを取り出した。数千ぐらいぽんと手渡す。

「おい、いいのか?」
「あっちで親切されたからな、あんたにパスだ」
「じゃあ俺も誰かにパスしないとな、良いご滞在を」

 向こうはもうすっかり快く受け入れてくれる様子だ。
 こうして安心して休める場所を確保したところで、あの車へと近づくと。

『君たち、危ないからちょっと離れるんだ』

 ヌイスからの警告が飛んでくる。
 何かと思ったら車の左右から固定用のパーツが展開、ごごんと地面をたたいた。
 四つのそれが接地すると、車体は抜群の安定感で腰を下ろしたようだ。

「……あらためてみるとすごい車だな、これ」
『そうだね……こんなに大きいのに快適だし早いし、こんなもの貰ってよかったのかなって思っちゃうよ』

 どっしりと構える姿はいつ見てもすさまじかった。
 軍用規格らしい色合いをまとった『実戦向け』の巨大なつくりは、元の世界では絶対にありえないものだ。
 元々がウォーカーを運ぶモノだっただけにこうして快適な住まいを背負えるわけだが。

「ふう、デスクワークよりこっちの方がつかれるものだね」

 一仕事終えてお疲れのヌイスが降りてきた。
 キャンピング・キャリアーからはリム様の料理の香りが漂ってる。

「悪いな、ずっと運転させてて」
「いや、AIの運転補助があるからそれほど負担じゃないさ。ただ座りっぱなしは疲れるだけだよ」
「そんなものも積んでるのかよ……」
「この『ツチグモ』はすごいものだよ。ブルヘッドの最先端技術がこれでもかと積まれてるんだからね」
「ツチグモ?」
「車体固定用の設置パーツを見てくれたまえ、まるでクモみたいだろう?」

 知的そうな白衣姿がいう『ツチグモ』は、確かに言われてみればそれらしい格好だ。
 蜘蛛の足のごとく伸びた大掛かりな固定具は名前通りというか、まあ四つ足の機械なんてもう見たくないのだが。

「なるほど確かにクモだ。人間を襲わない方のな」
『……クモっていうとあのウォーカー思い出しちゃうよね』
「今度のクモはお友達さ。それにこいつはすごいよ、ニシズミ社の集大成みたいなものだからね」

 三人でどでかい車を見上げてると『ご飯ですわ~』と気の抜ける声が届いた。
 クラウディアがしゅばっと真っ先に向かったのは言うまでもないが、朝飯ができたらしい。

「ん、朝ごはんだよ」

 するとニクが中から出てきた。
 わんこの手には軍隊らしいプレートに合理的に乗っかった料理の数々がある。
 黒いパンに卵料理にソーセージもどき、じゃがいもがダブってる以外は完璧な組み合わせだ。

「じゃがいも料理が重なっても違和感がないのは流石リム様だと思う」
『今日も美味しそうだなあ。それにこの盛り付け方、ニルソンにいた頃を思い出すね』
「ああ、良くおばちゃんとリム様がやたらと飯盛ってきて大変だったよな」

 俺も料理を受け取りに行った。今日は外で食べようか。



 少し遅めの朝食だった。
 椅子に座って、ウェイストランドの風景を見ながら膝上の料理を食らう。
 黒パンとか言うのは変わったやつだ。硬いし酸っぱいという「お前失敗したんか?」と疑いたくなるような味がする。
 なのにうまい。ソーセージとじゃがいもがあればむしろちょうどいい具合に食が進むというか。

「この黒パンって何なんだ? なんか酸っぱいんだけど……」
『ライ麦っていう穀物から作ったパンだよ。普通のパンとは違うんだ』
「ああ、フランメリアでは白パンと共に食卓に欠かせない主食なんだぞ。私はこっちの方が好きだ」

 ミコを食器代わりに味わってると、クラウディアは今日も良く食ってた。

「……本物のおにくたべたい」

 ニクも隣でもくもく食べてる。しかし人工肉にはそろそろ飽きたご様子だ。
 それならと荷物から干し肉を取り出すと食いついた。プレートに移してやった。

「それにしても便利なもんだ、野外で充実した朝飯が食えるなんて」

 俺は焼かれたジャガイモをざくざく切りながら後ろを見た。
 休んだ『ツチグモ』の姿はこうして良い暮らしを提供してくれてる。

「すごいのは内装だけじゃないさ、そもそもこいつは水で走るんだからね」

 頼もしい大きさを見てると、急にヌイスがそう言ってくる。
 水? 車が水で走るっていうのか?

「……今とんでもないワードを聞いたな、こいつが水で走るって?」
『水で走るの、これ……!?』
「きれいな水や塩水を水素に変換して、それをシリコン触媒やらと反応させてエネルギーを得るのさ。ニシズミ社の誇る最先端技術だよ、これは」
「つまりどういうことだ」
「分かりやすく言うとすごいってことだよ」
「かみ砕いてくれてありがとうヌイス」
「お礼は女装でいいよ」
『なんでさらっと女装頼んじゃうんですか……』

 しかも続く言葉もとんでもなかった、主に俺が理解できないほどの複雑さで。
 こんな大層なものをくれたニシズミ社はいったい何を考えてたんだろうか。

「そんなすごいものをくれるなんて太っ腹っすね~」

 目の前の車体が信じがたいものに感じてきたところで、にゅっと窓からロアベアの生首が出てきた。
 はしたないからやめなさいと引っ込ませると。

「あの企業がこんなものを気軽にくれるということは相当なものだよ。おそらく彼らにとってよほどの利益があったんだろうね、ブルヘッドの一件は」
「あれがか?」
「うん」

 ヌイスは甘ったるそうな紅茶をすすりながらそう教えてくれた。
 一口で美味しそうに飲み干すと、口元をぺろりとしながら。

「考えてみたまえよ、あれで競合企業のウォーカーよりも優れてることが都市全体に証明されて、ライバル企業の製品の弱点も見つかって、しかも彼らの無念を晴らしてくれたんだからね。山積みの課題が一夜にして解決、今頃君は金の卵を山ほど産み落としてくれたガチョウか何かと思われてるさ」
「そんなつもりはなかったんだけどな」
「君にその気がなくても彼らからすれば感謝しかないだろうね」

 とてもすました顔でそう口にした。俺の功績ってことらしい。
 そこにガチなガチョウが「HONK!」と人の黒パンを見上げてきた。
 ちぎってくれてやった。がつがつ食い始めると。

「ラーベ社も気の毒なものだな。今までのツケが回ったというべきかもしれんが」

 日陰に籠ってじめじめ朝食中のクリューサが鼻で笑ってた。
 寝すぎて気分が悪そうだが、ラーベ社の辿った末路に少しいい顔だ。

「じゃあ、あの件で一番得をしたのはニシズミの方々ってことか?」
「押さえつけられた分跳ね返りがきただけさ。デュオ社長はこれを機に一部の事業をニシズミ社と提携するとか言ってたよ、まったく君はとんでもないことをしてくれたね」
『ニシズミの人達、いちクンのおかげで助かったのかな……?』
「うん、ずっとラーベ社にいじめられてたからね。ブルヘッドはこれからクリーンな環境で育っていくと思うよ」

 俺はデュオの賭けに応えてやれたんだろうか、いや、そうに違いない。
 いい顔して賞金額を突き出してやった社長が今も元気にやってるはずだ。
 その証拠に車内からはいい音楽が流れてる。エルドリーチが司るチャンネルからの贈り物だ。

「フハハ、おかげで北は幾分か平和になったようだな?」

 お行儀よく朝食を食べてたノルベルトも満足そうだ。
 いい顔はあの壁がある方向を見てる。ラーベ社のビルも見えないほど遠ざかったが、あそこから刺客が送られることはもうない。

「人の首に高い金がまとわりつくのはもう人生一回分経験したからな、お腹いっぱいだ。どうしてこう俺はずっと狙われてばっかなのか……」

 残った黒パンを一気に口に放り込もうとした、その時だ。
 ざっ、と小さな足音が耳に伝わる。
 すぐに周りの奴らも気づいたようだ、街の方向へと反射的に向けば。

「……ばうっ」

 犬がいた。
 ただの犬じゃない。倒れた耳に筋肉質な赤褐色の身体という屈強なものだ。
 いきなりのお客様になんだとみんなで目を向けると。

「……ピットブルだと? なんでこんな場所にこんな大層な犬がいるんだ?」

 先に声を上げたのはお医者様だ。
 ピットブル。馴染みのない言葉だが、自由にそこらを歩き回らない方がいい犬ってことは伝わった。

「クリューサ、そのピットブルってなんだ」
「戦闘用の犬だ。獰猛すぎて人間の手に余るといえば分かるか?」
「説明どうも。で、どうしてそんなのがいるんだ」
『い、いちクン……この犬、ちょっと怖いよ……!?』

 その物言い通りだった、ピットブルは鋭い目でこっちを見てくる。
 姿も訝しむようなものだ。ジャーマンシェパードとは違う強そうな体格が近づく。

「お、おい、なんかこっちに来てないか……?」
「気を付けろ。そいつはただの犬じゃないぞ、落ち着いて武器を抜け」

 更に接近された。物動じない足取りに、思わずクリューサの言葉通りに手が伸びる。
 そんないかつい犬はじろっとこっちを見上げてきて――

「ばぅん」

 首をかしげながらこっちにすり寄ってきた。
 どういうことだろう、尻尾もふって優しくこっちを見上げてる。

「……戦闘用の犬がなんだって?」
『……あ、甘えてる、のかな……?』
「……どういうことだ、ピットブルが初対面の人間にこんな態度を取るなんて信じられないぞ」

 マッシブな犬はひんひんいいながら上目遣いだ。
 どうしたんだろうこいつ。目の前のでかいわんこに困ってると。

「もしかして……!」

 そんな時だ、ニクが立ち上がったのは。
 耳もピンと立てて向かうと、強そうな犬は目をまん丸に開いて。

「わうっ!」

 どうしたんだろう、ニクを目に親しそうに吠えた。
 次第にくるくるとその周囲を回るとしたっとお座りだ。

「……ぼくだよ、分かる?」
「ばうっ」
「うん、久しぶり。そっか……」

 もっと妙なのは、そんなお利口さんとわん娘が話してるってことである。
 いきなりそんなものを見せられてみんな等しく呆気にとられたのは言うまでもない。

「わうっ!」

 そしてピットブルは人懐っこいままこっちに寄ってきた。
 とりあえず頭を撫でてやった。嬉しそうな息遣いだ。

「ニク、どうしたんだ? まさか犬と話しができるとか言わないよな?」
「ん、喋れるよ」
「マジかよ……」
『ニクちゃん、犬とお話ができたんだ……!?』

 ここで驚くべき特技が判明した、犬と対話ができるそうだ。
 ニクはしゃがんで他所の犬と顔を並べると。

「ご主人、この子は昔一緒に過ごした友達だよ。ここは僕の故郷だったみたい」

 ダウナーな顔でそういってきたのだ。
 そうか、ここがあの時言ってたニクの生まれた場所ってことか。

「ここがそうだったのか。てことはニク、お前の育ての親は……」
『おじいちゃん、っていう人に会えるのかな……?』

 つまりあの時言ってた「おじいちゃん」と会う機会ができたわけだ。
 一度どんな奴かあって見たかったところだ、朝飯食ってる場合じゃねえ。

「ばぅん」

 ところが、朝飯をかっこんだ矢先に不景気な犬の鳴き声が挟まる。
 あのピットブルは寂しそうな表情だった。
 それだけならまだしも――

「……うん」

 ニクは明らかに顔が曇ってた。
 ダウナーなつくりが悲しそうな、落ち込んだような、そんな感じだった。
 嫌な予感がしたのは言うまでもないさ。耳も倒れてるのだから。

 それは長らく共にしてきた俺たちにとって「良からぬ知らせ」だ。
 朝食の場に相応しくない事実が既に目の前まで来てしまってる。

「ここにいるのか?」

 でも俺はどっちかの犬にそう尋ねた。
 少し間があった。けれども強そうな犬が「わうっ」と力強く吠えてくれた。
 やっぱりニクは無言だ。無言で目も伏せてしまってる。

「……分かった。行くぞばうわう、案内してくれ」
「ばうっ」

 恐らく、きっと、いや、そんな考えは持たないでおこう。
 しょんぼりするニクの代わりに、ばうわう(仮名)に道案内を頼んだ。
 『また変な名前つけてる……』と肩からじとっとした声が飛んだのは言うまでもない。


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