魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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世紀末世界のストレンジャー

バケモンにはバケモンを

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 ひとまず話がまとまると、この異種族たちは快く仲間に加わってくれた。
 この物騒な連中はチャールトン少佐たちが面倒を見てくれるそうだ。
 こうして戦力がまた増えたわけだが、ここで一度全員で現状を把握し共有しようということで、人が集められている。
 エンフォーサーからブラックガンズまで勢ぞろいだ。
 ホームガード? ぐったりしてるところを無理矢理招集されてゾンビみたいになってる。

「あのアバタールと同じ力を持つ奴がまさかいるなんてなあ」
「しかもローゼンベルガーの坊主も来てたのか。噂には聞いてたが親父殿そっくりだな」
「うむ。俺様もこの世界に誘われたようでな。思う存分暴れさせてもらったぞ」

 聖剣の名残をバケツに拾い集めていると、鍛冶場からノルベルトが同郷の連中と一緒にやってきた。
 その手には今まで見たことのないものを持っていた。
 オーガの身長に合わせた長い柄に、くぎ抜きハンマーに似た頭がくっついた武器だ。
 つるはしのように尖った部分は一際大きく、そこで刺突するように作られてるのが分かる。

「うわっなにその強そうな武器」
『ノルベルト君、それどうしたの?』
「おお、たった今ドワーフの爺様どもに無茶を頼んだところでな。俺様でも使える武器を作ってもらっていたのだ」

 あの巨体でそんなのを振り回したら――結果は言うまでもないだろ?
 今後はそいつを使って活躍してくれるそうだ、きっと人間に使った日にはひき肉ができるはずだ。

「……で、なんだいこの悪夢みたいな有様は」

 オーガの新しい得物を見上げていると、そんな声がした。
 ボスたちが来たみたいだ。見覚えのある連中がバケモンどもに負けないほどの質量をもって入り込んでくる。

「あんたは無事にお友達を増やしてくれたみたいだね。それもたっぷりと」
「こんなに早く集まるとは思いませんでしたよ」

 これで一通りは集まったみたいだ。
 必要な奴が欠けてないことを確かめると、ボスは地図やらを手にしたまま。

「さあ、ご挨拶しに行くよ。ついてきな」

 俺についてこい、と誘ってくる。
 ボスと一緒にみんなにご挨拶か、緊張するな。

「分かりました。じゃあちょっと行ってくるぞ、ニク見ててくれ」
「うむ、行ってこい」
「ワゥン」

 ノルベルトのそばにニクを待たせてから後を追った。
 やがて工場に打ち棄てられたコンテナまで二人でたどりつくと、そこに地図を張り。

「さて、あんたら……フランメリアの民、だったか? そんな頼もしい奴らが仲間に加わってくれてありがたく思うよ、確認するがこれから悪者退治に付き合ってくれるかね?」

 ボスは化け物たちに負けないほど鋭い視線を向けた。
 その先でぞろぞろと並ぶ向こうの世界の連中は、とても期待に満ちているようだ。
 「賊をぶち殺してこい」と言われば直ちにこの場を抜け出しかねないほどに。

「無論構わんが、お前さんは何じゃ? ここの指揮官かなんかみたいじゃが?」

 そんな中、一人のドワーフがそう聞き出す。
 指揮官、と言われれば確かにそうかもしれない。
 なんとなくとかじゃなくて本当にそうだ。実際、今回この街をどうにかしようと動く背景にはボスが深く絡んでる。

「まあ、少なくとも俺たちはその婆さんの下で動いてるが。ボスなのは間違いねえ」

 そこにルキウス軍曹が挟まった。

「現状、彼女の指示で行動しているのは確かだ。代表者と言ってもいい」
「あの混沌とした状況をまとめたんだからな、今のとこは俺たちのボス同然だ」

 エンフォーサーと自警団の意見も同じみたいだ。

「その鋭きご老人のおかげでここまで持ち直したようなものだ、吾輩は異論などないが」
「我々を繋ぎ止める役割なのは確かですからね」

 ホームガードのオークと軍曹もか、そうなるとブラックガンズは――

「俺の上司みたいなものだからな、仕方なく従ってる」
「おいミューティども、その婆さんおっかないから気を付けろよ?」

 ハーヴェスターとコルダイトのおっさんも認めてるようだ。
 間違いなくこの戦いを束ねている存在だと全員が認識したところで、

「――そしてこいつに、この世界で生きて戦う術を叩き込んだ師匠でもあるのさ」

 ここぞとばかりにツーショットがやってきて、肩をぽんぽんしてきた。
 その一言にどれほどの効果があったのかは計り知れないけど、向こうの連中は興味をひかれたみたいだ。

「つまり、そやつの恩人ということか」

 特にさっきのドワーフはそうだ。
 俺をまだアバタールと重ねているんだろう、そんな目だ。

「私はただ、何も知らないこいつを鍛えてやっただけさ。その結果こうしてウェイストランドの命運を決める戦いが生まれたわけだが」
「ついでに言わせてもらうぜ。こいつは強いぞ、狂信者の群れをぶちのめし、悪さを働く傭兵どもを返り討ち、人食い族を皆殺しにして悪い賊どもを踏みつぶしてここまでやってきたんだ。次の相手ははるか東から来たる悪の国家そのものだ!」

 そこに、ボスはそれだけ答えた。ツーショットの盛られ過ぎな言葉を添えて。

「あの時の戦争と同じだ。またアバタールが戦おうとしているぞ」
「ははっ、ずいぶん強いアバタールもいたもんだな」
「そそる状況じゃねえか、合法的にぶちのめせる人間がいっぱい来るってことだろ」
「俺たちにまた戦えっていうことか? 上等だ」

 だいぶ効果があったのか、異種族の群れがざわめき始める。
 しばらくしてそんな様々な声が落ち着くと、ボスが前に出た。

「この街はいま、ライヒランドっていう連中に攻め込まれてるんだ。この世界を一つにしようだとかほざいてる馬鹿どもさ。今日この日まで絶えず人を喰らい続けた、底知れぬバケモンだ。それが今私らを食い破ろうとしている」

 そして喋った。

「その背景にはいろいろなものがあるのさ。かつて私らに敗れた屈辱、そして何十年もかけたはずの報復がたった一人の、この"ストレンジャー"のせいで潰えかけたことによる焦り。ウェイストランドにあんたらが呼ばれたせいで起きた変化だってその一つだ」

 ボスは今まで聞いたことのない、力のこもった声だった。

「あんたらが"アバタール"とかいうやつはこいつとそっくりだったのかい? たった一人ですべてを変えるほどのワイルドカードだったか? もしそうなら、人々を脅かしこの世界に痛みを与え続けてきたバカ者どもは、絶対にこいつには勝てないはずだ」

 魔法世界から来たゲストは見入っていた。
 なすべきことが詰まった地図を背にした老人と、そしてそのそばにいる俺にだ。

「細かいことはいい、この"余所者"に立ちふさがる馬鹿どもを一緒に倒さないかい? 手加減なんていらんさ、思う存分腕を振るってぶちのめしたくないかい?」

 そこまで言い伝えると、モンスターたちは明るくざわめき始める。
 まさに心躍るといった感じだ。明確な戦いに参加できると知って嬉しいんだろうか。
 というかやる気満々だ、ボスの言葉にうきうきしてる。

「アバタールのそっくりさんよ、お前に質問だ」

 ここで、群れたドワーフの誰かが問いかけてくる。

「お前が戦おうとしてて、俺たちの力が必要なのは分かった。で、お前はこれからの戦いで何を得るつもりだ?」

 その質問は――何を得るか、か。
 完全なる勝利? ウェイストランドの平和? 街の人たちのため?
 いいや違うな、俺の目的はもっと単純なものだろう。

「あいつらをぶちのめして、ただ"世の中捨てたもんじゃないな"って誰かに思わせたいだけだ」

 だから思ったことを答えた。
 その答えにどんな意味を見出したのかは分からないが、答えを受けたそいつは最初、意外そうな顔をしてた。
 だけどしばらくして、参ったように笑う。

「……やっぱお前はアバタールだよ、馬鹿野郎」

 一体どうしたのか。ドワーフたちはそれをきっかけに懐かしそうにしていた。
 ……アバタール、俺はお前と同じ言葉を口にしたみたいだな。

「決まりじゃな。わしらをこき使え、喜んで戦ってやろうじゃないの」
「我々ドワーフの命、お前さんたちに預けるぞ」
「ったくお前はよォ、そんなナリになってもほんっと変わんねェな」

 こうしてドワーフの集団が加わったわけだが、

「変な気分だな、その言葉をまた耳にするなんて」
「魔女どもに聞かせてやりたいな、さぞ驚くぞ」
「のろまなドワーフどもが行くのであれば、我々も行かないといけませんね」
「せいぜい、世の中の為にやってやるか。面白れえ」
「はははっ、こっちの世界に我々の名を刻んでやろうじゃないか」

 そこから周りの種族も続々と意志を伝えてくれた。
 今この場にいるすべてのモンスターたちが仲間になった。誰一人残さずにだ。

「よろしい。いいかい、あんたたちに求めるのはお上品な戦い方じゃない、この世界をぶち壊すような、それでいて侵略者どもに二度と癒えない傷を作るようなあんたたちらしい生きざまだ!」
「いいだろう。郷に入っては郷に従えだ、人間の婆さん! 俺たちにこの世界での戦い方を教えろ! 誰を殺して誰を救えばいいのか叩き込め!」
「久々の実戦だァァッ!」
「ようやく戦いらしい戦いができるぞ!」
「待ってたぜ、人狩りいこうぜ!」
「豚の――"チャールトン"! あんたの同郷のモンだろ? そいつらの管理は任せたよ! 状況把握、装備、戦術、兵站、そういうのはうちらにぶん投げろ、気にせずやりな!」
「ようやくその名で呼んでくれたな、"ボス"! お任せあれだ! はっはっは!」 

 こうして俺たちは、向こうの世界からやって来たモンスターたちと共に戦うことになった。
 とても物騒だが頼れるお友達に、この街に来た侵略者どもがどんな顔するのか楽しみだ。

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