魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

ヴァルハラ地下の物言わぬ外骨格 (メリクリ)(01/04修正)

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 元魔王が四人も集まってるという中々に力強い集まりといろいろと話した。
 面白い昔話だ。フランメリアがいかにぶっ飛んだ国だったかを物語ってくれた。

 そもそも『テセウス』は人間とバケモンが争うそれらしい・・・・・世界だった。
 各国でクソお利口な英雄が「人間万歳」と至上主義を振りまき、昔ながらの伝統とばかりにあの口この口魔女を狩る。
 人外な奴らの中に野望やら復讐やらが生まれて指導者が立ち上がり、いつしか「どうも魔王です」と人類に向かう。

 そんな世界で規格外のやつが現れた。アバタールだ。
 迫害された魔女を呼び集め、魔王とか言うこれまた規格外なやつと人生を共にし、バケモンどもも集めて次第に人間すらも寄って来る。
 人間と人外を欲張りに招き入れた存在はきっと面倒な存在だったに違いない。
 良くも悪くも世界中から注目されたフランメリアは世界の裏切者になったわけだ。

 「人外と仲良くすんな」と「人間と仲良くすんな」に挟まれてそれはもう不安定な時期があったそうだ。
 それを過ぎれば今度はいろいろな理由で各国がすり寄ってきた。
 金儲けのチャンス、政治的な理由で、旗上げの踏み台として、様々である。

 すると今度は魔王が「人間と裏切者の地」とかいって襲い掛かりました、ところが現実はつらかった。
 歴代最強の魔王とか言うやべーやつとアバタールがくっつき、人外どもは人類以上に豊かな社会と土地をその手にしていましたとさ。
 
 ――なんか同族が楽しく土地を開拓してる。
 ――なんか知り合いが学校で教師やってる。
 ――なんか人類と魔族が共存しておられる。

 そんなものを見せつけられた魔王を名乗る連中はどうしたかって?
 冷静になって見極めるやつがそこそこ、怒りのあまり襲うやつが少数、残りはノリと勢いでとりあえず居座った。
 世界各地から魔女すら移住しまくって生活環境ばっちり、彼女たちの望む文明をお望み通り作ってやったので混沌国家フランメリア爆誕!

「――そういうわけでなんもやることないから、四人で冒険してました」

 場所は変わってヴァルハラの広い地下、そんな場所でフェルナーは語っていた。
 そこは室内戦闘訓練場を見下ろせるところだった。
 手すりの下では屋内での交戦を想定した部屋が幾つもあって、暇なエルフたちが銃を手に一試合勤しんでいる。

「なるほど、意気揚々ときたらその必要もなくてすっごい困ってましたと」
『……フランメリアってそんなにすごいところだったんだね』
「そりゃそうだ、あの当時はフランメリアの民って名乗るような連中はくっそ忙しそうにしてたからな。もうすげえ勢いで生活基盤整えててさ、俺たちみたいなどっかの地で威張ってた魔王がずかずかやってきても構う暇がないっていうか」
「魔物たちが豊かに暮らせる理想郷、というのが既に出来上がっていたのですよ、イチ殿。そのようなものを心から望む者にとっては、途方もなく困難な願いが目の前で叶いつつあるようなものですからね……」
「魔法壊しと最強の魔王がその頂点に立っていたんですから付け入るスキがありませんでしたよねー、ていうかみんな国づくりに励んでて私たち「邪魔するなら帰って」ってシカトされましたから。腹立ったんで居座りましたけど」
「それがしはいち早く仕えましたぞ。内にも外にも敵に事欠かぬということはこの太刀筋を振るう機会に恵まれておりましたし、部下も衣食住に困らぬ恵まれた地に腰を下ろせるのですから文句などありませんでした」

 魔王やめて好き放題になった連中は懐かしんでる。
 そのタイミング、四人の目線の先でまさに今両陣営が接敵したらしい。
 ヴァルハラ屈指の傭兵どもがお行儀よく、順を作って銃を構えて通路へ前進。
 その向こう、現代的な得物を手に「どうする」と固まるエルフどもがこまねいてた。

「……そして俺がそんな場所を作ったやつを半分ぐらい受け継いでるってさ。もう何がどうなってんだか」
「そんな事実知ったら自分のアイデンティティとかすっげー不安にならね?」
「すっげー不安になってんだよ。あとアバタールモドキが世の中をお騒がせしてすみません……」
「心配すんなイっちゃん、アバタール要素半分ならカロリーも後ろめたさも半分だぜ」
「じゃあ俺はカロリーオフか。それと劣化コピーとか言ったことは忘れないからなフェルナー」
『カロリーオフ……!?』
「ごめんなさい!」
「フェルナー! お前はどうしてそう失礼な言葉を口にできるんだ!? 本当に申し訳ございませんイチ殿、もしこいつの言動で不愉快な気持ちにさせてしまったら」
「いや気にするな、むしろ全人類に謝んないといけない俺の方がよっぽど罪深いと思う。もうぶっちゃけるけど嫌な夢見て銃片手に飛び起きたぐらいに」
「重症じゃんそれ、大丈夫なん? 病院行っとけよ」
『自分から言っちゃうんだ……!? えっと、いちクンちょっといろいろ悩み過ぎてるんです。優しくしてあげてください……』
「そりゃ気の毒だぜ、よしよし」
「よしよし……」

 ドラゴンの手と犬の手に背中をよしよしされてると、キルハウスがまた動く。
 ヴァルハラ系傭兵どもが45口径のカービンで射撃しつつ前進、援護を受けた奴がそっと迫る。
 実銃に装填した訓練用の弾 ("BS"というペイント弾らしい)が壁に青色をばすばす作って、その先にいたエルフたちは大混乱だ。
 室内の狭さに難儀してるところに二人撃破、反撃しようとすっと身体を見せた奴にもヒット、傭兵どもは素早いぞ。

「でも皮肉なことなんだけどよ、元魔王の連中からすればみんな口揃えて「あの時が楽しかった」なんだぜ」
「確かにな、我々以外にも数多の魔王たちがフランメリアに身を構えたが――人も魔物も等しく忙しい混沌としたあの時代は、誰もが生きた実感を得たその時だったな。私もそう思っている」
「正直何考えてるかよくわからない魔女とか言うめんどくさい人種のことが、よーーーーく分かった時期ですからね、あの時って。彼女たちの持つ技術に世界各国がすり寄ってきてちょっと楽しかったですよね、手のひらくるっくるで」
「かのイグレス王国もフランメリアの魔女あってこそだからな。よく魔女たちは「今更頼んでももう遅い」と意地でも国に帰ろうとしなかったのを覚えてるか? 無理やり連れ戻そうとしたところを我々が颯爽と駆けつける時が一番の楽しみだった……」

 四人がまた思い出を口々にすると、エルフ部隊の反撃が始まった。
 あの白エルフが不慣れな様子で銃を構え――びすばす戦闘服を青く汚したまま前進。
 誰がどう見てもアウトだ。実戦だったら惨殺死体が出来上がると思う。
 だが止まらない。平然とした顔でずんずん進む淑女の姿に傭兵どもはお手上げだ。

『おい待て、いったん自分の身体を確認しろ。鏡が必要なら持ってきてやるが撃たれてるんだぞ、大人しく退場してくれ!』
『大丈夫です、これくらいなら死にませんから』
『いやそうじゃなくてだな。こういう時は人類の掟に従ってくれないか? お前らはゾンビかなんかなのか?』
『流石のエルフも脳か心臓を失えば亡くなりますよ』
『俺たちと同じつくりだなんて死ぬほどうれしいが、とにかくお前はやられたんだ。負傷者ってことで出てくんだ、いいな?』
『いや何してんのアンタ、いつから不死身になったの?』
『どうも人間はこれくらいで息の根が止まるようですね、本当に脆弱』
『畜生、フランメリアの奴らってのは思考も化け物かなんかなのか?』

 白エルフは金髪エルフによって退場させられた。これにて人類の勝利だ。
 ヴァルハラの兵士は「なんだったんだ?」と肩をすくめてた。ちょうど見下ろしてた俺たちにも向けられた。

「で、そんな半分アバタールのイっちゃんは向こうについたらどうすんだよ?」
「色々」
「どういろいろなのか俺気になっちゃう」
「被害にあわれた方を回って、どんな影響を世に与えてしまったのかとかアバタールのこととかちゃんと調べて、それからミコの友達にも説明しにいって、それから安定した住まいと食うに困らない程度に安定した収入を……」
「めっちゃ考えてんじゃねーかオイ」
『……いちクン、ずっとそのこと考えてたの?』
「あたり前だろ、向こうについて「はい終わり、俺の勝利だ!」で済むような問題じゃないんだぞもう」

 そんなところに飛んだ問いかけのせいで、こうして悩みも蘇る。
 向こうについたら俺は一からの再スタートだ。
 寝床から生きる理由まで自分でどうにかしないといけない。
 最悪だがリム様のヒモ、次点はイグレス王国の王女様のもとで紅茶まみれになる選択肢があるが。

「ちゃんとそこまで頭が回ってるのは偉いと思うけどよ、今そんなことで悩むのもかえって毒だぜ?」
「イチ殿はしっかりとあちらでの生活を考えておられるようですが……しかし、アバタール殿の力を継ぐ者が現れたとなれば世間は騒ぐでしょう。それが心配です」
「それどころか「魔壊し」を求めていろいろな人が殺到してくるかもしれませんよね。下手に目立つとフランメリアが大騒ぎになっちゃいますよ、二度目の混沌とか私めっちゃ楽しみですけど」
「アバタール様に因縁がある他国から刺客が送られるやも知れませぬな。まあそれがしで良ければそのような輩、いくらでも相手に取ってやりましょう」
「もう隠すのも無理だろこれ、フランメリアで機関銃持って暴れ回って誰も近づけないぐらいワルになろうか考えが及んでる」
「じゃあ俺も一緒に暴れるぜ! 二人でダークヒーローになるかイっちゃん!」
「フェルナー、お前はもう少し言葉を選べ! というかイチ殿、そこまで思いつめないでください!」

 ところがこんな力があるってことは、そりゃ嫌でも目立つわけだ。
 こそこそする? 無理だ。性格的にも能力的にも「実はすげえやつです」なんて振舞う生き方はできない。
 剣と魔法の世界で近代兵器で武装してヒャッハーする奴になるしか道はないのだ。
 誰がいったか生活スキル皆無がいまここで牙をむきかけてる。

「……とりあえず向こうについたら一人暮らしできる程度の生活能力は手に入れようと思う」
「え、なに? 生活能力? 一人暮らしできないぐらいだらしないの?」
『いちクン、難しいことは考えないでおいて、今はりむサマとかからお料理とか習おう? いい気分転換になると思うし、うん……』
「もう駄目だ、このままじゃリム様のヒモかイグレス王国の紅茶奴隷になるしか道がない」
『ヒモと紅茶奴隷……!?』
「リム様いい奴だから大丈夫だろ、ヴィクトリアちゃんはちょっと距離置きてえけど」
「ヒモとかなんかカッコ悪いからイヤだ……」
「い、イチ殿……とりあえずは向こうについたら拠点となる宿から探しましょう、クラングルあたりがおすすめですから。だからそんな落ち込まないください」
「あのメイドさんの言う通り生活能力皆無なんですね、うちのリーダーとそっくりです」
「一緒にする相手を選べ、失礼だぞ。だがかのアバタール様も生活能力がないと噂されていたような……」
「フェルナーと一緒か、死んだも同然だ……」
「ひっでえなおい!」

 とうとう四人の元魔王に励まされてしまった。
 フランメリアが混沌としてるのも社会不適合者を指導者に迎えたからか。
 未来の自分よ、俺たちはもっと早く生活能力について学ぶべきだったと思う。

「――進展ありだぜ、諸君!」

 空っぽのキルハウスを眺めてると実にいい声がした。
 デュオがご機嫌な様子でいやがる、地下空間に居座る顔ぶれもぞろぞろ集まる。

「その様子からすると、どうもいいニュースでもあったみたいだな?」

 俺は手すりから飛び降りた。着地すると「そうさ」とあいつは笑んでた。 

「おお、動きがあったのだな。してどのような報告があるのだ?」

 ジムからノルベルトもきた。どんな過酷さだったのか金髪に湯気が立ってる。

「もしかして傭兵の皆さまはお仕事をお諦めになったんすかね?」
「お前の笑顔からしてあまりいい印象を感じないが、こうして俺たちが好き放題に過ごせてるのだから前向きなものだろうな」
「いい知らせか、それで私たちの仕事ぶりはどんな結果をもたらしたんだ?」

 ロアベアやクリューサ、クラウディアもどこからかつられてきた。
 人とバケモンに囲まれるほどのカリスマ性あふれる社長殿は俺たちを招いて。

「まず大事な点だけ言っちまおうか。ラーベ社の奴らからお客様はもう来ねえ」

 そう言葉を広げつつガレージまで誘導してくる。
 仕事の成果があったのだからみんな大喜びだ、安眠の理由が一つできた。

「……はあ、やっと安心できたよ」
「やったじゃない、これで平気な顔して出かけられるわ」

 特にエミリオとヴィラは深く安心してた。
 そりゃ空き巣もされて前のご家庭がぶっ壊されたんだ、後を濁しまくったお引越しの成果があったならこうも安堵するのもやむを得ないというか。

「……その言い方は気に食わねえな。何か事情があるみてえじゃねえか」

 デュオの足がある場所で止まったところ、ボレアスが訝しんだ。
 確かにそうかもしれない。一言でいえば「もう大丈夫」だが知りたいのはその裏だ。

「まあその通りなんだ、ボレアス。正確にいや「それどころじゃない」ってのが正解だろうからな」

 だが、困ったことに疑問通りに沿った言葉が返ってくる。
 その理由・・・・がこれだといわんばかりに、デュオは壁際まで近づき。

「まず報告なんだが、どうも今朝から壁の外やら市内に潜む傭兵どもが次々とご帰還なさってるらしい。つまり俺たちにゆかりにあるやつが襲われることはもうなくなったわけだ」

 そこでまず出たのはいいニュースだった。俺たちを諦めたってことか?

「じゃあ俺の賞金はどうなったんだ?」

 すかさずポケットから嫌な顔した賞金額を見せびらかす――が、首は横振りだ。

「残念だがそのまんまさ、取り消されちゃいない。値下がりも値上がりもなしだ」
「は? まだ残ってんのか? じゃあなんで傭兵がお帰りになってんだ?」
『……おかしいですよね、賞金が残ってるのに撤退するなんて』

 おいおい、60000チップの呪縛はそのままにお帰りになるって?
 報復を諦めきれてないような気持ち悪さにみんながざわめく。
 未練たらしく賞金を残したままこぞって身を引く理由は? 誰もがそう訝しんでる。

「……捕虜が言うには君たちの暴れっぷりにうんざりしててそういうムード・・・・・・・だったことも関わってるけど、それよりも新しい情報を見つけてね。今朝あたりラーベ社の方でトラブルがあったみたいなんだ」

 そんなところ、落ち着いた声がどこからか挟まった。
 人混みをかき分けるヌイスがコーヒー入りのボトルを煽っていた。
 あの白衣姿もやはり壁際へと向かっていき。

「むーん、何かあちらで込み入った問題でも起きたのか?」
「つまりイチ様に構ってられませんって事態でも起きたんすかね?」

 ノルベルトとロアベアも視線がついていったようだ。
 何故なら壁際には、あの無人の『エグゾ』が無理やり立たされていたのだから。
 エミリオのお引越し中に現れたやつだ。今はもうスクラップとしか言いようがない。

「下っ端連中に聞いてもその仔細は浮かんでこなかったけれども、断片的な情報だけでも伝えるよ。どうもラーベ社は無人兵器を開発してたらしくてね」

 そんな破壊された外骨格に向かって、ヌイスはひどく落ち着いた口調だった。
 人様の命を狙った連中がそんな大層な物を作ってたのは意外だが、それがどう関わってくるんだろうか。

「話のタイミングからしてまさにこいつが関わってそうだな」
『……無人で動いてたよね、このエグゾアーマー。じゃあこれって』
「持ち主がはっきりしたな。そうなるとやっぱりその話ってのは……」

 俺も何も言わぬ何も動かぬなアーマーに近づいた。
 装甲をこんこん叩くと電子機器の詰まった鈍い音がした。そんなところへ。

「工場にあったものがひとりでに暴走したらしいんだ。おそらく鎮圧のために傭兵たちがかき集められたのかもしれないけれども、とにかく君に構っていられないぐらいの状況なんだろうね」

 ヌイスは淡々と、コーヒーのお供と言わんばかりにそれを見上げた。
 無人兵器が暴走するなんて壁の内側でとうてい聞きたくない言葉だ。

「……あんな趣味の悪い企業が努力して後ろめたいもの・・・・・・・を作ってたなんてそれほど驚くことじゃないけど、暴走するっていうのなら話は別だよ」
「……無人兵器と暴走なんてすばらしい組み合わせね、聞きたくなかったわ」
「おいおいなんてニュースだ、そいつはまさかテュマーと仲のいいアレのことか?」
「壁の中で暴走兵器か、最悪の組み合わせをどうも」

 実際、スカベンジャーやらはフォート・モハヴィの件を思い出して嫌な顔だ。
 俺たちだって都市いっぱいの機械ゾンビが連れ回す人殺しマシンが思い浮かんでる。

「事態はひとまず落ち着いたらしいよ。でも市民にちゃんと伝わってない点からして、傭兵たちが急遽戻ってきたのも関係があると思う。とにかく、君たちはもう安心して外へ出られる――けれども」

 不吉な知らせはとにかくだ、これで俺たちは堂々と壁を抜けて北へ向かえる。
 けれどもヌイスは複雑な事情を抱えてしまった無人エグゾをまじまじと見て。

「問題はこれだね。誰かさんがぶち壊して持ち帰ってきたこれが、ラーベ社が引き起こした何かの手がかりになってしまったんだ」

 そこに秘められた謎に興味深そうにしていた。
 この場にいる全員は明るい顔して帰路につけるのだが、代わりにもやもやとしたものが残されてしまってる。

「そこに企業絡みの奴らから奪った無人エグゾアーマーか」
「うん。ちゃんと動く無人兵器なんてものを作れるのはニシズミ社ぐらいしかないから、彼らが怪しいと思って調べたんだけど違ったんだ。これはラーベ社が独自に作ったものだ」
「独自にか。ラーベ社もよっぽど頑張ったみたいだな」
「それがそうでもないんだ」
「そうでもないって?」
「ついこの前まで自動兵器の「自」すら難儀してたような連中が、いきなりこんなものを作れると思うかい? AIっていうのは君が思ってる以上に大変なんだからね」

 この都市の技術力なら無人で動く兵器なんてその気になれば作れそうな気がする。
 ところがヌイスが言うには「AIなめんな楽じゃないぞ」だそうだ。
 そんなものと無縁だった連中がある日突然こんな製品・・・・・を作れるようになったってか?

「……そうだよね、無人兵器のノウハウがまともになかった連中が突然こんなものを作れるようになったなんて妙だ」

 ここを良く知ってるエミリオもそういうのだから、事態はますますおかしい。
 更にそんな代物が暴走したという最悪の組み合わせだ、何かよからぬことがあるぞ。

「私もあの手この手で調べたんだけど、もっと悪いニュースが出て来たんだよ」
「ははっ、もっと悪いのがあるって? 冗談はやめておくれよお姉さん」

 そう、その最悪をヌイスは今まさに言おうとしてる。
 俺たちも本能的に「まずい」と背筋が気づく。エミリオなんて引きつった笑みだ。

「君たちはフォート・モハヴィから無人兵器のパーツやらを持ち帰ったね? ちょっとそいつを拝借して調べたんだけど――」

 そして白衣姿は自分をまさぐった。
 出てきたのは小さな基盤だ。
 ちょうど『デザートハウンド』と名付けられた無人兵器の頭から抜き出したような、お手頃サイズの電子部品で。

「この無人エグゾアーマーにそいつと同じプラグラムが組み込んであったんだ。それもウィルス付きでね」

 白い指先がそれをエグゾに重ねると、この世に最悪の組み合わせが生まれた。
 感染済みの無人兵器のプログラムをぶっこんだ自立型のエグゾアーマーだ。
 おいおい、一番聞きたくない言葉が生まれちまったぞ。

「そりゃ……つまりだぞ? 壁の中にウィルス感染済みの無人兵器が現れたってことにならねえか?」

 仕事柄良くご存じであろうボレアスの顔色が引くのもやむを得ないと思う。
 現に本人はフォート・モハヴィの件を思い返してるところだろう、ぞっとしてる。

「……そこに無人兵器の暴走か、すっごい嫌なものが浮かんだけど俺だけじゃないよな? 他にいるかちょっと確認したい」

 壁に守られた都市の中、どっかの企業の無人兵器が、ウィルス感染して暴走。
 こんな最悪のコンボに心が触れる奴なんてあの大廃墟を生き抜いた連中だ。
 ブルヘッドのどこかで間違いなくヤバイことが起きはじめてる。

「まあ、それでだ諸君」

 ものすごく微妙な空気が流れる中、デュオは切り替えるように言った。

「これで全員、ひとまずは刺客の心配はしなくて済むようになった。だが今度はウィルスに感染した無人兵器だ、そんなものをラーベ社が作って運用し始めたとなるとやべえ話になっちまうんだよな」

 その向かう場所は紛れもなくこの無人エグゾアーマーである。
 こうして突っ立ってるならまだしも、テュマーどもに奉仕するようにひとりでに人類を襲い始めたらただの大問題だ。

「そこで一応、フォート・モハヴィの一件もあるもんだから本件に何か関わってないか、とニシズミの方に連絡を入れたんだが……本社の人間が実際に見て確かめたいと言ってたんだ。どうもストレンジャーと面識のあるやつらしくてな」
「俺か?」
『……面識があるってことは、ベースで会った人かな?』
「そう、いろいろ質問して答えた仲らしいじゃないか。お前がいるなら安心ってことで今そいつが向かってるんだ、良かったら同席してくれねえか?」

 そしてデュオはニシズミ社にこの話を既に持ちかけたみたいだ。
 命を狙われる脅威は(向こうがそれどころじゃなくなって)薄まったが、代わりに立ちふさがる問題は偉くデカくなってしまった。
 ここで力になってくれるのは、ついこの前知り合ったニシズミ社というわけらしい。

「次の頼みはブルヘッドの平和を守れ、か?」
「まあそうだな、正しくはラーベ社に恥かかせて我が社の利益を増やしてくれ、だ」
「分かった、俺としては二度と人の首にチップかけられないように丁寧にぶちのめしたいからな。任せてくれ」

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