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第二次スティングの戦い
スティングの奇跡、あるいはただの大虐殺
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目に見えたのは血肉まき散らされ鉄くず燃える道路。
パズルさながらの死体、叩き割られた車両、そんな死をもって屈服した残骸のそばで。
「目がッ! 目が見えないッ! どこだどこに居やがる!?」
「畜生ォォォッ! 耳がイカれたッ! くそくそくそ何が起きてんだァ!?」
「たっ隊列を乱すな姿を隠せッ! 民家に逃げ込めえぇッ!」
「なっ――なんだこのミュータントの群れはァァッ!?」
砲撃と閃光で目も耳もやられたやつらが、端から端まで身悶えていた。
立ち往生する長蛇の列が阿鼻叫喚をまき散らし、そこに全てが叩き込まれる。
「念願の一番槍だッ! 見てろよォ!」
誰よりも先にこぎつけた牛の獣人がすくむ人間を押し退け、戦車に肉薄した。
履帯をやられてもなお同軸機銃をぶっ放すそれに赤く焼けた大斧を振りかざし。
「――貰ったァァァァッ!」
立ち往生する戦車の主砲をぶっ叩く。
ばぎん。そんな音を立てて、真っ赤な刃で主砲の根元を強引に溶かし断つ。
機銃ごと攻撃力を奪えば、振り下ろしたそれを戻してそのまま素通りし。
「トドメは俺のもんだ! まずは一つ!」
片足を失ってぎゃりぎゃりもがく戦車に熊の身体が乗っかり、赤熱したハンマーを振りかざす。
運が悪い、身を乗り出して機銃を掴もうとした兵士がでるところだ。
「へっあっっあっ――――ああああああああああああああ!?」
そんな兵士ごと質量を持った熱が砲塔を叩く。
じゅうっと肉と骨が焼き伸ばされる音を添えて、砲塔が一目で使い物にならないほどへこむ。
たった二人に潰された戦車はくず鉄に転職だ、駆け抜けていく獣人に敵が呆然とする中。
「一人たりとも逃がすな! 降伏する者も皆なで斬りにせよ!」
ようやく火器を握れた兵士たちにチャールトン少佐が切り込む。
「みゅっミューティだ! ミューティの群れに囲まれてる……ッ!」
誰かが事のまずさに気づいて自動小銃を連射、しかしあの大剣でがちっ、と銃身を空高く逸らす。
ひどい宴の始まりを告げるような祝砲がぱらぱら散った。
大きく払って得物を外すと、短く握った刀身ごと突進して腹をぶち抜く。
「ほふぅっ!?」と串刺し兵士が蹴り飛ばされ、すかさず横に払う――まとめて数名、斜めにぶった切られた。
「どうなってんだ一体!? スティングの奴らはマジでミュータントを飼いならしたっていうのか!?」
「敵なのは変わらないんだ、散開してここから離脱しないと……!?」
「馬鹿野郎固まれ! 白兵戦だ! くそっどっからでも来やがるぞこいつら!?」
「おっ……応戦! 応戦しろッ! 馬鹿野郎、乱戦に持ち込ま……」
大破した車両の周りで何人もの兵士が応戦している、ノルベルトと合わせた。
追い込まれた羊みたいに身じろぐ群れに短機関銃を構えて、
「こんにちは、お前らの大嫌いな擲弾兵だ!」
一声かけて絶望した顔を確かめてから、トリガを絞る。
*Papapapapapapapakink!*
ぱきぱきとした銃声の先で兵士たちが散らばった、そこにオーガが飛び込み。
「さあ動けっ! 走れっ! でないとこうなるぞッ!」
二人仲良く逃げ戸惑っていた緑服の姿に戦槌をぶん回す。
とうてい有機物が立ててはいけない音を立てながらはじけてしまった。
人間が潰れたトマトになったような――ああ、うん、敵が腰を抜かすほどだ。
あいつは自慢の笑い声を響かせて戦場の奥へ突っ込んでいき。
「あああああああああああああああっ!? た、隊長! 隊長がっ」
「ひぃぃぃぃぃあああああぁぁぁ! もう駄目だ、死ぬ、俺たちは死ぬんだ!」
「大丈夫っすよ、苦しまずに済ませてあげるんで」
ロアベアが乱入した! こわれた戦車を背に怯える二人をすぱすぱ断つ。
首を失ったままぐらっと転ぶ、そばでそんな光景を見た同志たちは自分の正気度を疑ってしまうだろう。
「あひひひっ♡ お客様、戦場で止まったら命とりっすよ~」
「首……? くっ、首……ひぃぃぃぃぃ!?」
「へっ? なっ何がどう……!」
「まったく、お前はもうちょっと穏やかな仲間を持てないのか」
*PapapapapapapapapakinK!*
武器を手にしたまま呆然と構える姿にオレクスが短機関銃を浴びせた。
金属音のような銃声の先では四、五名が薙ぎ払われている見事な有様だ、きっと家の恨みがあるんだろう。
「うっうおおおおおおおッ! とにかく撃て! 俺たちから引きはがせ!」
そこにどどどどっ、五十口径の銃声――敵も味方も死体も巻き込んで、戦車の砲塔から機銃が飛んでくる。
ノルベルトが割り込んで盾になってくれた、巨体にびすびすと弾が当たる嫌な音が聞こえ始め。
「死ねッ! 侵略者どもッ!」
ダスターが乱暴な口ぶりで突っ込んだ、車載機銃にめがけて射撃。
ぱきぱきと45口径弾を叩き込まれて沈黙したようだ、すぐに戦車が後続の部隊も踏みつぶさんとばかりに後退するが。
「逃がすかよっ! 死ねっ! 死ねっ! 全員くたばりやがれェ!」
ダメだハイになってやがる、狂った義勇兵がのろのろ下がる車体に飛び乗る。
死体がへばりつくハッチに銃を突っ込み、中にめがけて弾倉一本分の連射を披露した――おめでとう、一両撃破だ。
「敵の歩兵も肉薄してきたぞ! 早く追い払え、戦車がやられちま……」
そんなダスターに気づいて誰かが銃を持ち上げるが、ご本人は鬼のような形相で振り返り。
「――てめえら全員叩き潰してやるッ!」
ぎらりと戦いに染まった顔で跳躍、メイスを抜いてそいつへ飛び込む。
派手に叩きつけられる重みに誰かさんは何一言残せぬまま潰された、まるでスイカ割りだ。
「列から外れろ! ここに留まってたらぶっ殺されるぞ!」
「畜生なんだってこんなやつらにやられなきゃいけねえんだァ!?
「たっ助けて矢が! 俺の頭に矢がァァァ!」
「屋根だ! 屋根にもいやがるぞ! 装甲車両、どうにかしろ!」
更に進んだ、スタックした装甲車がどうにか抜け出そうと走り出している。
ところがそこに矢が降り注ぐ、周囲の兵士やレイダーが生きたままのハリネズミへと変えられてしまい。
「何してやがるんだ! 装甲車を盾に離脱しろォォッ!」
ようやく動き出す装輪装甲車に指示を飛ばしていた軍服姿の頭がはじける。
そいつらの唯一の救いだったそれも――
がぎんっ。
いきなりの不愉快な金属音のせいで台無しになったところだ。
左側の運転席に羽のついた槍みたいなものが深々と刺さっている。
適切な表現をするなら『矢』だ、撃たれた方向を辿ると向こうの屋根で大弓を持ったエルフがドヤってた。
「エグゾアーマー隊はどうした!? 何してるんだあいつらは!?」
「こ、降車させた瞬間にやられちまった! あの変な豚野郎が」
エルフやらの援護を受けながら更に突き進む。
先には混乱と残骸に取り残された兵士とトラックがある、俺たちに気づいた。
短機関銃を撃ち切るつもりでばら撒く、そこに横からぱぱぱぱぱぱぱっ、と軽い銃声が続き。
「うひゃははははははははっ! 撃ち放題だ、撃ち放題だぜェ!」
「おらおらぁ! 悪い子は燃やしちまうぞ!」
身動きの取れない敵に軽機関銃が次々浴びせられ、固まっているところに火炎放射が放り込まれる。
乱戦中にとてもよろしくない行為だとは思うが、突然の炎に混乱が増していく。
「何考えてんだよあいつらッ!? こんなっ、こんな状況で火炎放射器だって!? どうかしてやがる!」
「どうかしてんのはこのミュータントどもの方だろ!? なんなんだよありゃ!?」
「ストレンジャー! うちの馬鹿どもに巻き込まれないようにね!」
「馬鹿な幼馴染を持つと本当に苦労するわ!」
「ハアイ、ストレンジャー。こっち側は任せて奥に行って!」
双子の小銃手も混乱に混じって次々撃ち抜いている、ラシェルも逃げる後ろ姿に散弾銃を浴びせていた。
プレッパーズの連中はどこにいっても元気そうだな、安心した。
弾倉を取り換えると今度は兵員輸送車のハッチから敵が飛び出てきて。
「ここから離脱しろ! このままだと我々もやられてしまう!」
「……なぁっ!? て、擲弾兵!? どうしてここにこいつが」
恐らく一番巡り合いたくない存在と会ってしまった連中が固まる、得物を向けた。
「お勤めご苦労さん、一生休んでろ」
*PapapapapapapapapakinK!*
弾切れになるまで撃ち尽くす、ハッチの中に残るやつらごと殲滅した。
仕上げに手榴弾を放り込んで移動、弾倉交換、次へ。
「敵はッ!? 敵はどんだけいるんだ!?」
「弾をくれ! もう弾切れだァ!」
乱戦の中を潜れば、トラックの荷台から降ろされたエグゾアーマーがいた。
何体もの外骨格は手持ちの五十口径をめちゃくちゃに連射してたものの、こちらを見るなり冷静になれたらしい。
第一声は「擲弾兵」だ、車両に隠れて向けられた重機関銃から外れる。
どどどどっと乱戦の最中ぶちまけられる大口径弾を避けた先で――
「しっ死ねえええええええええええッ!」
「ヒャハハハハハハッ! 俺もお前もおしまいだぁ!」
「擲弾兵が来たぞ! なんとしても仕留めろ!」
ライヒランドもレイダーも渾然一体となった集団が白兵戦を挑んできた。
軍服も粗雑な姿も滅茶苦茶な連中は銃剣、鈍器、斧、槍、めちゃくちゃなそれを十も二十もそろえて逆に突っ込んでくるが。
「ロアベア、ニク、行くぞ」
「……ご主人、僕から離れないで」
「銃も使えないぐらい切羽詰まってるっすねえ、アヒヒヒ♡」
銃剣付きの短機関銃を向けた、ニクも首つきメイドも自前の得物を構える。
群れから一人駆け出す、ホームガードの槍だ。
突き出されたそれを銃身で払った、身をよじってそいつの首に剣先を立てる。
「あっおふ゛ぅ……!?」
「ちっっっくしょう! どけ! さっさと撃ち殺せェ!」
「ばっ馬鹿味方に当たるだろ!」
首の健康を損ねて最高に苦しむ一人を蹴り飛ばすと散弾銃が向けられた。
だったらこうする、それより早く、とにかく素早く踏み込め!
射線に斜めに飛び込む、銃声もろとも腹のアーマーがぼぎっと悲鳴を上げる。
次弾が来る前に詰めた、あとずさりを始める相手の首を横に振り払う。
「馬鹿かこいつ突っ込んでんげぇぇぇ……!?」
「撃て! 撃ちまくれ! ぶち殺されちまう!?」
更に前進! 戸惑う二人が自動小銃と拳銃を向けてくる。
そこに黒いわん娘が、剣を持ったメイドが身をねじり込んで。
「ご主人、無茶しないで……!」
銃を短く構えて今にも掃射を始めようとした兵士の顔を――ニクが槍で叩く。
崩れたバランスにすかさず横から身体ごと迫り、腹をぶち抜いて縫い留めた。
いきなり串刺しにされた男の悲鳴が弾けた、休む間もなく手当たり次第穂先で何人も貫き、何十と固まるやつらが怯えすくむ。
「戦場で迷ったときは立ち止まっちゃダメなんすよ~、アヒヒヒッ」
誰かが撃った拳銃をロアベアがひらりと避けて、腰を落として一閃。
突然と現れた見えない刃……【ゲイルブレイド】で二人ほど首がすっ飛ぶ。
誰かが尻もちをついた、そこに黒い影が民家の屋根から落ちてきて。
「待たせたな、助太刀するぞ! イチ!」
「もうだめだっ、望みがっ望みが断たれたァァ……!?」
忍者刀が生きたままの脳天を顎までぶち抜く、忍者もどきが降って来た!
戦場で披露するにはあんまりの死にざまにますます敵が引き始める最中。
「【黒槍の術】!」
軍勢の中枢めがけてアレクが忍術を解き放つ。
青い光から生まれた黒槍の群れが足元から串刺しに――十人分にも及びそうな磔刑が出来上がりだ。
「敵が近すぎる! 行け! こうなりゃひき殺せふっっ!?」
戦線に置いてけぼりにされた戦車が車長の指示で動こうとしたようだが、突然のヘッドショットで弾けた。
サンディしかいないだろうな、逃げ始めた群れに向かって連射しつつ登る。
都合よく重機関銃が据えてあった、脳の欠けた死体の代わりにハンドルを握り。
「よお! ライヒランドの皆さん、五十口径は好きか!?」
「やっ……やべえぞ機銃が奪われたぁぁッ!?」
「……このイカれ擲弾兵がぁぁぁぁッ!?」
住宅街から逃げようとしていた兵士と賊に向けてトリガを押した。
*DODODODODODODODODODODODODODODODOM!*
味方の車両のそれがいきなり自分たちに向けられたらそりゃ恐ろしいだろう。
銃口の先で逃げ戸惑う連中がばちばち弾ける、人間のパーツが道を作るほどに。
撃ちまくってると足元でごつごつ動く音が――
「車長がやられた!? もういい! 走って逃げ……」
「擲弾兵が来やがったあああぁぁぁぁッ!! 早く早く早く早く!」
「邪魔したな、迷惑料だ」
ハッチから兵士が見えた、ピンを抜いて絶交した手榴弾を入れて離れる。
ばこんっ!と金属的な振動を背に大乱闘の車列を辿り続ければ。
「いけいけいけ! 擲弾兵だけに手柄を取らせるな!」
「チャールトン少佐が変なことする前に早く終わらせるぞ!」
「女王の為にッ!」
住宅のそばでロングソードを持ったホームガードの連中が切り込んでいた。
拳銃をぶっ放しながら迫り、怯んだところを剣をぶん回して崩す。
一体誰に感化されたのかは気になるが、荒っぽい突撃に引きずり込まれた部隊が叩き殺されていく。
「とにかく撃て! 味方ごと撃って構わん! 榴弾装填っっっ!?」
人も魔物も皆等しくぶち殺す中、向かう先で戦車が動き出す。
*zBaaaaaaaaaaaam!*
いきなり飛んできた矢に砲塔にいた男がぶち抜かれると同時に、砲がどこかを撃った。
目の前の爆発に頭の中がきーんと音を引きずる、後ろで民家が吹っ飛ぶ。
コントロールを失ったままに走り出す、仲間も死体も潰してこっちへまっすぐと。
「擲弾兵!」
そこにホームガードの軍曹の声が挟み込まれる。
手には荒っぽい作りの槍――ホームガードスピアだ。
やれってことらしいな。向かい来る鋼の塊に槍を持ち上げて。
「装甲の薄い場所はどこだ!」
「車体左上の視察孔を狙え!」
言われた通りに投擲の構えを作る、車体左上に弱点を確認、腕を絞った。
踏み込み、腰の捻りと腕の働きも加えて投げる――【ピアシングスロウ】!
バキンッ!
とてもいい音を奏でて、きっと操縦者がいるであろう部分をぶち抜いた。
槍の半分ほどが見えなくなるほどに突き刺さっただけあるのか動きが止まる。
「おいおい」とオレクスの複雑な声がするなか砲塔を登り。
「何が起きたんだ!? まっまさか無人兵器が……」
ハッチから拳銃を握った車長が生えた、蹴りをぶち込んで顔に銃剣を捻じる。
「んぎっ」と変な声を断末魔にしたそいつを楔にして車内に撃った。
「つくづく思うよ、お前はバケモンだ」
「今後一生ほめ言葉として受け取っておこう」
呆れに達した家無き自警団も来た、もう一本銃身をねじ込んで弾を送り込む。
ぱきぱきと十分なほど撃ちまくると離れた、戦車はもう動かないだろう。
二人で徳用サイズの棺桶から降りたところで。
「おおおらぁぁぁぁぁぁッ!」
灰色のオークが外骨格を着た兵士を串刺しにしたまま――高々と持ち上げた。
「ああああああああああっ!? ぎゃっ、はっ、アアアアアアアアアァァッ!?」
「どうしたどうしたァ! これくらいでビビってんじゃないよなぁ!?」
同じく灰色の相方が 二人はそのまま戦場を駆けていく。
得物に刺さった犠牲者を振りかざす姿は悪夢そのものだ、異様な光景に侵略者たちがとうとう折れたらしく。
「どうなってんだよ……この街は……この世の終わりかなんかかよ……!?」
「イカれてやがる……! どうなってんだここは!?」
「擲弾兵だ……擲弾兵が俺たちを殺しに地獄から蘇ったんだ……!」
「バケモンどもが! お前らなんなんだよぉぉぉっ!?」
滅茶苦茶な乱戦の最中、動かなくなった車両の近くで兵士と賊どもがいた。
目が合った。短機関銃を腰だめに近づくと、手にした武器も忘れて後ずさる。
撃とうと思ったが弾切れだ。ニクに預けて三連散弾銃を抜き。
「お前でいい、あの時の礼を受け取れ」
その先頭で呆然としていた一人のライヒランド兵に迫った。
返された行動は降参とばかりに武器を落とす始末だ。
なんだったら次の一言はきっと「助けてくれ」に違いない。
だから言われる前にトリガを引く。
*baaaaaaaaaaam!*
「たす」と言いかけた口ごと顔が吹っ飛んだ。
メインパーツを失ったままふらつく身体を蹴とばすと、次は誰かと銃で探る。
緑色の軍服も、廃材育ちの見てくれも、尻で地面にキスをするほど後ずさり。
「もう駄目だ! 逃げろ! 死にたくなかったら逃げるんだぁぁ!」
「どうなってんだよこの街はぁぁぁ!? みんなイカれてやがる!!」
「お、おいてかないでくれ! 待ってくれみんなぁぁッ!?」
一斉に逃げ出してしまった。
見捨てられてしまった戦車の中からも人が出てきて脱走するほどだ。
当然フランメリアの連中が逃してくれるはずもない、回り込んだエルフたちが弓なり銃なりで足止めして転ばせて。
「まっまってくれっ、やめろ止まれあああああああああああッ!?」
パニックを起こしてバックする戦車に誰かが潰さた、断末魔もかき消される。
そんな死に物狂いでただ逃げるだけという理由のもと、ようやく一つとなった群れに。
「私の館に傷をつけた罪は重いぞ! 館主からのお礼だ、遠慮なく受け取れ!」
住宅の陰から回り込んできた変態――ガレットさんが予想の斜めからの掃射を浴びせた。
そうしてばたばたと不名誉な死に方を遂げる光景に。
「【アイシー・レイン】!」
「【ウィンド・サイス】!」
そばにいたトカゲメイドが、屋根を見下ろす金髪のエルフが何かを唱える。
ほんの僅かの魔を置いて、青い光が散ったその瞬間に頭上が破裂。
大量の鋭い氷が広く散り落とされて有象無象が串刺しに。
次に空間を揺らめかせながらも何かが抜けて人体をバラバラに仕上げてしまい。
「ROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAARRR!」
その更に後ろで返り血だらけのシエラ部隊の隊長が飛び込む。
銃剣で胸を串刺しにしたまま逃げ道を遮ると、小銃を浴びせてとどめを刺して。
「今日で一体何人ぶちのめしたと思ってんだ、クソ!」
「こりゃ帰ったら特別手当でも貰わねえとわりに合わねえ!」
「どうせトヴィンキーのことしか考えてないんでしょ! 気楽で羨ましいわ!」
小銃やらレーザー銃やら機関銃をまき散らしながら他の面々もやってくる。
スティングで一体どれほどの戦果を上げたか分からないシエラ部隊を目に、とうとう逃げる敵は足すら緩め。
「たっ……助けて……降参する、降参するからどうか」
「降参だ! 頼む殺さないでくれ!」
「死にたくないっ……死にたくねえよ! 見逃してくれ!」
「構うな! ここで根絶やしにせよ!」
しかしチャールトン少佐が叩き切り、義勇兵が連なって処刑していく。
これでライヒランドの連中はもう総崩れだ、散弾銃は下ろせぬままに敗残する敵の姿を眺めてると。
「――ひ、退け! 早くここから逃げるんだ!」
住宅街の出口へ雪崩れ込む群れの中、仲間すら潰しながら逃げる車両を発見。
その歩兵戦闘車からは間違いなくヴァローナの声がした、必死に逃げるその様子からも間違いないだろう。
追いかけようとするが距離が遠い、それどころか機関砲がこっちを向いて――
――ごぎん。
しかし、向こうでそんな音を立てて何かが刺さる。
あの巨大な矢だ。運転席を軽々ぶち抜いた挙句、また同じ音を立てて砲塔の間にも飾りを増やす。
一瞬だけ振り返ると、あの白エルフが大弓と身体で「どやっ」と表していた。
「どうも」と手でお返ししたところで。
「……どうなって、どうなっているんだ……おかしいぞ、この世界は狂ってる! どうかしているぞ! こんなはずでは……!」
返り血だらけのヴァローナがずるずると這い上がってきた。
欠けた腕に続いて、今度は片足すらも膝下から失ったボロボロの姿だ。
皮肉なことに、この指揮官以外の奴らは心を一つに敗走してしまったみたいだ。
思想も生きざまも一人だけ取り残されたそいつに、スティングの奴らが続々と集まっていく……。
◇
パズルさながらの死体、叩き割られた車両、そんな死をもって屈服した残骸のそばで。
「目がッ! 目が見えないッ! どこだどこに居やがる!?」
「畜生ォォォッ! 耳がイカれたッ! くそくそくそ何が起きてんだァ!?」
「たっ隊列を乱すな姿を隠せッ! 民家に逃げ込めえぇッ!」
「なっ――なんだこのミュータントの群れはァァッ!?」
砲撃と閃光で目も耳もやられたやつらが、端から端まで身悶えていた。
立ち往生する長蛇の列が阿鼻叫喚をまき散らし、そこに全てが叩き込まれる。
「念願の一番槍だッ! 見てろよォ!」
誰よりも先にこぎつけた牛の獣人がすくむ人間を押し退け、戦車に肉薄した。
履帯をやられてもなお同軸機銃をぶっ放すそれに赤く焼けた大斧を振りかざし。
「――貰ったァァァァッ!」
立ち往生する戦車の主砲をぶっ叩く。
ばぎん。そんな音を立てて、真っ赤な刃で主砲の根元を強引に溶かし断つ。
機銃ごと攻撃力を奪えば、振り下ろしたそれを戻してそのまま素通りし。
「トドメは俺のもんだ! まずは一つ!」
片足を失ってぎゃりぎゃりもがく戦車に熊の身体が乗っかり、赤熱したハンマーを振りかざす。
運が悪い、身を乗り出して機銃を掴もうとした兵士がでるところだ。
「へっあっっあっ――――ああああああああああああああ!?」
そんな兵士ごと質量を持った熱が砲塔を叩く。
じゅうっと肉と骨が焼き伸ばされる音を添えて、砲塔が一目で使い物にならないほどへこむ。
たった二人に潰された戦車はくず鉄に転職だ、駆け抜けていく獣人に敵が呆然とする中。
「一人たりとも逃がすな! 降伏する者も皆なで斬りにせよ!」
ようやく火器を握れた兵士たちにチャールトン少佐が切り込む。
「みゅっミューティだ! ミューティの群れに囲まれてる……ッ!」
誰かが事のまずさに気づいて自動小銃を連射、しかしあの大剣でがちっ、と銃身を空高く逸らす。
ひどい宴の始まりを告げるような祝砲がぱらぱら散った。
大きく払って得物を外すと、短く握った刀身ごと突進して腹をぶち抜く。
「ほふぅっ!?」と串刺し兵士が蹴り飛ばされ、すかさず横に払う――まとめて数名、斜めにぶった切られた。
「どうなってんだ一体!? スティングの奴らはマジでミュータントを飼いならしたっていうのか!?」
「敵なのは変わらないんだ、散開してここから離脱しないと……!?」
「馬鹿野郎固まれ! 白兵戦だ! くそっどっからでも来やがるぞこいつら!?」
「おっ……応戦! 応戦しろッ! 馬鹿野郎、乱戦に持ち込ま……」
大破した車両の周りで何人もの兵士が応戦している、ノルベルトと合わせた。
追い込まれた羊みたいに身じろぐ群れに短機関銃を構えて、
「こんにちは、お前らの大嫌いな擲弾兵だ!」
一声かけて絶望した顔を確かめてから、トリガを絞る。
*Papapapapapapapakink!*
ぱきぱきとした銃声の先で兵士たちが散らばった、そこにオーガが飛び込み。
「さあ動けっ! 走れっ! でないとこうなるぞッ!」
二人仲良く逃げ戸惑っていた緑服の姿に戦槌をぶん回す。
とうてい有機物が立ててはいけない音を立てながらはじけてしまった。
人間が潰れたトマトになったような――ああ、うん、敵が腰を抜かすほどだ。
あいつは自慢の笑い声を響かせて戦場の奥へ突っ込んでいき。
「あああああああああああああああっ!? た、隊長! 隊長がっ」
「ひぃぃぃぃぃあああああぁぁぁ! もう駄目だ、死ぬ、俺たちは死ぬんだ!」
「大丈夫っすよ、苦しまずに済ませてあげるんで」
ロアベアが乱入した! こわれた戦車を背に怯える二人をすぱすぱ断つ。
首を失ったままぐらっと転ぶ、そばでそんな光景を見た同志たちは自分の正気度を疑ってしまうだろう。
「あひひひっ♡ お客様、戦場で止まったら命とりっすよ~」
「首……? くっ、首……ひぃぃぃぃぃ!?」
「へっ? なっ何がどう……!」
「まったく、お前はもうちょっと穏やかな仲間を持てないのか」
*PapapapapapapapapakinK!*
武器を手にしたまま呆然と構える姿にオレクスが短機関銃を浴びせた。
金属音のような銃声の先では四、五名が薙ぎ払われている見事な有様だ、きっと家の恨みがあるんだろう。
「うっうおおおおおおおッ! とにかく撃て! 俺たちから引きはがせ!」
そこにどどどどっ、五十口径の銃声――敵も味方も死体も巻き込んで、戦車の砲塔から機銃が飛んでくる。
ノルベルトが割り込んで盾になってくれた、巨体にびすびすと弾が当たる嫌な音が聞こえ始め。
「死ねッ! 侵略者どもッ!」
ダスターが乱暴な口ぶりで突っ込んだ、車載機銃にめがけて射撃。
ぱきぱきと45口径弾を叩き込まれて沈黙したようだ、すぐに戦車が後続の部隊も踏みつぶさんとばかりに後退するが。
「逃がすかよっ! 死ねっ! 死ねっ! 全員くたばりやがれェ!」
ダメだハイになってやがる、狂った義勇兵がのろのろ下がる車体に飛び乗る。
死体がへばりつくハッチに銃を突っ込み、中にめがけて弾倉一本分の連射を披露した――おめでとう、一両撃破だ。
「敵の歩兵も肉薄してきたぞ! 早く追い払え、戦車がやられちま……」
そんなダスターに気づいて誰かが銃を持ち上げるが、ご本人は鬼のような形相で振り返り。
「――てめえら全員叩き潰してやるッ!」
ぎらりと戦いに染まった顔で跳躍、メイスを抜いてそいつへ飛び込む。
派手に叩きつけられる重みに誰かさんは何一言残せぬまま潰された、まるでスイカ割りだ。
「列から外れろ! ここに留まってたらぶっ殺されるぞ!」
「畜生なんだってこんなやつらにやられなきゃいけねえんだァ!?
「たっ助けて矢が! 俺の頭に矢がァァァ!」
「屋根だ! 屋根にもいやがるぞ! 装甲車両、どうにかしろ!」
更に進んだ、スタックした装甲車がどうにか抜け出そうと走り出している。
ところがそこに矢が降り注ぐ、周囲の兵士やレイダーが生きたままのハリネズミへと変えられてしまい。
「何してやがるんだ! 装甲車を盾に離脱しろォォッ!」
ようやく動き出す装輪装甲車に指示を飛ばしていた軍服姿の頭がはじける。
そいつらの唯一の救いだったそれも――
がぎんっ。
いきなりの不愉快な金属音のせいで台無しになったところだ。
左側の運転席に羽のついた槍みたいなものが深々と刺さっている。
適切な表現をするなら『矢』だ、撃たれた方向を辿ると向こうの屋根で大弓を持ったエルフがドヤってた。
「エグゾアーマー隊はどうした!? 何してるんだあいつらは!?」
「こ、降車させた瞬間にやられちまった! あの変な豚野郎が」
エルフやらの援護を受けながら更に突き進む。
先には混乱と残骸に取り残された兵士とトラックがある、俺たちに気づいた。
短機関銃を撃ち切るつもりでばら撒く、そこに横からぱぱぱぱぱぱぱっ、と軽い銃声が続き。
「うひゃははははははははっ! 撃ち放題だ、撃ち放題だぜェ!」
「おらおらぁ! 悪い子は燃やしちまうぞ!」
身動きの取れない敵に軽機関銃が次々浴びせられ、固まっているところに火炎放射が放り込まれる。
乱戦中にとてもよろしくない行為だとは思うが、突然の炎に混乱が増していく。
「何考えてんだよあいつらッ!? こんなっ、こんな状況で火炎放射器だって!? どうかしてやがる!」
「どうかしてんのはこのミュータントどもの方だろ!? なんなんだよありゃ!?」
「ストレンジャー! うちの馬鹿どもに巻き込まれないようにね!」
「馬鹿な幼馴染を持つと本当に苦労するわ!」
「ハアイ、ストレンジャー。こっち側は任せて奥に行って!」
双子の小銃手も混乱に混じって次々撃ち抜いている、ラシェルも逃げる後ろ姿に散弾銃を浴びせていた。
プレッパーズの連中はどこにいっても元気そうだな、安心した。
弾倉を取り換えると今度は兵員輸送車のハッチから敵が飛び出てきて。
「ここから離脱しろ! このままだと我々もやられてしまう!」
「……なぁっ!? て、擲弾兵!? どうしてここにこいつが」
恐らく一番巡り合いたくない存在と会ってしまった連中が固まる、得物を向けた。
「お勤めご苦労さん、一生休んでろ」
*PapapapapapapapapakinK!*
弾切れになるまで撃ち尽くす、ハッチの中に残るやつらごと殲滅した。
仕上げに手榴弾を放り込んで移動、弾倉交換、次へ。
「敵はッ!? 敵はどんだけいるんだ!?」
「弾をくれ! もう弾切れだァ!」
乱戦の中を潜れば、トラックの荷台から降ろされたエグゾアーマーがいた。
何体もの外骨格は手持ちの五十口径をめちゃくちゃに連射してたものの、こちらを見るなり冷静になれたらしい。
第一声は「擲弾兵」だ、車両に隠れて向けられた重機関銃から外れる。
どどどどっと乱戦の最中ぶちまけられる大口径弾を避けた先で――
「しっ死ねえええええええええええッ!」
「ヒャハハハハハハッ! 俺もお前もおしまいだぁ!」
「擲弾兵が来たぞ! なんとしても仕留めろ!」
ライヒランドもレイダーも渾然一体となった集団が白兵戦を挑んできた。
軍服も粗雑な姿も滅茶苦茶な連中は銃剣、鈍器、斧、槍、めちゃくちゃなそれを十も二十もそろえて逆に突っ込んでくるが。
「ロアベア、ニク、行くぞ」
「……ご主人、僕から離れないで」
「銃も使えないぐらい切羽詰まってるっすねえ、アヒヒヒ♡」
銃剣付きの短機関銃を向けた、ニクも首つきメイドも自前の得物を構える。
群れから一人駆け出す、ホームガードの槍だ。
突き出されたそれを銃身で払った、身をよじってそいつの首に剣先を立てる。
「あっおふ゛ぅ……!?」
「ちっっっくしょう! どけ! さっさと撃ち殺せェ!」
「ばっ馬鹿味方に当たるだろ!」
首の健康を損ねて最高に苦しむ一人を蹴り飛ばすと散弾銃が向けられた。
だったらこうする、それより早く、とにかく素早く踏み込め!
射線に斜めに飛び込む、銃声もろとも腹のアーマーがぼぎっと悲鳴を上げる。
次弾が来る前に詰めた、あとずさりを始める相手の首を横に振り払う。
「馬鹿かこいつ突っ込んでんげぇぇぇ……!?」
「撃て! 撃ちまくれ! ぶち殺されちまう!?」
更に前進! 戸惑う二人が自動小銃と拳銃を向けてくる。
そこに黒いわん娘が、剣を持ったメイドが身をねじり込んで。
「ご主人、無茶しないで……!」
銃を短く構えて今にも掃射を始めようとした兵士の顔を――ニクが槍で叩く。
崩れたバランスにすかさず横から身体ごと迫り、腹をぶち抜いて縫い留めた。
いきなり串刺しにされた男の悲鳴が弾けた、休む間もなく手当たり次第穂先で何人も貫き、何十と固まるやつらが怯えすくむ。
「戦場で迷ったときは立ち止まっちゃダメなんすよ~、アヒヒヒッ」
誰かが撃った拳銃をロアベアがひらりと避けて、腰を落として一閃。
突然と現れた見えない刃……【ゲイルブレイド】で二人ほど首がすっ飛ぶ。
誰かが尻もちをついた、そこに黒い影が民家の屋根から落ちてきて。
「待たせたな、助太刀するぞ! イチ!」
「もうだめだっ、望みがっ望みが断たれたァァ……!?」
忍者刀が生きたままの脳天を顎までぶち抜く、忍者もどきが降って来た!
戦場で披露するにはあんまりの死にざまにますます敵が引き始める最中。
「【黒槍の術】!」
軍勢の中枢めがけてアレクが忍術を解き放つ。
青い光から生まれた黒槍の群れが足元から串刺しに――十人分にも及びそうな磔刑が出来上がりだ。
「敵が近すぎる! 行け! こうなりゃひき殺せふっっ!?」
戦線に置いてけぼりにされた戦車が車長の指示で動こうとしたようだが、突然のヘッドショットで弾けた。
サンディしかいないだろうな、逃げ始めた群れに向かって連射しつつ登る。
都合よく重機関銃が据えてあった、脳の欠けた死体の代わりにハンドルを握り。
「よお! ライヒランドの皆さん、五十口径は好きか!?」
「やっ……やべえぞ機銃が奪われたぁぁッ!?」
「……このイカれ擲弾兵がぁぁぁぁッ!?」
住宅街から逃げようとしていた兵士と賊に向けてトリガを押した。
*DODODODODODODODODODODODODODODODOM!*
味方の車両のそれがいきなり自分たちに向けられたらそりゃ恐ろしいだろう。
銃口の先で逃げ戸惑う連中がばちばち弾ける、人間のパーツが道を作るほどに。
撃ちまくってると足元でごつごつ動く音が――
「車長がやられた!? もういい! 走って逃げ……」
「擲弾兵が来やがったあああぁぁぁぁッ!! 早く早く早く早く!」
「邪魔したな、迷惑料だ」
ハッチから兵士が見えた、ピンを抜いて絶交した手榴弾を入れて離れる。
ばこんっ!と金属的な振動を背に大乱闘の車列を辿り続ければ。
「いけいけいけ! 擲弾兵だけに手柄を取らせるな!」
「チャールトン少佐が変なことする前に早く終わらせるぞ!」
「女王の為にッ!」
住宅のそばでロングソードを持ったホームガードの連中が切り込んでいた。
拳銃をぶっ放しながら迫り、怯んだところを剣をぶん回して崩す。
一体誰に感化されたのかは気になるが、荒っぽい突撃に引きずり込まれた部隊が叩き殺されていく。
「とにかく撃て! 味方ごと撃って構わん! 榴弾装填っっっ!?」
人も魔物も皆等しくぶち殺す中、向かう先で戦車が動き出す。
*zBaaaaaaaaaaaam!*
いきなり飛んできた矢に砲塔にいた男がぶち抜かれると同時に、砲がどこかを撃った。
目の前の爆発に頭の中がきーんと音を引きずる、後ろで民家が吹っ飛ぶ。
コントロールを失ったままに走り出す、仲間も死体も潰してこっちへまっすぐと。
「擲弾兵!」
そこにホームガードの軍曹の声が挟み込まれる。
手には荒っぽい作りの槍――ホームガードスピアだ。
やれってことらしいな。向かい来る鋼の塊に槍を持ち上げて。
「装甲の薄い場所はどこだ!」
「車体左上の視察孔を狙え!」
言われた通りに投擲の構えを作る、車体左上に弱点を確認、腕を絞った。
踏み込み、腰の捻りと腕の働きも加えて投げる――【ピアシングスロウ】!
バキンッ!
とてもいい音を奏でて、きっと操縦者がいるであろう部分をぶち抜いた。
槍の半分ほどが見えなくなるほどに突き刺さっただけあるのか動きが止まる。
「おいおい」とオレクスの複雑な声がするなか砲塔を登り。
「何が起きたんだ!? まっまさか無人兵器が……」
ハッチから拳銃を握った車長が生えた、蹴りをぶち込んで顔に銃剣を捻じる。
「んぎっ」と変な声を断末魔にしたそいつを楔にして車内に撃った。
「つくづく思うよ、お前はバケモンだ」
「今後一生ほめ言葉として受け取っておこう」
呆れに達した家無き自警団も来た、もう一本銃身をねじ込んで弾を送り込む。
ぱきぱきと十分なほど撃ちまくると離れた、戦車はもう動かないだろう。
二人で徳用サイズの棺桶から降りたところで。
「おおおらぁぁぁぁぁぁッ!」
灰色のオークが外骨格を着た兵士を串刺しにしたまま――高々と持ち上げた。
「ああああああああああっ!? ぎゃっ、はっ、アアアアアアアアアァァッ!?」
「どうしたどうしたァ! これくらいでビビってんじゃないよなぁ!?」
同じく灰色の相方が 二人はそのまま戦場を駆けていく。
得物に刺さった犠牲者を振りかざす姿は悪夢そのものだ、異様な光景に侵略者たちがとうとう折れたらしく。
「どうなってんだよ……この街は……この世の終わりかなんかかよ……!?」
「イカれてやがる……! どうなってんだここは!?」
「擲弾兵だ……擲弾兵が俺たちを殺しに地獄から蘇ったんだ……!」
「バケモンどもが! お前らなんなんだよぉぉぉっ!?」
滅茶苦茶な乱戦の最中、動かなくなった車両の近くで兵士と賊どもがいた。
目が合った。短機関銃を腰だめに近づくと、手にした武器も忘れて後ずさる。
撃とうと思ったが弾切れだ。ニクに預けて三連散弾銃を抜き。
「お前でいい、あの時の礼を受け取れ」
その先頭で呆然としていた一人のライヒランド兵に迫った。
返された行動は降参とばかりに武器を落とす始末だ。
なんだったら次の一言はきっと「助けてくれ」に違いない。
だから言われる前にトリガを引く。
*baaaaaaaaaaam!*
「たす」と言いかけた口ごと顔が吹っ飛んだ。
メインパーツを失ったままふらつく身体を蹴とばすと、次は誰かと銃で探る。
緑色の軍服も、廃材育ちの見てくれも、尻で地面にキスをするほど後ずさり。
「もう駄目だ! 逃げろ! 死にたくなかったら逃げるんだぁぁ!」
「どうなってんだよこの街はぁぁぁ!? みんなイカれてやがる!!」
「お、おいてかないでくれ! 待ってくれみんなぁぁッ!?」
一斉に逃げ出してしまった。
見捨てられてしまった戦車の中からも人が出てきて脱走するほどだ。
当然フランメリアの連中が逃してくれるはずもない、回り込んだエルフたちが弓なり銃なりで足止めして転ばせて。
「まっまってくれっ、やめろ止まれあああああああああああッ!?」
パニックを起こしてバックする戦車に誰かが潰さた、断末魔もかき消される。
そんな死に物狂いでただ逃げるだけという理由のもと、ようやく一つとなった群れに。
「私の館に傷をつけた罪は重いぞ! 館主からのお礼だ、遠慮なく受け取れ!」
住宅の陰から回り込んできた変態――ガレットさんが予想の斜めからの掃射を浴びせた。
そうしてばたばたと不名誉な死に方を遂げる光景に。
「【アイシー・レイン】!」
「【ウィンド・サイス】!」
そばにいたトカゲメイドが、屋根を見下ろす金髪のエルフが何かを唱える。
ほんの僅かの魔を置いて、青い光が散ったその瞬間に頭上が破裂。
大量の鋭い氷が広く散り落とされて有象無象が串刺しに。
次に空間を揺らめかせながらも何かが抜けて人体をバラバラに仕上げてしまい。
「ROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAARRR!」
その更に後ろで返り血だらけのシエラ部隊の隊長が飛び込む。
銃剣で胸を串刺しにしたまま逃げ道を遮ると、小銃を浴びせてとどめを刺して。
「今日で一体何人ぶちのめしたと思ってんだ、クソ!」
「こりゃ帰ったら特別手当でも貰わねえとわりに合わねえ!」
「どうせトヴィンキーのことしか考えてないんでしょ! 気楽で羨ましいわ!」
小銃やらレーザー銃やら機関銃をまき散らしながら他の面々もやってくる。
スティングで一体どれほどの戦果を上げたか分からないシエラ部隊を目に、とうとう逃げる敵は足すら緩め。
「たっ……助けて……降参する、降参するからどうか」
「降参だ! 頼む殺さないでくれ!」
「死にたくないっ……死にたくねえよ! 見逃してくれ!」
「構うな! ここで根絶やしにせよ!」
しかしチャールトン少佐が叩き切り、義勇兵が連なって処刑していく。
これでライヒランドの連中はもう総崩れだ、散弾銃は下ろせぬままに敗残する敵の姿を眺めてると。
「――ひ、退け! 早くここから逃げるんだ!」
住宅街の出口へ雪崩れ込む群れの中、仲間すら潰しながら逃げる車両を発見。
その歩兵戦闘車からは間違いなくヴァローナの声がした、必死に逃げるその様子からも間違いないだろう。
追いかけようとするが距離が遠い、それどころか機関砲がこっちを向いて――
――ごぎん。
しかし、向こうでそんな音を立てて何かが刺さる。
あの巨大な矢だ。運転席を軽々ぶち抜いた挙句、また同じ音を立てて砲塔の間にも飾りを増やす。
一瞬だけ振り返ると、あの白エルフが大弓と身体で「どやっ」と表していた。
「どうも」と手でお返ししたところで。
「……どうなって、どうなっているんだ……おかしいぞ、この世界は狂ってる! どうかしているぞ! こんなはずでは……!」
返り血だらけのヴァローナがずるずると這い上がってきた。
欠けた腕に続いて、今度は片足すらも膝下から失ったボロボロの姿だ。
皮肉なことに、この指揮官以外の奴らは心を一つに敗走してしまったみたいだ。
思想も生きざまも一人だけ取り残されたそいつに、スティングの奴らが続々と集まっていく……。
◇
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