魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

フランメリアのお食事会(12/27修正)

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 ラウンジ唯一の取り柄だったゴミと殺風景はどこへいったんだろう。
 今では目に見えるほど小奇麗になっていて(床や壁の汚れはあれど)今になって本来の広さを取り戻していた。
 数十人以上にも及ぶフランメリアの方々をざっくばらんに押し込め、更に料理でいっぱいのテーブルを整列させる余地があった。

「良く来てくれたな諸君、改めて自己紹介しようか? この都市の企業の一つ、バロール・カンパニーの社長たるデュオだ。お前らにまた会えて嬉しいぜ」

 そんな異形の姿ひしめく交流の場で、デュオはみんなの注目を集めてた。

「……あいつ、プレッパーズじゃなかったのか?」
「それがだな、先発隊のドワーフどもが言うにはマジで社長らしいぞ」
「どういうことなのですか……」
「ここの奴らに歓迎されてる理由はツーショットの兄ちゃんにあったのか」

 一方で住民たちに歓迎されて住まいまで貰ったバケモンどもはざわざわしてる。
 現代的な格好をさせられた人外な皆さまは理解が及ばず顔を見合わせており。

「こんにちは皆さま、先発隊を指揮しておりましたエルフの『アキ』です。こちらのツーショット様あらためデュオ社長殿のご厚意にて我々の住まいが提供されておりますので、安心してご滞在なさってください」

 隣でびしっと立っていた眼鏡エルフがそう説明を挟んだ。
 同族の一言がきっと触れたんだろうか、うっすら理解が広がり始めて。

「そういうわけでようこそ戦友ども。ここは戦後150年をも生き抜く気さくな人々の砦、ヴァルハラ・ビルディングだ。この街で活動するならここを拠点にしてくれ、衣食住は保証してやるよ」
「それとフランメリアの皆様にお伝えしますが――来て早々ながらに我々は敵対する勢力に狙われておりますゆえ、徳を積む機会には事欠かさない状況にあります。既に先刻交戦したところですが、こんな都市だというのに中々どうして派手な方々でしたなあ」

 社長とエルフの補佐で軽く現状がその場に広まった。
 すぐにざわめきから和気あいあいとした感じになったのは言うまでもない。
 みんな刺激を求めてたか。『徳を積む』という単語にさっそく嬉しそうだ。

「よっしゃあ! 飯と住まいと敵が揃ったぞ!」
「なるほどな、ここまで至れり尽くせりなのは訳ありか」
「実に面白い。戦う相手の規模はどれほどで?」
「そうなるとスティング以上に密集した市街地での戦いか。フランメリアの内戦を思い出すねえ」

 バーサーカーどもは老若男女異種族隔てなくやる気に満ち溢れてる。
 良かった、いつものフランメリア人だ。クリューサが「こいつらは脳の病気でもあるのか」と言いたげな顔だ。

「――質問ですが、それはここ最近になて我々が交戦した輩と関係はありますか?」

 そう盛り上がるところ、甲冑姿の巨体が疑問を添えてそっと手を上げる。
 後発の連中の様子はどうも心当たりがあるご様子、刺客と接触済みか。

「そういえばオレたちここに来る途中に変な奴らに襲われたんだよな、統一取れて装備もいい連中だったぜうめぇなこれ誰作ったんだ!」
「フェルナァァアァッ!!! 食いながら言葉を挟むなァァァ!」

 隣では赤髪の兄ちゃんが既に料理に手を付けてた。肉ばっか食ってるようだ。
 やかましい二人に周りが制止に入るが、デュオはグラスを傾けながら。

「おたくらには後でじっくり説明するとして、ここじゃ『企業こそ』のスタイルなんだ、んでいっぱいある企業同士が血と血をぶつけあうような争いをしてる――そんないざこざに巻き込まれたわけさ」
「こちらには三大企業なるものが幅を利かせておりましてな。我々がそのもっともたる『ラーベ社』という方々に目をつけられているところなのですよ」
「そうそう、あのでっかいビルが見えるか? あそこにいらっしゃる方々が私兵やら傭兵やらをいっぱいお抱えになって、俺たちを狙ってやがるところだぜ」

 エルフの落ち着きすぎな声と足並みを揃えて、二人でラウンジからの都市の風景に顔を向けた。
 みんながつられる先には北部で一際高いラーベ社のビルがある。

「アレが敵の城か! よっしゃあ攻城戦だな!?」

 するとさっきの赤神の兄ちゃんが皿と共に攻め込もうとした。気が早い。

「一人で突っ込んでろ馬鹿者がァ!」
「あんなデカい建物根元折ればすぐだぜうおおおお離せェェェ!」
「すまない皆さま、こちらのやかましい我らの大将は無視してくだされ!!」

 しかし対応も早かった。鎧姿と褐色なリザードマンに抑え込まれた。
 元気なドラゴンもどきがぽいっと部屋から不法投棄されたところで。

「なるほどな、フランメリアの者どもが迎えられる道理がここにあったということか。何かしらの理由がつきまとっているようだが、その仔細も欲しいものだな」

 白い毛皮に『パス』を通したドッグマン――白狼様の懐かしく感じる姿が説明を促してきた。
 そばには見覚えのある牛と熊のコンビニとオスカーもいた。元気そうだった。
 喋るドッグマンに「すっかりなじんでるな」とデュオは笑ってから。

「みんな、ここに来るまで『フォート・モハヴィ』は通過したよな?」
「おう、あのデカい廃墟だろ?」
「すげえところだったな。変なゾンビが来たから一日中戦い続けてたぜ」
「テュマーと一戦交えたか、大した奴だよおたくらは。まあそれでな、そこで廃墟から遺物を回収するのを生業にしてる連中がいるわけだ」

 子連れの牛&熊の獣人――スピロスさんとプラトンさんに、とある連中を紹介した。

「……冗談みたいな光景だよ。ミュータントが喋ってる」
「素敵ね、ファンタジーな人たちがこんなにもいるわ!」
「ストレンジャー、お前の縁は選り取り見取りだな。一企業の社長にバケモンどもと仲良くやってやがったのか」
「目の前が悪い夢か何かに感じてきたところだ。誰かこの状況を説明してくれ」

 料理の前でバケモンどもに囲まれて竦んでるスカベンジャーたちだ。
 ヴィラはともかく、エミリオを中心に威圧されてすっかり縮こまってる。

「そんな奴らにもまあ、他人の成果を横取りし、同業者の命すら無遠慮にすくい上げ、世にご迷惑をかける集団がいやがったのさ。何を隠そうそいつらはラーベ社と深いつながりのもと動いていて、好き放題にやってやがったんだが――」
「そんな不埒な方々を壊滅させ、そのお上である大企業の後ろめたい営みを妨げたとして恨みを買ってしまった方がいるんですなあ」
「ああ。デカい面して好き放題やってやがったけど、ある人間の活躍によって全部台無しだ。おかげでそいつの仲間から職場の知り合いまで全員報復対象、えらい金がかかった一大プロジェクトが執り行われてるのさ」
「つまりですな、その一環でフランメリアの方々も狙われてるわけです。いやあ困った困った、大企業に喧嘩を売られておりますなあ」

 そして、社長と眼鏡エルフの組み合わせは楽しそうに言ってきた。
 困ったことに二人の笑顔はストレンジャーに向けられているところだ。

「そういうことだったのか、悪だくみをへし折った逆恨みのおすそ分けか」
「自業自得じゃねーかそれ、笑っちまうわそんなん」
「その勇敢な誰かさんはどこにいるんだか。会って褒めてやりたいぜ」
「おかげでデカい組織と久々に戦えるんだ。ぶっ殺していいんだな?」

 ケモノ度マシマシな二人分の視線はもう完全に俺の方へ向いてる。
 というか、みんなの意識は「誰だろうな」とあからさまにこっちに集っていた。

「どうも賞金首です」

 そんなわけなので、値上げ済みの人相を手にみんなの前にすたすた出た。
 60000チップのお知らせもろともデュオたちの近くに立つと「やっぱりか」みたいな顔が向けられたのは言うまでもない。

『……いちクン!? そんな軽い感じで伝えることじゃないよねこれ!?』
「まーーーーたお前は首狙われとるんか……」
「うんなんだかそんな気がしてたもの。やっぱり貴方だったのですねアバタール」
「派手にやってんなあ。また尻追っかけられてるようで何よりだ」
「そりゃお前さん狙われれば自動的にうちらにも来るじゃろ、道理で躊躇なく攻撃されたわけじゃな」

 バケモンどもは「まあこいつだし」みたいに勝手に納得してる。
 エミリオたちが俺とフランメリア人の関係についてかなり思うところがあるようだが、お構いなく賞金首のお知らせを掲げて。

「途中で見た『フォート・モハヴィ』は覚えてるか? そこで馬鹿やってた連中がいたから全員ぶちのめしたら、なんかラーベ社の恨み買ってた」

 一番近くに立ってた鎧姿のバケモンに渡した。
 みんながぞろぞろ寄って確かめに来るが、悪人面とチップの数に和気あいあいとしてる。

「えらい金額かけられてるなオメーは!?」
「どっかでテロでも起こしたんかお前さん」
「これ私たちにもとばっちりで賞金かけらてるパターン……」
「あっはっはっはっは! すごい金額! これラーベ社とか言うやつら本気だね!」
「なにわろてんじゃお前さん。いや、この顔といいチップといいだいぶ恨み籠っとるな……」
「ついでにいうとついさっき送られてきた刺客ぶちのめしてきた」
「あーそれ値上がりする奴だ、70000チップいくぞ」
「俺たち込みで報復するならあと30000チップはちょい足しするべきだな」
「よっぽど怒らせたに違いねえ。まあ俺たちにまで手が及んだのが運の尽きだ、そういう訳なら喜んで戦うぜ」

 人相書きは和気あいあいとしたフランメリア人の手を伝っていった。
 誰一人危機感を持ってるやつはいない。ただただやる気だ。

「……しばらく見ないうちに派手にやってたみたいだな、お前」

 最後にオスカーまで届くと、そばにいたプラトンさんが熊顔で苦く笑ってた。
 そして異形の手を何人分か頼って70000チップの男が帰ってくる。ひどい顔だ。

「いろいろありました元気です、お久しぶり。元気にしてた?」
『お、お久しぶりですね、プラトンさん……』
「元気そうで何よりだぜまあそういう事情なら仕方ねえ、帰国前のボーナスってことでぶち殺してやるよ」
「いやそれよりもだアバタールもどき、ありゃどういうことだ?」

 そんな熊の巨体を見上げてると、スピロスさんが凄まじく苦し気な顔をしてきた。
 
「どうした? 俺またなんかした?」」
「オメーがお取り寄せしたのか知らんが隣国の女王様いやがったぜ、最悪だ」
「あー、いたな……この世が終わっちまうと思ったよ」
「チャールトンの親父があんなすげえ顔で嫌がるの初めて見たぜ……」

 会ってしまったのか、あの紅茶のデーモンに。
 なので全力で顔をそらした。「やっぱりか」と嫌そうにされたのは言うまでもない。
 それから、俺は屈強な身体に隠れるオスカーに「元気か?」と手を振ってから。

「まとめるとこうだ。クソ野郎どもぶちのめしたら狙われました、ごめん! ということでみんな一緒に戦ってくれ!」
『まとめかたが強引すぎるよいちクン!? もう少し話そう!?』

 すげえ適当にまとめた。あまりの凝縮ぶりにスカベンジャー一同は人様の脳みそを疑うような目つきだ。

「祭りってことだな! ブルヘッド・シティとやらに徳を見せつけてやるぜ!」
「お前のボスが聞いたら喜ぶだろう、元気にやってる証拠だな」
「フランメリアに帰る前にまたひと暴れできるなんて最高だ。後ろめたさのない戦いに乾杯」

 皆様は納得に納得を重ねたご満悦だった。そういうもんだフランメリア人は。

「社長からの現状の軽い説明は以上だぜ。お次のお知らせがあるから任せたぞ」

 二人分のお知らせが回ると、そういってデュオは食事の場に混ざり始めた。
 続いてやってきたのは人工知能のコンビ、エルドリーチとヌイスだ。
 特に前者はマスターリッチとして名が通ってるせいかざわめいた。なんでお前がいるんだと。

「ハハ、元気かお前ら。オイラだよ」
「マスターリッチおる!? 街はどうした街は!?」
「不死者の街の長がなぜここに!?」
「旅行だぜ。で、お前さんたちにあらかじめ言っとくが帰り道は北のダムだ。確実に帰る手段があるってお知らせさ」
「やあ、ヌイスという者だ。エルドリーチの言う通り、まあ説明が欲しければ後で細かく言うけれども――北のデイビッド・ダムへ向かえば間違いなく君たちは帰れる。だから帰り道の心配はないと確約させてくれ」

 そうして伝えられた「フランメリアへの帰り道」はすぐに広がった。
 世紀末世界の旅がちょっとした旅行に変わるぐらいの効果はあったんだろう。
 「じゃあ安心だな」「お土産足りねえな」「あっけないな」「帰りたくねえ」だの気軽な口々だ

「……君たち、もうちょっと驚いたりざわめいたりしたらどうだい」
「いや、別に……」
「最初から旅行みたいなもんだからよ。むしろちょっと寂しいっていうか」
「しょうがねえよ、終わりなんていつかあるもんだ。いっぱい徳積んで土産も持って帰ろうぜ」
「わしらここに残るからな。ミスリルインゴットしこたま作ったからお前さんらが持ち帰れ」
「いいなあ、ドワーフの奴らは。俺もこっち残りてえけどなあ」
「あの女王様は残らないだろうな」
「てことはまたあの紅茶テロリストと相まみえることになるな、嫌すぎる」
「……えーと、そういうわけだからね? ちゃんと帰るんだよ君たち」

 ヌイスの心配も全てゆるくかわされた。お前らはいつまで旅行気分なんだ。
 なにこいつら、と言いたげな金髪眼鏡は骨をつれてしぶしぶ退いた。
 さて、そうやって話が終わったかと思うと。

「――皆さまごきげんようですわ! いっぱいお料理作ったから食べてね! 本日は人工食材を使ったフルコースですの!」

 ばたーん。
 待ってましたとばかりにドアが開いてリム様が現れた!
 狙ったであろうサプライズがこうして出てくるわけだが、そんなものを見せつけられた皆さまはというと。

「うわっっでやがった芋の魔女だ!?」
「畜生、どおりで豪華な飯並んでると思ったらあいつか!?」
「おしまいだ! この世界は終わった! あいついやがるもの!」
「……紅茶の悪魔と芋の悪霊がいるとかこの世の終わりか?」
「うん知ってた。料理には罪はないから大人しく食べましょう……」
「オメーもいんのかよ! おい! 農業都市に変な芋植えてたことは忘れねーからな!」
「構うなスピロス! また目つけられたら何されるか分からねえぞ!」
「ふふふ、腕によりをかけて作りましたわ。皆さまおいしく召し上がってね!」

 相当いい思い出がないに違いない、諦観したようなお通夜ムードだ。
 どういう人柄なんだろうリム様。そういうことで彼女はてくてくこっちに来るものの。

「――あ、そうだ。なんか俺、いろいろあって半分アバタールでした」

 せっかくなので代わる代わる立って、お食事を始めたみんなに伝えた。
 ハイパワーだったらしい。酒飲んでたドワーフが「ぶは!?」と噴きだすレベルだ。
 ヌイスに至っては「は?」だ、正気を疑ってそうなぐらいの。

「いやいきなりぶっ飛んだ発言するでないよ!? どうしたのお主!?」
「どうかしたのかお前!? 大丈夫か兄ちゃん!?」
「しばらく見ないうちに何があったんだアバタールもどき……」
「なんか嫌なことでもあったのですか? お話聞きましょうか?」
「なんかこう……あいつの力とか特徴を半分ぐらい受け継いだハイブリッドらしい」
『いちクン!? ちょっと待って!? もうちょっと説明の仕方あるよね!?』
「まあ、なんかそんな気はしてたんじゃがな。中途半端じゃなあオイ……」
「やっぱり偶然じゃなかったってことね……いやでも説明雑すぎない?」
「フランメリアに絶対行かなくちゃいけないことは確定したぞ。そういうわけでよろしく、飯食うか」
「いやよろしくじゃなくてね? アンタかなりヤバいこといってるからね?」
「こんなアバタール嫌すぎるぞ……」
「オーケー、落ち着け坊主。話聞いてやるからそのまま終わろうとするな頼むから」
「ついで感覚で話すな!! くそっ、なんだこのアバタールイカれてんのか!?」
『……みんな大混乱だよ』

 さすがに手を抜きすぎたのか全員につっこまれた。
 適当にやれを生かし過ぎたみたいだな……!
 まあ冗談はさておき、ある程度身の上を知ってもらおう。
 ふざけて話すなって? 悪いけどこんなもんだ、俺には明るく馬鹿やった方があってるからさ。
 
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