魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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世紀末世界のストレンジャー

チームバケモンの大虐殺

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 派手に吹き飛んだ建物からだいぶ離れたところで、ずっと後ろの方から爆音が聞こえた。
 立ち止まるわけにもいかず、道路を横切りながら振り向く。

『ビルが爆撃されてる……!?』

 一緒にそれを目撃したであろうミコの言う通りになっていた。
 あの時、おそらくボスがそこにいたであろうビルが攻撃を受けている。
 たぶん戦車による砲撃だ。どこからかの砲声のあと、何度か土煙や破片をまき散らしながらその姿を削られてるところだ。

「ツーショット、あのビルは確かボスが……」
「心配すんな、もう誰もいないぜ。別の狙撃地点に移ってお寛ぎのところだ」
『じゃあ、なんで攻撃されてるんでしょうか……?』
「この前の狙撃にびびって潰してるんだろうさ。あの一件で優秀な狙撃手の存在をよーく知らしめたからな」

 ということは、敵は誰もいない廃ビルを攻撃してるだけか。
 せいぜいそのまま無駄撃ちしてほしいが、問題は敵があとどれほどいるかだ。
 離反した自警団員と戦車、無限にいるんじゃないかと思うほどのレイダー、ところどころに交じるミリティアやライヒランド兵。
 少なくとも今いる場所はどこも敵だらけだ、本当にこの戦いは終わるんだろうか?

「――待て、『くるま』が近づいてきたぞ!」

 道路と何個か横切って大通りまで差し掛かかる、ノルベルトが叫んだ。
 自分たちの左側から頑丈そうな四輪駆動の車がやって来る――周囲は敵だらけ、後ろには追手、前は最前線だ。
 ひとまず近くの民家の塀に張り付いてできる限り射線から外れることにした。

『シエラ部隊がなんだ! たった四人だぞ!? 恐れる必要なんてあるものか!』

 戦前の軍用車が銃座についた緑色をお届けのご様子だ。
 まだ気づかれてない。全員で顔を合わせて、不意にベルトに手が伸びるが。

『進め進め! 車両に随伴しろ、攻撃の手をふっっ……!?』

 来たばかりの装甲車の上で、ライヒランドの兵士がびくっと体を震わせた。
 手にかけていた機銃から崩れ落ちる。胸をぶち抜かれたみたいだ。
 そして仲間を失った車は全速力で下がっていった。誰の仕業か良く分かる。

「ごらんのとおり我らがボスは今日も絶好調だ、あとで感謝しとけよ」
「今のはボスだな、お見事」
「あの老人の仕業か。どこから射抜いたのかは知らんが、エルフの如き的確な腕よ」
「そいつはご本人に直接いってやってくれ、たぶん喜ぶぜ」
「あのおばあちゃん、やるっすねえ、アヒヒヒ……♪」

 今のうちに全員で移動だ。
 後ろからも『いたぞ!』と誰かに捉えられるのもはっきり伝わった、五十口径の重たい銃声が鉛の質量を次々とお届けにきた。
 それに続くのは『もういい!』『追いかけてる場合か!』『逃がすとまずい!』といった具合だ。

「ははっあいつら混乱してやがるな。連携がとれなくなってんぞ!」
「誰のせいだと思う!?」
「誰のせいだろうなぁ!? あいつらお怒りだぜ!」

 一緒に走るツーショットのコメント通りだ、いい感じにかき回せてるらしい。
 後退して手をこまねいている車両の前を堂々と横切り、大きな道路を超えた先にはL字型の平たい建物があった。
 そんな場所に抱え込まれるように、車やら土嚢やらが防御を固めており。

「どうなってんだ!? こんなに抵抗してくるなんて聞いてねえぞ!?」
「レイダー共はどこいった!? くそっ役立たずが!」
「あいつらなら略奪に行っち……はっ? お、おい……あれ……!」

 ミリティアとライヒランドのチームがそこで粘ってたご様子だ。
 そこで自動式のグレネードランチャーを連射していたが凍り付いている。
 ならうように、何人もの『敵』が手を止めてこっちを唖然と見るが。

「よお旦那、楽しそうだな? 俺たちも混ぜてくれよ」

 真っ先に攻撃を叩き込んだのはツーショットだった。
 東側に小銃を構えていた奴らにめがけて自動拳銃を浴びせて制圧していく。
 咄嗟の銃撃に慌てふためいたところに、

「前ばかり見てたらダメっすよ~、アヒヒー」
『ロアベアさん、行き過ぎないで! 【セイクリッドプロテクション!】』

 仕込み剣を抜いた首ありメイドが文字通り切り込んだ。
 その後姿にミコの防御魔法がまとわりつくのが見えた、これで安心だ。

「で、出たッ……擲弾兵がどうしてっっっ」

 運悪くその先にいたミリティアの言葉はそこで途絶えた。
 まあ無理もない、首周りの防御が足りずに一閃されてしまったのだから。
 ぐらぐらよろめき首もろとも落ちていくところに、両手でクナイを抜いた。

「はっ、あっ、く、首ッ……!?」
「おおっと、どこへ逃げるつもりなのだ! 戦おうではないか!」

 ロアベアもすぐ気を使ってくれたらしい、別の獲物に向かって切りかかる。
 砂漠色をした三人乗りのバギーに逃げた奴らも、ノルベルトが突っ込んで車体ごとひっくり返したようだ。
 建物に駆け込むやつも「ウォンッ!」と追いかけるニクに捕まった、隙ができた!

「邪魔しにきたぞ。クソ野郎ども!」

 そこにいた緑スーツの一人が突撃銃を掃射するのと同じタイミングだった。
 クナイを放り投げる――男の喉に命中、小銃弾をまき散らしながらダウン。
 土嚢の裏に隠れたミリティアの頭にポイント、投擲。顔に刺さった。
 小銃弾が首を掠める。パニックになりながらぶっ放す二人にめがけて次々投げる、命中。

「ぐげっ……!」「おあぁぁぁッ!」「ああああッ!?」「いぎゃッ…!?」
「な、なんだ、なんなんだよお前らは……!」
「は、入るんじゃなかったこんな……ッ!?」

 オーガの魔の手から逃れた奴と、ロアベアに散弾をぶっ放す奴にも撃ち放つが――ばきっ、と弾かれてしまう。
 くそ、アーマーに弾かれたか!
 そこで【ラピッドスロウ】は終わってしまうが。

「お見事。だがまだまだ詰めが甘いな、ストレンジャー」

 ツーショットが足元の散弾銃を蹴り拾って、の足を吹き飛ばす。
 更にもう一人の背中からバシッ!と防具をぶち抜く音が響いて転倒。またボスか。

「あああああああああっ! うあああああぁぁッ! 足が、足がァァ!」
「お二人の言う通りだな、もっと精進するよ」
「アホみたいなスピードで串刺しにしたのは評価してやるよ。さて――」

 「やめっ、やめてくれっ」と乞う声が散弾に吹き飛ばされたところで、俺たちはすぐ動く。
 打ち合わせなんてしていないが、考えることは一緒だったんだろう。

「でっかいの、こいつを敵に向けろ!」

 ツーショットが据えられたままのグレネードランチャーを指さした。
 三脚に乗せられ、さっきまで東に向けられていた物騒なブツのことだ。
 ご指名されたノルベルトは良く理解したようで、

「敵にお返ししてやるのだな?」
「ああ、たっぷり返してやろうぜ。ストレンジャー、使い方は分かるな?」

 40㎜を通すための銃身が通ってきた道のりへ向けられた。
 弾薬箱みたいなデカい弾倉も交換されてレバーも引かれて「どうぞ」だそうだ。

「良く聞いてくれ、こいつ一度撃ってみたかったんだ」
「遠慮しなくていいぞ。メイドさん、こいつの弾ないか?」
「それっぽいのあったっす~、あひひひ♪」
「いつぞや飛空艇で見たあの爆発するバリスタではないか。たっぷり返してやれ」
『……みんな楽しそうだね……!?』

 俺は土嚢の一部を椅子代わりにして座り込んだ。
 なんとなく使い方は理解してる、トリガ周りが五十口径と変わらないからだ。
 ハンドルを握って押し金に指をかけ、道路を辿ってきたであろう人間の塊を狙う。

『いやがった! ぶち殺せ!』
『くそっ! 仲間がやられ――待て、アイツ何』

 実にいいタイミングで来てくれたみたいだ。
 挟撃するはずの連中がひとまとまりになって、ぞろぞろと歩兵まで随伴させてこっちに来るのが良く見えた。
 「やれ」とツーショットに肩を叩かれたのを感じて。

「ようこそ、落とし物があったから返してやるよ! 死ね!」

 親切さをいっぱいに込めて、そいつらめがけてトリガを押した。

*DODODODODODODODODODODODODODOMMKKkk!*

 五十口径のそれよりずっと重い振動で腕が、いや全身が震える。
 グレネード弾を打ち出す重い音の先で、不幸にも何をされるか分かった連中が爆ぜた。
 吹っ飛んだ? いいや、ずたずただ。
 ほんの一瞬を置いて次々と40mm弾が炸裂、煙と破片をまき散らしつつ敵をなぎ倒す。
 車だろうが人だろうが、みな等しくえぐり取られていくのが見えた。
 だからずたずたなんだ。爆発に身動きができず、人の形が弾けていくだけだ。

「ハッハァァッ! いいぜストレンジャー、大戦果だ!」

 二足で歩く奴がいなくなるまで撃ち続ける、身を隠そうと走ったやつも追いかけて叩き込む。
 塀すらも吹き飛ばし、銃座を据えた車も搭乗者ごと叩き燃やされた。
 ぞんぶんにグレネード弾をまき散らすと綺麗な残骸だけが残ったが、

「イチよ、左側の建物だ!」

 ノルベルトに言われて気づく、すぐそばをびゅっと何かが掠めた。
 銃撃だ、ぐちゃぐちゃになった追手の側にある建物からか。
 窓から屋上から閃光と銃声が――よし、こいつで黙れ。

「オラァッ! お前らにも返してやるぞ死ねェッ!」
『いちクンがまた暴走してる……!』
「こいつはこういうときが一番強いんだ、俺がいいっていうまでやらせとけ」

 周りが煩いが無視、建造物ごと吹き飛ばす勢いでグレネードを打ち込む。
 戦前からどうにか残された形がぼろぼろになっていくが知ったことか、ぶち壊す。
 どどどどどどどんっ、と壁やら窓やらを手あたり次第吹き飛ばしたところで。

「ワンッ!」

 その反対側に向けて犬が吠えた、今度は右側から敵だ。
 さっき身を隠しながら進んだ民家に黒と緑の姿を確認、しかし射角も弾も切れた。

「装填!」
「はいはいっすー」

 カバーを開けた、熱々の機関部はやっぱり五十口径と同じ感じだ。
 ロアベアが運んできたグレネード弾の弾帯をガイドに沿って噛ませて、薬室に押し込んで――どうやるんだこれ。
 すぐツーショットがフォローしてくれた、カバーを閉じて両方のレバーをがちゃがちゃ引いて。

「でっかいの、あいつらにもご挨拶だ!」
「フハハ、見ているだけで楽しいではないか!」

 オーガの馬鹿力で三脚ごと敵の方へと向けられた。
 俺は足を広げてオート・グレネードランチャーを挟むように座り込んだまま。

「この前は世話になったなぁ!? 死ねてめーら!」

 今まで募らせてた何かと一緒にグレネード弾を放り込む。
 身を乗り出していた兵士が『クソが』と毒づく姿ごと弾き飛ばしたようだ。
 家も人も爆発に晒されて引き裂かれていく――もうちょっとしばこう。

「よーしストレンジャー、もう十分だ。騒いだことだし次行くぞ」
「オラッ! 出てこい! てめーら全員ぶっ殺してやる!」
『……いちクン、やめよう! もう十分だよ!』

 敵は見えなくなったがまだどこかにいるはずだ、側にある別の建物にも打ち込む。
 念のため建築物を飛び越えた先に向けて連射、ぼんぼんと爆発が響く。
 ずっと向こうで車か何かが急ブレーキをキメて事故る音もした、当たったか。

「……あー、もしもし?」
「どうした!? もっと来やがれ! 殺す気でかかってこいクソどもが!」
『いちクン落ち着きなさい』
「――はい」

 念入りに遠くにもぶちかまそうとしたが、冷ややかなミコの声がしてやめた。
 じっくり加熱された銃座を手放すと、目に見える分のスティングの街並みはいい感じに朽ち果てていた。
 150年分ボロボロになった建築物は爆撃でもされたみたいにとどめを刺されたようだ。

「まあ、大事なのはやめるべきタイミングを見極めることだな。このあたり一帯の被害はあいつらに擦り付けようぜ」
『あ、あの……街の人たちとか、いませんよね……!?』
「このあたりはもうエンフォーサーが離脱させてるからな、大丈夫だろ」
「フハハ、良き暴れ具合だな。まるで廃墟だぞ」
「あ~あ……ボロボロっす、まあ侵略者の方々の仕業ってことで~」

 ツーショットがこういってるんだ、大丈夫だろう。
 俺は用済みになったグレネードランチャーを蹴とばしてから、

「これでだいぶ静かになったな」

 三連散弾銃を抜いた、弾も込めて北に続く道路に向けて歩き出す。
 グレネード弾をまき散らしたせいか、後を追おうとするやつらはいないようだ。
 また進んだ。さっきよりも耳に届く銃声は薄いが、まだまだ西側が騒がしい。

「よし、再度確認だ。西は敵の支配地域、東は味方がいる温かい場所、そして今俺たちがいるのはど真ん中の最前線さ」

 できるだけ建物に張り付くように移動していると、ツーショットが散弾を込めながら言った。
 だいぶ突き進んだようだが、そろそろ線路が見えてきたころだ。
 こいつの言う通り最前線を突破してきたわけだが、現在その中間にいるわけで。

「そういえばボスは俺たちに『危なくなったら帰ってこい』っていったか?」
「言ってないな、暴れてこいとしか聞いてないぜ」
「よし、このまま食い破るぞ。せいぜい好き放題やらせてもらう」
「よくいったストレンジャー、徳を積みにいこうじゃないか」

 予定変更だ、この調子でもっと怒らせよう。
 街の最前線はさっきよりも明らかに大人しいんだから、よっぽど効いたんだろう。
 ボスの言っていた迫撃砲を目と耳で探りつつ進んでいると、

「ボスか。『お前たちなにしてる』だって? ちょっと忘れ物があったからな、親切な誰かさんがご丁重にお返ししたのさ」

 チームバケモンについてきてくれた男が急に無線で連絡を始めた。
 まるで俺たちに聞かせるような口調からしてそういうことなんだろう、現に面白がった顔だし。

「そうか、まあちゃんと成果は出てるってことだろ。心配すんな、今黙らせに行く。お説教は後にしてやれよ。オーバー」
『……お説教……』

 挟まった『説教』というワードはミコも聞き逃さなかったみたいだ。
 大体内容が分かる会話を聞かされると。

「ということでもうすぐ進んだところに迫撃砲の発射地点がある、制圧しに行くぞ。それとストレンジャー、お前は後で」
「お説教だな、そりゃどうも」
「この場合は『よくやった』と受け止めるべきだぜ。敵がビビってるそうだ」

 どうもボスは俺の働きに感謝してるらしい、罵倒込みで。
 自分の処遇は置いといて、街の北部へ駆け足気味に進んだ。
 しばらく敵が来ないか用心しながら歩いていると、ばきん、ともつかない金属音交じりの砲声が聞こえてきた。

「コルダイトのおっさんの言うことは正しかったな、このへんで迫撃砲がぶっ放されてるらしいんが」
「ああ、聞こえるな。この感じからして――」

 道中にあった路地に入ると、敵が進軍する足並みに交じってそれは届いた。
 
『おい聞いたか、あいつら前哨基地に殴り込んできやがったぞ?』
『正気かあの化け物!? くそ、砲弾の補給はどうした!』
『それが……予備の砲弾は近場にある拠点ごと爆破されたとさ。くそっ、無能どもめ、なんであんなとこに……!』

 噂をすればなんとやらがまた形になってるぞ。
 俺たちは頭上から聞こえる言葉に「まさか」と表情を見合わせた。
 白い建物の上に誰かがいて、しかもそこからぶっ放してるらしい。

「そばにいらっしゃったなあ、で……どうする?」

 場所を突き止めたところでツーショットが「どう攻める?」と合図を送ってきた。
 さてどうする、階段でも探すか、隣の建物に登ってそこからやるか。
 なんて考えていたのに――

「フハハ、こういう時こそ近道だろう?」

 一体どうして、すぐそばでノルベルトがロアベアを抱っこしてるんだろう。
 お姫様抱っこをするようにメイドの身体を抱えたオーガが、まるで今にも頭上に放り投げそうなまま。

「そっすねえ、じゃあ行ってくるっす。アヒヒヒ……♪」
『えっ……ノルベルト君? ロアベアさん!? 一体どうする』

 肩の短剣の静止が触れるより早く、首ありメイドはぶん投げられてしまった。
 問題なのはそれが頭上、ちょうど敵のいるであろう二階の屋上で。

『……な、なぁぁぁぁッ!?』
『おっおいおいなんだこいつは――』
『どうもっす~、そしてさようならっす』

 無事に送り届けられたんだろう、ロアベアのせいで大騒ぎになるのが聞こえる。 
 そんな様子を見ていると。

「ではお前もだ、行くぞ!」

 一体、本当に、どうして俺も抱きかかえられてるんだろう。
 気づいたらオーガの腕に捕まって、打ち上げるつもり満々の形で抱えられてしまう。
 なるほどこのまま俺も行けってか、そうかそうか、ふざけやがって。

『ノルベルト君!? ま、待って!? 本気なの!?』
「おい待て馬鹿野郎! 誰が行くって言った!? ちょっとまだ心の」
「案ずるな、俺様が確実に届けてやろう。さあいくぞォ!」
「あーあ……まあ頑張れよ、ここで帰りを楽しみにしてるぜ」

 人の話を聞かないやつと、楽しそうに見送るやつのせいで、身体が急に浮かび上がる。
 フル装備の成人男性だぞ? それが一体どうして五から七メートルほどはある建物のてっぺんまで飛ぶんだ?
 つまり、そう、ものすごい勢いで打ち上げられてしまった。

「うっ……わああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
『ひゃああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』

 心境も状況も共にするミコと共に、俺は屋上の様子が迫ってくるのを見た。
 そこには迫撃砲が数台設置されて、所有者であろうミリティアたちがいた。
 既にロアベアが三人ほど狩ったようだ。首がごろんと三つ落ちていて。

「なんなんだこのクソメイド――はぁぁぁぁぁッ!?」

 その場を指揮していたと思われる、頭をむき出しにした男がこっちに気づいたみたいだ。
 間が悪すぎたのか周りで応戦していた連中も見上げてきた。
 空から文字通り降ってくる擲弾兵は果たしてどう映ってるんだろうか。

「……お楽しみ中失礼!」

 なんであれ、やることはもう一つしか残されていない。
 散弾銃を構えた、迫撃砲の側で呆然とする隊長格の目の前にずっしりと着地し。

「花火会場はここか? 遊びに来たぞ」
「はっ……はは、擲弾兵が降って来るだって? 冗談きつ」

 気が変わる前に銃身を押し付けて――トリガを引いた。
 ぼぉんっ!と何かが弾け飛んだ。その周りにいた仲間たちはさぞ悲惨だろう。

「ひっ、あ、あ、たいちょ……」
「や、やべえ……ころさ」
「お~、かわいそうっすねえ。あんたたちも送ってあげるっす」

 戦意喪失をしようがロアベアはお構いなしだ、二人仲良く一閃した。
 降参に移ろうとした表情はそのままぶつりと転がってしまった、ナイス首狩り。
 残り一人だ。迫撃砲の弾を大事に抱えたままの生き残りが後ずさっていく。

「ひっ、ひひっ、あははは……、ふざけんな、ふざけんなよ、こんなの」

 ……そんな雰囲気のところ、空から黒い影が降ってくる。
 モフモフボーイが「ギャゥン!?」と悲鳴を上げながら飛んでくるところで。

「化け物、化け物がッ! おま、お前は……っ、人間なんかじゃ」
「――ガァァァゥッ!」

 ノルベルトは良く狙ってくれたらしい、退こうとする男の首にニクが噛みつく。
 そいつは砲弾を大切にしたまま、声すら上げられずにぶぢっとかみつぶされる。
 こうして迫撃砲を撃つ人間はいなくなった、仕事は果たしたわけだが。

『動くな! そこで何してやがる!』

 とりあえず戦利品でも拝借しようとしてると、下の方から馴染みのある声がした。
 ぞろぞろとまとまった足跡もついてきたみたいだ、あわせて四人か。

『おや? 軍曹じゃないか、一足遅かったみたいだな』
『……これはこれは、デュオ少佐殿じゃありませんか。で、何してるんです?』
『悪者退治だよ、悪者退治。おい、ストレンジャー! お友達だぞ!』

 聞いたことのある厳つい声だ、それに軍曹という呼び名となれば……。
 俺は恐る恐る、呼び声につられて顔を覗かせるが。

「……なんだ、お前たちか。今度は何やらかしたんだ?」
「よおストレンジャー、もしかして暴れてたのはお前らか?」
「ずいぶん派手にやってくれたみてぇだな――げっ、デュラハンもいやがる!?」
「迫撃砲が止んだんだけどあなたたちの仕業みたいね、よくやったわ」

 シエラ部隊の屈強な仲間たちがこっちを見上げていた。
 相変わらず誰かさんにビビり散らかしてる金髪姿はともかく、筋肉だるまの隊長も、イェーガー軍曹もノーチス伍長も元気そうだ。
 まあ、ちょっと呆れと驚きが混じってるが。

「あ、どうも……お邪魔してました」
「本当に邪魔してくれたみたいだな。ここで迫撃砲を撃ってたやつはどうした?」
「ついさっき不名誉除隊したみたいだ」

 ルキウス軍曹に説明を求められたので……何か証拠になるものと思って、ミリティアのヘルメットを投げ渡した。

「クビにしたわけか、よくやった。とりあえず降りてこい、お前らと合流した方がよさそうだ」

 納得のゆく答えになったみたいだ、顔は厳しいままだが口角が上がるのが見えた。
 せっかくの良き再開になってきたわけだが、

「ほんとにクビにしたんすよねえ、ほらほら~」
「っておい馬鹿! やめろなにしてんだ!」
『ロアベアさん!? そんなことしなくて……いやぁぁぁぁぁッ!?』
「うわあァァッ!? なにしてんだこのアマ!? やっぱマジモンじゃねえか!?」

……誰とは言わないが、笑顔の誰かが生首を落としたせいで何もかも台無しになった。

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