魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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今後は羊が晩餐を喰らう

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 ――あたりは暗くなっている。

「……いいか、何個かケーブルでつないでまとめるんだ。それから少し地面に埋めて隠す。岩の陰とかに置いてカモフラージュしてもいい」
「……どうやって起爆するんだ?」
「無線を使って遠隔爆破だ。こっからずっと南の方で見てるぜ」
「ボスごと吹っ飛ばすなよ」
「心配すんな。あいつら全員、俺の芸術品アートにしてやるよ」

 目的地から南へ降りた場所、岩肌の目立つ斜面に挟まれた道路に俺たちはいた。
 砲弾やらを加工してケーブルで接続した『爆弾』を仕込み終えただ。
 離れたところから遠隔操作して「どかん」ってことらしい。

「最後の一つ設置完了よ」
「よーし……これで100人ぐらい来ようがまとめて吹っ飛ばせるぜ」
「ちゃんと来てくれればの話だけどな」
「そこはまあ、お前らでうまくやれよ? 期待してるからな」

 そんな危険な即席爆弾を道路のいたるところに隠していたわけだ。
 今やこの道路は爆弾に挟まれた危険地帯だ、明日にはなくなってるかもしれない。

「一仕事やる前に言わせてくれ。ありがとな、兄弟」
「ふふ、私からもありがとうね」

 手伝いが終わるとヒドラが肉体派の赤毛の姉ちゃんと腕を組みながら言ってきた。
 いろいろあったそうだが二人は無事に結ばれたみたいだ。

「ヒドラ、ラシェル。俺だって"ありがとう"だ」
「おう、死ぬんじゃねえぞ」

 俺たちは拳をあわせた。
 この辺りはプレッパータウンの住人たちが待ち伏せしている領域だ。
 遠くから町の住人がここに狙いを定めていて、射線が交差するようになっている。

「……行くか」
『……うん』
「ワンッ」

 これから向かう先はサンディたちが監視しているあの小屋だ。
 ある意味ニクにとっては我が家に帰ることになるんだろうか。

「準備はできたみたいだね。ヒドラ! 頼んだよ!」
「お任せあれ! また会おうな、イチ!」
「ああ、またな」

 ツーショットの運転する車が北に向かって待機している。
 ニクと一緒に後部座席に乗り込んだ。とっくに覚悟はできた。



 今まで苦労して歩いてきた長い道のりは、車を使えば一瞬だった。
 そうしてニクのいた小屋にたどり着くと、中のシェルターで一晩明かすことになった。

「……なんだか懐かしいな、ここに来るのって」
『……うん。わたしたち、ここでわんこと出会ったんだよね」
「ワゥン」

 ちょっとだけ懐かしさを感じつつ、俺たちはくつろいでいた。
 まあ残念なことに明日の早朝、ここは戦場になるのだが。

「朝にはSMプレイ中みたいな姿で突き出されるってのにずいぶん余裕だね」

 椅子に腰かけて『手紙』を読んでいたボスがこっちを向いた。
 そういうそっちだってかなり余裕そうだが。

「肝が据わりましたからね。別に緊張してないわけじゃないんですけど」
『いろいろありすぎてわたしも慣れちゃいました……』
「まあ勝負はすぐに決まるさ。重く受け止める必要はないよ」
「そうですね。正直なところ割とどうにかなりそうな気がします」
「いい心構えだ。それくらいでちょうどいいのさ」

 まあ、本当に色々あったからな。
 撃たれたり毒くらったり矢が刺さったり殴られたり。
 それからリム様からの言葉やタカアキからの手紙――身も心もぼろぼろだ。
 この戦いが終わったら休もう、あの山からウェイストランドを見渡しながら、冷たいジンジャーエールでも飲もう。

「はーい皆さまー、最後の晩餐ですわー」
「Honk!」

 リム様がテーブルの上に何かを広げた。ガチョウと一緒に。
 大きなバスケットにぎっしり詰められた軽食だ。
 塩なしのパンでハムを挟んだもの、冷めてもカリカリなフライドポテト、焼いた鹿肉のソーセージ。
 それから――おにぎりも。しかも海苔で覆われてる。

「……最後の晩餐とか縁起でもないこというんじゃないよ」
「魔女なりにジョークでも言ったんじゃないですか?」

 俺はボスと一緒にリム様の食事に手をつけた、ニクにはソーセージだ。

「おいおい、その……黒くて虫がうじゃうじゃしてるようなのはなんだ?」
「…………」

 おにぎりをかじろうとしてるとツーショットがすごい顔をしていた。

「虫じゃねーよ! おにぎりだよ!」

 流石に頭にきて「見ろ」とおにぎりを持ち上げた。返事は「うわっ」だった。

「……オニギリ? なんだそりゃ? ニンジャの料理か?」
「炊いた米を固めた料理だよ。具が入ってたりする」

 嫌がる相手の前でかじってみた。
 ……ランチョンミートと卵焼きが入ってた。うまい。

「この世界の『かんづめ』を使ってみましたの。お味はいかが?」
「うまいなこれ」
「よかったですわ! さあミコちゃんも!」
『わ、わーい……』

 最後の晩餐を食らっているとミコを引っこ抜かれて、おにぎりに接続された。
 物言う短剣が具に追加された。こいつもすっかり慣れてしまったなと思う。

『すぱむにぎり……』
「おい魔女のお嬢ちゃん。明日、あんたは何もしないのかい?」

 大き目のおにぎりと格闘していると、ボスが急にそう質問した。
 その先にいたリム様の表情は――

「……あら。このことを手伝うなんて約束、した覚えがありませんわ」

 目がにっこり笑っていた。ただし、口元は笑っちゃいない。
 声の調子はマジだ。聞けば冷たくて刃物でなぞられるようなそれだ。
 食事中だっていうのに背筋にどろっとした冷たいものを感じる。

「……そうかい」

 対してボスはそんな相手をひと睨み、そのまま何もなかったように、

「ふん、本当に魔女だね」

 気に食わなさそうな様子でビールの瓶を煽った。
 間に挟まれていた俺は『なにこれ怖い』と顔でツーショットに伝えた。
 彼の返事はまるで『魔女同士気が合うぜ』といわんばかりの顔だ。

「あっでもイっちゃんがくたばろうものなら私が遠慮なくやりますわ! だから心置きなく命を投げ捨てにいってくださいまし!」
「おい今なんつったこの芋」
『投げ捨てちゃだめだよね!?』

 リム様はすぐに戻った。縁起でもない言葉と共に。
 この食事を本当に最後の晩餐にするつもりなんだろうか、この魔女は。

「……なあリム様、もうちょっと言葉選んでくれないか?」
「あ……あたってくだけろ……?」
「死ねってかこの芋の妖怪」
「本当は私、飢渇の魔女とかダサい二つ名じゃなくて芋の魔女とかのほうが良かったですの……」
「いやしらねーよ、そっちの方がダサいだろ」
「なんだと!? 食らえオラッ!」
「ぐおっ!?」
「おいおい、明日は命かける仕事なんだぜ? 生贄に芋突っ込むなよ」
「……楽しそうだねあんたら」

 誰が生贄だ。
 口にフライドポテトをねじり込まれながらそう思った。

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