魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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世紀末世界のストレンジャー

体験入隊終わり。楽にしろ

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 キッドタウンには無数の屍が積み上げられている、もちろん敵のだが。

「オチキス、これでお前らの悩みの種とやらはくたばったみたいだが」
「当面は安心できそうだ。ところで軍曹、戦車やらエグゾアーマーやらは我々が引き取っても構わないな?」
「いつもどおりにな。うまく使えよ」
「分かってるさ。必要なもんがあったらいつでも呼んでくれ」

 シエラ部隊とエンフォーサーの隊長は二人でなにやら話し合っていた。
 そのそばで黒づくめの連中は置いてかれた『戦利品』に喜んでいるようだ。

「見ろよこの戦車、グラントだ! どっかの博物館から持ってきたやつだ!」
「戦闘室はめちゃくちゃだけどエンジンまわりは無事だな。直してうちらで大切に使おう」
「だめだ、エグゾアーマーは半数以上が派手に壊れてやがる。あのミュータントがやったんだろうがもうちょっと大切に扱えよな……」
「壊れた外骨格はパーツ取りして予備部品に回すぞ。つかフレームごとへし折られてるぞこの死体……」

 鉄の棺桶から哀れな先客を引きずり下ろし、中をあれこれいじって稼働させる。
 所有者不在のエグゾアーマーをあっという間に直してどこかへ持っていく。
 損傷がひどいものはその場で解体して部品取りをしている始末だ。
 さっきまで怯えて動けなかったのが嘘みたいにきびきびしている。

「ミコ、こいつで最後の負傷者だ。頼んだぞ」
『うん、任せて!』

 そんな傍らで、俺は物いう短剣を手に被害にあった住人を治療していた。
 倒壊したファストフード店の中で倒れている小太りの男を発見、マナポーションの瓶からミコを抜いた。

 店の中はひどい有様だ。砲弾を受けて入り口が取っ払われてしまっている。
 崩れた壁には『変異ネズミバーガー始めました!』と張り紙がある。

「ご……ご一緒に……フライ……もいかがですか……?」
「しっかりしろおっさん。今治すから気合で現世にしがみついてろ」
『おじさん、大丈夫ですか!? いま魔法で治しますから頑張って!』

 レジ前で仰向けに倒れたエプロン姿の男はうつろな目で語っている。
 胸に刺さった破片を『分解』、続いて『ヒール』で治療すると顔色が良くなった。
 しかし妙だ、治療が終わったのに目を瞑って死んだように眠って――

「――3番レジへどうぞ!」

 と思ったらいきなり上半身を起こして叫び始めた。
 元気になった男は大きく見開いた目を閉じて、穏やかに気絶してしまった。

「……大丈夫かこいつ、死んだように安らかだぞ」
『し、死んでないよね……?』
「呼吸はしてるっぽいな。まあ生きてるしこのままでいいだろ」

 おっさんを放置してその場を後にした。
 一仕事終えると死体漁りをしているシエラ部隊とオーガの姿が見えた。
 連中が持っていたチップや弾薬を集めているようで、異世界のオーガは『この世界の通貨』を興味深そうに見ている。

「むーん? この妙に軽いコインが通貨だというのか?」
「まあそういうことだぜ、でっかいの。書かれてる数字がそいつの価値だ。おっと、数字ぐらい分かるよな?」
「なんだ、やはりそうだったか。道中こういう輩がたくさん持っていたのでな、集めておいて良かったわけだ」
「おまっ……なんだその量!? 幾らあると思ってんだこの野郎!?」

 オーガは腰からぶら下げていた布袋から大量の――その手のひらに余るほどのチップを取り出していた。
 少なくともカーペンター伍長が驚くほどの価値はあるみたいだ。

「なんだ、欲しいのか? これだけ持て余していても俺様の旅の邪魔になるだけよ、良ければ差し上げようか?」
「おい、マジでいいのか!? じゃあくれよ!」
「……待ちなさいカーペンター、みっともないわよ。レンジャーが一般人から物乞いだなんて評判下げるつもりなの?」
「うるせえぞメスゴリラ! 貰えるもんは貰っとくのがウェイストランドの流儀だろ!? それにこいつはミュータントだ!」

 二人の伍長は相変わらず仲が良さそうだ。
 遠目に見ているとけっきょくチップはもらえなかったようだ。
 見回せば住人たちが用済みになった死体をトラックに次々運んでいるのが見えた、たぶん外でこんがり焼かれる運命だ。

「まったく、ここ最近のウェイストランドはどこもかしこも騒がしくて困るぜ」

 血の匂いが漂う通りを眺めているとイェーガー軍曹がやってきた。
 彼は両手いっぱいに戦利品を抱えてる。

「たったいま負傷者の治療は終わったぞ。そこの変なおっさんで最後だ」
『街の人たちは誰一人死んでいませんでした』
「よし、上出来だ。俺たちは死傷者ゼロでここを守り切ったってわけだな」

 報告を終えるとずっしりと重たげなバッグを受け取った。
 持ってみると見た目通りの重さだ、中身に期待してもよさそうだ。

「ほら山分けだ。どうせはここでお別れだ、好きなだけ持ってけよ」
「ありがとう、イェーガー軍曹。いろいろ世話になったな」
「世話になったのはこっちの方さ。お前らは大勢救ったんだ、大したもんだ」

 イェーガー軍曹は行儀よくお座りしているニクを撫でた。
 すると勇敢なグッドボーイはすっと右手を差し出した、犬と人間が種族を越えて握手をした。

「あの」

 そこで急に後ろから声をかけられる。
 見れば見知った顔がある。ついさっき助けた親子だ。
 小さな男の子は俺たちを見て若干おどおどしながら。

「ありがとう、お兄ちゃん、おじさん」
「ありがとうございます、レンジャー。こうして生きているのもあなたたちのおかげです。どうお礼を言えばいいのか……」

 お礼を言ってきた。後ろにいる女性もだ。
 俺はイェーガー軍曹と顔を見合わせてから、

「どういたしまして。良くお母さんを守ったな、えらいぞ」
「これがレンジャーの仕事だ。気にしないでくれ」
「ワンッ」

 二人にそう伝えた。
 ニクが子供にも手を差し出した。「お手」をしたあと、親子は戻っていった。
 そんな後ろ姿を見届けていると気さくなほうの軍曹が急に口を開いて。

「……なあ、もしも暇ならシド・レンジャーズに入らないか?」

 そんなことを伝えられてしまって迷った、かなり迷った。

「……それって一緒にこの世界を良くしようっていうお誘いか?」
「まあな。でもお前は間違いなく優秀なレンジャーになれると思うぜ?」

 正直このシエラ部隊とつるんでいる間は何かと充実していたのもある。
 やりがいも感じている、もしかしたらこの世界で伝説を残せるんじゃないかというぐらいの根拠のない自信だってあるが。

「……悪いけど行かなくちゃいけない場所があるんだ。でも状況が状況だったら、俺は喜んでレンジャーになってたと思う」

 腰に下げた物いう短剣に手を当てながら答えた。
 黒い相棒はべろっと舌を出しながら上目遣いにこっちを見ている。

「ま、そうだよな」

 返事を耳にしたイェーガー軍曹は「仕方ないな」と残念そうだった。

「もし気が変わったらいつでも来い、ストレンジャー。俺たちは優秀な人間を常に求めているからな」

 そこへお話が終わったルキウス軍曹も割り込んでくる。
 ぶっきらぼうな顔立ちに口ぶりだが、信頼してくれている視線を感じた。
 レンジャーになるというのも一つの選択肢だったかもしれない。

「……ああ、気が変わったらな」

 俺は片づけられた戦場を見た。
 あれこれやり取りをしていた二人の伍長がこっちに戻ってきた。
 その後ろでオーガはドクターソーダの瓶を物珍しそうに眺めている。

「その、いいチームだったと思う。短い間だったけどあんたらと一緒に戦えて光栄だった、ありがとう」

 俺は心の奥底からシエラ部隊の面々にお礼を言った。
 一人硬い表情のままの人物を覗けば、全員の表情はゆるく笑っていた。

「良くやった、ストレンジャー、イージス、ヴェアヴォルフ。ベテランレンジャーばりの活躍だったな」
「お前がいると新鮮味があって楽しかったぜ。もし俺たちのベースに来ることがあったら一杯奢ってやるよ。おっと、酒はいけるクチか?」
「おい、もし面接に来るときはトヴィンキーを何箱か持ってこいよ! そしたら有利になるよう口添えしてやっからな、オーケー?」
「一緒にいる間は刺激的だったわ、また会いましょう。それからこの天才のいうことには耳を貸さないでやってくれる?」

 一同にそういわれるとなんだか少し寂しさを感じた。
 すると後ろの方から空気を読まず「甘露!」と野太い声が聞こえてくる。
 見ればボトルキャップを引っこ抜いたオーガが黒色の液体を口にしていた。

「……ありがとう、みんな」

 親しくなってしまった連中を見て名残惜しいが、覚悟を決めた。
 この世界に来てからすっかり良くなってしまった姿勢をまっすぐ向けて、

「――お世話になりました、ルキウス軍曹」
『皆さん、お世話になりました』

 シド・レンジャーズの連中にそれっぽく敬礼した。左手で。
 ところが一瞬の間をおいてシエラ部隊の面々が笑いだしてしまう。
 何かしちゃったのかと不安に思っていると、ノーチス伍長の手が敬礼中の腕を掴んで降ろして来た。

「逆よ逆、敬礼は右手でするのよ」
「うちらは正規の軍隊じゃねーからそういうのはどうでもいいんだけどよ。今回はお前に付き合ってやるぜ、特別にな」

 続いてカーペンター伍長に右腕を引っ張られた。どうやら逆だったようだ。
 教えられるままにその場でびしっと直立して、右手で敬礼した。

「また会おう、ストレンジャー。お前の旅路に勝利を」
「ウェイストランドは過酷だがお前らなら大丈夫さ、じゃあな」
「まあ……そこそこ楽しかったぜ。うちのメスゴリラがうるさくて悪かったな」
「幸運を、二人とも。困っている人がいたら助けてあげて。こいつみたいな馬鹿は見捨てても構わないから」

 シエラ部隊は口々にそういって、ばらばらの敬礼をした。
 でもなぜか、ついさっきまで仲間だったという確かなつながりを感じた。

「――さて、行くぞシエラ。サーチタウンの様子を見にいく」
「燃料の補給は済ませといた。さっさと終わらせてベースに帰ろうぜ」
「……そういやしてたのに誰も死ななかったな、死ぬほどツイてるみてえだ」
「確かにそうね。明日は核ミサイルでも降るんじゃないかしら?」

 ストレンジャーは離脱した。
 仲間だった連中は車のある方向へと戻っていった。

『……とってもにぎやかだったね。ちょっと過激だったけど……』
「ああ、でも悪くなかった」
「ワンッ」

 俺はこっちを見上げているニクを撫でてやった。
 心なしか微笑んでる気がする、これからもよろしく頼む。
 戦利品を抱えてとりあえずどうしようかと悩んでいると、

「イチよ、このうまいのはなんだ? もっと欲しいのだが……」

 空瓶を持ったオーガがやってきた。
 どうやらドクターソーダにハマってしまったらしい。
 もしあるなら渡してやりたいところだけどあいにく手元にはない。

「ドクターソーダのことか? 気に入ったのか?」
「どくたーそーだというのか! いや、気に入ってしまってな! これは素晴らしい飲み物だ、薬のような香りだが複雑な味わいがある!」
「あーうん……店とかに行けばあるんじゃないか? 探してみたら?」

 店なんてあるのか分からないが、とりあえず街の中を指で示してみた。
 すると異世界からきた鬼は満面の笑みを浮かべて。

「そうか、なら探しに行くとしよう。今日も良き戦いをしたな」

 俺たちの横を通り過ぎようとした。
 が、思い出したように「ところで」と付け加えて尋ねてきた。

「……俺様の活躍はちゃんと見てくれたな?」
「ああ、もちろん。そうだ――」

 雄姿といわれて思い出した、せっかくだしPDAで撮影することにした。
 オーガの腕を引っ張りながら自撮りモードを立ち上げた。

「む? どうしたのだ?」
「記念撮影。ちょっとしゃがめ」

 俺は黒づくめの連中が集る戦車をバックに、大柄なオーガと一緒に映った。
 撮影の意味が分からなかったようだが、その理解力で表情を作ってくれたようだ。

 「ニンジャとオーガ、街を救う。愛犬も添えて」というタイトルにしよう。

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