魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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世紀末世界のストレンジャー

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 変わった顔ぶれが待つ広々とした空間があった。
 木造の廊下とつながるそこは、一言でいえば食堂というよりは酒場だ。
 こんな時間なのにまだまだにぎやかな空気だ、いくつものテーブルをまだ何人かが適当に囲んでいて、カウンターの裏では酒瓶だらけの棚をバックに男がこっちを見ており。

「やっと起きたか」

 愛想のない声をかけてきた。あのときの黒髪の白人だ。
 相変わらずエプロン姿だが、実戦向けに鍛えられた肉体は隠しきれていない。
 ただちにジャングルで大軍相手に機関銃持って暴れまわったとしても、誰一人違和感を感じるやつはいないと思う。

「おはよう。ご飯作ってくれた?」
「覚醒して第一声がそれか?」
「まさかここって飯食う場所じゃなかった?」
「……そこで座って待ってろ」

 そんな男は約束通りこのストレンジャーのために何か作ってくれたようだ。
 俺は言われるがままにカウンターの席についた。
 向こうに見える厨房の中で不愛想な男が鍋をかき回してるのを眺めてると。

「よう、おっさんのこと覚えてる?」 

 親しみのあるブラウンの髪色なおっさんが近づいてくる。
 悪役が似合いそうな顔と体つきだが、人懐っこい笑顔で隣に座ってきた。 

「もちろん。コルダイトだったよな?」
「そうかそうか、ちゃんと覚えててくれたか。気分はどうだ?」
「何もかもすっきりだ。で、また俺で賭けでもやってたのか?」
「そこのお嬢ちゃんがずっとお前のこと心配してたもんだからな、今回ばかりは雨天中止だ」

 コルダイトのおっさんは武器慣れしたごつごつとした指を向けてきた。
 その先にはちょうど、俺が抱えている物いう短剣がある。

「ま、なんだ。女の子は大切にしとけよ。おっさんからのアドバイスだ」
「……とっても身に染みる言葉だ」
「次から気をつければいいのさ。なあミコサンよ」
『えっ……は、はい……!』
「おいおい、まだ俺のこと警戒してんのか? こう見えて優しいおっさんなんだぞ? そう身構えなくたっていいのによ」
「ミセリコルデ。その爆弾魔のことは半分疑ったままの方が安泰だぞ、後悔したくないならな」

 フレンドリーで屈強な男にまとわりつかれてると、黒髪のおっさんが戻ってきた。
 手には熱々のスープみたいなものが注がれた器がある。

「まったく……死にかけのストレンジャーに喋る短剣、タグつきの犬にミュータント、それによく分からん魔女とガチョウだと? 俺は変人のたまり場にするためにこんな農場を開いたわけじゃないんだぞ」

 不愛想な声はまだ呆れがこもってるが、ともあれ目の前に料理を置いてくれた。

「ブラックガンズ特製のチキンヌードルスープだ。早死にしたくなかったらゆっくり食え」
「あれ? ハーヴェスター? 俺の分はないの?」
「コルダイト、お前は病人だったのか? 頭がイカれてるのは確かだが」
「お前に爆弾魔いわれて心に傷がついちまった。責任取ってくれ」
「……ここにはもはや変なやつしかいないようだな、くそったれ」

 湯気を立てる器が目の前に置かれると、どんな料理なのか謎が解けた。
 ニンジンやらセロリやら玉ねぎやらと、細かく切りそろえた鶏肉と、黄色味のある短いヌードルをたっぷり入れた具沢山のスープだ。
 この世界にしてはずいぶんと家庭的な見た目だが、一目でひどい空腹が死の淵から蘇ってしまう。

「……いただきます」

 どんな味かはさっぱり想像はつかないが、突っ込んであるスプーンをたぐれば良く理解できた。
 少し薄味に感じるが香味野菜とコショウの香りがよく効かせてある。
 これはじっくりと煮込まれたおいしいスープだ。
 ヌードルも煮込まれすぎでくたくただが、でも今の自分にはちょうどいい。

「ゆっくり食えといっただろう。死に急ぎやがって、そんなに腹ペコか?」
『いちクン、ゆっくり食べよう? まだ起きたばっかりなんだし……』

 ひたすらかっ食らっていると黒髪の男が小皿を差し出してくる。
 クラッカーが数枚乗っていた。ばりばりかじりながら口に運んだ。

「なあ、これ味薄すぎじゃないか? 塩ないの?」
「コルダイト、お前は病人食って言うのを知らないのか? 黙って腹に入れてろ」
「こいつと違ってそこまで深刻じゃねえんだよ、ついでにビールもくれ」

 すぐ隣で繰り広げられる二人のおっさんのやり取りを感じながら、あっという間にスープを平らげてしまった。
 そして俺は空になった皿をそっと差し出した。

「うまかった、次からゆっくり食うからおかわりくれないか?」
「……次ゆっくり食わないと二度とおかわりはなしだ、いいな」

 愛想のない男は呆れた目線を向けてから、厄介者を扱うように厨房へ戻った。
 おかわりを待っていると、

「あれでもおいしいって言われて喜んでるのよ。不愛想な人だと思わないであげてね」

 白衣の姉ちゃんが隣に座って声をかけてきた。
 確かに愛想がないのは分かるが、それでもわざわざ病人食を作ってくれる気遣いの方がよっぽど強く感じる。

「俺は見た目じゃなく中身で差別する人間なんだ。それくらい分かる」
「あら良かった、わたしは気づくのに二年ちょっとかかったわ」
「あいつにフラれるまでの間違いだろ?」
「黙りなさいコルダイト、ぶち殺されたい?」
「おー怖い! 気をつけろよストレンジャー、この姉ちゃんおっかないぞ。人体実験とか大好きなタイプだからなぁ」
「どんな事情か知らないけどその件については無関係でいさせてくれ」

 だんだん周りがにぎやかになってきた。
 厨房の向こうでおかわりが注がれてるのを見ていると、通路の方からどたどた足音が聞こえてくる。

「イっちゃん! おはようですわ!」
「イチよ、よくぞ戻ったな! 必ず戻ると信じていたぞ!」
「Honk!」

 筋肉強めなオーガとパジャマ姿の小さな魔女がやってきた。
 二人とも元気そうだ。それから足元にいるガチョウも。

「ああ、おはよう。心配かけて悪かったな」
「おい、あんまり騒がしくするんじゃないぞお前ら」

 ちょうどそのタイミングで黒髪のおっさんが戻ってくる。
 手にはスープと……飴色の液体が泡立つグラスがあった。

「ほら、おかわりだ。それから自家製のジンジャーエールだ」
「……ジンジャーエールも出るとか最高だな、天国来ちゃったか?」
「お前の知ってるいつものウェイストランドだ。一気飲みするなよ」

 俺はよく冷えたジンジャーエールを飲んだ、甘酸っぱい生姜の味がする。
 一口飲んでも頭痛はしない――すっかり治ったみたいだ。

「……助けてくれてありがとう、なんて礼を言えばいいのか」

 炭酸の刺激を飲み下してから部屋中に感謝を伝えた。

「噂のストレンジャーが来たもんだからどんな奴かと思えば、まさかの死にかけだったからな。とんだ訳あり品が届いた気分だった」

 するとカウンターの向こう側で、黒髪の男は湯気越しに肩をすくめてきた。
 期待の新人が死にかけて届けられたらそりゃ呆れたくもなるだろうな。

「なんだかみんなに迷惑かけちゃったな、すまない」
「まあな。だがそれ以上に、お前はここに来るまでくれた」
「つないだ?」
「ああ、そうだ」

 熱々のスープにまた手をつけると、目の前の男は落ち着きのある調子で言った。

「ストレンジャー、お前の旅路はニルソンをスティングまでつないでくれた。今やこの『ブラックガンズ』はウェイストランドの様々な人間とつながっているんだぞ」
「……そんな大したことしたつもりはないぞ」
「いいことを教えてやる。お前がクリンで助けた家族にチェスターという男がいただろ? そいつはずっと昔、ここで働いてたやつだった。コードネームは『フェザーライト』だ」
「あの人、ここの人間だったのか?」
「そういうことだ。ライトのやつと、その家族を救ってくれて感謝する」

 俺は相手の顔を見た。
 不愛想だが、ボディーアーマーのように硬そうな頬が少し解れている気がする。

「そうか、力になれて良かった」
「紹介が遅れたが『ハーヴェスター』だ、このブラックガンズのリーダーでもある。ご覧の通り農園と宿を経営してる」
「新入りのストレンジャーだ、よろしく」
「ボスの話や噂でいろいろ聞いてる、良く来てくれた。ここにいるのはお前の先輩たちだ」

 スープを一度手放してから振り向くと、いつものメンバーに加えて、初めて見る連中の顔ぶれが目に入る。

「改めて自己紹介だ、俺はコルダイト。危ない工作と戦いが大好きなおっさんだ」
「メディックよ。ここにいる連中の健康管理と科学的なことを任されてるわ、それから趣味で医療も」
「イージーです、戦闘用ボットでしたが転職しました。今は気楽にやっています」
「私はファイアスターター、あなたのことはよく知ってるわよ」
「サンドマンだ、スカウトをやってる」

 なんというか、ここにいる人間は全員が戦い慣れしている雰囲気だった。
 男女隔てなく「武器を手にすれば活躍」するような、ニルソンの人間にあったものを強く感じる。
 目の前のエプロン姿の男もそうだが、お前らだけで小さな国を亡ぼせるだろっていうぐらいの頼もしさがある。

「農場っていう割にはずいぶんと好戦的な感じがするな」
「ここは作物だけじゃない、自らの安全も自分で賄ってる、それだけだ」

 やっぱりニルソンの息がかかってる場所だけあるようだ。
 少し冷めたスープをまた一口運んだ。

「なんだかニルソンを思い出すな、おっかない連中ばっかで」
「そりゃそうさ、ここにいるスタッフの大半はあそこ出身なんだぜ? まあ俺は違うけどな」

 あの個性豊かな小さな町のことを思い出してると、コルダイトが飲みかけのビールをすすめてきた。
 手でいらない、と伝えるとおっさんはしょんぼりしてしまった。

「お前だってそのおっかない連中から生まれたおっかない新入りだろう」
「ああ、それでいてボスが一番おっかない」
「心配するな、俺もだ。あのばあさんには何やっても勝てない」

 スープを減らしていると、ハーヴェスターと名乗る男は小さく笑った気がした。

「でもそのおっかない新入りさんは眠ってる間ずっと泣いてたのよ?」

 そこに白人の女医が口を挟んで来た。

「……泣いてたって?」
「ええ、ずっと。まあ女の子も同じくらい泣かせてたけど」

 いわれて少し気まずくなった。
 思わず物いう短剣に触れたが、向こうも同じなのかノーコメントだ。
 どう答えればいいか困ってると、リム様が後ろから抱き着いてきた。

「悪い夢でも見ていたのでしょう? かわいそうに、よしよし……」
「……リム様、撫でる場所ちがう。ショットガンに近づいてる」

 俺は人の下腹部を撫でてくる小さな魔女を引きはがして。

「……まあ、悪夢を見てたんだ。最悪のな」

 残ったスープを全部飲み干した。

「悪夢だって?」

 食器を押し下げると、ハーヴェスターは少し興味をもって尋ねてきた。

「ああ、もっといえば俺の過去そのものだ。ずっとずっと、自分の中に閉じ込めてた悪い思い出だ」

 答えた、まだ少し腫れてる感じのするまぶたをこすりながら。
 わずかに残ったジンジャーエールを片づけようとすると、

「それはあなたの過去に起因するトラウマってやつかしら?」

 メディックが口を挟んできた。
 まったくそのとおりで、おかげでまた嫌なものを思い出して吐き気がした。
 そんな俺を気遣ってくれてるんだろうか、ハーヴェスターはボトルを手にして。

「誰にだって思い出したくないものはある。だがそれが時として予期せぬ形で蘇るのもよくあることだ。今も、昔も」

 落とした声の調子でそう口にしつつ、グラスにおかわりを注いでくれた。
 どことなく、目の前の黒髪の男も何かを抱えてるのを感じた。
 だからこそ分かった、共感してくれているのだと。

「……でも、俺が勝った」

 俺は新たに注がれたジンジャーエールを飲んだ。
 ふと気づけば、そこにいるすべての者の関心を集めている気がした。

「そういえばお前は「きっと俺が勝つ」といってたが、どういう意味だ?」

 生姜の辛さに少しむせていると、ハーヴェスターは聞いてきた。
 答えづらいが今の俺なら大丈夫だ、もうちゃんと向き合えるから。

「……ずっと顔を背けてた昔の出来事だ。くそったれの両親のことさ」

 そういって俺は見上げた。
 愛想のない表情のまま、相手は話を聞いている。

「両親だって?」
「ああ、直前に「ひどい」って装飾したほうがいい部類のな。まさかあんた、親は大事にしないといけないとか親の気持ちがとか説教するタイプか?」
「親というタイプの人間だ。妻と、子供が二人いた」
「……そうか、変なこといって悪かった」
「いいんだ、もう受け入れた」

 あたりに少し気まずい雰囲気が流れた。
 しかしなんだろう、無性に昔のことを話したくなってきた。
 そんな俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、

「トラウマを誰かに話すのは悲惨な経験を緩和する効果的な手段といわれてるわ。それが信頼できる相手ならね。話してみなさい」

 メディックが穏やかな喋り方でそう教えてくれた。
 くだらない話だが、信頼できる人たちに砕いて教えることにした。

「まず最初に言っとく、こいつは作り話だ。山ごと吹っ飛んだハーバー・シェルターのことは忘れて聞いてくれ」

 だからまず、そう付け加えて話し始めた。

「あるガキにひどい両親がいた。宗教にハマって不老不死とか信じるアホな母親と、とにかく他人を見下さなきゃ生きていけない父親、どっちも自分のガキが思い通りにならないと平気で虐待だ。おまけに二人とも仲が悪いときた、最高だろ?」

 最初にそこから始めると、

「……そりゃひどい親だな。そのガキは生きてるのか?」

 ハーヴェスターは荒野に放置された地雷でも踏んづけたような顔になった。

「おめでたいことに親を差し置いてそいつ一人だけ不死だ、条件つきのな」

 ジンジャーエールを一口だけ飲んでつづけた。

「本当にひどいやつらだ。神とやらの教えに反すれば鞭で叩いたり、ガキに宗教の勧誘やらせたり、思い通りにならなきゃ人格否定はもちろん、まともに友人すら作らせてくれなかった。馬鹿を友達にするなとか向こうが勝手に選んでくれるぐらいにな」
「ずいぶん不幸な話だ。そのガキはよく耐えたな」
「ああ、それからあいつらに性的虐待だってやられたな」
「どっちにだ?」
「両方だ、生まれたころからずっと」
『……性的って、そんなひどいこと……!』
「そうだな。二人とも女の子が欲しかったみたいだ。おかげで女性を見ても興奮できない身体にされた、この歳でイン……いやこれは忘れといて」

 グラスを空にした。もっとつづけた。

「周りもずいぶんひどくてな。厄介ごとに近づきたくないならまだいいさ、でも近くにいたのは助けを求めても「分かってやれ」とか「親の愛情だ」とかいってまともに取り合わないやつか「信仰不足」とかしか言えない馬鹿ばっかだ」
「じゃあ誰も助けてくれなかったのか?」
「そうだ。で、最後はどうしたと思う? 相討ちだ。一人は自分の宗教侮辱されて相手を包丁で串刺し、もう一人は自分の思い通りにならない女の首を絞め続けて、リビングで共倒れしやがった。死に際、自分のガキに「お前のせいだ」っていいながらだ。二人そろって自分たちの子から何もかも奪ったくせにな」

 よほど面倒な話だったせいか、周りはどう反応すればいいか分からず黙ってる。
 俺は空になったグラスを「ごちそうさま」と返した。

「そのあとも最悪だったな。自称兄弟が神の教えを口説きに追いかけてきたりして、無一文でひたすら逃げ回った。誰かに助けてもらうまではしばらく逃亡生活だ、笑える話だろ?」

 一通り話すと、隣で黙って聞いてた方のおっさんが気持ちの悪そうな声で、

「そりゃすげえや、笑える話だな。ほんとによ」

 さぞ胸糞悪そうに感想を述べた。
 続いて、目の前にいるハーヴェスターという人間も。

「ああ、そいつが本当に作り話だったらな」

 ビールの瓶をあけて口にしていた。飲まなきゃ聞いてられないとばかりに。
 黒髪の白人に向かって顔を持ち上げて、話のオチを伝えることにした。

「すまない、実はただの俺の不幸自慢だ」
「知ってるさ」
「ああ、知ってたぜ」
「そうか」

 足元にもふっとした感触がした。
 黒い犬が鼻を鳴らしながらすり寄っていた。

「忘れたつもりだった、でも急に思い出したんだ。助けなくちゃならない人が俺の中にいた」

 ニクの鼻先を撫でてやった、こいつも話を聞いてくれたんだろうか。
 とてつもなく微妙な空気が流れる中、最初に口を開いたのは。

「トラウマなんて誰もが思いがけない時に蘇るものよ。でもあなたは負けなかった、とっくの昔にそれを理解して現実リアリティに帰るだけの力をつけてた、そういうことじゃない?」

 メディックだった。それだけ伝えてつまらなそうに顔を逸らされた。
 窓の外を見れば、いまの『俺』にはよく分かる事実がそこにある。
 なんとなく分かるのだ。自分はもう、たとえ元の世界に帰れたとしても普通の人生なんて歩めないような、立派なウェイストランド人だということが。

「ああ、いろいろな人が背中を押してくれた」

 物いう短剣を抱きしめた。
 ストレンジャーはどこへゆこうがもう一人じゃない。
 加賀祝夜ではなく、世紀末世界の余所者として顔を固く引き締めると。

「それでだ、ストレンジャー。俺はボスから二つ頼みごとをされてる」

 それから、ハーヴェスターは愛想のない調子でこっちに告げはじめた。

「何を頼まれたんだ?」
「もしニルソンから来たひよっこどもが来て困ってたら助けてやれというのと、まだ未熟だったらここで鍛えてやってくれというものだ」

 ボスはどこまで先を見てたんだろうか。
 どれも俺に当てはまる旨なのがなんとも笑える話だ。

「あー、うん、ボスのいう通り困ってたし未熟だな」
「そういうことだ。お前らにはここで訓練を受けてもらう選択肢がある、もしが望むのであればの話だが」

 戦闘不能になって周りに迷惑かけたんだし未熟以外のなんでもないだろう。
 やるべきかどうかまた少しだけ迷ってしまったが、

『……いちクン、やろう? わたしたち、強くならないとダメだよ』

 意外なことにミコが真っ先にそう口にするのだから困った。
 いつもみたいに自信のない感じじゃない、はっきりとした言葉だ。
 思わずノルベルトの顔もうかがってしまったが、待っていたのは、

「オーガの顔など気にしなくて良いのだぞ。せっかくのお前の旅路だろう?」

 自信たっぷりの表情と言葉だった。
 ニクも同じだ、どこまでもついていく顔で見上げている。
 けっして流されたわけじゃない、意思をもって答えることにした。

「頼む、ハーヴェスター。もっと強くしてくれ」
「聞いておいてなんだがいいのか? お前はまだ病み上がりだ」
「もう大丈夫だ。それに、弱いままでいたくない」

 それだけ伝えると、ハーヴェスターは覚悟を受け取ってくれたんだろうか。

「じゃあまず選択肢が二つだ。ここでだらだら過ごしながら少しずつ強くなってく方、二週間過酷な訓練に身を置いて強くなる方、どっちか選べ」
「ためになるほうだ」
「じゃあ後者だな。だが本気か?」
「本気だ、だって俺はニルソンの人間だ」
「分かった。ならここのルールを教える」

 返事が決まると、条件を突き出して来た。

「一つはここで得たスキルを外で悪用するな、二つは何があっても投げ出すな、三つは死ぬなだ。ちなみにこいつは優先順位をつけてある、つまりお前の命の大切さは最後に来る」
「だったら返事は三つだ。一つはそんなことしたらボスにぶっ殺される、二つは俺は反骨精神の塊だ。三つは死んでたまるか。四つは――」
「一つ多いぞ」
「ごめん忘れて」
「お前は脳にダメージがまだ残ってるみたいだ。最初のうちは身体を動かさない訓練から始めてもらうぞ」

 話がまとまったようだ。
 俺は立ち上がってニルソン人らしく背筋を伸ばして、向き合う。

「じゃあ……あらためて言うが。ブラックガンズへようこそ、ストレンジャー」

 ここのボスからごつっとした手が伸ばされた。
 迷わず握手した。熱い手のひらから信頼を感じ取った。

 こうしてしばらく、曲者ぞろいの農場で滞在することとなったわけだ。

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