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世紀末世界のストレンジャー
人間を燃やすと心が温まるらしい
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『こちら一号車、誰かさんの元職場が見えてきたぜ』
『すげえや、見ろよみんな。クレーター出来上がってんぜ』
『なんにも残ってねえや。こんなの見せられたらそりゃ士気も落ちるよなぁ』
『お前らが俺のために作ってくれた派手な退職届の話はそこまでだ。間もなく敵陣だぞ』
昼間のスティングを車列が走る。
無線の馬鹿話に耳を傾けてると、元事務所の巨大な穴が視界の横を過ぎていく。
何度も足を運んだこの地域は、今やまともに敵の侵入を拒む努力もしていない。
『あんたら聞こえるかい、そろそろ奴らがお出迎えに来るよ。準備しときな』
そんなボスが指示が飛んできて、俺は周りを見た。
目の前で"一号車"と呼ばれる装甲車がゆっくりとスピードを落としているところだ。
装甲車と言えば聞こえはいいが、装甲で四方を囲っただけでみんな仲良く吹きさらしの潔いデザインをしてる。
問題の車列は全てそんな車両でできているという点だ。猛攻撃を食らったら俺たちはどうなるのやら。
「真昼間堂々敵陣に突っ込めとか最高だなほんと」
そんな流れ弾がおっかない二号車の助手席に俺は座っていた。
防御力無視で力強く走る六輪駆動は中々に不安だが、ならやられる前にやれとばかりに前面に向けて機銃が据えられている。
それだけならまだしも――振り返ればそこにあるのは火力たっぷりの面々だ。
「敵が強固に籠ってるみたいだからなぁ。生半可な砲撃じゃ一掃できない、けれどさっさと片づけたい、なら直接行けばいいわけだ」
銃座にはコルダイトがついていた。自動式のグレネードランチャーをお供に。
身軽そうな黒い戦闘服に「とりあえず胴体守れればいいや」と重ねられたボディアーマーの姿は、いつもより厳つく感じる。
「砲弾だって無限にあるわけじゃねえからな。それにぐだぐだ狙っても中に隠れてるやつはなんやかんやでしぶてえし――」
後部座席に至ってはこんなクソ暑い中、耐熱スーツに身を包むヒドラがいた。
意地悪そうな顔は汗が垂れて暑そうだ。しかも背中には燃料タンク、手元に火炎放射器があり。
「押し入って主要部分を速やかに制圧して帰る、それがスマートね」
その妹のファイアスターターも耐火スーツを着てる。やっぱり暑そうだ。
両手は散弾銃を抱えているがフォアエンドがない、自動式か。
「ストレンジャー、今のうちにそれを着た方がよろしいかと思います」
左の運転席にいた機械の身体の持ち主――イージーが促してくる。
上半身をすっぽりと覆うジャケットと、消防士みたいなマスクだ。
曰く耐火性能があるらしいが、こんなものを付けてする仕事は一つしかない。
「シェルターとやらに隠れてるやつらごと爆破できないのか? どうせ敵しかいないことは確定してるんだろ?」
俺は渋々。本当に嫌々にそれを身に着けた。
余計に暑苦しいし、マスクをつければ視界も呼吸も最悪だ。
「戦前のシェルターってのはなぁ、お前が思ってる上に頑丈にできてるんだよ。それこそさっきの事務所みたいな爆発でも起こせば吹っ飛ばせるんだが」
「ああいうのは伊達に第三次大戦に備えただけあってしぶとさだけはすげえからな、生命維持システムも根強く残ってんだぜ?」
「つまり直接乗り込んで掃除するしかないってことね、それも手早く」
三人の言い分からして――そういうことだ。
西部にある警察署。今ではそこは"敵"が根付く要塞と化した何かだ。
規模こそ大したことはないが、なんと地下に戦前のシェルターがあるらしい。
更に言えばかつての自警団の拠点の一つだったわけで、その手の輩がしぶとく残る最後の砦となってるわけだ。
『魔法を使う人がいるっていうのは本当なのかな……?』
ミコの言う通り、そんな場所に魔法を使うやつがいたと情報もあった。
信者の生き残りが流れ込んでる可能性もある、そうなるとどんな手痛い反撃を受けるか分からない。
「そこで貴方の出番ってわけ。ほら、これ使って」
その厄介な魔法使いに対する銀の銃弾として選ばれたのが俺か。
ファイアスターターが散弾をいくつか手渡してきた、薬莢の色はオレンジだ。
「これは?」
「ヒドラショットよ。焼夷散弾って言ったら分かる?」
「良く分かった、こんな危ないもん使ってほしいんだな」
「へっへっへ、そいつはすげえぞ。敵が燃えて吹っ飛ぶんだ」
『室内でそんなの撃って大丈夫なのかな……』
あまりお供にしたくないブツをしまうと目的地が見えてくる。
あるのはさほど警察署というにはさほど広くもない平屋だ。
道路の途中にぽつんと立つそこは、もしかしたらレストランか何かと見間違うかもしれない。
ただし屋根には土嚢で組まれた銃座がこちらを睨んで、その道のりにバリケードが構築されていた。
「俺が心配なのはな、お前の愛犬と後ろのトリガーハッピーだぜ?」
コルダイトのおっさんはその言葉通りに振り向く。
見ればこんな暑苦しい連中に混じってちょこんと座る犬耳っ娘がいて。
「……大丈夫。火は怖くないから」
「だとさ。元々アタックドッグだけあって肝が据わってるじゃねえかニク」
「そういう問題じゃねえだろ。いいか、ストレンジャーが心配なのは分かるけどな、無理に射線に入るんじゃねえぞ」
「ほんとご主人さま思いね、あなたは私たちの邪魔を払ってくれればいいからね」
『……なんでニクちゃんもついてきてるんだろう』
「ご主人を守るのがぼくの仕事」
お行儀よく座りながら自信満々にしていた。殺る気もいっぱいだ。
あとはこの車が牽引するトレーラーだ。角ばった造形に幌が被せられている。
「皆さま、窮鼠猫を噛むという言葉をご存じですか?」
そこに運転手の機械的な声がすると始まった。どんどん、ぱらぱらと戦いの音が周りから響く。
『こちらホームガード隊、迂回して突撃を開始……少佐お待ちください!またあなたは――』
『あんたら聞こえるかい、狙撃チームは教会の屋上についたよ。見える限りで支援する、オーバー』
「イージー、そりゃ俺たちが猫、あいつらが鼠って仮定した上での質問か?」
コルダイトが頭上でがちゃりと40㎜弾を装填するのが聞こえる。
「その通り。ですので噛まれないように念入りに焼き払ってやりましょう」
「市街地で思う存分焼けるとか最高の仕事だな」
「ちょうど良かったわ。ここ最近デスクワーク続きで退屈だったから」
後ろの放火魔兄弟がそう言い終えたところで、ばちっと車体が音を奏でた。
攻撃だ。警察署の屋根の方から銃撃されている。
「さあて、俺たちは堂々と「お邪魔します!」だぁ! 思う存分やれ!」
『こちら一号車! こいつらはスルーして後ろを叩く、二号車の愉快な連中は警察署を頼むぜ!』
他の車が土嚢を構える道路を突き抜け、迂回して回り込み、西側へ散らばっていく。
そして残った俺たちに弾が絶え間なく飛んでくる。助手席なんて最悪だ、すぐ目の前に弾が落ちた。
「ハッハァァッ! どかないと死んじまうぞォ!」
どどどどどん、と頭上でグレネードランチャーが放たれる。
道路の向こうで構えていた陣地が次々弾け飛ぶが、警察署から相応の反撃が来た。
手持ちの火器をありったけ詰め込んだような射撃がぶすっと頭上をよぎるぐらいには――あいつらは必死だ。
「イージー、警察署の前で止めろ!」
少しでも攻撃を抑えるために機銃を撃つ。屋根に積まれた土嚢にめがけて連射、銃撃が引っ込む。
そのそばで誰かがパイプ・ランチャーを構えだすが胸を弾けさせて死んだ。ボスの狙撃だった。
すると車が砲撃で崩された防御に突っ込み。
「それでは皆様、当車両は敵の立てこもる警察署へ突撃します。ご武運を」
グレネード弾の衝撃から立ち直れていないやつごと弾き飛ばした。
尻にごしゃっ、と重たい感触がした。人を潰した感触だ。
車はぐらっとカーブを始める。榴弾で薙ぎ払われた道をたどり、やがて警察署の前につくと。
「くそっ! 敵が来たぞ!」
「なんだこいつら!? 正面から来やがったぞ!?」
「敵だ敵だ敵だ! 早く応戦しろォ!」
横向きに停車。ちょうど敵の群れが玄関から、窓から、屋上から続々と現れてお出迎えしにきた。
射角のなくなった機銃をあきらめて散弾銃を抜くと。
「アーバクル! やっちまえ!」
ヒドラがトレーラーの幌を引っ張った。
そこにあるのは……いつぞやライヒランドの連中が宿の前に置いて行った、あの四連装の銃座だ。
50口径の銃身を四つも束ねたそこには、赤毛の男が最高の笑みで座っていて。
「……はっ、なにそれ?」
「……や、やべえ逃げないと」
「お、おいおいそんなの」
「人に向けちゃいけない」姿に黒と緑の連中が青ざめると同時に――
「よお皆さん、ラザニアの具にしてやるぜ」
アーバクルがトリガを動かした。
*dddDODODODODODODODODODODODODODODODODODODOMmmm!!!!*
重機関銃四つ分の銃声が響いた。
凄まじい火力の結果が遺憾なく警察署を穴だらけしていく。
逃げようとした者、立ち向かおうとした奴、隠れ続ける誰かを全て等しく引き裂いた。
目の前で人体が修繕不可能なほどに引きちぎられ、銃座は建物を隅から隅まで50口径の弾でなぞって。
「ヒャハハハハハハッ! 逃げろ逃げろォ! 逃げてもお前ら皆殺しだぜェ!」
それでも撃つ、撃ち続ける。
四連装が生み出すアホみたいな投射量はあっという間に屋根も壁も窓も破壊し、ついでに残弾も食いつくす。
そこでぴたっと射撃が止まった。もう弾切れか。
「よくやったアーバクル! 全員降車、突入!」
「もっと撃ちてえよ! 弾切れ早えんだよクソッ!」
「それでは皆様、我々は少し下がりますので気楽にやってきてください」
降車すると赤毛の機銃手を乗せたまま、イージーの車が下がっていく。
三連散弾銃を掴んで入り口に張り付く。さてお仕事開始だ。
「ご主人、中で敵が待ってる」
いざ顔を覗かせようとした瞬間、そばでニクがそういった。
突然の報告に思わず全員と顔を見合わせると。
「だったらよぉ、まずはご挨拶だ。マナーだぞ?」
戦闘服姿のコルダイトがニヤっとしながら近づく。
その手には手榴弾が二つ。そのうち一つはこっちに投げ渡してきて。
「それもそうだな、じゃあ」
「お邪魔します、ってなぁ!」
俺たちはピンを抜いて発火させてから中に放り込む、すると。
「――手榴弾だ! 伏せろ!」
「姿勢を低くしろ!」
「慌てるな伏せてりゃ大丈夫だ!」
そんな声の後、中で鋭い爆発が起きた。
普通ならそれで片付いてるだろうが、すかさず顔を覗かせると――
「来たぞッ! 玄関から敵だ!」
「撃ちまくれ! その隙に移動しろ!」
その先ではありあわせのバリケードが立ち、そこに銃を据えた連中がいて。
*Brtatatatatatatata!*
撃ってきた。引っ込んで身をかがめた。
手持ちのクナイでも使って突っ込もうかと思ったが、
「ご丁重に待ち構えてるぞ。窓から行くか?」
「いや、ここは鼠掃除といかないか?」
コルダイトがニヤつきながらヒドラたちを見た。
放火魔兄妹はその言葉をずっと待ってたかのような様子だ。
「いいぜおっさん、少し熱くなるが構わねえよな?」
「いいぜぇ、熱くなりにきたんだからなぁ」
「兄貴、WP使うわよ」
「オーケー、二人仲良くぶち込んでやろうぜ。援護してくれ」
二人は手榴弾を取り出した。円筒状で表面には手書きで「WP」とある。
援護しないと。散弾銃の銃口だけを覗かせて大雑把に発射、爆弾魔も突撃銃を同じように撃つ。
そうして向こうに弾丸を届けた後。
「やれ!」
俺たちは離れた。代わりにヒドラ兄妹が手榴弾を投げ込んだ。
奥の方からからっと音がした直後。
*bBAAAAAAAAAAAAMm!*
それは爆ぜた。熱々の白煙が中からこっちまで飛んでくる。
すぐに中に入ろうとしたが真っ白で何も見えない。ニクに至ってはけほけほむせこんでいて。
「あっ……あああああああああああああああああああっ!」
「痛い! 痛いィィィッ! あああああああああああああ!?」
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!」
*Zezizizizizizizizizizi!*
煙の中から人型の何かがふらふらと苦しむ姿が浮かぶ。
じりじりと何かが焼ける音も聞こえてる。おい、まさかこれ――
「うへえ、やっぱ白リン弾はエグいなぁ」
その正体についてはコルダイトの感想通りだ。白リン弾ぶち込みやがった。
しばらくして煙が晴れてくると、倒れたやつ、まだ歩く奴、そこに居るやつ全てが生きながら燃やされていた。
黒焦げピンクの人間が思い思いに苦しむ地獄絵図が広がってる。
「うわあ……何やってんだお前ら」
「白リン弾ってやつだ。前に戦車で撃っただろ? あれの手榴弾バージョンだ」
「そしてナパームより質が悪いわ」
「見りゃわかる。お前らマジでどうかしてるぞ」
『……う゛っ……!?』
「戦車に対戦車地雷投げ込む奴よりは健全だと思うぜ」
「大丈夫、苦しまないようとどめは刺すから。ミコさん隠しておきなさい」
まだもがく真っ黒な生ける屍に、ファイアスターターが散弾銃をぶち込む。
「こんなおっかない兄妹に任せるなんて、あのばあさんひでえなぁ」
コルダイトも一人一人選んで打ち込んでいく。焼ける廊下には十人ほどの焼死体が溢れてしまった。
『い、行けッ! お前らの出番だぞ!?』
『あ、悪魔がいるのですよ!? このままでは我々は殺されてしまいます!』
『どっちみち殺されるんだ! 頼む、早くやってくれ!』
煙が立ち込める廊下を進むと声がする。会議室に通じる両開きのドアからだ。
『マナディフェンドサークル!』
そして詠唱音、聞いたことのない単語だ。
『いちクン、今の……!』
「今のはなんだ!?」
『防御魔法の範囲版だよ! 一度にまとめてマナの防御を付与する魔法!』
「ってことは――」
この先にそれだけ人がいるってことか!
括り付けていた手榴弾に手をかけて、自動拳銃を抜きながらドアを蹴る。
そこには今まさに部屋から出ようとする集団がうじゃうじゃだ。
黒い傭兵、緑の兵士、それに守られるように押し込まれた白装束もいて。
「構うなお前ら! こっちはもう無敵だ!」
ミコの言うように全員が青い魔力の膜に覆われていた。防御魔法だ。
ライヒランド兵が突撃銃を持ち上げた。素早く銃口を向けてトリガを引く。
*babababam!*
やっぱりトリガの軽さが違う。スムーズに連射して魔力ごとぶち抜いた。
「……はっ!? おいどうなってんだ魔法の効果は」
唖然とした傭兵の腹にも二連射しながら後退、手榴弾を背に向けると誰かがピンを抜いてくれた。
友達失格になった爆発物を放り投げるとコルダイトがドアを閉じて。
*BAAAAAAAAAAAAAAAAM!*
爆発した。もう一度ドアを開くと魔力がはがれた連中が転がったままだ。
「ご主人、やったね。」
ニクが掌の安全ピンを見せてくれた。グッドボーイ。
「ストレンジャー、念入りにやっとけよ? こういう時はもう一発だ」
爆弾魔はダメ押しのグレネードを放り込んだ。また爆発が起きて確実に全滅した。
「やっぱりお前連れてきて正解だったな」
「次こういうの来たら任せるわ」
「そうなると俺が先頭か。周りは任せたぞお前ら」
犬の耳をぽふぽふしてから放火魔二人の前に出る。
そしてから離れたところに、廊下の奥から大きな影が現れて。
「やられっぱなしだと思うなよクソがぁぁぁッ! てめえら皆殺しだァァ!」
――なんだありゃ!?
ずんぐりとした格好の誰かがどすどす歩いてくる。分厚いスーツと、頭を覆うヘルメットをかぶった重々しいやつだ。
手先足先までも完璧なまでに保護されて、相応にのろいが箱形弾倉のついた軽機関銃を握っている……!
「な、なんだよあいつ……!?」
反射的に撃った。何発か45口径弾を叩き込むが、少しぐらつく程度だ。
「おいおいおい対爆スーツ着てやがるぞクソッ!」
「対爆スーツ!? 響きからしてあんまり良くなさそうだな!?』
咄嗟に散弾銃に切り替えるが、コルダイトが近くの部屋に逃げ込むのを見て諦めた。
ニクを連れて同じく逃げ込むと、背後からぱぱぱぱぱぱっと小口径の連射が始まる。
「うおおおおおおおあっぶねっ!?」
「ストレンジャー! ヒドラショット装填して!」
ヒドラ兄妹は無事に反対側の部屋に逃げ込んだみたいだ。
俺は言われた通りに得物を折って再装填、さっきのオレンジ弾を込めて。
「うひゃははははははあ! どうせ死ぬんだ、お前も俺も死ぬんだよぉぉ!」
向かい側にいる放火魔の妹に装填完了を伝えると、掃射の合間を見計らい。
「今よ! 撃って!」
「了解!」
二人で同時に乗り出す。機関銃を友達に近づいてくる相手にあわせて撃つ。
*Baaaaaam!*
通路にオレンジ色の光粒が散った。
目に見えるそれがすさまじい勢いでそいつに当たると、スーツで水増しされた巨体がぐらっとよろめき。
「はぁッ!? 火、火ィ!? どうなってんだおいやめろ熱い熱い熱いィィ!?」
炎の散弾に煽られた身体が燃え始めた。全身可燃性素材だったみたいだ。
「……ファイアスタータ―、あいつすごい勢いで燃えてないか?」
「耐火素材じゃなかったみたいね。お気の毒」
「うわぁぁぁぁぁ誰かッ! 誰か火を消してくれあああああぁぁぁッ!?」
機関銃男は武器を捨てて外へのしのし歩いていった。
弾を込め直して再度移動、部屋の外へ出て敵の位置を探るが。
「しっ死んでたまるかクソがあアアアアアァァァッ!」
どんっ!とトイレの扉が開いて緑服が突っ込んできた、得物は手斧だ。
脳天を狙ってきたそれに銃床をねじり込む、グリップ部分を受け止めガード。
「ニク、やれ!」
「……ご主人!」
そいつが斧を手放そうとした寸前、間にニクが割り込んで槍で突く。
心臓を斜めに貫かれて動きが固まった、手放した斧をキャッチ。
「俺が時間を稼ぐ! お前たちは早く避難しろォ!」
そこに曲がり角から足音。傭兵が短機関銃を構えながら滑り込んできた。
ぱぱぱぱんっと遅い連射が周囲を掠るが――先読みして斧をぶん投げる。
顔面にざっくり刺さった、「ぐげぇ!?」と最後のセリフを残して絶命。
「この先にシェルターがあるらしいなぁ!」
「倉庫」と書かれた部屋から敵が乗り出してくるが、コルダイトが突撃銃を叩き込んだ。
仕留められなかったようだ。室内に逃げる相手に筒状の手榴弾のピンを抜いて。
「お前らちょっとやかましいぞ、少し耳塞いどけ」
「何投げるつもりだおっさん!?」
「衝撃手榴弾だ。破片の代わりに爆風が内臓に染み渡るぜぇ」
意地悪そうな笑みで扱うものじゃないと思うが、投げ込まれた。
*zBAAAAAAAaaaam!*
太くて低い爆発がこっちまで届いてきた。部屋を覗けば室内は滅茶苦茶だ。
「爆弾で遊んでんじゃないわよおっさん。ほら、さっさと制圧しながら前進」
「お前らだって火遊びしてるじゃねえか?」
ファイアスターターもドアを開けては火炎散弾をぶち込みまくりだ。そのたびに誰かの悲鳴が上がってる。
「あっ……ありゃ擲弾兵だぞ!?」
「やべえ下がれ! くそっついてねえ!」
全員で一つ一つ署内を潰しながら進むとその先は『武器庫』だそうだ。
誰かが待ち構えていたが目が合うなり引っ込んだ。厄介な場所に隠れやがって。
「おいどうする、武器庫に立てこもってるぞ」
「無視するわけにもいかねえからな、誰か行くか?」
ヒドラと火でも放ってやろうかというところまで思いが通じたところで、
「……ご主人、ぼくが行く。そこで待ってて」
槍を短く持ったニクが、するりと中に入り込んでいった。
『なんだこのガキ……!? おい、てめえはひゅぅっ……!?』
『はへっ……! あ、待っ……んげっ……』
かすかにざくっと肉を切るような音が聞こえたが、それで済んだらしい。
すぐに返り血まみれのダウナーな女の子が返ってきた。尻尾を振ったままで。
「……やっつけてきた」
「ぐ、グッドボーイ」
「なあ、お前の犬前よりおっかなくねえか?」
『……かわいいけど怖いよ、ニクちゃん』
コルダイトのコメント通りだと思う、可愛さと並行して怖さも増してる。
そうやって俺たちが死体の山を築きながら進むと、曲がった先に階段が続いていた。
今まさに誰かが背を向けて降りようとする場面だ、クナイを抜く。
「まっ、待ってくれ……閉めないで……」
背中に向けてぶん投げた。背骨沿いに刺さって転げ落ちる。
先には分厚い鋼鉄製の扉があって、内側から傭兵が慌てて閉じようとしてた。
「はっ、はっ……来るなぁぁぁぁッ……!」
重々しく閉まっていくわけだが慌てずHE・クナイを掴んでピンを抜く。
「よお、お届け物だ」
隙間に爆発するクナイをねじり込むと、相手はどっちを優先すべきか躊躇ったらしく。
「なぁぁぁッ!? おま、ふざけんなこんな――!」
締まり切っていない扉の向こうから爆発が響く。逃げ遅れたに違いない。
閉じられなくなったそれを蹴り開けた。
シェルターというには地上と遜色ない幅の通路が長く続いていて。
「……ヒャハァァァッ! やっと燃やせるぜぇぇぇッ!」
フルオープンになった地下にヒドラが突っ込んでいった。
その手に火炎放射器を握って。早速近くの部屋に炎をまき散らしている。
「兄貴、燃やしたらさっさと移動して。WP放り込むから」
「オーケーだ妹よ。十分焼いたら脱出するぞ」
更にファイアスターターも焼夷手榴弾を投げ込んで念入りに燃やしていく。
部屋から一気に火の手が上がって瞬く間に炎の恐怖が広まったようだ。
「敵だッ! 敵が侵入したぞォォォォッ!?」
「お邪魔してるぜヒャハハハハァ!」
横から誰かが飛び出てきたが燃やされた、火だるまになってこっちに走ってくる。
「あっあっゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「地下で火炎放射とか正気かよあいつ!?」
「ボスからご指名されてうれしいんだろうなあ、おっさん暑苦しくてもう帰りてえや」
『……残酷過ぎると思います』
買ったばかりの45口径でぶち抜くが、火の手から逃げようとするやつらが続々来る。
「そこどけ」「助けて」「ふざけんな」などという黒と緑の姿に銃を向けた、二人で撃ち殺す。
「おいお前ら、俺たちどうすればいい?」
「帰り道確保しといてくれ! すぐ終わっから!」
「WPおしまい。キッチンに誰か立てこもってるみたいよ」
「オラオラァ! ウェルダンにしちまうぞぉ!」
火炎放射と燃える散弾で地下が燃え広がっていく。
いきなりの放火魔の襲来に命からがら敵が逃げてきて、そこに後ろから炎が、前から俺たちの銃弾がお出迎えだ。
シェルターは一瞬にして火災現場に早変わりだ、熱くて息苦しくなってきた。
「よーしこんだけ燃やせばいいだろ、撤収!」
「居住区も焼いたから今頃蒸し焼きでしょうね」
熱がるおっさんとニクを後ろにその様子を見守ってると、二人が帰ってくる。
後ろにはおぞましい放火魔の殺害現場が続いている。今日は肉食えなさそうだ。
「見た兄貴? 立ったまま燃えてたわあいつ」
「見た見た、やっぱ白リンってエグいよなぁ」
「あー、お帰りお前ら。これでいいのか?」
「おう、後は扉閉めときゃ勝手に死ぬぞ」
「どの道酸欠で死ぬでしょうね、気の毒に」
この兄妹に目を付けられた奴らは本当に気の毒だと思う。
帰りに頑丈な扉をがっちりと閉めて、それでもなお暑苦しい警察署に戻ってきたが。
「どうせだしもうちょっと焼こうぜ、まだいるかもしれねえし」
「炎が足りないわね。ストレンジャー、あなたも手伝って」
二人は得物を手にまた動いた。しかもドラゴンショット弾を追加で渡された。
そしてヒドラがさっきの倉庫に火炎放射器をねじり込んで、まだ行ってない部屋にファイアスターターが散弾をぶちまけ……周囲の温度はどんどん上がる。
暑い。というかどんどん火の手が強まる。
「……ご主人、暑くて息苦しいよ」
「……おっさん歳だからなあ、熱さに弱いんだ。ということでお先に失礼」
「……うん、お前ら先にいっていいぞ」
もはや火災現場だ。俺はミコをニクに預けて先に帰らせた。
散弾を込めて道をたどった、道中チェックしてない部屋に打ち込んで燃やす。
女子トイレに白装束が隠れていたがとりあえず撃って閉める。誰もいないオフィスにもとりあえず撃つ。
『オーケーもう十分だよ、よく燃えてる。シェルターは潰したんだね?』
火の手を避けながら放火してると無線越しにボスの声がした。
もういいらしい。武器を下ろしてさっさと出ていくことにしよう。
「ヒドラ兄妹が楽しんでます」
『あの馬鹿どもは相変わらずだね。もう十分だ、たった今そこから生き残りが逃げてくのを確認した、さぞ怖い経験を共有してくれるだろうさ』
そんな声に窓を向くと、焼け焦げた男たちが熱がりながら逃げ出すのが目に映る。
あの生き残りが大惨事を語り継いでくれるそうだ、ひどい役目を押し付けられたな。
「ヒドラ、ファイアスターター! もういいぞ! ボス大満足!」
俺はそれだけ伝えて出ていくことにした。
白リンの名残がまだある玄関を抜けると、さほど冷えてもいないはずのウェイストランドの外気が嫌に涼しかった。
マスクを外すとなおさらだった。溜まっていた汗がべしゃっと落ちた。
『……すごい汗だよいちクン……』
「あっっっっつい……」
「おーお帰り、いやあ、心温まるお仕事だったなぁ」
もう警察署と呼べないほどに燃やされた場所を後にすると。
「どうだ、これが俺の芸術だ」
「これで埋葬の手間が省けるわね。ウェイストランドがまた綺麗になったわ」
心温まる二人も遅れて戻ってきた。
人を燃やしてそれはないんじゃないかと思う。
「……ご主人、汗だくだよ? 大丈夫?」
「干からびそう」
爽やかな兄妹と真逆に、愛犬と一緒に暑くてぐったりしてたところに。
「お疲れ様です皆さま、実にホットなお仕事でしたね。宿の方で冷たいお飲み物を用意しているそうですよ」
トレーラーを引っ張る装甲車が戻ってきた。機械の運転手は親指を立ててる。
任務完了みたいだ。こんなクソ暑い仕事二度とやらないぞ。
◇
『すげえや、見ろよみんな。クレーター出来上がってんぜ』
『なんにも残ってねえや。こんなの見せられたらそりゃ士気も落ちるよなぁ』
『お前らが俺のために作ってくれた派手な退職届の話はそこまでだ。間もなく敵陣だぞ』
昼間のスティングを車列が走る。
無線の馬鹿話に耳を傾けてると、元事務所の巨大な穴が視界の横を過ぎていく。
何度も足を運んだこの地域は、今やまともに敵の侵入を拒む努力もしていない。
『あんたら聞こえるかい、そろそろ奴らがお出迎えに来るよ。準備しときな』
そんなボスが指示が飛んできて、俺は周りを見た。
目の前で"一号車"と呼ばれる装甲車がゆっくりとスピードを落としているところだ。
装甲車と言えば聞こえはいいが、装甲で四方を囲っただけでみんな仲良く吹きさらしの潔いデザインをしてる。
問題の車列は全てそんな車両でできているという点だ。猛攻撃を食らったら俺たちはどうなるのやら。
「真昼間堂々敵陣に突っ込めとか最高だなほんと」
そんな流れ弾がおっかない二号車の助手席に俺は座っていた。
防御力無視で力強く走る六輪駆動は中々に不安だが、ならやられる前にやれとばかりに前面に向けて機銃が据えられている。
それだけならまだしも――振り返ればそこにあるのは火力たっぷりの面々だ。
「敵が強固に籠ってるみたいだからなぁ。生半可な砲撃じゃ一掃できない、けれどさっさと片づけたい、なら直接行けばいいわけだ」
銃座にはコルダイトがついていた。自動式のグレネードランチャーをお供に。
身軽そうな黒い戦闘服に「とりあえず胴体守れればいいや」と重ねられたボディアーマーの姿は、いつもより厳つく感じる。
「砲弾だって無限にあるわけじゃねえからな。それにぐだぐだ狙っても中に隠れてるやつはなんやかんやでしぶてえし――」
後部座席に至ってはこんなクソ暑い中、耐熱スーツに身を包むヒドラがいた。
意地悪そうな顔は汗が垂れて暑そうだ。しかも背中には燃料タンク、手元に火炎放射器があり。
「押し入って主要部分を速やかに制圧して帰る、それがスマートね」
その妹のファイアスターターも耐火スーツを着てる。やっぱり暑そうだ。
両手は散弾銃を抱えているがフォアエンドがない、自動式か。
「ストレンジャー、今のうちにそれを着た方がよろしいかと思います」
左の運転席にいた機械の身体の持ち主――イージーが促してくる。
上半身をすっぽりと覆うジャケットと、消防士みたいなマスクだ。
曰く耐火性能があるらしいが、こんなものを付けてする仕事は一つしかない。
「シェルターとやらに隠れてるやつらごと爆破できないのか? どうせ敵しかいないことは確定してるんだろ?」
俺は渋々。本当に嫌々にそれを身に着けた。
余計に暑苦しいし、マスクをつければ視界も呼吸も最悪だ。
「戦前のシェルターってのはなぁ、お前が思ってる上に頑丈にできてるんだよ。それこそさっきの事務所みたいな爆発でも起こせば吹っ飛ばせるんだが」
「ああいうのは伊達に第三次大戦に備えただけあってしぶとさだけはすげえからな、生命維持システムも根強く残ってんだぜ?」
「つまり直接乗り込んで掃除するしかないってことね、それも手早く」
三人の言い分からして――そういうことだ。
西部にある警察署。今ではそこは"敵"が根付く要塞と化した何かだ。
規模こそ大したことはないが、なんと地下に戦前のシェルターがあるらしい。
更に言えばかつての自警団の拠点の一つだったわけで、その手の輩がしぶとく残る最後の砦となってるわけだ。
『魔法を使う人がいるっていうのは本当なのかな……?』
ミコの言う通り、そんな場所に魔法を使うやつがいたと情報もあった。
信者の生き残りが流れ込んでる可能性もある、そうなるとどんな手痛い反撃を受けるか分からない。
「そこで貴方の出番ってわけ。ほら、これ使って」
その厄介な魔法使いに対する銀の銃弾として選ばれたのが俺か。
ファイアスターターが散弾をいくつか手渡してきた、薬莢の色はオレンジだ。
「これは?」
「ヒドラショットよ。焼夷散弾って言ったら分かる?」
「良く分かった、こんな危ないもん使ってほしいんだな」
「へっへっへ、そいつはすげえぞ。敵が燃えて吹っ飛ぶんだ」
『室内でそんなの撃って大丈夫なのかな……』
あまりお供にしたくないブツをしまうと目的地が見えてくる。
あるのはさほど警察署というにはさほど広くもない平屋だ。
道路の途中にぽつんと立つそこは、もしかしたらレストランか何かと見間違うかもしれない。
ただし屋根には土嚢で組まれた銃座がこちらを睨んで、その道のりにバリケードが構築されていた。
「俺が心配なのはな、お前の愛犬と後ろのトリガーハッピーだぜ?」
コルダイトのおっさんはその言葉通りに振り向く。
見ればこんな暑苦しい連中に混じってちょこんと座る犬耳っ娘がいて。
「……大丈夫。火は怖くないから」
「だとさ。元々アタックドッグだけあって肝が据わってるじゃねえかニク」
「そういう問題じゃねえだろ。いいか、ストレンジャーが心配なのは分かるけどな、無理に射線に入るんじゃねえぞ」
「ほんとご主人さま思いね、あなたは私たちの邪魔を払ってくれればいいからね」
『……なんでニクちゃんもついてきてるんだろう』
「ご主人を守るのがぼくの仕事」
お行儀よく座りながら自信満々にしていた。殺る気もいっぱいだ。
あとはこの車が牽引するトレーラーだ。角ばった造形に幌が被せられている。
「皆さま、窮鼠猫を噛むという言葉をご存じですか?」
そこに運転手の機械的な声がすると始まった。どんどん、ぱらぱらと戦いの音が周りから響く。
『こちらホームガード隊、迂回して突撃を開始……少佐お待ちください!またあなたは――』
『あんたら聞こえるかい、狙撃チームは教会の屋上についたよ。見える限りで支援する、オーバー』
「イージー、そりゃ俺たちが猫、あいつらが鼠って仮定した上での質問か?」
コルダイトが頭上でがちゃりと40㎜弾を装填するのが聞こえる。
「その通り。ですので噛まれないように念入りに焼き払ってやりましょう」
「市街地で思う存分焼けるとか最高の仕事だな」
「ちょうど良かったわ。ここ最近デスクワーク続きで退屈だったから」
後ろの放火魔兄弟がそう言い終えたところで、ばちっと車体が音を奏でた。
攻撃だ。警察署の屋根の方から銃撃されている。
「さあて、俺たちは堂々と「お邪魔します!」だぁ! 思う存分やれ!」
『こちら一号車! こいつらはスルーして後ろを叩く、二号車の愉快な連中は警察署を頼むぜ!』
他の車が土嚢を構える道路を突き抜け、迂回して回り込み、西側へ散らばっていく。
そして残った俺たちに弾が絶え間なく飛んでくる。助手席なんて最悪だ、すぐ目の前に弾が落ちた。
「ハッハァァッ! どかないと死んじまうぞォ!」
どどどどどん、と頭上でグレネードランチャーが放たれる。
道路の向こうで構えていた陣地が次々弾け飛ぶが、警察署から相応の反撃が来た。
手持ちの火器をありったけ詰め込んだような射撃がぶすっと頭上をよぎるぐらいには――あいつらは必死だ。
「イージー、警察署の前で止めろ!」
少しでも攻撃を抑えるために機銃を撃つ。屋根に積まれた土嚢にめがけて連射、銃撃が引っ込む。
そのそばで誰かがパイプ・ランチャーを構えだすが胸を弾けさせて死んだ。ボスの狙撃だった。
すると車が砲撃で崩された防御に突っ込み。
「それでは皆様、当車両は敵の立てこもる警察署へ突撃します。ご武運を」
グレネード弾の衝撃から立ち直れていないやつごと弾き飛ばした。
尻にごしゃっ、と重たい感触がした。人を潰した感触だ。
車はぐらっとカーブを始める。榴弾で薙ぎ払われた道をたどり、やがて警察署の前につくと。
「くそっ! 敵が来たぞ!」
「なんだこいつら!? 正面から来やがったぞ!?」
「敵だ敵だ敵だ! 早く応戦しろォ!」
横向きに停車。ちょうど敵の群れが玄関から、窓から、屋上から続々と現れてお出迎えしにきた。
射角のなくなった機銃をあきらめて散弾銃を抜くと。
「アーバクル! やっちまえ!」
ヒドラがトレーラーの幌を引っ張った。
そこにあるのは……いつぞやライヒランドの連中が宿の前に置いて行った、あの四連装の銃座だ。
50口径の銃身を四つも束ねたそこには、赤毛の男が最高の笑みで座っていて。
「……はっ、なにそれ?」
「……や、やべえ逃げないと」
「お、おいおいそんなの」
「人に向けちゃいけない」姿に黒と緑の連中が青ざめると同時に――
「よお皆さん、ラザニアの具にしてやるぜ」
アーバクルがトリガを動かした。
*dddDODODODODODODODODODODODODODODODODODODOMmmm!!!!*
重機関銃四つ分の銃声が響いた。
凄まじい火力の結果が遺憾なく警察署を穴だらけしていく。
逃げようとした者、立ち向かおうとした奴、隠れ続ける誰かを全て等しく引き裂いた。
目の前で人体が修繕不可能なほどに引きちぎられ、銃座は建物を隅から隅まで50口径の弾でなぞって。
「ヒャハハハハハハッ! 逃げろ逃げろォ! 逃げてもお前ら皆殺しだぜェ!」
それでも撃つ、撃ち続ける。
四連装が生み出すアホみたいな投射量はあっという間に屋根も壁も窓も破壊し、ついでに残弾も食いつくす。
そこでぴたっと射撃が止まった。もう弾切れか。
「よくやったアーバクル! 全員降車、突入!」
「もっと撃ちてえよ! 弾切れ早えんだよクソッ!」
「それでは皆様、我々は少し下がりますので気楽にやってきてください」
降車すると赤毛の機銃手を乗せたまま、イージーの車が下がっていく。
三連散弾銃を掴んで入り口に張り付く。さてお仕事開始だ。
「ご主人、中で敵が待ってる」
いざ顔を覗かせようとした瞬間、そばでニクがそういった。
突然の報告に思わず全員と顔を見合わせると。
「だったらよぉ、まずはご挨拶だ。マナーだぞ?」
戦闘服姿のコルダイトがニヤっとしながら近づく。
その手には手榴弾が二つ。そのうち一つはこっちに投げ渡してきて。
「それもそうだな、じゃあ」
「お邪魔します、ってなぁ!」
俺たちはピンを抜いて発火させてから中に放り込む、すると。
「――手榴弾だ! 伏せろ!」
「姿勢を低くしろ!」
「慌てるな伏せてりゃ大丈夫だ!」
そんな声の後、中で鋭い爆発が起きた。
普通ならそれで片付いてるだろうが、すかさず顔を覗かせると――
「来たぞッ! 玄関から敵だ!」
「撃ちまくれ! その隙に移動しろ!」
その先ではありあわせのバリケードが立ち、そこに銃を据えた連中がいて。
*Brtatatatatatatata!*
撃ってきた。引っ込んで身をかがめた。
手持ちのクナイでも使って突っ込もうかと思ったが、
「ご丁重に待ち構えてるぞ。窓から行くか?」
「いや、ここは鼠掃除といかないか?」
コルダイトがニヤつきながらヒドラたちを見た。
放火魔兄妹はその言葉をずっと待ってたかのような様子だ。
「いいぜおっさん、少し熱くなるが構わねえよな?」
「いいぜぇ、熱くなりにきたんだからなぁ」
「兄貴、WP使うわよ」
「オーケー、二人仲良くぶち込んでやろうぜ。援護してくれ」
二人は手榴弾を取り出した。円筒状で表面には手書きで「WP」とある。
援護しないと。散弾銃の銃口だけを覗かせて大雑把に発射、爆弾魔も突撃銃を同じように撃つ。
そうして向こうに弾丸を届けた後。
「やれ!」
俺たちは離れた。代わりにヒドラ兄妹が手榴弾を投げ込んだ。
奥の方からからっと音がした直後。
*bBAAAAAAAAAAAAMm!*
それは爆ぜた。熱々の白煙が中からこっちまで飛んでくる。
すぐに中に入ろうとしたが真っ白で何も見えない。ニクに至ってはけほけほむせこんでいて。
「あっ……あああああああああああああああああああっ!」
「痛い! 痛いィィィッ! あああああああああああああ!?」
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!」
*Zezizizizizizizizizizi!*
煙の中から人型の何かがふらふらと苦しむ姿が浮かぶ。
じりじりと何かが焼ける音も聞こえてる。おい、まさかこれ――
「うへえ、やっぱ白リン弾はエグいなぁ」
その正体についてはコルダイトの感想通りだ。白リン弾ぶち込みやがった。
しばらくして煙が晴れてくると、倒れたやつ、まだ歩く奴、そこに居るやつ全てが生きながら燃やされていた。
黒焦げピンクの人間が思い思いに苦しむ地獄絵図が広がってる。
「うわあ……何やってんだお前ら」
「白リン弾ってやつだ。前に戦車で撃っただろ? あれの手榴弾バージョンだ」
「そしてナパームより質が悪いわ」
「見りゃわかる。お前らマジでどうかしてるぞ」
『……う゛っ……!?』
「戦車に対戦車地雷投げ込む奴よりは健全だと思うぜ」
「大丈夫、苦しまないようとどめは刺すから。ミコさん隠しておきなさい」
まだもがく真っ黒な生ける屍に、ファイアスターターが散弾銃をぶち込む。
「こんなおっかない兄妹に任せるなんて、あのばあさんひでえなぁ」
コルダイトも一人一人選んで打ち込んでいく。焼ける廊下には十人ほどの焼死体が溢れてしまった。
『い、行けッ! お前らの出番だぞ!?』
『あ、悪魔がいるのですよ!? このままでは我々は殺されてしまいます!』
『どっちみち殺されるんだ! 頼む、早くやってくれ!』
煙が立ち込める廊下を進むと声がする。会議室に通じる両開きのドアからだ。
『マナディフェンドサークル!』
そして詠唱音、聞いたことのない単語だ。
『いちクン、今の……!』
「今のはなんだ!?」
『防御魔法の範囲版だよ! 一度にまとめてマナの防御を付与する魔法!』
「ってことは――」
この先にそれだけ人がいるってことか!
括り付けていた手榴弾に手をかけて、自動拳銃を抜きながらドアを蹴る。
そこには今まさに部屋から出ようとする集団がうじゃうじゃだ。
黒い傭兵、緑の兵士、それに守られるように押し込まれた白装束もいて。
「構うなお前ら! こっちはもう無敵だ!」
ミコの言うように全員が青い魔力の膜に覆われていた。防御魔法だ。
ライヒランド兵が突撃銃を持ち上げた。素早く銃口を向けてトリガを引く。
*babababam!*
やっぱりトリガの軽さが違う。スムーズに連射して魔力ごとぶち抜いた。
「……はっ!? おいどうなってんだ魔法の効果は」
唖然とした傭兵の腹にも二連射しながら後退、手榴弾を背に向けると誰かがピンを抜いてくれた。
友達失格になった爆発物を放り投げるとコルダイトがドアを閉じて。
*BAAAAAAAAAAAAAAAAM!*
爆発した。もう一度ドアを開くと魔力がはがれた連中が転がったままだ。
「ご主人、やったね。」
ニクが掌の安全ピンを見せてくれた。グッドボーイ。
「ストレンジャー、念入りにやっとけよ? こういう時はもう一発だ」
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「やられっぱなしだと思うなよクソがぁぁぁッ! てめえら皆殺しだァァ!」
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咄嗟に散弾銃に切り替えるが、コルダイトが近くの部屋に逃げ込むのを見て諦めた。
ニクを連れて同じく逃げ込むと、背後からぱぱぱぱぱぱっと小口径の連射が始まる。
「うおおおおおおおあっぶねっ!?」
「ストレンジャー! ヒドラショット装填して!」
ヒドラ兄妹は無事に反対側の部屋に逃げ込んだみたいだ。
俺は言われた通りに得物を折って再装填、さっきのオレンジ弾を込めて。
「うひゃははははははあ! どうせ死ぬんだ、お前も俺も死ぬんだよぉぉ!」
向かい側にいる放火魔の妹に装填完了を伝えると、掃射の合間を見計らい。
「今よ! 撃って!」
「了解!」
二人で同時に乗り出す。機関銃を友達に近づいてくる相手にあわせて撃つ。
*Baaaaaam!*
通路にオレンジ色の光粒が散った。
目に見えるそれがすさまじい勢いでそいつに当たると、スーツで水増しされた巨体がぐらっとよろめき。
「はぁッ!? 火、火ィ!? どうなってんだおいやめろ熱い熱い熱いィィ!?」
炎の散弾に煽られた身体が燃え始めた。全身可燃性素材だったみたいだ。
「……ファイアスタータ―、あいつすごい勢いで燃えてないか?」
「耐火素材じゃなかったみたいね。お気の毒」
「うわぁぁぁぁぁ誰かッ! 誰か火を消してくれあああああぁぁぁッ!?」
機関銃男は武器を捨てて外へのしのし歩いていった。
弾を込め直して再度移動、部屋の外へ出て敵の位置を探るが。
「しっ死んでたまるかクソがあアアアアアァァァッ!」
どんっ!とトイレの扉が開いて緑服が突っ込んできた、得物は手斧だ。
脳天を狙ってきたそれに銃床をねじり込む、グリップ部分を受け止めガード。
「ニク、やれ!」
「……ご主人!」
そいつが斧を手放そうとした寸前、間にニクが割り込んで槍で突く。
心臓を斜めに貫かれて動きが固まった、手放した斧をキャッチ。
「俺が時間を稼ぐ! お前たちは早く避難しろォ!」
そこに曲がり角から足音。傭兵が短機関銃を構えながら滑り込んできた。
ぱぱぱぱんっと遅い連射が周囲を掠るが――先読みして斧をぶん投げる。
顔面にざっくり刺さった、「ぐげぇ!?」と最後のセリフを残して絶命。
「この先にシェルターがあるらしいなぁ!」
「倉庫」と書かれた部屋から敵が乗り出してくるが、コルダイトが突撃銃を叩き込んだ。
仕留められなかったようだ。室内に逃げる相手に筒状の手榴弾のピンを抜いて。
「お前らちょっとやかましいぞ、少し耳塞いどけ」
「何投げるつもりだおっさん!?」
「衝撃手榴弾だ。破片の代わりに爆風が内臓に染み渡るぜぇ」
意地悪そうな笑みで扱うものじゃないと思うが、投げ込まれた。
*zBAAAAAAAaaaam!*
太くて低い爆発がこっちまで届いてきた。部屋を覗けば室内は滅茶苦茶だ。
「爆弾で遊んでんじゃないわよおっさん。ほら、さっさと制圧しながら前進」
「お前らだって火遊びしてるじゃねえか?」
ファイアスターターもドアを開けては火炎散弾をぶち込みまくりだ。そのたびに誰かの悲鳴が上がってる。
「あっ……ありゃ擲弾兵だぞ!?」
「やべえ下がれ! くそっついてねえ!」
全員で一つ一つ署内を潰しながら進むとその先は『武器庫』だそうだ。
誰かが待ち構えていたが目が合うなり引っ込んだ。厄介な場所に隠れやがって。
「おいどうする、武器庫に立てこもってるぞ」
「無視するわけにもいかねえからな、誰か行くか?」
ヒドラと火でも放ってやろうかというところまで思いが通じたところで、
「……ご主人、ぼくが行く。そこで待ってて」
槍を短く持ったニクが、するりと中に入り込んでいった。
『なんだこのガキ……!? おい、てめえはひゅぅっ……!?』
『はへっ……! あ、待っ……んげっ……』
かすかにざくっと肉を切るような音が聞こえたが、それで済んだらしい。
すぐに返り血まみれのダウナーな女の子が返ってきた。尻尾を振ったままで。
「……やっつけてきた」
「ぐ、グッドボーイ」
「なあ、お前の犬前よりおっかなくねえか?」
『……かわいいけど怖いよ、ニクちゃん』
コルダイトのコメント通りだと思う、可愛さと並行して怖さも増してる。
そうやって俺たちが死体の山を築きながら進むと、曲がった先に階段が続いていた。
今まさに誰かが背を向けて降りようとする場面だ、クナイを抜く。
「まっ、待ってくれ……閉めないで……」
背中に向けてぶん投げた。背骨沿いに刺さって転げ落ちる。
先には分厚い鋼鉄製の扉があって、内側から傭兵が慌てて閉じようとしてた。
「はっ、はっ……来るなぁぁぁぁッ……!」
重々しく閉まっていくわけだが慌てずHE・クナイを掴んでピンを抜く。
「よお、お届け物だ」
隙間に爆発するクナイをねじり込むと、相手はどっちを優先すべきか躊躇ったらしく。
「なぁぁぁッ!? おま、ふざけんなこんな――!」
締まり切っていない扉の向こうから爆発が響く。逃げ遅れたに違いない。
閉じられなくなったそれを蹴り開けた。
シェルターというには地上と遜色ない幅の通路が長く続いていて。
「……ヒャハァァァッ! やっと燃やせるぜぇぇぇッ!」
フルオープンになった地下にヒドラが突っ込んでいった。
その手に火炎放射器を握って。早速近くの部屋に炎をまき散らしている。
「兄貴、燃やしたらさっさと移動して。WP放り込むから」
「オーケーだ妹よ。十分焼いたら脱出するぞ」
更にファイアスターターも焼夷手榴弾を投げ込んで念入りに燃やしていく。
部屋から一気に火の手が上がって瞬く間に炎の恐怖が広まったようだ。
「敵だッ! 敵が侵入したぞォォォォッ!?」
「お邪魔してるぜヒャハハハハァ!」
横から誰かが飛び出てきたが燃やされた、火だるまになってこっちに走ってくる。
「あっあっゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「地下で火炎放射とか正気かよあいつ!?」
「ボスからご指名されてうれしいんだろうなあ、おっさん暑苦しくてもう帰りてえや」
『……残酷過ぎると思います』
買ったばかりの45口径でぶち抜くが、火の手から逃げようとするやつらが続々来る。
「そこどけ」「助けて」「ふざけんな」などという黒と緑の姿に銃を向けた、二人で撃ち殺す。
「おいお前ら、俺たちどうすればいい?」
「帰り道確保しといてくれ! すぐ終わっから!」
「WPおしまい。キッチンに誰か立てこもってるみたいよ」
「オラオラァ! ウェルダンにしちまうぞぉ!」
火炎放射と燃える散弾で地下が燃え広がっていく。
いきなりの放火魔の襲来に命からがら敵が逃げてきて、そこに後ろから炎が、前から俺たちの銃弾がお出迎えだ。
シェルターは一瞬にして火災現場に早変わりだ、熱くて息苦しくなってきた。
「よーしこんだけ燃やせばいいだろ、撤収!」
「居住区も焼いたから今頃蒸し焼きでしょうね」
熱がるおっさんとニクを後ろにその様子を見守ってると、二人が帰ってくる。
後ろにはおぞましい放火魔の殺害現場が続いている。今日は肉食えなさそうだ。
「見た兄貴? 立ったまま燃えてたわあいつ」
「見た見た、やっぱ白リンってエグいよなぁ」
「あー、お帰りお前ら。これでいいのか?」
「おう、後は扉閉めときゃ勝手に死ぬぞ」
「どの道酸欠で死ぬでしょうね、気の毒に」
この兄妹に目を付けられた奴らは本当に気の毒だと思う。
帰りに頑丈な扉をがっちりと閉めて、それでもなお暑苦しい警察署に戻ってきたが。
「どうせだしもうちょっと焼こうぜ、まだいるかもしれねえし」
「炎が足りないわね。ストレンジャー、あなたも手伝って」
二人は得物を手にまた動いた。しかもドラゴンショット弾を追加で渡された。
そしてヒドラがさっきの倉庫に火炎放射器をねじり込んで、まだ行ってない部屋にファイアスターターが散弾をぶちまけ……周囲の温度はどんどん上がる。
暑い。というかどんどん火の手が強まる。
「……ご主人、暑くて息苦しいよ」
「……おっさん歳だからなあ、熱さに弱いんだ。ということでお先に失礼」
「……うん、お前ら先にいっていいぞ」
もはや火災現場だ。俺はミコをニクに預けて先に帰らせた。
散弾を込めて道をたどった、道中チェックしてない部屋に打ち込んで燃やす。
女子トイレに白装束が隠れていたがとりあえず撃って閉める。誰もいないオフィスにもとりあえず撃つ。
『オーケーもう十分だよ、よく燃えてる。シェルターは潰したんだね?』
火の手を避けながら放火してると無線越しにボスの声がした。
もういいらしい。武器を下ろしてさっさと出ていくことにしよう。
「ヒドラ兄妹が楽しんでます」
『あの馬鹿どもは相変わらずだね。もう十分だ、たった今そこから生き残りが逃げてくのを確認した、さぞ怖い経験を共有してくれるだろうさ』
そんな声に窓を向くと、焼け焦げた男たちが熱がりながら逃げ出すのが目に映る。
あの生き残りが大惨事を語り継いでくれるそうだ、ひどい役目を押し付けられたな。
「ヒドラ、ファイアスターター! もういいぞ! ボス大満足!」
俺はそれだけ伝えて出ていくことにした。
白リンの名残がまだある玄関を抜けると、さほど冷えてもいないはずのウェイストランドの外気が嫌に涼しかった。
マスクを外すとなおさらだった。溜まっていた汗がべしゃっと落ちた。
『……すごい汗だよいちクン……』
「あっっっっつい……」
「おーお帰り、いやあ、心温まるお仕事だったなぁ」
もう警察署と呼べないほどに燃やされた場所を後にすると。
「どうだ、これが俺の芸術だ」
「これで埋葬の手間が省けるわね。ウェイストランドがまた綺麗になったわ」
心温まる二人も遅れて戻ってきた。
人を燃やしてそれはないんじゃないかと思う。
「……ご主人、汗だくだよ? 大丈夫?」
「干からびそう」
爽やかな兄妹と真逆に、愛犬と一緒に暑くてぐったりしてたところに。
「お疲れ様です皆さま、実にホットなお仕事でしたね。宿の方で冷たいお飲み物を用意しているそうですよ」
トレーラーを引っ張る装甲車が戻ってきた。機械の運転手は親指を立ててる。
任務完了みたいだ。こんなクソ暑い仕事二度とやらないぞ。
◇
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