魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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世紀末世界のストレンジャー

爆発は良い気晴らし

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「ああ、異常は――なかったな、うん。注文通り屋敷は無事だぜ、心配すんなよボス。ただ不発弾がいっぱいあるからコルダイトのおっさんでもよこしといてくれ。どうせあいつ暇してんだろ? ちょうどいい機会だ、使い潰すつもりで働かせとけよ。その件についてはうちらに一任してくれ、オーバー」

 助手席からトラックの行く先を見守っていると、ツーショットが話し終えた。
 どうやらヘッドセット型の無線機でボスと連絡をとってたみたいだ。

「なんて言ってた?」
「よくやった、だとさ」
「いう相手を間違えてるだろうな」
「まったくだ、事実を知ったら絶句するぜこりゃ」

 あの素晴らしい守りを得た屋敷はともかくとして、俺たちは今、街の中央部のより深いところに向かっていた。
 バケモン揃いの車が潜れば潜るほど、耳にする銃声は濃くなる一方だ。
 次第にざわめく人々の声や、正常じゃない人間の雄たけびすら聞こえるようになってきた。

「んで向こうから指示があったぜ。今度は宿の方に迫撃砲の攻撃が近づいてるから、ぶっ放してる馬鹿どもをたっぷりこらしめろ、だそうだ」
「さっき屋敷を攻撃してた連中か?」
「だろうな、場所ならコルダイトのおっさんが着弾痕から割り出したらしい。中央部のずっと北側、線路沿いの建物のどれかだ」
「あのおっさんすごいな。で、どういう段取りで抑えるんだ」
「激戦区に飛び込む、敵を蹴散らす、探して殺す。これしかないだろ?」
「目立って来いってか、いつも雑な命令してくれてありがとうボス」
「そんだけお前のことを信用してるのさ、まあ楽しくやろうぜ」

 そんな場所に突っ込んで悪者退治をして来いというのが次の頼みか。
 トラックが入り組んだ住宅地に差し掛かったところを見て、俺は荷台に顔を出した。
 ノルベルトとロアベア、それとニクが戦場に向けて出荷中だ。

「みんな聞いてくれ、屋敷にゴミを不法投棄してた連中を探して、よくぶちのめしてこい、だとさ!」
「フハハ! 不埒な輩を片付ければいいのだな、よく心得たぞ!」
「それはいけないっすねー、よく懲らしめて差し上げないと……アヒヒ♪」
「ウォンッ!」
「ったく、面白い奴らばっか集めやがって。おかげで当分退屈しなさそうだぜ」
『……それってわたしも入るの……!?』
 
 そうこうしてるうちに、ツーショットの言う面白い奴らは無事に戦場に届いたみたいだ。

 先日見た街の光景が、物騒な連中にそのまま上書きされたような状況だ。
 建物の中や陰から、屋根の上から、しまいには道路のど真ん中でどこかに銃をぶっ放す連中。
 この状況に乗って民家や倉庫から好きなものを、破壊と殺人と引き換えに持ち帰る賊ども。
 ――そんな奴らの後ろ姿がちょうど良く見えるわけだが。

「おい、ここってもしかして敵の真後ろか?」

 問題を一つ上げるとすれば、今俺の言う通りどこを向いても敵だらけ、なんなら帰り道にも待ち構えていそうなところだ。
 残念だが味方の姿は見えない、もっと奥の方で戦ってるだろう。

「そりゃそうさ、その方が襲いやすいだろ?」
「ああなるほどな、敵のど真ん中に来たわけか……冗談だろ?」
『……って、なんでそんなところに来たんですか!?』
「いや実をいうとだな、最短ルートを選んだつもりなんだが、俺の予想以上に敵が集まってたわけだ。つまり――」

 ……どうしてそんなトコに連れて来たんだ、この馬鹿野郎。
 わざとここまで連れて来たんじゃないなら仕方ないが、それにしたってタイミングが悪すぎるだろ!?

『……! ツーショットさん、前ッ! 前から来てますっ!?』

 いろいろと罵ってやりたかったがそうもいってられないようだ。
 こっちに気づいたであろう誰かが、ちょうどその時物陰から物騒なものを向けてきたからだ。
 ミコの言う先には鉄パイプを加工して作った何かを肩で支える姿があって――確か、パイプランチャーとかいったな。

「ぱっ……パイプランチャー! こっちに思いっきり構えてるぞ!」
「すまん俺のミスだ。やっべえ全員降りろォォォッ!」

 まさにその通りだったからだ、お構いなしにロケット弾がぶっ放された!
 一瞬飛来するそれが見えて、俺たちは仲良く同じタイミングで飛び出す。

*BAAAAAAAAAAAANGGGGG!!*

 すぐ荷台の奴らも飛び降りたようだ。直後に車が爆ぜる轟音が頭上を過った。

「フハハ! やつらも相当本気のようだな!」
「おっと~……今日は一段と過激っすねえ」

 ノルベルトはニクを抱えて離脱してくれたし、ロアベアはしたっと華麗に着地した。
 俺も地面を転がり抜け出すと、無人になった車が部品を爆ぜ散らしながら走り去っていく。
 やがて燃える廃車は道路に陣取って戦う連中のところまで向かって――あーまずいぞ、こっちに気づいた。

『後ろだと!?』
『くそっ回り込まれた――いや待て、あのジャンプスーツは』
『ストレンジャーだ! 俺たちの背後にストレンジャーがいやがるぞ!』
『なっ……どういうことだ!? いやアイツを狙え! 早くしろ!』

 不本意ながらの誰かさんの登場に向こうはかなり動揺しているようだ。
 道路に積まれた陣地からの注意がこっちに向くし、屋上に潜んでいたであろう敵も姿を見せてきた上に。

『ヒャッハァー! ようやく姿を見せやがったなぁ!』

 路地から機銃を積んだ車が何台も出てきた。多すぎだ、ボケが!
 みんなで顔を見合わせた。たぶん、恐ろしいスピードでこの場の意思は一つにまとまったと思う。

「良く聞けみんな――走れェェッ!」
『みっ……みんな逃げてぇぇッ!』
「よしとにかく走れ! 味方がいるとこまで止まるんじゃねえぜ!」
「俺様が先行するぞ、続け!」
「うちら人気者っすねえ、アヒヒ……♪」
「ワンッ!」

 目先に次々集まる敵の群れに、俺たちは急いで逃げ道求めて走った。
 前後もダメ、左もダメなら――右側に路地がある!
 ノルベルトを肉盾に突き進むと、後ろから銃声やエンジン音が追いかけてきた。

「な、なんだァ!? なんで敵がいやがるんだ!?」
「ストレンジャーだぞあいつ!? 攻撃だ! 逃がすんじゃないぞ!」

 逃げた先からもレイダーやミリティアが慌てて足止めしようと姿を見せる――
 敵は五名、放置された車を遮蔽物に小火器を構えたところだ。
 散弾銃を抜いたが、まずロアベアが杖を握ってしたたたっと駆け抜けて。

「ごめんなさいっすー、道をおどきになってくださいっす」

 何を考えてるのか、オーガの巨体を追い越して間もなく止まった。
 敵の目の前でだぞ? 距離は大体十メートル、剣で届く距離じゃない。
 なのに首ありメイドの身体が腰を落として構える。そこから利き手で柄を握ると、仕込み剣をびゅっと一閃した。
 はずなのだが。

 びゅおんっ。

 刀身を振るう音とはまた違う、低い風切り音を立てて剣先から何かが飛んだ。
 ほんのりと蒼く、硝子のような透明さを感じる何かが、ちょうど車の残骸から覗いてきた顔に飛び込んで。

「おいおいなんだあのメイ――ッ」
「ははっ、見ろよ変な格好した姉ちゃんが……ッ」

 ミリティアの黒づくめと、パートナーのレイダーだろうか。
 そいつらの表情がそこで止まった。体の動きも強張り、それ以上動かない。
 けれども異変はすぐに起きた。ロアベアの発したそれに煽られた二人の顔が崩れた。
 違う、崩れたんじゃない、顎から上がずるりと落ちたのだ。

「ひっ、おま、頭……うわああああああああああああああっ!?」
「はっ……? ど、どうした……おい、なんだこれッ!?」
「あたまがっあたまが……どうなってんだああああァァッ!?」

 直室したまま突然頭の半分を失った仲間に、敵が慌てふためく。
 感覚で分かった、斬撃を飛ばすとかそういうやつだ、もしかしたら――

「あひひひ。【ゲイルブレイド】っす。いや~、もうちょっと下だったすねえ」

 そういうことだ、早速【アーツ】をお見舞いしやがった。
 「あとはどうぞっす」と身を翻して射線を作ったロアベアの代わりに、混乱する敵へと散弾銃を構えた。
 逃げ出すやつの背中にポイント、射撃、地べたにキスして停止した。

「ヴァァゥ!」
「流石だロアベアよ! よくぞ殺した!」

 そこにニクが廃車を飛び越えて別のレイダーを捻じり倒してくれた。
 残ったミリティアにもノルベルトが跳躍、太い足先で防具ごと地面に打ち倒す。
 あっという間に敵を平らげた、目前の敵は片づけたが追手はまだまだいる。

「どうなってんだお前ら……マジでバケモンだな、悪い夢でも見てるみたいだ」
「案ずるな、良き顔の者よ。じきに慣れるぞ」

 こんな有様にツーショットが『なんとも』な笑いをひねり出すが、そこにオーガの手が足元の武器を投げ渡す。
 ミリティアが手にしていた突撃銃だ。本人は慣れた手つきで弾を確認すると。
 
「その良き顔の者ってのは当然俺のことだろうな、いい評価をありがとう。まったくどうなってんだ近頃のウェイストランドは」

 そう口にしながらも、いきなり銃口を上に向けた。
 すぐそばにある建物の上だ。『敵だ』と遅れて気づいて構えるが、ツーショットは素早く二発打ち込む。
 やはりその通りだった、緑色のスーツを着た兵士が落ちてくる。
 これで敵は見えなくなった、このまま一気に路地を駆け抜けようとするが、

「逃がすかよォ! 馬鹿野郎どもがァ!」
「いたぞ! 挟撃しろ!」

 その先にある道路から装甲車両と随伴した敵の不幸なセットがやって来た。
 後ろには先ほどの追手が――それならこうだ。

「ノルベルト、近道だ」
「俺様もちょうどそう思ってたところだ、任せろ」

 俺は先ほど屋上から敵が覗いていた建物に向かった。
 ノルベルトも驚異の理解力を持ってくれてたみたいだ、立ちふさがる白い壁に向かって身構えて。

「さあ皆の者、俺様に続けえええええええええッ!」

 オーガの質量をもってして突っ込んだ。
 戦前から残る建物はどうも強度不足だったに違いない、巨体一つ分の穴があいていい感じの近道ができた。
 中から「なんだよこのミュータント!?」「敵が来やがったぞ!」などと聞こえてくる、このまま『ダイナミックお邪魔します』だ。

「マジかよ……」
「観念しろ、マジだ。お邪魔するぞオラァッ!」
『……ツーショットさん、もう慣れてください……』
「お邪魔するっす~……アヒヒヒ♪」

 俺たちも突貫するオーガに続いた。
 中はおしゃれなバーか何かだったに違いない、もっとも今では『敵』が居座るための拠点になってたようだが。
 武器や弾薬が一か所にまとめられていて、荷物を枕代わりに休むやつらがうじゃうじゃといて。

「おいおい待てよ嘘だろォォォォッ!? なんでストレンジャーがこっちに」
「軟弱者どもよ、そこをどけェッ!」
「ごめんなさいっす~、チームバケモンのお通りっすよ」
「ははははっ、面白くなってきたなぁ! 心配するなもう慣れたぜ!」

 運悪くノルベルトの侵攻先にいた二人が見事なダブルラリアットで刈り取られた。
 何が起きたか分からぬまま呆然とする緑服の兵士にメイドの刀が一閃、首を打ち取られる。
 思い思いに休んでいた人だかりに向かってツーショットが自動射撃を浴びせる――めちゃくちゃだ。

「こ、こいつら……!? ええい、何してる! ここを通すなぁッ!」

 カウンター前で何やら話し込んでいた軍服の一人が俺に気づいたようだ。
 慌てふためきながらも自動小銃を手にかけたようだ、ちょうどいい。

「ニク!」

 ベルトからテープのついたクナイを抜きつつ相棒に頼んだ。
 「ワンッ!」とニクが手に噛みつく――振るい回して銃を無力化したようだ。

「い、犬ゥ……!? がっ……は、放せぇぇ……!?」
「よお、仕返しに来たぞ」

 前方はオーガに丸投げして、腕を封じ込まれたそいつに組み付いた。
 首を捻じり落とすつもりで捕まえると、ちょうど人質を取るような形になった矢先にバーの片隅から人だかりが見えた。

「く、くそぉ……! こいつら正気か!? 殴り込みにきやがったぞ!」
「擲弾兵! そいつを放せッ! 俺たちに勝てると思ってんのか!?」
「ま、待て撃つなァァ! 頼む、俺に当たる……!」

 そこで武器弾薬の山を検めていたやつらが、近場の武器や自前の拳銃を向けてきた。
 仲間を撃つかどうか悩んでらっしゃるようだが、間もなくお構いなしになりそうだ。
 なら離してやろう。俺は片手でクナイを逆手に構えて、

「ほら、離してやるよ」
「離しやがれ……ぎゃっ!?」

 そいつの背中に思いっきり突き立ててから、お仲間の元へと解放した。
 心温まる行動だと我ながら思うが、問題はクナイが爆発するやつで、その安全装置がもうないってことだ。

「だっ誰か助け……いやだ、死にたく」
「う、うわっなんだお前その背中の――」

 HEクナイが突き刺さった兵士から全力で離れた。
 ちょうどノルベルトが道を作ってくれたようだ、大混乱の建物の中を一気に走る。

「はは、ははははっ! ストレンジャー、やっぱお前はボスの一番弟子だ!」

 そう笑うツーショットたちと共に道路へと抜け出した直後――

*BAAAAAAAAAM!*

 何人かの悲鳴と共にクナイが爆ぜる音がした。
 ほんの僅かを置いて、その周りにあるだろう何かが連鎖的に爆発していく。
 やがて建物を十分に吹っ飛ばす威力までたどり着いたのか、背中に爆風と破片が飛んできた。

「フーッハッハッハ! 派手だなぁ、イチよ!」
「アヒヒヒッ、大爆発っすねー!」
「ドカーンだ、くそったれ! あーせいせいした!」
「やっべえ超楽しいな! そうだよ、こういうのを感じたかったんだ俺は!」
『……エグいよ、いちクン……』
「ワゥン」

 爆音に交じる追手の怒声や喚き声や『擲弾兵』への呼びかけやらを受けながらも、味方のいる場所めがけて走り続ける……。

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