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世紀末世界のストレンジャー
ストレンジャーは首を突っ込む
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険しい道から荒野に戻り、南へ続くハイウェイにたどり着いた時だった。
不意に視界に【電波を受信しました……】と浮かんだ。
思わず立ち止まる、脳の損傷が原因でとうとう変なのを受信したのかと思った。
『どうしたの、いちクン?』
「……なんか受信した。いや、頭がイカれて天啓に導かれちゃうほうじゃないぞ」
PDAの画面を開くと『ラジオ』の項目に『サーチタウン放送』とある。
試しに立ち上げてみると、いきなり男の叫び声が聞こえ始めた。
【こちらサーチタウン! 救援を求む! いま我々はミリティアから攻撃を受けている! 繰り返す、我々は攻撃を受けている! やつらの砲弾のせいで防御が――クソッ! やつら戦車まで……】
その背後には銃声や悲鳴が折り重なって響いている。
何かの駆動音、それからばこんという砲声と爆発音を残してロストしてしまった。
「おい待て……サーチタウンってちょうど今向かってる場所だよな?」
『いまの放送……戦ってる感じがしたよね? ど、どうしよう?』
ミリティアっていうとボスが言ってた西側のやばいやつらのことか。
で、とても不運なことに次の目的地にそいつらがいらっしゃると。
毎回思うんだけど俺が行く先はトラブルに見舞われてばっかりじゃないか?
「……ここまできて素通りはできそうにないな。とにかく調べに行くぞ」
『本当に行くの?』
「少し様子を見に行きたい。ダメか?」
『ううん、いいよ。気を付けて行こう』
「よし、のんきに昼飯食ってる時間はないぞ。食いながら移動だ」
「ワンッ」
バックパックから適当に食料を引っこ抜きながら進んだ。
先日の死体から拝借した【ポテトバー】とかいう携帯食料だ。
白い箱を開けると袋詰めのブロックが五本詰まっていて、中にはチーズやナッツ類が練り込まれてるみたいだ。
一口かじるとぱさぱさしたジャガイモのポタージュみたいな味がした。
「……この調子じゃ雨が降るかもな、ちょっと急ぐかんふっ」
塩味の効いたブロックを食べながら南へ移動した。ついでにむせた。
空は不吉なものを示すかのように薄く曇り始めている。
◇
進めば進むほど嫌な予感というものは増してきた。
それなりの規模の街が見えてくるにつれて、銃声、爆音、果てには人の悲鳴までが聞こえてくるようになったからだ。
音の発生源を感覚で辿ると、それは街の西側からのものだった。
このまま進んでいけば間違いなく戦場が待ってるはずだ。
「おいおい、思った以上に激しくないか? これじゃ戦争だ」
今にも雨が降り出しそうな空の下で、俺は街の北西――つまり道路から外れて外側に回り込もうとしたのだが。
【電波を受信しました……】とまた表示、なんだと思ってPDAを開く。
『シド・レンジャーズの無線』とある、ボスの言ってた連中の名前だ。
『ラジオ』を開いて周波数を合わせてみると。
【こちらラムダチーム! あいつら北西から迫撃砲を馬鹿みたいに撃ってきやがる! おかげで身動きが取れねえ! 誰でもいい、あのクソども黙らせろ!】
【こちらシエラ、市街地にミリティアが攻め込んでるせいでこっちも身動きが取れん。あいつら装甲車や戦車だけじゃあきたらずウォーカーまでぶち込んでやがる。こっちでどうにかする、オーバー】
銃声交じりの無線を傍受してしまった。
粗暴な口ぶりと厳しい声の通信を最後に閉じてしまうが、街のほうがかなり激戦区だということが分かった。
『いちクン、あそこに誰かいるよ……!?』
どうしようかと一瞬悩むが、すぐにミコが何かを見つけてくれたようだ。
言われた方向を見ると――荒野の上にトラックが留まっていて、土嚢で作られた小さな陣地が設けられている。
ちょうどそこからどん、と強烈な発射音が聞こえていた。
「……行ってみるか。ニク、気を付けていくぞ」
「ワンッ」
俺はいつでも武器を使えるようにしたまま、黒いシェパード犬をつれて進んだ。
すぐにその場所の正体は判明した。
ちょうど向かった先で二問の迫撃砲が街めがけて砲弾を撃ち込んでいたからだ。
五人ほどの男たちがあれこれ話しながら砲の向きや角度を調整している。
「もっと遠くだ、味方の手前に落ちやがったぞ」
「ちゃんと計算とかして撃たなくていいのかよ、隊長に殺されるぞ」
「味方に当てなきゃそれでいいんだよ、とっとと敵のど真ん中に落として終わらせちまおうぜ」
そいつらはモスグリーンのジャンプスーツを着た連中だった。
今まで見たレイダーどもと違って装備の質は明らかに上だ。
質の良い銃とちゃんとした防具を身に着けていて、機敏に動いてる。
「味方から通信だ、カジノ周辺にある防御線を突破できそうだとさ」
「やっとかよ、今回の指揮官はクソだな。どさくさに紛れて殺そうぜ」
「やめとけ、今のうちらは士官が不足してんだぞ。腐っても指揮官さ」
さらに無線機まで置いてある、どうやらあれで連絡を取ってるらしい。
さてどうする――そう考えてると砲弾を込めてるやつがこっちに気づいてしまい。
「……って誰だあいつ!? おい、誰か来やがったぞ!」
完全に捕捉された。半自動式の小銃を手にこっちに構えてきた。
それに続いて周囲の人間も一斉に武器を向けてくる。
そりゃそうか、黒い格好したやつがほいほい近づいて来ればすぐバレるわけだ。
「あーもしもし、花火大会の会場ってここであってる?」
両手を上げながら近づく。
とうぜん銃口が向けられたままだが、今のところは撃たれちゃいない。
「……お前は何言ってやがるんだ? 今日は独立記念日でもないしここは見物会場でもないぞ、何しにきやがった」
「待て、あの格好……シェルターの擲弾兵じゃないか!?」
「おいてめえ! 武器を全部捨ててそこに伏せろ! いいな!」
今度は武器を捨てるように命じられた。
なるほど、どこぞの馬鹿と違っていきなり撃たないのか。
俺はニクと目を合わせて『回り込め』と土嚢の方を見た。
「分かった。ところでこっちに銃を向けたってことは敵でいいんだよな?」
「俺たちがシド・レンジャーズのお人好しに見えるのか? いいから黙っててめえが持ってるもん全部よこしな」
言われた通りに全部捨てた。
銃を、弓を、バックパックを、それから――
「ああ、分かった。ところであんたら……ニンジャって知ってるか?」
「あ? ニンジャ? それくらい知ってるぜ、それがどうしたってんだ」
ベルトから手作りのクナイを抜いた。
輪に指を入れてくるくるさせた、そいつらの視界が釘付けになった。
「実は俺ニンジャの末裔なんだ。んであんたらを成敗しに来た、お前ら皆殺しだ」
「……はぁ? なにいってんだこいつ――」
「それでこいつはクナイっていうんだ、俺の新しい親友だ」
いまだ。
腕を軽く持ち上げて、指で回していたクナイを地面にめがけて手放す。
乾いた地面に先端が触れた途端、ぱん、と音がして閃光と共に姿が消えた。
「……はっ!? おい! どうなってやがる!? 消えたぞ!?」
「待て一体どうなってる!? あいつ……どこいきやがった!?」
『ニンジャバニッシュ』の効果はちゃんと発動してるみたいだ。
気を取られてる隙にニクも土嚢にぴったりくっついて配置についた、さあやるか。
俺は姿を消したまま、胸をなぞって見えない銃剣を抜いた。
「砲撃中止! やつを探せ! 無線で報告だ!」
土嚢を越えて内側に入った。
台に置かれた無線機前に一人、迫撃砲の近くに二人、そして眼前にもう二人。
まずは一番近くにいた男、そいつの持っていた突撃銃ごと腕を上に引っ張る。
「畜生どこいき……うおっ!?」
無防備になった横っ腹に硬くて冷たい刃を差し込む。
痛みで身をよじってバランスが崩れたところに、肩と首の間に銃剣を無理やりねじ込んだ。
「ぅおっ」とせき込むような潰れた声を上げて無力化、次だ。
「な……なんだぁぁ!? おい一体何が起きてやが」
「ガァウッ!」
それに続いてニクが飛び出す。
近くの仲間の突然死に驚いていた男に、飛び出すと同時に首にかぶりつく。
「あっ!? なっ、やめっ! なにっ――ああああぁぁぁぁッ!?」
シェパード犬にむき出しの喉を食らいつかれたそいつは、手持ちの拳銃をめちゃくちゃに乱射しながらもがいた。
仲間に当たろうがお構いなく撃ち続けるが、すぐに喉を食い破られて死んだ。
「ニク、いったん隠れろ!」
「ワンッ!」
「ちっ、ちくしょおおおおおおお! やりやがったなぁぁぁッ!」
流れ弾を食らった迫撃砲近くの男がニクにめがけて小銃をぶっ放す。
間一髪のところで回避、土嚢の裏に隠れた、今度はお前だ。
小銃持ちのミリティアのところへ駆け込んだ、透明化効果が切れるが問題ない。
「ま、また出やがった!? なんだってんだこいつは」
「借りるぞ、クソ野郎!」
そいつに抱き着くように飛び込んで、脇腹めがけて銃剣を刺し込んだ。
刃先で抉ると信じられないほど甲高い声を上げながら相手が抱き着いてきた。
好都合だ、そいつの身体ごと別の敵へ振り返る。
「こっこいつ! こっちに来るんじゃねえ!」
無線機そばにいた男が回転弾倉式の拳銃を向けてぶっ放してきた。
できたての肉盾にびすびすばすばす当たる。そのまま勢いをつけて穴だらけの死体をぶん投げる。
結果的にそいつは無線機ごと地面に倒れるはめになった。
「なんだこいつ、クソ強ぇ……ぎぃああああああああぁぁっ!?」
「ガフゥゥッ!」
背後で声がした、もう一人の男が銃を向けてきたがニクがやってくれた。
「なあ、いまさらこんな質問はどうかと思うけど……お前らミリティアか?」
黒い犬が男の首筋を噛み千切り始めたのを見て、無線機もろとも倒れたやつに近づく。
「……花火師かなんかに見えると思うか? 泣く子も黙るミリティアだこの馬鹿野郎」
「いや全然。じゃあ死ね」
ミリティアの連中と確認してから、しゃがんでそいつの喉に刃を滑らせる。
トドメがきれいに決まった。刃物を遮るはずの手は空振りし、ざっくり裂かれた首を押さえようとしたまま死んだ。
「ヴァウッ!」
ニクも戻ってきた。首をかみ砕かれた男が土嚢の上で死んでいる。
俺は口を血まみれにしたシェパード犬を撫でてやった。
これでとりあえず迫撃砲陣地は潰したわけだが、
【聞こえてないのか!? どうして砲撃が止んでいる! 応答しろ! 無事なのか!?】
誰かの必死な呼びかけが聞こえる。
少々古いが軍事色の強い無骨な無線機が喚いている。
とりあえずぶっ壊そうかという考えがよぎるが、手付かずの迫撃砲を見てろくでもないことを思いついた。
【あー、あー、聞こえますか、こちらは無事です。敵が来ましたがぶっ殺しました。これより支援を再開します】
まず落ちていたマイクを拾って声をかけた。
銃声交じりの声が向こうからやってくる。
【敵が来ただと!? どこからだ!?】
【おそらくサーチタウンの連中が迂回してきたんでしょうがとにかくぶっ殺しました。砲撃再開します、オーバー】
【了解、我々は市街地に接近した。照準は奥へ向けてくれ。くれぐれも俺たちに当てるなよ】
これでよし。
無線機を蹴り飛ばして、放置された迫撃砲に近づく。
台座と脚で固定されたモスグリーン色の砲身が街へと向けられている。
『……あの、いちクン? 何するつもりなの?』
ミコが問いかけてきたが、地面に転がっていた砲弾を拾ってみた。
【80mm迫撃砲弾】と名前が出る、こいつはいつでも爆発する覚悟ができてるようだ。
「ミリティアごっこだ」
『重火器』スキルを総動員して迫撃砲の向かう先を見た。
あくまで勘だが、ちょっとだけ砲身をいじれば面白いことになりそうだ。
ということで砲身横側にあるレバーを何度か回すといい感じに角度が修正できた。
『ミリティアごっこって……えっ、もしかして――』
「人手不足らしいからな、俺が代わりにやってやろう」
この辺でいいだろう。
落ちていた迫撃砲の弾を拾って、砲身にそーっと流し込んで。
「オラッ! 食らえッ!」
落とした。ドンッと音を立てて砲弾がすっ飛んでいく。
着弾地点は分からないが、しばらくしてずっと遠くから爆発音が聞こえた。
すると近くの無線機から怒声が飛んでくる。
【馬鹿野郎! どこ狙ってやがる! お前らが当てた場所は俺たちのど真ん中だ! ちゃんと狙って撃てこの役立たず!】
うるさいのでもう一発装填、発射。
また街のどこかで爆発がして、悲鳴交じりの声が送られてきた。
【なっ――てめえらはクビだ! あとで銃殺刑だくそったれ! いまので何人死んだと思ってやがる!?】
腹が立つのでもう一発。
【がぁぁぁぁぁぁッ!? ち、ちくしょう! わざと狙ってやがんのか!? まずい燃料タンクに】
無線に怒鳴られるが、ほどなくして町から派手な爆音が響いて途絶えてしまった。
念のためもう一発ぶっ放そうとしたが、
『いちクン、分かったからもうやめよう!?』
ミコの制止の声が挟まれたのでやめることにした。
物資を拝借して、ついでに迫撃砲に蹴り倒してから街の方へ向かった。
◇
不意に視界に【電波を受信しました……】と浮かんだ。
思わず立ち止まる、脳の損傷が原因でとうとう変なのを受信したのかと思った。
『どうしたの、いちクン?』
「……なんか受信した。いや、頭がイカれて天啓に導かれちゃうほうじゃないぞ」
PDAの画面を開くと『ラジオ』の項目に『サーチタウン放送』とある。
試しに立ち上げてみると、いきなり男の叫び声が聞こえ始めた。
【こちらサーチタウン! 救援を求む! いま我々はミリティアから攻撃を受けている! 繰り返す、我々は攻撃を受けている! やつらの砲弾のせいで防御が――クソッ! やつら戦車まで……】
その背後には銃声や悲鳴が折り重なって響いている。
何かの駆動音、それからばこんという砲声と爆発音を残してロストしてしまった。
「おい待て……サーチタウンってちょうど今向かってる場所だよな?」
『いまの放送……戦ってる感じがしたよね? ど、どうしよう?』
ミリティアっていうとボスが言ってた西側のやばいやつらのことか。
で、とても不運なことに次の目的地にそいつらがいらっしゃると。
毎回思うんだけど俺が行く先はトラブルに見舞われてばっかりじゃないか?
「……ここまできて素通りはできそうにないな。とにかく調べに行くぞ」
『本当に行くの?』
「少し様子を見に行きたい。ダメか?」
『ううん、いいよ。気を付けて行こう』
「よし、のんきに昼飯食ってる時間はないぞ。食いながら移動だ」
「ワンッ」
バックパックから適当に食料を引っこ抜きながら進んだ。
先日の死体から拝借した【ポテトバー】とかいう携帯食料だ。
白い箱を開けると袋詰めのブロックが五本詰まっていて、中にはチーズやナッツ類が練り込まれてるみたいだ。
一口かじるとぱさぱさしたジャガイモのポタージュみたいな味がした。
「……この調子じゃ雨が降るかもな、ちょっと急ぐかんふっ」
塩味の効いたブロックを食べながら南へ移動した。ついでにむせた。
空は不吉なものを示すかのように薄く曇り始めている。
◇
進めば進むほど嫌な予感というものは増してきた。
それなりの規模の街が見えてくるにつれて、銃声、爆音、果てには人の悲鳴までが聞こえてくるようになったからだ。
音の発生源を感覚で辿ると、それは街の西側からのものだった。
このまま進んでいけば間違いなく戦場が待ってるはずだ。
「おいおい、思った以上に激しくないか? これじゃ戦争だ」
今にも雨が降り出しそうな空の下で、俺は街の北西――つまり道路から外れて外側に回り込もうとしたのだが。
【電波を受信しました……】とまた表示、なんだと思ってPDAを開く。
『シド・レンジャーズの無線』とある、ボスの言ってた連中の名前だ。
『ラジオ』を開いて周波数を合わせてみると。
【こちらラムダチーム! あいつら北西から迫撃砲を馬鹿みたいに撃ってきやがる! おかげで身動きが取れねえ! 誰でもいい、あのクソども黙らせろ!】
【こちらシエラ、市街地にミリティアが攻め込んでるせいでこっちも身動きが取れん。あいつら装甲車や戦車だけじゃあきたらずウォーカーまでぶち込んでやがる。こっちでどうにかする、オーバー】
銃声交じりの無線を傍受してしまった。
粗暴な口ぶりと厳しい声の通信を最後に閉じてしまうが、街のほうがかなり激戦区だということが分かった。
『いちクン、あそこに誰かいるよ……!?』
どうしようかと一瞬悩むが、すぐにミコが何かを見つけてくれたようだ。
言われた方向を見ると――荒野の上にトラックが留まっていて、土嚢で作られた小さな陣地が設けられている。
ちょうどそこからどん、と強烈な発射音が聞こえていた。
「……行ってみるか。ニク、気を付けていくぞ」
「ワンッ」
俺はいつでも武器を使えるようにしたまま、黒いシェパード犬をつれて進んだ。
すぐにその場所の正体は判明した。
ちょうど向かった先で二問の迫撃砲が街めがけて砲弾を撃ち込んでいたからだ。
五人ほどの男たちがあれこれ話しながら砲の向きや角度を調整している。
「もっと遠くだ、味方の手前に落ちやがったぞ」
「ちゃんと計算とかして撃たなくていいのかよ、隊長に殺されるぞ」
「味方に当てなきゃそれでいいんだよ、とっとと敵のど真ん中に落として終わらせちまおうぜ」
そいつらはモスグリーンのジャンプスーツを着た連中だった。
今まで見たレイダーどもと違って装備の質は明らかに上だ。
質の良い銃とちゃんとした防具を身に着けていて、機敏に動いてる。
「味方から通信だ、カジノ周辺にある防御線を突破できそうだとさ」
「やっとかよ、今回の指揮官はクソだな。どさくさに紛れて殺そうぜ」
「やめとけ、今のうちらは士官が不足してんだぞ。腐っても指揮官さ」
さらに無線機まで置いてある、どうやらあれで連絡を取ってるらしい。
さてどうする――そう考えてると砲弾を込めてるやつがこっちに気づいてしまい。
「……って誰だあいつ!? おい、誰か来やがったぞ!」
完全に捕捉された。半自動式の小銃を手にこっちに構えてきた。
それに続いて周囲の人間も一斉に武器を向けてくる。
そりゃそうか、黒い格好したやつがほいほい近づいて来ればすぐバレるわけだ。
「あーもしもし、花火大会の会場ってここであってる?」
両手を上げながら近づく。
とうぜん銃口が向けられたままだが、今のところは撃たれちゃいない。
「……お前は何言ってやがるんだ? 今日は独立記念日でもないしここは見物会場でもないぞ、何しにきやがった」
「待て、あの格好……シェルターの擲弾兵じゃないか!?」
「おいてめえ! 武器を全部捨ててそこに伏せろ! いいな!」
今度は武器を捨てるように命じられた。
なるほど、どこぞの馬鹿と違っていきなり撃たないのか。
俺はニクと目を合わせて『回り込め』と土嚢の方を見た。
「分かった。ところでこっちに銃を向けたってことは敵でいいんだよな?」
「俺たちがシド・レンジャーズのお人好しに見えるのか? いいから黙っててめえが持ってるもん全部よこしな」
言われた通りに全部捨てた。
銃を、弓を、バックパックを、それから――
「ああ、分かった。ところであんたら……ニンジャって知ってるか?」
「あ? ニンジャ? それくらい知ってるぜ、それがどうしたってんだ」
ベルトから手作りのクナイを抜いた。
輪に指を入れてくるくるさせた、そいつらの視界が釘付けになった。
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「……はぁ? なにいってんだこいつ――」
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いまだ。
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「……はっ!? おい! どうなってやがる!? 消えたぞ!?」
「待て一体どうなってる!? あいつ……どこいきやがった!?」
『ニンジャバニッシュ』の効果はちゃんと発動してるみたいだ。
気を取られてる隙にニクも土嚢にぴったりくっついて配置についた、さあやるか。
俺は姿を消したまま、胸をなぞって見えない銃剣を抜いた。
「砲撃中止! やつを探せ! 無線で報告だ!」
土嚢を越えて内側に入った。
台に置かれた無線機前に一人、迫撃砲の近くに二人、そして眼前にもう二人。
まずは一番近くにいた男、そいつの持っていた突撃銃ごと腕を上に引っ張る。
「畜生どこいき……うおっ!?」
無防備になった横っ腹に硬くて冷たい刃を差し込む。
痛みで身をよじってバランスが崩れたところに、肩と首の間に銃剣を無理やりねじ込んだ。
「ぅおっ」とせき込むような潰れた声を上げて無力化、次だ。
「な……なんだぁぁ!? おい一体何が起きてやが」
「ガァウッ!」
それに続いてニクが飛び出す。
近くの仲間の突然死に驚いていた男に、飛び出すと同時に首にかぶりつく。
「あっ!? なっ、やめっ! なにっ――ああああぁぁぁぁッ!?」
シェパード犬にむき出しの喉を食らいつかれたそいつは、手持ちの拳銃をめちゃくちゃに乱射しながらもがいた。
仲間に当たろうがお構いなく撃ち続けるが、すぐに喉を食い破られて死んだ。
「ニク、いったん隠れろ!」
「ワンッ!」
「ちっ、ちくしょおおおおおおお! やりやがったなぁぁぁッ!」
流れ弾を食らった迫撃砲近くの男がニクにめがけて小銃をぶっ放す。
間一髪のところで回避、土嚢の裏に隠れた、今度はお前だ。
小銃持ちのミリティアのところへ駆け込んだ、透明化効果が切れるが問題ない。
「ま、また出やがった!? なんだってんだこいつは」
「借りるぞ、クソ野郎!」
そいつに抱き着くように飛び込んで、脇腹めがけて銃剣を刺し込んだ。
刃先で抉ると信じられないほど甲高い声を上げながら相手が抱き着いてきた。
好都合だ、そいつの身体ごと別の敵へ振り返る。
「こっこいつ! こっちに来るんじゃねえ!」
無線機そばにいた男が回転弾倉式の拳銃を向けてぶっ放してきた。
できたての肉盾にびすびすばすばす当たる。そのまま勢いをつけて穴だらけの死体をぶん投げる。
結果的にそいつは無線機ごと地面に倒れるはめになった。
「なんだこいつ、クソ強ぇ……ぎぃああああああああぁぁっ!?」
「ガフゥゥッ!」
背後で声がした、もう一人の男が銃を向けてきたがニクがやってくれた。
「なあ、いまさらこんな質問はどうかと思うけど……お前らミリティアか?」
黒い犬が男の首筋を噛み千切り始めたのを見て、無線機もろとも倒れたやつに近づく。
「……花火師かなんかに見えると思うか? 泣く子も黙るミリティアだこの馬鹿野郎」
「いや全然。じゃあ死ね」
ミリティアの連中と確認してから、しゃがんでそいつの喉に刃を滑らせる。
トドメがきれいに決まった。刃物を遮るはずの手は空振りし、ざっくり裂かれた首を押さえようとしたまま死んだ。
「ヴァウッ!」
ニクも戻ってきた。首をかみ砕かれた男が土嚢の上で死んでいる。
俺は口を血まみれにしたシェパード犬を撫でてやった。
これでとりあえず迫撃砲陣地は潰したわけだが、
【聞こえてないのか!? どうして砲撃が止んでいる! 応答しろ! 無事なのか!?】
誰かの必死な呼びかけが聞こえる。
少々古いが軍事色の強い無骨な無線機が喚いている。
とりあえずぶっ壊そうかという考えがよぎるが、手付かずの迫撃砲を見てろくでもないことを思いついた。
【あー、あー、聞こえますか、こちらは無事です。敵が来ましたがぶっ殺しました。これより支援を再開します】
まず落ちていたマイクを拾って声をかけた。
銃声交じりの声が向こうからやってくる。
【敵が来ただと!? どこからだ!?】
【おそらくサーチタウンの連中が迂回してきたんでしょうがとにかくぶっ殺しました。砲撃再開します、オーバー】
【了解、我々は市街地に接近した。照準は奥へ向けてくれ。くれぐれも俺たちに当てるなよ】
これでよし。
無線機を蹴り飛ばして、放置された迫撃砲に近づく。
台座と脚で固定されたモスグリーン色の砲身が街へと向けられている。
『……あの、いちクン? 何するつもりなの?』
ミコが問いかけてきたが、地面に転がっていた砲弾を拾ってみた。
【80mm迫撃砲弾】と名前が出る、こいつはいつでも爆発する覚悟ができてるようだ。
「ミリティアごっこだ」
『重火器』スキルを総動員して迫撃砲の向かう先を見た。
あくまで勘だが、ちょっとだけ砲身をいじれば面白いことになりそうだ。
ということで砲身横側にあるレバーを何度か回すといい感じに角度が修正できた。
『ミリティアごっこって……えっ、もしかして――』
「人手不足らしいからな、俺が代わりにやってやろう」
この辺でいいだろう。
落ちていた迫撃砲の弾を拾って、砲身にそーっと流し込んで。
「オラッ! 食らえッ!」
落とした。ドンッと音を立てて砲弾がすっ飛んでいく。
着弾地点は分からないが、しばらくしてずっと遠くから爆発音が聞こえた。
すると近くの無線機から怒声が飛んでくる。
【馬鹿野郎! どこ狙ってやがる! お前らが当てた場所は俺たちのど真ん中だ! ちゃんと狙って撃てこの役立たず!】
うるさいのでもう一発装填、発射。
また街のどこかで爆発がして、悲鳴交じりの声が送られてきた。
【なっ――てめえらはクビだ! あとで銃殺刑だくそったれ! いまので何人死んだと思ってやがる!?】
腹が立つのでもう一発。
【がぁぁぁぁぁぁッ!? ち、ちくしょう! わざと狙ってやがんのか!? まずい燃料タンクに】
無線に怒鳴られるが、ほどなくして町から派手な爆音が響いて途絶えてしまった。
念のためもう一発ぶっ放そうとしたが、
『いちクン、分かったからもうやめよう!?』
ミコの制止の声が挟まれたのでやめることにした。
物資を拝借して、ついでに迫撃砲に蹴り倒してから街の方へ向かった。
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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桜井正宗
青春
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