魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

文字の大きさ
上 下
100 / 581
世紀末世界のストレンジャー

ストレンジャーはシエラと進む

しおりを挟む
 翌日、シエラ部隊と共にサーチタウンを去った。 
 代わりにラムダ部隊が残るそうで、後の処理はあちらに一任するそうだ。

 イェーガー軍曹がいうにはあそこは前からミリティアに狙われていたらしい。
 あの手この手でなんとか保たれてはいたそうだが、アルテリーの消滅や北部のレイダーたちの南下がきっかけでとうとう攻め込まれてしまったわけだ。

 あの後サーチタウンは残された武器を回収、鹵獲して防御を固めたそうだ。
 もし次に来る時があれば無事に残っているんだろうか、次があればだが。

 そして今、俺はシエラ部隊の保有する車の中にいた。 
 荒野にあわせた色合いのごつい軍用車両で、戦前のものらしい。

「ルキウス、この調子だと昼前にはつきそうだぜ」
「そうか、ならいい。あの神経質な連中のことだ、早く顔を見せてやらねえとうるせえからな。ノーチス、三時方向ばかり注意するなよ!」
「大丈夫、変なのがいたらぶっ潰してやるわ」

 運転手はイェーガー軍曹、助手席にはルキウス軍曹だ。
 頭上の銃座ではノーチス伍長が周囲に目を配らせていて、残りは全員後部座席に押し込まれている。

「――で、どうだ? 手になじむだろ?」
「ああ、少し重くなったけど前よりバランスがいい感じがする」
「そういうこった。重くなっちゃいるがむしろ反動をいい感じに殺せるぜ。重心も整えてあるから取り回しも良くなったはずだ、ストックは頑丈なヤツに交換したから遠慮なくブン殴れるぞ」
「引き金も変えたのか? 照準も合わせやすい、これなら遠くも狙えそうだ」
「おう、トリガも軽くていいヤツに取り換えておいたぜ。おまけの照準器は45-70弾用の小銃のやつを乗せてあるからな、良く狙って撃てよ」
「これの交換用のパーツはどうしたんだ?」
「そいつは戦前の銃器メーカーが復刻したやつだからな、他の狩猟用の銃器と互換性があんだよ。要するにニコイチってことだ」

 そんな窮屈な車両の中で、俺は改造された三連式散弾銃を確かめていた。

 カーペンター軍曹が大幅にカスタマイズを施してくれたようだ。
 ストックは堅牢なものに取り換えられ、代わりにトリガ周りは軽くなり、簡単な照準器が据えてある。
 多少重くはなったが、むしろバランスが良くなった気がする。

「ありがとう、カーペンター伍長。おかげでかなり使いやすそうだ」
「使いやすそうじゃなくて使いやすいんだぜ? トヴィンキーくれりゃ一年保証つきだ」
「そんなに好きなのか? あんなクソ甘いスナック菓子」
「お前らにゃ分からねえさ。あれには夢とロマンと……150年前のろくでなし旧人類どもの英知が詰まってんだよ」
「ストレンジャー、トヴィンキーはこいつにとって麻薬なの。禁断症状が出ると妄言を発し始めるんだけど、つまりこいつは麻薬中毒者みたいなもんよ。かわいそうでしょ?」
「おい、ノーチスは生まれつきユーモアが欠陥してんだ。哀れだろ? 時折クソつまらねえ変なことを口にするが許してやれよ」

 後部座席で二人の伍長による地獄のような掛け合いが始まった。
 ふと気づくとニクが外を見たがっていたので、膝にのせて窓に向けてあげた。
 眠そうな視線の先には生き物の気配すらない退屈な荒野が広がっている。

「おっと、そうだった」

 まだかかりそうだ――いまのうちにしておこう。
 PDAで【PERK】を選び始めると、リストにちょっと気になるものがあった。
 それは【ステータス・タグ】というページの最初にある地味なもので。

【あなたに足りないものがある? それならご安心ください! PERK一回分を犠牲にあなたのステータスポイントを恒久的に上昇させることができます! 筋肉から運まで、何でも補えますよ! 残り三回】

 というものだ。つまりこれで俺のステータスを上げようというわけである。
 謎PERKの効果ですべて1増加されているとはいえ【運】はたったの3だ。
 【運】を選択して上昇、これで4になった。

「なにしてんだよ?」

 少しラッキーになっていると甘党の方な伍長が覗き込んできた。
 職業的にこいつが気になるみたいだ。少し画面を見せてやった。

「成長してるところだ」
「……へえ、軍用モデルのPDAかよ。でもずいぶん古いモデルだな?」
「そんなに古いのかこいつ? 俺からすれば結構ハイテクな感じがするぞ」
「確かP-DIYシリーズの1500だろ? 最新モデルが2500だから結構前のやつだぜ? 使いづらくねえのか?」
「まあ確かに取り出すときに苦労するな、結構デカいし」

 彼が言うにはこの無骨な『ステータス画面』に他のモデルがあるらしい。
 まあ別に困ってる点はない、こいつとは末永く付き合おうと思う。

「ストレンジャー。大事な質問なんだがお前たちはどんな戦い方をするんだ?」

 レベルアップボーナスを配分し終えると、急に助手席から声をかけられた。
 見ると、ルキウス軍曹が顔をこっちに向けて尋ねていた。

「俺たちの戦い方か?」
「そうだ。あの街の連中はそれぞれ自分の得意なやり方があるからな。アレクの坊主は暗殺、ヒドラのクソガキは放火、あのばあさんやサンディ嬢ちゃんは長距離射撃、って感じにな」

 そういわれてみればみんなは何かと特技を持っていた。
 いやでも俺だって特技というかMGO世界の『アーツ』がある、問題はこ面々に受け入れてもらえるかどうかだが。
 ここは正直に答えてみることにした。

「……まず俺は物を投げたり、それから忍術が使える。すごいだろ?」

 そう、答えたのはいい、ところが車内が一瞬静まった。
 銃座から顔を覗かせてきた伍長とブロンド髪の伍長が「なにいってんだこいつ」と互いを見てる始末だ。
 しばらくの沈黙のあと、

「いいか、お前に言えるのは二つだ。ふざけるな、と、真面目に答えろだ」

 気難しそうにシエラ部隊のリーダーが言った、呆れを添えて。

「いや、マジなんだ。相手を動けなくしたり、姿を消したりできる」
「……じゃあそっちの喋る短剣のお嬢さんはどうなんだ?」
『わっわたしですか!? えっと……治療したり、離れた人を呼び寄せたり、あと防御魔法が使えます!』
「ファンタジーなやつらだな、ふざけやがって」

 とうとうため息をつかれてしまった。
 信じてくれてはいるみたいだが、仕方がなく信じてやるという感じだ。
 ウケ狙いじゃなく割と本気なんだけどな、と思ってると、

「いいか。お前も兵士ならちゃんとした戦い方を覚えろ、より実戦的で、攻撃的なやつをだ」
「その実戦的なやつっていうのはなんだ?」
「分かった、教えてやる」

 助手席からルキウス軍曹がこっちを向いてきた。

「良く覚えとけ。姿勢を低くして屈め、素早く敵に向かって動け、そうすりゃ弾丸飛び交う中だろうがそう当たりゃしない。そして大事なのはカバーだ」
「カバー?」
「撃ち合いの時はとにかく遮蔽物に隠れて盾にしろってことだ。姿勢を低くして必ずそのポジションで戦え、前進する際や危険が迫ったときには次の遮蔽物を選んで素早く移動しろ、戦場を渡り歩くんだ」
「えーとつまり……カバー命と?」
「そういうことだ」

 絡みつくような力強い声でそう説明されたが、言ってることは無茶苦茶だと思う。
 だが感覚でなんとなく、かろうじてイメージできた。
 隠れる、撃つ、移動する、それをタイミングよく繰り返すだけである。
 問題はそれをやる技量が果たして俺ににあるかって話だ、まあ割といけそうだが。

「時には隠れず堂々と殺しに行く蛮族女もいるけどな!」
「くそくらえ、ダリク。いい年してベッドにテディベア置いてるような奴に言われたって面白いだけだよ」
「あぁ!? ありゃジンクスで置いてんだよ! 俺にかわいらしい趣味でもあると思ってんのかクソアマ!?」
「そんなんだからサンフォードじいさんになじられるんだぜお前」
「おい、クソジジイの話はすんなよイェーガー! 殺すぞテメエ!?」

 そこへ他の三人のやり取りが飛び込んでくると、ルキウス軍曹は肩をすくめた。

「……で、俺たちがこれから向かうのはキッドって街だ。エンフォーサーとかいうテクノロジーマニアどもが守ってる」
「エンフォーサー?」
「戦前の技術を集めてるやつらだ。あいつらの技術力には世話になってる」

 彼が言うにはどうやら南にあるキッドという街へ向かってるようだ。
 車の向かう先を見てみると、まだまだ目的の姿は見えてはいなかった。

「そこのテディベア好きな天才と気が合う変な連中よ」

 するとすぐそばの銃座からノーチス伍長がこっちに顔を覗かせてきた。

「言ってやがれ、お前らみたいな脳筋どもにゃ分からねえさ」

 そのエンフォーサーとかいう連中と気が合いそうな方の伍長は、そう言うと少しの間を置いて俺を見てきた。

「――おっと、お前らは別だぜ? 人の趣味にケチつける硬い脳みそしてなきゃな」
「安心してくれ、俺の脳みそなら風通しが良くてすっきりしてるからな」
「風遠しだって? 頭に穴でも空いてんのかお前?」

 タイムリーなことを言われたので礼のブツを見せることにした。
 すかさず荷物から脳入り瓶を取り出すと、腐って虫が湧き始めたドッグマンを見たような表情をされた。

「うげっ……なんだよそれ、なんでお前そんなの持ってやがる? 変態か?」
「頭に九ミリ喰らった記念に残してくれたらしい。しかも呪いでもかかってるのか何度捨てようとしても戻ってくる」
「おい呪いとかシャレにならねえぞ!? そんなキモいの捨てちまえ!」
「そうだな捨てるか! じゃあなくそったれ!」
『また捨てようとしてる……』

 ちょうどいい機会だし天井の穴から放り投げることにした。
 ところが視界に【電波を受信しました……】と出てそれどころじゃなくなった。

「……いや、ちょっと待った。なんか受信した」
「あぁ? どした? 脳になんか届いたのか?」

 PDAのラジオ画面に『キッド・タウンの救援要請』とある、再生してみると。

【こちらキッド、街がレイダーどもに包囲されている! 誰か助けてくれ! 向こうは物資を要求している、引き渡さない場合は攻め込むと言ってるんだ! 早くやつらが襲ってくる前に――おい待て! なんだあの暴れてるやつは!?】

 切羽詰まった声が聞こえてきて、そこで放送が途絶えた。
 俺たちは思わず顔を見合わせるが、今度は車内の無線機からも声が流れ始める。

【――こちらベースだ。緊急事態だ、キッドの街にて南西からレイダーどもが侵攻してきたとの情報が入った。事態が深刻になる前に速やかに対処してくれ、彼らの信頼に関わる問題だ。オーバー】

 落ち着きのある男の声が車内にそう告げてきた。
 PDAのほうが一歩早かったようだが、どのみち襲われてるという事実は変わらない。

「……ったく、最近は休む暇もねえな。飛ばせ、イェーガー!」
「了解。アイツらに目にもん見せてやろうぜ!」

 シエラ部隊と余所者を乗せた車両が加速して、南へ続く道路を突っ走った。

しおりを挟む
感想 456

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...