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広い世界の短い旅路
魔王殺しの真相(01/02修正)
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「……これまた物騒なクイズだな」
眼鏡エルフの人柄の良さから出てきたお題ってのはそんなものだ。
「魔王殺し」とかいう力強い名なんて初耳だが、まさかその通りのことをしでかしてるんだろうか?
『ま、魔王殺し……ですか……?』
「ん、魔王をやっつけたの?」
ミコとニクも続いて意味を知りたがってるが、アキはいい笑顔のままで。
「さて、クイズを始める前にお聞きしたいのですが――イチ殿はアバタール様が魔王とご結婚なされていたことはご存じでしょうか?」
そんなことを尋ねてきた。人工チョコを一枚がさごそ開きながらだが。
そういえばリム様にテセウスの話をしてもらった時に耳にした気がするな、数百歳は超えてる人外な女性と結ばれたとか。
「リム様に話してもらった時、なんか聞いた気がするな。何百歳もある魔王と結婚したとか、なんとか?」
『……言ってたね、そういえば。最後の魔王、だっけ?』
あの時一緒に耳にしていた仲でどうにか話の内容を思い出してると。
「ふむ、あのお方が話してくれたのですな。ご存じのようで安心しましたぞ」
感心するようにうなずいていた。どうも未来の俺は魔王と結ばれたらしい。
一体どんな人生を歩んでいたんだろう、転生した挙句にそんな恐ろしい名詞を持つ女性を伴侶にするなんて。
「……で、それって今の話と関係あるのか?」
しかしだからといって「なぞなぞ」とどう関係があるのやら。
すかさず突っ込むも、まるでそうくると思ったばかりにいい顔をしていて。
「大切なヒントですぞ。まあ私からの手加減ということで」
「今のがヒント? どういうことだ?」
疑問を植えつけといて、人(エルフ)の悪そうな様子でニヤニヤしてきた。
ここから答えを導きだせってことなのか? そう思ってた矢先に。
「それではお三方、たった今『アバタール殿は魔王殺しと呼ばれていた』と申しましたが、そこであなた方が質問してください。私はそれに対して「はい」「いいえ」「関係はありません」と答えるので、そこからどんな背景があるのか推理していだきたいのです」
向こうは穏やかな口調でそういってきた。
一つの題に質問をして答えに近づく――なんだったか、そんな形式のクイズが動画サイトに良く上がってた気がする。
『……あっ、もしかして水平思考クイズ……?』
ミコも触れるものがあったようだ、その言葉にますます思い当たるものがある。
そうだ、確かタカアキとゲームで遊んでるときにそんななぞなぞをされたような。
「水平思考クイズ……ってなんだ?」
『えっと、ウミガメのスープって知ってる?』
「ああ、ウミガメのスープか!」
『そう、それ! けっこう前にセアリさんたちとやったなぁ……』
いや、ミコのおかげで分かった。これはウミガメのスープだ。
出題者出すほんのわずかな問題に、参加者が少しずつ質問して真相を暴く遊びだ。
アキは「ウミガメのスープ?」と首をかしげてるがそういうことだ、謎を解いてもらいたいんだろう。
「……それっておいしいの?」
「ニク、ご飯じゃないぞ。質問して問題を明かしていくんだ」
『えっと、アキさんにいろいろと尋ねて、その反応から答えをあてる遊びだよ。ご飯じゃないからよだれふこうね……?』
ニクは理解できてないようだ。じゅるりしてたので拭いてやった。
「分かった、質問して答えにたどり着けばいいんだな?」
「ええ、その通りです! さすがイチ殿、理解がお早いですな」
「前に幼馴染がこういうクイズにハマっててひどい目に会ったからな」
「おや、なぞかけが好きな身内の御方がおられたのですか?」
「まあ理解できないせいへ……部分はいっぱいあったな。オーケー、チャレンジだ」
人類に理解できないエルフ文化の戯れとかじゃないのは確かだ、なら挑んでやる。
さっそく引き受けてやると、なんとまあアキの嬉しそうなことか。
「よろしい。ではイチ殿、今一度復唱いたします。『アバタール様は魔王殺しと数多の者たちからそう呼ばれておりました、それは一体なぜでしょうか?』」
大人しい声がまた『魔王殺し』クイズの題材を読み上げた。
例えばだが、参加者たる俺はこれからこう質問するのだ。
「えーと……そう呼ばれたのは誰かを殺したからか?」
そう、こんな風にだ。
未来の俺が魔王殺しなんてすごい名前をいただいてるのはさておき。
「いいえ、まったく関係ありません」
「魔王殺してないのかよ」
「ふふ、どうでしょうなあ」
質問に対してそう返されるのだ。つまりこれで「魔王は殺してない」と分かった。
……いや、魔王を殺してないのに『魔王殺し』ってなんだ。何やってんだ未来の俺。
『……それっていちクンの『魔力壊し』と関係はありますか?』
続く相棒の質問はこうだ。この力が関わってるかどうかだが。
「うーむ、お二人とも中々なところを突いてきますなあ。ですがここ「はい」と答えさせていただきます。関係がないとはいえませんからね」
ニヤつく眼鏡エルフは関心気味に肯定した。関わってやがるのか。
大層な名前がつく癖に魔王は殺してない、この力は関わってる、どういう背景だ?
ミコと「うーん」と悩んでいると。
「……その魔王っていうのは、悪い人なの?」
そんなところ、ニクがダウナーな声を上げる。
きょとんとした様子相応に純粋な疑問だった。だが――
「そうですなあ、昔は悪い人だったかもしれませんな? ここは「はい」と答えましょうか」
アキは少し嬉しそうにそう答えた。魔王は悪いやつだったそうだ。
でも眼鏡の重なる表情はなぜだか期待感でいっぱいだ。いい線なのか?
「……誰も殺してない、魔力壊し関係あり、魔王は悪い奴か」
『これだけじゃわからないよね……』
また悩んだ。いや待て「数多の者たちからそう呼ばれていた」だって?
たくさんの人が知っていた? 知れ渡ってることだよな?
「アバタールはたくさんの人の目につくような活躍をした?」
だから次の質問はこうだ。何をしたか見つけ出してやる。
「はい。その通りです」
相手の「YES」でまた情報が一つ追加だ。たくさんの人が知るようなことらしい。
俺はミコの質問に期待した。きっとあいつならここから切り込んでくれるはずだ。
『……魔王って、いっぱいいましたか?』
相棒の質問が飛んだ――するとアキは「なるほど」と言いたそうにうなずき。
「はい、それはもういっぱいでした」
まるでいい質問だったといわんばかりの良い声が返ってきた。
魔王がいっぱいだとさ。その言葉通り世界の存続を脅かすやべーのがうじゃうじゃいた、という意味じゃないよな?
「どういうことなんだ……」
『いっぱいいる魔王ってなんなんだろう……』
しかし逆に謎が深まった。山盛りの魔王がいる世界ってなんなんだろう。
そんなところで『魔王殺し』とか本当に何をしたのやら、そう思ってたところ。
「魔王っていう人たちは、アバタールと仲良しだった……?」
ニクがまた問いかけた。出題者の顔はというと「YES」だ。
「はい、とても仲良しでしたねえ」
その結果、いい顔で「アバタールと魔王仲良し」という情報が生まれる。
それなのに魔王殺しだぞ? つまり「魔王退治」だとか言う路線はもうない。
でもたくさんの人が知っていて、俺の力も関わってる……どうなってるんだ?
『魔王っていう人たちは、侵略したり世界を征服しようとしてましたか?』
と思えば、ミコの口からファンタジーらしい口ぶりが飛ぶ。
悪い人かどうか見極めようという気を感じるが。
「はい! 征服しようと野心たっぷりでしたなぁ!」
出題を台無しにするぐらい食いついてきやがったぞ、アキのやつめ。
ということはマジモンの魔王だったのか。そんな奴らと接触したってことか?
「マジ魔王だったわけか……」
『本当にそれっぽい人たちなのかな……?』
「ん、じゃあアバタールと魔王は戦ったの?」
質問に続いてくれたのは我がわん娘、ニクだ。
「いいえ、まったく」
お返しは「NO」だ、だけど顔つきはいい感じのところを表しており。
「……アキ、お前も関わってるか?」
なら搦め手だ。俺は出題者にそう尋ねた。
本当の話を絡めてるのであれば、この眼鏡エルフに尋ねる権利はある。
「――はっはっは、あるんですなあこれが。答えは「はい」ですぞ」
我ながら卑怯な質問だと思ったけど、クリティカルヒットだったようだ。
おいおい、話がヤバくなってきたぞ。
『えっと――フランメリアが関わってますか?』
「はい、とても関わってますな」
「じゃあ、その魔王と結婚したことと何かつながりはあるのか?」
「うーむ、関係してるでしょうなあ。ここは「はい」で」
「ん……魔王って人たちは、アバタールの敵だった?」
「そうですなあ……「はい」「いいえ」のどちらでもありません」
三人であれこれ尋ねるも、答えが浮かばない。
うっすら感じるのは二つ名通りのことをしでかしたことじゃないってことだ。
魔王ってのは悪い奴らで、そんな名前相応の連中をアバタールは目の当たりにした……となれば。
「……さて、何か答えは思いつきましたかな?」
さんざん質問を繰り返した挙句、アキはニヤニヤしながらそう尋ねてきた。
俺は少し考えた。こいつは剣と魔法の世界で起きた事実に基づいた質問だ。
そもそも今のフランメリアはどうなってる? スピロスさんやらノルベルトやら、いかにもヤバそうな見た目のやつが平和に暮らしてるそうじゃないか。
なのに魔王殺し? じゃあ――
「答えいいか?」
「おや、分かりました?」
「どうだろうな、俺の答えはこうだ」
俺は少し思いついて手を挙げた。
こいつがだめならミコがいる。アキは嬉しそうに答えを待ってくれたので。
「ある日フランメリアに魔王が攻め込んできた、でもアバタールはその力でなんかこう……全員無力化して大人しくさせた。誰一人殺さないで平和になって『魔王殺し』って呼ばれたんじゃないか?」
自分の力を絡めてそう答えた――のだが、
「うーん、違いますなあ。実に違いますなぁ! でも攻め込んできたのはいい線です」
ものすごく嬉しそうに「違う」と否定された。腹立つなこいつ。
これで一つ失敗したが続きは物言う短剣だ。きっと俺よりいい答えを出すはず。
『……あの、もう一つ質問なんですけど』
「おや、なんでしょうか?」
『その魔王って、私たちのそばにいますか?』
……ところがなんて質問をするんだろう、ミコのやつは。
いてほしくない人種なのは確かだ。だというのに、だというのにアキは。
「はい、おりますよ」
すげえ笑顔で言ってきた。おい待て、魔王がいるのかこのヴァルハラに。
「……え? 魔王いんの? マジモンの?」
「はい、ヴァルハラ・ビルディングにちょうどおられますなぁ」
『え゛っ!? あ、あの……もしかしてアキさん、だとかしませんよね……?』
「答えられませんなあ」
「……魔王って人外?」
「人間じゃなくバケモンですなぁ」
ミコの質問から次々とヤバイ実情が浮かんできた。魔王がいらっしゃるそうだ。
俺はなんてもんを呼び出してしまったんだろう。比喩的な意味じゃなくマジモンのそれが世紀末でおわすってことになるんだぞ?
「……ん、わかった」
ミコと「どう答えればいいんだろう」と考えてると、ニクがびっと犬の手を上げた。
「魔王っていう人たちがやってきて、その人たちと仲良くしたから何も起きなかった。だから魔王殺し……魔王たらし?」
じとっと言うには「魔王たらし」だってさ。俺はそんな子に育てた覚えはない。
しかし魔王を誑し込んだ、という言葉のどこがおもしろかったんだろう?
「はっはっはっは! そうですなあ! いや外れなのですが実にいい、とても近い!」
「近いのか……!?」
『近いんだ……!?』
笑顔だ。とうとう拍手すらしてしまった。答えに限りなく近いというのだ。
アキは三つ目の答えを楽しみそうにしてる。
またチョコを一枚開けて、俺たちが答えに近づくのをずっと待っていて。
『……あっ! もしかして――』
とうとう、ミコが閃いたらしい。
期待一杯の眼鏡エルフの視線が「どうぞ」と送ってくると。
『……魔王っていう人たちがフランメリアに攻め込んできたんだけど、そもそもそうする必要がないぐらい理想的な場所だったから、かな? アバタールさんのおかげで戦う必要もなくて、もう魔王を名乗る必要もなくなっちゃったとか……』
そんな答えを述べた。
どうだったんろう。アキは無言のまま「ふむ」と少し考えて。
「ミコ殿、お見事ですな」
まるで「良く気づいた」とばかりに満面の笑顔を浮かべた。
相棒の言う通りのことがあったってことなのか? マジかよと顔を伺うと。
「その通りで良いでしょう。そうなのですよ」
アキは降参したように笑った。全部マジだと物語ってる。
「……は? だったらなんだ、ミコが言ったことがそのまんま実際にあったっていうのか?」
「その通りなのですよ、イチ殿。その昔ですが、テセウスには『魔王』と呼ばれる者は山ほどいたのですよ」
眼鏡の顔が懐かしんだのを見て、俺は思わず「それで?」と促してしまった。
魔王がいっぱいいたのも事実だ。でもそれがどうアバタールに関わるんだ?
「そんな者たちはまあ、よくある人類を恨むような者ばかりでしたなあ。教科書通りの悪い者たちといいますか、一旗揚げる気概のある、血も涙もなく脳に筋力蓄えるような野心溢れる方々でして」
「もしかしてそれがフランメリアに関わってるのか?」
「ええ、そうですなあ。人間と人外が混じるかの国に「我が理想郷を作る」と意気込む者もおったのですよ、ところがフランメリアは豊かなものでしてな」
モノホンの魔王とやらは存在してらしいぞ、あっちの世界は。
そんな事情をどう知ってるのか、アキは懐かしむように外を見て。
「というか考えてみてください、お三方。攻め込んだ先が自分たちの理想通りの社会やら営みを育んでいて、しかも魔力が全然効かない御方が人ならざる者たちと仲良くしていたら、とんだ肩透かしだと思いませんかな?」
そういった。言葉通りなら魔王とやらはひどく脱力したと思う。
「……まあそうだな、それでも「やってやるぜ」って気合入ってたらどうか分からんけど」
「かくいう私の知り合いもそうだったのですがね」
「おい、知り合いってなんだ。お友達が魔王とか言わない?」
「上司です」
「上司!?」
『上司……えっ!? じゃ、じゃあアキさん……』
とんでもない事実がもたらされたが、アキは平然とチョコを平らげると。
「ぶっちゃけますと、私は魔王軍の幹部です。今はこうしてフランメリアに仕えておりますが、まあ初めてかの国を見た時は生きる気概を失うほどでしたなあ」
とてもそうとは見えない振る舞いでまたチョコを開けた。
「どうですか?」と差し出してきた。あまりに衝撃的すぎて手が迷った。
「おいおい……じゃあさっきの話に絡んでるのって」
「ええ、私の体験談ですが? それはもう私の上司もひどく落胆したものですが、結果的にフランメリアの一員として過ごすという選択肢がもたらされましたよ、ええ」
けっきょく受け取った。今度はビターな風味だ、成分表にはカフェイン配合とある。
「そんなものですよ。噂を聞きつけ駆けつければそこは人外の理想郷、しかもそこで他の魔王を称する者たちが好きなことに精を出していれば、もうやる気も失せるものでしょうなあ」
「……魔王と結婚したことも関わってるっていったな」
「ええ、何を隠そう私が初めて見たのは、我々すら恐れる最強の魔王様が人目も知らずイチャイチャするとんでもない光景でしたからな。私の上司も心ぽっきりいっちゃったと思います」
「ぽっきり」
「ええ、ぽっきりです。だって意気込んで乗り込んだら、魔壊しの力を持つ殿方が魔王様に壁ドンされるプレイに興じていたんですぞ?」
「第一印象に困るな、うん」
『どんな状況なの……!?』
「困りましたよ、ええ……」
……アキはチョコをへし折ってる。こんな感じらしい。
「だからアバタール様は『魔王殺し』なのですよ。こぞってやって来る魔王を称する者たちをことごとく迎え入れたのですから、誰も損をしないままに勝利を収めたのです。ということでミコ殿、おめでとうございます」
『……喜んでいいのかな、これ』
「私としては答えに行きついてくれて嬉しいものですよ」
ついでにチョコをまた渡された。ミコ用らしい。
『わ、わーい』と喜ぶのを身近に感じてると、質問してくれたアキはにっこりして。
「しかしですな、私の上司の苦難を吹き飛ばしてくれたいい出来事でもあるのですよ。寝ても覚めても復讐復讐と自らの境遇を呪うかの魔王様が、今や首都でお花屋さんを営んでおられるのですからね」
……その上司が健在で平和な職についてることを教えてくれた。
魔王が営む花屋はどんな品揃えなんだろう、人間大の食虫植物でもあるんだろうか?
「魔王が花屋……?」
「良心の呵責によるものですよ。まあ、楽しくやっておりますからお気になさらずに」
さんざん人を悩ませてくれた眼鏡エルフはとても穏やかだ。
「あ、ちなみに我々の中にも元々魔王だった方はおられますからね。例えばあの元気な竜のお兄さんとか」
「……なあ、まさかと思うけどフェルナー言われてるやつか?」
しかし続く言葉は「魔王いらっしゃいますよ」だった。
折よく扉の向こうから「フェルナアアアアアアアアアアアアアア!」とか聞こえてきた、あれがそうなのか。
「後で確かめてみるとよろしいですよ。きっと喜びますよ」
「いやだよめんどい」
「ひどいですなあ。……さて」
ひどいのはこの事実の方だが、アキは晴れた顔で立ち上がった。
「どうですか? 多少気は晴れましたか?」
そこから届く質問は――そうだな、少し気分が良くなったよ。
「ああ、マシになった。ぶっとんだ話をどうもありがとう」
「でしょう。つまりこういうことですな、私たちが救われたのは貴方のおかげですよ、と」
そいつは最後ににっこりした顔を見せてから荷物を整え始める。
おかげで嫌な気持ちは少しはれた。なんたってなぞなぞが少し楽しかったからだ。
「そうか。そうだったんだな」
「ですので何かあったら遠慮なく我々に頼って下さい。一人で無理をするのはいけませんよ、イチ殿」
「……ああ、そうだな」
「あなたがいて喜ぶ人は現にこうしてたくさんおられるのですからね。自らにとらわれず、どうか楽しく健やかであってください」
残したのはいい笑顔と何枚かのチョコだった。「それでは」と去るアキを見送った。
「楽しそうなやつだな」
『……うん、そうだね』
未来の俺はやっぱりすごいんだろうな。魔王殺しだってさ。
ニクのいう「たらし」の方があってるかもしれないけれども、そんな複雑な奴らにフランメリアという居場所を作ってやったんだな。
「魔王と仲良くか。友達選びのセンスがないやつめ」
こんな世界でも楽しくやってる奴らを見ると本当にそう思うばかりだ。
俺の中にいる『魔王殺し』殿のために、今日は早く寝てゆっくり休もう。
◇
眼鏡エルフの人柄の良さから出てきたお題ってのはそんなものだ。
「魔王殺し」とかいう力強い名なんて初耳だが、まさかその通りのことをしでかしてるんだろうか?
『ま、魔王殺し……ですか……?』
「ん、魔王をやっつけたの?」
ミコとニクも続いて意味を知りたがってるが、アキはいい笑顔のままで。
「さて、クイズを始める前にお聞きしたいのですが――イチ殿はアバタール様が魔王とご結婚なされていたことはご存じでしょうか?」
そんなことを尋ねてきた。人工チョコを一枚がさごそ開きながらだが。
そういえばリム様にテセウスの話をしてもらった時に耳にした気がするな、数百歳は超えてる人外な女性と結ばれたとか。
「リム様に話してもらった時、なんか聞いた気がするな。何百歳もある魔王と結婚したとか、なんとか?」
『……言ってたね、そういえば。最後の魔王、だっけ?』
あの時一緒に耳にしていた仲でどうにか話の内容を思い出してると。
「ふむ、あのお方が話してくれたのですな。ご存じのようで安心しましたぞ」
感心するようにうなずいていた。どうも未来の俺は魔王と結ばれたらしい。
一体どんな人生を歩んでいたんだろう、転生した挙句にそんな恐ろしい名詞を持つ女性を伴侶にするなんて。
「……で、それって今の話と関係あるのか?」
しかしだからといって「なぞなぞ」とどう関係があるのやら。
すかさず突っ込むも、まるでそうくると思ったばかりにいい顔をしていて。
「大切なヒントですぞ。まあ私からの手加減ということで」
「今のがヒント? どういうことだ?」
疑問を植えつけといて、人(エルフ)の悪そうな様子でニヤニヤしてきた。
ここから答えを導きだせってことなのか? そう思ってた矢先に。
「それではお三方、たった今『アバタール殿は魔王殺しと呼ばれていた』と申しましたが、そこであなた方が質問してください。私はそれに対して「はい」「いいえ」「関係はありません」と答えるので、そこからどんな背景があるのか推理していだきたいのです」
向こうは穏やかな口調でそういってきた。
一つの題に質問をして答えに近づく――なんだったか、そんな形式のクイズが動画サイトに良く上がってた気がする。
『……あっ、もしかして水平思考クイズ……?』
ミコも触れるものがあったようだ、その言葉にますます思い当たるものがある。
そうだ、確かタカアキとゲームで遊んでるときにそんななぞなぞをされたような。
「水平思考クイズ……ってなんだ?」
『えっと、ウミガメのスープって知ってる?』
「ああ、ウミガメのスープか!」
『そう、それ! けっこう前にセアリさんたちとやったなぁ……』
いや、ミコのおかげで分かった。これはウミガメのスープだ。
出題者出すほんのわずかな問題に、参加者が少しずつ質問して真相を暴く遊びだ。
アキは「ウミガメのスープ?」と首をかしげてるがそういうことだ、謎を解いてもらいたいんだろう。
「……それっておいしいの?」
「ニク、ご飯じゃないぞ。質問して問題を明かしていくんだ」
『えっと、アキさんにいろいろと尋ねて、その反応から答えをあてる遊びだよ。ご飯じゃないからよだれふこうね……?』
ニクは理解できてないようだ。じゅるりしてたので拭いてやった。
「分かった、質問して答えにたどり着けばいいんだな?」
「ええ、その通りです! さすがイチ殿、理解がお早いですな」
「前に幼馴染がこういうクイズにハマっててひどい目に会ったからな」
「おや、なぞかけが好きな身内の御方がおられたのですか?」
「まあ理解できないせいへ……部分はいっぱいあったな。オーケー、チャレンジだ」
人類に理解できないエルフ文化の戯れとかじゃないのは確かだ、なら挑んでやる。
さっそく引き受けてやると、なんとまあアキの嬉しそうなことか。
「よろしい。ではイチ殿、今一度復唱いたします。『アバタール様は魔王殺しと数多の者たちからそう呼ばれておりました、それは一体なぜでしょうか?』」
大人しい声がまた『魔王殺し』クイズの題材を読み上げた。
例えばだが、参加者たる俺はこれからこう質問するのだ。
「えーと……そう呼ばれたのは誰かを殺したからか?」
そう、こんな風にだ。
未来の俺が魔王殺しなんてすごい名前をいただいてるのはさておき。
「いいえ、まったく関係ありません」
「魔王殺してないのかよ」
「ふふ、どうでしょうなあ」
質問に対してそう返されるのだ。つまりこれで「魔王は殺してない」と分かった。
……いや、魔王を殺してないのに『魔王殺し』ってなんだ。何やってんだ未来の俺。
『……それっていちクンの『魔力壊し』と関係はありますか?』
続く相棒の質問はこうだ。この力が関わってるかどうかだが。
「うーむ、お二人とも中々なところを突いてきますなあ。ですがここ「はい」と答えさせていただきます。関係がないとはいえませんからね」
ニヤつく眼鏡エルフは関心気味に肯定した。関わってやがるのか。
大層な名前がつく癖に魔王は殺してない、この力は関わってる、どういう背景だ?
ミコと「うーん」と悩んでいると。
「……その魔王っていうのは、悪い人なの?」
そんなところ、ニクがダウナーな声を上げる。
きょとんとした様子相応に純粋な疑問だった。だが――
「そうですなあ、昔は悪い人だったかもしれませんな? ここは「はい」と答えましょうか」
アキは少し嬉しそうにそう答えた。魔王は悪いやつだったそうだ。
でも眼鏡の重なる表情はなぜだか期待感でいっぱいだ。いい線なのか?
「……誰も殺してない、魔力壊し関係あり、魔王は悪い奴か」
『これだけじゃわからないよね……』
また悩んだ。いや待て「数多の者たちからそう呼ばれていた」だって?
たくさんの人が知っていた? 知れ渡ってることだよな?
「アバタールはたくさんの人の目につくような活躍をした?」
だから次の質問はこうだ。何をしたか見つけ出してやる。
「はい。その通りです」
相手の「YES」でまた情報が一つ追加だ。たくさんの人が知るようなことらしい。
俺はミコの質問に期待した。きっとあいつならここから切り込んでくれるはずだ。
『……魔王って、いっぱいいましたか?』
相棒の質問が飛んだ――するとアキは「なるほど」と言いたそうにうなずき。
「はい、それはもういっぱいでした」
まるでいい質問だったといわんばかりの良い声が返ってきた。
魔王がいっぱいだとさ。その言葉通り世界の存続を脅かすやべーのがうじゃうじゃいた、という意味じゃないよな?
「どういうことなんだ……」
『いっぱいいる魔王ってなんなんだろう……』
しかし逆に謎が深まった。山盛りの魔王がいる世界ってなんなんだろう。
そんなところで『魔王殺し』とか本当に何をしたのやら、そう思ってたところ。
「魔王っていう人たちは、アバタールと仲良しだった……?」
ニクがまた問いかけた。出題者の顔はというと「YES」だ。
「はい、とても仲良しでしたねえ」
その結果、いい顔で「アバタールと魔王仲良し」という情報が生まれる。
それなのに魔王殺しだぞ? つまり「魔王退治」だとか言う路線はもうない。
でもたくさんの人が知っていて、俺の力も関わってる……どうなってるんだ?
『魔王っていう人たちは、侵略したり世界を征服しようとしてましたか?』
と思えば、ミコの口からファンタジーらしい口ぶりが飛ぶ。
悪い人かどうか見極めようという気を感じるが。
「はい! 征服しようと野心たっぷりでしたなぁ!」
出題を台無しにするぐらい食いついてきやがったぞ、アキのやつめ。
ということはマジモンの魔王だったのか。そんな奴らと接触したってことか?
「マジ魔王だったわけか……」
『本当にそれっぽい人たちなのかな……?』
「ん、じゃあアバタールと魔王は戦ったの?」
質問に続いてくれたのは我がわん娘、ニクだ。
「いいえ、まったく」
お返しは「NO」だ、だけど顔つきはいい感じのところを表しており。
「……アキ、お前も関わってるか?」
なら搦め手だ。俺は出題者にそう尋ねた。
本当の話を絡めてるのであれば、この眼鏡エルフに尋ねる権利はある。
「――はっはっは、あるんですなあこれが。答えは「はい」ですぞ」
我ながら卑怯な質問だと思ったけど、クリティカルヒットだったようだ。
おいおい、話がヤバくなってきたぞ。
『えっと――フランメリアが関わってますか?』
「はい、とても関わってますな」
「じゃあ、その魔王と結婚したことと何かつながりはあるのか?」
「うーむ、関係してるでしょうなあ。ここは「はい」で」
「ん……魔王って人たちは、アバタールの敵だった?」
「そうですなあ……「はい」「いいえ」のどちらでもありません」
三人であれこれ尋ねるも、答えが浮かばない。
うっすら感じるのは二つ名通りのことをしでかしたことじゃないってことだ。
魔王ってのは悪い奴らで、そんな名前相応の連中をアバタールは目の当たりにした……となれば。
「……さて、何か答えは思いつきましたかな?」
さんざん質問を繰り返した挙句、アキはニヤニヤしながらそう尋ねてきた。
俺は少し考えた。こいつは剣と魔法の世界で起きた事実に基づいた質問だ。
そもそも今のフランメリアはどうなってる? スピロスさんやらノルベルトやら、いかにもヤバそうな見た目のやつが平和に暮らしてるそうじゃないか。
なのに魔王殺し? じゃあ――
「答えいいか?」
「おや、分かりました?」
「どうだろうな、俺の答えはこうだ」
俺は少し思いついて手を挙げた。
こいつがだめならミコがいる。アキは嬉しそうに答えを待ってくれたので。
「ある日フランメリアに魔王が攻め込んできた、でもアバタールはその力でなんかこう……全員無力化して大人しくさせた。誰一人殺さないで平和になって『魔王殺し』って呼ばれたんじゃないか?」
自分の力を絡めてそう答えた――のだが、
「うーん、違いますなあ。実に違いますなぁ! でも攻め込んできたのはいい線です」
ものすごく嬉しそうに「違う」と否定された。腹立つなこいつ。
これで一つ失敗したが続きは物言う短剣だ。きっと俺よりいい答えを出すはず。
『……あの、もう一つ質問なんですけど』
「おや、なんでしょうか?」
『その魔王って、私たちのそばにいますか?』
……ところがなんて質問をするんだろう、ミコのやつは。
いてほしくない人種なのは確かだ。だというのに、だというのにアキは。
「はい、おりますよ」
すげえ笑顔で言ってきた。おい待て、魔王がいるのかこのヴァルハラに。
「……え? 魔王いんの? マジモンの?」
「はい、ヴァルハラ・ビルディングにちょうどおられますなぁ」
『え゛っ!? あ、あの……もしかしてアキさん、だとかしませんよね……?』
「答えられませんなあ」
「……魔王って人外?」
「人間じゃなくバケモンですなぁ」
ミコの質問から次々とヤバイ実情が浮かんできた。魔王がいらっしゃるそうだ。
俺はなんてもんを呼び出してしまったんだろう。比喩的な意味じゃなくマジモンのそれが世紀末でおわすってことになるんだぞ?
「……ん、わかった」
ミコと「どう答えればいいんだろう」と考えてると、ニクがびっと犬の手を上げた。
「魔王っていう人たちがやってきて、その人たちと仲良くしたから何も起きなかった。だから魔王殺し……魔王たらし?」
じとっと言うには「魔王たらし」だってさ。俺はそんな子に育てた覚えはない。
しかし魔王を誑し込んだ、という言葉のどこがおもしろかったんだろう?
「はっはっはっは! そうですなあ! いや外れなのですが実にいい、とても近い!」
「近いのか……!?」
『近いんだ……!?』
笑顔だ。とうとう拍手すらしてしまった。答えに限りなく近いというのだ。
アキは三つ目の答えを楽しみそうにしてる。
またチョコを一枚開けて、俺たちが答えに近づくのをずっと待っていて。
『……あっ! もしかして――』
とうとう、ミコが閃いたらしい。
期待一杯の眼鏡エルフの視線が「どうぞ」と送ってくると。
『……魔王っていう人たちがフランメリアに攻め込んできたんだけど、そもそもそうする必要がないぐらい理想的な場所だったから、かな? アバタールさんのおかげで戦う必要もなくて、もう魔王を名乗る必要もなくなっちゃったとか……』
そんな答えを述べた。
どうだったんろう。アキは無言のまま「ふむ」と少し考えて。
「ミコ殿、お見事ですな」
まるで「良く気づいた」とばかりに満面の笑顔を浮かべた。
相棒の言う通りのことがあったってことなのか? マジかよと顔を伺うと。
「その通りで良いでしょう。そうなのですよ」
アキは降参したように笑った。全部マジだと物語ってる。
「……は? だったらなんだ、ミコが言ったことがそのまんま実際にあったっていうのか?」
「その通りなのですよ、イチ殿。その昔ですが、テセウスには『魔王』と呼ばれる者は山ほどいたのですよ」
眼鏡の顔が懐かしんだのを見て、俺は思わず「それで?」と促してしまった。
魔王がいっぱいいたのも事実だ。でもそれがどうアバタールに関わるんだ?
「そんな者たちはまあ、よくある人類を恨むような者ばかりでしたなあ。教科書通りの悪い者たちといいますか、一旗揚げる気概のある、血も涙もなく脳に筋力蓄えるような野心溢れる方々でして」
「もしかしてそれがフランメリアに関わってるのか?」
「ええ、そうですなあ。人間と人外が混じるかの国に「我が理想郷を作る」と意気込む者もおったのですよ、ところがフランメリアは豊かなものでしてな」
モノホンの魔王とやらは存在してらしいぞ、あっちの世界は。
そんな事情をどう知ってるのか、アキは懐かしむように外を見て。
「というか考えてみてください、お三方。攻め込んだ先が自分たちの理想通りの社会やら営みを育んでいて、しかも魔力が全然効かない御方が人ならざる者たちと仲良くしていたら、とんだ肩透かしだと思いませんかな?」
そういった。言葉通りなら魔王とやらはひどく脱力したと思う。
「……まあそうだな、それでも「やってやるぜ」って気合入ってたらどうか分からんけど」
「かくいう私の知り合いもそうだったのですがね」
「おい、知り合いってなんだ。お友達が魔王とか言わない?」
「上司です」
「上司!?」
『上司……えっ!? じゃ、じゃあアキさん……』
とんでもない事実がもたらされたが、アキは平然とチョコを平らげると。
「ぶっちゃけますと、私は魔王軍の幹部です。今はこうしてフランメリアに仕えておりますが、まあ初めてかの国を見た時は生きる気概を失うほどでしたなあ」
とてもそうとは見えない振る舞いでまたチョコを開けた。
「どうですか?」と差し出してきた。あまりに衝撃的すぎて手が迷った。
「おいおい……じゃあさっきの話に絡んでるのって」
「ええ、私の体験談ですが? それはもう私の上司もひどく落胆したものですが、結果的にフランメリアの一員として過ごすという選択肢がもたらされましたよ、ええ」
けっきょく受け取った。今度はビターな風味だ、成分表にはカフェイン配合とある。
「そんなものですよ。噂を聞きつけ駆けつければそこは人外の理想郷、しかもそこで他の魔王を称する者たちが好きなことに精を出していれば、もうやる気も失せるものでしょうなあ」
「……魔王と結婚したことも関わってるっていったな」
「ええ、何を隠そう私が初めて見たのは、我々すら恐れる最強の魔王様が人目も知らずイチャイチャするとんでもない光景でしたからな。私の上司も心ぽっきりいっちゃったと思います」
「ぽっきり」
「ええ、ぽっきりです。だって意気込んで乗り込んだら、魔壊しの力を持つ殿方が魔王様に壁ドンされるプレイに興じていたんですぞ?」
「第一印象に困るな、うん」
『どんな状況なの……!?』
「困りましたよ、ええ……」
……アキはチョコをへし折ってる。こんな感じらしい。
「だからアバタール様は『魔王殺し』なのですよ。こぞってやって来る魔王を称する者たちをことごとく迎え入れたのですから、誰も損をしないままに勝利を収めたのです。ということでミコ殿、おめでとうございます」
『……喜んでいいのかな、これ』
「私としては答えに行きついてくれて嬉しいものですよ」
ついでにチョコをまた渡された。ミコ用らしい。
『わ、わーい』と喜ぶのを身近に感じてると、質問してくれたアキはにっこりして。
「しかしですな、私の上司の苦難を吹き飛ばしてくれたいい出来事でもあるのですよ。寝ても覚めても復讐復讐と自らの境遇を呪うかの魔王様が、今や首都でお花屋さんを営んでおられるのですからね」
……その上司が健在で平和な職についてることを教えてくれた。
魔王が営む花屋はどんな品揃えなんだろう、人間大の食虫植物でもあるんだろうか?
「魔王が花屋……?」
「良心の呵責によるものですよ。まあ、楽しくやっておりますからお気になさらずに」
さんざん人を悩ませてくれた眼鏡エルフはとても穏やかだ。
「あ、ちなみに我々の中にも元々魔王だった方はおられますからね。例えばあの元気な竜のお兄さんとか」
「……なあ、まさかと思うけどフェルナー言われてるやつか?」
しかし続く言葉は「魔王いらっしゃいますよ」だった。
折よく扉の向こうから「フェルナアアアアアアアアアアアアアア!」とか聞こえてきた、あれがそうなのか。
「後で確かめてみるとよろしいですよ。きっと喜びますよ」
「いやだよめんどい」
「ひどいですなあ。……さて」
ひどいのはこの事実の方だが、アキは晴れた顔で立ち上がった。
「どうですか? 多少気は晴れましたか?」
そこから届く質問は――そうだな、少し気分が良くなったよ。
「ああ、マシになった。ぶっとんだ話をどうもありがとう」
「でしょう。つまりこういうことですな、私たちが救われたのは貴方のおかげですよ、と」
そいつは最後ににっこりした顔を見せてから荷物を整え始める。
おかげで嫌な気持ちは少しはれた。なんたってなぞなぞが少し楽しかったからだ。
「そうか。そうだったんだな」
「ですので何かあったら遠慮なく我々に頼って下さい。一人で無理をするのはいけませんよ、イチ殿」
「……ああ、そうだな」
「あなたがいて喜ぶ人は現にこうしてたくさんおられるのですからね。自らにとらわれず、どうか楽しく健やかであってください」
残したのはいい笑顔と何枚かのチョコだった。「それでは」と去るアキを見送った。
「楽しそうなやつだな」
『……うん、そうだね』
未来の俺はやっぱりすごいんだろうな。魔王殺しだってさ。
ニクのいう「たらし」の方があってるかもしれないけれども、そんな複雑な奴らにフランメリアという居場所を作ってやったんだな。
「魔王と仲良くか。友達選びのセンスがないやつめ」
こんな世界でも楽しくやってる奴らを見ると本当にそう思うばかりだ。
俺の中にいる『魔王殺し』殿のために、今日は早く寝てゆっくり休もう。
◇
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