魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

ブルヘッドの戦い(3) (あけおめ)(01/11修正)

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『ヌイスだ。クラウディア君、次の通りへ差し掛かる前にさっきの機械を設置してくれたまえ。屋外だったらどこでもいい』
『む、分かったぞ。どこでもいいんだな?』

 無人兵器の騒ぎに向かってるとヌイスとクラウディアの話が耳に入った。
 頭上を並走するダークエルフの姿が引っ込んだ。何かやらせてるらしい。

「ヌイス、クラウディアに何させてんだ?」
『中継器を設置させてるのさ。具体的な説明はさておき、私も力になりたくてね? 君の前方にある監視カメラを見てごらん』

 気になるところだが続きは『自分の目で確かめろ』だ。
 五十口径を握りながら進み続けると、狭い道の脇に建物の裏口があった。
 厳重な扉の上に監視カメラがこれでもかと防犯意識を振りまいてるようだが、通りかかるとじっとこっちを見てきた。

「こいつか?」
『ご名答。今私が掌握してるよ』

 『うんうん』といいたそうにカメラが上下する。
 周りの顔ぶれも一人一人確かめてるようだ、あいつが操作してるのか。

「要するにハッキングだな? 悪いことしやがって」

 通り過ぎる間際にエグゾ越しの姿で一瞥してやったが。

『こういうお下品なことはしたくないんだけれども、状況がこれだから仕方がないよね? ブルヘッドのセキュリティに穴をあけるのはこれが最初で最後だよ』

 カメラは「やれやれ」といわんばかりに首を振ってきた。

「心配いらねえぜヌイス、どうせ向こうはそれどころじゃねーし最悪ラーベ社の奴らに擦り付けてやるさ」
『それはどうもありがとう社長殿、心置きなく悪戯ができるよ』

 しかもデュオの許可も下りてしまった、社長公認の堂々たるハッキングか。
 暴走する機械相手にどんな手心を加えた悪戯をしてくれるのか楽しみだ。

「ヌイス様ぁ~、ついででいいんでカジノの勝率をいじってくださいっす。うちの台だけ二回に一度当たるようになる程度でいいんで~」

 しかし後ろで誰かろくでもないことを言いだした、またお前かロアベア。

「今ギャンブルの話したやつは無視しろ、いいな」
『あのね君、造作もないけどそれでいいのかい? 勝てばよかろうの精神は構わないけど、そんな見苦しいことに手を貸したくないかな』
「そんな~」
『ハッキングだのギャンブルだのろくでもないこと聞こえたがそれどころじゃねえだろ!? 北から続々敵が雪崩れ込んでるぞ、どうなってんだ!?』

 緊張感もクソもないみっともない話にボレアスの声が加わった。
 スカベンジャーたちはどこかでアホみたいな数の敵をお見掛けになったらしい、最悪のニュースってやつだ。
 程なく道路の様子が近づく、行き場を失う車両に焦げと破壊を添えられた様子に。

『ら、ラザロだ。い、今ヴァルハラ屋上からそっちを監視してる! なんとなく状況が読めて来たぞ!』

 どもったラザロの声が重なる。

「相棒、現状がどうなってるか軽く教えてくれ」
『誰が相棒だ! ぼ、暴走したウォーカーやら無人機やらがラーベ社の保有エリアから南下してる、で、でも向こうの傭兵やら企業の私兵やらが対応してどうにかしようとしてるらしい、ほっ、北部で交戦してるみたいだ!』

 早口からしてラーベ社はやらかしに落とし前をつけようとしてるのは分かった。
 だが今はどうだ、まだ向こうで景気のいい爆発が立ち上がってるんだぞ。

「どうにかできてるようには見えないな、なんでこっちまで来てるんだって話だ」
『た、対応しきれないぐらいの数だからだよ! それにあいつら、主戦力をラーベ社周辺に配置してるんだ! 自分たちが良ければそれで良しってやつだ、分かるよな!?』
「ラーベ社がそんだけ馬鹿なのかそれとも余裕がないか知らんけど良く分かった、わが身が可愛いんだな?」
『分かってくれて嬉しいよクソが! ホワイト・ウィークス辞めて正解だ!』

 良く分かったよ畜生、暴走機械がブルヘッド中に広まってるんだな。
 あいつらの尻拭いをやってるようで気持ち悪いが、自慢の製品をぶち壊して損させてやれるぐらいはできるはずだ。

「聞いたなみんな、企業のしくじりでラーベ社自慢の商品が街にばら撒かれてるらしい。全部ぶっ壊せばあいつらの大損だぞ」

 だから言ってやった、重突撃銃を前方に向けながら。
 ピュウ、と面白がるエミリオあたりの口笛が聞こえた気がする。

『前向きに恐ろしいことを考えるね君は、よっぽど恨んでるみたいだ』
『全部ぶっ壊せばどれだけの大赤字になるか楽しみになってきたわ』
『フォート・モハヴィの一件の仕返しができるんだな? 乗った』
『みてやがれクソ企業め、倒産させる勢いでぶち壊してやる』

 『ランナーズ』一同から誰かの彼女に至るまで和気あいあいの返答だ。
 あの巨大な廃墟でさぞ損したらしいがもっと味あわせてやる。

 ――次の道路に踏み込んだ。

 五十口径を向けた先はまた戦場だ。
 真昼間の通りが地獄に変わってあたり一面新鮮な廃車だらけ、建物が砕かれ焦げての戦火がある。

『なんでラーベ社のウォーカーが来てやがる! まさか戦争か!?』
『頭を出すな! マジでぶち殺しにきてるぞあのクソウォーカー!?』
『市民がやられちまってんだぞ!? これ以上ほっといたら――』

 運の良し悪しはともかく、そこに交戦中の連中がまたいた。
 市民受けしそうな白いエグゾ部隊が道路のど真ん中で立ち往生してる。
 ブルヘッド・セキュリティの連中だ。倒れたバンの裏側でどこかを撃ってるようだが、そこら中に砲弾の衝撃が立っている。

『交戦中! 交戦中! 優先目標:役立たずのセキュリティ』
『デイジー! デイジー! 君が全て! 死ね!』

 その原因は少し離れた場所だ。バケツ頭のウォーカーが何機もいた。
 『鉄鬼』よりかは背の丈は劣るが、その武装はあらためて見れば中々だった。
 ロボットらしい無骨な造形にはそれぞれの腕に『盾』と機関砲がくっついてる。
 肩には対人機銃の銃座が、反対側にミサイル発射筒が四本分の穴を見せるという充実具合だ。

『新入り! 早く逃げろ!』

 そして俺たちが差し掛かったタイミングというのはだ。
 セキュリティの連中が敵に向かう途中、商業トラックの後ろで誰かがいた。
 さんざん弾を受けて廃棄処分になりかけたエグゾ、それも怯える市民をかばってる。

『でき、できません……! ここに子供がいるんですよ!?』
『そのままだとどっちもくたばるんだよ! くそっ、あいつを援護するぞ!』

 思ったより勤勉だったようだ、そんな仲間のために連中が身を乗り出す。
 二名が重突撃銃を素早く突き出すも、どどどどどんと大口径の唸りがそれを阻止。
 かと思えばウォーカーの対人機銃がどこかを向く、おそらく市民に向けた挨拶だ。

『バラけるぞ、援護してくれ! このままじゃやられちまうだけだ!』

 誰かの白いエグゾが別の遮蔽物に向かう、仲間が25㎜グレネードの銃身を構えた。
 しかしウォーカーが目ざとく機関砲で追いかける、そいつはごろっと地面に叩きつけられた。
 まるで隙が無い――妙だ、さっきより攻撃の精度が増してる。

「おいおい……あのバケツ頭なんか強くなってないか?」
『おそらくウィルスがそいつに馴染んだんだろうね。驚くべき進化だよ』
「適応してきたってことか」
『さっきよりも戦闘が激化してるだろう? 戦闘が長引いて順応したってことさ』

 そしてまた殺戮を始める、無人のエグゾも便乗して街にあるだけ弾を打ち込む。
 敵は多いが眺めてる分だけブルヘッドの死者数が更新されるだろう、やるしかない。

『そ、そいつは『ルツァリ』っていうラーベ社のウォーカーだ! 左腕のシールドで防御しながら機関砲を打ち込む運用方法なんだ! 対人用の機銃と対戦車ミサイルもついてる、気を付けろ!』
「相棒、あいつの弱点は?」
『あいつは上半身の装備重量と絶妙なバランスを取るために下半身が軽く作られてる、足を狙え! コアはバケツ頭の下、首だからな!』

 相棒のアドバイスも受けた、鉄鬼より汎用性がありそうなのが癪だ。

「ニク、ロアベア、囮になるから下半身にスティレットぶち込め」

 やることは変わらないか。五十口径の装弾具合を確かめて後ろに頼んだ。

「ん、分かった」
「了解っす~」
「デュオ、ノルベルト、あの真面目なやつ助けてきてくれ」
「へへ、任せな」
「心得たぞ」
「クラウディア、隙があったら首元か肩の装備にどうにかぶち込め。撃破できなくてもいい」
『よし任せろ』

 それからデュオとノルベルトには人命救助だ。
 クラウディアの支援も頼んだ、頭上からいい角度から攻撃できるはずだ。
 そうこうしてるうちにウォーカーたちがずんずん進む、飛び込む頃合いを測って。

「――行くぞ!」

 エグゾの足並みで駆けた。がしゅがしゅ駆動する足が想像以上に身体を運ぶ。
 ちょうどセキュリティの連中に迫る『ルツァリ』がこっちを見るのを感じた。

『敵性生物発見! 撃て、撃て!』
『デイジー! デイジー! 死んでおくれ!』

 バグった電子音声と攻撃が飛んでくるのは言うまでもないだろう。
 機銃が、砲弾が、はっきりとこっちを追いかけて来た。
 無人エグゾたちの攻撃もおまけだ。あるだけの火力が向かってくる。

「うおっ……!」

 がんっと五十口径が弾ける感触、足元を浮かされるような爆発力が踵に届く。

『わっ……!? う、撃たれた……!?』

 次に背中を突くような衝撃が装甲いっぱいに広がる、喰らったか。
 エグゾがぎゅりっと悲鳴を上げた。腕が少し重くなるが無事だ、持ってくれ。
 廃車を過ぎて道路を蹴って、攻撃を受けつつ走れば。

*BBashhmmmmmmmM!*

 反対側の路地へとつくその手前、スティレット発射器の音が背に当たった。
 金属の破壊的な音が確かに聞こえた。攻撃が止んだ、一瞬振り向く。

『危険を感知! 目標を変更!』
『私はおかしい! 君が好きすぎる! 死ね!!!』

 ニクたちの攻撃だった、ウォーカーたちが持てる火力をあちらに構える。
 機関砲と機銃がばらばらと二人を狙うが、素早く路地まで引っ込んでいく。

「うおおおおおお走れ走れ走れ! 人命救助だ!」
「もう心配はいらんぞ人間よ! 俺様たちが来た!」
「う、うわっわあああああああああ!? ひ、引きずるなァァァ!?」
「ひ、ひいっ!? ミュータントだァァァァ!」

 その間にデュオとノルベルトがやってくれた、エグゾと民間人を連れてきた。

「こ、この声……デュオ社長か!?」
「あの南からきたミュータントもいやがる!?」
「なんだか良く分からないがチャンスだ! 俺たちも……!」

 そんな様子に白いエグゾの集まりも勤務意欲を取り戻したらしい。
 それぞれの得物を手に身を乗り出して攻撃、無人の外骨格を足止めしていく。

『見えたぞ、首をやる』

 そこにいいタイミングでクラウディアの声が届く。
 予定通りの屋上からの攻撃だろう、どこにいるかさておき。

*Baaaaaaam!*

 後方のバケツ頭の首元が爆ぜた。いきなりの爆発に動きが停まる。

『こうげげっ、警戒、警戒! 制御装置にダメージ、要修理……』
『デイジ――伏兵を感知、直ちに排除しま……ッ!?』

 クロスボウの奇襲にウォーカーが「獲物はどこだ」と探りを入れた――今度は別の機体の肩が爆ぜた。
 ダークエルフの攻撃は実にいやらしく決まったらしい。
 小さな爆発がミサイルという大きな爆発を呼んで、ごんっと片腕が重く落ちた。

『発見! 発見! 伏兵を排除せよ! 死ね!』

 しかし別の機体が犯人を見つけたようで、屋上めがけて発射器のカバーが開く。
 そして射出音を立ててミサイルが小刻みにすっ飛んだ。
 屋上に派手なオレンジ色が上がるも、クラウディアは『ははっ』と楽しそうに逃げたようだ。

「フハハ! よくやるではないかクラウディア殿!」

 そこへノルベルトが戻ってきた、手にはあの迫撃砲だ。
 狼狽える姿にばきんっと砲弾をお見舞い、横合いからの一撃に巨体が震えた。

「エグゾの数多すぎないか!? くそっ! どんだけいるんだ!」

 俺もあわせて無人エグゾに五十口径を向けた。
 人間さながらの不気味な姿を撃った、一体、二体と動き出すところを抑える。
 しかし着弾に反応はしても怯みはしない、ただただ合理的に迫るのみで。

「下っ端に配るほどあったんだ、そら腐るほどあったんじゃねえのか!?」

 デュオが近くの車をひっくり返した、どうぞ、だそうだ。
 滑り込んで射線を確保、一緒に身を乗り出して目につく敵にぶち込む。
 そこへ機関砲が降ってきた、背中越しに車体が揺れて金属の質量が弾けた。

『ご主人、こっちにエグゾが来た……!』
『分断されてるっすね、ちょっとうちら下がるっす~』

 釘付けにされていると無線が入った。
 浸透してきた無人エグゾがさっきの通りへ向かってる、ニクたち狙ったか。

「分かった下がれ! 無理するな、他の奴らに任せろ!!』

 いや、逆にチャンスだ。二人が離れたならが使えるな。
 迫撃砲弾を掴んで絶交した。南へ向かう一団めがけて身を乗り出す。
 デュオの支援射撃も挟まった――フラグ投下!

*ZZbBaaaaaaaaaaaaam!*

 黒いエグゾの群れが吹っ飛んだ、流石に81㎜はキツいらしいな。

「俺様からもくれてやろうか! もっていけ、ゴーレムども!」

 ノルベルトも投げようとしていたのでピンを抜いてやった。
 機械顔負けの投擲力はウォーカー周りに向かったらしく。

『市民の皆様、どうか武器を下ろして楽に死ね――』

 爆発の広がりに肩周りを破壊されたウォーカーが大きくよろめいた。足元のお友達も道連れだ。
 機関砲の唸りが弱くなった、今だ。
 スティレットを抜いて照準を起こす、準備が整ったそれを手にして。

「ドワーフからのプレゼントだ、吹っ飛べ!」

 随伴戦力なしの巨人に向けてトリガを引いた。
 突き出すように構えたそれからばしゅっ、と弾が弾き飛ばされ――ちょうどいい具合に首元へ向かったようだ。

*BAAAAAAAAAAM!*

 実に嫌なところに当たった、半身に明るい閃光が走る。
 万能火薬の煙を立ち込めさせながらも、そいつは頼りない脚から崩れ落ちていく。

『イチ君! そこをどきたまえ!』

 その時ヌイスの声がした。
 そばの車がぎゅるっとエンジンの音を立てた。クラクションも一緒だ。
 急いで避けるとフルスロットルで前進、反撃を目の前に引き始めるバケツ頭へと突っ込み。

 ――がしゃーん。

 なんとも間抜けな光景だ。暴走車を足に受けた『ルツィア』が尻もちをつく。
 まだまだ暴れたりない車はすさまじいカーブを見せて、エグゾをがんがん弾いていく。

「行くぞ! 押し殺せ!」

 絶好のチャンスが来た、自由を得すぎた車に続く。
 後ろから「あいつら何なんだ!?」とセキュリティの声を受けつつ、倒れたウォーカー周りのエグゾに弾をばら撒く。

『きゅ、うえん要請! 脚部を損傷、メーデー、メーデー……』

 倒れてじたばたと起きる努力をするバケツ頭まで迫った、だがガチっと弾切れだ。
 弾倉交換してる暇はない。重突撃銃を捨ててそいつの胸に飛び込んだ。
 激しく点滅するセンサーと目が合った――エグゾを通した拳を引いた。

「あーおいお前まさか……」
「オラァァァァッ!」

 ビビってんならお前の予想はあたりだ、クソロボット。
 ついてきたデュオの声も大当たりだ。俺はそいつの顔面に拳を叩き込んだ。

 ――がんっ!

 ウォーカーの顔面に「人間がいたら死にそう」な複雑極まりないへこみを作った。
 手足が必死にもがくが続けた。首元狙ってぶん殴りまくる。

『きゅえ、メーデーっ、あ、あがががががががっ』
「死ね! このっ! クソロボット! ぶっ壊してやる! オラッ!』

 今言えるだけの罵詈雑言をたむけてとにかく殴った。
 隙間が増えた首めがけて全力の一撃を振り下ろすと――むき出しの配線が小さなスパークを起こして。

『めめめめめでっぎゅるるっ』

 低い電子音を響かせながら停止した。ロボットは殴れば殺せる。
 中の部品やらもぶぢぶぢ引き抜くと、向こうの景色でまた爆発が起こった。
 無人エグゾたちが派手に吹っ飛んだのだ。一度や二度足らず次々爆ぜていく。

『危険人物を目視! 後退、後退せよ!』
『戦力が不足している! 繰り返す、我々は戦力が不足している!』
『敵の潜水艦を発見、敵の潜水艦を発見、敵の潜水艦を発見……』

 数十といた外骨格が懸命に撤退していった、だが爆撃は止まない。
 まさかノルベルトかと思ったが。

「フーッハッハッハ! どうしたぁ! 俺様はここだ、良く狙えェい!」
 
 逃げ遅れたエグゾを捕まえて馬乗りのまま戦槌をご馳走していた、違う。
 デュオも見たが「俺じゃねえぜ」とエグゾボディで表してる、じゃあ一体。

『おいおいおい……俺の指導効果ありすぎだろ、どこにウォーカー殴り殺す奴いんだよ』

 その時、覚えのある声が無線に混じる。
 後ろから十数にも重なったエグゾの足音も揃って、咄嗟に足元の得物を拾うも。

「よう、遅かったじゃねえかタロン上等兵。待ってたぜ」
『げっ、デュオ少佐殿。まーた前線で頑張ってらっしゃったんですかい?』

 デュオが呑気に振り向いたのを見て分かった、レンジャーカラーのエグゾ部隊がついてきてたからだ。
 その中で硝煙漂うミサイルポッドを担ぐやつもいた。タロン上等兵だ。

「イチ上等兵、期待の新人とは聞いたが誰がここまでしろっていった?」
「おいタロン、お前の教育方針はどんなものだったか思い出せないんだが」
「ウォーカーを殴って壊すやつなんて初めて見たぞ、どうだお前、やっぱり入隊しないか?」

 先輩どもが集まってきた。馬乗りになるストレンジャーにドン引き関心いろいろだ。

「おめー俺から何教わったっけ? ウォーカーの倒し方なんて伝えた覚えねーぞ」
「そりゃ教え方が良かったからな」
「そうかい、なんてやつだよマジで」
『た、タロンさん……こ、この前ぶりですね……』
「ミコちゃんもいんのかよ、酔わせてねえよな?」
「この通りだ、相棒なら元気だぞ」

 タロン上等兵のエグゾがこっちに来た、軽口混じりで拳を合わせた。
 北部部隊の面々も親し気だ。ノルベルトと「また会ったな」と叩き合うぐらいには。

「おっ……おい、あんたらまさか、北部部隊の連中か!?」
「ストレンジャーもいやがるってか……ははっ、地獄に仏が一個分隊分きた気分だ」
「あ、ありがとう……し、死ぬ寸前だったよ……」

 セキュリティチームの外骨格も立ち直ったらしい。
 さっきの新人とやらもボロボロのアーマーのままだが生きてる、民間人も無事か。
 そんなところ目の前の白いエグゾにかんっと五十口径の着弾が挟まった。
 すぐに俺たちは身を隠した。向こうから二メートルほどの体躯が攻撃してきてた。

「北部部隊が来てやったぜ、おたくらは民間人連れて下がれ」

 そこへ持ち上がったミサイルポッドが白い煙をばしゅばしゅ噴き出す。
 50㎜の砲撃が遮蔽物ごと敵を散らすのが見えた、敵の調子が崩れた瞬間だ。

「頼もしい連中が来てくれて何よりだ、じゃあ行ってくる」
「フハハ、早い者勝ちだぞタロン殿」

 この機会を逃すものか、俺は弾倉を交換した。
 ノルベルトもちゃんと来た。セキュリティが落とした重突撃銃を投げ渡してくる。

「行ってくるっておい、おめーら何すんの? マジで?」
「お先に失礼ってやつさ、行くぞ!」
『い、いつもどおりです……!』

 俺たちは立ち止まる北部部隊を出し抜いて――突っ込んだ。
 体制を立て直した敵が得物をぶっ放してきた。12.7㎜相当の重みが装甲と足元を叩く。
 だがもうこっちの間合いだ。左手に五十口径、右手にも五十口径、二挺同時はどうだ?

「敵襲! 敵襲! 白兵戦に――」
「おせえぞ、プレゼントだ」

 敵の群れに突っ込んだ、左右の得物のトリガを絞った。

*dDODODODODODODODODODODODODODOMm!*

 一度やってみたかったことのリストに『五十口径二挺撃ち』があったが解消した。 
 銃を向けるやつを追いかける、隠れた奴をあぶり出す、目の前の敵にたっぷり浴びせる。
 撃たれながらもとにかくばら撒いた。目につくものは敵だ、五十口径をご馳走してやる。

*dDODODODODODODODODODODODODODOMm!*

 敵陣で目に付く限りぶっ放してると、外骨格が距離を置き始めた。
 それでも撃ち続ける、動く敵を銃口でしてると。

「おまっ、正気かよ!? どこに敵に突っ込んで暴れるやつがいんだよ!?」
「教育指導の問題はお前にあるからなタロン! とんでもねえやつ送って来やがってプレッパーズの野郎ども!」

 そこへ後続の連中もきた、攻撃に加わってそこらじゅうが銃火に満ちていく。

「後退せよ! 後退せよ! 味方と合流せよ!」
「エラー、エラー、エーー」

 ヴァルハラの方角へ逃げる姿もあった、銃口で追いかけるが弾切れだ。

「戻ったっす~! 皆様ご無事っすかね~?」
「ご主人、大丈夫……!?」

 でもいいタイミングで犬とメイドが立ちふさがる、抜かれた仕込み杖に足をぶった斬られた。
 続けざまに切っ先を脇腹に立てて中身を壊したようだ。
 ニクも別の敵を蹴って倒して槍でぐさりだ。すっかり慣れてる。

『爆発矢がそろそろ切れそうだぞ! 補充してくる!』

 更に別のエグゾが内側から爆発。クラウディアが手を振ってから姿を消した。

「おお、無事だったか二人とも! ご覧のとおり北部のものどもが来てくれたぞ!」

 ……ノルベルトも逃げ遅れを捕まえて地面にはっ倒してる。
 逃れようと暴れた結果、突き立てられた戦ついに念入りにぶっ壊された。
 せっかく来てくれた北部部隊の連中は「なんだこれ」といった感じだ。

「……俺ってよ、教育センスあったのかな? 死屍累々じゃねーかよもう」

 タロン上等兵は『主成分:エグゾとウォーカー』の屍の山を見て戦慄してる。

「あとで中佐殿になんか言っとこうか?」
「いやいい、面倒なことやらされるのがオチだ。それだけはごめんだぜ」
「そうか、じゃあもっとぶっ殺しに行くぞ」
「ったく、これだから擲弾兵はおっかねえぜ。気を付けてけよ」
「こいつはプレッパーズの最終兵器ってところだ、これくらいやってもらわねえとな?」

 近くからは激しい戦闘の音が良く響いてる、通りをなぞった先か。
 行くぞとデュオに促されてずんずんと進んだ。今度は北部部隊も一緒だぞ。

「北部部隊だ! あいつらきてくれたぞ!」
「――す、ストレンジャー! ありがとう! あんたは命の恩人だ!」
「す、すげえ……ウォーカー壊しやがった、噂はマジだったんだ……!」
「社長! 死ぬんじゃねえぞ! あのクソ機械どもをやっちまってくれ!」

 途中、建物から安全をかぎつけた市民たちがぞろぞろやってきた。
 デュオのエグゾの気さくな手ぶりに安心して逃げていった。
 セキュリティの連中が誘導してくれてるらしい。俺たちでもっと安全にしてやろう。

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