魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

ヴァルハラの気さくな住民たち(12/18修正)

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 ヴァルハラ・ビルディングの持つ機能性には驚くしかない。
 一つの巨大な住宅であると同時に、娯楽からお買い物、はたまた射撃訓練場までわざわざ揃える充実具合だ。
 ここは住み着く人の数だけ共用施設の豊富さに恵まれている。
 都市の中に生まれた小さな都市。そう呼ばれたっていいぐらいに一際賑わっていて。

「よう諸君、久しぶりだな。我が社からの贈り物は見てくれたか?」

 どこぞの社長とここの警備員たちが最後に案内してくれた先は、この世界らしいラウンジの姿だった。
 清潔というわけじゃない。壁には埃をかぶったモニター、忘れ物の空き瓶や空薬莢すら転がっているのだから。
 そこにみんなが集まっていた。ゲスト俺たちはもちろん興味を引かれた住民すら混ざっていて。

「そりゃ見ましたよ社長、あの刺激的な作品はなんなんです?」
「シド・レンジャーズも撮影に協力してくれたのは確かだな。てことは、あれが噂のスティングの戦いってやつか?」
「リアリティを追求しまくったいい映像だな。ここ最近ライヒランドがやられちまったってオチが最高だ、壁の外はあんな風になってるのかといろいろ考えさせられたよ」

 誰もがデュオ社長のご挨拶と、刺激強めな画面の両方に気を取られていた。
 撮影者についてはさておきスティングの様子がよく記録されてるものだ。
 フランメリアのたまり場の騒がしい様子。義勇兵だらけの中央部の光景。作戦行動中のレンジャー。改造車両で交戦中のドワーフ。
 そしてたった今、最後の乱戦の様子が第三者の視点で繰り返されていて。
 
「あ、ノルベルト映ってるぞみんな。なんかぶっ叩いてる」
『ノルベルト君だ……これって確か、いちクンが囮になった後の戦いだよね』
「ん……見て、ぼくとご主人も映ってる」
「おお、あの殴り込みの時の様子ではないか。こうしてみると勇ましい者たちで溢れてるものだな」
「うちの斬首がよーく取れてるっすねえ、素晴らしいっす~♡」
「いっちゃんが戦ってますわ! 皆様こんなに頑張っていらしたのですね……!」

 見知った顔に紛れてちょうど俺たちの姿も映ってたようだ。
 激しいカメラの揺れの中、戦車を棺桶に変え、敵を串刺しにし、敵を殴り潰し、首を跳ねる連中がいた。
 いいタイミングで俺たちは映像を裏付ける証拠になったらしい。出演者たるストレンジャーズに「マジかよ」とばかりの住人たちの顔が向かう。

「なんだこれ、魔法か? なんで我らの姿がここに映ってるんだ」
「これもまた機械の一種のようですなあ。いや中々に勇敢な絵がとれてますな、フランメリアに持ち帰ってお見せしたいものです」
「よくある映像魔法ってやつかしら? っていうかあんた、ほんとにその馬鹿デカイ弓撃ってたのね……」
「私が活躍してる場面が少ししか映っていません、50点」
「わしらの戦車壊れちまったけど、誰かがちゃんと見届けてくれたんじゃな……」
「あれ楽しかったよな。また俺たちで作ろうぜ、強いやつをよ」

 追加の生きた証拠であるバケモンたちも戦場の様子をしみじみ見返していた。
 特にドワーフは愛車(戦車)が駆ける姿に釘付けだ。確か戦闘終了後には全て廃車に様変わりしてた気がする。

「……なあ、なんだったらここにご本人たちがいないか?」
「南の『タンクバスター』の噂は本当だったわけか。じゃあライヒランドが潰えて、擲弾兵が蘇ったのも……」
「おいおい……なんてお土産を持ってくるんだよ社長さんよ」

 さすがのヴァルハラの連中も勝手に呼び名を増やしながらもざわめき始め。

「クリューサ! お前の仕事の様子も映ってるぞ! ほら隣で飯を食べてる私もいる!」
「それでデュオ、お前は一体何を企んでいる? ちょうどこに映像の証拠も揃ってるわけだが」

 周囲の関心ががやがや盛り上がる中、流れる映像を背にクリューサが尋ねる。
 黙々と処置をするお医者様と、ダークエルフに食事をすすめられて苦笑い(実際苦しそうに)する患者の姿があるが。

「ちょうどいいタイミングだろ? ここで外のすばらしさを伝えに来たってわけさ」

 長々流れる娯楽用映像が終わりに近づくと、デュオはいい顔でニヤっとして。

「さてヴァルハラの諸君、ちょいと俺から話したいことがあるんだ。いいよな?」

 みんなの愛する社長として、ラウンジにいっぱいの住民に向けて話を持ち掛けた。
 その人柄の良さは誰もが黙って聞き入るほどだ。

「ごらんのとおり外の世界は変わっちまった。そして今の映像はマジだ、スティングの様子を新鮮な状態でお届けしてやったのさ」

 こんなものをお土産にしてくれた本人は「楽しかっただろ?」と笑顔で聞くも、住民の一人が手を上げる。

「そりゃ信じるしかないさ、なんたってあんたも体張って映ってたからな」
「おっと、どの場面だ?」
「そちらの擲弾兵様と、あんたの上司が楽しそうに会話してるところあたりだ」
「そいつは社長自らピックアップしたいいシーン、その名も『社長とボスとストレンジャー』だ。よく気づいてくれたな?」
「あんたが楽しそうで何よりだ。楽しそうに生きやがって」

 対するデュオ社長の返しは気さくなものだ。軽い冗談も挟まって小さく笑いが上がる。
 そしてまた全員が話を聞き入る様子に変わると。

「俺は思うんだ。これからは壁の外にもっと目を向けるべきだし、なんなら奥深くまで踏み入れるべきだ。よって我が社は南部のコミュニティと提携し、ブルヘッド・シティの外に向けた事業に本腰を入れるつもりさ」

 バロール・カンパニーのボス直々のお告げが広まった。
 語る顔はとても楽しそうだ。誰もがざわめくも言葉を広めた本人は続ける。

「知っての通り、ここが150年続いてきたのはこの都市の完成度にある。戦前から備えられた大量の備蓄や強固な壁、そしてもちろん誰もが必要とする物資を集めてくるスカベンジャーたちの活躍もあってこそだが、そうやっては水も食料も電力も、そしてこの文明すら保って生きて来たよな?」

 そこで話に耳を傾ける住民たちに問いかけた。
 返された全員の頷きは、この都市がその通りに生きてきたことを明かしてる。

「でも、諸君らが今知っての通り外の世界は変わった。水源が戻り、人々は文明を取り戻し、そして南との交流と妨げになった人食い共産主義どもの野望が潰えた。まあそれを成し遂げたのは俺じゃなくて、主に俺のボスとか、そこの擲弾兵どもなんだけどな?」

 だが世の中ウェイストランドは変わった。その理由として俺たちが指名される。
 いきなり好意的な視線が集まってきてびびった。みんなもたじたじになるが。

「なるほど、社長殿。聞く話だとこういうことですかな?」

 そこへ緑髪眼鏡のエルフが感心した様子で一声混ぜる。
 デュオは何も言わず「どうぞ」と続きを聞きたがっており。

「どうやらこの都市は一世紀にも及ぶ強固さがあったようですなあ。しかしそれゆえに、これだけ広大だというのに閉鎖的なコミュニティになってしまった。しかしスティングの戦いの一件でこの『ウェイストランド』の情勢が変わったことが浮き彫りになった――そうですな?」
「そうさエルフ君、お前の言う通りあの戦いで世界の様子が一変した。だが――」
「そう、それを実感できるのはのみでしょうな」
「俺が言いたいことを全部わかってるみたいだな、そうなんだよ、その通りだ」
「ええ、つまりこういうことでしょう? まだこの北部の奥に存在するブルヘッド・シティで世の中に変化に気づくものは少ない、しかしあなたはこうして直々に目の当たりにした。となれば、一企業の長として食らいつく絶好の機会でしょうなぁ?」

 続く大人しい物言いは、言い出した本人が深くうなずいて納得するほどだ。
 確かにそうだな。ここに来てから「スティングの戦いなんて冗談では?」と思う人間はけっこういた。
 北に行けば行くほど、スティングから離れるほどに信憑性は損なわれたわけだ。

「そういうこった、みんな」

 だが、実際に目にして世界の変化にいち早く気づいたやつがいる。

「我が社はは壁の外の開拓、南との交流、そういったにありつくことにしたのさ。そこで俺がここに来た理由の一つとして――」

 まごうことなきこのデュオ社長だ。
 南から証拠を持ち帰ったそいつは、こうして話を貪る住民たちに向き合うも。

「ヴァルハラの有能な働き手募集ってことですかい、社長?」

 一人の声が残りの言葉を補ってくれた。
 その通りだ。そう言わんばかりにデュオは笑顔で受け入れていて。

「ああ。命がけでやってくれる開拓者、物資を運搬する縁の下の力持ち、そいつを守る兵隊、とにかくいっぱいだ。福利厚生はしっかりするから付き合ってくれる酔狂なやつを募りたいってことだ」

 まさかの宣伝を始めた。しかし効果は絶大でたくさんの好意的な様子が返ってくる。

「質問だ社長、そいつは何時からだい?」
「まだ何も決めてねえや、悪い。だが確実にたくさんの人手がいるぜ」
「だったら今のうちに予約いれとけって話か?」
「そうだな、ご判断はその時の気分でおはやめにってことだ」
「面白い話じゃないか。当然スカベンジャーも必要だよな、デュオさん?」
「おう、そう言うのも大歓迎だ。もし興味があるなら広報部と連絡してくれないか?」

 かなりの食いつきだ。社長殿の目論見通り人手不足で困ることはなさそうだ。
 見れば眼鏡エルフは「やりますなぁ」と感心してる。その通りだ、こいつは気楽そうに見えて抜け目ないやつで、それが社長に置き換わっただけさ。

「まあそういうわけだ。本日はこの明るい未来をくれた俺の友人ことストレンジャーズ、そしてフランメリアの方々がお泊りになる。どうか仲良くしてやってくれないか?」

 一通りの宣伝が終わると、デュオは満足した笑顔でこっちに肩を組んできた。
 住民たちは一目見るだけでみんな親しくしてくれそうな様子だ。

「初めまして、擲弾兵。あんたの噂はいろいろ聞いてたぞ」
「本物に会えるなんて光栄だ。デュオさんと楽しくやってくれたんだって?」
「ようこそ俺たちのヴァルハラへ、良かったらあんたらの話でも聞かせてくれよ?」

 擲弾兵からオーガからドワーフどもまで、みんなすぐに打ち解けてくれたみたいだ。
 これで今日のところは安心して眠れるだろう。が、その前にデュオが「ああそうだ」と切り出して。

「で、まだ続きがあるんだ。これから南から、フランメリア人ってのがいっぱい来る」

 社長の顔がファンタジーな連中を向く。
 好奇心に満ちた興奮飢えしたブルヘッドの皆様はすぐにつられたようで。

「ええ、実は我々は先遣隊のようなものでして。わけあって北部を目指す同郷の者たちが後に続いているのですよ」
「うむ、我らの後に仲間たちがやってくるのだ。スティングで戦った屈強な戦士たちが勢ぞろいなのだが……」

 そんなところ、眼鏡エルフと吸血鬼の姉ちゃんが言葉を足した。
 なるほど、他の連中もそろそろ来てくれるらしい。

『……オスカー君、あの二人と一緒らしいけど……元気かなあ?』

 一瞬あの牛と熊コンビの姿が浮かんで、あの子供まで届いたところでミコと思考が重なったみたいだ。
 あの子は元気だろうか。獣人コンビのそばにいるなら安全そうだが。

「あの二人なら大丈夫だろ。まあ、あの白狼様は分からんけど」
『そういえばいたね……今、どうしてるんだろう……』
「少なくとも崇拝対象から外されたのは間違いなさそうだな」

 そういえば同行した白狼(ペット)様はどうしてるんだろう。
 二人でそう考えてると、デュオが続けた。

「俺とこいつらから頼みがある。これからフランメリアのファンタジーな連中が来るが仲良くしてやってくれ。おっかないミュータントなんかじゃない、気のいい隣人さ。なあ?」

 その口から出たのはそんなお願いだ。
 わざわざ眼鏡のエルフに近づいて肩を組むぐらいの仲を見せつけると、ここの人たちもだいぶ分かってくれたようだった。

「分かったよ社長、これもまたってやつなんだな?」
「ほんとすげえよあんた、何でも友達にしっちまうんだからな」
「これからは外か。みんな聞いたな、ブルヘッドの未来のためだ、デュオさんの言う通りにしてやろうぜ」
「本当にファンタジー世界があるってことか? 驚いちまうぜ」

 なんとなくだが、ヴァルハラの住民たちはバケモンどもに少しだけ気を許したように見える。
 まあ「始まったばかり」だろうが。そうだとしてもいい切り出しだとは思う。
 そういうことか。宣伝もして、これから続く奴らが立ち寄りやすい場所にして、ついでに友達自慢もしていいことづくめってわけか。

「はっはっは、やりますなあ社長殿は。これで我々も少しは動き回りやすくなったわけですな」
「なあに、ちょいとボスのやり方を真似しただけさ」

 眼鏡のエルフがそう納得して笑うほどだ。

「ってわけで我が愛しきヴァルハラの気さくな奴ら、聞いてくれ。こいつらに安全に寝泊まりする部屋を貸してやりたいんだ、ついでに後続の奴らのためにもな。できればXLサイズの巨体も快適に暮らせる良い部屋だ」
「分かりましたよ社長、今すぐ手配します」
「ついでにこの都市らしい着替えとか用意してやってくれないか? ちょいと今は目立つ格好だと都合が悪いんでな」
「じゃあうちの店のもんで良かったら持ってくるよ」
「悪いな。そういうわけで皆さまよろしく、俺も寝泊まりするぜ」
「そう言うと思ってあんたのために酒の場を用意しといたよ。もちろん、そこのドワーフの爺さんどももいけるよな?」
「お若いの、言っとくが儂らめっちゃ飲むぞ? いいのか?」
「心配するなよ爺さん、そこのデュオ社長のおごりさ」

 こうして歓迎ムードに変わった『ヴァルハラ・ビルディング』が新しい活動の場所になった。
 後からやって来るフランメリアの奴らもこれで足を運びやすくなったはずだ。
 今日のところは気前のいいここの連中に甘えてじっくり休もう。ありがとうデュオ。


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