魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

百鬼夜行ならぬ百鬼昼行 (01/20修正)

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 さっきまで戦場だった場所に生死問わずの傭兵どもがひしめきあっていた。
 破壊されたウォーカーのもろもろの姿に、安全を見出した市民たちもこの場に加わっており。

「――こんなことになっちまったのは、社の景気がすこぶる悪くなったからさ」

 武装解除した集団の一人、その偉そうなやつが噴水近くに腰かけてた。
 どこかが不穏な銃撃音に晒される中、タバコ片手に「一本いいか?」だそうだ。
 周りにもう戦える人間が残ってないことをしつこく確かめてから。

「そりゃよっぽど悪かったんだろうな。おかげでブルヘッドがこの有様だ」

 点けてやった。周りの否定的な視線には応じないつもりで呑気に一服してる。
 けれどもブルヘッド市民たちの嫌悪感混じりの視線には後ろめたそうだ。

「で? お前らは人様の家を勝手に片づけて強制退去させてくれた親切な連中か? これから返答に気を付けろよクソ野郎」

 ボレアスが覗き込めばなおさらだ、誰もが答えづらそうに目をそらした。

「簡単に質問しようか。まずお前らの自己紹介だ、できるよな?」

 ぶん殴りそうな坊主頭をどかして尋ねた。すると相手は諦めたような様子で。

「……言っておくがストレンジャー、俺たちはお前がさっきぶっ殺した連中とご同類じゃないぞ。ラーベ社の私兵部隊だ」

 南へ続く死体だらけの道のりを眺めていた。
 たいして心も痛んでなさそうというか、ゴミでも片付けたような達した表情だ。

「じゃあなんだ、お前らは傭兵じゃないのか?」
「今までぶち殺されたのがそれだ。こっちは企業お抱えのベテラン、そこらで転がってるのは言うこと聞かないクソガキどもさ」

 そういって喫煙中の男はショッピングエリアの惨状を鼻で笑ってた。
 お気持ち表明したウォーカーなんて特にそうだ、死んで当然みたいにすっきりしてる。
 なおかつそいつは「いいか?」と付け加えて。

「俺たちは社長の命を受けて南で暴れる自社製品に対処するためによこされたのさ。ところが北部のあちこちでこの有様だ、どうにか送られた増援は質の悪い傭兵連中ときた」

 くたばった増援とやらを目で蔑むだけだ。
 特に火事場泥棒の真っ最中に斬首された姿は情けないものがあるらしい。

「しつけがなってないみたいだな」
「しつけもなにも数だけが取り柄の三流集団だ。おかげで俺たちベテランの足引っ張ってくれてこのザマだ」
「そういうのに対処するのも給料のうちじゃないのか?」
「こういうのをどうにかしてくれるうちのオペレーターも音信不通だ、本社はもう混乱真っただ中でまともな支援は受けられんのさ」

 まあ、もっと情けないのは目の前の連中だが。
 連れてこられた素人集団のせいでひと手間増やされて、しかもバックアップも受けられずに彷徨ってたようだ。
 なんだか同情してしまう連中だが。

「言っとくがストレンジャー、お前のせいだぞ。お前のせいでこうなったんだ」

 そろそろ職にあぶれそうな頃合いのそいつは見上げてきた。
 周りのお仲間さんもだ。どんよりとした表情が一斉に向いてくる。

「おいラーベ社の兄さん、こいつがあんたらの業績に傷をつけたって?」

 と、黒人のおっちゃんがカメラを取り返しに混ざってきた。
 ヘルメットから重みが抜けていく中でも、向こうは顔の造形一つも変えずで。

「政治的な話は嫌いだが言わせてもらうぞ、我が社はあのライヒランドと絡んでやがったっていうんだ」

 続いた言葉はいつかのフォボス中尉が言う通りだ、マジであそこと絡んでたか。

「それならレンジャーの奴らから聞いたぞ。何してたか知らんが裏でこそこそ仲良しだったみたいだな」
「俺たちだってつい最近知ったばかりだ。我が社があんな人食い共産主義者どもと深い仲だなんて知らされてなかったからな」
「待て、お前ら何も知らなかったのか?」
「上がって末端まで染まってると思うなよ? 俺たちは金払いの良さで動いてるだけの私兵だ、そこのゴミみたいな傭兵と一緒にされても困るがな」

 話のできる男は世知辛そうなまま周囲を見渡した。
 いろいろな顔ぶれに混じって、事情を知りたがる肝の据わった市民たちも混ざり始めてるようだ。

「じゃあ続き聞かせてくれるかな? ストレンジャーのせいっていう部分をね」

 次にエミリオも加わった、警戒したままだが。

「難しい話じゃないさ。仲良くやってる提携先が潰れて以来、ラーベ社は特に業績不振なもんでな。大事なお友達が消えて社長はご立腹、赤字になっちまう前に血眼だったわけだ」

 絞り出される言葉は『会社の傾き』云々だ。
 大当たりだローレル、お前の言う通りラーベ社の経営は芳しくなかったらしい。

「その結果はもしかしてこんな感じか? 自社の製品にどっかのAIをそのまま積んで『合法無人兵器』でも作ろうとして巻き返そうとしたら大失敗、ご覧の有様ですよと」

 すかさず今まで耳にした情報を頼りに言ってやると。

「良く調べたみたいだな、大体その通りだ」

 一瞬向こうは驚いたみたいだが、しぶしぶ頷いてくれた。

「他にもいろいろ予習済みだぞ、他社に嫌がらせしてるところとかな」
「言い訳臭いがそういう汚れ仕事をしてるのは傭兵どもだ、俺たちはそれを金で見過ごしてるようなもんさ」
「あんたらの内情がどうであろうとご自由に。で、あんたらのしくじりでこうなったのはマジなんだな?」

 これで確信できるわけだ、この一件をもたらしたのはラーベ社のミスだ。
 しょうもない話に傭兵以外の顔立ちが呆れいっぱいになるのは言うまでもないが。

「厳密にいえばそこに細かなトラブルが山ほど重なってたわけだがな、知りたいか?」
「少しな」
「社長の命とは言え社内の連携もずれててな。上と現場の食い違いやら、開発する連中の独断専行が偏った結果これだ。ラーベ社の製品だけがことごとくウィルスに掌握されてやがる」
「ウォーカーが勝手に動いてるのはただ単にセキュリティ対策不十分のせいだろ」
「はっ、ストレンジャー様はよくご存じみたいだな?」
「詳しいやつがいっぱいだからな、ただの受け売りだ」

 みんながあれこれいってたことが次々と当たりを引いてるようだ。
 景品はラーベ社の悪行を始めとするとくだらない事実が判明するだけである。
 そこまで話すと男は「そこまで知ってるなら」と言わんばかりの様子で。

「エグゾをガワに分からん機械ぶちこんで、ウィルスに心地よい住処を作ったのは紛れもなく俺たちだ。あの馬鹿野郎ども、数十年前から埃被ってたウォーカーに感染させやがってな……」

 それはそれは恨めしそうに口走るが、その途中は遠くの足音にかき消される。
 そいつは南へひたすら進む巨大な何かに「くそっ」と吐き捨てると。

「このザマだ。北部だけならまだしも一体どうしてか南下してやがる、事態を収束させようと社の保有する戦力がフル稼働中だが焼け石に水ってやつさ」
「現在進行形で社の信用も失墜中だ。株価もクソみたいに暴落して後がないときた」
「おまけにさっき通信でやっと伝わったのは社長の拳銃自殺未遂の表明だ。頬ぶち抜いて意識不明、企業の傘下にある連中は統制も取れずにぐちゃぐちゃだ」

 私兵部隊が口々に続いて、こうして全てがようやく明かされた。
 北で高くそびえる企業がもたらした史上最大のやらかしだ。なんて場所なんだブルヘッドは。

「デュオ、真相が分かったぞ。ご親切に教えてくれた奴が目の前にいる」

 爆音続く都市のどこかに報告した、近くでごうごうとタイヤの音がする。

『ああ、ばっちり聞こえてるぜ。ヌイスに頼んで集音してもらった』
『私もしっかりと耳にしたところだ。なんていうか、うん、呆れて何も言えないね』
『ハハ、嫌な予想が全て重なるとむしろすがすがしい気がするぜ』

 社長と人工知能二人の声が混ざった、ということは今の発言は記録されたか。
 気づけば通りの監視カメラがじとっとこっちを向いてた、証拠も確保済みか。

『あのラーベ社の社長が自殺未遂だぁ? 別にてめえが何時死のうが関係ないが今はやめとけよ、今はさあ……』

 そして返ってきた言葉はとても面倒くさそうなものだ。
 実際その通りだが。企業の長が生を諦めるほどに損害が広がってるわけだし。

「良かったなデュオ、そっちからすれば宿敵みたいなもんだろ?」
『今じゃなけりゃ満点だがな。なあ、お前って人様の宿敵とかを呪い殺すパワーでもあんのか?』
「他に居たら紹介してくれ、俺が片づけてやるよ」
『この先できたら頼むよ、金払いは良くしてやるぜ』

 こうして軽口が出るほどにしょうもないことだった、それだけである。

「……ストレンジャーを狙った挙句、自爆ってやつかい? 泣ける話だよ」

 げんなりする私兵たちを相手にエミリオは脱力するぐらい呆れてるし。

「フォート・モハヴィに進出したばっかりにとうとう天罰が下ったってわけだな。生きてるうちにラーベ社の衰退する瞬間が拝めて嬉しい限りだ、感動的だぜ」

 スタルカーともども、ボレアスはもはや無力な私兵連中に目もくれずで。

「我々の命を狙う連中がいかほどなものかと思いましたが、よもや自らの業で自らを焼くとは……運がないといいますか、詰めが甘いといいますか」
『良かったなストレンジャー、お前にラーベ社撃墜のカウントがついたぞ』
『でかしたぞイチ上等兵、図らずとも奴らに一泡吹かせたようだ。素晴らしい』

 その長耳に良く話を聞いていたアキも微妙な受け取りだ。
 無線越しの少尉と中尉のお言葉なんて冗談交じりで褒めてるが。

「――で、お前らはどうしたい?」

 俺は目の前の奴らに尋ねた。
 手で街の様子を見ろと促しながらだが。

「……藁にもすがりたい気分だ。上からの指示もこなきゃ、金払いのいい雇い主もこのざまだからな」

 私兵部隊の男は観念したようにそういってきた。
 そんなタイミングだ。ずっと向こうからがらごろと重たい駆動音が通ってくる。
 道路を横断する大きな何かが動きを止めて――ぶぉんと濃いクラクションが鳴った。

「そうか、じゃあ俺たちにすがれ」

 そう伝えて呼び声に向かうことにした。
 どういうことだという視線が追ってくるが、先には無駄にデカいトレーラーが停車しており。

『お待たせしました、ストレンジャー様。素晴らしいものをお届けに参りましたよ』

 いい時に来てくれたらしい。無線にエヴァックからの声がする。
 ウォーカーを一体横たわらせるほどの幅と奥行きをもった運搬車両が見えた。
 被せられた濃い緑のシート越しにはあの無骨な人型のラインが浮かんでいた。

「ほんとに送って来やがったな。こいつがあんたの言ってた贈り物か」
『実に! さあ、トランスポーターの荷台に乗って下さい』

 すすめられるまま側面のはしごを登ると、都市の車道を陣取る大きさが先にあった。
 その先には作業服姿のラザロだ。横たわる何かのそばで待っててくれたらしい。

「ま、待ってたよ! あんたのためにこんなこともあろうかと用意しておいたんだ!」
「カバー外せ! 起動準備できてるな!?」
「あんたがラザロの相棒か! 大事に使ってくれよ、頼むぞ!?」

 変わらぬどもった早口だ。似たような格好の連中、おそらく同僚たちも一緒である。
 相棒たちが車上の機材をいじると、そばを覆っていた布が取り払われて。

「て、鉄鬼を改良したウォーカーだ! あ、あんたの戦い方を思い出しながらて、手を加えたんだ!」

 精一杯の声で教えてくれた。それが何なのかと。
 機械の力で軽く背を起こされたそれは、一言でいえばあの鉄鬼だ。
 市街地に馴染む装甲の色が角ばった印象を与えているものの、今回は一味違う。

「……なんか前より過激になってるな」
『わ、わーお……?』

 ミコと見上げた。確かにウォーカーではある。

 しかしなんだろう、あの肩にへばりついた砲は。
 一体どこを狙ってるのか、真上を狙った砲身が空を撃ち落とそうとしている。
 左腕のオートキャノンだって外付け式で多砲身のものへと変わってた。
 右腕? 銃身のない、盛り上がった装甲のようなものが拳をまとってるだけだ。
 身体のあちこちからは何かの発射機が見えて、元々あった無骨な身体を一層物騒に仕立ててるというのか。

「こいつは百鬼ヒャッキだ! か、火力を上げた中距離用の……と、とにかく乗ってくれ!」

 そんなものに相棒は乗れというのだ。
 あの時見た姿を火力で飾ったそれは、一目見て乗りこなす自信を砕くには十分だ。

か、バケモンみたいな名前しやがって」

 暗いセンサーとにらめっこしてると作業員たちが「乗れるか?」と伺ってきた。
 乗るとも。寝起きの『百鬼』の背中をよじ登る。
 既にハッチは開けられてるようだ。中からは良く清掃された匂いがした。

「おいあんた! 起動シークエンスは分かるのか!?」

 前より狭く感じるそこに身を捻じり込むと、後ろで誰かが尋ねてくる。
 驚かせてやろう。黙ってウォーカーの操縦席につく。

「まさかまた乗る羽目になるなんてな」
『うん……まただね……。いちクン、乗り方は覚えてる?』

 腰を落ち着かせた先にあるのはモニターの数々と操縦桿、左右の計器だ。
 前にはなかった装置が山ほど手元にあるが、ひとまず右手元に手を近づけて。

「もちろん。相棒のおかげでな」

 ハッチの開閉ボタンを押した。背後が締まって室内が薄暗く染まる。
 やがて電子的な唸りが始まって、眼前の画面が程よい位置まで迫ってきた。
 そしてOSがスタートする――あの時と全く同じだ。

『ストレンジャー! 起動のやり方は覚えてるよな!?』
「お前が親切に教えてくれただろ?」

 無線から相棒の声が届いた、あの時と同じようにした。
 右の操縦桿近くの計器をカチカチをいじると、目の前で【ステータスチェック中】の通知が変わる。
 チェックが変わった途端に周りの機械が一斉に唸った、起動させるだけだ。

「ほらな?」
『はは、覚えてくれて光栄だよ。後は大丈夫か?』
「見てろよ、驚くぞ」

 あの時の出来事を一つずつ思い出しながら手を伸ばす。
 ハッチ操作機構のそばだ。動くきっかけを待つボタンが物欲しそうに点滅してる。

「てことでみんな、ちょっとウォーカーしばいてくるから援護してくれ」

 ――押した。

 小気味の良い音が響いた。左右からせり出す細々とした画面が現状を表示する。
 燃料、残弾、機体損傷、火器管制……よく分からないがヨシ!

【リアクター起動、センサー起動、武器管制システム起動、全システム正常】

 女性的な電子音声がそう告げて、いよいよ機体が動き出す。
 計器の数々が控えめな明るさをもたらし、大きな揺れが立ち上がる感覚を表した。
 モニタいっぱいの黒色がすぐに目の前の景色に変わる、ブルヘッドの今があった。

『う、嘘だろ……ウォーカー動かしやがったぞあいつ!?』
『ラザロ! ストレンジャーの噂はマジだったんだな!? 疑って悪かった!』
『い、いっただろ!? あ、相棒なんだ! あいつは!』

 サブモニターには驚く作業員の連中が目に見える、このまま立ち上がろう。
 側面のレバーに手を触れると。

『まだ完全に機体が起きてない! 速度調整を半分にして前進してくれ!』

 ラザロのアドバイスが挟まった。半分ほどに倒してペダルをゆっくり踏む。
 重たい感覚が下半身に伝わると、機体がバランスを取って起き始めて。

 ――がごんっ。

 地鳴りと共に視界がウォーカー大まで持ち上がる。
 『百鬼』がようやく立った。試しに操縦桿を左右に動かすと腕がそれらしく連なる。
 モニタに浮かぶ兵装管理に並ぶ知らない単語や数字が追加武装を表現してるようだ。

「どうだ、ちゃんと二本足で立ってるぞ」
『よし、よし――! 完璧だ! ちゃんと動いてる! そのまま前進してくれ!』

 速度を調節して前進、ごんごんと小気味のいい低音が鳴った。 
 久々のウォーカーだ。前より遅く感じるが鉄鬼の感触が身体いっぱいに響く。

『ははっ、お前マジでウォーカー乗れんのかよ!』

 高い視野が街奥へ歩いていくと、どこから見てるのかデュオが愉快そうだった。
 サイドモニタには動き始めるみんなの姿があった、さあこれから一仕事だ。

「だからいっただろ? ラザロに教えてもらっ――」
『いちクン! 前! 前!?』

 そのまま乗り心地を確かめようとするが、ミコの言葉で気を取り直す。
 少し進まないうちにかんかんと機体を打ち据える音が響く――攻撃されてる。
 犯人と現場はすぐそこだ。北へ少し進まぬうち、バケツ頭が武器を構えてた。

『前と仕様が変わってるから気を付けてくれ! 右腕は白兵戦用、左腕がオートキャノンになってる!』

 手で照準を重ねようとするが、入ってきた言葉はそれだ。
 白兵戦用? 両腕ともオートキャノンじゃないのか?

「どういうことだ相棒、もう片方はどこやったんだ? 予算不足か?」
『あ、後で説明する! とりあえず敵を倒せ!』

 そうこうする間にもがんっとどこかに機関砲が当たる。機体が揺れた。
 射撃中のウォーカーを捉えた。しかし向こうも馬鹿じゃない、射線から外れようと細い動きでずれていた。

「こうか!?」

 そこへ左のトリガを絞った。一瞬、間を置いてぎゅりっと回転音が聞こえ。

*VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMMM!*

 左腕からとんでもない連射音が響く――!
 だがよけられた、逸れた砲弾が街のどこかをがらがら吹き飛ばす。
 構わずロボットらしい姿を照準で追いかければ、被弾した巨体が転んだ。

「……なにこれすげー!」
『……う、うわあ……』
『そ、それと、肩! 肩に砲がついてる! 左側にもう一つ操縦桿があるだろ!?』

 ずたずたな最期を見届けてると、奥からラーベ社らしい姿の機体がまた増えた。
 そんなときにラザロがまたいうのだ。見渡すと確かに手元に知らないグリップが付け足されてた。

「これか!?」
『展開ボタンを押して砲身を出すんだ!』

 ウォーカーの動きを制御、横に移動しながら狙いを保持。
 そこへ向こうからの機銃やらオートキャノンが来た、目の前の建築物が削がれる。
 並行で手元をいじって見つけた、第三の操縦桿の下に押し込むつくりがあった。

「ラザロ、これなん――」

 殴るように押した直後だ。左上からがごんっと厳しい金属音が響く。
 ウォーカーの視界の中、何かが敵へ向かって伸びていくのも見えた。
 肩の砲が半回転したらしい。水平に構えられた砲身がまっすぐ敵の姿を捉えてる。

『ショルダー・キャノンだ! 市街地への被害は心配しなくていいから撃て!』

 続けられた言葉がそういうのだから、俺はすぐに第三の操縦桿を動かした。
 モニタ上の照準が重なった。狙いは建物陰から伺う四つ足――トリガを引く。

*zzVAAAAAAAAAAAAAAAAMM!*

 左耳一杯からの爆音がウォーカーの装甲もヘルメットも貫いてきた。
 機体も軽く持ち上がる感覚さえも感じたが、その画面の中では――

「……おいおい」

 遠くからでも分かるほどのが空いていた。
 障害物ごとぶち抜き、何なら背後にいた別のウォーカーも巻き添えだ。
 不幸な初弾を受けた『パウーク』は横に倒れ、後ろのバケツ頭はそのついでで半身が抉られている。

『実に素晴らしい! 実に! 一撃で二機も撃墜するなんて!』
『は、はは……すげえ! すげえぞ百鬼! マジでやりやがった!!』

 ……ニシズミ社の二人は和気あいあいとしてるようだ。
 ボタンを押して砲をがごんと背中に戻すと、戻った機体のバランスを感じつつ。

「オーケー、強さが良く分かった、このままあのキモいウォーカーやっちまえばいいんだな?」

 ガラクタになったウォーカーのそばを進みながら尋ねた。
 目的地はあの悪趣味極まりない巨体が織りなす重低音の発生源だ。

『あ、ああ! まずは西へ向かってくれ! ヴァルハラ方向に向かう『タラントラ』がいる!』
『ついでに敵の戦力が集結中だ。お前に世話になった礼をしろとは決して言わんが、そいつで北部部隊の先輩たちを助けてやってくれ』
「了解、間違えても俺を撃たないように言っといてくれ」

 ラザロたちの言う標的はそこか、それとエグゾ部隊が支援を必要としてるようだ。
 俺はモニタいっぱいのブルヘッドの街並みを西へ進んだ。もちろん相棒と一緒に。

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