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世紀末世界のストレンジャー
残念だが、ストレンジャーの頭はイカれた
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あらためて周りを見回した。
ここはこの世で一番最悪な場所だ、いわゆる死体置き場だろう。
おまけに部屋の奥には解体用の台と『人斬り』に使う冷たい道具。
さらに隅の方を見れば錆びと血だらけの機械が置いてあった。
ひどく鉄臭いそれを見るとすぐ分かった、こいつはひき肉製造マシンだ。
人間ちょうど一人分いけそうなホッパーといい、血と肉の塊があふれてる出口といい……おえー。
『……なに、ここ……最悪……! 信じられないよ……!』
さすがのミコもかなりキてるみたいだ。
「飯食っといてよかったな、今頃人肉食わされてたぞ」
『……いちクン、早くここから出たいよ。こんなのひどいよ……』
「俺も今すぐ出たいきたいとこだ。で、お前らどうやってここに?」
俺は身体を掘られて穴を分かち合う兄弟となった死体を蹴った。
死体は何も答えてくれない、頭に穴開ける前に聞いとくべきだったか。
『えっと……そこのダストシュートだよ。いちクンがそこに落とされたあと、わんこが助けに来てくれたの』
「ワンッ」
「あの人食い姉ちゃんに連れてかれたのに良く戻ったな、グッドボーイ」
『あのあと急にノルベルト君が怒って暴れだしてて、その隙に逃げてきたんだと思うけど……途中で矢で撃たれたみたいで……』
「つまりこうか、俺は身ぐるみはがされて精肉加工場に出荷、そのあとノルベルトがなぜか暴れてニクが脱走、ミコをくわえて無事合流か。どうなってんだ」
よく分からないがノルベルトの方も何かあったらしい、まああいつは無事だろう。
それよりニクだ、あいつらよくもうちの犬に矢なんてぶち込んだな。
『いちクン気を付けて。矢は毒だったよ』
「毒? じゃあニクは――」
『ちゃんと解毒しておいたから大丈夫。さすがに刺さったままだとヒールはできなかったけど……』
「ワンッ」
「あーうんよく分かったマジで殺す気満々だあいつら。ありがとうミコ」
幸いにもミコのおかげで黒いわんこは元気だ。
尻尾を振って自信満々に見上げてくるニクの顎を撫でてから、俺はこの悪趣味極まりない部屋の出口を見た。
『……ここ、どこなんだろう。地下室なのかな?』
「この壁といいさっき部屋で見たポスターといい間違いなくシェルターだ。あいつらひどい使い方しやがる」
腐肉の匂いがきつい部屋には両開きのドアがある。
間違いなくそこから出られるだろう、問題はその先に何がいるかだ。
「とにかくもうここは敵地ど真ん中だ。もう穏便に済ませられないと思えよ」
『……うん』
「ウォンッ」
俺は犬と共に扉に手をかけようとした、のだが。
――がちゃっ。
そんな音と共に、先へ進もうとした矢先に金属製の扉が開いて。
「ソニー、大変よ。上で人食い鬼が暴れて……」
異様なほど真っ白な肌の女性が入ってきた。
髪は綺麗な黒だが、目はぎょろっとしててあきらかにイっている。
運悪く鉢合わせてしまったそいつは最初こそは戸惑っていたものの、すぐに攻撃的な笑みを浮かべて。
「――ああこんにちは、お邪魔してますお姉さん」
だが相手が行動を起こすよりも早く、先にこっちから挨拶した。
相手が手にしていたくぎ抜きハンマーをそっと隠すのが見えた、もう遅い。
「俺は客のイチだ。こっちの喋る短剣がミセリコルデ、このわんこがニク。それから――」
俺は戸惑っている相手に紹介するように、角材で後ろを示した。
ちょうどそこにはあいつがいる、死んだ穴兄弟だ。
「そこでぶっ倒れてるのが穴兄弟の……名前分かんないやつだ。さっき友達になったばっかりだけど不幸にも死んだわごめん。で、出口どこ?」
さぞ無念に死んだ人食いの姿を適当に案内すると、
「……ソニー……!?」
そいつは得物をごろっと落として、死んだ男に駆け寄っていく。
怖いものがなさそうなイカれた顔が驚きから悲しみに、やがて怒りの表情に変わるのが見えて。
「良くも――よくも私の弟を殺したわね! この悪魔!」
金切り声を上げてこっちに突っ込んで来た。
ああ知ってる。ということで手にしていた角材を構えて。
「オラァ!」
真っ白なお顔めがけてぶん投げた。ピアシングスロウでその口ごとぶち抜いてやりたかったが、まだこいつには聞きたいことがある。
びゅんっと鈍く飛んだ木材の角が顔面に命中、いい音がして白黒女性の頭が仰け反る。
「いぎゃっ……!?」
「おっと、死ぬなよ! お前にゃ聞きたいことがあるんだからな!」
よろめく顔が抉れた人食い女を受け止めた、首をぎっちり締めて。
その気になればこいつの首なんざへし折ってやれるが、あいにく現状についてお尋ねしないといけない
「質問を三つするから答えろ、お前らは人食いカルトどもか?」
「……あ、アルテリーじゃない……でも……仲間……」
『答えなきゃへし折るぞ』とばかりに首ごと頭を持ち上げると、顔中からだらだら血を出しながら返答した。
「そうか。じゃ、もう一つ聞く。出口どこ?」
「……しょ、食堂を出て……右に曲がった先……加工場の裏側よ……」
なるほどよく分かった、人のいる場所を通らなきゃ帰れないわけだ。
そしてこいつはアルテリーのお友達だ、きっとたくさん人を殺して来たんだろう。そうかそうか。
そういう事情なので部屋の隅へと引きずった。
「最後だ、この機械はなーんだ?」
好奇心ついでにさっきから異様な存在感のある機械について尋ねた。
人食いの女性が「ひっ」と怯えるのが聞こえて。
「ひ、肥料を作る機械……」
「材料は?」
「……人間、肉をとったあとのカスよ……」
『……人間で肥料……それってもしかして、あのレモン……!』
そう答えてくれて、分かった。やっぱり有効利用してたらしい。
なるほど、元気にレモンが育つわけだふざけんなこのクソ野郎!
毒盛るわ人の身体に穴開けるわ人の犬に穴開けるわふざけんな、もう怒った、てめえら皆殺しだ!
「よし、お前の来世はレモンだ。じゃあなクソ女!」
「あっ――えっ、ま、まって! やめて! わたしたちはただおいしいものを食べてただけなのよ!? なんでこんなひどいことするの!?」
左こめかみからぶしっと血があふれる、前よりひどい痛みがする。
この怒りと痛みを晴らすべく、俺はやかましい人食い女の身体を持ち上げて。
『……えっ、いちクン!? 待って! それ――』
「うるせー知ったことか、死ね! 柑橘類に転生しやがれ!」
「助けて!」と聞こえたが無視して頭からひき肉製造マシンのホッパーへぶち込んだ。
その頭が粉砕する部分にがりっとかみ合ったのを確認してから――
「新しい就職先は肥料だ、レモンとして元気に育てよクソ野郎」
スイッチを押した。
悲鳴とごりごりという音が聞こえてきたのでもう大丈夫だ、さよなら肌の白い人。
「さあ次行くぞ、このまま皆殺しにしてやる」
『……いちクンがまたおかしくなっちゃった……』
ずきずき痛む足を引きずって食肉加工場を出た。
両開きのドアの先にはコンテナみたいなものが二つある。
プレートにはこう書いてある――『食肉保管庫』と。
もしも人間だったら一つあたり十人ぐらいは押し込めそうだ、つまりそういうことだ。
「やっぱりここカニバリズム天国じゃねーか! ふざけやがって!」
『食肉……保管庫……まさか』
「オラァ! 出てこいや! 食肉が絶賛脱走中だクソ野郎!」
『待っていちクン!? 落ち着こう!? 本当に落ち着いて!?』
アルテリーのことを思い出して腹が立つので角材でコンテナをガンガン叩いていると。
「なっなんだ!? なんの騒ぎだ――」
別の扉が開いて、そこから白黒の衣装を着た男が現れた。
たぶんここの使用人だ。手には見慣れた鉄パイプみたいな短機関銃がある。
「よお、脱走した」
「はっ――!?」
が、目が合うと同時に角材を叩き込んだ。
角ばった部分で鼻の上をぶん殴るとばぎっといい感触がした。
相手が「ぐがぁっ」とかいいながら顔を押さえて崩れる、手放した得物をキャッチ。
「おっと大丈夫か? 肩貸してやるよ、ついてこい」
「は、が、離してっ……」
男同士のハグになるような形で捕まえて、そのまま奥に押し入る。
すぐに明るい部屋が見えてきた、香辛料や焼けた肉の香りがする。
「だ、誰だお前は!?」
「さっきの肉がなんで生きてやがる!?」
「家畜が脱走したぞ! 早くぶっ殺せ!」
テーブルを囲んでいた使用人たちが慌てて立ち上がった。
どうもここは食堂だったらしい。
奥のキッチンで肉付きのいい男が驚いて鍋をひっくり返していた。
「お食事中失礼、前菜はサブマシンガンだクソ野郎ども!」
左手で男の背中を盾にしたまま、そいつらめがけてステン銃を撃つ。
ぱぱぱぱっ、と短連射、近くで散弾銃を向けていたやつに穴が空く。
向こうも同じ得物を撃ってくる、肉盾はびくびくしながら弾を受け止めてくれた。
「うっ撃つな頼むうたないであぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「馬鹿、よせ! 仲間に当たるだろ!?」
「し、知ったことか! あとで食っちまえばいいんだ!」
薄情な仲間をなぞるように射撃、オープンボルトが前後するたびに標的を薙ぎ払う。
俺はまだ生きている男に肩を貸しながら更に進んだ。
「死ねぇぇぇぇ! 家畜の分際でぇぇぇぇぇ――」
そこへ奇襲、通路の方から使用人が包丁を手に突っ込んできた。
「ニク、やれ!」
「ワンッ!」
射撃中止、男ごと身体をそらすとその横を黒い犬が通り過ぎる。
「ガァゥッ!」
「いっだああああああ!? なんだこの犬!? 離せっ……」
腕を振りかぶるタイミングで、ニクにスネを思いきり噛みつかれてバランスを崩した。
「ご苦労、給料はこいつでいいな?」
倒れた男へと穴だらけの使用人を投げ飛ばした。
「助け……」とか聞こえた気がするが、重なった二人にステン銃の残りの弾を全部ぶち込んだ、給料日だ。
「貴様! ここをどこだと思っている!?」
弾切れの銃を放り投げていると、キッチンの方から叫ばれた。
振り向くとこの来客に激怒している大男がいた、目はイっている。
「こんにちは、シェフ。ここってレビュー評価最低数のレストランみたいだな」
「違う! ここは偉大なるシェフの王、グロスマンのレストランだ! 奥様旦那様が俺の料理を楽しみにしてるというのに、よくも荒らしまわってくれたな!?」
そいつのレストランの厨房は確かにきれいだが、腐肉の匂いがした。
「せっかく新鮮な肉が届いたと思ったのに、お前のせいでめちゃくちゃだ! 献立が全部台無しだ! 今日お二人は内臓料理を楽しみにしていたんだぞ!? こうなったらお前のはらわたを――」
さっきの穴兄弟を思わせる巨体でそいつはお怒りのまま迫ってくるが。
「うるせー! 手短に言え!」
慌てず即席ナイフを抜いて照明が生み出す黒い影に投擲。
向こうは俺が狙いを外したと思ったんだろう、あっけなく影に刺さった。
「……あっ? 動けない……? どうなってるんだ!?」
大きな肉切り包丁を手にした男は走り寄る姿のまま停止。
『シャドウスティング』で後は思うがままだ。
「よし次、もう終わりか?」
一発ぐらい顔面を殴ってやりたかったが、近くに転がっていた散弾銃を拾った。
「まっ……待ってくれ、俺を殺したら偉大なシェフがこの世から」
「心配するな、後で最低評価つけてやるよ。じゃあな」
開きっぱなしの口に銃口をねじ込んでトリガを引いた。
ぼぉん、とボールが内側から爆ぜるような音の後、派手な赤い花火が上がる。
この世から料理人を一人減らしてやってから厨房の中に踏み込むと。
「くそっ早く殺せ! 地上じゃアイツも暴れてるんだぞ!」
「おい家畜! そこを動くな、サシミにしてやるからな!」
通路から増援の使用人たちがぞろぞろやってきた。
数は六名、得物は斧にバットに――銃持ちはいない、好都合だ。
銃を捨てて厨房へ、まな板の近くに整頓された大小さまざまな包丁を発見。
形も長さもばらばらのそれを手に取った――その瞬間。
「――ッ!」
俺は無意識に腕を振りかぶって、指で挟んだ冷たい感触を手放した。
あの時と同じだ。ピアシングスロウの時のように、不思議とどう投げればいいか分かった。
一本目をぶん投げる、手前にいた奴の首元にヒット。
すかさず左手でもう一本掴んで投擲、二人目の目に刺さった、ダウン。
「ぎゃっ……かはッ……!」
「いぎゃああああああああッ! 目、目が……ッ!」
まだまだ止まらない! 更に三本目を素早く掴んで「な、なんなんだこいつ――」と狼狽える三人目に投射、顎下をぶち抜く!
どんどん手が加速していく。両手で次々と敵に向かって包丁を投げて、思い当たるであろう急所をぶち抜き。
「ぐぎっ」「ぎゃっ!?」「がっふ……」
もう十分だ、手を止めた。
自分でも信じられないぐらいのペースで投げた刃物が瞬く間に数人も行動不能にさせた――『ラピッドスロウ』だ。
「なんなんだ……こいつ……ッ! ただの肉じゃなかったのかよ……!」
しかし狙いが逸れて腹に刺さるやつもいた、現にそいつはお構いなしに迫って来るが。
「ヴァゥッ!」
「つ……っ!?」
撃ち漏らしはニクに噛み倒されて死んだ。
これで大体はくたばった、シェルターの中には静寂だけが残っている。
◇
ここはこの世で一番最悪な場所だ、いわゆる死体置き場だろう。
おまけに部屋の奥には解体用の台と『人斬り』に使う冷たい道具。
さらに隅の方を見れば錆びと血だらけの機械が置いてあった。
ひどく鉄臭いそれを見るとすぐ分かった、こいつはひき肉製造マシンだ。
人間ちょうど一人分いけそうなホッパーといい、血と肉の塊があふれてる出口といい……おえー。
『……なに、ここ……最悪……! 信じられないよ……!』
さすがのミコもかなりキてるみたいだ。
「飯食っといてよかったな、今頃人肉食わされてたぞ」
『……いちクン、早くここから出たいよ。こんなのひどいよ……』
「俺も今すぐ出たいきたいとこだ。で、お前らどうやってここに?」
俺は身体を掘られて穴を分かち合う兄弟となった死体を蹴った。
死体は何も答えてくれない、頭に穴開ける前に聞いとくべきだったか。
『えっと……そこのダストシュートだよ。いちクンがそこに落とされたあと、わんこが助けに来てくれたの』
「ワンッ」
「あの人食い姉ちゃんに連れてかれたのに良く戻ったな、グッドボーイ」
『あのあと急にノルベルト君が怒って暴れだしてて、その隙に逃げてきたんだと思うけど……途中で矢で撃たれたみたいで……』
「つまりこうか、俺は身ぐるみはがされて精肉加工場に出荷、そのあとノルベルトがなぜか暴れてニクが脱走、ミコをくわえて無事合流か。どうなってんだ」
よく分からないがノルベルトの方も何かあったらしい、まああいつは無事だろう。
それよりニクだ、あいつらよくもうちの犬に矢なんてぶち込んだな。
『いちクン気を付けて。矢は毒だったよ』
「毒? じゃあニクは――」
『ちゃんと解毒しておいたから大丈夫。さすがに刺さったままだとヒールはできなかったけど……』
「ワンッ」
「あーうんよく分かったマジで殺す気満々だあいつら。ありがとうミコ」
幸いにもミコのおかげで黒いわんこは元気だ。
尻尾を振って自信満々に見上げてくるニクの顎を撫でてから、俺はこの悪趣味極まりない部屋の出口を見た。
『……ここ、どこなんだろう。地下室なのかな?』
「この壁といいさっき部屋で見たポスターといい間違いなくシェルターだ。あいつらひどい使い方しやがる」
腐肉の匂いがきつい部屋には両開きのドアがある。
間違いなくそこから出られるだろう、問題はその先に何がいるかだ。
「とにかくもうここは敵地ど真ん中だ。もう穏便に済ませられないと思えよ」
『……うん』
「ウォンッ」
俺は犬と共に扉に手をかけようとした、のだが。
――がちゃっ。
そんな音と共に、先へ進もうとした矢先に金属製の扉が開いて。
「ソニー、大変よ。上で人食い鬼が暴れて……」
異様なほど真っ白な肌の女性が入ってきた。
髪は綺麗な黒だが、目はぎょろっとしててあきらかにイっている。
運悪く鉢合わせてしまったそいつは最初こそは戸惑っていたものの、すぐに攻撃的な笑みを浮かべて。
「――ああこんにちは、お邪魔してますお姉さん」
だが相手が行動を起こすよりも早く、先にこっちから挨拶した。
相手が手にしていたくぎ抜きハンマーをそっと隠すのが見えた、もう遅い。
「俺は客のイチだ。こっちの喋る短剣がミセリコルデ、このわんこがニク。それから――」
俺は戸惑っている相手に紹介するように、角材で後ろを示した。
ちょうどそこにはあいつがいる、死んだ穴兄弟だ。
「そこでぶっ倒れてるのが穴兄弟の……名前分かんないやつだ。さっき友達になったばっかりだけど不幸にも死んだわごめん。で、出口どこ?」
さぞ無念に死んだ人食いの姿を適当に案内すると、
「……ソニー……!?」
そいつは得物をごろっと落として、死んだ男に駆け寄っていく。
怖いものがなさそうなイカれた顔が驚きから悲しみに、やがて怒りの表情に変わるのが見えて。
「良くも――よくも私の弟を殺したわね! この悪魔!」
金切り声を上げてこっちに突っ込んで来た。
ああ知ってる。ということで手にしていた角材を構えて。
「オラァ!」
真っ白なお顔めがけてぶん投げた。ピアシングスロウでその口ごとぶち抜いてやりたかったが、まだこいつには聞きたいことがある。
びゅんっと鈍く飛んだ木材の角が顔面に命中、いい音がして白黒女性の頭が仰け反る。
「いぎゃっ……!?」
「おっと、死ぬなよ! お前にゃ聞きたいことがあるんだからな!」
よろめく顔が抉れた人食い女を受け止めた、首をぎっちり締めて。
その気になればこいつの首なんざへし折ってやれるが、あいにく現状についてお尋ねしないといけない
「質問を三つするから答えろ、お前らは人食いカルトどもか?」
「……あ、アルテリーじゃない……でも……仲間……」
『答えなきゃへし折るぞ』とばかりに首ごと頭を持ち上げると、顔中からだらだら血を出しながら返答した。
「そうか。じゃ、もう一つ聞く。出口どこ?」
「……しょ、食堂を出て……右に曲がった先……加工場の裏側よ……」
なるほどよく分かった、人のいる場所を通らなきゃ帰れないわけだ。
そしてこいつはアルテリーのお友達だ、きっとたくさん人を殺して来たんだろう。そうかそうか。
そういう事情なので部屋の隅へと引きずった。
「最後だ、この機械はなーんだ?」
好奇心ついでにさっきから異様な存在感のある機械について尋ねた。
人食いの女性が「ひっ」と怯えるのが聞こえて。
「ひ、肥料を作る機械……」
「材料は?」
「……人間、肉をとったあとのカスよ……」
『……人間で肥料……それってもしかして、あのレモン……!』
そう答えてくれて、分かった。やっぱり有効利用してたらしい。
なるほど、元気にレモンが育つわけだふざけんなこのクソ野郎!
毒盛るわ人の身体に穴開けるわ人の犬に穴開けるわふざけんな、もう怒った、てめえら皆殺しだ!
「よし、お前の来世はレモンだ。じゃあなクソ女!」
「あっ――えっ、ま、まって! やめて! わたしたちはただおいしいものを食べてただけなのよ!? なんでこんなひどいことするの!?」
左こめかみからぶしっと血があふれる、前よりひどい痛みがする。
この怒りと痛みを晴らすべく、俺はやかましい人食い女の身体を持ち上げて。
『……えっ、いちクン!? 待って! それ――』
「うるせー知ったことか、死ね! 柑橘類に転生しやがれ!」
「助けて!」と聞こえたが無視して頭からひき肉製造マシンのホッパーへぶち込んだ。
その頭が粉砕する部分にがりっとかみ合ったのを確認してから――
「新しい就職先は肥料だ、レモンとして元気に育てよクソ野郎」
スイッチを押した。
悲鳴とごりごりという音が聞こえてきたのでもう大丈夫だ、さよなら肌の白い人。
「さあ次行くぞ、このまま皆殺しにしてやる」
『……いちクンがまたおかしくなっちゃった……』
ずきずき痛む足を引きずって食肉加工場を出た。
両開きのドアの先にはコンテナみたいなものが二つある。
プレートにはこう書いてある――『食肉保管庫』と。
もしも人間だったら一つあたり十人ぐらいは押し込めそうだ、つまりそういうことだ。
「やっぱりここカニバリズム天国じゃねーか! ふざけやがって!」
『食肉……保管庫……まさか』
「オラァ! 出てこいや! 食肉が絶賛脱走中だクソ野郎!」
『待っていちクン!? 落ち着こう!? 本当に落ち着いて!?』
アルテリーのことを思い出して腹が立つので角材でコンテナをガンガン叩いていると。
「なっなんだ!? なんの騒ぎだ――」
別の扉が開いて、そこから白黒の衣装を着た男が現れた。
たぶんここの使用人だ。手には見慣れた鉄パイプみたいな短機関銃がある。
「よお、脱走した」
「はっ――!?」
が、目が合うと同時に角材を叩き込んだ。
角ばった部分で鼻の上をぶん殴るとばぎっといい感触がした。
相手が「ぐがぁっ」とかいいながら顔を押さえて崩れる、手放した得物をキャッチ。
「おっと大丈夫か? 肩貸してやるよ、ついてこい」
「は、が、離してっ……」
男同士のハグになるような形で捕まえて、そのまま奥に押し入る。
すぐに明るい部屋が見えてきた、香辛料や焼けた肉の香りがする。
「だ、誰だお前は!?」
「さっきの肉がなんで生きてやがる!?」
「家畜が脱走したぞ! 早くぶっ殺せ!」
テーブルを囲んでいた使用人たちが慌てて立ち上がった。
どうもここは食堂だったらしい。
奥のキッチンで肉付きのいい男が驚いて鍋をひっくり返していた。
「お食事中失礼、前菜はサブマシンガンだクソ野郎ども!」
左手で男の背中を盾にしたまま、そいつらめがけてステン銃を撃つ。
ぱぱぱぱっ、と短連射、近くで散弾銃を向けていたやつに穴が空く。
向こうも同じ得物を撃ってくる、肉盾はびくびくしながら弾を受け止めてくれた。
「うっ撃つな頼むうたないであぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「馬鹿、よせ! 仲間に当たるだろ!?」
「し、知ったことか! あとで食っちまえばいいんだ!」
薄情な仲間をなぞるように射撃、オープンボルトが前後するたびに標的を薙ぎ払う。
俺はまだ生きている男に肩を貸しながら更に進んだ。
「死ねぇぇぇぇ! 家畜の分際でぇぇぇぇぇ――」
そこへ奇襲、通路の方から使用人が包丁を手に突っ込んできた。
「ニク、やれ!」
「ワンッ!」
射撃中止、男ごと身体をそらすとその横を黒い犬が通り過ぎる。
「ガァゥッ!」
「いっだああああああ!? なんだこの犬!? 離せっ……」
腕を振りかぶるタイミングで、ニクにスネを思いきり噛みつかれてバランスを崩した。
「ご苦労、給料はこいつでいいな?」
倒れた男へと穴だらけの使用人を投げ飛ばした。
「助け……」とか聞こえた気がするが、重なった二人にステン銃の残りの弾を全部ぶち込んだ、給料日だ。
「貴様! ここをどこだと思っている!?」
弾切れの銃を放り投げていると、キッチンの方から叫ばれた。
振り向くとこの来客に激怒している大男がいた、目はイっている。
「こんにちは、シェフ。ここってレビュー評価最低数のレストランみたいだな」
「違う! ここは偉大なるシェフの王、グロスマンのレストランだ! 奥様旦那様が俺の料理を楽しみにしてるというのに、よくも荒らしまわってくれたな!?」
そいつのレストランの厨房は確かにきれいだが、腐肉の匂いがした。
「せっかく新鮮な肉が届いたと思ったのに、お前のせいでめちゃくちゃだ! 献立が全部台無しだ! 今日お二人は内臓料理を楽しみにしていたんだぞ!? こうなったらお前のはらわたを――」
さっきの穴兄弟を思わせる巨体でそいつはお怒りのまま迫ってくるが。
「うるせー! 手短に言え!」
慌てず即席ナイフを抜いて照明が生み出す黒い影に投擲。
向こうは俺が狙いを外したと思ったんだろう、あっけなく影に刺さった。
「……あっ? 動けない……? どうなってるんだ!?」
大きな肉切り包丁を手にした男は走り寄る姿のまま停止。
『シャドウスティング』で後は思うがままだ。
「よし次、もう終わりか?」
一発ぐらい顔面を殴ってやりたかったが、近くに転がっていた散弾銃を拾った。
「まっ……待ってくれ、俺を殺したら偉大なシェフがこの世から」
「心配するな、後で最低評価つけてやるよ。じゃあな」
開きっぱなしの口に銃口をねじ込んでトリガを引いた。
ぼぉん、とボールが内側から爆ぜるような音の後、派手な赤い花火が上がる。
この世から料理人を一人減らしてやってから厨房の中に踏み込むと。
「くそっ早く殺せ! 地上じゃアイツも暴れてるんだぞ!」
「おい家畜! そこを動くな、サシミにしてやるからな!」
通路から増援の使用人たちがぞろぞろやってきた。
数は六名、得物は斧にバットに――銃持ちはいない、好都合だ。
銃を捨てて厨房へ、まな板の近くに整頓された大小さまざまな包丁を発見。
形も長さもばらばらのそれを手に取った――その瞬間。
「――ッ!」
俺は無意識に腕を振りかぶって、指で挟んだ冷たい感触を手放した。
あの時と同じだ。ピアシングスロウの時のように、不思議とどう投げればいいか分かった。
一本目をぶん投げる、手前にいた奴の首元にヒット。
すかさず左手でもう一本掴んで投擲、二人目の目に刺さった、ダウン。
「ぎゃっ……かはッ……!」
「いぎゃああああああああッ! 目、目が……ッ!」
まだまだ止まらない! 更に三本目を素早く掴んで「な、なんなんだこいつ――」と狼狽える三人目に投射、顎下をぶち抜く!
どんどん手が加速していく。両手で次々と敵に向かって包丁を投げて、思い当たるであろう急所をぶち抜き。
「ぐぎっ」「ぎゃっ!?」「がっふ……」
もう十分だ、手を止めた。
自分でも信じられないぐらいのペースで投げた刃物が瞬く間に数人も行動不能にさせた――『ラピッドスロウ』だ。
「なんなんだ……こいつ……ッ! ただの肉じゃなかったのかよ……!」
しかし狙いが逸れて腹に刺さるやつもいた、現にそいつはお構いなしに迫って来るが。
「ヴァゥッ!」
「つ……っ!?」
撃ち漏らしはニクに噛み倒されて死んだ。
これで大体はくたばった、シェルターの中には静寂だけが残っている。
◇
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