魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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世紀末世界のストレンジャー

STEP2は取り返せ

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 戦況はこうだ、俺たちはスティングシティの中央部を奪還した。 
 チャールトン少佐たちが暴れ回ったおかげで敵は大混乱、訳の分からない化け物たちの強さを前に退いていく。
 そうやって追い出されたところを制圧していって、どうにか街の一部を取り返すことができたわけだが。

 まず、肝心の本軍は東の橋の向こうに居座っている。
 北部に駐屯していたレンジャーや、突如現れたグレイブランドの妨害もあってまだ攻め込みそうにはないらしい。
 しかしその気になれば物量に物を言わせて突っ込んでくる可能性があり、またグレイブランドの連中はこちらとの接触を拒んでるそうだ。

 それよりも今問題なのはスティングそのものだ。
 ライヒランドが置き去りにしていったレイダーやミリティア、潜伏した兵士に同調者やらが指揮を失って好き放題にやっている。
 女を襲い食い物も奪い目についたものを破壊する、ただの無秩序な強盗団へと早変わりだ。
 こいつらは実に厄介だ。ほっとけばどんどん内側から食い破られていくし、市内で略奪や破壊をしてくれればライヒランドも進行が楽になるだろう。
 しかも混乱に乗じて『犬を崇めるカルト』という組織がいつのまに街の南側にある工場を占拠し、更に裏切った自警団たちが侵略者どもを手引きしてるというおまけつきだ。

 ここまで揃った最悪の状況に対して、こっちはウェイストランドの西側からかき集められてきた100名にも満たない様々な顔ぶれ。
 そこに同じぐらいの頭数を揃えたファンタジーな連中が加わり、これでどうにかしろってわけだ。
 まったく絶望的だ。数も装備も向こうの方が上、四方八方敵だらけ、今にも街は消滅しかねない、それなのに――

「――状況は良く分かった! 早速街の南部に行くぞ、六人編成だ!」
「お、おい! 何しに行くんだお前たち!?」
「ちょっと解放してくる。心配するな、ここの民とやらもついでに守ってこよう」
「抜け駆けか!? 我々も出陣だ、誰かエルフ一名ついてこい! 白い奴以外で!」

 モンスターのたまり場から、説明やらを受けた一団がぞろぞろ二倍で飛び出していく。
 総勢十二名ほどの勇ましい異種族たちは自警団員の制止も効かず行ってしまった。

「このクロスボウは変わった形をしてんだな、歯車仕掛けの連中め、まさかまた新しい武器でも開発したか」
「……いや、それエグゾアーマー用の五十口径……」
「まあいい、試し撃ちしてくるか」
「待て、どこで試すつもりだ!?」
「戦場でだ。それなら誰も文句は言えんだろ」
「なるほどこうやって使うのな、俺も一緒に試し撃ち行くわ」
「こいつでどっちが多く殺せるか勝負するか?」
「いいね、負けたら好きなモン奢れよ」

 エンフォーサーの隊員から武器の使い方を教わったばかりの――ライオンと狼の獣人が物騒な得物を片手に出て行ってしまう。
 五十口径の機銃にグリップや銃身カバーをつけて無理矢理に手持ちにしたような武器だが、二人の巨体にはよく釣り合ってると思う。

「間者見つけましたよ、愚か者め、本当に人間は愚か……」
「おらっ! 大人しくお縄につきなさいっ!」
「はっ……離せ……なんなんだこのバケモンどもはぁぁ……!」
「あー、長耳のお嬢さんたち? 確かに怪しい奴を見かけたら報告しろって言ったけどな……」
「近くの民家で揃いも揃ってこそこそしてたので全員捕まえました」
「あとは俺たちに任せな。おい誰か魅了の魔法使えるやついたかー?」
「いねえなら身体に直接聞くしかねぇなぁへへへへへ……」

 それと入れ替わる形で、さっきの白エルフたちが縄でガチガチに縛られた男たちを引きずってきた。
 格好からしてミリティアやライヒランドの兵士だ。集団緊縛プレイに興じてる。
 予想以上に速い仕事にドン引きするツーショットを差し置いて、オークたちにずるずるお持ち帰りされてしまう。

「つまりお前らに依頼したいのは、各地にいる市民たちを侵略者たちの手から早急に保護するということで……」
「――よしもう分かった突撃だ! フェルナアァァァァァァァァ・アルトナアアアアアアアアアアアアッ!!」
「……あっドラゴンの兄ちゃん突っ込んでった」
「しまった! いつのもの発作だ! あの野郎前から変わってないなオイ!」
「あいつ敵地に突っ込むつもりだぞ! 誰か止めろォォォ!」
「また大惨事を起こす前に奴を食い止めるぞ! ここの民が危ない!」
「待てフェルナアアアアアアアアァァァァァッ!」

 オレクス率いる自警団たちと地図を囲んでいた一団――の、ドラゴンのような尻尾と羽を生やした赤いイケメンがどこかに突撃し始める。
 残された仲間たちは凍り付いていたものの、少しして理解してその後を追いかけていったようだ。
 一番気の毒なのは取り残された自警団たちだ。唖然としてる。

「……なんでこんなバカ騒ぎになってんだい」

 そんな光景の前でボスは立ち尽くしていた。
 俺たちもだ。想像をはるかに超えるアクティブさに困ってる。

「ミコ、やっぱり向こうの世界はどうかしてるぞ。こんなんばっかなのか」
『あの世界ってやっぱりおかしかったのかな……』
「まあでもいいんじゃないか? 葬式みたいな暗いムードで抗うよか、お祭りバカ騒ぎでいたほうがまだ希望はあるだろ?」

 勝手に極限まで盛り上がってるファンタジーの連中をどう扱えばいいのかと見守ってると、ツーショットが戻ってきた。

「それにしたって即効性ありすぎないか? もう出撃してるやついるぞ」
「その方が今はいいだろ。一から教えて十まで知ってもらってから戦いに加えるよかずっといい。今はスピードが命だからな」
「私にできるのはあいつらが致命的な問題を起こさないこと祈るだけさ。まったく、向こうの世界の品性を疑うよ」
「それでも人手の問題は一気に解決したのさ、ボス。そうとなればSTEP2だ」

 いつもの三人で話し合う最中、ツーショットは「来てくれ」と手招いてくる。
 スティングのやかましさを煮詰めたような場所をその通りに進むと、

「クソ喧しいが、なんだか勝てる気がしてきたな。うん」

 さっき置いてけぼりを食らったオレクスたちが机を囲んで待っていた。
 自警団の面々は周りの状況に飲まれながらも、なんだかこの前よりはだいぶ景気のいい顔をしてる。

「俺たちを呼んだってことはようやく次に進めるってことか?」

 今じゃすっかり自警団の代表になったそいつに尋ねた。

「その調子の良い兄さんの言葉を借りるなら――」
「ああ、『STEP2・物資を取り返せ』だ」

 返事はツーショットの指先が代わりを務めたみたいだ。
 広げられた街の地図、その西へ進んだところに『自警団事務所』と書かれている。
 正確には戦前の『保安官事務所』を赤く上書きしたものだが。

「……自警団事務所?」

 地図上に表示されたそれに疑問を向けると、

「ああ、前まではここが俺たちの本部だったんだがな。まともな奴は全員追放されて、今じゃ離反者の我が家だ」
「だからあんなモーテルなんかにいたのか、あんたら」
「ああ、ちなみにあそこも戦車砲をぶち込まれて閉業した。おかげで俺たち自警団は全員家無しなわけだが」

 家無し代表のオレクスはペンでそこを囲う。
 紙の上で判断する分にも、それなりに大きな規模の建物みたいだ。
 しかし特に注目してもらいたいのはその内部に作られた『刑務所』だそうだ。

「ここには戦前の刑務所があるんだ。といってもささやかなもんだがな、スティングの大きさには耐えられないショボい刑務所だ」
「小さな刑務所ね、戦前はよっぽど平和だったのか?」
「さあな、それか職務怠慢で見逃してたんだろうな」
「戦前の話はいいさ。それよりあんたは何を言いたいんだい?」

 刑務所の小ささはどうでもよかったか、ボスが続きを求めてくる。

「ここは元々は保安官事務所だったんだ。その中にある刑務所の扱いに困っててな。あんまりにも小さいもんで、しかもここよりもいい収監場所を確保して、お役御免になったわけなんだが――」

 オレクスはその刑務所に当たるであろう部分を丸く囲った。
 確かに事務所に対してかなり小さい。本当にささやかな場所だったようだ。
 その上で、そいつは続ける。

「それでも都合が良かったんだ。俺たちはこの頑丈な刑務所に犯罪者の代わりに武器弾薬を預けたのさ。つまりここは武器庫だ」

 要するにこういうことらしい。事務所には武器がいっぱいある。
 まさかツーショットの言う『STEP2』をここで実戦しろっていうのか?

「新鮮な情報があるぜ。どうもここは自警団どもが同志をお出迎えするための場所になってるそうだ」

 で、その本人はその通りだと言っている。なるほど、奴らの武器が集まってるわけだ。

「待ちなよ、そりゃどこから仕入れた情報だい。そんなの聞いちゃいないんだが」

 問題はどこの誰を根拠にそんな情報が出て来たか、というところだ。
 当然ボスが訝しむが、

「――我々が尋問しました」

 どこからともなく白髪エルフが割り込んできた、ドヤ顔で、きゅうり食いながら。

「そこのエルフのお嬢ちゃんが聞き出してくれてるぜ、現在進行形でな」
「お嬢ちゃん、などと言われたぐらいで機嫌をよくすることは決してあり得ませんからね。それだけはお忘れなく。――きゅうり食べますか?」
「いや遠慮しとくよ、そこの黒い服の兄ちゃんにでもくれてやってくれ」

 拒否られた野菜の行く先は俺に変わったらしい。
 元の世界で見慣れた姿のきゅうりをエルフから手渡された、おいしそうだ。

「それに離反者たちの戦車だとかがあそこを中心に巡回してるらしい。おそらくは補給地点として律儀に使い続けてるだろうな。他には物資を積んだトラックが入っていったという報告もあったが」
「そこまで分かれば十分さ、攻撃するに値するってのは間違いないね」
「おたくのネイティブアメリカンみたいな狙撃手が良く報告してくれたからな」
「なんだサンディかい。なるほどね、あいつが言うなら――」

 サンディが良く見てくれてたのか。
 ふと振り返ると、いつの間にかそのご本人はじっとこっちを見ていた。

「じー」

 ……きゅうりをものすごく欲しがってる。
 どうしよう、あげるべきか、あげないべきか。

「決まりだよ、夜襲だ。うちらでこっそりお邪魔してやろうじゃないか」

 きゅうりの処遇について考えてるとボスが決めたようだ。
 破壊か、略奪か、どちらにせよ夜分遅くお邪魔しにいくことになった。

「夜襲!?」
「夜襲だって!? 夜をすべる吸血鬼である我を連れていけ老人よ!」
「夜襲とか燃えるな! おい俺も行く!」

 ……なんか近くにいたモンスターどもがものすごく食い気味に入ってきたが。
 我らの立案者は「なんなんだいこいつら」とつらそうに眼を押さえるが。

「大事なモンがあるんだろう。ならすべきことは単純だ、奪うか、それがだめなら――」
「ドカーン、ですか」
「ドカーン、だな。へへ、いい響きだ」
「……元々俺の職場だったわけだが、どうか吹き飛ばさない方向でいてほしい」

 方向は定まった、裏切者のいる場所に忍び込んで奪い返してこい、だ。

「ストレンジャー、もちろんあんたもついてくるね?」
「好き放題盗んでも良心が痛まないとか最高ですね」
「よろしい、その気持ちで挑みな」

 「あ」と口を開けるサンディにきゅうりをねじ込んでから、動き始めたボスについていく。
 
「よし、大急ぎで準備しな。自警団から事務所に詳しい奴を何人か、物資を確保するための人員をかき集めろ。陽動に行く愉快な奴らもだ」
「それなら俺も連れて行ってくれ、ボス。あいつらには借りを返したいもんでな」
「ドライバーも必要だろ? 任せてくれ」
「――当然私もいけるんですよね? きゅうり食べますか?」
「我も連れていけェェェ!」
「夜襲だァァァァ!」
「……ボス、とりあえずこのやかましい人たちなんとかしませんか」

 こうして『STEP2・物資を取り返せ』の準備が始まった。
 ……なんか変な奴らがいっぱいついてきたが。


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