魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

ホワイト・ウィークスのホワイトなクソ職場

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 裏路地から通じる適当な建物の中、一人の男が床に横たわっていた。
 言うまでもないと思うが治療の真っ最中だ。
 ほじくられた目玉を元の場所に戻して『ヒール』をお見舞いするというむごたらしい施術だが。

「あああああああっ……!? なん、だ……目が……ぼんやりする……熱い……」
「なるほど、ヒールの痛みには鎮痛剤が効くんだな」
「言っておくがイチ、この手の薬は心臓に負担がかかるからな。急激な回復のショックを加味してぎりぎりの量だが、心肺蘇生を視野に入れた上での判断ということを忘れるな」
『く、クリューサ先生? 負傷者で試すのはちょっとどうかと思います……』
「ただで治してやってるんだ。対価に最適な治療法を探る機会ぐらい頂いてもいいだろう?」

 どういう形で行われたかは、周りに転がる血まみれの布切れや使い捨ての注射器が物語っている。
 回復の痛みを誤魔化すために鎮痛剤をうってみよう――クリューサの医学的な好奇心によるものだ。
 けっして善意によるものじゃなかったが、負傷した男が血まみれの顔でむくっと起き上がるだけの効果はあったらしく。

「お、あ、れ……? 目が、目が戻って……何が、あったんだ……?」

 蘇った名もなきスカベンジャーは赤白黒と何度か瞬きをした。
 視界の先にあったオーガの巨体に「うわっ」と腰が引けるものの、近くにいたエミリオたちの姿を見ると。

「……お前、確かランナーズの奴らか?」
「やあ、その代表者のエミリオだ。ちゃんと俺の姿が見えるかい?」
「ああ、こんな状況なのに爽やかな顔しやがって腹が立つな」

 ちゃんと治ったみたいだ。「いてて……」と体をさすりながら立ち上がる。

「……あー、なんだこの変な連中」

 そしてストレンジャー中心の方を見るなりそうコメントされた。
 変な連中はいかほどな面構えかと俺も確かめるが、オーガにメイドに犬っ娘にダークエルフに擲弾兵だ。

「その変な連中っていうのは今こうして喋ってるやつも含むのか?」

 ちゃんとカウントされてるか確認しておくが、相手はしばらく俺を見つめると驚きの表情を返してくれた。

「あんた……その格好、もしかしてストレンジャーか?」
「ああ、変な連中の一人だ」
「いや、うん、悪かったよ。いきなり視界に擲弾兵の姿をしたやつが出たんだから亡霊でもいらっしゃったのかと」
「擲弾兵ならこの前復活したぞ。んで俺は正式に二等兵だ」
「噂で聞いてたがマジでウェイストランドに戻ってきたのか、あいつら……。復活ついでにえらい二等兵を入隊させやがったな」

 「立てるか?」と手を伸ばすが不要な心配だったみたいだ、男は元気に立ち上がった。

「……ありがとう、本当にありがとうストレンジャー。あのホワイト・ウィークスのパクり野郎に捕まってこのザマだ、なぶり殺しになるとこだったぜ」
「礼はこっちの相棒に頼む」
「あー、相棒ってのは噂の喋る短剣のことか?」

 すっかり元気になった男はすぐに肩の短剣を覗いてきた。
 ミコの噂も十分届いてるんだろうな。まじまじと見つめてくるスカベンジャーの姿に『えっと』とおっとり声がたじろぎ。

『あの、目は大丈夫ですか? ちゃんと見えますか? どこかおかしいところがあったら教えてください』
「ははっ、本当に喋ってるな。身体もちゃんと動くし目も見えるよ、あんたは俺の女神だ――ありがとう」

 相棒にしっかりとお礼を伝えた男は、震える手で腰の水筒を手にした。
 ぬるそうなそれを飲み干すと、俺たちを見つめつつ重たく口を開く。

「助かったよあんたら。ホワイト・ウィークスのクソどもに気を付けてくれ、数に物を言わせて好き放題やってやがる」
「一体何があったんだ? ひどく痛めつけられてたけど」
「ストレンジャー、あいつらはこの稼ぎ時に乗じて人のモノをパクってやがる。俺は『スタルカー』っていうチームの一員なんだが、物資を回収したところを見られて尾けられてたんだ」
「運悪く目をつけられたってことか。他のメンバーはどうした?」
「他の奴らを逃がすために俺が囮になったのさ。勇敢だろ?」
「もう少しで蛮勇になるところだったな」
「あんたらのおかげで当初の予定通りだよ。あいつらはやたらと武器を持ち込んでるんだ、建物の屋上から迫撃砲までぶち込んでくるんだぞ?」

 余裕の戻ってきた男がそう伝えると、外からどぉんっ、と膨らむような爆音が響く。
 迫撃砲の着弾音、81㎜のやつだな。

「むーん、この音はスティングで良く聞いたものだな。このような市街地で良くもまあここまで打ち込めるもんだ」

 ノルベルトもすぐに気づいたらしい。あいつら間違いなく街中でぶっ放してやがる。

「ミューティ……いや、"オーガ"だったか? あいつらは成り上がりのクソどもだ、スカベンジャーの礼儀作法なんて知らんのさ」
「フハハ、俺様のことも北まで届いているようだな。案ずるな、俺様はちゃんと『郷に従え』が染み付いているぞ」
「お前とは仲良くやれそうだよ。ったく、シド・レンジャーズどもはどうしてあんなクソどもをほったらかすのか……」
「まださほど事情は把握しておらんがな、奴らにとって手を出しづらい存在らしいな」
「俺たちみたいなスカベンジャーにとってもな。でもまあ、あんたらならあのクソどもをぶちのめす銀の銃弾になってくれそうだ」

 治った男は頼もしそうにオーガを見てから、腰からタブレットを取り出す。
 しばらくいじるとこっちへ近づいてきて。

「おい、そのヘッドセットは使えるか?」

 自分の耳元をとんとんしながら、そう俺に尋ねてきた。
 真似して指で探ればスティングでつけっぱなしのヘッドセットがある。

「ちゃんと使えるぞ、それがどうした?」
「俺たち『スタルカー』の無線チャンネルを教えとく。御入用なら何でも言ってくれ、力になる」

 その言葉を受けてPDAを開くと、無線画面にチャンネルが追加されていた。
 『スタルカー・チーム』の連絡先とある。早速無線を開いてヘッドセットに手をやって。

「あーあー、スタルカーの皆さん聞こえてる?」

 一声かけた。すると『なんだ今の?』と低い男の声が返ってくる。

『ああ? 誰だお前は? このチャンネルをどうして知ってる?』
「おたくの囮をいじめるホワイトなクソ野郎どもをこらしめてやった、以後よろしく」
『待て、サムのことを話してるのか?』
「サムっていうのか、今目の前で元気にやってるぞ。ついでに言うと俺はストレンジャーだ」
「よお、サムだ。耳にしてる通りどうにか生きてるぞ」

 ヘッドセット越しにそう伝えてこの男――サムの言葉も挟まると、チャンネルは『生きてたのか!』『マジかよ!』と驚きの声が沸き上がった。
 仲間の安否が心配だったらしいがもう大丈夫だろう。

『ははっ、今日はツイてるぞ! お前、まさかあの噂のアイツか!?』
「ああ、あんたの仲間は無事だ。こうしてチャンネルを教えてもらった」
『オーケー、よく分かった。スカベンジャーは助け合いの精神だ、何かお困りなら何でも言ってくれ』
「そうか。なら早速お尋ねするぞ、この街から出ていきたい。北からな」
『北か。見聞きしての通りホワイトのパクり野郎が我が物顔で北部にいらっしゃるんだ、幸いにもあいつらが暴れてるお陰でテュマーどもも少し離れてるがな』
「つまりその馬鹿どもを蹴散らせば十分進めるんだな?」
『おいおい、やる気かよストレンジャー』
「もうやっちまったよ。たった今燃やせるゴミになった」

 俺は無線越しの声を受けつつ外の様子を見た。
 裏路地には敵はいないが、さっきまで通っていた道にテュマーがまた現れてる。
 ついでにゴミ箱からちゃんと二本足も生えてる――白い死体を見たサムが「ぴゅうっ」と口笛で感心した。

「こちらサム、ストレンジャー殿の言う通りゴミ箱に突っ込んであるぞ」
『大した男だよ、あんた。なら協力は惜しまないぞ、俺たちのできる範囲の事だったらなんでも頼んでくれ』
「了解、スタルカー」
『サム、お前はこっちに戻ってこい。あいつらに感づかれる前に物資を回収だ』
「そういうわけだ、この御恩は一生かけて覚えとく。ご武運を」

 元気になった男は俺たちに一礼してから去っていった。
 目で追うと機敏な動きで壁のパイプを伝って登り、僅かな足場を踏んで登って……おいおい、忍者かよ。

「なんだあいつ、忍者か?」
『……いちクン、忍者設定ちゃんと覚えてる?』

 身軽そうな姿をしたあいつは見た目通りの動きで姿をくらました。
 ……かと思えば建物の上からひょこっと現れて『仕返しどうも』と手で表してくれた。

「おお、なんという男よ。まるでヤマネコのごとき動きではないか」
「わ~お、あっという間に屋上っす。いい運動神経してるっすねあのお兄さん」
「私だってあれくらいできるぞ!」

 見上げるオーガとメイドにそうコメントさせるほどの軽やかさだ、約一名褐色の方が対抗心を燃やしてるが。

「スカベンジャーは物漁りのスキルもそうだけど、ああいう移動術が大事なのさ。俺たちだってできちゃうよ」

 そんな姿に手を振っていたエミリオがさも当然のように口にしてきた。
 スカベンジャーっていうのはああいう軽業も必須科目なのか? 俺には到底できそうにない。

「生憎俺にできるのは邪魔な敵をぶちのめすぐらいだ、頼りにしてるよ先輩」
「おっかない後輩ができちゃったなあ、無事に帰れたらストレンジャーの先輩になったって彼女に自慢しよう」
「おい、頼むから彼女の話をしないでくれ」
「あれ? ひょっとして羨ましがってる?」
「この言葉は善意と心配でできてるぞ」
 
 負傷者がいなくなったところで、俺たちはまた裏路地をこそこそと進み始める。

「ん。ご主人、こんなの見つけたけど」

 ……と、その前にニクが『戦利品』を抱えてとことこやってきた。
 出所はくたばったホワイトな二人だ。チップや銃弾に混じって導火線のついた鉄パイプが何本もある。
 手のひらで握ればだいぶはみ出すほどの長さで、がっちりとキャップで密封されて『爆発物です』と表明中だ。
 上部にはリング付きの太いワイヤが伸びており、引っ張れば間違いなく導火線に点火されると思う。

「なんだこの鉄パイプ? 爆弾か?」
「そいつはホワイト・ウィークスどもが正式装備と謳ってる手製のパイプ爆弾さ」
「あいつらお手製の手榴弾も携帯してるのかよ」
「見た目はシンプルだけど確実に作動するから信頼性も高い……まあ、『ファクトリー』の図面を盗んで勝手に量産してるらしいけどね」
「中身のないパクり野郎ってのはほんとらしいな、こいつはご本人たちにお返ししていいんだよな?」
「テュマーに気を付けてくれるならいくらでもどうぞ、ストレンジャー」
「任せろ。誰かこいつ使いたいやつはいるか?」
「イチ、私に一本くれ。何か役に立つ時があるかもしれないからな」
「おっと、そいつはリングを抜くと摩擦で時限信管に点火するからね。気を付けて長耳のお姉さん」

 エミリオの説明によればパクり物の手榴弾らしい。
 元がファクトリーならそっちを信用しよう。欲しがるクラウディアに一本渡してポーチに放り込むが。

「そうだ、こいつらの死体はどうする?」

 ゴミ箱と硬い床と仲良くなったままの二人を見て思いとどまる。
 このまま残してもいいが、テュマーを呼び寄せたりお仲間の注意を引いてしまうかもしれない。

「あーそうだね、そのままだとまずい。どこかに隠すか、それかテュマーに食べさせるっていう残酷な選択肢があるけど……」
「第三の選択、私が溶かしますわオラァッ!!」

 ……いや、問題は解決だ。
 リム様が死体に触れて青いどろどろに変えてしまった。これでよし。
 さすがに元人間が青白い輝きに変わってしまうのは受け付けられなかったのか、けれども『ランナーズ』は引きつった顔のまま。

「…………あー、ストレンジャー? 君たちはいつもこう、ショッキングな光景と隣合わせだったりする?」
「お、おいっ……何してんだあの子供……!?」
「し、死体が溶け……うわあ……」

 青い塊を吸い寄せる魔女と、もう見慣れたストレンジャーを見比べてきた。
 どうであれこれで痕跡は消したんだ。問題ない。

「えーと、あれだ、死体を――」
「死体を消す魔法ですわ!」
「そう、死体を消す魔法だ。便利だろ?」
「……そ、そうか。はは、彼女に話してやったら夜中トイレいけなくなっちゃうな?」
「ウェイストランドの怖い話にストックしとけ。引き続き先導頼むぞエミリオ」
「了解したよストレンジャー、さあ行くぞみんな。死体が消えたぐらいで怖がってる場合じゃないぞ」

 マナたっぷりな流動体に負けじと顔を青くしたエミリオたちが、また先を行き始めた。



 気配を殺して足音を鎮め、路地を幾つも通り抜ける。
 道中潜り抜けた先の道路でテュマーたちの動きが目に入るものの、流石エミリオたちというべきか、手際が良かった。
 どういう意味かって? 言葉のままだ、こいつらはテュマー慣れしてるんだ。

「……またテュマーだ、数は6か」

 戦前の人類が残してくれた車やバリケードを陰に、俺は向こうを覗く。
 通りのど真ん中で行き場の定まらない黒い人間がうろついている。
 しきりに届く様々な方向からの銃声や爆発音に惑わされてるのか、赤十字マークが立った建物の前で留まってた。

「ニク、何か変な匂いはしないか?」
「……ごめん、匂いが多すぎてわからない」

 とりあえず愛犬に尋ねるも、人間と変わらぬテュマーの香りに自慢の鼻も効かないようだ。

「あいつらも俺たちがやるよ。そうだな、あと一人来て欲しいんだけど」
「なら俺も付き合う。行くぞ」

 周囲の様子をうかがって、『ランナーズ』はするりと物陰を縫っていく。
 良く喋る顔立ちが口を硬く閉じたまま進めば、荒れたアスファルトの上に物音ひとつ立てずにテュマーへと迫る。
 たった五人ほどの連中はその気配を悟られることなく、各々の得物を構えて仕留めにかかっているのだ。

「……頼もしい奴らだな」

 俺も先輩たちを見習って後を追った。
 ブーツの足裏を意識して瓦礫一つも踏まないように歩くわけだが、思い通りの道があるわけもない。
 ガラスの破片、小石、雑多なゴミ、そんなものが散らばってるんだぞ?
 なのにどうだ、ランナーズたちはそれすらも音を立てずに踏み越えて、テュマーの死角に近づいて。

「……待機中、待機……ッ!?」
「しーっ……おやすみ」

 まずエミリオが仕留めにかかった。建物を見上げる女性のテュマーの首に取っ手付きのワイヤーを絡ませる。
 絞め殺す具合にフィットしたそれに首が持ち上がると、手慣れた動きで膝裏を蹴って跪かせる。
 それが声を上げられずに「アア……!」ともがくに続いて、仲間たちも次々と武器を向け。

「オオオオオッ、オアアアアアッ、オッ……!?」「アギッッ」「警戒中、有機物を探――」「んがっ……!?」

 エミリオの絞殺が決まると同時に、一斉に攻撃した。
 ナタで首を打ち斬り、槍で後頭部をぶち抜く、ピッケルのようなもので頭蓋骨ごと破壊し――周囲のゾンビは機能停止した。
 都市への移動を開始してからずっとこの調子だ。周囲の状況次第だが、道を遮るテュマーたちを手際よく仕留めてる。
 おかげで良く進めてるわけだが、俺も負けちゃられないな。

『……すごい、あの人たち連携が取れてるね……』
「流石本職の方々だな、参考にしよう」

 いきなりの奇襲が始まる中、棒立ちの一体の背中に飛びついて。

「……アアァァ……? アッ――」

 周囲で仕留められる仲間に気づくかどうか、そのタイミングで首を絞めた。
 戦前から学生らしい姿を保つテュマーがひどく暴れる、見た目以上の力でぐらっと何度も振りほどかされそうになった。
 まるで石みたいに硬い首の感触に腕を絡めて抑え込み、頭も抑えて地面に引きずり込んで。

「俺からもおやすみ、じゃあな」

 ごぎっ。
 暴れる力を利用して、ずり降ろすと同時に上半身ごと捻りを咥えてへし折る。
 首をぶち折って無力化だ。ブラックガンズで習っておいて良かったな。

「ああ、うん、テュマーの首をへし折るなんて俺たちでもできそうにないよ。ほんとに人間?」

 なんとかエミリオたちについていけたが、本人たちは施術失敗で亡くなったテュマーに少し引いてる。
 別に加虐嗜好があるわけじゃないし、ディアンジェロみたいに首絞めに興じる性癖もない、テュマーの動きに銃剣が合わないからだ。

「ナイフが得意なんだけどな、暴れるもんだから確実にやれない」
「いい判断さ、あいつらは強い一撃で素早く撃破するのが確実だからね」
「私だったらナイフ一突きでやれるぞ」
「そりゃ頼もしい、次はそっちがやってくれクラウディア」

 まあ、こうして意気込むクラウディアなら問題ないだろう。
 そもそもこのダークエルフだったら抵抗する間もなく殺すからだ、クリューサもいい相棒を持ったもんだ。

「よし、前進しよう。何件か建物の間を抜ければテュマーの数も減るはず――」

 そうやってまたエミリオたちの仕事ぶりに続いて進もうとした時だ。
 イケメン姿がすっ、と静かに歩き始めたそのタイミングで頭上が光る。
 目の前にある病院の屋上だ。鋭い光が確かにこっちをみて――

「……くそっ! エミリオ! 待ち伏せだ!」

 すぐ理解した、まさかテュマーを餌にしてやがったのか?
 俺は通りを抜けようとするエミリオに叫ぶも、病院の前まで駆け込んでおり。

 *baaaAM!*

 頭上から銃声がした。どうにか一声間に合ったのか、黒茶髪の姿がずるっと転んでしまう。

「あっ……うおっ……!? そ、狙撃……!?」
『畜生、外しやがって! 待ち伏せは失敗だ、やっちまえ!』
『ヒャッハァッ! ここは俺たちの縄張りだ、とっとと失せろ馬鹿野郎ども!』

 良かった、外れたか。
 慌てて俺たちは隠れようとするも、病院屋上からの声の持ち主は威勢よく何かを放り投げてきた。
 そう、燃え盛る瓶に、さっき手にした短い鉄パイプの雨が……。

「……ば、爆撃! お前ら走れ! やられるぞ!」
「う、うわぁぁッ!? た、退避ッ! は、早く早く早く!」
『う、うそっ……みんな走ってぇぇぇ!?』
「皆、俺様を盾にしろ! 急げ!」

 火炎瓶とパイプ爆弾が降って来やがった、畜生!
 俺は倒れるエミリオを無理矢理起こして走った、後続もノルベルトが盾になってついてくる。
 必死の勢いで病院まで駆け込むと、

*zZbaaaaaaaaaaaaaaaaaaaM!*

 背後で幾つにも重なった爆発が、燃え盛る炎と仲良く散らされた。
 こっちにも破片が届いてかつっとアーマーが小気味よい音を立てるほどだ、あのイカれ野郎ども!

「アアアアッ! アアアアアアアッ!?」
「敵ッ! 敵を発見ッ!」
「警戒! 警戒!」

 そんな賑やかなBGMに誘われてテュマーたちも集まっていく。あいつら正気なのか!?

「病院に逃げ込め! 早く!」
「ホワイト・ウィークスってこんな感じなんだ! 分かったかい!?」
「ああそりゃもう満足するぐらいにな! クソどもが!」

 俺たちは赤十字の目立つ建物のロビーへ流れ込んだ。
 目の前に広がるのは入り口に向けられた土嚢や銃座、そして――

「ようこそ、ホワイト・ウィークスの縄張りへ! 持ってるもん全部よこしなぁ!」

 逃げ込んできた俺たちを出迎える、重機関銃に着く白い格好の男だった。
 荒れ果てた院内の通路に構えられた陣地に、ホワイト・ウィークスの白い姿がストレンジャーズを歓迎してやがったわけだ。
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