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広い世界の短い旅路

スピリット・タウン

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 肩には短剣、そばにはわん娘、前には年齢の割にお若い女王様。
 しばしの間ついてくることになったヴィクトリア様と共に北へ向かえば、枯れた農地に囲まれただけの道の姿も変わる。

 道すがらの光景にはっきりと緑が生え始めていたからだ。
 ウェイストランドの荒野に雑草や木が生きている。
 進めば進むほどそれは色濃くなって、誰かさんのもたらす変化を実感した。

「……なあお前ら、イグレス王国って分かるか?」

 段々と向こうに緑のかかった廃墟が見えてきたころ、俺は誰かに聞いた。

『そんな名前の国、ゲーム上に登場しなかったよね……?』
「そっすねえ、うちらが知ってるのはフランメリアっていう冒険の舞台だけっすよイチ様」
「でもそのフランメリアと思いっきりかかわりがあるんだぞ?」
『そうだよね……さっきヴィクトリア様、同盟国って言ってたし』
「もしかして後々のアプデで追加される予定だったとかじゃないっすかね?」
『あり得るかも。今後はいろいろなマップが実装されますってわたしたちに通達してたよね?』
「まだまだ新要素も追加するってものすっごい情報量送ってきたっすよね、運営さん。それなら実装予定のところだったんじゃないんすか?」
「なるほどな、つまり――」

 二人のヒロインに聞いたが「そんなの知らん」ということが分かった。
 女王不在の国が少なくともゲームに登場しないのは確かだが、俺が関わってるフランメリアと深い縁があるのは気がかりだ。
 後でいろいろ聞いてみるか。そう思いつつ自然が戻りつつある荒野を見れば。

「見てリムお姉ちゃん! なんかフランメリアのバケモンいる!」
「あっマジですわ! クレイバッファローおったんかワレ!」
「ということは紅茶のミルクに困らないじゃない! 勝ったわ!」
「やりましたわ! あとで乳製品の補充をしなくては……!」

 そんな道の国の女王様と、あとじゃがいもの魔女がはしゃいでいた。
 作物が全滅して緑が生い茂るようになった農地の上で、殺意マシマシな角を構えた黒毛の牛がサボテンを食ってる。

「……待てクラウディア、なんだあの牛のミュータントは?」

 相変わらず「モー」と見た目以上に貧弱な声で鳴く姿に、クリューサは少し驚いているようだ。

「おお、あれはフランメリアの山岳地帯で生きるクレイバッファローだ。肉もうまいし牛乳もとれるぞ」
「誰が活用方法を教えろといった? まあ分かった、デタラメな世界のふざけた生き物なんだな。そうじゃなきゃあの大きさは説明できん」

 件の水牛モドキは魔女と女王に接近されてすごく嫌がってる。
 確かノルベルトが「うかつに近づくな」って言ってたよな?
 そう思ってるとご本人がクリューサのそばにやってきて。

「うむ、見た目はさながら要塞のようではあるが怒らせなければ温厚なものよ。可愛いかろう?」
「あいつらは草食動物だから心配はいらないぞ、餌さえあれば大人しいんだ。かわいいものだろ?」
「お前らの物の見方がおかしいのは病気か何かによるものか? くそっ、俺はこの旅で何度驚けばいいんだ……」

 二人の人間離れした感性に挟まれてえらくお困りのようだった。
 ストレスで胃がずたずたになってもどうにかなるだろう、だって医者だし。

「こいつがいるってことは先にもいそうね。あなたのおかげでこの旅も安泰よ」
「いいこと考えましたわ! この子連れて歩けば食料に困りません! 名前は授乳プレイ!」

 女王と魔女の地獄のような絡まれ方にえらく困ってるところに、俺もゆっくり近づいてみる。
 無視を決め込んでサボテンをぼりぼり食らっており、叶うものなら助けてほしそうにつぶらな目を向けてきた。

「おい、お前またサボテン食ってるのか?」
「モー」
『……また牛に話しかけてる』
「お~、クレイバッファローっす。こっちにいらしてたんすねえ、アヒヒッ♡」

 ぞろぞろ人が集まってくると、クレイバッファローはメイドの登場をきっかけにてくてく歩き始めた。
 後ろ姿は「もう付き合いきれません、帰らせてもらいます」といった風貌だ。

「……お肉」
『……ニクちゃん!? なんでそこで食欲出ちゃうの!?』
「ん。あのお肉、柔らかくて大好き」

 もっと豊かで落ち着ける場所を求めて逃げるその背中に、ニクがじゅるりしていた。

「確かクラウディアが言ってたな、ああいうのがいると豊かな証拠だって」
『なんだか言ってたね。じゃあ、これから先は西みたいになってるのかな?』
「肉と牛乳にありつけてるのは確実だろうな」

 今のこいつだったらやっつけてはくれそうだが、そんなことをする必要も、まして荒野で食事中のところを邪魔する権利もない。
 最後に振り返って罵倒するかのように「モー」と一鳴きして、牛は消えた。

「……行っちゃった」

 危機から逃れた牛モドキの背中に、ダウナーな犬っ娘がしゅんとしていた。
 ブラックガンズで振舞われたあいつのステーキは確かにうまかったけれども、おかげでうちのわんこの舌はこうも肥えてしまってる。

「ニク、肉なら今度食わせてやるから間違えてもあいつを襲おうとするなよ」

 落ち着け、と頭をぽんぽんした。犬の質感混じりの黒髪で耳がぺたっとした。

「ん。ほんと?」
「ほんと。そのかわりナイフとフォークの使い方を覚えてもらうぞ」
「……そのまま食べた方が楽なのに」
「料理っていうのは食器を使うともっとおいしくなるんだよ」
『わ、わたしも教えてあげるからがんばろうね……?』

 今日から食器の使い方も教えないと駄目そうだ。
 肉にありつけることに尻尾をふりふりしはじめたニクを連れて、また進んだ。
 廃墟が近づいてきて、そこで建設途中のまま先へ進まなくなったビルが幾つか立っていた。

「それにしても「すてぃんぐ」とかいう街でフランメリアの人たちが戦ってたなんて……」

 そこで牛モドキをあきらめたヴィクトリア様が絡みにきた。
 好奇心旺盛な若々しい顔はあの出来事にすら興味を示してるらしい。

「なんていうか驚いたよ俺。あっちの人たちの順応力の速さもあって、こっちの人たちと連携が取れてたんだからな」
『みんなすごく仲良くやってたよね。おばあちゃんとか、チャールトンさんがいたからこそなのかもしれないけど』
「そりゃそうよ、フランメリアって言ったらあの世界で初めて人間と魔物が共存するようになったところだし」
「そうなのか?」
「ええ、その関係性が熟すまでかなりの苦労があったそうだけども、おかげであの大陸は驚くほどの速さで文明を築いたもの。魔物の強みも生かした文化とか卑怯よ卑怯」

 この人の言うように、確かにあんなやべー魔物と人間が共存するのは中々に難しいと思う。
 スティングの場合は既に「仲良くする文化」があったからこそああまで人と魔物が手を取り合えたんだろう。
 あんな人間の思考感情から何もかもズレまくった魔物連中をどうやってまとめあげたのか。
 それも多種多様な種族をだ。その苦労は俺には分からないが、そのおかげあってこうしてライヒランドをぶちのめせた。

「卑怯いうなよ。そういえばあんたのその、イグレス王国ってのはどうなんだ?」
「どうって、魔物と共存してるかってこと? できるようにはしてるのだけどねえ……」
「芳しくない言い方だな」
「フランメリアってそもそも魔女ファーストだし? 国王よりも実は魔女が強いところだから実質魔女の国なのよね、全員が魔物たちよりくっそ強いからコントロールできたのもあるわ」
『フランメリアが魔女の国……ですか?』
「そうよ。アバタールが世界で迫害されてたりした魔女を集めてくれたの、その上でまとめてくれたんだからたいしたものよ」

 ますますすさまじい情報が出てきた、実質魔女の国だって?
 その言葉でついリム様の方を見てしまった。「座りっぱなし疲れますわ!」と杖から降りてとことこ歩いてる。

「魔女って、ああいうのか?」
「そうよ、リムお姉ちゃんはそのうちの一人だけど、もっとすごいのがいっぱいいるのよ」
『りむサマよりすごいのがいっぱい……』
「リム様以上がいっぱいいるのか、そりゃ愉快だな」
「それだけじゃないわ、専門の教育機関を作って種族問わずに次世代の魔女も育ててるの。あの国は魔女の文化を絶やさないように尽力してるわけ」
「国が魔女を育ててるのか?」
「ええ、そゆこと。うちからも投資してていつか海を渡って国に仕えてもらうつもりよ!」
「そりゃ安泰だな、晴れて魔女になれたら就職先も出るわけか」
「給料は良くするし休日もしっかり与えるつもりよ。でもその代わり紅茶を毎日飲んでもらうわ! コーヒーとかいう泥水は禁じます」
「泥水言うな」
『泥水……』

 つまり人と魔物が共存する国でもあり、世界中から集まった魔女が寄り添う国でもあるわけか。
 どれほどお強いのかは分からないが国に多大な影響を与えて、こうして奇妙な国フランメリアが完成したと。

「魔女ってそんなに影響力があるのか?」
「もちろんよ。それもピンキリで、純粋に一国に危機が訪れるほどやっばい魔女とか、リムお姉ちゃんみたいに食文化の追及に専念する魔女とか、なんかこういろいろいるのよ」
「そんなのをいっぱい国に詰め込んで大丈夫なのかよ」
「国を亡ぼすほどの力すら無効化するチートな人がいるじゃない」
『……あ、魔法が効かない能力……?』
「そうよミコチャン、アバタールとやらは自分の力を「どんな魔女だろうが対等に接することのできるもの」と見出したらしいわ。その結果がこれよ」

 なるほどな。
 そんなイロモノクセモノバケモノまみれのところをまとめられたのは、世にも奇妙な異能を壊す力でしたとさ。
 話の流れからして「俺は魔壊しだ!逆らわないと死ぬぞ!」みたいな使い方はしなかったようだが。

「本当だったらアバタールって魔女を簡単に殺せるのよね。どんな魔術を使おうが、どんな呪いを放とうが効かないんだし。魔女からすれば悪魔そのものよ」
「つまり俺は魔女殺しになれるっていいたいのか?」
「うんそういうこと。でもね、その力を魔女に使ったことなんて一度もないの」
「マナ・クラッシャーを?」
「マナ・クラッシャーよ。魔法が効かないのをいいことに、頭のお堅い魔女を説き伏せようと日々頑張ってたそうよ」
「その努力の甲斐あって魔女と仲良くできたと」
「そりゃ人間に迫害されてひどい目に会ってきた矢先、魔法が効かないバケモンみたいなのが接触しにきたんだからね。どっちも大変だったに違いないわ」
『……それだけ、魔女の人たちを大切にしてたんですね』
「ええ、魔女を対等に扱ってくれた人間なんでしょうね。きっと嬉しかったと思うわ」

 同じ力を持った誰かさんは魔女と仲良くしようと頑張ったに違いない。
 そこには途方もない努力と時間を要したかもしれないけれども、誰一人傷つけることなく手を取れた。
 その結果があのフランメリア、なんだろうか?

「そんな魔女のみんながフランメリアの為にいてくれるのはね、楽しく生きる道を示してくれた恩人のことを今も思い続けてるからよ」

 女王はそういって廃墟をみていた。
 道の右側には中途半端な街の姿が残されていて、幾つもの工事現場が入り口で停滞していた。
 順調にいけばスティングのようにいろいろな建物が立ち並んだかもしれないが、骨組だけの高いビルが答えを見せている。

「そのおかげもあって俺たちは救われたんだな」
「いいえ、私もよ」
「女王様も?」
「そそ。実は私って旦那と一緒に魔女に育てられたの」
『……ヴィクトリア様が魔女に、ですか?』
「うん。まあちょっと子供の頃は大変な思いをしただけよ。それでフランメリアに行き着いたら、ある魔女が拾ってくれたの」

 その光景を傍らに出てきた言葉の意外さときたら一体。
 この女王様は親にいい思い出がなさそうだ。その身分からどんな人生を歩んできたと思ってはいたがこんなのだったとは。

「ああいうの?」

 で、まあ、ある魔女と言われたらちょうど当てはまりそうなのがいたわけだ。
 リム様を指さした。ニクのスカートをちょいちょいめくってセクハラしてる。
 
「ニクちゃんオスなのかメスなのかはっきりさせろオラッ!」
「……んおっ……♡ し、尻尾はご主人にだけ触らせたいのに……っ♡」
『りむサマ、なんでこんな時にニクちゃんに変なことしてるの……?』
「アルミダっていう魔女がお母さん代わりになってくれたの。もちろん、リムお姉ちゃんにもお世話になったものよ」
「魔女が母親代わりか」
「ええ、私達はお母さんって今でも呼んでる。その人のおかげで二人でいろいろな魔女に育ててもらって、親離れするころには国が立ってたわ」

 女王様は道路の上に広がる青空を見つつ、少し懐かしがってる。
 地上にはフランメリアの豊かさが混じって、歩くほどに緑が強まっていた。
 あっちの世界がもたらしたものはどこまで続いているんだろうか?

『ヴィクトリア様は魔女の人たちと深い縁があるんですね……』

 人の犬のセクハラする魔女はさておき、ミコが言った。

「今もお忍びでフランメリアに来て会いに行ってたりするのよねえ、年に四度行われる魔女の集会とかもサプライズで乱入して魔法で強制送還されてるけど諦めません」
『……一国の女王様がいきなり現れたら焦ると思います』
「毎年一回は突撃してるんだからいい加減慣れなさいよ!」
『毎年忍び込んでたんですか……!?』
「女王様がアグレッシブすぎてイグレスっていう国が心配になってきたよ」

 一見すれば女王には見えない金髪のお姉ちゃん(55歳)は、俺たちに向けてゆったりと笑みを浮かべて。

「だから、もしあなたがアバタールだっていうならお礼を言いたいわ。旦那も持てて子供もいて、いつのまにか国を作って愉快な国民たちの上に立ってるもの」

 そう告げていかにも自分の人生が満ちているかを教えてくれた。
 まだまだ終わりそうにない楽し気なものだろう。でもまあ、俺は模造品だ。

「あいにくアバタールモドキだ、本人みたいになれるようには頑張ってる」
「そう、じゃあありがとう。ちなみに我が国では優秀な人材募集中よ、困ったらうちにきなさい」
「どういたしまして女王様。でも紅茶以外飲むなってのは辛い、特にコーヒー禁止のあたり」
「焦がした豆汁なんてやめなさい、水がもったいないわ!」
「ええ……」
「あんな泥水すするなんてお母さん許しません!」
「いつから俺のママになった……?」
「私もママですわー!!」
「なんでママ増えてるんだよ」

 困ったら雇ってくれるそうだがコーヒーに対する殺意が尋常じゃない。
 泥水のくだりをブラックガンズの連中に教えてやりたいところだが、とりあえずなんでこの世界で3人もママができてるんだろう。
 近づいてきたリム様にべたべたされながら、俺は道の先に大きな看板が立ってるのに気づいた。

「……はあ、私もスティングの戦いに加わりたかったわ」

 向こうに街の姿があると分かったものの、女王様がまた何か言い出す。

「えっいきなり何言ってんの女王様」
「だって大きな戦いでしょ? 徳を積むにはいい機会じゃない。はあ、私も戦いたかったわ……」

 背中に括った大きな弓と、ずっと手にしている身の丈より少し上の棒を示して「こいつでやってやるのに」と強調してる。

「ねえこの人ほんとに女王なの?」
『……発想がフランメリアの人たちみたいだよ』
「すごい規模の戦いだったんでしょ!? なんで呼んでくれなかったの!?」
「仮に呼んだとしてどうするんだよ女王様」
「大丈夫、侵略者に矢を浴びせて棒で殴り殺して煽るだけだから……」
「この人ほんとに女王なん?」
「チャールトンのやつめ、抜け駆けでこっちにきて部下までもって暴れ回ってるなんて……けっきょく最後に勝つのはいつもあいつなのね、悔しい」

 この言動と思考からしてやっぱチャールトン少佐の旅の仲間だけあると思う。
 そもそも普通の人間は(物理的な意味合いで)徳を積むとかいわねーよ。
 四人で旅をしてたらしいけど、残り二人も相当アレなやつだったんだろうな。

「む……! みんな、あそこに人がいるぞ」

 東側いっぱいに続く廃墟を眺めつつ進んでいると、クラウディアが反応した。
 あそこ、とさされた場所はさっき目についた大きな看板の方だ。
 更に近づいて分かったが、そこに書かれていた150年前の文字は剥がれ落ちてこう書かれていた。

【スピリット/タウンへようこそ】

 『スピリット』という部分だけがかろうじて残り、その下に手書きの大文字がぐにゃっと書き足されてる。
 人の手によるものには間違いなく、現にその先にはある程度の人の姿が行き交うほどだ。
 東側の住まう価値もないぼろぼろの荒れ地に比べると、その看板の後ろからは戦前から綺麗に形を残す建物がまだあって。

『……おい! そこのお前たち! その場から動くなよ!』

 しかしそこから出迎えの姿がやって来た。
 初対面の相手には嬉しくない小銃や拳銃といった得物を手にした何かだ。
 弾薬用のポーチをつけたズボンにボディアーマー、そしてウェイストランドに合わせたコートに身を包む姿が幾つもある。
 素顔を見せないために口元をマスクで覆ったそいつらは、人によってはあまりいい印象を感じないかもしれない。

「だ、そうだ。全員大人しくしててくれ」

 街のような姿があって、そこから来たとなればひとまずは話はできそうだ。
 言われた通りに「武器なんて抜きませんよ」と構えて待つと、『スピリット・タウン』から来たそいつらは俺たちの前を塞ぎ。

「よし、そのまま聞け。お前たちは何者だ?」

 そのうちの一人が俺たちに近づいてきた。
 ただし目はかなり不信がってる。特に俺ではなく後ろの奇妙な面々に。

「そんなに警戒しないでくれ、スティングからきたんだ」
「あのライヒランドの戦いがあったというスティングからか?」
「ああ、だから賊でもないし、何だったらこの道路を通り道にしてるナガンっていうトレーダーとも知り合いだ」

 それだけ伝えると、男は仲間と何かを言い合い始めた。
 しかし今だに怪訝な様子なのは確かだ。南からきた俺たちを警戒している理由はなんだろう?

「じゃあ、その後ろのミュータントは一体なんだ?」

 最初に意識が向いたのは後ろのノルベルトだったようだ。
 尖った耳の褐色肌に、犬耳っ娘に赤目の魔女様だって同じだろう。

「ミュータントじゃなくフランメリアっていう場所の住人だ、知らないのか」
「そんな場所知るか。いいか、ここ最近はミュータントだのテュマーだので住民の気が立ってるんだ、お前がどれだけかわいがって手なずけていようが今は――」
「そいつはストレンジャーだぞ」

 さてどうしたものかと口を動かしてると、クリューサが混じる。

「スティングでライヒランドを殺しまくったやつがここにいるんだが、そんな頼もしい奴がいてくれれば少しは気も休まるんじゃないか?」

 そして挟まった言葉がそんなものだ。
 よくやってくれたと思う。はっきりと耳にしたそいつらは今度は明るくざわめき始めて。

「あんたもしかして……いや、そのアーマーは……」
「ついこの前、グレイブランドの奴らから正式に受領したぞ。つまりストレンジャー兼擲弾兵だ」
「ってことは、あんたがあの噂のストレンジャーか!?」

 武器も下ろしてものすごく親し気にこっちにきた。
 あきらかに違う態度だ。マスクも下ろしてにっこりするぐらいには。

「ああ、哨戒任務中だ」
「噂と違って若いじゃないか! 驚いた、あんたがあのライヒランドをぶっ殺したやつか……」
「おいおいほんとにストレンジャーかよ! 良く来てくれたなあんた!」
「そうか、なら大丈夫だな。悪かったよ、気が立ってたんだ」
「いいんだ、それより行っていいよな?」
「もちろんだ! ようこそ、スピリット・タウンへ!」

 俺は一人と握手をした。
 すっかり気を良くしてくれた連中は「さあ入ってくれ」と街へと続く道に招いてくれた。
 向こうでは映画のセットみたいな西部劇めいた街がなぜかあって、その隣で150年前の姿を保つ建物が立ち並ぶという異様な光景が続いている。

『古き良き戦前の残る街、スピリット・タウンへようこそ』

 戦後になって追加で建てられた大きな看板は、正式にその街の案内をしていたところだ。

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