魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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「……こりゃすげぇ」

 爆発の衝撃がおさまって最初にそう言ったのは、何を隠そうツーショットか。
 砂ぼこりの波が終わると、すすけた空気の様子が次第に見えてきた。
 安全になったのを確認してボスが天井を開けて身を乗り出すと、

「……下手すりゃうちらもやばかったじゃないか、これ」

 あきれたような、それとも恐れているのか、そんな声を漏らしていた。
 そこで車が停まる。

「イチ、外は愉快なことになってるよ。行こうじゃないか」

 ボスは小銃に弾を込めながら淡々とした表情で言ってきた。
 降りて見てみろ、ということらしい。

「……行きましょう、ボス」

 散弾銃を掴んで、ミコを身に着けて車から降りた。
 爆風で少し傷んだドアを開けた矢先、それは飛び込んで来た。

 ――怒声と悲鳴、それから銃声。

 北を向けば、砂煙の向こうで世の終わりみたいな騒音がかき鳴らされていた。
 俺たちの突破した道路は地獄か何かと見間違えるような光景になっている。
 斜面は吹き飛び、その間でぐちゃぐちゃにひしゃげた鉄の縦列が燃えさかる。

「残党狩りだぜぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 その方向へと進もうとすると、後ろから聞きなれた声がした。
 振り向けばヒドラのやつが火炎放射器を手にのしのし走っていく。
 そんな彼の後ろを赤毛の彼女が、他の住人たちが続いていった。

*Dodododododododododom!*

 今度は南西の丘の上から銃声、50口径のヘヴィなやつだ。
 『生きて帰れると思うなよひゃはははは!』とハイになった声も重なっている。
 俺たちも続いた。ぐちゃぐちゃになった道路へと歩いていく。

『……うっ……!』

 いきなりミコが吐き気をこらえるような低い声を上げる。
 すぐに理由は分かった、あたりに信者だったものが散らばってるからだ。
 少なくともいま、足元にはカチ割られた人間の顔が転がっている。

「……イチ、ミコさんを隠してやれ」

 ツーショットの真面目な調子の声を聞いて、ミコをポケットにねじ込んだ。
 ニクが『ワゥン』と心配そうにミコを見上げている。撫でてやった。

「……クソみたいな連中だったが、こりゃ哀れになっちまうね」
「……確かに哀れになりますね、これは」
「シドレンジャーズのやつらもドン引きするレベルだぜ。地獄そのものだ」

 敵の大群はもはや燃えさかる棺桶の山だ。
 地面が抉れてできたクレーターで、もうこれ以上燃えるものなんてないっていうぐらいに車の残骸が全力で燃えさかっている。
 周りには黒焦げだったり「お前は生き物だったのか?」と疑いたくなるほど無残な死体が広くちらばっていた。 

 それだけならまだいい。
 問題はそのずっと向こう側にあるものだ。
 残骸を超えた向こうで、運よく直撃を免れた生き残りがいたようだ。
 辛うじて生き延びたものの身動きを取れなくなった連中は攻撃を受けている。

「ボス、七面鳥狩りだ!」

 爆心地を避けて進むと、住人の一人が取り残された連中に銃をぶっ放していた。

「――なんだって?」
「七面鳥狩りだ、ボス! 動きが取れないから撃ち放題ってことだ!」

 そいつは嬉しそうにアルテリーの信者たちにまた銃を撃ち始める。
 その先を目で追うと……それはもう悲惨な光景だった。

 プレッパータウンの住人と炎に囲まれ逃げることのできない野郎ども。
 壊れた車から応戦するものの、大口径弾の狙撃を食らってぶち破られる信者の姿。
 『降参だ』と両手を上げて飛び出したところに焼き払われる男。
 どうにか車で逃げようとしたら50口径の雨を受けて炎上、執拗に撃たれて車体ごとハチの巣にされる誰か。

「ボス……『ストップ』の一言はいいのかい? これじゃ虐殺だぜ?」
「手加減したら痛い目見るのは私たちだ。ほっときな」
「……なあ、あんたやっぱりアルゴ神父のこと、結構恨んでるだろ?」
「別に、あんな変人のことなんかどうでもいいさ。この馬鹿どもが苦しむザマをこうして見たかっただけだよ」

 これ以上やることは何もないみたいだ。
 その証拠にボスは「やってられんさ」と紙たばこを咥えていた。
 せめて、ポケットからライターを取り出してたばこに火を近づけてやった。

「……いいかい、イチ」

 プレッパータウンの指導者はため息のような煙を吐いた。
 それから『私を見ろ』とこっちを向いて口を開く。

「これであんたは仇をうった。それだけさ」

 それは一体、誰の仇なんだろうか。
 フィーニスさんか、アルゴ神父か、それとも何十回も殺された俺自身か。
 あるいはすべてか、いや、どっちにしたってこれで終わったんだ。

「……これで終わったんですよね」
「そうさ、あんたはようやくケリをつけたんだ。まあ、いろいろ予想外だったがね」
「そういうことさ余所者ストレンジャー。お前はよくやったよ」

 なんだかあっけなく終わってしまって、力が抜けそうになった。
 ところがそうはさせないのがうちのボスだ。

「さて、まだ仕上げに入ろうか。奇跡の業とやらを使うんだ、これくらい派手にやってもさっきみたいに生きてる可能性だってある」

 もう一仕事だ、と進み始めた。
 そうだ、まだ魔法を使える付き添いの男がいたか。

「それもそうか。誰かさんが上半身吹っ飛ばしたのに元気でしたからね」
「そういうこった。なあに、このありさまだ。楽勝さね」

 気持ちを切り替えた、三連散弾銃の銃身を折って45-70の弾を詰める。

「今生の別れには至らなかったみたいですね、けっきょく」

 こうなる前に交わした会話を思い出してちょっと笑った。

「当たり前だよ、これくらいでくたばられちゃ困るからね」
「良かったなぁ、生きてて。帰ったらバーで好きなもんおごってやるからな」

 俺たちはそれぞれ武器を手にして周りの残骸を見た。
 やつはどこだ、と。

「見な、砲塔のついた装輪車両だ。あいつの乗ってたやつだね」
「あれか。あの杖持ったやつ、なんか叫んでましたね」
「ああ覚えてるよ、絶対に生きては帰さんぞ、だったか」
「ベタだなぁ、まあこうして生きてるわけだし預言は外れたわけだ」

 すぐに目標は定まった、あいつが乗ってた八輪の装甲車だ。
 とはいえこの辺りは雑多な残骸だらけだ、北側にはなさそうだ。

「ニク、お前なら分かるか?」

 なんとなく、後ろにいたシェパード犬に尋ねてみた。
 するとニクは「ワンッ」と自信たっぷりに答えて走り始める。
 理解してくれたんだろうか、いやどのみち適当に探すよりはいいか。

「あんたのいってること分かるのかね、あの犬は」
「俺だってあいつのいうことがなんとなく分かりますよ」

 ニクが鼻をすんすんさせながら進むのを見て、追いかけた。
 道路だった場所を避けて、南西の方へと向かっていく。

「……イっちゃん! ご無事でしたのね!」

 すると残骸のど真ん中にいたリム様がこっちに気づいた。
 どうやら死体の片づけをしてたみたいだ。

「リム様。見ての通りだ、やっと終わった」

 少し心に余裕ができた俺は、走ってくる魔女をしゃがんで待ち構えた。
 とてとて近づくなり抱き着いてきた。抱き返すとふんわりと柔らかい。

「心配しましたわ! お怪我はありませんか? おなかすいてません?」
「ああ」

 抱きしめるとリム様の温かさが妙にはっきり伝わってきた。
 やっと余裕ができたんだろうか。人の温かさが身に染みる。

「大丈夫。強いて言えばおにぎり食べたい」
「……ええ、もちろんです。とびきりおいしいのを作ってあげますからね」

 すると頭を撫でられた。
 それだけじゃなかった、リム様の抱きしめる力が急に強くなって。

「――やっぱり、あの子と同じ運命なのね」

 ふにっとした指で髪をかき分けられつつだが、ひどく悲し気な声が耳に届いた。
 その言葉の意味、まして奥深くに眠った力なんて俺にはさっぱりだった。

「リム様、いまなんて――」
「……なんでもありませんわ」
「なんでもないわけないだろ。なんだよ、そんな意味深なこと言っといて」

 だけどいまやストレンジャーは真実を追い求める生き物だ。
 抱き着いていたリム様から顔を引いて、相手を見た。
 小さな魔女は声のとおりにとても不安で、それでいて悲しそうな顔をしていた。

「……もういいんだ。だから話してくれないか?」

 だからって「ああそうか」で済ませるほど、やわな育て方はされちゃいない。
 屈んだまま、親し気な距離感でもう一度尋ねた。

「……イっちゃん、あなたはアバタールちゃんとおんなじなんです」
「何が同じだって?」
「あの子とそっくり、なんです。あらゆる魔を拒むその身も。生涯戦い続けなければならなかったその生き方も。傷だらけの姿も。どこまでも似ているんです」

 まただ、アバタールだ。
 リム様に深く結びついているあいつは、一体この自分とどうつながっているのか。
 けっきょく今この瞬間ですら彼女のいう『我が子』のことを、俺はその名前ぐらいしか分かっちゃいない。

「そこまでいうならよっぽどそっくりなんだろうな、俺は」

 そんなそっくりがこの世界で生き抜く姿に、何か重ねるものがあるのかもしれない。
 憐れんでるんだろうか? 悲しんでるんだろうか? 懐かしんでいるんだろうか。

「……ひょっとしたら生まれ変わりかなんかかもな。この生き方も、この力も、この身体も、そいつとそっくりなのかもしれない。でも心配しないでくれ、もう覚悟してるから」

 だから言った。そいつの代わりを気取るつもりはないが、せめて安心させようと。
 アバタールそっくりな手で、銀の髪をさらっと撫でてやった、が。

「……ちがいますの……!」

 自信を込めて言った一言は、首を横に振られて拒まれてしまった。
 そして胸の中に沸き立つ「どうして?」という疑問よりも早く、

「アバタールちゃんの運命と、同じなの。あらゆる異能を拒むその力が、いずれあなたすらも消してしま――」

 怒り、悲しみ、絶望、諦観、やり場のない感情の籠った返事がきて、途切れた。
 今まで見たことのない表情から、リム様は「しまった」とばかりに後ずさる。

『……りむサマ? いま、何て言ったの? いちクンが消えるって――』

 それはポケットにねじ込んだ短剣にも聞こえてしまっている。
 間違いなく『死』を意味する言葉だ、それもただならぬ末路の。
 この魔法が効かないという能力が、一体どうしてか自分に牙を剝くという。

「……ごめんなさい」

 持ち主の最期を知っているであろうリム様は口をつむいだ。
 後ろめたくうつむく表情が見えてから、俺はひどく残酷な真実を完全に理解した。
 『死ぬ』ことよりも恐ろしい何かが自分を待っているということを。

「――そうか」

 ……だけどいいんだ。
 少し悩んで、けれどもすんなりと受け入れることができた。

「……この力、そんなにやばかったんだな」

 そういうことか、はこの命にすら危険をもたらす何かなんだな。
 でも不思議と落ち着いていた、むしろ、あきらめに近いものもあるが。

『消えるって、どういうことなの? ねえ、リム様……教えてよ』

 腰でミコの声が震えていた。
 リム様はきゅっと口を閉じて迷っていた――だから「頼む」と頷いた。
 そんな俺を見て、彼女は沈んだ調子の顔を上げると。

「あの子は――自分自身すら壊しつくされて、壮絶な最期を遂げました。寄り添っていた愛する家族もろとも、跡形も残さずに」

 はっきりとした答えがやってきた。
 ポケットから『なにそれ……あんまりだよ……』と搾り殺したような声がする。
 リム様は三角の帽子をきゅっと抑えると、

「黙ってて、ごめんなさい。こんな大事なことを黙ってたなんて……私、悪い魔女ですね」

 ウェイストランドの乾いた地面に視線を落として、謝ってきた。
 今までの振る舞いから到底想像することのできない、心苦しそうな様子だ。
 対して俺は――

「……リム様。俺が傷つかないように気を使ってくれてたんだな、ずっと」

 同情の籠った顔がちょっといやになって、頬を挟んでむにむに崩した。

「……そんなこふぉありまふぇんの」

 図星、だったんだろうか。目が潤んで、そらされてしまう。

「ほんとはもっと話したいことがあるはずなのに、ずっと配慮してくれてたんだよな?」

 思えばそうだ。
 俺のことについて話してくれた時、この魔女はおにぎりを手に謝りに来た。
 きっと彼女の中には言わなくちゃいけない事実がまだ山ほどあるに違いない。
 でもその気になればいつだって、耳に挟むことはできたはずなのだ。
 だがしてこなかった、それはなぜか――

「もう心配しなくていいんだ、リム様。やることやってスッキリしたんだ、これからは俺のこと、いっぱい話してくれないか? いまなら何言われたって傷つかないさ」

 いつものふざけた態度もきっと、誤魔化そうとしてんだろうか。
 少し余裕ができた顔で笑うと、リム様のまん丸の両目からじわっと涙がにじむ。
 一瞬うわっどうしようかと思ったものの、もっと頬をほぐして。

「優しい魔女だよ、あんたは。悪い魔女なんて一体どこにいるんだ?」

 俺はやっと、心の底から笑ったと思う。
 ようやく、腹の底から感情のこもった言葉を出せたと思う。
 絶望の未来を知ってしまったけれども、俺はまだ一人の人間として生きている。

「……ほんふぉにいってふぁふふぉ?」
「俺を見てくれ。どんな顔してるよ」
「……わらってます」
「うん、そういうことだ」

 きっと当たってたんだろうか、リム様がぼろっと泣き出してしまう。
 この前まではこいつが恐ろしい謎の魔女だと思ったけど、今はそうでもない。

「まあ、あんたがいたからパンにありつけたのは事実だ。おかげで町の連中の士気が高いのも認めざるを得ないね。ありがとよ」
「俺からも礼を言わせてもらうぜ、ちっちゃな魔女様。俺たち、こんな世界だってのに毎日が楽しいんだ」
『わたしも。りむサマがいてくれてすごく助かったもん』
「ワンッ」

 気づけばみんなもお礼を言っていた。
 そういうことなんだろう、ここにいるのは良い魔女だ。

「ごめんなさい……あなたが心配で、本当は言わなきゃいけないことがいっぱいあるのに、言えなくて……」

 目の前でぐすぐす泣きだしたリム様をもう一度抱きしめた。

「大切にしてくれてありがとう、リム様」

 少し長くぎゅっとしてから「行ってくる」と立ち上がる。散弾銃を握ったまま。

「……気を付けてね、イっちゃん」
「心配するな、さっさと終わらせてくる。帰ったらおにぎり楽しみにしてるからな」

 そして焼けた荒野へと歩き始めた。



 そこにあるものはすべてが壊れていた。
 やがて銃撃が止んで人の声が聞こえなくなる、すべてが終わったのだ。

「ワンッ」

 破片や鉄の塊を避けながら探ると、ニクが何かを見つけたようだ。

「……あったね、あれだ」

 ボスが用心深く小銃を構えるのが見えた。
 ツーショットが自動拳銃を抜いて「気をつけな」と俺に促す。

「……間違いない、こいつだ。でも――」

 そしてニクを追いかけた先にあるそれを見て、思わず言葉が漏れた。

「ボス、これじゃ火葬場ですよ。今頃ベリーウェルダンになってるんじゃ?」
「まあ、そうだね。これで生きてたらもうどうしようもないよ」
「派手に吹っ飛んだねえ、ヒドラショックのやついい仕事するもんだ」

 俺たちは目の前に広がる光景を目に焼き付ける。

 茶色く、不毛な荒野のど真ん中に炎と煙が立ち上がっていた。
 煙をたどると砲塔を吹き飛ばされた戦車らしきものがこんがり焼かれてる。

「……やったか」

 そして豪快な鉄の焚火たきびの近くに立った。
 ぼろぼろの銃を手にそれを眺めると、なぜか虚しさを感じる。

「で、どうするんだい? 火でも消して確認するのかい?」
「いい考えがある、手榴弾でも投げ込んでドカンだ。まあ死んでるだろうよ」

 ボスとツーショットはあいつがくたばった体で話を進めている。
 もしそうなら、そういうことなんだろう。
 これで俺の敵討ちは成功したってわけだ。

「……やっと、スタートした感じだ」
「ああ。長かった、でもあっけなかった」
『……長かったね』

 変な笑いが出た。
 あんなに苦しませてきたやつらが、こうも呆気なく終わるなんて。
 ニクが心配そうにすり寄ってきた、本当にいい子だ。

「……ヴァージニア様、少しよろしいかしら?」
「あ? なんだい? 長話なら後にしな」
「イっちゃんに関する約束ですわ。ええと……」

 すべて終わったのか、ボスとリム様が話し込んでる。
 あの話が全て本当なら、俺は町を追い出されるわけになるのだが。

「……ま、終わり良ければなんとやらか。よくやった、余所者ストレンジャー
「ペネトレイターの次はそれか? ころころ変わるな」
「いつまでも一つのものにこだわるなって教訓さ。常に新鮮であれってね」
「その呼び方、また最初のころに戻っただけだろ」

 これでツーショットのくだらないあだ名ともお別れになるんだろうか。
 また余所者か、結局それに戻ってしまうっていうのもおかしな話だ。

「……まあ、それでいいか。結局俺はゲストなんだ」

 余所者ストレンジャーは荒野を見た。
 さっきまで晴れていた空は曇り、雨が降ろうとしていた。
 爆風で飛ばされてきた燃えさかる車の方から、べたつくものが流れてくる。
 
「……いや、待て」
『……どうしたの、いちクン……?』

 すぐに感覚が働く。装甲車のそばで何かが震えていた。
 やがてぐぐっと起きた。焼け焦げた人間たちの姿だ。
 あの男もいる! 焼けた信者たちが白い光の断片をまとって、立ち上がっていた!
 それだけじゃない、真っ二つになった身体が、砂にまみれたバラバラの死体が、肉と骨を作り出しながら次々と起き上がる――!

「……クソッ! マジかよ生きてやがった!?」
『ひ、っ……!? うそ……この人たち、なんで生きてるの!? いや……!』

 まずい。

「う、おおおおおおおおおおお……! 熱い、熱い、熱い……!」
「肉、肉を……血をくれ……! 喉が渇いた、助けて……!」
「よくも、よくも俺たちを……!」
「殺せえええええええぇぇぇ!」

 火葬場から飛び出たゾンビさながらの焼けた男たちが迫ってくる。
 体にはマナの光、焼けた身体を無理矢理繋ぎ止めながらまだ生きているのだ。

「なっ――こいつら、まだ生きてやがったのかい!?」
「おいおいおい冗談じゃねえよゾンビにでもなったのかよ!?」

 生ける屍のような連中にさすがにボスたちも気づいたようだ。
 すぐに二人の拳銃と小銃がぶっ放されるが、群れた男たちの勢いは止まらない。

「ガウゥゥッ!」

 ニクだ、ニクが来てくれた。
 武器も持たずに走ってくる男の腕に噛みついて、押し倒した。だが群れは走る。
 三連散弾銃を構える、突っ込んでくる奴らの先頭に銃口を――撃った。

「うお゛……ッ!」「ああ……まだ……ッ!」

 何人か巻き込んだ、死に損ない達の足が鈍る。
 このまま迎え撃ってやる。銃剣を抜こうとしたが、不意に群れの中に目が行く。

「きさま、だけは……!」

 目の潰れた男が迫ってきた。信者たちをかき分けて、何か握っていた。
 焼け焦げた自動拳銃だ。大きさからして口径は九ミリ、させるか。

「……しぶといんだよ……死にぞこないがッ!」

 三連散弾銃を持ち上げて首と胸あたりにポイント、トリガを引く。
 ばぁん、という炸裂のあと、銃口の先で死に損ないがびくりと跳ねるのが見えたが、

 ――ぱんっ。

 撃たれた、足に命中、右太ももに焼かれるような痛みが走る。
 よろめく。そこへ銃口が俺の顔に向く。反射的に左手をかかげるが。

 ――ぱんっ。

 左手がぶち抜かれる。熱いものが肉と骨をぶち抜き、左こめかみを衝撃が襲う。
 骨をぶっ叩いてびきっと砕ける感触が伝わる。
 振動で脳が震えて、熱のこもった何かにぐちゃぐちゃに貫かれる。
 鋭い熱さと痛みに意識がかき回され、ひどい耳鳴りが視界を赤白く染めた。

「……くっそっ……」

 またどこか撃たれる、頭の中が捻じ曲げられるような痛み、まだやれる。

「う、おおおおおおおおおぉぉぉぉ……!」

 散弾銃が手から落ちる、代わりに銃剣を、逆手に持って、あいつにめがけて。
 ダメだ、意識が。倒れた。目に映るものが黒く染まっていく。

「イ……イチ!? しっかりしな! こんなとこでくたばってんじゃ――」

 だれかの声がした、だれだったか。
 いぬの鳴き声、女の子のひめい、心臓の音、すべてがきこえなく。

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