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広い世界の短い旅路
機械の終わりは危険の終わり (01/20修正)
しおりを挟む いったんニクやロアベアを民間人の方へ向かわせてから進軍した。
北ではなく西の方から盛大な戦闘の音が立っていた。間違いなくそこに戦力が集中してる。
『再集合、再集合!』
『守りを固めろ! 浸透しろ!』
無人エグゾが集まった交差点にとうとう差し掛かる。
北の方から増援も来ているところでもあった。妙に車高の低い戦車だ。
八輪の大きなタイヤでゆっくり進むそれは、車体上の砲塔と前方に向けた二問の銃座で敵を探っており。
『――射殺目標を確認! 火力を投射せよ、殺せ、殺せ!』
そいつはテュマーらしい電子音声と砲塔をくるっと合わせてきた。
ずどっと突き上げるような砲声――道端の車が爆発した。
無人外骨格からグレネード弾も飛んできた、五十口径も混じって数多の衝撃が身に襲い掛かる。
「ラーベ社の戦車じゃねえかありゃ!? 何がどうなってんだよぉイチ!?」
「拾ったAI複製して詰め込んだら自慢の商品が暴走してるんだとさ!」
タロン上等兵と車の陰に滑り込んだ、後続の北部部隊の誰かが吹き飛ぶ。
そこへノルベルトがそこらの車をひっくり返して盾にしてくれたらしい、五十口径で援護に乗り出す。
「ラザロ! 戦車まできやがったぞ! 車高が低くて機銃が二門ついてる!」
『ミトラ・タンクだ! あいつらの戦車だけど本来は無人兵器じゃない、無理矢理改造したものだ!』
「んなもん無人兵器にしやがって! おかげで大変迷惑だぞ!?」
機関銃と主砲を撃ちまくるせいで一面が滅茶苦茶だ。
ふと砲塔と顔が合う。無人と思しき戦車がこっちを見て――まずい!
誰かさんの自家用車が爆発でふらりと持ち上がった。エグゾ越しに来る爆圧に背を蹴られる。
「うおマジかクソクソクソッ!?」
『ひああああああああっ……!?』
「っざけんなァァァッ!? 企業戦争でもおっ始めやがったのかァ!?」
たまらず二人で逃げる、なけなしの81㎜手榴弾に手をかけた。
合図の余裕もないまま放り投げて走った。銃弾砲弾漂う道路を下がっていく。
*zZBaaaaaaaaaaaaaaaM!*
攻撃が一瞬止んだ、けれども応射がすぐ後ろをえぐる。
走りつつ確かめれば外骨格たちは機敏に動いてた。あの爆発を避けたのだ。
「タロンとストレンジャーを援護しろ! 急げ急げ急げ!」
「あいつらこっちの攻撃を避けてやがるぞ!? 中に誰乗ってんだ!?」
「あれは人工知能搭載のエグゾだ、諸君! 街のルール破って作ったのが暴れてるみたいだぜ!」
幸いフォローしてくれる奴らがいた。後ろのレンジャーとデュオたちだ。
五十口径の援護のもとトラックに転ぶように隠れる、敵の動きが全然違うぞ。
『AIが馴染むっていうのは本当らしいね! 動きが機敏になってる!』
そこへエミリオの声がした。
敵の方角、頭上からばしゅっとスティレットの発射音もおまけだ。
建物の上からぶっ放してくれたようだが、狙われた戦車は当たるかという寸前で急後退して回避。
『伏兵を感知。迎撃システム作動』
そしてお返しとばかりに二問の銃座が通りの屋上という屋上を薙ぎ払う。
「ひぃっ!?」というエミリオの悲鳴からして被害は免れたんだろう。
次弾を控えた砲塔がこっちを向いた瞬間でもあった、慌てて身体をひっこめるも。
『あいつら戦車も無人兵器化しようとしてやがったのか、イカれ野郎どもめ!』
その反対側の建物から人の姿が現れた。ボレアスだった。
牽制射撃だ、身を出して撃つ。五十口径が無人兵器どもに当たって気を引いた。
そこから誰かのスティレット発射器の射出音もまた一つ挟まるが。
*dDODODODODODODODODODOMm!*
頭上を警戒していた銃座がいきなりどこかを撃ち始めた。
ボレアスの方に撃ちまくった? 違う、射角はもっと上だ。
すると空中がいきなり爆ぜた。無人戦車は煙の中で無傷のままで――まさか。
「あの戦車、今スティレットを撃ち落としやがったな……」
そこへ砲弾が唸った。吹っ飛ぶ車の陰からデュオが逃げてきた。
あの戦車め、機銃でランチャーを撃ち落としやがったぞ。
ラザロの言う通りとんでもない方向性へ進化してやがる、冗談じゃねえ。
「つまりこういうことですかい!? 奴さんらは無人兵器を勝手に作って、そいつが壁の中で悪さして、ついでに自社製品に広まってパレード始めちゃってますよ、と!」
タロン上等兵が立ち上がった。肩のミサイル・ポッドも持ち上がる。
援護のタイミングだ。五十口径と半身を出して敵にばら撒く、敵の攻撃を阻止。
我ながらいい具合だ。50㎜弾がばしゅしゅしゅっ、といい音を立ててぶちまけられ。
*zzzzZZZZbbbbBAAAAAAAAAAAAAAAMMMM!*
向こうの景色で一際派手な爆発が敵をぶっ飛ばす!
暖かい気持ちになる光景だ、遮蔽物ごと大量の鉄くずが立ち上がった。
「援護どうも! でも悪い知らせだ、自慢のランチャーが品切れしちまった!」
「予備のロケット弾はないのか!?」
「ねえよンなもん! こいつに50㎜ぶら下げて動いたらいい的だろ!?」
タロン上等兵は飾りになったランチャーと仲良く戻ってきた。
ちらっと見れば無人の戦車と外骨格が通りのど真ん中でまだ仲良くやってる。
手投げ迫撃砲弾は一発、スティレットが二本……さてどうする。
『ストレンジャー、聞こえるか? そこの品のない戦車をもっと街の方へ引きずり出してくれ、具体的に言えばヴァルハラから見える場所までだ』
そんな考えの最中にあのいい声が耳に届く。ダネル少尉の声だった。
すぐ理解した。戦車は北からの道路寄り、ヴァルハラ・ビルディングとの距離感を確かめるに射線が通らない位置にあったからだ。
「ノルベルト! ダネル少尉のためにあの戦車を南側に引きずり出すぞ!」
「おお、ダネル殿も来てくれたのか! よかろう!」
「スティレットだ! 当たらなくていいから側面後方狙え!」
なら一仕事やってもらうべきだ、俺は離れた場所のオーガに合図を送った。
スティレットの発射器を抜いて顔を合わせる――いけるな。
相手が姿を出した。やや斜めにこちらを向く『ミトラ』の尻を狙って撃つ。
*Basshmmmmmm!*
二人分の擲弾がすっ飛んだ。慌ただしく動く銃座が空をどどどどっと穿つ。
一発弾けて空で派手に弾けた。しかし迎撃の限界が来てた戦車は慌てて南下してきて。
――か゛んっ!
その光景に不思議な青い火花が散った。
スティングで見たミスリル弾と同じ現象だ。砲塔の根元を叩かれたそれは一瞬動きを止めるも。
『ひひひひひひ被弾っ、エラー、予測不可能な事態にそなえそ――』
ぼんっ、と砲塔が弾けた。
戦車として価値を損ねたそれは火柱と共に沈黙、戦線に大きな穴が空いた。
「――おいおい、ミスリル弾かよ」
あの弾の恐ろしさが分かるデュオが装甲の中で笑ってた、怖い爺さんどもめ。
反撃のチャンスだ、俺は迫撃砲弾を抜いて。
「ダネル少尉に感謝しろ! お礼にぶち壊せ!」
「うちの少尉何使ったんだよ今!? 戦車ぶち抜きやがったぞ!?」
「フーッハッハッハ! 反撃だ! ゆけゆけェ!」
ピンを抜いて放り投げた。勢いを削がれた無人エグゾがすぐ吹っ飛ぶ。
車の陰から飛び出して走る、ノルベルトも並走して二人で突っ込む。
『警戒! 警戒! 予測不能な攻撃を感知!』
『後退! 戦力を再――』
爆炎を突っ切った先は『詰んだ』外骨格どもだ。
目の前にいた一体の顔面を銃口で殴った。がんっと地面に縫い付けて。
「待っててくれてどうも、こいつも予測できたか?」
ご丁重に尋ねた、じたばた暴れる前にトリガを絞る。
*DODODODODODODODOM!*
重要な機器がありそうなそこをぶち抜くと震えて停止、次の敵に構えた。
隣でノルベルトが戦槌で一体引き倒した、その向こうで構える相手に撃つも。
がちっ。
くそ、弾切れだ。予備の弾倉もない。
それならこうだ――エグゾ用の形をした五十口径をぶん投げる。
『撤退! てった』
その先にいた骨格が揺らいだ、顔面に命中だ。
踏み込んだ。持ち上がるグレネードの砲身を掴んでぶちあたる。
装甲同士をぶつけあいはこっちの勝利だ、馬乗りになってセンサーいっぱいの顔に拳を落とす。
「っておい前! ウォーカー来てやがんぞ!?」
無人エグゾをぶち壊したところにデュオの警告が伝わる。
通りの奥からだ。四足のウォーカーがぎくしゃくと害虫のごとく走ってきた。
どう見ても最初に見た頃よりも動きが早い――そう思った矢先。
*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOM!*
遠くでぴたりと停止、無人の車に足を隠しつつ機関砲をぶっ放してくる。
咄嗟にさっき倒した無人機を盾にした、何発か喰らって足が重く踊る。
「人に機関砲向けやがってくそっ……!」
『ひゃあああぁぁぁっ……!?』
もうエグゾで転ぶのはこりごりだ、鉄の盾を投げ捨てて走り出す。
機銃もがりがり当たってエグゾが悲鳴を上げた。足も錆びたように重い。
『おい! 射線あけんかお主ら! ドワーフのお通りじゃオラァッ!』
そんなところに気合の入った声がした、ドワーフの低くて盛大なものだ。
戦いの場にぎゅりぎゅりと良く知る音がしたかと思えば。
『補給物資配達じゃ野郎ども! ついでに武器の試し撃ちってなァ!』
俺たちの後ろから『ハックソウ』が追いかけてきたのだった。
ドワーフどもを乗せた履帯つきの車は残骸すら登って突っ込んでいくと、今こまさに構えるウォーカーに向かって。
「停車しろ停車! 狙い定まらんから!」
「装填よし! 撃て撃て撃て!」
「胴体ど真ん中狙えよ! 行け!」
騒がしい様子を荷台で繰り広げつつ、そこに乗せられた何かを向けた。
三脚で固定された――銃いや大砲か、デカい得物を『パウーク』に合わせ。
*zZZBAM!*
車体がぐらぐら揺れるほどの射撃が始まった。
音からして20㎜だ。その質量が向かう先、四足のウォーカーに派手な青が散る。
そして遅れて爆発した。立ち上がる炎を白旗がわりに地に伏せていく。
「っしゃあああぁぁ! 効いたぞ! 一撃必殺じゃこれ!」
「キルマークつけとけ! 三つ目じゃからな!?」
……ドワーフの爺さんたちはなんとも危機感のないまま走ってきた。
突然の小さな髭面に北部部隊もひどく戸惑ってる。
「援護どうも、爺さんども。その素敵な武器はなんだ?」
駆けつけてくれたハックソウに一礼した。ドワーフはしてやったような笑顔だ。
すると硝煙がまだ続く荷台の『砲』を撫でながら。
「これか? これね、ゴーレムの機関砲いじって作った対戦車砲」
「ミスリル徹甲弾じゃ、やべえぞこれ」
「今度は貫通したら爆発すんぞ、飛ぶぞ。つかもうでけえの三機やったわ」
良く分かる説明をしてくれた。まーたすごいの作ってやがる。
「頼もしい援護をありがとう。ミスリル大盤振る舞いだな爺さんども」
「リソースってのはこういう時に惜しげもなく使うもんじゃよ。ほれ早く補給せんか」
「我が社もおたくらのおかげで二歩先を行けそうだぜ、なんたって新商品がさっそくイカした使い方されてるんだからな」
武器満載のハックソウが俺たちめがけてバックしてきた。
荷台には替えの重突撃銃やら弾倉やら、果てには見たことのない銃まである。
「おいおい……ドワーフだ、マジモンのドワーフが戦車乗ってやがるぜ」
「ブルヘッドには指輪なんてないぜ、言っとくが――いやなんだこの武器初めて見るぞ!?」
「ストレンジャー、お前の人脈の広さには驚くばかりだ。無節操というか分け隔てないというか、まあおかげで助かってる」
そんなものを持ってけと突きつけられた北部部隊の面々は困惑してる。
無理もないと思う。エグズサイズの初めて見る獲物が山積みなのだ。
「おお、なんだこれは? 爺様どもが作った得物か?」
ノルベルトが気にかけたそれとかがいい例だった。
どう見ても二十ミリクラスの通り道がある『携帯する大砲』みたいなブツだ。
弾倉すら横から生えてるそれは、もはやエグゾかそれの匹敵する存在以外に持つ資格はないとばかりの重量感があった。
「急ごしらえで作った二十ミリの手持ち銃だ、持ってけイチ!」
「ご親切にどうも、試し撃ちは済んでるよな?」
「お前さんの第一射目次第じゃな、まあ暴発せんだろ大丈夫大丈夫」
「祈れってか。素晴らしい武器をありがとう、今のが皮肉にならないことを祈ってくれ」
そしてご指名は俺だ、こんなん使えと。
ありがたくいただいた。照準や肩当ての銃床が「こいつで戦え」と訴えてる。
「早くもってかんかお主ら! わしら支援と補給並行しとるから!」
「50㎜ロケットあるか爺ちゃん!?」
「いっぱいあるぞ! 持ってきすぎんなよ!」
荷台からどんどん武器が下ろされていく。
レンジャーどもは戸惑い半分のまま装備を整えたようだ。
砲身が二問あるロケットランチャー、巨大弾倉を突っ込まれた40㎜擲弾発射機、死を振りまくよりどりみどりだ。
文字通り『いっぱい』武器が配られると。
「よっしゃ! ニシズミの方行ってちょっと狩るか!」
「ネズミ狩りじゃ! いくぞ!」
「南西向かうぞ! 弾詰めとけよ!」
爺さんたちはハックソウを唸らせてとても陽気に行ってしまった。
きっと帰ってくる頃には砲身のキル数も増えてる事だろう。
「デュオ少佐殿、いつの間にブルヘッドはこんな技術革新されたんで? 見たことねえですぜこんな武器の数々」
タロン上等兵も引くほどの充実具合だ、降ろしたランチャーに50㎜弾を満載しながら現実を疑ってる。
「フランメリアの賜物ってやつさ、おめーら全員大丈夫だな?」
「そりゃもちろん、もっと殺せますぜ」
「エグゾのサーボが少しおかしいですがやれます」
「そろそろこの服を脱いで一服したいところです、ところでうちら危険任務手当はちゃんと貰えるんでしょうね?」
他の連中も武器弾薬に幸せそうだ、ニクとロアベアがうまくやってることを願って先へ進んだ。
◇
敵を求めて西への道を進めば、繁華街の様子に踏み込んだ。
あたり一面には戦いの痕が今なお増えつつある激戦区ってやつだ。
逃げ戸惑う民間人はゼロ、見捨てられた車が散らばり、破壊された建物が景観を損ねてるのだが。
「どきなぁッ! ドラゴンブレスはいりまああああああああああああああす!」
そんなところにいたのはフランメリアの連中だ。
フェルナーがいた。竜の羽で着地を決めた直後、向こうで固まるエグゾの群れに身構える。
かと思いきや、ふと鋭く息を吐いて――いきなり真っ赤な炎が空気を伝った。
火炎放射器以上の火力が街中を覆った。外骨格が立ち往生してフリーズする。
「馬鹿かお前は!? 街中で炎を使うなと言ってるだろう!?」
そこへ褐色蜥蜴の姿が剣を抜いた、アストヴィントだ。
バケツ頭のウォーカーに迫る。撃たれようとも軽やかな足取りで近づく。
そして足を一太刀のもと叩き切った。ごきんと鈍く切断される。
仰向けに倒れた姿に追撃、首元めがけて剣先を捻じり込んで確実に破壊した。
「……あー、なんだありゃ」
いきなりそんなのを見かけたタロン上等兵はただ絶句だ。
無理もない、フランメリア人がエグゾ以上に大暴れして破壊を振りまいてるのだから。
「あんだけ騒がしいと思ったらこいつらが原因か」
『……うん、納得しちゃったよ』
「お前あれも知り合いとか言わねえよな? 心配になってきたぞ俺」
「みんなお友達だぞ。文句あるのか?」
曲がり角からずんずんとウォーカーの足並みも届いた、パウークとルツァリだ。
それに敵のエグゾも守るように随伴してて、増援部隊だとすぐ分かった。
「お前のお友達ってのは火を吐いて生身でウォーカーぶったぎるんだな? 友人選びのチョイス最高だな、ええ?」
「味方なのは間違いないからな、ミュータントと間違えるなよ」
「ウェイストランドの生態系がぶち壊れてる気がするぜ、そんじゃ……」
しかし俺たちはエグゾ乗りだ、すぐに攻撃に移る。
ロケット持ちの上等兵が50㎜弾を敵に送った。突然の爆撃に敵は散り散りだ。
「俺たちも混ざるか! 今日はロケット大盤振る舞いだぜお客様!」
「あいつらに動き合わせるぞ、フランメリア人が暴れてる限りは安全地帯だ」
50㎜の掃射をきっかけに食いつくことにした、二十ミリ砲を抱えて突っ込む。
立ち往生する無人外骨格を発見、アスファルトをがっしり踏んでトリガを引く。
*ZZBAAAAAAM!*
エグゾ越しだっていうのにひどい反動だ。
どうにか姿勢を保ったまま見届ければ、無人エグゾが跳ねるように転倒していた。
北部部隊の面々も配られた武器を(多少戸惑いのまま)向けてぶっ放す。
ロケット弾や40㎜のグレネードが無人兵器の足元をさらっていくのが見えた。
「……なんだこの武器、妙に当たるぞ」
「おい、これキーロウに持って帰ろうぜ。うちの整備班喜ぶぞ」
さすがの屈強なレンジャーどもも引くほどの性能だ。
そこへがんっ、と迫撃砲も混じる。ウォーカーの足元が救われてよろめく。
「フハハハハハ! フランメリアの者どもが暴れているな、俺様たちも早くしないと乗り遅れるぞ!」
ノルベルトが砲撃したらしい、敵の勢いが今まさに削がれてる。
視線で合図した。やるか、相棒。
「スティングじゃ世話になってばっかだったしな――やるか?」
「――やるぞ。さあ大物狩りとしゃれ込もうではないか!」
崩れた陣形に向かってダッシュ、手持ち砲を掲げながら迫った。
よっぽど近づかれるのが嫌なのかウォーカーの機関砲が唸る。
何発か貰った、肩のあたりがぎしっと悲鳴を上げてしまう。
『――異常存在を検知! 対応せよ! 対応っ』
だが間に合った、そこは『ルツァリ』の懐だ。
腕を持ち上げるが重い、構わず砲口を後ずさる胴体に上げて。
*zZBAAAAAAAAAAM!*
撃った。腰の上からエグゾがびくつく、反動で足が後ろに下がる。
構わずもう一発、更に一発、まだ一発、ずばずばと撃ちまくると。
「慣れてしまえば可愛いものよ! 永遠の暇をもらうとよい、ゴーレムよ!」
もう一体の処理はオーガがやってくれたようだ。
蜘蛛さながらの姿に潜り込んで、81㎜の砲身を腹に押し付け――ゼロ距離射撃。
ごがんとひどい音がした。迫撃砲サイズの徹甲弾でもぶち込んだか。
『きけっ、危険因子ししししししあががががっ?』
そいつは機械らしく動きを停めた。仕上げに太い腕が穴をえぐってトドメだ。
これで大体の増援部隊は片付いたようだ。エグゾ越しにハイタッチ。
「よし、今日は絶好調だな」
「うむ、今宵も徳を良く積んだな」
そうやって片づけて通りの様子を確かめようとした時だ。
エグゾがねじれるような衝撃が走った。いきなりの一撃に身体が持ってかれる。
気づいたノルベルトも覆いかぶさった爆発に吹っ飛んだ――おいまさか。
「あーやっべ前言撤回だクソッ……!?」
振り向く、北の方だ。
いや見るべきじゃなかった。バケツ頭の群れがこっちに押し寄せていた。
そこにまた一撃、エグゾのどこかがひん曲げられてががっと嫌な駆動音が響く。
腕が、いや足が動かない。ぶっ壊れやがったか。
「畜生動かないぞ!? 駆動部やられたか!?」
『え、エグゾが壊れちゃった……!?』
幸いにもアフターケアはやってくれるらしい、根を上げた装甲が背で開く。
ノルベルトも「ぐむう……!?」とよろめき起き上がってる、急いで抜け出した。
「ストレンジャー! 早く逃げろ!」
タロン上等兵の呼び声がした、簡単に言いやがって。
背後の抜け殻が砲弾で叩き折られるのを感じた。
オーガにまたグレネード弾が炸裂、ごろっと巨体が倒れる――待ってろ相棒。
「ミコ! 回収!」
『は、はいっ!』
手近な遮蔽物を探した、倒れたセキュリティのバンを発見。
装甲の剥がれ落ちたエグゾから荷物をひったくって滑り転がる。
落ちて来た銃弾が狙われてる証拠を突き付けてきた。どうにか逃れて短剣を抜き。
『ショート・コーリング!』
相棒の引き寄せの魔法を頼って倒れたノルベルトを無事回収だ。
どうにか身を隠せたがなんだあの量は、どうしろっていうんだ。
北部部隊と無人兵器軍団の割に合わない撃ち合いが始まる中、その場に取り残されてしまうも。
「――お困りのようですねー、大丈夫ですか?」
どこから空気を読まないような女性の声が混ざってしまった。
まさかと辿れば、絶賛フランメリア人暴走中の方向からシスター服が来ていた。
悪魔っぽい姿は相変わらずだが――いや待て、なんだあれ。
「……あー、それなんだ? 新しいファッション?」
『け、剣が浮いてる……!?』
ミコが言う通りだ、そいつの周りを巨大な剣が何本も浮いていた。
まるで魔剣さながらに虚空を彷徨ってるが、持ち主はペットの犬でも連れてきたような感覚でふらふらやってくる。
「おい、なんだあの剣はべらせた姉ちゃん!? 何してるかわからねーがこっちにくんなあぶねえぞ!?」
タロン上等兵が悲鳴めいた声でそう頼むのも無理もない。
ところが、だ。
――がきんっ!
激しさたっぷりの金属音が彼女の回りから響いた。
それも一度じゃない、続けざまに何度も何度もだ。
そのたびに剣が機敏に動き回り、足元に尖りのあるものがごろごろ落ちた。
「この辺りは私にお任せください、すぐ片づけますのでー」
そこでようやく分かった、この剣は敵の弾を叩き落としてるのだと。
50口径か、25㎜か、それ以上か、独りでに踊る刃物はすべてを迎え撃っていた。
悪魔のシスターという矛盾した姿は敵へとにっこり堂々と向かっていき。
「行けッ! 我が魔剣! なんかこう……綺麗にしてきなさい!」
ものすごくふわっとした物言いを告げると、取り巻く青色の剣どもがすっ飛ぶ。
向けられる砲弾を叩き落とすのが音で伝わった。そこらにころころ鉄くずが転がる。
攻撃が通用しない悪魔のお姉さんに機械どもは『引くか引かまいか』を漂うほどで。
『火力を集中せよ! 火力ッッッッ』
その先頭にいたバケツ頭の電子音声がぶつっと途切れた。
いや、空踊る剣で身体が散らばった。胴体も手足もばらばらだ。
巨大な人体が転がれば、周囲の無人兵器も次々と同じ現象に見舞われ。
『撤退! 撤退! 想定外の戦力を検ちちちちちちち』
『異常存在を確認! 再集合! さいっ』
シスター姿を取り巻く六本もの剣が手当たり次第に切り刻んでいく。
まるでバターでも切り裂くような、そんな感覚でだ。
結果として一瞬で敵は壊滅だ。ふよふよ飛び回る剣はご機嫌そうに上下してる。
「終わりましたよ皆さま、このあたり一面の制圧は我々にお任せをー」
にっこり笑顔でシスターさんが帰ってきた。なんだこいつは。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお退けェエエエエエエッ!」
そんなところに横から雄たけび、甲冑の出で立ちが何かを突き飛ばしてくる。
突進を食らって宙高く吹っ飛んできた『パウーク』だった。
四つ足を掲げるようにずしんと倒れ込むと、そこにレイナスが馬乗りになって胴体をタコ殴りにした――屑鉄の完成だ。
「……なあストレンジャー、なんでこいつら生身で無人兵器ぶっ壊してんの? 俺夢でも見てんのか?」
「悪夢じゃないのは確かだ、あいつらとは仲良くした方がいいぞ」
『……元魔王だけあって本当に強いんだね、あの人たち……』
「おおそうか、魔王の者たちだったのか。ならばあれほど強いのも頷けるぞ」
「ボスがお前の交友関係に不満そうだったが、今度は魔王とお友達になったのか? お前といると人脈に困らなさそうだなぁ」
すさまじい火力で一掃された様子にみんなで呆れてると。
「ご主人! 大丈夫!?」
「イチ様ぁ、ご無事っすか~……ってなんかすっごいバラバラになってるっすよ、なんすかこれ」
「フランメリア人パワーでどうにかなったところだ、ついでに俺のエグゾもバラバラだ」
別行動中だったニクとロアベアがやってきた。
南側はだいぶ騒ぎが収まってきてる。これで大体はやったか?
――まあ、そう思ってるときに限って『NO』だ。
更に西から北から、知らない砲声と悲鳴が響いた。細かい銃声もついてきた。
俺たちに分かるのはブルヘッドのどこかがますますひどくなったことぐらいだ。
「おい、大丈夫かよイチ? 怪我はねえか?」
街の現在に目と耳を立ててるとデュオが心配してきた。
見比べる対象は破壊されて横たわるエグゾアーマー、本人はご存じの通り元気だ。
「せっかくのエグゾがやられて心苦しい感じだ」
「お前の命に比べりゃ安いもんだろ? しかし一体どんだけいるんだって話だが」
「今は数を考えない方がいいだろうな、努力の甲斐あって敵の戦力をせっせと削いでるのは確かだ」
「おいおい、俺から見れば「こんなに倒したのにまだいっぱい!」だぜ?」
大丈夫だ、と身体の丈夫さをアピールした。ついでに荷物が無事なのも。
ひとまず制圧した場所で全員の安否を確かめてると。
「……まずいことになったぞ!」
実に嫌なタイミングでクラウディアがしたっと着地しにきた。
降ってきた表情から余裕を奪うほどの何かがあるらしいが。
「デュオ、もっとまずいことになってるらしいぞ」
「これ以上悪いニュースなんてごめんだぜ? 今度はなんだ? 無人兵器が人間捕まえて食っちまってるとか言わないでくれよ」
「それか市民の皆様がテュマーに変えられたとかじゃないよな」
「違う、すごく巨大なゴーレムが歩いてるぞ! とにかくすごいんだ!」
俺たちのもとにくるなり、語彙力はともかくヤバイと伝えようとしてる。
現状が一層悪くなるような知らせは最悪だ、もっと言うなら――。
……ずずん。
そんな明らかに質の違う重みが、北の方から聞こえたってことだ。
ウォーカーの足音にしちゃデカすぎるし重すぎる。一体何が来やがった。
◇
北ではなく西の方から盛大な戦闘の音が立っていた。間違いなくそこに戦力が集中してる。
『再集合、再集合!』
『守りを固めろ! 浸透しろ!』
無人エグゾが集まった交差点にとうとう差し掛かる。
北の方から増援も来ているところでもあった。妙に車高の低い戦車だ。
八輪の大きなタイヤでゆっくり進むそれは、車体上の砲塔と前方に向けた二問の銃座で敵を探っており。
『――射殺目標を確認! 火力を投射せよ、殺せ、殺せ!』
そいつはテュマーらしい電子音声と砲塔をくるっと合わせてきた。
ずどっと突き上げるような砲声――道端の車が爆発した。
無人外骨格からグレネード弾も飛んできた、五十口径も混じって数多の衝撃が身に襲い掛かる。
「ラーベ社の戦車じゃねえかありゃ!? 何がどうなってんだよぉイチ!?」
「拾ったAI複製して詰め込んだら自慢の商品が暴走してるんだとさ!」
タロン上等兵と車の陰に滑り込んだ、後続の北部部隊の誰かが吹き飛ぶ。
そこへノルベルトがそこらの車をひっくり返して盾にしてくれたらしい、五十口径で援護に乗り出す。
「ラザロ! 戦車まできやがったぞ! 車高が低くて機銃が二門ついてる!」
『ミトラ・タンクだ! あいつらの戦車だけど本来は無人兵器じゃない、無理矢理改造したものだ!』
「んなもん無人兵器にしやがって! おかげで大変迷惑だぞ!?」
機関銃と主砲を撃ちまくるせいで一面が滅茶苦茶だ。
ふと砲塔と顔が合う。無人と思しき戦車がこっちを見て――まずい!
誰かさんの自家用車が爆発でふらりと持ち上がった。エグゾ越しに来る爆圧に背を蹴られる。
「うおマジかクソクソクソッ!?」
『ひああああああああっ……!?』
「っざけんなァァァッ!? 企業戦争でもおっ始めやがったのかァ!?」
たまらず二人で逃げる、なけなしの81㎜手榴弾に手をかけた。
合図の余裕もないまま放り投げて走った。銃弾砲弾漂う道路を下がっていく。
*zZBaaaaaaaaaaaaaaaM!*
攻撃が一瞬止んだ、けれども応射がすぐ後ろをえぐる。
走りつつ確かめれば外骨格たちは機敏に動いてた。あの爆発を避けたのだ。
「タロンとストレンジャーを援護しろ! 急げ急げ急げ!」
「あいつらこっちの攻撃を避けてやがるぞ!? 中に誰乗ってんだ!?」
「あれは人工知能搭載のエグゾだ、諸君! 街のルール破って作ったのが暴れてるみたいだぜ!」
幸いフォローしてくれる奴らがいた。後ろのレンジャーとデュオたちだ。
五十口径の援護のもとトラックに転ぶように隠れる、敵の動きが全然違うぞ。
『AIが馴染むっていうのは本当らしいね! 動きが機敏になってる!』
そこへエミリオの声がした。
敵の方角、頭上からばしゅっとスティレットの発射音もおまけだ。
建物の上からぶっ放してくれたようだが、狙われた戦車は当たるかという寸前で急後退して回避。
『伏兵を感知。迎撃システム作動』
そしてお返しとばかりに二問の銃座が通りの屋上という屋上を薙ぎ払う。
「ひぃっ!?」というエミリオの悲鳴からして被害は免れたんだろう。
次弾を控えた砲塔がこっちを向いた瞬間でもあった、慌てて身体をひっこめるも。
『あいつら戦車も無人兵器化しようとしてやがったのか、イカれ野郎どもめ!』
その反対側の建物から人の姿が現れた。ボレアスだった。
牽制射撃だ、身を出して撃つ。五十口径が無人兵器どもに当たって気を引いた。
そこから誰かのスティレット発射器の射出音もまた一つ挟まるが。
*dDODODODODODODODODODOMm!*
頭上を警戒していた銃座がいきなりどこかを撃ち始めた。
ボレアスの方に撃ちまくった? 違う、射角はもっと上だ。
すると空中がいきなり爆ぜた。無人戦車は煙の中で無傷のままで――まさか。
「あの戦車、今スティレットを撃ち落としやがったな……」
そこへ砲弾が唸った。吹っ飛ぶ車の陰からデュオが逃げてきた。
あの戦車め、機銃でランチャーを撃ち落としやがったぞ。
ラザロの言う通りとんでもない方向性へ進化してやがる、冗談じゃねえ。
「つまりこういうことですかい!? 奴さんらは無人兵器を勝手に作って、そいつが壁の中で悪さして、ついでに自社製品に広まってパレード始めちゃってますよ、と!」
タロン上等兵が立ち上がった。肩のミサイル・ポッドも持ち上がる。
援護のタイミングだ。五十口径と半身を出して敵にばら撒く、敵の攻撃を阻止。
我ながらいい具合だ。50㎜弾がばしゅしゅしゅっ、といい音を立ててぶちまけられ。
*zzzzZZZZbbbbBAAAAAAAAAAAAAAAMMMM!*
向こうの景色で一際派手な爆発が敵をぶっ飛ばす!
暖かい気持ちになる光景だ、遮蔽物ごと大量の鉄くずが立ち上がった。
「援護どうも! でも悪い知らせだ、自慢のランチャーが品切れしちまった!」
「予備のロケット弾はないのか!?」
「ねえよンなもん! こいつに50㎜ぶら下げて動いたらいい的だろ!?」
タロン上等兵は飾りになったランチャーと仲良く戻ってきた。
ちらっと見れば無人の戦車と外骨格が通りのど真ん中でまだ仲良くやってる。
手投げ迫撃砲弾は一発、スティレットが二本……さてどうする。
『ストレンジャー、聞こえるか? そこの品のない戦車をもっと街の方へ引きずり出してくれ、具体的に言えばヴァルハラから見える場所までだ』
そんな考えの最中にあのいい声が耳に届く。ダネル少尉の声だった。
すぐ理解した。戦車は北からの道路寄り、ヴァルハラ・ビルディングとの距離感を確かめるに射線が通らない位置にあったからだ。
「ノルベルト! ダネル少尉のためにあの戦車を南側に引きずり出すぞ!」
「おお、ダネル殿も来てくれたのか! よかろう!」
「スティレットだ! 当たらなくていいから側面後方狙え!」
なら一仕事やってもらうべきだ、俺は離れた場所のオーガに合図を送った。
スティレットの発射器を抜いて顔を合わせる――いけるな。
相手が姿を出した。やや斜めにこちらを向く『ミトラ』の尻を狙って撃つ。
*Basshmmmmmm!*
二人分の擲弾がすっ飛んだ。慌ただしく動く銃座が空をどどどどっと穿つ。
一発弾けて空で派手に弾けた。しかし迎撃の限界が来てた戦車は慌てて南下してきて。
――か゛んっ!
その光景に不思議な青い火花が散った。
スティングで見たミスリル弾と同じ現象だ。砲塔の根元を叩かれたそれは一瞬動きを止めるも。
『ひひひひひひ被弾っ、エラー、予測不可能な事態にそなえそ――』
ぼんっ、と砲塔が弾けた。
戦車として価値を損ねたそれは火柱と共に沈黙、戦線に大きな穴が空いた。
「――おいおい、ミスリル弾かよ」
あの弾の恐ろしさが分かるデュオが装甲の中で笑ってた、怖い爺さんどもめ。
反撃のチャンスだ、俺は迫撃砲弾を抜いて。
「ダネル少尉に感謝しろ! お礼にぶち壊せ!」
「うちの少尉何使ったんだよ今!? 戦車ぶち抜きやがったぞ!?」
「フーッハッハッハ! 反撃だ! ゆけゆけェ!」
ピンを抜いて放り投げた。勢いを削がれた無人エグゾがすぐ吹っ飛ぶ。
車の陰から飛び出して走る、ノルベルトも並走して二人で突っ込む。
『警戒! 警戒! 予測不能な攻撃を感知!』
『後退! 戦力を再――』
爆炎を突っ切った先は『詰んだ』外骨格どもだ。
目の前にいた一体の顔面を銃口で殴った。がんっと地面に縫い付けて。
「待っててくれてどうも、こいつも予測できたか?」
ご丁重に尋ねた、じたばた暴れる前にトリガを絞る。
*DODODODODODODODOM!*
重要な機器がありそうなそこをぶち抜くと震えて停止、次の敵に構えた。
隣でノルベルトが戦槌で一体引き倒した、その向こうで構える相手に撃つも。
がちっ。
くそ、弾切れだ。予備の弾倉もない。
それならこうだ――エグゾ用の形をした五十口径をぶん投げる。
『撤退! てった』
その先にいた骨格が揺らいだ、顔面に命中だ。
踏み込んだ。持ち上がるグレネードの砲身を掴んでぶちあたる。
装甲同士をぶつけあいはこっちの勝利だ、馬乗りになってセンサーいっぱいの顔に拳を落とす。
「っておい前! ウォーカー来てやがんぞ!?」
無人エグゾをぶち壊したところにデュオの警告が伝わる。
通りの奥からだ。四足のウォーカーがぎくしゃくと害虫のごとく走ってきた。
どう見ても最初に見た頃よりも動きが早い――そう思った矢先。
*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOM!*
遠くでぴたりと停止、無人の車に足を隠しつつ機関砲をぶっ放してくる。
咄嗟にさっき倒した無人機を盾にした、何発か喰らって足が重く踊る。
「人に機関砲向けやがってくそっ……!」
『ひゃあああぁぁぁっ……!?』
もうエグゾで転ぶのはこりごりだ、鉄の盾を投げ捨てて走り出す。
機銃もがりがり当たってエグゾが悲鳴を上げた。足も錆びたように重い。
『おい! 射線あけんかお主ら! ドワーフのお通りじゃオラァッ!』
そんなところに気合の入った声がした、ドワーフの低くて盛大なものだ。
戦いの場にぎゅりぎゅりと良く知る音がしたかと思えば。
『補給物資配達じゃ野郎ども! ついでに武器の試し撃ちってなァ!』
俺たちの後ろから『ハックソウ』が追いかけてきたのだった。
ドワーフどもを乗せた履帯つきの車は残骸すら登って突っ込んでいくと、今こまさに構えるウォーカーに向かって。
「停車しろ停車! 狙い定まらんから!」
「装填よし! 撃て撃て撃て!」
「胴体ど真ん中狙えよ! 行け!」
騒がしい様子を荷台で繰り広げつつ、そこに乗せられた何かを向けた。
三脚で固定された――銃いや大砲か、デカい得物を『パウーク』に合わせ。
*zZZBAM!*
車体がぐらぐら揺れるほどの射撃が始まった。
音からして20㎜だ。その質量が向かう先、四足のウォーカーに派手な青が散る。
そして遅れて爆発した。立ち上がる炎を白旗がわりに地に伏せていく。
「っしゃあああぁぁ! 効いたぞ! 一撃必殺じゃこれ!」
「キルマークつけとけ! 三つ目じゃからな!?」
……ドワーフの爺さんたちはなんとも危機感のないまま走ってきた。
突然の小さな髭面に北部部隊もひどく戸惑ってる。
「援護どうも、爺さんども。その素敵な武器はなんだ?」
駆けつけてくれたハックソウに一礼した。ドワーフはしてやったような笑顔だ。
すると硝煙がまだ続く荷台の『砲』を撫でながら。
「これか? これね、ゴーレムの機関砲いじって作った対戦車砲」
「ミスリル徹甲弾じゃ、やべえぞこれ」
「今度は貫通したら爆発すんぞ、飛ぶぞ。つかもうでけえの三機やったわ」
良く分かる説明をしてくれた。まーたすごいの作ってやがる。
「頼もしい援護をありがとう。ミスリル大盤振る舞いだな爺さんども」
「リソースってのはこういう時に惜しげもなく使うもんじゃよ。ほれ早く補給せんか」
「我が社もおたくらのおかげで二歩先を行けそうだぜ、なんたって新商品がさっそくイカした使い方されてるんだからな」
武器満載のハックソウが俺たちめがけてバックしてきた。
荷台には替えの重突撃銃やら弾倉やら、果てには見たことのない銃まである。
「おいおい……ドワーフだ、マジモンのドワーフが戦車乗ってやがるぜ」
「ブルヘッドには指輪なんてないぜ、言っとくが――いやなんだこの武器初めて見るぞ!?」
「ストレンジャー、お前の人脈の広さには驚くばかりだ。無節操というか分け隔てないというか、まあおかげで助かってる」
そんなものを持ってけと突きつけられた北部部隊の面々は困惑してる。
無理もないと思う。エグズサイズの初めて見る獲物が山積みなのだ。
「おお、なんだこれは? 爺様どもが作った得物か?」
ノルベルトが気にかけたそれとかがいい例だった。
どう見ても二十ミリクラスの通り道がある『携帯する大砲』みたいなブツだ。
弾倉すら横から生えてるそれは、もはやエグゾかそれの匹敵する存在以外に持つ資格はないとばかりの重量感があった。
「急ごしらえで作った二十ミリの手持ち銃だ、持ってけイチ!」
「ご親切にどうも、試し撃ちは済んでるよな?」
「お前さんの第一射目次第じゃな、まあ暴発せんだろ大丈夫大丈夫」
「祈れってか。素晴らしい武器をありがとう、今のが皮肉にならないことを祈ってくれ」
そしてご指名は俺だ、こんなん使えと。
ありがたくいただいた。照準や肩当ての銃床が「こいつで戦え」と訴えてる。
「早くもってかんかお主ら! わしら支援と補給並行しとるから!」
「50㎜ロケットあるか爺ちゃん!?」
「いっぱいあるぞ! 持ってきすぎんなよ!」
荷台からどんどん武器が下ろされていく。
レンジャーどもは戸惑い半分のまま装備を整えたようだ。
砲身が二問あるロケットランチャー、巨大弾倉を突っ込まれた40㎜擲弾発射機、死を振りまくよりどりみどりだ。
文字通り『いっぱい』武器が配られると。
「よっしゃ! ニシズミの方行ってちょっと狩るか!」
「ネズミ狩りじゃ! いくぞ!」
「南西向かうぞ! 弾詰めとけよ!」
爺さんたちはハックソウを唸らせてとても陽気に行ってしまった。
きっと帰ってくる頃には砲身のキル数も増えてる事だろう。
「デュオ少佐殿、いつの間にブルヘッドはこんな技術革新されたんで? 見たことねえですぜこんな武器の数々」
タロン上等兵も引くほどの充実具合だ、降ろしたランチャーに50㎜弾を満載しながら現実を疑ってる。
「フランメリアの賜物ってやつさ、おめーら全員大丈夫だな?」
「そりゃもちろん、もっと殺せますぜ」
「エグゾのサーボが少しおかしいですがやれます」
「そろそろこの服を脱いで一服したいところです、ところでうちら危険任務手当はちゃんと貰えるんでしょうね?」
他の連中も武器弾薬に幸せそうだ、ニクとロアベアがうまくやってることを願って先へ進んだ。
◇
敵を求めて西への道を進めば、繁華街の様子に踏み込んだ。
あたり一面には戦いの痕が今なお増えつつある激戦区ってやつだ。
逃げ戸惑う民間人はゼロ、見捨てられた車が散らばり、破壊された建物が景観を損ねてるのだが。
「どきなぁッ! ドラゴンブレスはいりまああああああああああああああす!」
そんなところにいたのはフランメリアの連中だ。
フェルナーがいた。竜の羽で着地を決めた直後、向こうで固まるエグゾの群れに身構える。
かと思いきや、ふと鋭く息を吐いて――いきなり真っ赤な炎が空気を伝った。
火炎放射器以上の火力が街中を覆った。外骨格が立ち往生してフリーズする。
「馬鹿かお前は!? 街中で炎を使うなと言ってるだろう!?」
そこへ褐色蜥蜴の姿が剣を抜いた、アストヴィントだ。
バケツ頭のウォーカーに迫る。撃たれようとも軽やかな足取りで近づく。
そして足を一太刀のもと叩き切った。ごきんと鈍く切断される。
仰向けに倒れた姿に追撃、首元めがけて剣先を捻じり込んで確実に破壊した。
「……あー、なんだありゃ」
いきなりそんなのを見かけたタロン上等兵はただ絶句だ。
無理もない、フランメリア人がエグゾ以上に大暴れして破壊を振りまいてるのだから。
「あんだけ騒がしいと思ったらこいつらが原因か」
『……うん、納得しちゃったよ』
「お前あれも知り合いとか言わねえよな? 心配になってきたぞ俺」
「みんなお友達だぞ。文句あるのか?」
曲がり角からずんずんとウォーカーの足並みも届いた、パウークとルツァリだ。
それに敵のエグゾも守るように随伴してて、増援部隊だとすぐ分かった。
「お前のお友達ってのは火を吐いて生身でウォーカーぶったぎるんだな? 友人選びのチョイス最高だな、ええ?」
「味方なのは間違いないからな、ミュータントと間違えるなよ」
「ウェイストランドの生態系がぶち壊れてる気がするぜ、そんじゃ……」
しかし俺たちはエグゾ乗りだ、すぐに攻撃に移る。
ロケット持ちの上等兵が50㎜弾を敵に送った。突然の爆撃に敵は散り散りだ。
「俺たちも混ざるか! 今日はロケット大盤振る舞いだぜお客様!」
「あいつらに動き合わせるぞ、フランメリア人が暴れてる限りは安全地帯だ」
50㎜の掃射をきっかけに食いつくことにした、二十ミリ砲を抱えて突っ込む。
立ち往生する無人外骨格を発見、アスファルトをがっしり踏んでトリガを引く。
*ZZBAAAAAAM!*
エグゾ越しだっていうのにひどい反動だ。
どうにか姿勢を保ったまま見届ければ、無人エグゾが跳ねるように転倒していた。
北部部隊の面々も配られた武器を(多少戸惑いのまま)向けてぶっ放す。
ロケット弾や40㎜のグレネードが無人兵器の足元をさらっていくのが見えた。
「……なんだこの武器、妙に当たるぞ」
「おい、これキーロウに持って帰ろうぜ。うちの整備班喜ぶぞ」
さすがの屈強なレンジャーどもも引くほどの性能だ。
そこへがんっ、と迫撃砲も混じる。ウォーカーの足元が救われてよろめく。
「フハハハハハ! フランメリアの者どもが暴れているな、俺様たちも早くしないと乗り遅れるぞ!」
ノルベルトが砲撃したらしい、敵の勢いが今まさに削がれてる。
視線で合図した。やるか、相棒。
「スティングじゃ世話になってばっかだったしな――やるか?」
「――やるぞ。さあ大物狩りとしゃれ込もうではないか!」
崩れた陣形に向かってダッシュ、手持ち砲を掲げながら迫った。
よっぽど近づかれるのが嫌なのかウォーカーの機関砲が唸る。
何発か貰った、肩のあたりがぎしっと悲鳴を上げてしまう。
『――異常存在を検知! 対応せよ! 対応っ』
だが間に合った、そこは『ルツァリ』の懐だ。
腕を持ち上げるが重い、構わず砲口を後ずさる胴体に上げて。
*zZBAAAAAAAAAAM!*
撃った。腰の上からエグゾがびくつく、反動で足が後ろに下がる。
構わずもう一発、更に一発、まだ一発、ずばずばと撃ちまくると。
「慣れてしまえば可愛いものよ! 永遠の暇をもらうとよい、ゴーレムよ!」
もう一体の処理はオーガがやってくれたようだ。
蜘蛛さながらの姿に潜り込んで、81㎜の砲身を腹に押し付け――ゼロ距離射撃。
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「うむ、今宵も徳を良く積んだな」
そうやって片づけて通りの様子を確かめようとした時だ。
エグゾがねじれるような衝撃が走った。いきなりの一撃に身体が持ってかれる。
気づいたノルベルトも覆いかぶさった爆発に吹っ飛んだ――おいまさか。
「あーやっべ前言撤回だクソッ……!?」
振り向く、北の方だ。
いや見るべきじゃなかった。バケツ頭の群れがこっちに押し寄せていた。
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腕が、いや足が動かない。ぶっ壊れやがったか。
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「ストレンジャー! 早く逃げろ!」
タロン上等兵の呼び声がした、簡単に言いやがって。
背後の抜け殻が砲弾で叩き折られるのを感じた。
オーガにまたグレネード弾が炸裂、ごろっと巨体が倒れる――待ってろ相棒。
「ミコ! 回収!」
『は、はいっ!』
手近な遮蔽物を探した、倒れたセキュリティのバンを発見。
装甲の剥がれ落ちたエグゾから荷物をひったくって滑り転がる。
落ちて来た銃弾が狙われてる証拠を突き付けてきた。どうにか逃れて短剣を抜き。
『ショート・コーリング!』
相棒の引き寄せの魔法を頼って倒れたノルベルトを無事回収だ。
どうにか身を隠せたがなんだあの量は、どうしろっていうんだ。
北部部隊と無人兵器軍団の割に合わない撃ち合いが始まる中、その場に取り残されてしまうも。
「――お困りのようですねー、大丈夫ですか?」
どこから空気を読まないような女性の声が混ざってしまった。
まさかと辿れば、絶賛フランメリア人暴走中の方向からシスター服が来ていた。
悪魔っぽい姿は相変わらずだが――いや待て、なんだあれ。
「……あー、それなんだ? 新しいファッション?」
『け、剣が浮いてる……!?』
ミコが言う通りだ、そいつの周りを巨大な剣が何本も浮いていた。
まるで魔剣さながらに虚空を彷徨ってるが、持ち主はペットの犬でも連れてきたような感覚でふらふらやってくる。
「おい、なんだあの剣はべらせた姉ちゃん!? 何してるかわからねーがこっちにくんなあぶねえぞ!?」
タロン上等兵が悲鳴めいた声でそう頼むのも無理もない。
ところが、だ。
――がきんっ!
激しさたっぷりの金属音が彼女の回りから響いた。
それも一度じゃない、続けざまに何度も何度もだ。
そのたびに剣が機敏に動き回り、足元に尖りのあるものがごろごろ落ちた。
「この辺りは私にお任せください、すぐ片づけますのでー」
そこでようやく分かった、この剣は敵の弾を叩き落としてるのだと。
50口径か、25㎜か、それ以上か、独りでに踊る刃物はすべてを迎え撃っていた。
悪魔のシスターという矛盾した姿は敵へとにっこり堂々と向かっていき。
「行けッ! 我が魔剣! なんかこう……綺麗にしてきなさい!」
ものすごくふわっとした物言いを告げると、取り巻く青色の剣どもがすっ飛ぶ。
向けられる砲弾を叩き落とすのが音で伝わった。そこらにころころ鉄くずが転がる。
攻撃が通用しない悪魔のお姉さんに機械どもは『引くか引かまいか』を漂うほどで。
『火力を集中せよ! 火力ッッッッ』
その先頭にいたバケツ頭の電子音声がぶつっと途切れた。
いや、空踊る剣で身体が散らばった。胴体も手足もばらばらだ。
巨大な人体が転がれば、周囲の無人兵器も次々と同じ現象に見舞われ。
『撤退! 撤退! 想定外の戦力を検ちちちちちちち』
『異常存在を確認! 再集合! さいっ』
シスター姿を取り巻く六本もの剣が手当たり次第に切り刻んでいく。
まるでバターでも切り裂くような、そんな感覚でだ。
結果として一瞬で敵は壊滅だ。ふよふよ飛び回る剣はご機嫌そうに上下してる。
「終わりましたよ皆さま、このあたり一面の制圧は我々にお任せをー」
にっこり笑顔でシスターさんが帰ってきた。なんだこいつは。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお退けェエエエエエエッ!」
そんなところに横から雄たけび、甲冑の出で立ちが何かを突き飛ばしてくる。
突進を食らって宙高く吹っ飛んできた『パウーク』だった。
四つ足を掲げるようにずしんと倒れ込むと、そこにレイナスが馬乗りになって胴体をタコ殴りにした――屑鉄の完成だ。
「……なあストレンジャー、なんでこいつら生身で無人兵器ぶっ壊してんの? 俺夢でも見てんのか?」
「悪夢じゃないのは確かだ、あいつらとは仲良くした方がいいぞ」
『……元魔王だけあって本当に強いんだね、あの人たち……』
「おおそうか、魔王の者たちだったのか。ならばあれほど強いのも頷けるぞ」
「ボスがお前の交友関係に不満そうだったが、今度は魔王とお友達になったのか? お前といると人脈に困らなさそうだなぁ」
すさまじい火力で一掃された様子にみんなで呆れてると。
「ご主人! 大丈夫!?」
「イチ様ぁ、ご無事っすか~……ってなんかすっごいバラバラになってるっすよ、なんすかこれ」
「フランメリア人パワーでどうにかなったところだ、ついでに俺のエグゾもバラバラだ」
別行動中だったニクとロアベアがやってきた。
南側はだいぶ騒ぎが収まってきてる。これで大体はやったか?
――まあ、そう思ってるときに限って『NO』だ。
更に西から北から、知らない砲声と悲鳴が響いた。細かい銃声もついてきた。
俺たちに分かるのはブルヘッドのどこかがますますひどくなったことぐらいだ。
「おい、大丈夫かよイチ? 怪我はねえか?」
街の現在に目と耳を立ててるとデュオが心配してきた。
見比べる対象は破壊されて横たわるエグゾアーマー、本人はご存じの通り元気だ。
「せっかくのエグゾがやられて心苦しい感じだ」
「お前の命に比べりゃ安いもんだろ? しかし一体どんだけいるんだって話だが」
「今は数を考えない方がいいだろうな、努力の甲斐あって敵の戦力をせっせと削いでるのは確かだ」
「おいおい、俺から見れば「こんなに倒したのにまだいっぱい!」だぜ?」
大丈夫だ、と身体の丈夫さをアピールした。ついでに荷物が無事なのも。
ひとまず制圧した場所で全員の安否を確かめてると。
「……まずいことになったぞ!」
実に嫌なタイミングでクラウディアがしたっと着地しにきた。
降ってきた表情から余裕を奪うほどの何かがあるらしいが。
「デュオ、もっとまずいことになってるらしいぞ」
「これ以上悪いニュースなんてごめんだぜ? 今度はなんだ? 無人兵器が人間捕まえて食っちまってるとか言わないでくれよ」
「それか市民の皆様がテュマーに変えられたとかじゃないよな」
「違う、すごく巨大なゴーレムが歩いてるぞ! とにかくすごいんだ!」
俺たちのもとにくるなり、語彙力はともかくヤバイと伝えようとしてる。
現状が一層悪くなるような知らせは最悪だ、もっと言うなら――。
……ずずん。
そんな明らかに質の違う重みが、北の方から聞こえたってことだ。
ウォーカーの足音にしちゃデカすぎるし重すぎる。一体何が来やがった。
◇
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一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
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そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
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