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広い世界の短い旅路
無人兵器大暴走VSフランメリア人大暴走(01/08修正)
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前触れのない音と振動に不穏さを感じるのは俺たちだけだった。
地下駐車場を登って空明るい街に戻ると、また遠くから爆音が聞こえる。
続いて乾いた連射音がどこかで弾けて、どどどどんと連なった砲声も届く。
「なんだい、この音は……?」
通りまで出たところでエミリオがどうにか音の発生源を探っていた。
都市らしい光景に紛れてるが、こんな場所で耳にしたくない環境音なのは確実だ。
「あんまりこんなことは言いたくないけどな、フォート・モハヴィで聞かなかったか?」
『この音……どこか攻撃されてる感じだよね!?』
俺には嫌でも分かってしまう音だ。誰かが物騒なものをぶっ放しやがる。
ウォーカーが使ってたオートキャノン、それと20㎜クラスの兵器か?
「俺の経験と耳が確かなら機関砲の音が聞こえるよ。ああ、最悪だ……!」
イケメンの耳には覚えがあるせいか、事の重大さにすぐ気づいたらしい。
「今の俺の気持ちはこんな感じだ。どうか悪い冗談であってくれ神様」
「同感だなボレアス。ご近所のクソな隣人がやかましくしてるのとはわけが違うんだ、こいつは最悪ってレベルじゃねえぞ」
ボレアスとサムも顔色いっぱいに「最悪」を浮かべてる。
連なるようにスカベンジャーたちも発生源たる北を心配そうに向くほどだ。
この日聞こえる都市にあってはならない音は確実に異常事態を示してる。
「間違いない、ブルヘッドで普及してるブッシュマスター機関砲の音だ……!」
しかし困った、ラザロに至っては非常に心当たりがあるらしい。
「ラザロ、この音は――」
詳しく聞こうとしたが、言いかけたところで焦った顔を向けられて。
「ギュウキが撃ってきたやつだよ! 口径は二十ミリ、ここじゃ装甲車両からウォーカーまでいろいろなやつに搭載されてるんだ! どうしてそんなもんが……!?」
そんな早口で喚いて心当たりを思い出させてくれた。
そうだ、あの廃墟で『ギュウキ』とかいうウォーカーが使ってたものだ。
「……もう遅かったのかもしれませんね、これは」
心当たりのあるメンバーで実に気にかけてると、ニシズミ社の人間は諦めたような物言いだった。
そういうことなのだ。今まさにブルヘッドのどこかで無人兵器が暴れてる。
だが実感がなかった。というのも、街の住人たちは特に気にしてないからだ。
「それにしちゃみんな落ち着きすぎじゃないか……?」
『そうだよね、うん、音だけじゃ説得力がないだけかもしれないけど……』
確実に砲声やらがあるのに「今のはなんだ」と緊張感に欠ける姿ばかりだ。
そこへ爆音や振動が折り返されても、街の様子から原因は何かと探るだけで。
「壁の内側で濃縮されたブルヘッド生活の弊害だな、俺たちと違って実戦に疎いのさ。悪く思わないでくれよ」
こんな光景はデュオの表現通りなのかもしれない。
確かに壁の中は好き放題にやる企業はあれど、その無秩序さは外よりもマシだ。
だからこそ危険のしきい値が俺たちと違うんじゃないか?
「むーん、無理もない話よ。荒廃した世とはいえ格段と平和な場所なのだからな。こうなってしまえば実物大の恐怖が迫らん限りは変わらないぞ」
ノルベルトの意見も「仕方ない」といわんばかりだ。
すぐそこを見れば、事情が分かるやつ以外はいつも通りの営みをしてるのだ。
「……なんだか変な気分になっちまうな。どう考えてもやべえのに、ここの連中は暢気すぎるんだぞ?」
「おい、戦いの音が聞こえるのは間違いないよな。こいつら避難とかさせなくていいのか?」
スピロスさんとプラトンさんも一歩前に出て、そう心配してしまうほどだ。
本当に無人兵器の暴走なんてあったのか? 俺たちの考えすぎじゃないか?
ビルから出てきた一団がきっとそんな考えまで至ったであろうその頃合い。
*DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*
ひどいタイミングで覚えのある音が響いてきた。
機関砲のつんざくような速射だった。それも近い、通りの方からだ。
「おいおいおいおい……気のせいじゃなかったみたいだぜ、こりゃ」
いきなり街中で野太い砲声が聞こえて、いい顔でいられるやつがいるだろうか?
いるわけがない。デュオが「やべえ」といっぱいの表情で発生源を探した。
「てことは、マジで無人兵器が暴走してますよと。そういうことなんだな?」
俺たちはすっかり臨戦態勢だ。街の連中が遅れて騒ぎ出すのもようやくだった。
だがすぐに正体が判明した。遠くの人の流れが騒ぎ出すのが見えたからだ。
「う、うわっ、うわあああああああああああああッ!?」
「なんだあれ……うぉ、ウォーカーだ! ウォーカーが暴れてる……!?」
こっちに向かって人混みが逃げて来た。
口々に悲鳴を上げて、しかも『ウォーカー』という単語まで出てる。
「……うぉ、ウォーカー……!? まさか……!?」
そんなひどく力強いワードにラザロがはっとしたその時だ。
ずしん、ずしん、と向こうから黒い影が現れた。
それもデカい。目測で五メートル以上はあろう背を揺り動かす何かだ。
「……ラザロ、あなたの予想はあってたようですね、実に」
エヴァックが呆気にとられるのも無理もないはずだ。
『ウォーカー』という名の通り、そいつは確かに歩いていた。
戦車を軽々踏みつけるような足を運び、道中あった車を潰し、黒光りする身体があたりを見回す。
『市民の皆様、こんにちは! 降伏か! 死ね! 降伏か! 死ねや! 降伏か! 死ね!!』
その上で電子的なボイスがこう告げるのだ、こんにちは死ねと。
「都市で暴れ回るロボットなんて創作の中だけだと思ってたぞ、俺」
『……うぉ、ウォーカーがいるよ!? ウォーカーだよね、あれって!?』
間違いなく、俺たちに一つのクソみたいな思い出が出来上がってる。
巨大なロボットがそこにいた。ウォーカーというやつだと思う。
左右に二問の機関砲を固定され、丸みのある胴体を支える四足の蜘蛛の如き足が蹂躙していく。
そこらの人間をどうにか踏もうと苦戦する一方で、頭代わりの砲塔がぐるぐるあたりを追いかけていた。
*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*
遅い間隔を持つ機関砲が必死に何かを狙っている。
獲物は逃げ回る人々だ。所かまわずの20㎜砲が近代の街並みを破壊する。
山ほどいる標的をいちいち丁重に狙っているんだろう。逃げる人間大をぎくしゃく探って砲弾をばら撒いていた。
「日本のアニメだったらもうちょっとお行儀よくしてると思うけどね、なんだか不格好だよあれ」
そんな様子をヌイスが呆れてみていたが、それどころじゃねえ!
すぐに「どうするか」で動いた。思いつくものはそれぞれだが、俺は謎のウォーカーを視界に捉えつつ。
「おいラザロ! あのウォーカーはなんだ!? ニシズミ社のか!?」
ひとまず物陰に隠れた。すると流れ弾がどんっ、と近くの壁をえぐる。
次第に通りは大騒ぎだ。パニック映画さながらに誰もが逃げ出して、一面に混乱が混ざる次第だ。
「ちっ違う! あっ、あれはラーベ社のウォーカー! 『パウーク』だ!」
「あんな趣味の悪いものは我が社では作りません! 分かりませんか!?」
ラザロも慌てて車の陰に隠れた。エヴァックもご一緒にやってる。
二人が言うにはあのウォーカーは悪趣味で、その上でラーベ社の商品らしい。
確かに趣味の悪いことをしてやがる。地下駐車場への下り道に隠れるも。
「おっ――おい、こっちに来てんぞあのゴーレム!?」
誰かが――そう、スピロスさんが大声でそう言った瞬間だ。
獲物を求めて滅茶苦茶に上半身を振っていたそれがぴたりと停止。
逃げ回る市民にかわって、ちょうどよく勇敢にとどまってくれた俺たちに砲塔のセンサーがきらめく。
「ほんとに趣味が悪いようで……全員ヴァルハラまで引けェェェッ!?」
ついでにいえば目もあった。左右の二問の機関砲が向いたのは言うまでもない。
*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*
あの砲口が吠えた。オレンジ色と共に周囲のどこかが爆ぜた、全力で引っ込んだ。
「ちょっ、おまっ、ゴーレムこっちきてるうううううううううう!」
「フェルナアアアアアアアアアアアアア! 見てる場合かああああああああ!」
「オメーら逃げろ! 冗談じゃねえ街中でゴーレムが暴走だぁぁぁ!?」
「おいそこのお前! 転んでる場合じゃねえぞ早く来い!」
「ここの奴ら助けながら逃げろ! 早くしろ!」
あれはまともな装備もなしに挑む相手じゃない。俺たちは満場一致で逃げた。
次の瞬間には滅茶苦茶な照準のもと通りいっぱいに砲撃が飛び交う状態だ。
スピロスさんたちが逃げ遅れた住人を担いで走ってる、何かしなければ。
「イチ! 使え!」
そんな時だ、後ろから声がした。
見ればドワーフの爺さんどもがこっちに大急ぎで走ってくるところだ。
短い腕はバックパックと愛用の武器を掴んでた、ひったくるように受け取る。
「こんなこともあろうかと『スティレット』を作ってきたぞい!」
「一人一本だ! 何体いるか知らんがそいつもって一発お見舞いしてこい!」
続けて台車いっぱいの使い捨ての対物発射器がごろごろ運ばれてきた。
なんて準備がいいんだ。大安売りとばかりにぶっこまれた一本をいただく。
「お前ら! スティレットきたぞ! ゴーレム狩りだ!」
『か、狩りって……あれと戦うつもりなのいちクン!?』
「いつも通りだろ!?」
そうとなれば話は早い。バックパックに固定してさっそくUターン。
斜面から顔を出せば、そこに上半身を滅茶苦茶に振り回す『パウーク』がいた。
「う、おおおおおおおおおおおおお!? なんで俺ばっか狙うんだクソがああああ!」
どういうことなのかは分からないが、プラトンさんが追い回されてる。
けっこうな勢いで逃げるせいか照準が重ならず、小さな爆発が熊の巨体を地獄のそこまで追いかけるという珍妙な有様だ。
「お前ここにきて太ったからだろ!? しっかり捕まってろ人間!」
「は、はいっ!? 分かりましたから食べないでください!?」
「くわねーよバカ! こっちだ! 早く逃げろ!」
しかしいい囮になってる、スピロスさんが通行人を抱っこしながらやってきた。
後ろにはパニック状態のままついてくる街の連中もぞろぞろだ。
「ご主人、どうするの……!?」
その光景を前にニクが尋ねてきた。しっかり使い捨てのランチャーを握ってる。
敵はあの武器を効果的に使えてないのか? 明らかに複数の目標に対応できてない、となれば。
「行くぞお前ら! 一発食らわせて離脱だ!」
『本当に行くの……!? わ、分かったよ……!?』
「ん、分かった」
ここにもう二人追加だ。かく乱して別のやつの攻撃チャンスを作る。
ハイド短機関銃を抜いた。スピロスさんが走ってくるのと入れ替わりで駆けて。
「おいおい正気かよ……!?」
「おお……! ウォーカーに立ち向かうのですね……!」
「何やってんだお前ら!? 囮になるからヴァルハラまで逃げろ!」
途中で隠れたままのニシズミ社の二人が見えた、早く行けと促して得物を構える。
「――おい! こっちだ下手くそ!」
狙いはスピロスさんを意地でもぶち抜こうとするウォーカー、そのセンサーだ。
*Papapapapapapapapakink!*
走りながら撃ちまくった。金属音混じりの45口径の銃声が良く響く。
弾をばら撒きつつ横切ると、少しでも当たったのか黒いボディが持ち上がる。
誰かさんを敵として認めてくれたようだ。機関砲が持ち上げられて――
「た、助かったぜイチ! ったく俺も太っちまったか!?」
「ご主人! 隠れて!」
そこにニクが手にしていた『スティレット』の安全装置を抜くのが見えた、射撃を中止して走り込む。
*bashmmmmmmm!*
背後でランチャーの発射音がした。ばぎんっと装甲を捻じる感覚も伝わった。
一瞬向いた。面積いっぱいの上半身のどこかに当たったらしい、攻撃が停まる。
『警告、無駄な抵抗はやめなさい! 死ね! 抵抗は無意味だ、死ね!』
ところが何一つ良いことはなかった。
ボディを持ち上げたかと思えば、脇腹に抱えた機銃のようなものをどどどどどどっ、と滅茶苦茶にぶっ放す。
五十口径だ。すぐ近くをばすっと掠めて、なおさら全力疾走する羽目になった。
「……あーくそヤバイヤバイヤバイヤバイ!」
だがいい時間稼ぎにはなっただろう。今頃後ろでは――
「フーッハッハッハ! こっちだぞゴーレムよ、戦い慣れていないようだなぁ!」
「イチ様~! 気合で逃げてくださいっす~!」
やっぱりだ、ノルベルトとロアベアがいたか。
どうにか途中の路地にニクと飛び込めばばしゅばしゅっ、と発射音が折り重なる。
甲高い着弾音も二つだ。俺も対戦車筒を抜いて姿を出せば、センサーのあたりから煙を流す機体が見えて。
『め、め、メーデー……救援を、たの、たの……!』
機械的な、あの人類と仲良くできないボイスをまき散らしながら敵を探ってた。
反対側の二人を狙ったようだ。機関砲も機銃も滅茶苦茶に撃ちまくり、次第に胴を振り回して手当たり次第に弾をばら撒くだけの生き方を始めたらしいが。
「やっぱこういうところは動きやすいぜぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!」
俺も横合いから『スティレット』をお見舞いしようとしたその時だ。
上空からあのやかましい声がした。フェルナーの元気なやつだった。
一体どうしたんだと見上げてしまえば、そこにあったのは――
「叫ぶな馬鹿者があぁぁぁぁぁぁッ! バレたらどうするつもりだお前は!?」
……竜らしい赤い翼を広げて飛んでいるご本人と、それに持っていかれるレイナスの甲冑姿だった。
何をしでかすのかと思えば二人はそれなりの勢いでウォーカーへ向かっていく。
もちろんやかましさのせいでバレバレだ。四足は突然の空襲に引き始めるも。
「……何やってんだあいつら」
『……と、とんでるね……!?』
使うべきべきか迷ったスティレットを向けた。狙うはその脚だ。
起こした照準に着地する前足を見越してトリガを絞る。
*Bashhmmmm!*
発射。ずんぐりした弾体が一瞬落ちていくのが見えた。
狙いは完璧だったようだ。あの足がつくのと同時に――ばぎんっ!と装甲をぶち抜いたようで。
「よっしゃあああああレイちゃん投下ァァァァ!」
いいタイミングだった。フェルナーがあの甲冑の重さをウォーカーの頭上へ落とした。
レイナスが動きを止めたそいつに飛び降りると、予想外の客を乗せる羽目になって大騒ぎだ。
『――警告、警告! 直ちに当機から降りなさい! 繰り返す! 直ちに――』
四足のウォーカーがじたばたと暴れ出すが、もう遅かった。
元魔王というだけあるのか、あの重たそうな身体で脳天に当たりそうな部分でがっちりしがみつけば。
「……ううううおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!」
とんでもない叫びが響く。
それ相応の一撃がごんっ、とこっちまで耳に届いた。
もしかしてぶん殴ってるのか……? そう思って思わず呆気にとられると、レイナスはその通りだった。
ごんごん、がんがん、思う限りに陣取ったそこを殴り続ける。
『けいこっ、くっ、救援、救援っ、し、こわい』
工事かなんかしてるのか、そう思うぐらいの騒音に変わると、とうとう機械が根を上げる。
すさまじいぶん殴りを急所に繰り返されたウォーカーは何度かぐらぐら不安定さを見せた後、だらりとその胴体を地面へと下ろしていく……。
「……まじかよアイツ!? 素手でぶっ壊したぞ!?」
『うわあ……』
間違いなく撃破だ。ぎゅるぎゅると断末魔めいた機械音が遺言になった。
レイナスはめり込んだ腕を引き抜くと、がしゃっと用済みウォーカーから降りてきたようだが。
「すごいなお前! ウォーカー殴り壊しやがった!」
「ゴーレムとの戦い方はフランメリアで確立されて――って!? イチ殿! 後ろ、後ろォォォッ!」
すげえ、と拍手でもしてやろうかと思ったが、甲冑姿は爆音ボイスで呼びかけて来た。
後ろ? おいまさか――咄嗟に振り向けば。
『危険因子を発見! 破壊、破壊、破壊! 解体工事を開始します』
そこにいたのは2mを超える人型。いわゆるエグゾってやつだ。
あの外骨格をゆるやかな形の装甲で覆って黒と黄色の作業的な警告色を施したものだ。
その手にはずいぶんと分厚いブレードをもった丸鋸のようなものが持たされていた。というか、ぎゅるるるるるっと回転を始めて……。
「……おいおいおいおいこいつもかよォォォォッ!?」
ヤバイ、解体されちまう!
本能がそう気づいて引こうとしたが、電子的な笑い声が襲い掛かる。
咄嗟にハイド短機関銃でガード。銃身と機関部あたりでぎゅりりりりっと火花が散った。
すさまじい振動が手を押し戻す、回転する感触が金属をぶち抜いてどんどん近づく、くそっふざけんなこんなもん使いやがって!
「う、おおおおおおおおおおおおおお!?」
『いっいちクン!? だ、誰か――』
路地いっぱいに火花と仲良く血しぶきをぶちまける――そんな考えがよぎってすぐ、横をニクが駆けた。
「ご主人から離れろ……!」
しゃきんと槍を展開、すれ違いざまに無人エグゾの脇腹を叩いた。
強みのこもった声だけあってごいん、といい音がした。金属鋸を空回りさせつつ仰け反る。
だが手持ちの機関銃がぱっくりと割れた――くそっ、人の大事な武器をやりやがって!
「ナイス、ニク! この……!」
そこへぶぉん、と力任せの振り回しが向けられた。
ニクがしたっと飛んで回避、こっちもバックステップで間合いを取りつつクナイを抜いた。
爆発するお友達だ。ピンを抜いて絶交、空振りしたばかりの敵に向かって。
「人がくっそ悩んでる時期に来やがって、クソロボットが!」
全力投擲! 【ピアシングスロウ】だ!
アーツの力を込めて首元あたりにぶん投げるといい音がした。しかし敵は止まらない、必死にこっちを追い求めてくる。
「イチ君、伏せたまえ!」
そこにちょうどよくヌイスの声がした。何をするか知らないが、ふらりと斜めに下がって射線を開けると。
――ばぢんっ!
そんな放電音のようなものの後、すぐそばを何かが過っていく。
電気の塊か? 一目でそうだと分かる質量がエグゾに飛ぶ。
見ればいきなり何かを食らった外骨格がばちばちとショートしながら立ち止り――
「おっと危ない」
俺は腰にあった『取っ手』を手にして構えた。
ニクと一緒にシールドを立ち上げた途端。
*zZbaaaaaaaaaaaaaam!*
無人エグゾが爆ぜた。破片やら爆風にぐわんと膜が揺らめく。
飛んできた頭部の装甲すらも受け流すと、振り向いたところにヌイスがいた。
「やあ、見事な一撃だったね。なんというか対戦車兵器だよ君は」
見れば手にドアノブを思わせるような妙な銃を握ってた。
そいつのおかげなんだろう。欲を言えばエグゾを綺麗に吹っ飛ばすぐらいはしてほしかったが。
「援護どうも。ところでなんだそれ? ブルヘッド製の武器か?」
「これは私が作った武器だよ。『ヌイスの電撃銃』とでも言おうか、まあ無人兵器に効くみたいだね」
金髪白衣の美女は「どうだい?」と黒い銃のようなものを見せてくれた。
銃口も弾倉も見当たらない、言ってしまえば出来の悪い玩具みたいなものだ。
そんなものが外骨格を嫌でも止めてしまうのだから、結構な威力なんだろうか。
「おらああああああああああああああああっ! どうした、どうしたぁぁぁ!」
そこへプラトンさんの盛大な叫び声もやってきて、俺はすぐに通りへ戻った。
ぶっ壊れたハイド短機関銃を捨てて向かうと、そこにいたのは四メートルはゆうにある巨体だった。
かろうじて人間らしい四肢とバケツみたいな頭部を持った『巨人』で済むような――ウォーカーなんだろうが。
「こんなんだったらフランメリアの近衛ゴーレムの方が10倍つえーぞ! 舐めてんのかコラァ!」
そこへ横合いからのスピロスさんが巨大な斧をぶん回す。
あたりには叩き切られたであろう機関銃の銃身やらミサイルの発射筒やらがぶちまけられ、無人のそれは身体のあちこちを一歩引くたびに切り刻まれていた。
『撤退、撤退……!? 危険生物を感知! ただちにきゅうえ』
「うるせーぞ! 死ねェ!」
機械もびびるほどに違いない。とうとうウォーカーがずんずん後ずさりをしたところに熊のハンマーが足をへし折る。
そこへ振り落とされた斧が両足すらもぐと、腕だけでじたばたもがいて逃げようとするが。
「あー、君たち、そいつを調べたいから半殺し程度で済ませてくれないかな?」
非常識な光景にヌイスがそう伝えると、二人は顔を見合わせて。
「ヌイスの姉ちゃんが生け捕りをご所望みたいだぜ、プラトン」
「じゃあ手足もいどくか、右頼むわ」
「おう、じゃあなゴーレム、悪く思うんじゃねえぞ」
ごしゃっ、ごりっ。
斧と槌が両手すらもいでしまった。四肢を失ったウォーカーはただの置物に変わった。
『メーデー、メーデー』だけが口にできる言葉になったようだ。気の毒に。
「ワーオ、残酷」
『うん、生き物じゃないのにエグいです……』
「一応言っておくけどね、人工知能だった私からすると結構複雑だからね? 同族がひどい目に会ってるような気分だよ」
狂ったAIで動くそれにヌイスがそれはもう複雑そうに近づくと、電撃銃とやらをバケツ頭に押し付けた。
そして撃った。ばちんと痺れる音を残して機能が停止した。
「ひっさあああああああああああああああああつ! ドラゴンドロップウウウウウウウウウウウウウ!」
そこにずどぉんっ!と何か落ちて来た……お引越しの時に見たエグゾだ。
抱き着いたフェルナーによって脳天が見事にアスファルトに叩き込まれてる。
ブルヘッドに現代アート一つ追加だ。赤髪のイケメン顔が「どうよ」と感想を求めて来たが。
「フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 敵で遊ぶなと言ってるだろうがァァァ!」
路地からがしゃがしゃレイナスが戻ってきた。両手で掲げた外骨格とご一緒に。
『離しなさい! 離しなさい! 離せ、警告、当機の活動を阻害したものは罰金――』
「レイナス、お前も遊んでる場合か! せえええええええいッ!」
「誰が遊んでるか! やれ、アストヴィント!」
そんなところに元魔王なリザードマンもやってくる、甲冑の手のひらの上でじたばたするエグゾが放り投げられると。
――じゃぎん。
妙な金属音がいっぱいに聞こえた。そう、まるで金属を断つような。
見ればあのアストヴィントが片手程の剣で迎え撃っていて、その左右に外骨格の半身がごろっと転る。
そう、つまり、文字通り両断したわけである。上半身と下半身は今日をもって縁を切った。
『エグゾを斬っちゃった……!?』
「元魔王っていうのはマジなんだろうな、うん……」
そして気づけば一方的な虐殺が始まってた。
どこからともなく現れた無人外骨格が巨大な矢にぶち抜かれ、質量たっぷりの得物で殴り殺され、魔法で焼かれ凍らされ機能停止に至る。
スティングで実戦を重ねたフランメリア人に掛かればこんなもんだ。気づけば静寂があった。
「いやあ、いいねえ。こいつらいるとほんと楽ができて気持ちがいいよな」
騒ぎが収まってくると、ひょこっとデュオが戻ってきた。
タバコを嗜む程度には余裕だ。というかもはや敵の姿はどこにもない。
「どうなってんだよあんたら……うぉ、ウォーカーぶっ壊しやがって……!?」
「実に素晴らしい……。ファンタジーな方が来たという噂はそれはもう、実に耳にしておりましたがこれほどだったとは。感服しちゃいましたよ、ええ」
ラザロとエヴァックもやってきた。驚きと感激が織り交じってる。
「……なんか普通に倒せたな、俺たち」
『……うん、そうだね』
もう暴れ回る無人兵器はいない。それどころか逆にこの有様に気づいた住人たちが戻ってきていた。
「ヌイス殿! 俺様も生け捕りにしてきたぞ!」
「流石フランメリアの皆さまっすねえ、無人兵器が哀れになるぐらいっす。あひひひっ」
ノルベルトとロアベアなんてどこでどうしてきたのか、四肢をもがれただるま状態の外骨格を引きずってきたぐらいだ。
あたり一面にはバケモンどもが食い散らかした敵の残骸がはしたなくぶちまけられていた。
それはある意味、このあたりが救われた証拠なんだろうが。
「あのさあ君たち、なんていうか……うん、もう何も言えないよ」
街の人々に混じってエミリオたちも来た、どうも避難を手伝ってたらしい。
無機物相手に死を振り向いた俺たちは自然と集まっていた。エルフから社長までずらっと、戦闘後のくせで集結してしまえば。
「すっ……すげえ……!」
「おい……今の撮ったか?」
「ははっ、冗談だろ……ウォーカーに勝ちやがったぞこいつら」
「なんてやつらだよ、信じられねえ! おい、やったなあんたら!?」
「た、助かった……ありがとう、フランメリアの人達。マジで……うん、どうなってんだよこれ……」
戦いが終わったと感づいたブルヘッドの人達がわんさかやってきた。
四方八方あれこれ騒ぐ人間だらけだ。逃げ場が塞がるほど殺到してきて、ある意味敵より厄介なのは言うまでもない。
◇
地下駐車場を登って空明るい街に戻ると、また遠くから爆音が聞こえる。
続いて乾いた連射音がどこかで弾けて、どどどどんと連なった砲声も届く。
「なんだい、この音は……?」
通りまで出たところでエミリオがどうにか音の発生源を探っていた。
都市らしい光景に紛れてるが、こんな場所で耳にしたくない環境音なのは確実だ。
「あんまりこんなことは言いたくないけどな、フォート・モハヴィで聞かなかったか?」
『この音……どこか攻撃されてる感じだよね!?』
俺には嫌でも分かってしまう音だ。誰かが物騒なものをぶっ放しやがる。
ウォーカーが使ってたオートキャノン、それと20㎜クラスの兵器か?
「俺の経験と耳が確かなら機関砲の音が聞こえるよ。ああ、最悪だ……!」
イケメンの耳には覚えがあるせいか、事の重大さにすぐ気づいたらしい。
「今の俺の気持ちはこんな感じだ。どうか悪い冗談であってくれ神様」
「同感だなボレアス。ご近所のクソな隣人がやかましくしてるのとはわけが違うんだ、こいつは最悪ってレベルじゃねえぞ」
ボレアスとサムも顔色いっぱいに「最悪」を浮かべてる。
連なるようにスカベンジャーたちも発生源たる北を心配そうに向くほどだ。
この日聞こえる都市にあってはならない音は確実に異常事態を示してる。
「間違いない、ブルヘッドで普及してるブッシュマスター機関砲の音だ……!」
しかし困った、ラザロに至っては非常に心当たりがあるらしい。
「ラザロ、この音は――」
詳しく聞こうとしたが、言いかけたところで焦った顔を向けられて。
「ギュウキが撃ってきたやつだよ! 口径は二十ミリ、ここじゃ装甲車両からウォーカーまでいろいろなやつに搭載されてるんだ! どうしてそんなもんが……!?」
そんな早口で喚いて心当たりを思い出させてくれた。
そうだ、あの廃墟で『ギュウキ』とかいうウォーカーが使ってたものだ。
「……もう遅かったのかもしれませんね、これは」
心当たりのあるメンバーで実に気にかけてると、ニシズミ社の人間は諦めたような物言いだった。
そういうことなのだ。今まさにブルヘッドのどこかで無人兵器が暴れてる。
だが実感がなかった。というのも、街の住人たちは特に気にしてないからだ。
「それにしちゃみんな落ち着きすぎじゃないか……?」
『そうだよね、うん、音だけじゃ説得力がないだけかもしれないけど……』
確実に砲声やらがあるのに「今のはなんだ」と緊張感に欠ける姿ばかりだ。
そこへ爆音や振動が折り返されても、街の様子から原因は何かと探るだけで。
「壁の内側で濃縮されたブルヘッド生活の弊害だな、俺たちと違って実戦に疎いのさ。悪く思わないでくれよ」
こんな光景はデュオの表現通りなのかもしれない。
確かに壁の中は好き放題にやる企業はあれど、その無秩序さは外よりもマシだ。
だからこそ危険のしきい値が俺たちと違うんじゃないか?
「むーん、無理もない話よ。荒廃した世とはいえ格段と平和な場所なのだからな。こうなってしまえば実物大の恐怖が迫らん限りは変わらないぞ」
ノルベルトの意見も「仕方ない」といわんばかりだ。
すぐそこを見れば、事情が分かるやつ以外はいつも通りの営みをしてるのだ。
「……なんだか変な気分になっちまうな。どう考えてもやべえのに、ここの連中は暢気すぎるんだぞ?」
「おい、戦いの音が聞こえるのは間違いないよな。こいつら避難とかさせなくていいのか?」
スピロスさんとプラトンさんも一歩前に出て、そう心配してしまうほどだ。
本当に無人兵器の暴走なんてあったのか? 俺たちの考えすぎじゃないか?
ビルから出てきた一団がきっとそんな考えまで至ったであろうその頃合い。
*DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*
ひどいタイミングで覚えのある音が響いてきた。
機関砲のつんざくような速射だった。それも近い、通りの方からだ。
「おいおいおいおい……気のせいじゃなかったみたいだぜ、こりゃ」
いきなり街中で野太い砲声が聞こえて、いい顔でいられるやつがいるだろうか?
いるわけがない。デュオが「やべえ」といっぱいの表情で発生源を探した。
「てことは、マジで無人兵器が暴走してますよと。そういうことなんだな?」
俺たちはすっかり臨戦態勢だ。街の連中が遅れて騒ぎ出すのもようやくだった。
だがすぐに正体が判明した。遠くの人の流れが騒ぎ出すのが見えたからだ。
「う、うわっ、うわあああああああああああああッ!?」
「なんだあれ……うぉ、ウォーカーだ! ウォーカーが暴れてる……!?」
こっちに向かって人混みが逃げて来た。
口々に悲鳴を上げて、しかも『ウォーカー』という単語まで出てる。
「……うぉ、ウォーカー……!? まさか……!?」
そんなひどく力強いワードにラザロがはっとしたその時だ。
ずしん、ずしん、と向こうから黒い影が現れた。
それもデカい。目測で五メートル以上はあろう背を揺り動かす何かだ。
「……ラザロ、あなたの予想はあってたようですね、実に」
エヴァックが呆気にとられるのも無理もないはずだ。
『ウォーカー』という名の通り、そいつは確かに歩いていた。
戦車を軽々踏みつけるような足を運び、道中あった車を潰し、黒光りする身体があたりを見回す。
『市民の皆様、こんにちは! 降伏か! 死ね! 降伏か! 死ねや! 降伏か! 死ね!!』
その上で電子的なボイスがこう告げるのだ、こんにちは死ねと。
「都市で暴れ回るロボットなんて創作の中だけだと思ってたぞ、俺」
『……うぉ、ウォーカーがいるよ!? ウォーカーだよね、あれって!?』
間違いなく、俺たちに一つのクソみたいな思い出が出来上がってる。
巨大なロボットがそこにいた。ウォーカーというやつだと思う。
左右に二問の機関砲を固定され、丸みのある胴体を支える四足の蜘蛛の如き足が蹂躙していく。
そこらの人間をどうにか踏もうと苦戦する一方で、頭代わりの砲塔がぐるぐるあたりを追いかけていた。
*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*
遅い間隔を持つ機関砲が必死に何かを狙っている。
獲物は逃げ回る人々だ。所かまわずの20㎜砲が近代の街並みを破壊する。
山ほどいる標的をいちいち丁重に狙っているんだろう。逃げる人間大をぎくしゃく探って砲弾をばら撒いていた。
「日本のアニメだったらもうちょっとお行儀よくしてると思うけどね、なんだか不格好だよあれ」
そんな様子をヌイスが呆れてみていたが、それどころじゃねえ!
すぐに「どうするか」で動いた。思いつくものはそれぞれだが、俺は謎のウォーカーを視界に捉えつつ。
「おいラザロ! あのウォーカーはなんだ!? ニシズミ社のか!?」
ひとまず物陰に隠れた。すると流れ弾がどんっ、と近くの壁をえぐる。
次第に通りは大騒ぎだ。パニック映画さながらに誰もが逃げ出して、一面に混乱が混ざる次第だ。
「ちっ違う! あっ、あれはラーベ社のウォーカー! 『パウーク』だ!」
「あんな趣味の悪いものは我が社では作りません! 分かりませんか!?」
ラザロも慌てて車の陰に隠れた。エヴァックもご一緒にやってる。
二人が言うにはあのウォーカーは悪趣味で、その上でラーベ社の商品らしい。
確かに趣味の悪いことをしてやがる。地下駐車場への下り道に隠れるも。
「おっ――おい、こっちに来てんぞあのゴーレム!?」
誰かが――そう、スピロスさんが大声でそう言った瞬間だ。
獲物を求めて滅茶苦茶に上半身を振っていたそれがぴたりと停止。
逃げ回る市民にかわって、ちょうどよく勇敢にとどまってくれた俺たちに砲塔のセンサーがきらめく。
「ほんとに趣味が悪いようで……全員ヴァルハラまで引けェェェッ!?」
ついでにいえば目もあった。左右の二問の機関砲が向いたのは言うまでもない。
*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*
あの砲口が吠えた。オレンジ色と共に周囲のどこかが爆ぜた、全力で引っ込んだ。
「ちょっ、おまっ、ゴーレムこっちきてるうううううううううう!」
「フェルナアアアアアアアアアアアアア! 見てる場合かああああああああ!」
「オメーら逃げろ! 冗談じゃねえ街中でゴーレムが暴走だぁぁぁ!?」
「おいそこのお前! 転んでる場合じゃねえぞ早く来い!」
「ここの奴ら助けながら逃げろ! 早くしろ!」
あれはまともな装備もなしに挑む相手じゃない。俺たちは満場一致で逃げた。
次の瞬間には滅茶苦茶な照準のもと通りいっぱいに砲撃が飛び交う状態だ。
スピロスさんたちが逃げ遅れた住人を担いで走ってる、何かしなければ。
「イチ! 使え!」
そんな時だ、後ろから声がした。
見ればドワーフの爺さんどもがこっちに大急ぎで走ってくるところだ。
短い腕はバックパックと愛用の武器を掴んでた、ひったくるように受け取る。
「こんなこともあろうかと『スティレット』を作ってきたぞい!」
「一人一本だ! 何体いるか知らんがそいつもって一発お見舞いしてこい!」
続けて台車いっぱいの使い捨ての対物発射器がごろごろ運ばれてきた。
なんて準備がいいんだ。大安売りとばかりにぶっこまれた一本をいただく。
「お前ら! スティレットきたぞ! ゴーレム狩りだ!」
『か、狩りって……あれと戦うつもりなのいちクン!?』
「いつも通りだろ!?」
そうとなれば話は早い。バックパックに固定してさっそくUターン。
斜面から顔を出せば、そこに上半身を滅茶苦茶に振り回す『パウーク』がいた。
「う、おおおおおおおおおおおおお!? なんで俺ばっか狙うんだクソがああああ!」
どういうことなのかは分からないが、プラトンさんが追い回されてる。
けっこうな勢いで逃げるせいか照準が重ならず、小さな爆発が熊の巨体を地獄のそこまで追いかけるという珍妙な有様だ。
「お前ここにきて太ったからだろ!? しっかり捕まってろ人間!」
「は、はいっ!? 分かりましたから食べないでください!?」
「くわねーよバカ! こっちだ! 早く逃げろ!」
しかしいい囮になってる、スピロスさんが通行人を抱っこしながらやってきた。
後ろにはパニック状態のままついてくる街の連中もぞろぞろだ。
「ご主人、どうするの……!?」
その光景を前にニクが尋ねてきた。しっかり使い捨てのランチャーを握ってる。
敵はあの武器を効果的に使えてないのか? 明らかに複数の目標に対応できてない、となれば。
「行くぞお前ら! 一発食らわせて離脱だ!」
『本当に行くの……!? わ、分かったよ……!?』
「ん、分かった」
ここにもう二人追加だ。かく乱して別のやつの攻撃チャンスを作る。
ハイド短機関銃を抜いた。スピロスさんが走ってくるのと入れ替わりで駆けて。
「おいおい正気かよ……!?」
「おお……! ウォーカーに立ち向かうのですね……!」
「何やってんだお前ら!? 囮になるからヴァルハラまで逃げろ!」
途中で隠れたままのニシズミ社の二人が見えた、早く行けと促して得物を構える。
「――おい! こっちだ下手くそ!」
狙いはスピロスさんを意地でもぶち抜こうとするウォーカー、そのセンサーだ。
*Papapapapapapapapakink!*
走りながら撃ちまくった。金属音混じりの45口径の銃声が良く響く。
弾をばら撒きつつ横切ると、少しでも当たったのか黒いボディが持ち上がる。
誰かさんを敵として認めてくれたようだ。機関砲が持ち上げられて――
「た、助かったぜイチ! ったく俺も太っちまったか!?」
「ご主人! 隠れて!」
そこにニクが手にしていた『スティレット』の安全装置を抜くのが見えた、射撃を中止して走り込む。
*bashmmmmmmm!*
背後でランチャーの発射音がした。ばぎんっと装甲を捻じる感覚も伝わった。
一瞬向いた。面積いっぱいの上半身のどこかに当たったらしい、攻撃が停まる。
『警告、無駄な抵抗はやめなさい! 死ね! 抵抗は無意味だ、死ね!』
ところが何一つ良いことはなかった。
ボディを持ち上げたかと思えば、脇腹に抱えた機銃のようなものをどどどどどどっ、と滅茶苦茶にぶっ放す。
五十口径だ。すぐ近くをばすっと掠めて、なおさら全力疾走する羽目になった。
「……あーくそヤバイヤバイヤバイヤバイ!」
だがいい時間稼ぎにはなっただろう。今頃後ろでは――
「フーッハッハッハ! こっちだぞゴーレムよ、戦い慣れていないようだなぁ!」
「イチ様~! 気合で逃げてくださいっす~!」
やっぱりだ、ノルベルトとロアベアがいたか。
どうにか途中の路地にニクと飛び込めばばしゅばしゅっ、と発射音が折り重なる。
甲高い着弾音も二つだ。俺も対戦車筒を抜いて姿を出せば、センサーのあたりから煙を流す機体が見えて。
『め、め、メーデー……救援を、たの、たの……!』
機械的な、あの人類と仲良くできないボイスをまき散らしながら敵を探ってた。
反対側の二人を狙ったようだ。機関砲も機銃も滅茶苦茶に撃ちまくり、次第に胴を振り回して手当たり次第に弾をばら撒くだけの生き方を始めたらしいが。
「やっぱこういうところは動きやすいぜぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!」
俺も横合いから『スティレット』をお見舞いしようとしたその時だ。
上空からあのやかましい声がした。フェルナーの元気なやつだった。
一体どうしたんだと見上げてしまえば、そこにあったのは――
「叫ぶな馬鹿者があぁぁぁぁぁぁッ! バレたらどうするつもりだお前は!?」
……竜らしい赤い翼を広げて飛んでいるご本人と、それに持っていかれるレイナスの甲冑姿だった。
何をしでかすのかと思えば二人はそれなりの勢いでウォーカーへ向かっていく。
もちろんやかましさのせいでバレバレだ。四足は突然の空襲に引き始めるも。
「……何やってんだあいつら」
『……と、とんでるね……!?』
使うべきべきか迷ったスティレットを向けた。狙うはその脚だ。
起こした照準に着地する前足を見越してトリガを絞る。
*Bashhmmmm!*
発射。ずんぐりした弾体が一瞬落ちていくのが見えた。
狙いは完璧だったようだ。あの足がつくのと同時に――ばぎんっ!と装甲をぶち抜いたようで。
「よっしゃあああああレイちゃん投下ァァァァ!」
いいタイミングだった。フェルナーがあの甲冑の重さをウォーカーの頭上へ落とした。
レイナスが動きを止めたそいつに飛び降りると、予想外の客を乗せる羽目になって大騒ぎだ。
『――警告、警告! 直ちに当機から降りなさい! 繰り返す! 直ちに――』
四足のウォーカーがじたばたと暴れ出すが、もう遅かった。
元魔王というだけあるのか、あの重たそうな身体で脳天に当たりそうな部分でがっちりしがみつけば。
「……ううううおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!」
とんでもない叫びが響く。
それ相応の一撃がごんっ、とこっちまで耳に届いた。
もしかしてぶん殴ってるのか……? そう思って思わず呆気にとられると、レイナスはその通りだった。
ごんごん、がんがん、思う限りに陣取ったそこを殴り続ける。
『けいこっ、くっ、救援、救援っ、し、こわい』
工事かなんかしてるのか、そう思うぐらいの騒音に変わると、とうとう機械が根を上げる。
すさまじいぶん殴りを急所に繰り返されたウォーカーは何度かぐらぐら不安定さを見せた後、だらりとその胴体を地面へと下ろしていく……。
「……まじかよアイツ!? 素手でぶっ壊したぞ!?」
『うわあ……』
間違いなく撃破だ。ぎゅるぎゅると断末魔めいた機械音が遺言になった。
レイナスはめり込んだ腕を引き抜くと、がしゃっと用済みウォーカーから降りてきたようだが。
「すごいなお前! ウォーカー殴り壊しやがった!」
「ゴーレムとの戦い方はフランメリアで確立されて――って!? イチ殿! 後ろ、後ろォォォッ!」
すげえ、と拍手でもしてやろうかと思ったが、甲冑姿は爆音ボイスで呼びかけて来た。
後ろ? おいまさか――咄嗟に振り向けば。
『危険因子を発見! 破壊、破壊、破壊! 解体工事を開始します』
そこにいたのは2mを超える人型。いわゆるエグゾってやつだ。
あの外骨格をゆるやかな形の装甲で覆って黒と黄色の作業的な警告色を施したものだ。
その手にはずいぶんと分厚いブレードをもった丸鋸のようなものが持たされていた。というか、ぎゅるるるるるっと回転を始めて……。
「……おいおいおいおいこいつもかよォォォォッ!?」
ヤバイ、解体されちまう!
本能がそう気づいて引こうとしたが、電子的な笑い声が襲い掛かる。
咄嗟にハイド短機関銃でガード。銃身と機関部あたりでぎゅりりりりっと火花が散った。
すさまじい振動が手を押し戻す、回転する感触が金属をぶち抜いてどんどん近づく、くそっふざけんなこんなもん使いやがって!
「う、おおおおおおおおおおおおおお!?」
『いっいちクン!? だ、誰か――』
路地いっぱいに火花と仲良く血しぶきをぶちまける――そんな考えがよぎってすぐ、横をニクが駆けた。
「ご主人から離れろ……!」
しゃきんと槍を展開、すれ違いざまに無人エグゾの脇腹を叩いた。
強みのこもった声だけあってごいん、といい音がした。金属鋸を空回りさせつつ仰け反る。
だが手持ちの機関銃がぱっくりと割れた――くそっ、人の大事な武器をやりやがって!
「ナイス、ニク! この……!」
そこへぶぉん、と力任せの振り回しが向けられた。
ニクがしたっと飛んで回避、こっちもバックステップで間合いを取りつつクナイを抜いた。
爆発するお友達だ。ピンを抜いて絶交、空振りしたばかりの敵に向かって。
「人がくっそ悩んでる時期に来やがって、クソロボットが!」
全力投擲! 【ピアシングスロウ】だ!
アーツの力を込めて首元あたりにぶん投げるといい音がした。しかし敵は止まらない、必死にこっちを追い求めてくる。
「イチ君、伏せたまえ!」
そこにちょうどよくヌイスの声がした。何をするか知らないが、ふらりと斜めに下がって射線を開けると。
――ばぢんっ!
そんな放電音のようなものの後、すぐそばを何かが過っていく。
電気の塊か? 一目でそうだと分かる質量がエグゾに飛ぶ。
見ればいきなり何かを食らった外骨格がばちばちとショートしながら立ち止り――
「おっと危ない」
俺は腰にあった『取っ手』を手にして構えた。
ニクと一緒にシールドを立ち上げた途端。
*zZbaaaaaaaaaaaaaam!*
無人エグゾが爆ぜた。破片やら爆風にぐわんと膜が揺らめく。
飛んできた頭部の装甲すらも受け流すと、振り向いたところにヌイスがいた。
「やあ、見事な一撃だったね。なんというか対戦車兵器だよ君は」
見れば手にドアノブを思わせるような妙な銃を握ってた。
そいつのおかげなんだろう。欲を言えばエグゾを綺麗に吹っ飛ばすぐらいはしてほしかったが。
「援護どうも。ところでなんだそれ? ブルヘッド製の武器か?」
「これは私が作った武器だよ。『ヌイスの電撃銃』とでも言おうか、まあ無人兵器に効くみたいだね」
金髪白衣の美女は「どうだい?」と黒い銃のようなものを見せてくれた。
銃口も弾倉も見当たらない、言ってしまえば出来の悪い玩具みたいなものだ。
そんなものが外骨格を嫌でも止めてしまうのだから、結構な威力なんだろうか。
「おらああああああああああああああああっ! どうした、どうしたぁぁぁ!」
そこへプラトンさんの盛大な叫び声もやってきて、俺はすぐに通りへ戻った。
ぶっ壊れたハイド短機関銃を捨てて向かうと、そこにいたのは四メートルはゆうにある巨体だった。
かろうじて人間らしい四肢とバケツみたいな頭部を持った『巨人』で済むような――ウォーカーなんだろうが。
「こんなんだったらフランメリアの近衛ゴーレムの方が10倍つえーぞ! 舐めてんのかコラァ!」
そこへ横合いからのスピロスさんが巨大な斧をぶん回す。
あたりには叩き切られたであろう機関銃の銃身やらミサイルの発射筒やらがぶちまけられ、無人のそれは身体のあちこちを一歩引くたびに切り刻まれていた。
『撤退、撤退……!? 危険生物を感知! ただちにきゅうえ』
「うるせーぞ! 死ねェ!」
機械もびびるほどに違いない。とうとうウォーカーがずんずん後ずさりをしたところに熊のハンマーが足をへし折る。
そこへ振り落とされた斧が両足すらもぐと、腕だけでじたばたもがいて逃げようとするが。
「あー、君たち、そいつを調べたいから半殺し程度で済ませてくれないかな?」
非常識な光景にヌイスがそう伝えると、二人は顔を見合わせて。
「ヌイスの姉ちゃんが生け捕りをご所望みたいだぜ、プラトン」
「じゃあ手足もいどくか、右頼むわ」
「おう、じゃあなゴーレム、悪く思うんじゃねえぞ」
ごしゃっ、ごりっ。
斧と槌が両手すらもいでしまった。四肢を失ったウォーカーはただの置物に変わった。
『メーデー、メーデー』だけが口にできる言葉になったようだ。気の毒に。
「ワーオ、残酷」
『うん、生き物じゃないのにエグいです……』
「一応言っておくけどね、人工知能だった私からすると結構複雑だからね? 同族がひどい目に会ってるような気分だよ」
狂ったAIで動くそれにヌイスがそれはもう複雑そうに近づくと、電撃銃とやらをバケツ頭に押し付けた。
そして撃った。ばちんと痺れる音を残して機能が停止した。
「ひっさあああああああああああああああああつ! ドラゴンドロップウウウウウウウウウウウウウ!」
そこにずどぉんっ!と何か落ちて来た……お引越しの時に見たエグゾだ。
抱き着いたフェルナーによって脳天が見事にアスファルトに叩き込まれてる。
ブルヘッドに現代アート一つ追加だ。赤髪のイケメン顔が「どうよ」と感想を求めて来たが。
「フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 敵で遊ぶなと言ってるだろうがァァァ!」
路地からがしゃがしゃレイナスが戻ってきた。両手で掲げた外骨格とご一緒に。
『離しなさい! 離しなさい! 離せ、警告、当機の活動を阻害したものは罰金――』
「レイナス、お前も遊んでる場合か! せえええええええいッ!」
「誰が遊んでるか! やれ、アストヴィント!」
そんなところに元魔王なリザードマンもやってくる、甲冑の手のひらの上でじたばたするエグゾが放り投げられると。
――じゃぎん。
妙な金属音がいっぱいに聞こえた。そう、まるで金属を断つような。
見ればあのアストヴィントが片手程の剣で迎え撃っていて、その左右に外骨格の半身がごろっと転る。
そう、つまり、文字通り両断したわけである。上半身と下半身は今日をもって縁を切った。
『エグゾを斬っちゃった……!?』
「元魔王っていうのはマジなんだろうな、うん……」
そして気づけば一方的な虐殺が始まってた。
どこからともなく現れた無人外骨格が巨大な矢にぶち抜かれ、質量たっぷりの得物で殴り殺され、魔法で焼かれ凍らされ機能停止に至る。
スティングで実戦を重ねたフランメリア人に掛かればこんなもんだ。気づけば静寂があった。
「いやあ、いいねえ。こいつらいるとほんと楽ができて気持ちがいいよな」
騒ぎが収まってくると、ひょこっとデュオが戻ってきた。
タバコを嗜む程度には余裕だ。というかもはや敵の姿はどこにもない。
「どうなってんだよあんたら……うぉ、ウォーカーぶっ壊しやがって……!?」
「実に素晴らしい……。ファンタジーな方が来たという噂はそれはもう、実に耳にしておりましたがこれほどだったとは。感服しちゃいましたよ、ええ」
ラザロとエヴァックもやってきた。驚きと感激が織り交じってる。
「……なんか普通に倒せたな、俺たち」
『……うん、そうだね』
もう暴れ回る無人兵器はいない。それどころか逆にこの有様に気づいた住人たちが戻ってきていた。
「ヌイス殿! 俺様も生け捕りにしてきたぞ!」
「流石フランメリアの皆さまっすねえ、無人兵器が哀れになるぐらいっす。あひひひっ」
ノルベルトとロアベアなんてどこでどうしてきたのか、四肢をもがれただるま状態の外骨格を引きずってきたぐらいだ。
あたり一面にはバケモンどもが食い散らかした敵の残骸がはしたなくぶちまけられていた。
それはある意味、このあたりが救われた証拠なんだろうが。
「あのさあ君たち、なんていうか……うん、もう何も言えないよ」
街の人々に混じってエミリオたちも来た、どうも避難を手伝ってたらしい。
無機物相手に死を振り向いた俺たちは自然と集まっていた。エルフから社長までずらっと、戦闘後のくせで集結してしまえば。
「すっ……すげえ……!」
「おい……今の撮ったか?」
「ははっ、冗談だろ……ウォーカーに勝ちやがったぞこいつら」
「なんてやつらだよ、信じられねえ! おい、やったなあんたら!?」
「た、助かった……ありがとう、フランメリアの人達。マジで……うん、どうなってんだよこれ……」
戦いが終わったと感づいたブルヘッドの人達がわんさかやってきた。
四方八方あれこれ騒ぐ人間だらけだ。逃げ場が塞がるほど殺到してきて、ある意味敵より厄介なのは言うまでもない。
◇
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