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世紀末世界のストレンジャー
またまたカルトだ、ストレンジャー
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「――おかえりなさい、無事に帰ってきて何よりだよ」
「おかえり、おにいちゃん。顔、だいじょうぶ?」
ママとビーンに迎えられて、やっと気が休まった気がする。
ちょっとしたお祭りが繰り広げられてる外とは違って、いつもの宿はどれほど静かなんだろう。
我が家同然になってきた店内は何かが香ばしく焼ける匂いでいっぱいだ。
カウンター席で「マカロニアンドチーズ」と言いかけたものの。
「お腹がすいたでしょう? 皆さん頑張ってるみたいだからね、今日は特別なごちそうを用意したよ」
にっこりしたママが『ごちそう』を用意してくれたみたいだ。
「ごちそう?」『ごちそう……?』
「ママの"スペシャル"さ。お代はいらないよ。クラウディアがいっぱい食材を持ってきてくれたからね」
……今気づいた、隣の席にダークエルフがお行儀よく座ってる。
ナイフとフォークを友達に、『ごちそう』を待つクラウディアと目が合う。気が早すぎると思う。
「ごちそうと聞いてこうして待ってるぞ」
まるで「私のおかげだな」みたいな感じで誇らしげだ。
「この子ったらよっぽどお腹がすいたんだろうね、さっきからずっとそこで待ってるんだよ」
「ママの料理はうまいからな!」
「ほんとよく食うなお前」
「ああ、ダークエルフは良く動いて良く闘う種族だからな。いっぱい食べないと持たないんだ」
けっきょく大食いダークエルフと一緒に特別な料理とやらを待つことにした。
その間、宿にいろいろな顔ぶれも集まってくる。主にプレッパーズの連中やらだ。
「ママ、仕上がったぞ」
そこに、店の裏口からハーヴェスターがやって来る。
美味しそうな焦げ目のついた肉塊と一緒にだ。大皿からはみ出るそれは「ごちそう」の一部なんだろう。
「あら、ごめんなさいねハーヴェスターさん。手伝ってもらって……」
「いいんだ、職業柄タダ働きはできない性分でな」
『……クラウディアさん? よだれでてますよ……?』
早速切り分けられるそれに、隣のダークエルフが腹ペコの猛獣になるのが見えたが。
「ようやく人が集まって労働環境がまともになってきたな。それでイチ、その顔の傷はどうした」
そこにまた一仕事終えてお疲れな様子のクリューサが顔を覗いてくる。
かなり体力を使ったんだろう、少しふらつきながらクラウディアの隣に座った。
「戦車にやられた」
「そうか、なるほど、お前なら戦車に撃たれてもそれくらいで済むだろうな」
「俺のことちゃんと人間に見えてるよな?」
「今はな。色々と面白い話を聞いたぞ、戦車を生身で破壊したとかなんとか」
「今までやられた分仕返ししてきただけだ」
「そんな理由で無残に殺されるなんて気の毒な話だ。クラウディア、みっともないからよだれを拭け」
カウンターの向こう側で料理が出来上がる様子を見てると、不意に心に響くものが見えてしまった。
白く炊きあがった――米だ! 米が鍋で炊き上げられてる!
クラウディアほどじゃないがそんな様子に釘付けになってると。
『クリューサさん、かなり疲れてますけど……大丈夫ですか?』
俺が料理の心配をしてる一方で、肩の短剣はお医者様に向いていた。
確かに不健康そうな顔は疲れでいっぱいだが、この前よりはだいぶ余裕があるのが救いか。
「人手も物資も足りなくて限界だったんだがな、一体どうしてか急に事態が好転して峠を越えたところだ」
クリューサの言葉は宿の外に向けられてる。
俺たちが暴れ回った結果の一つとして、医療環境がこれからマシになるってことは確定したらしい。
まあ、これからもっと負傷者は増えるはずだ。今は良いところだけ見ておこう。
『あの、もしもわたしの力が必要になったら言ってください。回復魔法しかできませんけど……』
「それなら心配するな。その魔法とやらを使えるやつがあのモンスターたちの中に居てな、少しばかり手伝ってもらった」
「……そうか、あっちの世界の住人なら使えてもおかしくないよな」
『わたし以外にも使える人、いたんだ……!?』
「見返りにこっちの世界の医療を教えろだとか言われたがな。治療に携わってくれたのは確かだが」
考えてみれば剣と魔法の世界の住人だ、回復の魔法を使えるやつが混じっててもおかしくなかった。
それなら頼もしいな、確かにクリューサの気が楽になるのもうなずける。
「さあ召し上がれ、ママの"スペシャル"だよ!」
クリューサから現状を教えてもらってると、"スペシャル"が完成したらしい。
料理が乗った大きな皿をビーンや首ありメイドがこっちに持ってきた。
「ママさんのごちそうっすよ~、おいしそうっすねこれ」
「ロアベアさん、あなたの分もあるからね。いっぱい食べなさい」
「よっしゃ~」
特別な料理とやらがどんと目の前に置かれる。
それは――食事にそんなに興味なさそうなロアベアがそういうほどだ。
大皿にそれはもう豊かな食材の色が揃ってる。いんげんのサラダの緑色、マカロニアンドチーズの黄色、焼かれ解されてソースで和えられた肉の濃い茶色。
そして米だ。炊かれた米の白色が四分の一を占めている。
「米だ……」
『……ご飯だね。おいしそう……』
「うまそうだ……! なるほど、こっちの世界でも米は食べられてるんだな」
「150年前のお米だけどね。料理の付け合わせに良く合うのさ」
クラウディアとのやり取りも聞き逃さなかった、そうかこの世界にも米があるのか。
元の世界でよく食べたそれより少し大粒だけど、これは間違いなくご飯だ。
「いただきます!」
ダークエルフよりも早く最初の一口を食べた。
他に美味しそうな品々を無視して炊かれた米を食べるものの――なんか、違う。
あの時リム様が作ってくれたおにぎりとどうしても比べてしまうのは、あっちが致命的に美味しかったんだろうな。
甘さのある米の味は感じないし、食べ応えのある粘りもない、少し米臭くてさっくりしてる。
主食というよりこれじゃ付け合わせだ。そういうことなんだろう。
「む、うまい! うまいぞママ! 特に解した肉がソースと合う!」
刀身に触れたそれに『ごはん……?』と難しそうにするミコと一緒に、クラウディアが絶賛する肉を米と混ぜてみた。
で、食べた。複雑な濃い味が混ざったプルドポークとすごく合う。
炭の香りが混じった肉の脂とソースが混ざって強烈な味がする、ようやく米の存在理由が出てきたほどに。
「おお、何やらうまそうな匂いがするではないか」
「あら、ノルベルトさん。ごちそうを用意したよ、良かったらどう?」
「ごちそうか。良い響きだ、俺様もいただこうではないか」
匂いにつられてノルベルトもやってきたが、構ってられないほどうまい。
かなり濃いブラウン色をしたソースが刺激的だ、肉と米に飽きたらマカロニアンドチーズと焼いたインゲンのサラダもある。
無言で食らった。クリューサも閉口して食ってる。
「どう? ママの"スペシャル"は口に合うかい?」
「……もうこれだけ食って生きていたい」
『すごくおいしい……!』
「うむ……これは中々に美味ではないか。幾らでも食べられそうだ」
「うまいっすねこれー……」
「うまいぞ!!」
後ろでボスたちも黙々と食ってるんだから、相当なごちそうなんだろう。
毎日三食これでいいぐらいうまい。人生でようやく好きな食べ物ができてしまった気がする。
リム様に申し訳ないが、ウェイストランドに来て一番うまいと思った料理はこれだ。
『いちクン、食べるの早いよ……』
最後の一口のマカロニアンドチーズを口に運んだ、もう食いつくしてしまった。
クラウディアも少し遅れて完食したらしい。俺たちの共通点は「おかわり」だ。
「おい、おかわりはなしだぞ。他の連中の分もあるんだからな」
「ごめんなさいね二人とも。本当はもっと食べさせてあげたいんだけど……」
期待して見つめたハーヴェスターとママからの返答は「NO」だった。
「そんなー……」
「そんな……!」
『……二人とも、ロアベアさんの口調がうつってるよ……』
「そんな顔したって駄目なものは駄目だからな」
とても残念なことにおかわりはなかった。
◇
「……さて、うまい飯を食って満足したね? 食後のデザート感覚で耳に入れてほしいんだが」
食事が終わってちょうど全員の気が緩み切ってたところに、ボスが口を開く。
宿の顔ぶれは今日もいろいろだ。
プレッパーズの愉快な奴らに、自警団代表になったオレクス、ホームガードの軍曹、エンフォーサーの二人、ブラックガンズのリーダーたち。
少なくとも昨夜の物資強奪に参加した面々がここに揃っている。
「一日たたずに状況は大きく変わったわけだ。そこであんたらにはぜひとも知って欲しいことがあってね」
宿のど真ん中にあるテーブルには地図が広げられていた。
知ってもらいたいことは全てそこにある。全員がぞろぞろ向かっていき。
「さて皆さま、早速だがこの地図を見て思うことはないかい?」
みんなの視線がそこに集まると、ツーショットが地図を指でとんとん突く。
戦前の地図のコピーはスティングの変化を良く表してるようだ。
敵の巣窟であったはずの北部は解放され、チャールトン少佐たちが陽動していたはずの西側の一端も自由だ。
南部も着々と奪還されていて――そりゃ手が回らなくなるわけだ。
「我々が持て余すほど市内の奪還が進んでしまってることが良く分かるな」
最初にそんなうんざりした声を出したのはオチキスだった。
その通りだ。モンスターどもの猛攻のせいであんまりにも取り返し過ぎてる。
「しかも西の一部も取り返しちゃってるよね。陽動じゃなかったの?」
「すまない、少佐にはあれほど度を過ぎた行動はするなと釘は刺したつもりだがこのざまだ」
勢い余って敵が掃討されてしまった部分を見てハヴォックは好ましくなさそうだった、軍曹は返す言葉なしだ。
「そのままだったら悪いニュースだが、幸いにも今俺たちは義勇兵を山ほど抱えてる。良いニュースに変えられると思わないか?」
まだ好ましくない地図上に状況に、自警団代表は外に顔を向けた。
近くには戦いに加わってくれるスティングの市民がいっぱいいるだろう。
果たしてその何割が役に立つか――まあ手の空いた人間やモンスターたちがご指導してくれてる最中だ。
「この際、あいつらに果敢に戦い英雄になれとは言わないけどな? 奪還した地域の保持から後方業務までこき使うつもりだ。これでようやくまともになったってレベルだからな」
「いっそのこと市民一人一人が手榴弾で戦車破壊してくれるような奴だったら助かるんだがね」
「俺に戦い方を教えてこいとか言いませんよね」
「誰が頼むかそんなこと、あんたにやらせたらこれから戦死者が一体何倍まで増えるだろうね。で、このご立派な義勇軍の扱いに関して誰も文句はないね?」
ツーショットとボスは――そんな義勇兵を戦いに投入して、これから先うまくやってもらうつもりだ。
誰一人難色は示さないし、むしろ「早く組み込め」か。
ちなみにストレンジャーに「そいつらの指導に当たれ」みたいな仕事は与えられないらしい。
「なるほどな。数も揃った、物資も手に入れ統制を取り戻しつつある、そして今我々は戦に向けて急激に立て直しているというわけか」
そこで地図をじっと眺めていたノルベルトが頷く。
ボスはそんなオーガの様子を見て、
「その通りさでっかいの。あんたに戦のなんたるかが分かるようには見えないがね」
意味に「知ったふうな口を利くな」と込めた言葉を向けたものの。
「なに単純な話だ。敵より良い物を食べ、敵より体力を保ち、敵より良き姿で迎え撃つ。兵の環境を良くするということは、前線で殴り合うよりもよほど大切なことだろう?」
自信のこもった一言が帰ってきて、すぐ認識を改めたみたいだ。
「ちゃんと分かってるじゃないか、さっきの言葉は取り消すよミューティ」
「俺様はノルベルトだ。気にするなご老人よ、兵站の大切さは古今理解されがたいものだ」
「だがご老人という言葉は気に食わないね。まあ好きに呼びな」
「むーん、それは失礼した。ではボスと呼ぼうか」
「いきなり私のことをボスと呼ぶなんてたいしたもんだね」
「イチがそう呼んでいるからな。ならば俺様もそうしようと思うのだが」
「それだけでボス呼ばわりかい。もうちょっと考えな、ガキじゃあるまいし」
「ボス、ノルベルトは十七歳ですよ」
『……そういえばそうだったよね、ノルベルト君』
「……どうして私の周りには屈強なガキがいるもんかね」
ボスはアレクにつぐ屈強なガキに頭を悩ませてる。
でも二人の言う通りなんだろうな、これからは派手にぶっ殺すことよりも、俺たちが飢え死にも過労死もしない環境が必要なのかもしれない。
今の俺なら「戦車潰してこい」といわれたら時限信管つきの対戦車地雷抱えて喜んで行くと思う。
でも、これだけ膨れ上がった戦力を「万全の状態に養え」と命令されたら絶対無理だ、まず何から始めればいいのかつまづくレベルだ。
「こいつの言う通りさ。私らがすることは何時来るか分からない敵の大群に備えることだ。あいつらよりも質のいい食事と休息で体力を保ち、あいつらの質量に勝るほどの条件を積み上げて対応する」
「幸いにも裏方仕事ができそうなやつはけっこういるからな。俺たちがするべきことはこうだ。兵站に関する精神的負担はそいつらに任せる、その代わりそいつらの悩みの種になりうるものは物理的な手段をもって全部排除するってわけさ」
ツーショットも加わった、地図にまだわずかに残る敵の支配地域を示しながら。
「残る敵はスティング西部と最南端だ。ここさえ押さえれば、素人同然の義勇兵だろうが数を流し込んでひとまずは抑え込めるんだが……」
三分の二が敵に塗りつぶされた西の住宅街、ひらけた土地に建物が点在する程度の南部、そして。
「今一番の問題になりそうなのがこいつらなんだよなぁ……」
ある場所に指が停まって、調子の良い声は本気で悩ましくなった。
街の南東。橋まで続くハイウェイを下りて、バケモンたちがノリと勢いで半ば奪還した南部分に差し掛かるところだ。
荒野のど真ん中で巨大に身構える『フリー・クレイン食品工場』という場所で。
「この戦前の食品工場にあろうことか変なカルト集団が居座ってんだよ。しかもそいつら街のいたる場所で布教活動だの勧誘だのしてるんだ」
「またか。で、話題に上げるってことは当然物理的な手段が必要なんだよな?」
俺にとってとても嬉しくない話題がそこにあるみたいだ。
ツーショットは俺を見てちょうど「お前もついてないな」と笑った。
「ご名答、お前が嫌いなカルトだぜ。ライヒランドにびびった街の人間に付け込んで好き放題やってらっしゃるぞ」
「先日から俺たちも調べてたが、けっこうな数の住民が勧誘されてここに連れ込まれてるそうだ。それで帰ってくれば問題はなかったんだがな」
オレクスの言いようが付け足されたところからろくでもない連中なのは確かだ。
くそ、せっかくアルテリーとの繋がりを断ったと思ったらこれか。
「あんたはこういう手合いを引き寄せる力でも持ってんのかい?」
「ここを中に居るやつ全員が使えるデカい棺桶に変えて来いっていうなら、喜んで行きますけど」
「その意気込みを生かしてもらいたいんだがね、サンディからよろしくない報告があったんだ」
行けっていうなら何が何でも殺戮してやりたいが、ボスは「行くな」だ。
そのどうしてを尋ねる前に、ハヴォックが覚えのある機械をテーブルに置いた。
「はーいみんな注目。その件だけど二人で仲良く偵察してきたよ」
P-DIY1500だ。あの時渡したPDAとまたこうして会えるなんて。
その画面には話題に上がったであろう食品工場の様子が映ってるが。
「PDAに対応した望遠鏡でさくっと撮影してきたんだけどさ、見てよこれ。もう完全に真っ黒だよ」
撮影された情景の中には俺たちが敵視するべき理由がたっぷりあった。
大体なんだこの、工場の周りにある兵器は。
どこから持ってきたか分からない立派な面構えの大砲が、建物の周りを取り囲んでいる。
残念だが、大きな2つのタイヤに支えられた砲口が向かう先はスティングだ。
「おいおい……連中馬鹿だろ、榴弾砲ってこんなクリスマスの飾りみたいに配置するもんじゃねえんだぞ」
ヒドラが呆れるに足る有様らしい。正しい使い方を知らないのか?
「戦前の組み立て式の奴だな……105㎜か。それにしたって多すぎだろ、どっから持ってきた?」
「多分だけど持ち込まれたやつじゃねーの。いやだからってよ、こんなんでどこ砲撃するつもりだよ」
「もしかしたら最南部に配置して街を砲撃するつもりだったか――いやそれはいいんだよ、そうだとしてもなんでカルトが持ってんだって話だが」
ツーショットもヒドラもこんな飾りつけをしたやつの正気を疑ってるが、自分に向けられたくないのは間違いない。
「防御も完璧だね、検問があって重機関銃、グレネードランチャー、機関砲を積んだ車両もあって……」
次々と嫌な情報が映し出される。
土嚢と固定兵器の仲良しセット、工場の屋外にかすかに見える迫撃砲、穴に身を隠すように二連装機関砲を構える魔改造車両。
一体どんな神を崇めればこんな馬鹿なリフォームができるんだろう。
「いっそのこと何かしらの手段で派手に爆破しようと提案するつもりだったんだがな、地元の人間がここにまだ残ってるとなると……」
「今そんなことをするのは好ましくないな。どの道どんなものなのか情報を集める必要がある」
オレクスの言う通り爆破してやればさぞ気持ちいいだろうが、連れてかれた人たちごと吹き飛ばすわけにもいかないか。
けっきょくエンフォーサーの隊長の言う通りもっと情報が必要だ。
考え始めたところでふと思った、あの白い格好の奴だ。手を上げて尋ねる。
「ここの信者はどんな格好だ?」
「白いレインコートみたいなのを着た連中だ。犬がどうこういってる」
『……白い服の人って、二回ぐらい見たよね? 物資を取りに行ったときと、さっき捕虜の人たちが歩いてた時なんだけど』
白い姿――やっぱりか。あの時刑務所の中で何か取引してたやつだ。
俺もミコも嫌というほど覚えてる。なんせ目の前で真っ二つになったんだからな。
「ああ。そういえばダイナミックに拝借しに行ったときにもいたよな、白いの」
「侵略者と仲良しとか最悪だな。なんだったら今もいるみたいだが」
けっきょくあれは何だったんだ、と思ってるとツーショットが気味の悪いことを言い出す。
冗談はやめろと思ったが、その指先は宿の窓に向けられていた。
というか本当にいた。外の風景に混じって、白い姿の人間が道路脇の方からずっとこっちを見てる。
向こうも気づいたんだろう、何事もなかったようにその場を去っていったが。
「……目付けられてるな」
なんとなくわかる、俺たちは監視されてる。
あんなにクソ正直に見つかりやすい場所で見てたのも、ちゃんと理由があるんだろう。
お前たちは監視してるし、バレても問題ないほどの何かが背後にある、ってか。
「捕虜のデスマーチにもいたよな。ってことは俺たちは目の敵にされてるわけだ」
「俺からアドバイスしとくぞ、みんな。ああいうのは下手に勧誘広める前にさっさと潰しとけ。さもないとどんどん力つけるぞ」
俺は「ちゃんと潰すべきだ」と言葉を足しておいた。
あっさりと連れ込まれてる人間は、まあ、なんとなく分かるものがあるからだ。
「ほっとくと住民に被害が及ぶからな、そりゃ対処はするつもりだぜ?」
「勧誘ってのは引き込むのに失敗しても問題ないんだよ。むしろ信者の結束を高める儀式みたいなもんだ」
「どういうことだよストレンジャー?」
「失敗しても、そばに褒めて慰めてくれる奴がいてくれたら嬉しいだろ? そうやって忠実に動いてくれる奴が増えるのさ」
細かいことは省くが、ほっといたらほっといたで忠誠心の強い馬鹿が生まれる。
そいつだったら「爆弾抱えて殉死してきます」だってやりかねないだろう、ましてこんな世界じゃな。
「ずいぶん詳しいな」
「どうもそういうのに縁があるみたいだからな。自爆特攻する熱心な奴とか出る前に早く対処したほうがいいぞ」
言い終えるとオレクスが気にかけてきた、鼻で笑って返したが。
「さて、やるべきことは定まったね。残った部分の奪還、街の警備、カルトの調査、余裕があるなら住民と交流もしておくべきさね。情報がまとまったら逐次伝える、捕虜への尋問は親切なバケモンたちがやってくれるから結果は楽しみにしてな」
「ところでボス、その捕虜はこれからどうなるんだ?」
「バケモンたちが譲ってくれないんだ、もうどうしようもできないさ。まあ結構死んでるがね」
「コルダイトのやつが爆弾付けて送り返そうとかいってたぜ」
「本当にやらせたら……いやあいつならマジでやるね、とりあえず今は忘れな」
最後に、あの捕虜たちの扱いは随分と可哀そうなものらしい。
『所有権』か。そりゃどっちがいっぱい捕虜とったか競い合ってたぐらいだ、どんな扱いか想像はつく。
――そんな感じで集会は終わった。
「ひとまず作戦に参加したやつらは休め、強い精神的負荷のかかるこの状況下で良くやり遂げた。あんたらは次に備えて体力をつけろ、以上」
解散、だそうだ。
ひとまずこの場に居るやつが思い思いに行動し始めると。
「待ちなストレンジャー。ヒドラ、アレを渡してやりな」
ボスが俺を呼び留めた。
その言葉通りにヒドラがやって来た。手にじゃらっと何かをつまみながら。
「ほら、新しいタグだぜ」
手渡された。タグだ、『ストレンジャー』とある。
そういえばずっと奪われたままだったな。忘れるところだった。
「悪いな、作ってくれたのか?」
「おう、材料は金属と俺の腕前、そしてボスの哀れみだ」
「一人だけタグがないなんて気が引き締まらないだろ? 次はなくすんじゃないよ」
二人に感謝しながら首にかけた。やっとストレンジャーに戻れた気がする。
最初はそんな名前カッコ悪いとか思ってたが、今じゃ立派な自分の名だ。
「……その首飾りはタグというのか?」
首にぶら下げたそれをじゃらじゃらしてると、急にノルベルトが入ってきた。
物珍しそうというか、物欲しそうというか、そんな顔だ。
「そうさ、うちらプレッパーズの一員としての名をそこで語ってるんだ。例えばそこのお熱い奴は『ヒドラショック』みたいにね」
ヒドラが「ヒドラショックっていうんだ」とタグを見せびらかすと、どうしたんだろう、オーガは更に様子を変えた。
「むーん……。そのタグとやらは、俺様も貰えないだろうか?」
そこから放たれた一言はあまりにも予想外だ。
ミコが『えっ』と戸惑うほどには。タグが欲しいだって?
「……はぁ?」
ボスも流石に予想外だったに違いない、お前何言ってんだって顔だ。
「ははは、タグが欲しい、だなんていわれるのは初めてだったなボス」
「おいおいデカブツ、タグってのはうちらで活躍したやつだけがもらえるんだぜ? お前プレッパーズじゃねえだろ?」
「長いことやってるけど「タグが欲しい」なんて初めてだよ。正気かいあんた? いや正気じゃなさそうだね」
ヒドラもボスも一体どうしてオーガに作ってやらないといけないのか困ってる。
ツーショットは「いいんじゃないか」ぐらいだが。
「プレッパータウンとやらは強者の集う場所なのだろう? で、あれば俺様も強き者の一人として認めてもらいたいだけだ」
そこから返ってきた一言は、うん、あいつらしかった。
まさか「お前ら強いから俺もカウントしてくれ」なんて誰が言うもんか。
「そりゃ嬉しい評価だね。じゃあ認めてやったらどうするんだい?」
「むーん……そうだな、勇敢に戦った証拠として故郷で自慢しようか。さぞ羨むに違いあるまい」
「……おいデカブツ、改めて聞くがあんたそんなにタグが欲しいのかい?」
「うむ、あちらに帰るときの土産にしたいのだ!」
しかもそれが記念としてほしいだなんて、きっとボスの人生でそこまで言うやつはいなかったはずだ。
だけどノルベルトは本気だ。それでいて純粋。ボスは「はっ」と笑い。
「……そういえばあんた、ストレンジャーの力になってくれたようだね」
オーガの屈強な胸板をこつっと叩いた。
ボスは認めざるを得ない、といった顔だった。
「ヒドラ、作ってやりな。こうまでされてここまで言われちまったら断れんさ」
「了解、ボス。XLサイズでいいっすか?」
「作ってくれるってさ。良かったなノルベルト」
『ふふっ、これでノルベルト君も一緒だね』
「おお……ありがとう、ボス。俺様のわがままを聞き入れてくれたこの御恩、忘れんぞ」
「そういうのは受け付けてないよ、恩ならそいつにでも返してやりな。その代わりあんたの名前は私が勝手に決めさせてもらうからね」
一応、俺たちと同じプレッパーズの一員になったってことか。
ノルベルトはすごく喜んでる。どんな名前になるのか俺も楽しみだ。
「おばあちゃん、うちもほしいっす~」
「あんたは首とれるから作っても意味ないだろ馬鹿もんが!」
「そんな~」
……ちゃっかり便乗したロアベアは一生作ってくれなさそうだったが。
◇
「おかえり、おにいちゃん。顔、だいじょうぶ?」
ママとビーンに迎えられて、やっと気が休まった気がする。
ちょっとしたお祭りが繰り広げられてる外とは違って、いつもの宿はどれほど静かなんだろう。
我が家同然になってきた店内は何かが香ばしく焼ける匂いでいっぱいだ。
カウンター席で「マカロニアンドチーズ」と言いかけたものの。
「お腹がすいたでしょう? 皆さん頑張ってるみたいだからね、今日は特別なごちそうを用意したよ」
にっこりしたママが『ごちそう』を用意してくれたみたいだ。
「ごちそう?」『ごちそう……?』
「ママの"スペシャル"さ。お代はいらないよ。クラウディアがいっぱい食材を持ってきてくれたからね」
……今気づいた、隣の席にダークエルフがお行儀よく座ってる。
ナイフとフォークを友達に、『ごちそう』を待つクラウディアと目が合う。気が早すぎると思う。
「ごちそうと聞いてこうして待ってるぞ」
まるで「私のおかげだな」みたいな感じで誇らしげだ。
「この子ったらよっぽどお腹がすいたんだろうね、さっきからずっとそこで待ってるんだよ」
「ママの料理はうまいからな!」
「ほんとよく食うなお前」
「ああ、ダークエルフは良く動いて良く闘う種族だからな。いっぱい食べないと持たないんだ」
けっきょく大食いダークエルフと一緒に特別な料理とやらを待つことにした。
その間、宿にいろいろな顔ぶれも集まってくる。主にプレッパーズの連中やらだ。
「ママ、仕上がったぞ」
そこに、店の裏口からハーヴェスターがやって来る。
美味しそうな焦げ目のついた肉塊と一緒にだ。大皿からはみ出るそれは「ごちそう」の一部なんだろう。
「あら、ごめんなさいねハーヴェスターさん。手伝ってもらって……」
「いいんだ、職業柄タダ働きはできない性分でな」
『……クラウディアさん? よだれでてますよ……?』
早速切り分けられるそれに、隣のダークエルフが腹ペコの猛獣になるのが見えたが。
「ようやく人が集まって労働環境がまともになってきたな。それでイチ、その顔の傷はどうした」
そこにまた一仕事終えてお疲れな様子のクリューサが顔を覗いてくる。
かなり体力を使ったんだろう、少しふらつきながらクラウディアの隣に座った。
「戦車にやられた」
「そうか、なるほど、お前なら戦車に撃たれてもそれくらいで済むだろうな」
「俺のことちゃんと人間に見えてるよな?」
「今はな。色々と面白い話を聞いたぞ、戦車を生身で破壊したとかなんとか」
「今までやられた分仕返ししてきただけだ」
「そんな理由で無残に殺されるなんて気の毒な話だ。クラウディア、みっともないからよだれを拭け」
カウンターの向こう側で料理が出来上がる様子を見てると、不意に心に響くものが見えてしまった。
白く炊きあがった――米だ! 米が鍋で炊き上げられてる!
クラウディアほどじゃないがそんな様子に釘付けになってると。
『クリューサさん、かなり疲れてますけど……大丈夫ですか?』
俺が料理の心配をしてる一方で、肩の短剣はお医者様に向いていた。
確かに不健康そうな顔は疲れでいっぱいだが、この前よりはだいぶ余裕があるのが救いか。
「人手も物資も足りなくて限界だったんだがな、一体どうしてか急に事態が好転して峠を越えたところだ」
クリューサの言葉は宿の外に向けられてる。
俺たちが暴れ回った結果の一つとして、医療環境がこれからマシになるってことは確定したらしい。
まあ、これからもっと負傷者は増えるはずだ。今は良いところだけ見ておこう。
『あの、もしもわたしの力が必要になったら言ってください。回復魔法しかできませんけど……』
「それなら心配するな。その魔法とやらを使えるやつがあのモンスターたちの中に居てな、少しばかり手伝ってもらった」
「……そうか、あっちの世界の住人なら使えてもおかしくないよな」
『わたし以外にも使える人、いたんだ……!?』
「見返りにこっちの世界の医療を教えろだとか言われたがな。治療に携わってくれたのは確かだが」
考えてみれば剣と魔法の世界の住人だ、回復の魔法を使えるやつが混じっててもおかしくなかった。
それなら頼もしいな、確かにクリューサの気が楽になるのもうなずける。
「さあ召し上がれ、ママの"スペシャル"だよ!」
クリューサから現状を教えてもらってると、"スペシャル"が完成したらしい。
料理が乗った大きな皿をビーンや首ありメイドがこっちに持ってきた。
「ママさんのごちそうっすよ~、おいしそうっすねこれ」
「ロアベアさん、あなたの分もあるからね。いっぱい食べなさい」
「よっしゃ~」
特別な料理とやらがどんと目の前に置かれる。
それは――食事にそんなに興味なさそうなロアベアがそういうほどだ。
大皿にそれはもう豊かな食材の色が揃ってる。いんげんのサラダの緑色、マカロニアンドチーズの黄色、焼かれ解されてソースで和えられた肉の濃い茶色。
そして米だ。炊かれた米の白色が四分の一を占めている。
「米だ……」
『……ご飯だね。おいしそう……』
「うまそうだ……! なるほど、こっちの世界でも米は食べられてるんだな」
「150年前のお米だけどね。料理の付け合わせに良く合うのさ」
クラウディアとのやり取りも聞き逃さなかった、そうかこの世界にも米があるのか。
元の世界でよく食べたそれより少し大粒だけど、これは間違いなくご飯だ。
「いただきます!」
ダークエルフよりも早く最初の一口を食べた。
他に美味しそうな品々を無視して炊かれた米を食べるものの――なんか、違う。
あの時リム様が作ってくれたおにぎりとどうしても比べてしまうのは、あっちが致命的に美味しかったんだろうな。
甘さのある米の味は感じないし、食べ応えのある粘りもない、少し米臭くてさっくりしてる。
主食というよりこれじゃ付け合わせだ。そういうことなんだろう。
「む、うまい! うまいぞママ! 特に解した肉がソースと合う!」
刀身に触れたそれに『ごはん……?』と難しそうにするミコと一緒に、クラウディアが絶賛する肉を米と混ぜてみた。
で、食べた。複雑な濃い味が混ざったプルドポークとすごく合う。
炭の香りが混じった肉の脂とソースが混ざって強烈な味がする、ようやく米の存在理由が出てきたほどに。
「おお、何やらうまそうな匂いがするではないか」
「あら、ノルベルトさん。ごちそうを用意したよ、良かったらどう?」
「ごちそうか。良い響きだ、俺様もいただこうではないか」
匂いにつられてノルベルトもやってきたが、構ってられないほどうまい。
かなり濃いブラウン色をしたソースが刺激的だ、肉と米に飽きたらマカロニアンドチーズと焼いたインゲンのサラダもある。
無言で食らった。クリューサも閉口して食ってる。
「どう? ママの"スペシャル"は口に合うかい?」
「……もうこれだけ食って生きていたい」
『すごくおいしい……!』
「うむ……これは中々に美味ではないか。幾らでも食べられそうだ」
「うまいっすねこれー……」
「うまいぞ!!」
後ろでボスたちも黙々と食ってるんだから、相当なごちそうなんだろう。
毎日三食これでいいぐらいうまい。人生でようやく好きな食べ物ができてしまった気がする。
リム様に申し訳ないが、ウェイストランドに来て一番うまいと思った料理はこれだ。
『いちクン、食べるの早いよ……』
最後の一口のマカロニアンドチーズを口に運んだ、もう食いつくしてしまった。
クラウディアも少し遅れて完食したらしい。俺たちの共通点は「おかわり」だ。
「おい、おかわりはなしだぞ。他の連中の分もあるんだからな」
「ごめんなさいね二人とも。本当はもっと食べさせてあげたいんだけど……」
期待して見つめたハーヴェスターとママからの返答は「NO」だった。
「そんなー……」
「そんな……!」
『……二人とも、ロアベアさんの口調がうつってるよ……』
「そんな顔したって駄目なものは駄目だからな」
とても残念なことにおかわりはなかった。
◇
「……さて、うまい飯を食って満足したね? 食後のデザート感覚で耳に入れてほしいんだが」
食事が終わってちょうど全員の気が緩み切ってたところに、ボスが口を開く。
宿の顔ぶれは今日もいろいろだ。
プレッパーズの愉快な奴らに、自警団代表になったオレクス、ホームガードの軍曹、エンフォーサーの二人、ブラックガンズのリーダーたち。
少なくとも昨夜の物資強奪に参加した面々がここに揃っている。
「一日たたずに状況は大きく変わったわけだ。そこであんたらにはぜひとも知って欲しいことがあってね」
宿のど真ん中にあるテーブルには地図が広げられていた。
知ってもらいたいことは全てそこにある。全員がぞろぞろ向かっていき。
「さて皆さま、早速だがこの地図を見て思うことはないかい?」
みんなの視線がそこに集まると、ツーショットが地図を指でとんとん突く。
戦前の地図のコピーはスティングの変化を良く表してるようだ。
敵の巣窟であったはずの北部は解放され、チャールトン少佐たちが陽動していたはずの西側の一端も自由だ。
南部も着々と奪還されていて――そりゃ手が回らなくなるわけだ。
「我々が持て余すほど市内の奪還が進んでしまってることが良く分かるな」
最初にそんなうんざりした声を出したのはオチキスだった。
その通りだ。モンスターどもの猛攻のせいであんまりにも取り返し過ぎてる。
「しかも西の一部も取り返しちゃってるよね。陽動じゃなかったの?」
「すまない、少佐にはあれほど度を過ぎた行動はするなと釘は刺したつもりだがこのざまだ」
勢い余って敵が掃討されてしまった部分を見てハヴォックは好ましくなさそうだった、軍曹は返す言葉なしだ。
「そのままだったら悪いニュースだが、幸いにも今俺たちは義勇兵を山ほど抱えてる。良いニュースに変えられると思わないか?」
まだ好ましくない地図上に状況に、自警団代表は外に顔を向けた。
近くには戦いに加わってくれるスティングの市民がいっぱいいるだろう。
果たしてその何割が役に立つか――まあ手の空いた人間やモンスターたちがご指導してくれてる最中だ。
「この際、あいつらに果敢に戦い英雄になれとは言わないけどな? 奪還した地域の保持から後方業務までこき使うつもりだ。これでようやくまともになったってレベルだからな」
「いっそのこと市民一人一人が手榴弾で戦車破壊してくれるような奴だったら助かるんだがね」
「俺に戦い方を教えてこいとか言いませんよね」
「誰が頼むかそんなこと、あんたにやらせたらこれから戦死者が一体何倍まで増えるだろうね。で、このご立派な義勇軍の扱いに関して誰も文句はないね?」
ツーショットとボスは――そんな義勇兵を戦いに投入して、これから先うまくやってもらうつもりだ。
誰一人難色は示さないし、むしろ「早く組み込め」か。
ちなみにストレンジャーに「そいつらの指導に当たれ」みたいな仕事は与えられないらしい。
「なるほどな。数も揃った、物資も手に入れ統制を取り戻しつつある、そして今我々は戦に向けて急激に立て直しているというわけか」
そこで地図をじっと眺めていたノルベルトが頷く。
ボスはそんなオーガの様子を見て、
「その通りさでっかいの。あんたに戦のなんたるかが分かるようには見えないがね」
意味に「知ったふうな口を利くな」と込めた言葉を向けたものの。
「なに単純な話だ。敵より良い物を食べ、敵より体力を保ち、敵より良き姿で迎え撃つ。兵の環境を良くするということは、前線で殴り合うよりもよほど大切なことだろう?」
自信のこもった一言が帰ってきて、すぐ認識を改めたみたいだ。
「ちゃんと分かってるじゃないか、さっきの言葉は取り消すよミューティ」
「俺様はノルベルトだ。気にするなご老人よ、兵站の大切さは古今理解されがたいものだ」
「だがご老人という言葉は気に食わないね。まあ好きに呼びな」
「むーん、それは失礼した。ではボスと呼ぼうか」
「いきなり私のことをボスと呼ぶなんてたいしたもんだね」
「イチがそう呼んでいるからな。ならば俺様もそうしようと思うのだが」
「それだけでボス呼ばわりかい。もうちょっと考えな、ガキじゃあるまいし」
「ボス、ノルベルトは十七歳ですよ」
『……そういえばそうだったよね、ノルベルト君』
「……どうして私の周りには屈強なガキがいるもんかね」
ボスはアレクにつぐ屈強なガキに頭を悩ませてる。
でも二人の言う通りなんだろうな、これからは派手にぶっ殺すことよりも、俺たちが飢え死にも過労死もしない環境が必要なのかもしれない。
今の俺なら「戦車潰してこい」といわれたら時限信管つきの対戦車地雷抱えて喜んで行くと思う。
でも、これだけ膨れ上がった戦力を「万全の状態に養え」と命令されたら絶対無理だ、まず何から始めればいいのかつまづくレベルだ。
「こいつの言う通りさ。私らがすることは何時来るか分からない敵の大群に備えることだ。あいつらよりも質のいい食事と休息で体力を保ち、あいつらの質量に勝るほどの条件を積み上げて対応する」
「幸いにも裏方仕事ができそうなやつはけっこういるからな。俺たちがするべきことはこうだ。兵站に関する精神的負担はそいつらに任せる、その代わりそいつらの悩みの種になりうるものは物理的な手段をもって全部排除するってわけさ」
ツーショットも加わった、地図にまだわずかに残る敵の支配地域を示しながら。
「残る敵はスティング西部と最南端だ。ここさえ押さえれば、素人同然の義勇兵だろうが数を流し込んでひとまずは抑え込めるんだが……」
三分の二が敵に塗りつぶされた西の住宅街、ひらけた土地に建物が点在する程度の南部、そして。
「今一番の問題になりそうなのがこいつらなんだよなぁ……」
ある場所に指が停まって、調子の良い声は本気で悩ましくなった。
街の南東。橋まで続くハイウェイを下りて、バケモンたちがノリと勢いで半ば奪還した南部分に差し掛かるところだ。
荒野のど真ん中で巨大に身構える『フリー・クレイン食品工場』という場所で。
「この戦前の食品工場にあろうことか変なカルト集団が居座ってんだよ。しかもそいつら街のいたる場所で布教活動だの勧誘だのしてるんだ」
「またか。で、話題に上げるってことは当然物理的な手段が必要なんだよな?」
俺にとってとても嬉しくない話題がそこにあるみたいだ。
ツーショットは俺を見てちょうど「お前もついてないな」と笑った。
「ご名答、お前が嫌いなカルトだぜ。ライヒランドにびびった街の人間に付け込んで好き放題やってらっしゃるぞ」
「先日から俺たちも調べてたが、けっこうな数の住民が勧誘されてここに連れ込まれてるそうだ。それで帰ってくれば問題はなかったんだがな」
オレクスの言いようが付け足されたところからろくでもない連中なのは確かだ。
くそ、せっかくアルテリーとの繋がりを断ったと思ったらこれか。
「あんたはこういう手合いを引き寄せる力でも持ってんのかい?」
「ここを中に居るやつ全員が使えるデカい棺桶に変えて来いっていうなら、喜んで行きますけど」
「その意気込みを生かしてもらいたいんだがね、サンディからよろしくない報告があったんだ」
行けっていうなら何が何でも殺戮してやりたいが、ボスは「行くな」だ。
そのどうしてを尋ねる前に、ハヴォックが覚えのある機械をテーブルに置いた。
「はーいみんな注目。その件だけど二人で仲良く偵察してきたよ」
P-DIY1500だ。あの時渡したPDAとまたこうして会えるなんて。
その画面には話題に上がったであろう食品工場の様子が映ってるが。
「PDAに対応した望遠鏡でさくっと撮影してきたんだけどさ、見てよこれ。もう完全に真っ黒だよ」
撮影された情景の中には俺たちが敵視するべき理由がたっぷりあった。
大体なんだこの、工場の周りにある兵器は。
どこから持ってきたか分からない立派な面構えの大砲が、建物の周りを取り囲んでいる。
残念だが、大きな2つのタイヤに支えられた砲口が向かう先はスティングだ。
「おいおい……連中馬鹿だろ、榴弾砲ってこんなクリスマスの飾りみたいに配置するもんじゃねえんだぞ」
ヒドラが呆れるに足る有様らしい。正しい使い方を知らないのか?
「戦前の組み立て式の奴だな……105㎜か。それにしたって多すぎだろ、どっから持ってきた?」
「多分だけど持ち込まれたやつじゃねーの。いやだからってよ、こんなんでどこ砲撃するつもりだよ」
「もしかしたら最南部に配置して街を砲撃するつもりだったか――いやそれはいいんだよ、そうだとしてもなんでカルトが持ってんだって話だが」
ツーショットもヒドラもこんな飾りつけをしたやつの正気を疑ってるが、自分に向けられたくないのは間違いない。
「防御も完璧だね、検問があって重機関銃、グレネードランチャー、機関砲を積んだ車両もあって……」
次々と嫌な情報が映し出される。
土嚢と固定兵器の仲良しセット、工場の屋外にかすかに見える迫撃砲、穴に身を隠すように二連装機関砲を構える魔改造車両。
一体どんな神を崇めればこんな馬鹿なリフォームができるんだろう。
「いっそのこと何かしらの手段で派手に爆破しようと提案するつもりだったんだがな、地元の人間がここにまだ残ってるとなると……」
「今そんなことをするのは好ましくないな。どの道どんなものなのか情報を集める必要がある」
オレクスの言う通り爆破してやればさぞ気持ちいいだろうが、連れてかれた人たちごと吹き飛ばすわけにもいかないか。
けっきょくエンフォーサーの隊長の言う通りもっと情報が必要だ。
考え始めたところでふと思った、あの白い格好の奴だ。手を上げて尋ねる。
「ここの信者はどんな格好だ?」
「白いレインコートみたいなのを着た連中だ。犬がどうこういってる」
『……白い服の人って、二回ぐらい見たよね? 物資を取りに行ったときと、さっき捕虜の人たちが歩いてた時なんだけど』
白い姿――やっぱりか。あの時刑務所の中で何か取引してたやつだ。
俺もミコも嫌というほど覚えてる。なんせ目の前で真っ二つになったんだからな。
「ああ。そういえばダイナミックに拝借しに行ったときにもいたよな、白いの」
「侵略者と仲良しとか最悪だな。なんだったら今もいるみたいだが」
けっきょくあれは何だったんだ、と思ってるとツーショットが気味の悪いことを言い出す。
冗談はやめろと思ったが、その指先は宿の窓に向けられていた。
というか本当にいた。外の風景に混じって、白い姿の人間が道路脇の方からずっとこっちを見てる。
向こうも気づいたんだろう、何事もなかったようにその場を去っていったが。
「……目付けられてるな」
なんとなくわかる、俺たちは監視されてる。
あんなにクソ正直に見つかりやすい場所で見てたのも、ちゃんと理由があるんだろう。
お前たちは監視してるし、バレても問題ないほどの何かが背後にある、ってか。
「捕虜のデスマーチにもいたよな。ってことは俺たちは目の敵にされてるわけだ」
「俺からアドバイスしとくぞ、みんな。ああいうのは下手に勧誘広める前にさっさと潰しとけ。さもないとどんどん力つけるぞ」
俺は「ちゃんと潰すべきだ」と言葉を足しておいた。
あっさりと連れ込まれてる人間は、まあ、なんとなく分かるものがあるからだ。
「ほっとくと住民に被害が及ぶからな、そりゃ対処はするつもりだぜ?」
「勧誘ってのは引き込むのに失敗しても問題ないんだよ。むしろ信者の結束を高める儀式みたいなもんだ」
「どういうことだよストレンジャー?」
「失敗しても、そばに褒めて慰めてくれる奴がいてくれたら嬉しいだろ? そうやって忠実に動いてくれる奴が増えるのさ」
細かいことは省くが、ほっといたらほっといたで忠誠心の強い馬鹿が生まれる。
そいつだったら「爆弾抱えて殉死してきます」だってやりかねないだろう、ましてこんな世界じゃな。
「ずいぶん詳しいな」
「どうもそういうのに縁があるみたいだからな。自爆特攻する熱心な奴とか出る前に早く対処したほうがいいぞ」
言い終えるとオレクスが気にかけてきた、鼻で笑って返したが。
「さて、やるべきことは定まったね。残った部分の奪還、街の警備、カルトの調査、余裕があるなら住民と交流もしておくべきさね。情報がまとまったら逐次伝える、捕虜への尋問は親切なバケモンたちがやってくれるから結果は楽しみにしてな」
「ところでボス、その捕虜はこれからどうなるんだ?」
「バケモンたちが譲ってくれないんだ、もうどうしようもできないさ。まあ結構死んでるがね」
「コルダイトのやつが爆弾付けて送り返そうとかいってたぜ」
「本当にやらせたら……いやあいつならマジでやるね、とりあえず今は忘れな」
最後に、あの捕虜たちの扱いは随分と可哀そうなものらしい。
『所有権』か。そりゃどっちがいっぱい捕虜とったか競い合ってたぐらいだ、どんな扱いか想像はつく。
――そんな感じで集会は終わった。
「ひとまず作戦に参加したやつらは休め、強い精神的負荷のかかるこの状況下で良くやり遂げた。あんたらは次に備えて体力をつけろ、以上」
解散、だそうだ。
ひとまずこの場に居るやつが思い思いに行動し始めると。
「待ちなストレンジャー。ヒドラ、アレを渡してやりな」
ボスが俺を呼び留めた。
その言葉通りにヒドラがやって来た。手にじゃらっと何かをつまみながら。
「ほら、新しいタグだぜ」
手渡された。タグだ、『ストレンジャー』とある。
そういえばずっと奪われたままだったな。忘れるところだった。
「悪いな、作ってくれたのか?」
「おう、材料は金属と俺の腕前、そしてボスの哀れみだ」
「一人だけタグがないなんて気が引き締まらないだろ? 次はなくすんじゃないよ」
二人に感謝しながら首にかけた。やっとストレンジャーに戻れた気がする。
最初はそんな名前カッコ悪いとか思ってたが、今じゃ立派な自分の名だ。
「……その首飾りはタグというのか?」
首にぶら下げたそれをじゃらじゃらしてると、急にノルベルトが入ってきた。
物珍しそうというか、物欲しそうというか、そんな顔だ。
「そうさ、うちらプレッパーズの一員としての名をそこで語ってるんだ。例えばそこのお熱い奴は『ヒドラショック』みたいにね」
ヒドラが「ヒドラショックっていうんだ」とタグを見せびらかすと、どうしたんだろう、オーガは更に様子を変えた。
「むーん……。そのタグとやらは、俺様も貰えないだろうか?」
そこから放たれた一言はあまりにも予想外だ。
ミコが『えっ』と戸惑うほどには。タグが欲しいだって?
「……はぁ?」
ボスも流石に予想外だったに違いない、お前何言ってんだって顔だ。
「ははは、タグが欲しい、だなんていわれるのは初めてだったなボス」
「おいおいデカブツ、タグってのはうちらで活躍したやつだけがもらえるんだぜ? お前プレッパーズじゃねえだろ?」
「長いことやってるけど「タグが欲しい」なんて初めてだよ。正気かいあんた? いや正気じゃなさそうだね」
ヒドラもボスも一体どうしてオーガに作ってやらないといけないのか困ってる。
ツーショットは「いいんじゃないか」ぐらいだが。
「プレッパータウンとやらは強者の集う場所なのだろう? で、あれば俺様も強き者の一人として認めてもらいたいだけだ」
そこから返ってきた一言は、うん、あいつらしかった。
まさか「お前ら強いから俺もカウントしてくれ」なんて誰が言うもんか。
「そりゃ嬉しい評価だね。じゃあ認めてやったらどうするんだい?」
「むーん……そうだな、勇敢に戦った証拠として故郷で自慢しようか。さぞ羨むに違いあるまい」
「……おいデカブツ、改めて聞くがあんたそんなにタグが欲しいのかい?」
「うむ、あちらに帰るときの土産にしたいのだ!」
しかもそれが記念としてほしいだなんて、きっとボスの人生でそこまで言うやつはいなかったはずだ。
だけどノルベルトは本気だ。それでいて純粋。ボスは「はっ」と笑い。
「……そういえばあんた、ストレンジャーの力になってくれたようだね」
オーガの屈強な胸板をこつっと叩いた。
ボスは認めざるを得ない、といった顔だった。
「ヒドラ、作ってやりな。こうまでされてここまで言われちまったら断れんさ」
「了解、ボス。XLサイズでいいっすか?」
「作ってくれるってさ。良かったなノルベルト」
『ふふっ、これでノルベルト君も一緒だね』
「おお……ありがとう、ボス。俺様のわがままを聞き入れてくれたこの御恩、忘れんぞ」
「そういうのは受け付けてないよ、恩ならそいつにでも返してやりな。その代わりあんたの名前は私が勝手に決めさせてもらうからね」
一応、俺たちと同じプレッパーズの一員になったってことか。
ノルベルトはすごく喜んでる。どんな名前になるのか俺も楽しみだ。
「おばあちゃん、うちもほしいっす~」
「あんたは首とれるから作っても意味ないだろ馬鹿もんが!」
「そんな~」
……ちゃっかり便乗したロアベアは一生作ってくれなさそうだったが。
◇
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