魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

歩く嵐(紅茶風味)で万事解決

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「そうか、銃口を向けるのが答えなんだな? つまり君たちはそれほど後ろめたい何かがあるんだろう? 監視者の失踪も、不可解なテュマーの接近の原因も関わっている、そうだな?」

 来て早々に銃撃戦勃発寸前だが、ディアンジェロの奴は特に躊躇がない。
 まっすぐ構えた小銃でドレッドヘアを赤く染める覚悟ができてるほどだ。

「そうだ、やっぱりこいつらが怪しいぞ! ディアンジェロの言う通りだ!」
「運び屋なんて嘘だ! 汚染されてない岩塩なんてこんな世界にあるもんか!」

 そんな堂々たる姿に感化されたとでもいいたいのか、住民たちも迷わず運び屋たちの急所を狙いすまして。

「クソがッ! なんだってこいつら俺たちのせいにしやがるんだ!?」
「ハーレー! こいつらどうかしてやがるぞ! やらねえとこっちが――」
「お前ら銃を下ろせ! おいディアンジェロとやら、お前は何様のつもりだ? ええ? ずいぶんと前から俺たちのことを目の敵にしやがって、何企んでやがる?」

 それに対して取り囲まれた連中といえば銃口があまりすすんでいない。
 ハーレーとか言うやつのおかげだろう、何せ本人は腰にぶら下げた拳銃に一切触れずにいるんだから。

「なんだ、何事だお前たち!?」
「こりゃ一体何の騒ぎだ!? どうしてこんな真昼間から銃でご挨拶してやがるんだ!? 早く下ろせ!」
「監視者たち! 君たちの出番だ、今すぐ怪しいこいつらを捕えろ!」
「このクソ野郎の言葉に耳を貸すな。怪しいのはこいつの方だろ? 銃なんて必要ねえ、こうなりゃ檻の中だっていい、この馬鹿について一つ言わせてくれ」

 この場面に監視者たちもぞろぞろやってきてもう滅茶苦茶だ。
 そいつらすら銃を持ち出して余計にこじれてきた。そんなど真ん中に放り込まれた俺の気持ちを考えてほしい。
 一番の原因は誰だ? そう尋ねられたら黒髪の男を上げるとも。

「おい、ディアンジェロ。余計なお世話かもしれないけどこれ以上刺激するな、お前があれこれ言ってるせいでややこしくなってんだぞ」

 さっきからやたらと責め立てているディアンジェロに一声かけた。
 近づいてせめて銃ぐらい下ろさせようとするが、ぎりっと緊張した表情が向けられる。
 声こそまだ落ち着きはあるものの、よくみると手は震えて今にもトリガを引きそうだ。

「……ストレンジャー、君はあいつらをかばうというのか? 今ここで奴らをどうにかしないと次は我々に何が降りかかるか分からないだろ?」

 すぐに顔向きは怪しい連中へと戻った。
 これが北部の険しさを表現してるわけじゃないことを願うばかりだが、それにしても決めつけが強すぎないか?

(イチよ、どう思う?)

 射撃開始まですぐ目の前、そんな状況でノルベルトの低い小声が挟まる。
 どう思うって? 俺の感想はこうだ。
 来たばかりでまだ全容こそ分からないが、確かに疑う材料は揃ってる。
 問題はそれらを駆使してここまでこぎつく必要はあるかって話だどうしてこの黒髪の男が騒ぎ立てないといけないのか。

(変だな。俺にはこいつが扇動してるように見える)

 俺はディアンジェロと、そばで好き放題に罵詈雑言を浮かべる住民を見た。
 それからその近くで困惑する監視者たちも。本来であればこの場を取り仕切るやつは誰かぐらい分かってるはずだ。

(奇しくも俺様も似たような感じといったところか。まさしくそうだ、この男はなぜひとりでこうも騒ぎ立てているのだ)
(奇しくもね、二人になったらそれはもう偶然じゃないだろうな。こんな真昼間に堂々と物申すのはよっぽど勇気か正義感でも溢れてるに違いない)
(監視者とやらたちが見ているというのにな)
(そうだ、こいつ独断でやる理由はなんだ?)

 ノルベルトも同じ気持ちだったようで、俺の考えに頷いてはいる。
 となると次の問題は「じゃあこいつは何がしたいのか」だ。
 ドレッドヘアに銃を向ける姿は変わることなく撃つ機会を待ってるようだが。

(……いちクン、聞いて)

 オーガとストレンジャーのこそこそ話に肩の短剣も混じってくる。
 この言い方はやっぱりミコも感じたものがあったに違いない。

(どうした?)
(このディアンジェロって人、ちょっとおかしいよ。ちゃんと後で詳しく説明するから――)
(なんとかしろってか? そのつもりだ。俺だって妙に思ってるからな)
(フハハ、正確には俺様たちだろう?)
(やっぱり……。あのね、手短に言うと表情とか声とか、違和感を感じるの)
(その辺が変だと思ったのは俺の気のせいじゃなかったみたいだ、きな臭くなってきた)

 さて問題は、そんな汗をうっすら流して緊張してるご様子のディアンジェロ――いや全員の銃口をどう制するかだ。
 クリューサはともかくクラウディアは「やるならやるぞ」と腰の短剣に指をかけていた。

「……ご主人、どうするの? 止めるならできる限りのことはするから」

 ニクは鼻をすんすんさせながら槍を掴んでいる。
 リム様は無言で運び屋たちと住民たちを見比べてた、動ける人数は僅かか。

「ディアンジェロ、落ち着け。何があったか知らないけどお前がこいつらも街の人たちも刺激してるんだ、そういうのは監視者たちに事情を話して一任するべきじゃないのか? お前のせいで死人が出ようとしてるんだぞ?」

 ストレンジャーごり押しでノルベルトもろとも暴れて鎮圧するのもいいが、この件はこの男によるものだ。
 手を広げてひたすら敵意も戦意もないことを伝えつつ、黒髪姿に言うものの。

「だっ――だがなストレンジャー、こんな怪しい奴らを一週間も野放しにしてるような連中だぞ? 君には分からないと思うが、ここは生まれてさほど経たない希望の地なんだ! そんな場所に不用意に怪しい輩を引き入れるなんて不用心だと思わないのか!?」

 返って来たのは今までよりも少し早口で、叩きつけるような言葉だ。
 しかし誰かさんの「死人が出る」という言葉には効力があったらしく、住民たちがいくらか銃を下ろしている。

「ここは俺たちの希望の地なんだ! みんなが手を取り合ってのどかに暮らしていたのに、こいつらが来てからおかしくなり始めているんだぞ!?」
「……そうだ、俺たちは今まで平和に暮らしてたよ」
「それなのにおかしいでしょ? いきなりよからぬ変化がやってきてみんな不安なのよ」

 そこに一言加えられて同意も向けられてくるが、それが銃口を戻す理由にはならなかったみたいだ。
 とはいえ十を超える得物が向き合う状況なのは変わりない。

「――だそうだが、保安官殿」

 次に声を発したのはずっと黙っていたクリューサだった。
 向かう先はこの場に居合わせるようになったステアーの姿で。

「ディアンジェロさん、落ち着いてくれ。確かにあんたの街を思う気持ちは分かるさ、だがこいつらはよく見てきたよ、今のところは問題を起こしていないお客様だ」

 なるべく刺激しないように穏やかな物腰で説得にかかってきた。
 さすがに保安官の態度を見て安心したのか、場の緊張が少しマシにはなるが。

「じゃあ君たちの一人が行方不明のままという事実はどうなるんだ! 一週間も姿をくらましているらしいじゃないか!」

 まるでそれも許さないとばかりに食らいつく。
 ステアーはともかく周りの監視者たちは互いを見合わせたり、疑わしさの向かう先を見た。

「……確かに、言う通りだ。いきなり姿を消すなんて今までなかったよな」
「あのディアンジェロさんが言うんだ、やっぱりあいつらが……?」
「で、でも一度もトラブルは起こさなかっただろ? いや逆に怪しいのかもしれないが……」
「だからそいつも俺たちには関係ねえっていってんだろが!」
「黙れ! やっぱりお前たちが何かしたんだろう!? ここは俺たちの町だ、好き勝手やらせねえぞ!」

 また状況が緊迫した、なんだったらさっきよりもトリガに向かう指の力は数倍増してるはずだ。
 こうなりゃディアンジェロをぶちのめす方向性で制してやってもいい、そう思ったところで。

「――勝ったわ! これが女王パワーよ!」

 そんな場面にものすごく場違いな奴がきてしまった。
 カジノの方角から、この世の勝利を収めてきたような顔した女王が空気も読まずに割り込んできて。

「イチ様ぁ~、有り金全部溶かしちゃったっす~」

 嬉々として有り金全部溶かしたのをどうにかしてもらうと駆け込むメイドだ。
 もうやだこいつら。この場の状況遠目に見て何かしら気づいてくれないのか?

「――なっ、なんだ君たちは!?」
「あら、どうしたのよこの有様は。喧嘩?」
「なんすかなんすか、決闘っすか」
「あー、おかえり女王様とダメイド。ややこしいことになっててどうにかしようとしたつもりだ」
『ほんとにカジノいってきたんだこの人たち……』
「きいているのか!? 今我々は重要な話をしているんだ! この街の存続にかかわる――」

 チップを台無しにしてすがりつくメイドはともかく、女王様は長い棒を手にかつかつと銃口の間に挟まる。
 十はある拳銃やら小銃やらの先でも一切動じることもなく、たとえディアンジェロが口を挟もうとも。

「まあまあ私のジャックポットに免じてやめなさいよ、せっかくいい気分なんだし、事情とか知らないけど話し合いでどうにかしない?」

 マイペースを貫いて場の空気を滅茶苦茶にしに来た。
 おいおい、頼むからこれ以上刺激しないでくれ、そう思ったところで。

「てめっ……! ふざけんじゃねえぞ! 邪魔だクソ女ァ!」

 まずい、運び屋の一人が散弾銃を向けた。
 血の気が多い奴が一つ間違えば頭をきれいに吹っ飛ばす、そんな状況で――

「あらそう。誰かがそう言ってくれるの待ってたわ、ありがとう」

 ぶぉん。
 空気を押しわけるような鈍い音を立てて、長い棒でそいつの手を打ち払った。
 わずかな間の出来事だ。ヴィクトリア様が身をよじりながら短く先端を打ち込んだのだ。

「いっ――な、なにしやがるっ……!?」

 その結果、銃床を切り詰められた散弾銃は空を舞った。
 ちょうどこっちに飛んでくるようにコントロールでもしたんだろうか、痛がる持ち主から離れたそれをキャッチ。

「き、君っ!? 一体なんなん」
「はい次!」

 ちょうどその時だ、今度はディアンジェロへくるりと身体を潜り込ませる。
 慌ててずっと構えていた得物ごと後ろへ引っ込むが、それも逃さずびゅんっと鋭く突き上げる。
 一瞬にして誰かを撃つはずの小銃がくるくる空を舞っていく。
 すかさずそれをキャッチ、こっちに投げ渡してきて。

「でぃ、ディアンジェロさん! なにをしてるんだ、この――」
「て、敵かっ!? こここっちに来るなぁぁぁッ!」

 いきなりの棒術の襲撃に住民たちが慌てふためく。
 誰かがぱんぱん拳銃を放つも、女王様はまるで弾が見えてるかのように左右にステップしつつ。

「次で四つ!」

 得物の先で地面を踏んで反転、まるでそれに合わせて発砲が始まるも回避。

「はぁぁぁっ!? ここいつどうなってぐえっ!?」

 リーチを生かして地面に武器を叩き落とした挙句、その勢いを使って返す刀で足を払う。
 一名ダウン。そばで呆気にとられる奴の足も巻き込んで二人目だ!

「おいおいどうなってんだこの姉ちゃんは――」
「今、弾避けなかった……?」
「これで6!」

 そんな状況の真っ只中にいた運び屋と住民が仲良く唖然としてるところにも襲い掛かる。
 攻撃の慣性を生かすようにゆるりと迫り、掬いあげるかのように男を足からかちあげる。
 そいつが派手に背中から転んだ矢先、身をかがめて女性の腕を棒で絡めとって地面にテイクダウン。

「おいふざけんなっ!? 今俺たちは――」
「まっまて! 分かった! 下ろすからもう分かったから!」
「あなたたちもついでにやられときなさい、めんどいし!」

 あんまりの急な出来事に残ったやつらも文字通りお手上げだ。
 しかし女王様の嵐のような猛攻は急には止まれない性質でもあるんだろう。
 先頭の誰かを押し払うように地面に倒して、その隣の奴も棒――とみせかけてスライディングで転ばせる。

「こっこっちくんな!? 何だこの姉ちゃんはァァァ!?」
「ふざけんな畜生! 舐めてるんじゃねえぞ!」
「これで十!」

 あまりの勢いに武器を向けてしまった住民も運び屋も、まあ哀れな犠牲者になるわけだ。
 起き上がるなり手を打ち下ろされて無力化、痛がる姿を押し退けて続けざまに半回転。
 そして最後の一人が石突きで胸を突かれて「ぐへっ!」と派手に転ぶ。

「両者そこまでよ、本気で叩かれたくなかったら武器を下ろしなさい」

 あっという間に銃を向け合う集団を平らげた女王様はにっこりだ。
 どうにかいい汗をかいたぐらいで、長い棒を「まだやるの?」とくるっと煽って周囲を制している。

「……おい、ストレンジャー。彼女は何者だ? 一体どうなってるんだ?」

 そんな涼しい顔に俺たちは圧倒されてるが、ステアーもなおさらだ。

「アメリカに密入国してきたどっかの国の女王だってさ」
「よほどおっかない国に違いないだろうな」

 一体、僅かな時間で何人制圧したんだ?
 十人だ。十人の武装した人間が武器も落として動けずにいる。
 しかも本人は全然やる気を出してない様子だ、その気になればあの棒で頭をカチ割ってもおかしくはない。

「棒で全員やっちまうなんてバケモンかよ……なんて見せやがる、くそっ」

 運び屋のボスが言うように、ほんとにバケモンだ。
 ニクもクリューサたちも呆然とするほどの光景だった、嵐のように通り過ぎて静寂だけが残されてるが。

『す、すごい……一瞬で終わらせちゃった』
「ノルベルト、なんだあの強さは」
「イグレス王国の女王は存じの通り自由奔放な生きざまだが、棒術と弓術に長けたことでも有名でな。実際目にするのは初めてだがすさまじいものよ」
「誰かの言葉そっくりに返すぞ、バケモンかよ」
「化け物どころか生ける嵐と呼ばれているぞ。かの国で戦が起きた時、その前線にて直々にクォータースタッフ一本で殴り込んで500人を叩き殺したという逸話もある」
「それがマジならいよいよ人間じゃないぞ――いやあの人ならなんかやりかねない気がする」

 お掃除気分なんだろうか。棒で器用に武器を押し退けて、俺たちの方へ掃いてくれた。
 物理的に事を済ませたギャンブルの勝者は何事もなかったかのように身を装い直していて。

「ただいま、ちょっと大当たりしてきたわ。それで一体何事なのかしら?」

 財布の中身も体力も余裕そうな女王様はにっこり問いかけてきた。
 あまりの恐ろしさに気づいて逃げ出す奴らがいる中。

「ああ、聞いてくれそこのお嬢さん。君に手短に話そう、この怪しい男がこの街を脅かしているんだ。不審な点もいくつかある、近頃の事件と深く関わっているとしか――」
「おい姉ちゃん、こいつらの話を信じるな。このディアンジェロっていうやつが俺たちを悪者扱いしてるっていったら信じてくれるか?」

 黒髪とドレッドヘアが事の説明をしてきた。
 落ち着きを取り戻した言葉と、手短に不機嫌さを伝える言葉を前に生ける嵐は。

「そう、じゃああなたは勇敢にも自らの意志でこの男の悪しき所業を暴こうとしたのね?」

 ディアンジェロの方を向いた。
 感心するようなヴィクトリア様の顔に、ぶんぶん頷いて「そうだ」と表すも。
 
「街のためを思ってくれてるみたいね。でもね、それは貴方たちではなくてしかるべき人物に一任すべきじゃないの?」

 女王様は長い棒を担ぎながらどこかを向いた。
 こんなやり取りに巻き込まれてうろたえている監視者一同がいる。

「そ、それは……監視者たちに危機感がなかったんだ、自分たちの力で、誰かがいずれ目を向けなければならないと思って」
「言い訳は結構よ。主張を無理矢理押し通すためだったら何をしてもいいわけじゃないいのよ、この街の掲げる古き良きなんとやらはそんなもの?」

 それから街の南側に立った看板を顎で示した。
 今じゃただの「スピリット・タウンへようこそ」になってそうだ。
 そのことに気づいたのか、何人かの住人たちが悔しそうに去っていく。

「ちゃんと頼るべき相手に頼る、それが一番よね?」

 やがて黒髪の男すらもしぶしぶ去っていくと、ステアーたちの方を向く。
 誰一人として否定できない状況だ、みんなそうだと首を縦に振っている。
 レイダーらしい連中からは感心の口笛が口々に上がってるぐらいだ。

「……その通りだ、俺たちがしっかりしないと駄目じゃないか」

 保安官がやっとそう認めると、この場の空気もマシになってきた。

「そうだったな。もう言い訳はできねえよ、俺たちのミスだ」
「こんなことになってすまない、ちゃんと目を向けるべきだった。ええと……」
「俺は責任者のハーレー、岩塩を運んでる運び屋だ。自分たち以外信用できないからって頼らなかったこっちの責任も一理あるよな?」

 ひとまずは監視者と運び屋は和解できたみたいだ。
 この街におけるお互いの意識が変わってきたところで、

「――ふっ、それでは失礼するわ。せいぜい仲良くすることね」

 一仕事終えてすっきりした女王様はどこかへ行ってしまう。
 街並みに混じった『SHOP』という馬鹿でも分かる表現を辿って、早足で入店された。

「――戻ったわ!」

 ……いやすぐに戻って来た。
 ティーバッグの入った紙箱を山のように抱えて速攻で凱旋しやがった。

「お帰り女王様、早すぎない?」
「これでこの街の紅茶は私が買い占めた!」
『大人買いしてる……!』
「大人買いっていうか大人げないだけだろあれ」
「後でギャンブルで勝って飲む新鮮な紅茶うめえって言いまくるわ!」
「重箱の隅をつつくようで悪いけど、それ150年前の新鮮な紅茶だぞ」
「150年も鮮度を保ってるとかチートかっ!? 国に持ち帰って研究しようかしら!?」

 確かに嵐のような女っていう表現は正確かもしれない、訪れたばかりの町で紅茶を品切れにさせるんだからな。

「本当に申し訳ない、我々の管理が行き届かなかった挙句に、君たちを巻き込んでこうも助けてもらうなんて……」

 個性的な顔ぶれ(と紅茶独占犯)に保安官が謝ってきた。
 監視者たちに事情を説明してるハーレーはまだ少し不機嫌だが、トラブルを起こそうとする様子はない。

「いいのよ、旅先を快適にするために勝手にやっただけだから」
「まあそういうことだな。これがあんたらの悩み事か?」
「そうなんだ。一週間も前からテュマーが不自然に接近していて、しかもそれと同時に我々のメンバー失踪ときた」
「で、その疑いが一つ晴れて事件解決に腰を据えれるようになったわけだな」
「ああ、このままだと住民の不満が、な。早めに解決したいんだが人手が足りないんだ」
「ここまで関わったんだ、後でじっくり聞かせてもらおうか」
「いいのか?」
「ストレンジャーの仕事だ」

 それだけ伝えた。
 奇妙な顔ぶれに慣れたステアーはとても嬉しそうに表情を変えてくれて。

「そうか、ありがとう。いやお礼はことを成してからか、とにかく今日はゆっくりしてくれ」
「そうするよ。おすすめの宿とかある?」
「あるぞ、そこのレッドアイという名前の宿屋だ。不愛想だがいいところだ」

 そこにクリューサの言う通りに休める場所はないかと尋ねた。
 答えはすぐで、さっき誰かさんにテロを敢行された雑貨屋の隣にそれらしき建物がある。
 スティングで見たモーテルよりもずっと古風な造りで、しかし見てくれも綺麗な二階建ての宿だ。
 元は映画のセットというだけあってしっかりしている。あくまで見た目はだが。

「雑貨屋の隣か、買い物が楽そうでいいな」
「そうかもな、まあ結構店主が気合を入れてお客様のために整えてくれているからな。値段も安いし気に入るはずだ」
「そりゃよかった、じゃあ今日のところはあそこにお邪魔しようか」
「俺の紹介で来たって言っておいてくれ、そうすれば何かしらいいことはあるさ」

 ステアーは別れの挨拶をしてから去っていった。

「ということで今日はあそこで宿泊だ、誰か異論は?」
『いいと思うよ。けっこう広そうだし……』
「……ん。見た目がきれいだね、変な臭いもしないし落ち着けそう」
「中々に趣のある外観よ。中もさぞ期待できるだろう」
「スティングより立派な建物っすねえ……あひひひ」
「まったくとんだ一日だったな、やっと休めるのか」
「フランメリアの宿に少し似ているが違うんだな、なんだかわくわくするぞ」
「構いませんわ! あっキッチンお借りできるかしら!」
「紅茶が飲めるなら文句はなし! どうせだし私が全額払うわ!」
「良し決まりだな、全員全力で女王様のおごりに感謝しろ」

 全員に尋ねてみたが異論なし、あとは俺たちを受け入れる余裕があるかどうかだ。

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