魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

ド変態によるウェイストランドの危機再び

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 消防署の前にかき集められた人数はざっと40人だった。
 二割が射撃の経験ができあがった狩人、三割が監視者、残りは全部不運に巻き込まれた哀れな住民だ。
 更に言えば全員がやるかやられるかなんて無縁だった奴らだ。
 とにかく数は揃った。あれこれ話を聞きつつ監視者二名を偵察に向かわせたわけだが。

「……実働可能な人員は40人ほどか、まともに戦えそうなのは何割だ?」

 ずらりと集った質量を見てもステアーはまだ不安そうだ。
 それが普通なんだろうな。ついさっきまでこの町で陽気に暮らしていたはずが「町の存続をかけて戦え」だぞ。
 こうして見るとスティングがいかに異常だったかよくわかる。
 あっちは土地勘のある義勇兵だのバーサーカーなフランメリア人だのがいて苦労はしなかったが、こっちはほぼ素人だ。

「偵察に向かった二人のことも忘れるな、ここにいるのは38だぞ」

 俺はそんな連中と、手元の地図を見比べた。
 今いる戦前の姿を残す街並みは北側にあり、さほど広くもないがそれなりに建物が密集している。
 その後ろに構えられたのが例の西部開拓時代ごっこの町だ。こっちに人口が集中していて、ここを守るのが目標と考える。

『……地図を見る限り、住民の人たちは南の方に集まってるんだね』
「なるほどな、好都合だと思わないか?」
『うん、北側に守りを集中させれば広く対応できると思うし……』
「迂回して東の廃墟からやって来る、ってなってもどの道はこの北側エリアが役立つな」

 肩の短剣と一緒に、ちょうどこの町を仕切る十字路を見た。
 戦前の案内を見る限り分かる点はこうだ。北へと通じる道路がそのままテュマーたちの進軍経路と考える。
 その左右に広がるのは広大な畑の跡地。隠れる場所もないが、なんにせよ郊外も進んでくると仮定する。
 どの道最初に襲われるのはスピリット・タウンの北側、西部劇調じゃない方の町並み――この人数で守り切れるのか?

「それでストレンジャー、何かいい案でも浮かんだか?」
「先に言っとく。町を無傷のまま守り切るのは無理だと思え」
「あの映画セットが台無しになるって意味か? それとも住んでるやつらの犠牲がどうこうっていう話か?」
「いいか、人命重視だ。敵の数は分からないけどな、倍ぐらいと仮定したとしても街に一歩も近づけさせないのは無理だ。こんだけの人数を広げて受け止めようとしたら、敵の攻撃がどっかに集中して突破される」

 住民たちの頼りなさは仕方ないが、この人数を北に広く配置して守るというのは無理だ。
 テュマーのあの機敏さや、戦車を使ってくるという情報を加味しても、郊外で陣地を作って迎え撃つにも数が中途半端すぎる。
 そして中途半端に守ろうものなら痛い目に会うわけだ。それなら――

「なるほど、分かってきたぞ。つまりお前は今俺たちのいるエリアを防御陣地に変えたいわけだな?」

 そこでステアーがアウトドア用のテーブルを引っ張ってきた。
 展開されたそれに監視者用のスケールアップされた地図が広げられると、住民たちが興味津々に取り囲み。

「そうだ、どの道敵の攻撃をコントロールする必要がある。町やら郊外やらにちまちま人員を配置してたらそこを突破されるぞ」
「そこでこの西部劇じゃない方の町が役立つってわけか。まあここを使ってるのは俺たちぐらいだ」

 保安官の指は今俺たちが立っている場所を突いた。
 映画の撮影舞台を見守るように立った消防署だ。その背後で北に向けて150年モノの建物が雑多に並んでいる。

「……だったら異論はないぜ、使う人間なんてもういないしな」
「そうだな。いつか活用できるかと思って残してはいたんだが、けっきょくあの撮影セットの方が住み心地がいいからな」
「ならあそこを防御の要に使うっていう選択肢はありだ。ここぞという時のために使うべきじゃないか?」
「消防署にある監視塔から郊外への距離は大体400mぐらいだよな、狙撃するなら十分射程範囲に入るぞ」

 それを目にした住民たちは納得してる。
 異論なし、どころか積極的に使ってもいいという空気だ。
 時間的余裕も敵の規模も分からない以上、ここを陣地に変えるしかないな。

「今ここではっきりと聞かせてくれ、みんな。まず町の一部を戦いの舞台に変えて迎え撃つ、守りを固めて敵の攻撃を受け止めてコントロールする目的もある――それはいいか?」

 俺はスティングのことを思い出しつつ地図を指した。
 みんなが立っているこの町の北側だ。密集した建物を利用すれば防御も退路も確保できる。
 下手に郊外で土嚢を積んで待ち構えて迎撃、なんかよりもコストはかからないしずっと安全だ。
 それしかない、というのもあるが。

「異論はねえよストレンジャー、人命重視っていうワードが特に気に入った」
「勿体ないがしょうがない話だ。乗った」
「何時来るか分からないしな、今すぐにでもとりかかるよ」

 住民たちの反応はやる気に満ちてる、これで決定だ。
 しかしここですべてが終わるとは思わない方がいいだろうな、敵の規模が分からない以上は予備のプランも必要だ。
 そこで、すかさず南側へ指をずらして。

「でだ、あんたらの住んでるあの映画セットの方なんだけど」

 次の話題を切り出すと、やっぱり顔色は悪くなった。
 自分たちの住む西部劇風の町が巻き込まれていい思いはしてなさそうだが。

「最悪ここも攻め込まれると想定してくれ。もし北側の防御が突破されたら敵の戦力が集中するのは間違いないだろうしな」

 最悪に最悪が重なってここを放棄せざる得なくなった場合だ。
 敵は間違いなく深くまで来るだろうし、何より俺たちの退路は「町を放棄する」しかないようなもんだ。
 何より敵の主目標がこの町だ。向こうは人でにぎわう場所を狙うだろうし、俺たちはそれから守らなきゃいけない。まさに決闘の場なのだ。

「つまりあんたらの大好きな西部劇の舞台がマジで戦場になる。その可能性があり得ることを承知してくれないか?」

 念のため尋ねた。あんたらの住まいを戦いの場にしていいですかと。
 もちろんどよめいた。しばし話し合うも、やがて町の誰かが地図を見て。

「……へっ、つまりなんだ。本当に映画の舞台さながら、派手に戦えってか?」

 それからある場所を見てさぞ面白そうに言う。
 視線の流れを真似すれば、ちょうどそこには町のあちこちに貼られた広告があって。

【*最後のレンジャーが現代によみがえる!* ゾンビ溢れる20××年のアメリカに、開拓時代のテキサスレンジャーが――】

 そこで白馬にまたがる黒づくめが勇敢に銃を向けているところだった。
 皮肉にもまさにそうなろうとしてるせいで笑えないが、周りも目にしたようで。

「150年前からずっと進んでないらしいな、こいつの撮影」
「ああ、まさか本当にゾンビと戦う舞台になるなんて思ってもなかったろうに」
「あんなところを残してくれたご先祖様のために、俺たちが続きを担ってやるのはどうだ?」
「テュマー相手にな。悪くねえ話だ、演出じゃないマジの戦いを刻んでやるのもまた一興じゃないか?」

 何か触れるものがあったんだろう、最初は弱く、次第に強くうなずいて。

「承知したぞストレンジャー。その代わり……」
「その代わり非戦闘員は避難してもらう。残るのはやれるやつだけでいいな?」
「分かった。みんないいよな? 残るのは勇敢な戦士たちだけだとよ」

 代表して出てきた誰かがそういって、全員が承諾したらしい。
 さっきよりもだいぶ空気は良くなってきた。軽口を叩けるぐらいには。

「つまり俺たちがやるべきことはこうだ。外で迎え撃つなんて無理だ、だったらいっそのこと俺たちの得意な場所に引きずり込んで殺す」

 そんなところで俺は親指で町並みを現した。
 外には危険はびこる世界が広がってるが、幸いにもこの町は安全に暮らす穏やかさがある。
 だからこそいいんだ。この町の連中はここをよく知ってる。

「土地勘はあるよな? そいつを生かして敵の攻撃をかわして一方的に攻撃して削っていく、この町に傷はつくかもしれないけどテュマーどもにあの世へお帰り願う。それが今回の目標だ」

 スピリット・タウンの形を注目させると、よく慣れてるであろう住民たちはだいぶ落ち着いてきた。
 それどころか誰かが、監視者の部下の一人が手をあげて。

「――戦車が出ても?」

 と、軽口を望むような調子で尋ねてきたので。

「その時は俺がぶっ壊してやる。もちろんみんな協力してくれるよな?」

 相応の答え方をしてやった。半分本気だが。
 それがいい感じにはまったんだろうか、周りの連中が面白がってきた。

「質問だ、その場合は戦果はあんたが独り占めか?」
「せっかくだしみんなで分けるってのはどうだ?」
「いいね、周りに「戦車をぶち壊したぞ」って自慢できるな」
「破壊した戦車を町の観光名所するってのも悪くないと思わないか? いいぜストレンジャー、町の名声の為に一肌脱いでやってもいいぞ」

 さっきの頼りない姿はどこへいったのか、頼もしい返事ができるようにはなった。

「……よし。それとさっき狙撃ができるとか言った奴がいたな、何mまでぶち抜ける?」
「500……いや600ぐらいならいける。高いところがあればもう少し上までいけそうだが」
「この消防署にある監視塔から狙撃はできるか? もちろんヤバくなったら放棄すること前提でやってもらう」
「お、オーケーだ。弾と銃と観測手をくれればやってみせるよ」
「頼んだ。後は罠がどうこう言ってたやつ、敵の侵攻ルートを絞って誘導させたらやってくれるか?」
「うちに廃墟の解体用の爆薬があるんだ、そいつを使えばと蹴散らせるんじゃないかと思ってた」
「今すぐ持ってきてくれ。あと郊外での待ち伏せは危険だ、今すぐ北側の防御を作るぞ。土嚢だとか鉄板だとかテーブルでもいい、弾を防げそうなもの集めて建物を内側から補強しろ」
「了解だストレンジャー! お前ら、使えそうなもん集めるぞ!」
「とにかく北の守りを急ぐぞ。手が空いたら西部劇の方も手を加えとけ」

 スティングで目にしたことを可能な限り引き出しながら、俺はできうる指示を飛ばした。
 とにかく受け止める準備が大事だ。無防備なところに一発食らうよりはいい。
 幸いにも昼間に見た血の気の多さが働いてるようで、住民たちはすぐに動いてくれたのだが。

「意外ねえ、正直頼りないと思ってたけど言う時は言う人なのねいっちゃん」

 俺もさて動こうとした矢先、黙って耳を傾けていた女王様が絡んできた。
 余計なお世話だがこの人にそう言われたんだ。名誉なことだと思ってやろう。

「見よう見まねだよ。スティングで学ばせてもらったから真似してるだけだ」
「あのおばあちゃん、最後の締めが「適当にやれ」だったっすよねえ。同じこと言わなくてよかったんすかイチ様」

 真面目に返さないでおいたが、ロアベアもからかうようにによによしてる。
 こいつの言うように「じゃあ適当にやれ」というのもありかもしれないけれども、俺にはまだまだ口にする資格はなさそうだ。

「俺が言うにはまだ早いみたいだ。もう少し成長したら言うさ」

 いつか同じセリフを口にできるようには出世しておこう。

「おい! 武器持ってきたぞ! 街からかき集めてきた!」
「爆薬持ってきたぞ! 信管もある!」

 すると住民たちが工具やらを持って北へ向かう中、西部劇の方から住人たちが走ってきた。
 銃身がはみ出たケースを抱えていて、そこに火器があるのが嫌でも分かるが。

「使えそうなものはこれだけだ! 満足するかどうかは別だがな!」

 どん、とその場に並べられたそれを一目見せられて――

「……これだけか?」

 目の前に次々と置かれた"武器"を前に、流石の俺も困惑した。
 どうにか腹の奥から出た言葉もこれだけだ。

「……あー、数はいっぱいあるようだがな?」

 一緒に目の当たりにしたステアーも同じような反応だ。

 まずは雑多な拳銃、それも口径はばらばら。
 小銃が30ほど。使い回せそうな308口径弾は多いわけじゃない。
 自動火器なんてものはない。何か目立つものがあるとすれば万能火薬で作られた棒状の爆薬ぐらいだ。
 機関銃? 対戦車兵器? そんなもんない。

「なあ、この拳銃の量はなに? なんでこんなに口径がバラバラなんだ?」
「俺たちは色々なところから来たからな。まあ個性の表れと思ってくれないか」
「そもそもここは街ぐるみの軍かなんかじゃないんだぞ? 小銃の口径が大体308で統一されてるだけでも奇跡だと思ってくれ」
「何か他にないのか? 機関銃とか迫撃砲とかなんかないのか?」
「そんなもんここにはないぞ。何せそんなの必要になる相手がいなかったからな」

 今必要になってんだよ! クソが!
 つまり俺たちは猟銃やら拳銃であいつらと撃ち合うことになるわけだ、ないよりマシとでも思って誤魔化せってのか!
 いろいろと不満があるが我慢した。とにかく武器は武器なのだから。

「分かった、腕のいい奴に小銃を配ってくれ。それとこの爆薬は?」 
「これがさっき言った廃墟で使ってるやつだ。十本ぐらいあって、発破装置も一緒だ」

 次に爆薬とやらも見た。クリーム色をした太い棒状のものが何本もある。
 材料は恐らく万能火薬か。爆破させるための雷管や電流を送るコードも一緒だ。
 ただし十本。これをどう生かすか……。

「地雷だ、地雷を作るってのはどうだ!」

 こいつをどう扱うか悩んでると、それを見てた監視者の一人が言い出しす。

「地雷? こいつを埋めて踏ませろってのか?」
「違う、地面を斜めに掘ってこいつを埋めるのさ。その上に木の板やらしいてガラクタを詰めてドカン!だ。するとどうなる?」
「なるほど、でっかい散弾銃か」
「そういうことだ! で、どうする?」
「敵がまっすぐ来るとしたらどこを通ると思う?」
「道路から来ると想定しても北か北東よりだ、突破されたら南向かって堂々と突っ切るだろうな」
「郊外と防御線の内側と南の町の前にセットできるか? お前らの土地勘でいい、通りそうなところに目星をつけてほしい」
「任せろよ、ずっとこの町を見てきたんだから楽勝だ。おい、行くぞ!」

 地面に埋めて巨大な散弾にするのか、その発想はなかった。
 だけど制圧力が出せるなら単体で爆破させるよりずっといいだろう、一任させて住民たちと向かわせた。
 しかし火力不足は相変わらずだ、どうするか悩むが。

「火炎瓶とかどうっすかね? いきなり火とか食らわせたら怯んだりしないんすか?」

 ロアベアがにやつきながら提案してきた。
 火炎攻撃か。ゾンビといえば定番だろうけど――ステアーたちの顔は「よろしくない」を体現してて。

「テュマーに火は駄目だ。火炎瓶なんて使うとやばいぞ」
「なんでだ」
「なんでなんすか? ゾンビ言ったら炎が効くって定番っす」
「あいつらに火が燃え移るとかえってやばいんだ。普通に動いて周囲に火をまき散らす、狂った聖火ランナーみたいにそこら中を明るくしてくれるぞ」
「わ~お……タフなゾンビさんっすねえ」

 言うには火種になって走り回るらしい。
 ヒドラと相性が悪いのは確かだろうな。却下。

「見てくれ、こういうのがあったぞ! 使えんか!?」
「イチよ、これを見てくれ! 立派な大砲だぞ!」

 次にカルカノ爺さんとノルベルトがきた。
 雑貨屋から引っ張ってきたのか、意気揚々と見せてくれたのは――大砲の砲身だ。
 それもスティングで目にしたような105㎜級のものじゃなく、砲身に直接火薬と弾を突っ込むような古い奴だ。

「……いつの時代の大砲だよこれ」
『……あ、アンティークな大砲ですね……?」
「150年前の映画撮影に使う機材だ。ちゃんとした材質で作られてるから撃てるとは思うんだが」

 ノルベルトめ、どこが立派だ。観賞用の彫刻まで施されてるような大砲だぞ?。
 ……いや、使い道はあるな。

「分かった、使うぞ」

 周りはこの鉄くず一歩手前のブツの処遇に悩んでいたが、さっきの件もあってすぐ浮かんだ。

「使うって……どうやってだ? まさか砲弾でも探して打ち込めってのか?」

 住人が正気を疑ってきたが考えはこうだ。
 いわゆる巨大なカンガンにしてやればいい、それも大砲を使って。
 火薬とワッズと鉄くずでもいれてやればすさまじい威力になるはずだ。

「お前ら、役に立たなさそうな拳銃から弾全部抜いてこい」
「そんなに何に使うってんだストレンジャー?」
「こいつを散弾砲にする。カンガンって知ってるか?」
「ヴェガスで使われてるあの使い捨ての馬鹿デカイ散弾だろ? まさか」
「そうだ、まずこいつに万能火薬をぶっこむ。次にワッズも詰めて、あとは抜き取った弾頭とか鉄くずぶっこんで完成だ」
「――よし、それだ! おいみんな! いらねえ拳銃の弾かき集めろ!」
「完成したら待ち伏せできそうなポイントに置け。偽装もしとけよ」
「あと三門ある、追加で持ってくるから待っていろ! ついてこいデカいの!」

 指示を飛ばした、手すきのやつが急いで拳銃弾から弾頭と火薬を抜き始める。
 完成した暁にはさぞ熱々の散弾がぶっ飛ぶことだろう。さてそうなると――

「……よし、俺もやるか。ちょっと中のテーブル借りるぞ」

 PDAを見た。クラフトアシストシステムにあった『クレイモア地雷』を選択。
 みんなが一斉に動き出す中、俺は消防署の中に入ってあのテーブルに向かう。

「何するつもりだストレンジャー」
「工作だ、すぐ終わるから待ってろ」

 さっそくコマンドを起動すると、がたっと目の前に何かが落ちてきた。
 幅20㎝ほどの湾曲したプレートに簡素な足、それから板状の爆薬にテープにボルトやナット……組み合わせれば凶悪になる顔ぶれだ。
 教わったことを生かしてプレートに爆薬を張り付けて、鉄くずを布で固定、足を立ててやって湾曲面に散弾が向かうようにすれば指向性地雷の完成だ。

「……あー、おい、今なにやった? いや何作ってんだお前は」
「手品だ。今見たことは黙っててくれ」

 唖然とするステアーを無視して同じように何個も作る。
 それから『信管』もだ。中に『電子制御信管』というのがあって。

【この信管はPDAでコントロールする仕組みです。最大十個まで管理可能で、デトネート・コントロールアプリで派手に吹き飛ばしましょう!】

 と説明がある。
 迷わず作る。制作を選ぶとごろっと電子機器の乗った信管が出てくる。
 試しにコントロール機能を立ちあげると、設定画面に1から10までの番号が表示されていた。
 どうやら作った信管と同期できるらしい。適当なやつに『1』を設定してリンクさせてみると、ビープ音とともに信管が青く発光――なるほどな。

「よし、ないよりはマシだろ」
「気のせいか? なんかお前の目の前にいきなり現れた気がするんだが」
「気のせい。それよりこれもって仕掛けに行くぞ、手伝え」

 俺は手製のクレイモア地雷を何個か手にした。ついでにステアーにも親愛の印に二つだ。
 周りは手際よく動いてくれてる、誰かさんのトラックも無駄なく駆使して北に資材を運んでるらしい。

「報告! 報告だ! 畜生最悪だ!」

 そこへおりよく、あるいは運悪く、道路の方からバイクが走って来る。
 向かわせた斥候だ。ただし二人乗りだったはずのそれは片方しかおらず。

「おい、もう一人はどうした!?」
「き、聞いてくれステアー! マジでやばいぞ! ウェイストランドの歴史に名を遺すぐらいの大惨事になりかねないんだ!」
「どういうことだ!? 落ち着いて話せ!」
「落ち着けるかよ! 大群だ! 戦車数両、エグゾアーマー三機、頭数は俺たちの数倍だ! ありゃ占領部隊だ! もうこっちに近づいてる! 一人やられちまったんだ!」

 ステアーに向けられたのは最悪のニュースだった。
 戦車を持ち出すことは分かっちゃいたがエグゾアーマもだって?
 それに占領部隊ってなんだ? あんまり口にも耳にもしたくない言葉なのは確かだが。

「……本気で来てるってことか。ところで占領部隊っていうのは?」
「ストレンジャー、つまりだぞ、ここを守り切らないとテュマーが南へ進出しかねないってことだ! あいつら本気でここを取りに来てやがるんだ! あれは縄張りを広げるための本隊だ!」
「ああなるほど、本腰入れてウェイストランドに侵略中ってことか――――くそっ、あのド変態野郎! なんてことしやがったんだ!?」
「ディアンジェロの野郎、一生恨んでやるぞ! 侮辱のお気持ちつきの墓立ててやる!」

 さすがの俺も軽口が叩けないほどの現実だ。
 向こうは本腰いれて、しかもここを南への手掛かりにするだって?

『ど、どうするのいちクン……? 数倍の数がきてるって……!?』
「それでもやるしかないだろ……。この世界に二度目の危機くれてやるとか最高だなあのクソド変態が」

 怒鳴り散らかすような悪い報告はあっという間に広まってしまったらしい。
 覚悟の決まった連中を足止めするほどの威力なのは間違いない。

「せ、占領部隊? 占領部隊っていや、本腰入れてくる奴じゃねーのか……?」
「嘘だろ? は、はは……そんなガチのやつがどうしてこんなとこに……!」

 せっかくやる気になった住民たちが固まるほどだ。士気がどん底まで落ちている。

「……とにかくだ! テュマーなのは変わりないんだ! 止まるなお前ら、早く防御を固めて身を隠せ! 弾の分配も忘れるな!」

 いや、ここまできて引くわけはいかない。
 できる限りの指示を口にしながら、手製のクレイモア地雷を手に町の北側へと走っていく。

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