魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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G.U.E.S.T

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 その日はプレッパータウンで一夜を明かすことになった。

 食堂で飯を食ってるとツーショットとかいうやつに絡まれた。
 曰く『ボスからお前の教師を任された、よろしくな』だそうだ。

 この世界のことを尋ねると、彼はいろいろ教えてくれた。
 俺たちがいる世紀末世界ウェイストランドの歴史とか地理とか、そんなところだ。
 そこで俺はようやく世界の形を知ることができた。

 この世界――そうだ『GUEST』と呼ぼう。
 『GUEST』は150年前、つまり2070年に起きた最後の世界大戦が原因で荒廃した。
 よって今いるこの場所は2220年のパラレルワールドなのだ。

 この『GUEST』が理由は様々だった。
 過去に起きた大不況、資源の枯渇、世界を襲った謎のパンデミック、人工知能の暴走が引き起こした数々の事故。
 世界中が戦火に包まれるその前から、人類は滅亡しかけていたのかもしれない。

 ともあれ2070年、どこかの国の誰かさんがある日突然スイッチを押した。
 とうとう核が放たれて、連鎖的に各国もここぞとばかりに撃った。
 そのころは世界中で資源目当ての小さな戦争が相次いでいて、いつだれがぶっ放してもおかしくはなかったそうだ。
 ところが今でも『誰が最初に撃ったのか』は分からないままだ。

 同時に最悪な事故も起きた。
 軍が使う無人兵器がコントロールを失い、世界各地で暴れまわった。
 殺人マシンに転職した鉄の塊は瞬く間に人類の友から敵へと変わった。

 こうして最悪のシナリオで数多あまたの人類がくたばり150年経ったのがこの世界というわけだ。

 そして俺たちがいるここアリゾナは、戦前は豊富な電力とギャンブルで賑わっていた。
 大昔に人々はこの広大な土地や山々を掘り進み、シェルター、果てには地下都市までもが数え切れないほど作られたという。 
 ……ついこの前、地図上からシェルターが一つ消滅したが。

 さて、そんな世界にいる自分は迎え入れられた客か、招かれざる客か?
 運悪く迷い込んだ俺は必死にしがみついているだけの寄生虫GUESTか何かなのかもしれない。



「……つまりここは2220年のアメリカだとさ、ミセリコルデ」

 少しほこりっぽいベッドの上でごろっとしながら、短剣を掲げた。

『ずいぶん先の時代に来ちゃったんだね……わたしたち』

 十字架みたいなそれが、狭い部屋の中をゆるく照らす電球と重なる。

「元の世界じゃないけどな。……あっちもいずれこんな風になったのかな」
『……こうなってほしくないよね』
「ああ、少なくとも俺たちのいた日本はこうはならないと思うけどな」

 話し相手をすぐ近くにあった小さな机に移した。

 いま、俺はコンテナを改造して作られた小さな家の中にいた。
 最低限の家具しかなく、でこぼこな壁は一部が切り取られて窓が埋め込まれてある。
 この町にやってきた『ゲスト』として、とりあえず住むところを与えられた。

「……やっと落ち着けた感じがする」

 明日からいきなり訓練が始まるけれども、やっとまともに休めた気がする。

『そういえばずっと休まず歩き続けてたもんね、いちサン。お疲れさま』
「どうも。そういうそっちこそ寝てる間に頑張ってたみたいだな」

 少し身を起こして遠くのテーブルの上を見た。
 透き通った蒼い液体で満たされた小瓶が何本か並んでいる。
 あれは『マナポーション』というらしい、効果は名前の通りマナの補給だ。

『みんな治したからちょっと疲れちゃったかも。でもまさかマナポーションがあるなんて思わなかったよ』

 ふと思った、魔法が使えるってことは人間の姿に戻れるのでは?

「そっちこそお疲れさん。てことは……こいつがあれば戻れるのか?」

 旅の相棒にちょっとだけ聞いてみることにした。

『わたしも戻れるのかなーって思ったんだけど……だめみたい。いっぱい飲んだんだけどなぁ……』
「そうか……まあいつか戻れるだろ」

 残念、ダメみたいだ。
 でも良かった。魔法が使えてちょっとだけ嬉しそうに感じる。
 それもそうだ、ひどい怪我が治ってみんな感謝していたのだから。
 食堂で座っていたらみんながぞろぞろやってきて、テーブルの上に感謝を伝えにきてたぐらいだ。

「そういえばみんなお前にありがとうって言ってたな」
『ふふっ、みんな喜んでてよかった。でも、おばあちゃんからは『今度からむやみやたらに使うな』って怒られちゃった』
「……考えてみればこの世界には便利すぎるかもしれないな」
『……あ、そうかも、しれないね。確かに回復魔法って、便利だし……』

 一度、シャツの上から胸のあたりを触ってみた。
 錆びたナタで切られた傷跡はまだ微妙に痛むが、魔法を使えばこんな傷も治るはずだ。

「そうだ、俺にもかけてくれないか? この前斬られて……」

 シャツをめくり上げると、ミセリコルデから申し訳なさそうに言われた。

『えっと……ごめんなさい、実はその……回復魔法、使ったの』
「……俺に? いつかけたんだ?」

 その割にはこの傷は人様の胸板に元気に居座ってる。
 ……待てよ、そうか、あいつらの魔法が効いてなかったってことは。

『いちサンが寝てる間、ツーショットさんに運んでもらってかけたんだけど』
「……まさか効いてなかったってやつか?」
『……うん、何度かけても効いてなかったみたい。けっきょくおばあちゃんに見つかって、これくらい自分で治させとけって……』

 そんな便利なものまで無効なわけか。
 くそっ、一体どうなってんだ? どうして魔法が効かないんだ。
 まさか、そうだ、確かスタート直後に『PERK』を手に入れてたはずだ。

「……こいつのせいだろうな」

 PDAを取り出して、ステータス画面を開く。

【不思議なパワーお断り! あなたはいわゆる異能絶縁体みたいなものです! あなたに襲い掛かる異能の力はなんの被害ももたらしません。魔法が使えず有益な魔法も効かないつまらない人生になりますがご心配なく。人生を楽しむ手段はほかにもいっぱいありますから……】

 そう書かれた説明文を見せると、物いう短剣は気難しそうに悩み始めた。

『……よく分からないけど、それのせいなのかな? ところでPERKってなんだろう?』
「ああ、あれだ。ずっと使えるパッシブスキル」
『わたしたちのいた世界にはそんなのなかったよ? それにレベルって……』
「レベルが上がるとポイントがもらえるんだよ、そういうシステムらしい。まあそれだけでほかに特に恩恵はない」
『ほんとにゲームみたい……って、わたしたちの世界も同じだったね』
「ああ、そうらしいな。元はスキル制のMMORPGだったんだろ?』

『うん。あっちの世界だと完全スキル制なんだけど、人によって得意不得意なものがあるから大変なんだよ。たとえば私は攻撃魔法が苦手だから上がりづらかったり……』
「不便だけど面白そうだな。スキルは割とすぐ上がるのか?」
『スキル上げはかなーーーーり大変だよ? わたしだって、ちゃんとヒールが使えるまで相当練習したし……』
「かなーーーーり大変か、まあ俺もかなーーーーり大変だ。全然スキル上がってないし」

 ふと思い出してPDAからスキル画面を起こした。あれからどれだけ成長したのか。
 ……【小火器】が2SLEVスキルレベルに育ってるぐらいで、あとはそのままだ。

「ま、効かないっていうなら仕方ない。それより訓練のが大事だ」
『うん。大変そうだけど……頑張ってね?』
「あの犬も頑張ってるんだ、俺も死ぬ気で頑張らないと」
『……あのわんこ、早く良くなるといいね。魔法で治そうと思ったんだけど、容態が分からないから使えなくて……』
「なんでも直せるってわけじゃないのか?」
『回復魔法ってひどい傷でも治せるには治せるんだけど、欠損した部位は治せないし、不安定な状態だとかえって逆効果になったりするから……』

 便利そうに見えたけどそうでもないみたいだ、回復魔法っていうのは。
 ……これからのこと、自分のこと、寝たきりの犬だって気になるが早く寝よう。

「いろいろ制限があるんだな、回復魔法って。じゃあちょっと早いけどおやすみ」
『おやすみなさい。ゆっくり休んでね?』

 手元のスイッチを押して、暗闇の中に身をひそめることにした。
 ……と、その前に。訓練に備えてPERKを振っておこう。

『いちサン、なにしてるの? 寝るんじゃなかったの?』
「さっき言ってたパッシブスキルの習得だ。寝る前に覚えとこうと思って」
『いいなー……』

 いつものように『PERK』を開くと、また種類が増えている。
 あなたの拳は装甲を貫きますとか、銃の整備が得意になりますとかだ。
 少し悩んだ結果『フリーランニング!』というものを選んだ。

【あなたの足は下手な乗り物よりずっとはやーい! 走って飛んで登って、自分だけの道を開拓しちゃいましょう! 移動力にボーナスがついて複雑な地形も難なく進めます】

 だそうだ。それじゃおやすみ、世紀末世界。

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