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世紀末世界のストレンジャー
ダイナミック判別(国辱)
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「……アバタール? アバタールってあの、フランメリアを築いた英雄か?」
「俺たちを戦に導いてくれた戦の魔王のことじゃねーか!? そいつを継ぐ者ってどういうこった親父殿!」
「アバタール、あるいは異能を壊し続けた存在、ですね。でも死んだはずでは……」
「まさかあいつ、死ぬ前に子孫を――いや、子を宿せなかったよな?」
「どういうことじゃチャールトン! こいつがアバタールのやつの意志を継いでいるじゃと!?」
「いや待て、よく見るとこいつ確かにそっくりだ! アイツそっくりだ!」
アバタール。その名前に惹かれて、そこにいた異種族たちは吸い寄せられるように群がってきた。
その場の全てが、だ。
ほとんどの奴らは良く知ってるようだ、特にドワーフのむさくるしい連中はわらわらと迫ってきて。
「本当ではないか! いやまさか、そんな、アバタールが生きていたとでも!?」
「あいつ、何一つ残さず俺たちの前から消えたはずだろ!? んな馬鹿な、まさか転生でもしたってのか!?」
「あいつの生まれ変わりかなんかか? わしのこと覚えてるか!? なあ!?」
「アバタール、お前さん……生きとったのか!? メイデアはどうした!? 一緒にいないのか!?」
さっきまで見せてくれた職人肌な姿はどこへいったのか、仕事道具も捨ててまでこっちに問い寄ってきた。
死んだはずの人間とまた会えたような、久しい友人とようやく顔を合わせたような、そんな様子だ。
いや、本当にそうなのかもな。
それだけ俺はアバタールたりえてしまっているのかもしれない。
もしここに本物のアバタールがいれば「お久しぶり」とでもいって再会を喜べるだろう。
だけどそれは決して叶うことのない「もしも」だ。俺は模造品なのだから。
「……チャールトン少佐、どういうつもりなんだ。俺がアバタールを継ぐ者だって? 何考えてるんだ?」
アバタールもどきに群がる化け物の群れを前に、オークの軍人に尋ねた。
軍服姿の巨体はいつの間にかすぐそばにいて、その手にティーカップを握ったまま。
「今こそその名を解き放つ時だ、イチよ」
ただそれだけを伝えてきた。
目の前に広がるモンスターたちと比べて、その一言はあまりにも小さすぎた。
アバタールの名前をここで、自分の口から伝えろって?
周りを囲うこいつらはなんだ? そうだ、そもそも俺が無理やり連れて来たんだ。
世界を滅茶苦茶にしたついでに、ウェイストランドに引っ張ってしまった誰かなのだ。
さっきのこいつらの営みを見ただろ。人と同じように振舞って、それだけの人生を積んできたやつらだ。
ミコやロアベアと同じように、あっちの世界の日常をこれだけ切り取ってしまった証拠でもある。
――でも、そうだな。
誰かが言ってたな、果たして悪い結果だけを招いたのかって。
アバタール、お前がどんな奴かはやっぱりわからない。でも、そういうことなんだろ?
お前が持ってたっていう魔法やらが効かない力も、その名前も、俺と一緒にこの世界を救ってるじゃないか?
やっとわかったよ。
お前は死んだらしいな、最愛の人とやらとひどい死に方をしたらしいな。
でも、死にたくなかったんだよな。
だってこの身体を借りて、お前の名前をこうしてまた広めているんだから。
自分の中にあるアバタールの名残で救われた人をいっぱい見て来たよ。
それに俺も救われた。お前にな。
今、俺の目の前にいるこの人たちはお前が残してくれたんだよな?
これだけ大事にされてるんだ、きっとお前も、この人たちを大事にしてたはずだ。
決めた。一緒に戦おう、そして一緒に旅をしよう、アバタール。
世界を救えだとか大層なことはいわないぞ、せいぜい「世の中捨てたもんじゃない」って思える程度にやろう。
『……い、いちクン? 大丈夫……? 緊張、してるのかな……?』
あれこれ思ってると、ミコの言葉に引き戻された。
足元で「クゥン」とニクがほおずりしてきた、うん、緊張してたな。
横を向けばチャールトン少佐が頷き笑んでいた。この人、すごく信頼してくれてるよな。
「……あー、フランメリアのみんな、ちょっと聞いてくれ!」
おれは両手を広げて解き放った。
いろいろな感情が混ざり合う、数えきれない視線顔立ちが向かってくる。
「おれは」と最初の言葉が漏れた、スタートだ。
「残念だけど、アバタールじゃない。でも、限りなく近い何かだ!」
それだけ伝えると、さすがにざわめいた。
「先に言わせてもらう。あんたらがこの世界に来たのは俺のせいだ! 今からここで起きたことを全部話す、どうか聞いてくれ、そして許してほしい!」
そこに、負けないぐらいの声でそう告げた。
幸いなことにここにいる誰もが深く聞き入ってるようだ。
これからの言葉に最大限気を使いながら、一つ一つ語ることにした。
◇
「つまりだ坊主、オメーは向こうにある何かごと俺たちをこっちに連れてきて……」
「しかもあのアバタールと同じ魔を壊す力を持ってて……」
「でも、ちゃんとあっちに帰る手段はあるってことなんですね?」
今までのことを話すと、横で耳を傾けていたさっきの牛と熊の人、それから白髪のエルフがそう口にした。
しかし何か変だ、帰れる手段にさほど喜んでなさそうというか。
むしろこのウェイストランドの荒れた様子に嬉しさを感じてるようにも見える。
「そうだ。あんたらを勝手にこの世界に連れてきて、何もかも滅茶苦茶にしてしまって申し訳がない。でも力を貸してほしいんだ」
力を貸せ、そういう言葉にいち早く反応したのはあの黒革鎧のオークだ。
集まる魔物だまりから抜け出すと、こっちを見下ろし始め。
「力を貸す? 俺たちがか?」
「この街はいま侵略されそうなんだ。しかも市街地にはあいつらの置き土産が好き放題やって、ずっと東の橋の向こうで本軍が攻め込むタイミングをうかがってる」
「っていうとなんだ、戦争でも起こるのか!?」
「ああ。近いうちに攻め込んでくる、たくさん死ぬかもしれない」
「死ぬかもしれない、だと? そんなにやばいのか?」
「かなりな。そこであんたらの力が必要なんだ、攻め込んでくるバカ共からここを守りたい。ダメか?」
そこまで伝えると、さすがのオークもたじろぐか、と思ったものの。
「俺たちをなんだと思ってる? 血肉躍る戦場を経験したフランメリアの民だぞ」
返ってきたのは興奮気味で好戦的な逞しい返事だった。
待て、何かおかしいぞ。
「そうか、やっと分かったぞ! アバタール、お前が俺たちを帰るべき場所に連れてきてくれたんだな?」
「あの内戦で活躍できなかった俺にもやっと巡ってきたか! 手柄を取るチャンスだ!」
「久々の戦争など愉快たまらないな! で、敵はどんな奴だ? 教えろ!」
……本当におかしかった。こいつら全員戦いに飢えてやがった。
「まあ待ておぬしら。はしゃぎたい気持ちはわかるんじゃが、一つ気がかりなことがあるぞ」
血と暴力に飢えた面々が騒ぎ出すが、ドワーフの一人が制した。
「話を聞いてようわかった、こやつは確かにわしらの知ってるアバタールそっくりな誰かじゃ。しかし……魔壊しの力とやらを持っているというのは本当かの?」
やって来たのは疑問形だ。ドワーフたちは俺の境遇にある程度納得はしてくれたが、そこが気になるらしい。
「確かになァ、おめーがアバタールの奴に限りなく近いってのもよーくわかったし、本心で話すいい奴だってのも分かった、だがなあ」
「あの力を持ってるというのは本当なのか? 魔を壊し世界の理すらも断ち切るという『マナ・クラッシャー』のことだが」
「本当だ。魔法が効かないんだ、だったら証拠を――」
手っ取り早く実際に見せてやろう、そう思って肩の短剣に触れるが。
「なるほど、確認が必要なのですね。それならちょうどいいのがありますよ」
そこに白い髪のエルフが名乗り出る。
背がそこそこあって、胸は平たいが実戦向きの引き締まり方をした身体の持ち主だ。
そいつは今なおきゅうりをぽりぽりかみ砕きながら、
「牛の人、熊の人! あれを持ってきてください!」
「誰が牛の人だ!」
「お前まだきゅうりかじってんのか……ちょっと待ってろよ」
雄っぱ……牛の人と熊人間をこき使って、何かを持ってこさせたようだ。
人混み、いや魔物混みをかき分けて、二人がかりで何かがこっちにやってきて。
「――ところでこれを見てください、どのように思われますか?」
ずどん、とそれなりの音を響かせながら、俺の目の前に何かが置かれる。
それは台座だった。全面が綺麗に整えられて光沢を帯びた、角ばった石の塊がそこに鎮座したわけだが。
「……あ、うん……すごく立派な剣だな……」
『……えっ……これって……聖なる剣か何かかな……?』
そんな運ばれてきた台座の上には、またずいぶんと立派な剣が突き刺さっていた。
鏡のように磨かれた刀身はほんのりと蒼く、それでいてかすかに薄青色の光を発している。
装飾もなく、しかし安っぽいわけではなく、いかに美しく強いかを追い求めたような武器としての成り立ちが――その柄を天に向けている。
そう、RPGゲームをやるやつなら避けて通れない類のやつ。
これはよくある「選ばれし者しか抜けないアレ」だ!
「これはですね、お隣のクソ……勇者の国で宝であり、勇ましい者たちのシンボルでもある聖剣です。どうです、すごいでしょう」
白エルフは「むふー」っとなぜか得意げに説明してきた。
その言葉の通りなら二つ問題があるぞ。
一つはマジモンの聖剣が存在していて、もう一つはダイナミックな国際問題になってることだ。
『せっ聖剣!? 待ってくださいそれって本物なんですか!? っていうか実在してたんだ!?』
「紛れもなく本物ですね。見てください、台座もちゃんとありますよ」
「しかもちゃんと魔力発してるんじゃよなぁ……。これ、かなり純度の高いミスリルじゃぞ」
「全員で抜けるかどうか遊んでたんだが、抜けないからマジだろうなァ、とんでもねえもん拾っちまったぜ」
「あいつらめ、今頃聖剣が消えたと慌てふためいてるだろうな。はははは」
ドワーフの爺さんたちもそういってるんだからマジなんだろう。
……勇者の国が具体的にどんなところかは知らないけど、やべーことしちゃったのは紛れもない事実だ。
「え、あの……これどこで拾った感じ……?」
とてつもない形で対面してしまったその姿にビビりながらそう聞くと、
「いや、なんかここに来る途中、荒野に転がってたからよぉ」
「引っ張ったら台座ごと抜けちまってな。最初の発見者であるこのエルフのものになったんだが」
「誰も抜けないのでほったらかしてました」
それでいいのかあんたら。
とてつもなく雑な扱われ方されてる品を指さしながら、こういうのに詳しそうなドワーフたちを向いて。
「そんな雑に扱っていいのかこれ……」
「まあ早いもん勝ちじゃしぃ?」
「あのバカ野郎どもの所有物だからな、溶かして再利用してェよこんなの」
「もうちょっとデザインどうにかならなかったのか、これは戦うにしても飾るにしてもちとシンプル過ぎるぞ」
聖剣の処遇について尋ねたらそれはもう辛辣だった。
……で、俺にどうしろと? この聖なる剣をどうしてほしいんだ?
「あーうん、それでエルフのお姉さん、このちょうどいいので一体何してほしいんだ? 俺に勇者の素質があるかどうか調べろと?」
一応PDAで立派な姿を撮影しつつ、きゅうりをかじるエルフに確認するが。
「あなたがアバタールの力を継いでいるなら、これくらい楽々ぶちやぶ……引き抜けますよね?」
返答はひどくにっこりとした笑顔だった。
周りの視線? 「まあそうだな」程度に見られてる。
「うちなら引けそうな気がするっす~」
周りの顔色を見ていると、ロアベアがたまらず飛び出してきた。
台座に足をついてぐぐっと引っ張るものの――取れない。
「ふぬお~」とかいって台座ごと引っ張るように試すも、抜けなかったようだ。
「これ壊れてるっす」
『どこが!? っていうかロアベアさん、抜けないからって蹴っちゃだめだよ……』
何がどう壊れてるのかは知らないけどげしげし蹴ってから離れていった。
サンディも「いいよね?」と俺の顔を見てから試みるも、何度か頑張って引けぬまま終わってしまう。
「……抜け、ない」
「マジで聖剣かよ……。分かった、俺が抜けばいいんだな?」
「ええ、遠慮なくぶち……抜いてください。それで証明できますから」
白エルフとその他多数の期待の目を受けながら、俺もやってみることにした。
台座の前に立つ。柄を手に取る。そのまま片手でゆっくり抜いてみると……。
「……おおっ!」
最初に声を上げたのはチャールトン少佐だった。
なんということだろう、台座に深々刺さってた剣が抜けてしまった。
抜けば抜くほどその重みがはっきりしてくるが、掴みやすいグリップからは意外な軽さが伝わってくる。
「これが聖剣かよ……!」
思わず息をのんでしまう。
想像以上に軽い、それなのに蒼く光る刀身は何でも断ち切れてしまいそうな鋭さを見てくれだけで表していた。
「やっぱりあやつ、アバタールと同じ力を持っとるのか……!?」
「あの坊主マジで抜いちまったぞ……間違いねえ、ありゃ魔壊しの力だ!」
周囲から賞賛が飛んでくる。
なんかロアベアも「お~」と拍手をかけてくるが、そうだ、これが聖なる剣だ! そしてつまり俺は勇者――
どろっ。
調子に乗ってそれを掲げた直後、だった。
柄越しに違和感を感じた。なんといえばいいんだろう、ものすごくチープな表現をするなら、アイスだ。
手にしたアイスが熱で溶けてどろっと溶けて落ちてくるようなあれだ。
『……えっ? ええっ!? いちクン!? 剣、剣がッ!?』
ミコに言われるがままに見上げると、なんだか剣が――溶けている?
マナの光を漂わせる刀身が、熱で溶かされたろうそくみたいに溶けている!
キリっと立っていた剣がどんどん形を崩して、足元に溶けた金属がぼとぼとと……なんだこれ。
「み、ミスリルが溶けとる……! いやそうか、そうだった! そりゃ溶けちゃうわい!?」
「そうだ、マナ壊すならミスリルとかぐっちゃぐちゃじゃねえか!?」
「おいエルフの! お前まさか分かって」
どんどん姿を失うそれにあたふたしながら、白エルフのお姉ちゃんにどうすればいいか伺おうとするも。
「アーッハッハッハ! ざまーみろ勇者ども! 国宝消滅だァァッ!」
すごく邪悪に笑っていた。まさかこいつ、はめやがったな!?
「あーそうだったこいつら昔勇者たちに裏切られたんだった……」
「なんて形で仕返ししてやがるんだこのエルフババァ」
「どこに国辱で確認する奴がいるんだよ……」
「がはは、聖剣がこの世から消えちまったなァ」
「あっあっどうしようなんかどろどろになって」
『お、落ち着こう!? とりあえずいちクンそれ離して!!』
「この駄目っぽさ間違いねーわアバタールだこれ」
「やっぱ転生したのかお前」
「あの、もういいですか……」
聖剣を文字通り溶かしてしまったが、ひとまずこれでアバタールと認められた。
◇
「俺たちを戦に導いてくれた戦の魔王のことじゃねーか!? そいつを継ぐ者ってどういうこった親父殿!」
「アバタール、あるいは異能を壊し続けた存在、ですね。でも死んだはずでは……」
「まさかあいつ、死ぬ前に子孫を――いや、子を宿せなかったよな?」
「どういうことじゃチャールトン! こいつがアバタールのやつの意志を継いでいるじゃと!?」
「いや待て、よく見るとこいつ確かにそっくりだ! アイツそっくりだ!」
アバタール。その名前に惹かれて、そこにいた異種族たちは吸い寄せられるように群がってきた。
その場の全てが、だ。
ほとんどの奴らは良く知ってるようだ、特にドワーフのむさくるしい連中はわらわらと迫ってきて。
「本当ではないか! いやまさか、そんな、アバタールが生きていたとでも!?」
「あいつ、何一つ残さず俺たちの前から消えたはずだろ!? んな馬鹿な、まさか転生でもしたってのか!?」
「あいつの生まれ変わりかなんかか? わしのこと覚えてるか!? なあ!?」
「アバタール、お前さん……生きとったのか!? メイデアはどうした!? 一緒にいないのか!?」
さっきまで見せてくれた職人肌な姿はどこへいったのか、仕事道具も捨ててまでこっちに問い寄ってきた。
死んだはずの人間とまた会えたような、久しい友人とようやく顔を合わせたような、そんな様子だ。
いや、本当にそうなのかもな。
それだけ俺はアバタールたりえてしまっているのかもしれない。
もしここに本物のアバタールがいれば「お久しぶり」とでもいって再会を喜べるだろう。
だけどそれは決して叶うことのない「もしも」だ。俺は模造品なのだから。
「……チャールトン少佐、どういうつもりなんだ。俺がアバタールを継ぐ者だって? 何考えてるんだ?」
アバタールもどきに群がる化け物の群れを前に、オークの軍人に尋ねた。
軍服姿の巨体はいつの間にかすぐそばにいて、その手にティーカップを握ったまま。
「今こそその名を解き放つ時だ、イチよ」
ただそれだけを伝えてきた。
目の前に広がるモンスターたちと比べて、その一言はあまりにも小さすぎた。
アバタールの名前をここで、自分の口から伝えろって?
周りを囲うこいつらはなんだ? そうだ、そもそも俺が無理やり連れて来たんだ。
世界を滅茶苦茶にしたついでに、ウェイストランドに引っ張ってしまった誰かなのだ。
さっきのこいつらの営みを見ただろ。人と同じように振舞って、それだけの人生を積んできたやつらだ。
ミコやロアベアと同じように、あっちの世界の日常をこれだけ切り取ってしまった証拠でもある。
――でも、そうだな。
誰かが言ってたな、果たして悪い結果だけを招いたのかって。
アバタール、お前がどんな奴かはやっぱりわからない。でも、そういうことなんだろ?
お前が持ってたっていう魔法やらが効かない力も、その名前も、俺と一緒にこの世界を救ってるじゃないか?
やっとわかったよ。
お前は死んだらしいな、最愛の人とやらとひどい死に方をしたらしいな。
でも、死にたくなかったんだよな。
だってこの身体を借りて、お前の名前をこうしてまた広めているんだから。
自分の中にあるアバタールの名残で救われた人をいっぱい見て来たよ。
それに俺も救われた。お前にな。
今、俺の目の前にいるこの人たちはお前が残してくれたんだよな?
これだけ大事にされてるんだ、きっとお前も、この人たちを大事にしてたはずだ。
決めた。一緒に戦おう、そして一緒に旅をしよう、アバタール。
世界を救えだとか大層なことはいわないぞ、せいぜい「世の中捨てたもんじゃない」って思える程度にやろう。
『……い、いちクン? 大丈夫……? 緊張、してるのかな……?』
あれこれ思ってると、ミコの言葉に引き戻された。
足元で「クゥン」とニクがほおずりしてきた、うん、緊張してたな。
横を向けばチャールトン少佐が頷き笑んでいた。この人、すごく信頼してくれてるよな。
「……あー、フランメリアのみんな、ちょっと聞いてくれ!」
おれは両手を広げて解き放った。
いろいろな感情が混ざり合う、数えきれない視線顔立ちが向かってくる。
「おれは」と最初の言葉が漏れた、スタートだ。
「残念だけど、アバタールじゃない。でも、限りなく近い何かだ!」
それだけ伝えると、さすがにざわめいた。
「先に言わせてもらう。あんたらがこの世界に来たのは俺のせいだ! 今からここで起きたことを全部話す、どうか聞いてくれ、そして許してほしい!」
そこに、負けないぐらいの声でそう告げた。
幸いなことにここにいる誰もが深く聞き入ってるようだ。
これからの言葉に最大限気を使いながら、一つ一つ語ることにした。
◇
「つまりだ坊主、オメーは向こうにある何かごと俺たちをこっちに連れてきて……」
「しかもあのアバタールと同じ魔を壊す力を持ってて……」
「でも、ちゃんとあっちに帰る手段はあるってことなんですね?」
今までのことを話すと、横で耳を傾けていたさっきの牛と熊の人、それから白髪のエルフがそう口にした。
しかし何か変だ、帰れる手段にさほど喜んでなさそうというか。
むしろこのウェイストランドの荒れた様子に嬉しさを感じてるようにも見える。
「そうだ。あんたらを勝手にこの世界に連れてきて、何もかも滅茶苦茶にしてしまって申し訳がない。でも力を貸してほしいんだ」
力を貸せ、そういう言葉にいち早く反応したのはあの黒革鎧のオークだ。
集まる魔物だまりから抜け出すと、こっちを見下ろし始め。
「力を貸す? 俺たちがか?」
「この街はいま侵略されそうなんだ。しかも市街地にはあいつらの置き土産が好き放題やって、ずっと東の橋の向こうで本軍が攻め込むタイミングをうかがってる」
「っていうとなんだ、戦争でも起こるのか!?」
「ああ。近いうちに攻め込んでくる、たくさん死ぬかもしれない」
「死ぬかもしれない、だと? そんなにやばいのか?」
「かなりな。そこであんたらの力が必要なんだ、攻め込んでくるバカ共からここを守りたい。ダメか?」
そこまで伝えると、さすがのオークもたじろぐか、と思ったものの。
「俺たちをなんだと思ってる? 血肉躍る戦場を経験したフランメリアの民だぞ」
返ってきたのは興奮気味で好戦的な逞しい返事だった。
待て、何かおかしいぞ。
「そうか、やっと分かったぞ! アバタール、お前が俺たちを帰るべき場所に連れてきてくれたんだな?」
「あの内戦で活躍できなかった俺にもやっと巡ってきたか! 手柄を取るチャンスだ!」
「久々の戦争など愉快たまらないな! で、敵はどんな奴だ? 教えろ!」
……本当におかしかった。こいつら全員戦いに飢えてやがった。
「まあ待ておぬしら。はしゃぎたい気持ちはわかるんじゃが、一つ気がかりなことがあるぞ」
血と暴力に飢えた面々が騒ぎ出すが、ドワーフの一人が制した。
「話を聞いてようわかった、こやつは確かにわしらの知ってるアバタールそっくりな誰かじゃ。しかし……魔壊しの力とやらを持っているというのは本当かの?」
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「確かになァ、おめーがアバタールの奴に限りなく近いってのもよーくわかったし、本心で話すいい奴だってのも分かった、だがなあ」
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「本当だ。魔法が効かないんだ、だったら証拠を――」
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「なるほど、確認が必要なのですね。それならちょうどいいのがありますよ」
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それは台座だった。全面が綺麗に整えられて光沢を帯びた、角ばった石の塊がそこに鎮座したわけだが。
「……あ、うん……すごく立派な剣だな……」
『……えっ……これって……聖なる剣か何かかな……?』
そんな運ばれてきた台座の上には、またずいぶんと立派な剣が突き刺さっていた。
鏡のように磨かれた刀身はほんのりと蒼く、それでいてかすかに薄青色の光を発している。
装飾もなく、しかし安っぽいわけではなく、いかに美しく強いかを追い求めたような武器としての成り立ちが――その柄を天に向けている。
そう、RPGゲームをやるやつなら避けて通れない類のやつ。
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「これはですね、お隣のクソ……勇者の国で宝であり、勇ましい者たちのシンボルでもある聖剣です。どうです、すごいでしょう」
白エルフは「むふー」っとなぜか得意げに説明してきた。
その言葉の通りなら二つ問題があるぞ。
一つはマジモンの聖剣が存在していて、もう一つはダイナミックな国際問題になってることだ。
『せっ聖剣!? 待ってくださいそれって本物なんですか!? っていうか実在してたんだ!?』
「紛れもなく本物ですね。見てください、台座もちゃんとありますよ」
「しかもちゃんと魔力発してるんじゃよなぁ……。これ、かなり純度の高いミスリルじゃぞ」
「全員で抜けるかどうか遊んでたんだが、抜けないからマジだろうなァ、とんでもねえもん拾っちまったぜ」
「あいつらめ、今頃聖剣が消えたと慌てふためいてるだろうな。はははは」
ドワーフの爺さんたちもそういってるんだからマジなんだろう。
……勇者の国が具体的にどんなところかは知らないけど、やべーことしちゃったのは紛れもない事実だ。
「え、あの……これどこで拾った感じ……?」
とてつもない形で対面してしまったその姿にビビりながらそう聞くと、
「いや、なんかここに来る途中、荒野に転がってたからよぉ」
「引っ張ったら台座ごと抜けちまってな。最初の発見者であるこのエルフのものになったんだが」
「誰も抜けないのでほったらかしてました」
それでいいのかあんたら。
とてつもなく雑な扱われ方されてる品を指さしながら、こういうのに詳しそうなドワーフたちを向いて。
「そんな雑に扱っていいのかこれ……」
「まあ早いもん勝ちじゃしぃ?」
「あのバカ野郎どもの所有物だからな、溶かして再利用してェよこんなの」
「もうちょっとデザインどうにかならなかったのか、これは戦うにしても飾るにしてもちとシンプル過ぎるぞ」
聖剣の処遇について尋ねたらそれはもう辛辣だった。
……で、俺にどうしろと? この聖なる剣をどうしてほしいんだ?
「あーうん、それでエルフのお姉さん、このちょうどいいので一体何してほしいんだ? 俺に勇者の素質があるかどうか調べろと?」
一応PDAで立派な姿を撮影しつつ、きゅうりをかじるエルフに確認するが。
「あなたがアバタールの力を継いでいるなら、これくらい楽々ぶちやぶ……引き抜けますよね?」
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『どこが!? っていうかロアベアさん、抜けないからって蹴っちゃだめだよ……』
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「マジで聖剣かよ……。分かった、俺が抜けばいいんだな?」
「ええ、遠慮なくぶち……抜いてください。それで証明できますから」
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台座の前に立つ。柄を手に取る。そのまま片手でゆっくり抜いてみると……。
「……おおっ!」
最初に声を上げたのはチャールトン少佐だった。
なんということだろう、台座に深々刺さってた剣が抜けてしまった。
抜けば抜くほどその重みがはっきりしてくるが、掴みやすいグリップからは意外な軽さが伝わってくる。
「これが聖剣かよ……!」
思わず息をのんでしまう。
想像以上に軽い、それなのに蒼く光る刀身は何でも断ち切れてしまいそうな鋭さを見てくれだけで表していた。
「やっぱりあやつ、アバタールと同じ力を持っとるのか……!?」
「あの坊主マジで抜いちまったぞ……間違いねえ、ありゃ魔壊しの力だ!」
周囲から賞賛が飛んでくる。
なんかロアベアも「お~」と拍手をかけてくるが、そうだ、これが聖なる剣だ! そしてつまり俺は勇者――
どろっ。
調子に乗ってそれを掲げた直後、だった。
柄越しに違和感を感じた。なんといえばいいんだろう、ものすごくチープな表現をするなら、アイスだ。
手にしたアイスが熱で溶けてどろっと溶けて落ちてくるようなあれだ。
『……えっ? ええっ!? いちクン!? 剣、剣がッ!?』
ミコに言われるがままに見上げると、なんだか剣が――溶けている?
マナの光を漂わせる刀身が、熱で溶かされたろうそくみたいに溶けている!
キリっと立っていた剣がどんどん形を崩して、足元に溶けた金属がぼとぼとと……なんだこれ。
「み、ミスリルが溶けとる……! いやそうか、そうだった! そりゃ溶けちゃうわい!?」
「そうだ、マナ壊すならミスリルとかぐっちゃぐちゃじゃねえか!?」
「おいエルフの! お前まさか分かって」
どんどん姿を失うそれにあたふたしながら、白エルフのお姉ちゃんにどうすればいいか伺おうとするも。
「アーッハッハッハ! ざまーみろ勇者ども! 国宝消滅だァァッ!」
すごく邪悪に笑っていた。まさかこいつ、はめやがったな!?
「あーそうだったこいつら昔勇者たちに裏切られたんだった……」
「なんて形で仕返ししてやがるんだこのエルフババァ」
「どこに国辱で確認する奴がいるんだよ……」
「がはは、聖剣がこの世から消えちまったなァ」
「あっあっどうしようなんかどろどろになって」
『お、落ち着こう!? とりあえずいちクンそれ離して!!』
「この駄目っぽさ間違いねーわアバタールだこれ」
「やっぱ転生したのかお前」
「あの、もういいですか……」
聖剣を文字通り溶かしてしまったが、ひとまずこれでアバタールと認められた。
◇
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
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