魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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世紀末世界のストレンジャー

朝這い(と書いて宿屋レイドバトル)

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 宿屋を包み込むような銃声、そして壁を叩く弾着の音。
 的は外れているが規模が大きすぎる、段々と銃撃が激しくなりつつある。
 血だらけ首だらけの廊下に駆け込むと、開きっぱなしの部屋の中から銃身が飛び出て。

『ここはどうなってやがるんだ!?  話と全然違うじゃねえか……!』

 おそらく外からのお客さんだ、こっちも踏み込みつつ銃口を突き出す。
 敵を探る銃身を三連散弾銃で叩き上げる。自動小銃だ、銃を絡めて狙いをそらす。
 急に持ち上がる得物に「うおわっ!?」と気が散った男が引き金を絞り。

*Brtatatatatatatata!*

 制御不能の連射が天井を親の仇みたいに撃ちまくる――後でママに謝ろう。

「いらっしゃいお客様、宿に穴開けてんじゃねえよクソが!」

 相手が取り直す前に銃をひねり飛ばした。距離が近すぎだ、散弾銃を逆さに構える。
 咄嗟に向こうも腰の拳銃に手を伸ばそうとするが、更に詰めて銃床を顔に叩き込む。

「ほがっ……!? は、か、かおっ、あああああああ……!?」

 硬く重くカスタマイズされたそれはちょうどいい具合に働いてくれたようだ。
 顔面を雑に整形された男が仰向けに転倒、「待て」と手を突き出してきた手ごと散弾で掃除した。
 すると別の部屋がどんっと開いて。

「うわああああああああああああぁぁッ!! な、なんなんだこのデカい――」

 武器も捨てて半狂乱の男がやってきた、が。

「フーッハッハッハ! 外に出たいのだろう? 俺様が送ってやろう!」

 ノルベルトの巨体がすぐに迫って、その体を羽交い絞めにしてしまう。
 それからもがく男が罵詈雑言や命乞いを残しながら引きずられて……ああ、うん、お帰りになったみたいだ。

「そっちは大丈夫か!?」
「今済んだところだ! こやつら大したことないな!」
「こ、このおおおぉ……離せっ、離せぇぇぇ……!」

 片付けが終わったオーガがのそのそやってきた、一仕事終えてさっぱりしてる。
 ただし侵入者を一人ずるずる引きずっている。まだ生きてるレイダーだ。
 手にした短機関銃でべちべちと太腕を叩いているが歯が立っていない。

『ノルベルト君、その人……!?』
「逃げ遅れたようでな、捕まえた」
「そんなの早く捨てろ! それよりクリューサたちは――」

 こっちは大丈夫だ、問題はあの医者とダークエルフの方だ。
 今頃どうなっているんだ……と思った直後。

『クリューサ! 大丈夫か!』
「く、うおおおおおおおお……!?」
「ヒャハハハハッ! 死ね貧弱野郎がァァァッ!」

 隣の部屋からそのご本人が出て来た、一人の男と取っ組み合いながらだが。
 不健康そうな顔色を必死に染めながら、叩き込まれようとするナイフを受け止めよろよろ下がってくる。
 けっきょくごろっと押し倒され、馬乗りのままお医者様の命が脅かされるわけだ。

「医者よ、今助けるぞ!」

 必死に刃先を食い止めようとするところにノルベルトが真っ先に動く。
 圧し掛かって頑張る賊へと、生け捕りにした同族を不法投棄しただけだが。

「うあああああああああああああああああ~~~~ッ!?」
「なっなんだおま――――ッ!?」

 回し投げるように解き放たれたやつが命中、ごしゃっといい音で潰れたようだ。
 問題は一緒に医者も潰された点だがまあ、生きてるしいいだろう。
 現にクリューサは「何考えてる!?」と言いたそうな顔で起きて。

「……あっちの世界とやらは人を放り投げる文化でもあるのか!?」
「手ごろなものがなくてな、申し訳ない。礼はいらんぞ」
「どうもありがとうだこのオーガめ! ……クラウディア!」

 恩人を一瞥しながら部屋の方へと声をかけた。
 すると医者の声についてくるように、

「クリューサ、無事か?」

 血でべっとりな鍔付きのナイフを手にしたご本人が駆け寄ってきた。
 その後ろを見ると何人も転がっている、たぶん一人で始末したんだろう。

「ごらんのとおり無事だ、そこの親切なオーガのおかげでな」
「それなら安心だ。こっちは片付いたぞ、だいぶ攻撃も緩んでるが――」

 こうして合流を果たすと――別の部屋のドアがばたっと開いた。
 手斧を持った重アーマーの男だ。こっちを見るなり忙しく得物を振りかぶるのだが。

「どうなっているんだこの数は、殺しても殺しても止まらないぞ」

 そこにいち早くクラウディアが動く。
 手にしたナイフを逆手にくるりと持ち直すと、そこからしたたっと駆け抜けてしまった。
 初めて見る動きだ。まるで地面をすべるような身の軽さで敵の懐に潜り込んでいく。

「敵を発見、だ! 大人しく俺たちの――へっ?」

 さすがの相手もそんな動きについていけず、気づけば間合いを詰められて面食らっており。

「まあ、ドワーフの酔いどれどもよりノロマで狩りやすいのが救いか」

 ごてごてに守られた姿を通り抜けて、振り返りざまに後ろから突き立てた。
 防御の薄い腰に叩き込んだようだ。唐突な刺突に「あがッ!?」と悲鳴が上がり。

「うん、まだ戦いづらいな。ナイフをもう一本か、クロスボウでもあればちょうどいいんだが」

 引き倒しつつ下腹部を斜めに一突き、脇腹も素早く突きほじくって倒してしまう。
 ……ぞっとした。訓練を受けたから分かるがあまりに早すぎて、あまりにエグい。
 一瞬で内臓を幾つもやられたわけだ、男はショックで動けないし間もなく死ぬ。
 しかも言い方からしてまだ本領は発揮してないらしい。バケモンか。

「おお、さすがダークエルフよ。冷たい武器のことを良く心得ているな」
「色白とは違うんだぞ。まあ、あいつらの方が規格外だが」
「確かにな。あやつら昔は長弓でドラゴンを数え切れぬほど屠ったと……」

 だが、こんな状況じゃ頼もしいほかない。

「クラウディア、だったらこいつを使え」

 俺は好奇心も隠し切れずに、あるものを取り出して投げ渡した。
 昼間の神様とやらが忘れていった湾曲した小ぶりのナイフだ。
 オーガと語り合っていたクラウディアは「これは?」と顔で聞き返して来た。

「お客様の忘れ物だ、返してやってくれ」
「これは助かるぞ。さて、二刀流は久々だが――」

 もう一つのナイフはすぐに馴染んでくれたみたいだ、器用に構えている。

『ウォンッ!! ウォンッ!!』

 そこに犬の声の声が挟まってくる。
 外からの銃声は止んだが今度は内側が騒がしい、物が倒れる音や怒声やらが聞こえていて。

『ま、ママを離して……!』
『ビーン! 逃げて! 私のことはいいから早くッ!』
『おおう、いっぱいきたっす~!』

 一階の方が騒がしくなっていた、くそ、ママたちまで襲ってやがる感じか!

『いちクン! ママさんたちが……!』
「まだまだいやがるか! 助けに行くぞ!」

 俺はさっき敵が落とした散弾銃を拾って、クリューサに投げた。
 いきなりの重さにとっっっても嫌そうな顔をされてしまった。
 
「使えるよな?」
「好きじゃないがな」
「だったら今すぐ好きになってくれ」
「先に言っておくぞ、こいつはともかくお前のことは一生好きになれそうにない」
「正直に答えてくれてどうもありがとう先生、行くぞ」

 お医者様はぎこちなくフォアエンドをスライドさせた。
 俺も撃った分の弾を交換しつつ、通路を抜けて吹き抜けの方へと急ぐが。

「金だ! 早く金目のもん探せ!」
「酒はねえのかよここは!?」
「邪魔すんじゃねえこのクソガキがぁ!」
「はっ……離してちょうだい! ビーン! ビーン!!」

 そこから見下ろした宿の光景はそりゃもう悲惨なものだ。
 テーブルが倒れてるぐらいならともかく、冷蔵庫は漁られカウンターはかき乱され、ママは羽交い絞めにされてる。
 しかも隅っこでビーンが取り囲まれて、殴られ蹴られのリンチ状態だ。

「あっイチ様~! 早く助けてほしいっす~!」
「なんなんだこのメイドは――あっ……!?」

 そんな中で取り囲まれつつ、突き出た奴の頭を切り落としていたロアベアが手を振っていて。

「犬に注意しろ! そいつはアタックドッグだ!」
「クソがぁぁ! 当たらねえぞ! 誰か捕まえろォ!」

 ニクがレイダー共の間を駆け抜けて、銃口に追いかけられている状態だ。
 真下にはちょうどこっちを見上げて気づいてしまった奴らが――よし。

「行くぞお前ら! 全員ぶっ殺せ!」
『えっ、いちクンまさか……ひゃああああああっ!?』
「フハハ! 俺様も派手に降り立つとしようか!」
「貴様らよくもママと私のご飯を……許さんぞ!」
「……お前たちは正気なのか!?」

 俺は手すりを飛び越えた、こっちを見つめるレイダーの顔面目掛けて。
 ついでにみんなもついて来たみたいだ。お医者様だけ遠慮したようだが。

「で、出たぞストレンジ――ぎゃぶっ!?」

 自動小銃を向けようとしたそいつの顔面を踏みつぶした。この感覚、随分久々だ。
 突然の登場に困惑したレイダー共の手が一瞬止まる――そこへ。

「よくもママの宿を壊してくれたな、不埒な者どもめ! 俺様が成敗してくれるわッ!」

 巨体が突っ込んで、まとめて二人ぶしゃっと潰す。いきなりの質量に周りがざわめき退き始めた。
 逃げようとする奴すら出たが、その後ろにしたっとクラウディアも着地、手近なヤツの首をすれ違いざまに切り裂き。

「賊どもめ私はどこでご飯を食べればいいと思っているんだもう怒ったぞ!」

 くるりと別の男に回り込み側面を突き刺す、レイダーの群れの中を切り駆け抜け始めた。
 その油断した瞬間を見逃さなかったんだろう、気を取られたやつの首がすぱっと落ちる。

「助かったっす! 今助けるっすよママさん~」

 包囲から抜け出した首ありメイドもこっちにやってきて、剣をびっと振るって血を払った。
 結構な数の死体が既にできてるみたいだが、敵はかなり怖気づいてるようだ。

「な、あっ、あ……うおおおおおおッ!?」

 その時見知らぬ誰かが叫んだ、目の前の一人が俺に向かって突っ込んでくる。
 慌てず散弾銃を持ち上げ射撃、首から上を穴だらけにした。
 カウンターの裏から別の敵が身を乗り出す、手には拳銃、片腕ごと吹き飛ばす。

「い、いだっ! やだ! いたいよっ! だすけ」

 ビーンの声がした。さっきの場所を見れば数人がかりでボコられている最中だ。
 45-70弾に切り替えて一番近い奴の背中を狙い――トリガを引く。

*Bam!*

 ぶち抜いた。他のやつの動きが止まってこっちに意識を向けた。
 散弾銃にリロード……いや。

「――ミコ!」
『うん! 【ショートコーリング!】』

 頼れる相棒にお願いした。引き寄せの魔法だ。
 ぶょん、と独特な作動音がして、囲まれていたビーンが足元に落ちてくる。
 目の前には無防備な敵が数人、銃を投げてベルトに手を伸ばし。

「よお、今からお前らは出禁だ」
「ぼ、ボルターの怪だ! 不死身の男だ!」
「ビビってんじゃねえ! あんなの迷信――」

 クナイを両手でつかんだ、目の前に三人だ。
 上半身の捻りと共に投擲。びゅっと手放した刃物が端にいた奴の首に刺さる。
 更にもう一発ぶん投げる。別の男の目を貫くのが見えた。
 三人目にも投げ放つ、逃げようとしたところに刺さって背中にクナイが生えた。

 ――まだだ! 振り返ってまだ敵のいるであろう入口へ向かう。
 ロアベアの剣を牛刀でどうにか受け止めていた奴に投射、頭に横からぶっ刺さる!
 ノルベルトに散弾を撃ちこもうとした男の横顔に投擲、ヒット!
 犬を追いかけまわしていた馬鹿野郎の後頭部にクリティカル! クナイは品切れ、【ラピッドスロウ】だ!

「ヴァァゥッ!」

 攻撃から外れたニクが動いてくれた、ママに組み付いたレイダーの足に噛みつく。
「いだああああッ!」と思わずふとましい身体を弾き飛ばしてしまったところに。

*zBaaaam!*

 クリューサが銃をぶち込んだようだ。ショットガン外科医によって患者の脳は吹っ飛んだ。
 一瞬持ち主の目をやると「どうだ?」と少し得意だ。
 こっちも目で「お見事先生」と返しつつビーンの方へと向かう。

「大丈夫かビーン!」
「う、うん……! ありがとう、おにいちゃん!」
「よし、ママ連れて守ってやれ! ミコ、頼んだ!」
『ビーン君、少し痛いけど我慢してね!? 【ヒール】!』

 顔中血だらけだがそれなりに元気そうだ、頑丈なやつだ。
 ミコの回復魔法に少し痛そうにしつつも、解放されたママのところへ向かったようだ。

「ごめんよママ! 店ぐちゃぐちゃだ!」
「いいのよ! やっつけちゃって!」
「ママ、こっち……!」

 これでママは無事だ。本人は足元の銃を拾ってカウンターの奥へと潜っていった。

「イチ様~、パスっす~」

 すると向こうで敵のナイフを受け流したロアベアがこっちに一声、それもよろめくレイダーを送ってきた。
 おいなんでこっちに……馬鹿野郎! このダメイドが!
 もたもたしながらも切りかかりにくる相手に向かって銃剣を抜く。

「お、とっ……ど、どけぇぇっ!?」

 ほとんど転ぶように突っ込んでくるそれに構えて、逆手構えのナイフに腕をねじり込ませた。
 手首で動作をブロック。立ち止まった相手の腕を抑えながら腹を刺した。何度もしつこく。
 内臓をひっかかれたレイダーがダウン、これでほっといてもくたばる。

「次同じことやったらクビにしてやるぞ!」
「そんな~」
「イチよ! 俺様からもだッ! そおれっ!」

 ……と思ったら、ノルベルトの勢いのある声が挟まる。
 振り向くと生きたままの新鮮な賊が重量感たっぷりに投げ込まれているところだった。

「ひ、あ、わあああああああああああッ!?」
「おまえら……なに……畜生お前ら後で覚えてろ!」
『ノルベルト君何してるの!? いちクン避けて!?』

 重装甲ごと投げられてきたそれをキャッチ!……ってできるわけないだろ!
 だからかがんだ。横向きに飛んできたそれを背中で受け止めて、あとは重力のルールに従って床にトスした。
 背後でずしゃっと潰れた。頭から落ちたようだ、首が真横向くほど痛かったそうだ。

「食べ物を粗末にした罰は重いぞ! 命をもって償え!」

 戦線が乱れてきたところにダークエルフも更に暴れまわる。
 戸惑う相手の首を小ぶりのナイフでひっかき、振り下ろされた得物を受け流し、すべるように回り込んで弱点を突いていく。
 まるで踊るようだとも言える動きで次々と屠っている……どうも向こうの世界の女性はお強いようで。

「どうしたッ! もうおしまいかァッ!」

 とうとう士気が崩れ始めたところ、オーガの巨腕が重装甲ごと一人をぶち抜くと――

「……て、撤退だ!」
「これ以上はいい! こんだけやれば十分だろ!?」
「そ、そうだ……もう十分だ! 引け! やることはやった!」
「クソッ! こんなの一言も聞いてねえぞ!」

 大混乱の末に逃げることさえもままならなかった賊どもが、そう残しながら死に物狂いで逃げていく。
 宿を囲んでいた銃声や気配すらもなくなって、残り少ない男たちは武器すら手放し走り去る。

 レイダーたちは逃げた。宿の代金代わりに静寂と死体を残して終わったようだ。
 血と生首と空薬莢といっぱい転がるそこで、最初に言葉を発したのは。

「……随分と繁盛してるようだな、ここは」

 弾切れの散弾銃を放り投げたクリューサか。
 いい感じに日の光も差し込んできた、もう朝だ。
 宿を埋め尽くす死体の山に【LevelUp!】と通知が重なった。

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