44 / 581
0P3N W0R1D
魔除けの人間シールド
しおりを挟む
「いま誰か――いや知ったことか! 焼却師! 我らの業火で炙ってやれっ!」
今度は不気味な奴らの列が接近してきた。
手には何も持っていない、だがそいつらは手を突き出すように構えて。
「焼かれちまいなァァァッ! ブレイズ・ウェーブ!」
何かの名前を叫ぶ、そして青くて白い光が浮かんだと思うと――炎の壁がいくつも立ち上がって、こっちに向かって襲い掛かってきた!
ただの壁なんかじゃない、もし飲み込まれれば全身やけどじゃすまない質量だ。
「うおおおおおおおおおおっ熱ィィ! なんだありゃあああああッ!」
「あっつ! やべえ新手の焼夷兵器か!?」
「どっちだっていい! 退避しろ! レアじゃすまねえぞ!」
「俺は焼け死ぬときはベリーレアって決めてんだ! 冗談じゃねえ!」
混ざり合った炎が連なったまま町を飲み込んでいく。
さっき見た大きな家に炎の壁が当たって、衝撃で壁が砕けた。
民家の屋根が積まれた土嚢ごと焼き払われ、住民たちがあわてて頭をひっこめる。
「あっっ……つぅ!? これマジで魔法か!?」
ジャンプスーツ越しに熱湯をぶっかけられたような熱さを感じる。
真っ黒な犬は足元で「クゥン」と熱そうにしながら怯えていた。
『いちサン! 伏せて! あれは火属性の範囲攻撃魔法の――』
燃やし迫る炎の壁は、ついに岩陰を乗り越えて頭上まで迫って来るが。
『ブレイズウェーブっていう……』
ミセリコルデの説明が終わるより早く、すっと消えてしまった。
焼き払われた地面と熱々の空気を残して。まただ、なんなんだ?
「……おい、どうなってやがる!? 奇跡の業火が消えたぞ!?」
「なにやってんだ焼却師ども! 真面目にやれ!」
「い、いや……何か変だ! かき消されたような感触がしたんだ!」
「何わけの分からないことを言ってやがる! もう一度やれクソども!」
焼却師とか言うやつらは一体どうしたんだろうか、攻撃の手を止めている。
もう一度身を乗り出してカービンを構えた。
照準をふらふらと合わせる、青い膜みたいなのに包まれた中央のやつに。
トリガを連続で引く。軽い反動数回分の後、遅れて向こうでターゲットが倒れる。
「だっ……だめだッ! 何かおかしい! 俺たちの奇跡が通用してないぞ!」
「一体どうなってんだよ!? 奇跡の盾は無敵じゃねえのか!?」
あいつらは動揺してる。
それならもう一回だ、今度は大雑把に狙いをつけて小銃を撃ちまくった。
なぜか弾は膜にせき止められることもなく貫いている、明らかに動揺していた。
「ひぃ!? も、もう無理だ! 俺たちゃ退くぜ!」
「こんなところで命かけるつもりなんてねえよ! 退却するぞ!」
「待てお前ら! 戻るんじゃねぇ! 残って戦えェェッ!」
……妙なコスプレしたやつらが北に向かって全力疾走してる。
敵は背中に矢玉や味方の罵声を受けながら引っ込んでしまったようだ。
「ボス、良くわからねーがあいつら使い慣れちゃいないみたいだぜ」
「見りゃ分かるよ、突っ込んでた味方ごとウェルダンにしてたからね」
「そりゃえぐいぜ。焼死体って近づくと体がべたつくから嫌なんだよな」
よく見ると町中に取りついたカルト信者たちがこんがり焼けている。
ぐだぐだだ、でもおかげで肉薄してきたやつらは一掃された。
その代わりこっちだって相当なダメージを受けているみたいだ。町のあちこちが焼けているし、各所から聞こえていた銃声が途絶えている。
「役立たずどもが……! こんなやつらさっさと押しつぶしちまえ!」
すると魔改造されたごみ収集車がずっしりとこっちに迫ってきた。
上部の銃座に座っていたやつが二連装の機関銃をこっちに向けてきて、
「ヒャッハァー! 50口径はお好きかな!? 死にやがれェェェ!」
恐ろしい大口径のそれがぶっ放される。
離れていても耳が痛くなるほどの強烈で重々しい銃声が響いてきた。
「いひぃっ!? なんでこっちばっか狙うんだくそくそくそっ!!」
『い、いや……いやあああああぁぁぁ……怖いよ……もうやだよぉぉぉ……!』
盾にしていた岩に何かが当たってばしばし音を立てる。どうして俺のとこばっか狙ってくるんだクソ野郎。
弾の威力を受け止めきれなかったのか頭上で欠片が飛び散って、泣きわめく短剣と怯えて丸くなってた犬と一緒に当たるんじゃねえぞと祈りまくった。
「サンディたちの援護はどうしたんだい!」
「あいつらのことだ、きっと移動中だろうよ!」
そんな中でもこの攻撃的なばあさんとカジュアル男はさほど動揺しちゃいない。
心臓が戦車の装甲で出来てるのか、こいつら。
「ああくそっ! 私の別荘になんてことしてくれるんだいイカれ野郎ども!」
後ろでは機関銃の射線がずれたのか、あの大きな家にぼこぼこ穴が開きまくっている。
「あーあ、見ろよボス。焼かれた上に穴だらけだな。暇だから酒盛りしてたのにな」
「はっ、どうせまずい酒だから構うもんかい! それより弓を持ってるやつがいるよ、矢に気を付けな」
「矢ねえ……いい思い出がないぜ」
そこで銃撃が止んだ。
向こうから「早く装填しろ!」と何かをがちゃがちゃ動かしてる音が聞こえてきた。
「上等だ、こいつら一人も生きて返すんじゃないよ!」
それと同時に老人が起立、背筋をまっすぐ伸ばしてワンショット。
きっと当たったんだろう、満足した様子でボルトを引いて空薬莢をはじいた。
「燃やせるごみ、一つ追加だよ。これだから勢いだけでやるやつは嫌いだ!」
「言えてるなぁ!」
カジュアル戦闘服な男身を乗り出す。どこかに向かって数発連射していた。
それにならって起き上がるが――車両の陰から槍を持った連中が飛び出してきた。
「アイシクル・バレット!」
今度はそいつらが手にしていた槍を突き出しながらそう唱える。
構えられた槍の先で青い光が発生、そこから鋭い氷の塊がにゅっと放たれた。
それは滑らかな動きで飛んでくると、近くで身を乗り出してた誰かの腹に命中した。
「次は氷か!? なんてこった、魔法かなんかか!?」
「おい、大丈夫か!」
「ぐおっ……ファクトリーのボディアーマー、つけててよかった……」
「アーマーぶち抜いてやがる!? 誰かこいつを下がらせろ! 包帯まいとけ!」
『いちサン! こっちにも来てる……!』
そんな様子を見てたらこっちにも塊が飛んできた――やべえ、こっちに来る。
避けられない。額にひんやりとしたものが触れた気がして。
「やばっ……!」
氷の矢はパキッと音を立てて粉々に砕けてしまった。
その欠片すら残せずに綺麗に消滅、なかったことにされた。
「なっ――!? いまあいつ、俺の氷弾を……かひゅぅ!?」
魔法を放ってきたやつが驚いていると、横からの矢に頭をぶち抜かれた。
そしてぱんぱんと細かな銃声が聞こえて、氷魔法使いたちが沈黙。
「サンディたちは立て直したみたいだね。おい新兵! 生きてるかい!」
「なんとか……」
しかしあいつらだってまだまだあきらめない。
太い鉄製パイプのようなものを担いだ敵が町へとそれを打ち込む。
ぼしゅっという音のあと、背後で炸裂音。民家が崩れる音と悲鳴が混じる。
「いまだ同志たち! 異教徒どもをなぶり殺せッ!」
狙撃が止んだ隙に前進した群れが町の中に押し入り、応戦していた人々に襲い掛かる。
物量に押されて乱戦状態だ。これは流石にまずいんじゃないか?
そうだ犬は? 駄目だ足元ですっかりおびえてる、役に立たねえ。
「やべえぞボス、侵入されちまった! ロケットランチャーまで持ってやがるぞ!」
「中のほうはアレクがなんとかしてるさ! それよりもっと派手なやつが来たよ!」
そんな中で一体どうすればいいんだ――と思っていると。
「いけ! 祝福兵! 思う存分暴れてこい!」
誰かの指示に従って、人の形をした金属塊がのしのし歩いてきた。
いや、人間だ。半身を覆う盾と金属製の鎧に身を包んで滅茶苦茶な足取りで迫ってくる。
「異教徒は消毒だァァ!」
「殺せ! 焼いて貫いてぶっ殺せェェ!」
身体は変にブルブル震えていて、兜からのぞく目は間違いなくイっている。
そいつらは「ブレイズボルト!」だの「アイシクルスピア!」だの叫んで手にしている槍から氷や炎の弾を手あたりしだいにぶっ放し始めた。
炎はまだいい、氷は標的に誘導されているのかほぼ間違いなく当たるのだ。
「ぎゃっ!?」「あ、足がぁぁぁ!?」「氷に気をつけろ! 姿を見せるな!」
そのたびにそんな悲鳴が飛び交う。そんな恐ろしい光景を見て何かできるかって?
無理だ、あちこちで銃声が聞こえてどこを見ても敵。
しかも攻撃が降り続ける激戦区で身動きなんて取れると思うか?
「……おい、新兵」
もう遮蔽物としての価値が損なわれてきた岩陰で引っ込んでると、呼ばれた。
「な、なんだ?」
「お前さん、見た限りはあの変なのが効いてないみたいだね?」
あのばあさんは小銃からスコープを外して銃剣を差し込んでいるところだった。
「……俺だってよく分からないけど、あの魔法は無効化されてるみたいだ」
確かにそうだ、ミセリコルデのいう『魔法』は一体どうしてなのか俺には効かない。
だがそれだけだ、一人だけ魔法とやらが効かない程度の話じゃこの状況は変えようがない。一体どうしろってんだ。
「なるほど、よく分からんがひらめいたよ」
「何をひらめいたって?」
だがまあ、その事実さえわかれば十分なのか、
「プランBさ。ツーショット、オコジョは頼んだよ!」
「任せてくれ。それじゃいってらっしゃいお二人さん……と一匹」
いきなり肩を組まれ……たんじゃない、首に腕を回された。
足が浮きかかるぐらいのとんでもない力だ。そのまま抱きしめられたかと思えば、老人と新兵、二人でベタな強盗&人質みたいな形になるわけだ。
「……おい新兵、借りるよ。散歩といこうじゃないか」
こうして戦場の中、二人仲良く肩を並べて――いやいやちょっと待て何するつもりだ。
「ぐぇっ……!? 借りる、って……!」
首がみしみし絞められて苦しい、というかほとんど持たれた状態で俺たちは進んだ。
とても悲しいことにその進行先というのは敵の眼前である。
「暴れるんじゃないよ! アレク、まだいるなら入ってきたやつらを片付けてきな!」
「はぁっ!? ちょっ……くるしっ……押すな……っ!?」
ああなるほど、これで防げるわけだ、盾には盾ってか?
これで俺は立派な肉盾となって――じゃねえよおい何してやがる!?
「なんだあいつ!? 奇跡の業が効かねえ!」
そんな様子はあっちからしても異常だったようだ。
肉盾に向かって面白いように炎やら氷の矢がぽんぽん飛んでくる。
もちろん少しでも触れた瞬間にすべてかき消されるのだが。
「はっ! こいつはいいね、このままぶっ潰すよ!」
『いっ……いちサンを離して!?』
「うおっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
スピードが上がる、ほぼ走るような感じで共に敵陣へと突っ込んでいく。
迫りくる肉盾を前に、あいつらは地獄を目の当たりにしたようにビビってた。
今度は不気味な奴らの列が接近してきた。
手には何も持っていない、だがそいつらは手を突き出すように構えて。
「焼かれちまいなァァァッ! ブレイズ・ウェーブ!」
何かの名前を叫ぶ、そして青くて白い光が浮かんだと思うと――炎の壁がいくつも立ち上がって、こっちに向かって襲い掛かってきた!
ただの壁なんかじゃない、もし飲み込まれれば全身やけどじゃすまない質量だ。
「うおおおおおおおおおおっ熱ィィ! なんだありゃあああああッ!」
「あっつ! やべえ新手の焼夷兵器か!?」
「どっちだっていい! 退避しろ! レアじゃすまねえぞ!」
「俺は焼け死ぬときはベリーレアって決めてんだ! 冗談じゃねえ!」
混ざり合った炎が連なったまま町を飲み込んでいく。
さっき見た大きな家に炎の壁が当たって、衝撃で壁が砕けた。
民家の屋根が積まれた土嚢ごと焼き払われ、住民たちがあわてて頭をひっこめる。
「あっっ……つぅ!? これマジで魔法か!?」
ジャンプスーツ越しに熱湯をぶっかけられたような熱さを感じる。
真っ黒な犬は足元で「クゥン」と熱そうにしながら怯えていた。
『いちサン! 伏せて! あれは火属性の範囲攻撃魔法の――』
燃やし迫る炎の壁は、ついに岩陰を乗り越えて頭上まで迫って来るが。
『ブレイズウェーブっていう……』
ミセリコルデの説明が終わるより早く、すっと消えてしまった。
焼き払われた地面と熱々の空気を残して。まただ、なんなんだ?
「……おい、どうなってやがる!? 奇跡の業火が消えたぞ!?」
「なにやってんだ焼却師ども! 真面目にやれ!」
「い、いや……何か変だ! かき消されたような感触がしたんだ!」
「何わけの分からないことを言ってやがる! もう一度やれクソども!」
焼却師とか言うやつらは一体どうしたんだろうか、攻撃の手を止めている。
もう一度身を乗り出してカービンを構えた。
照準をふらふらと合わせる、青い膜みたいなのに包まれた中央のやつに。
トリガを連続で引く。軽い反動数回分の後、遅れて向こうでターゲットが倒れる。
「だっ……だめだッ! 何かおかしい! 俺たちの奇跡が通用してないぞ!」
「一体どうなってんだよ!? 奇跡の盾は無敵じゃねえのか!?」
あいつらは動揺してる。
それならもう一回だ、今度は大雑把に狙いをつけて小銃を撃ちまくった。
なぜか弾は膜にせき止められることもなく貫いている、明らかに動揺していた。
「ひぃ!? も、もう無理だ! 俺たちゃ退くぜ!」
「こんなところで命かけるつもりなんてねえよ! 退却するぞ!」
「待てお前ら! 戻るんじゃねぇ! 残って戦えェェッ!」
……妙なコスプレしたやつらが北に向かって全力疾走してる。
敵は背中に矢玉や味方の罵声を受けながら引っ込んでしまったようだ。
「ボス、良くわからねーがあいつら使い慣れちゃいないみたいだぜ」
「見りゃ分かるよ、突っ込んでた味方ごとウェルダンにしてたからね」
「そりゃえぐいぜ。焼死体って近づくと体がべたつくから嫌なんだよな」
よく見ると町中に取りついたカルト信者たちがこんがり焼けている。
ぐだぐだだ、でもおかげで肉薄してきたやつらは一掃された。
その代わりこっちだって相当なダメージを受けているみたいだ。町のあちこちが焼けているし、各所から聞こえていた銃声が途絶えている。
「役立たずどもが……! こんなやつらさっさと押しつぶしちまえ!」
すると魔改造されたごみ収集車がずっしりとこっちに迫ってきた。
上部の銃座に座っていたやつが二連装の機関銃をこっちに向けてきて、
「ヒャッハァー! 50口径はお好きかな!? 死にやがれェェェ!」
恐ろしい大口径のそれがぶっ放される。
離れていても耳が痛くなるほどの強烈で重々しい銃声が響いてきた。
「いひぃっ!? なんでこっちばっか狙うんだくそくそくそっ!!」
『い、いや……いやあああああぁぁぁ……怖いよ……もうやだよぉぉぉ……!』
盾にしていた岩に何かが当たってばしばし音を立てる。どうして俺のとこばっか狙ってくるんだクソ野郎。
弾の威力を受け止めきれなかったのか頭上で欠片が飛び散って、泣きわめく短剣と怯えて丸くなってた犬と一緒に当たるんじゃねえぞと祈りまくった。
「サンディたちの援護はどうしたんだい!」
「あいつらのことだ、きっと移動中だろうよ!」
そんな中でもこの攻撃的なばあさんとカジュアル男はさほど動揺しちゃいない。
心臓が戦車の装甲で出来てるのか、こいつら。
「ああくそっ! 私の別荘になんてことしてくれるんだいイカれ野郎ども!」
後ろでは機関銃の射線がずれたのか、あの大きな家にぼこぼこ穴が開きまくっている。
「あーあ、見ろよボス。焼かれた上に穴だらけだな。暇だから酒盛りしてたのにな」
「はっ、どうせまずい酒だから構うもんかい! それより弓を持ってるやつがいるよ、矢に気を付けな」
「矢ねえ……いい思い出がないぜ」
そこで銃撃が止んだ。
向こうから「早く装填しろ!」と何かをがちゃがちゃ動かしてる音が聞こえてきた。
「上等だ、こいつら一人も生きて返すんじゃないよ!」
それと同時に老人が起立、背筋をまっすぐ伸ばしてワンショット。
きっと当たったんだろう、満足した様子でボルトを引いて空薬莢をはじいた。
「燃やせるごみ、一つ追加だよ。これだから勢いだけでやるやつは嫌いだ!」
「言えてるなぁ!」
カジュアル戦闘服な男身を乗り出す。どこかに向かって数発連射していた。
それにならって起き上がるが――車両の陰から槍を持った連中が飛び出してきた。
「アイシクル・バレット!」
今度はそいつらが手にしていた槍を突き出しながらそう唱える。
構えられた槍の先で青い光が発生、そこから鋭い氷の塊がにゅっと放たれた。
それは滑らかな動きで飛んでくると、近くで身を乗り出してた誰かの腹に命中した。
「次は氷か!? なんてこった、魔法かなんかか!?」
「おい、大丈夫か!」
「ぐおっ……ファクトリーのボディアーマー、つけててよかった……」
「アーマーぶち抜いてやがる!? 誰かこいつを下がらせろ! 包帯まいとけ!」
『いちサン! こっちにも来てる……!』
そんな様子を見てたらこっちにも塊が飛んできた――やべえ、こっちに来る。
避けられない。額にひんやりとしたものが触れた気がして。
「やばっ……!」
氷の矢はパキッと音を立てて粉々に砕けてしまった。
その欠片すら残せずに綺麗に消滅、なかったことにされた。
「なっ――!? いまあいつ、俺の氷弾を……かひゅぅ!?」
魔法を放ってきたやつが驚いていると、横からの矢に頭をぶち抜かれた。
そしてぱんぱんと細かな銃声が聞こえて、氷魔法使いたちが沈黙。
「サンディたちは立て直したみたいだね。おい新兵! 生きてるかい!」
「なんとか……」
しかしあいつらだってまだまだあきらめない。
太い鉄製パイプのようなものを担いだ敵が町へとそれを打ち込む。
ぼしゅっという音のあと、背後で炸裂音。民家が崩れる音と悲鳴が混じる。
「いまだ同志たち! 異教徒どもをなぶり殺せッ!」
狙撃が止んだ隙に前進した群れが町の中に押し入り、応戦していた人々に襲い掛かる。
物量に押されて乱戦状態だ。これは流石にまずいんじゃないか?
そうだ犬は? 駄目だ足元ですっかりおびえてる、役に立たねえ。
「やべえぞボス、侵入されちまった! ロケットランチャーまで持ってやがるぞ!」
「中のほうはアレクがなんとかしてるさ! それよりもっと派手なやつが来たよ!」
そんな中で一体どうすればいいんだ――と思っていると。
「いけ! 祝福兵! 思う存分暴れてこい!」
誰かの指示に従って、人の形をした金属塊がのしのし歩いてきた。
いや、人間だ。半身を覆う盾と金属製の鎧に身を包んで滅茶苦茶な足取りで迫ってくる。
「異教徒は消毒だァァ!」
「殺せ! 焼いて貫いてぶっ殺せェェ!」
身体は変にブルブル震えていて、兜からのぞく目は間違いなくイっている。
そいつらは「ブレイズボルト!」だの「アイシクルスピア!」だの叫んで手にしている槍から氷や炎の弾を手あたりしだいにぶっ放し始めた。
炎はまだいい、氷は標的に誘導されているのかほぼ間違いなく当たるのだ。
「ぎゃっ!?」「あ、足がぁぁぁ!?」「氷に気をつけろ! 姿を見せるな!」
そのたびにそんな悲鳴が飛び交う。そんな恐ろしい光景を見て何かできるかって?
無理だ、あちこちで銃声が聞こえてどこを見ても敵。
しかも攻撃が降り続ける激戦区で身動きなんて取れると思うか?
「……おい、新兵」
もう遮蔽物としての価値が損なわれてきた岩陰で引っ込んでると、呼ばれた。
「な、なんだ?」
「お前さん、見た限りはあの変なのが効いてないみたいだね?」
あのばあさんは小銃からスコープを外して銃剣を差し込んでいるところだった。
「……俺だってよく分からないけど、あの魔法は無効化されてるみたいだ」
確かにそうだ、ミセリコルデのいう『魔法』は一体どうしてなのか俺には効かない。
だがそれだけだ、一人だけ魔法とやらが効かない程度の話じゃこの状況は変えようがない。一体どうしろってんだ。
「なるほど、よく分からんがひらめいたよ」
「何をひらめいたって?」
だがまあ、その事実さえわかれば十分なのか、
「プランBさ。ツーショット、オコジョは頼んだよ!」
「任せてくれ。それじゃいってらっしゃいお二人さん……と一匹」
いきなり肩を組まれ……たんじゃない、首に腕を回された。
足が浮きかかるぐらいのとんでもない力だ。そのまま抱きしめられたかと思えば、老人と新兵、二人でベタな強盗&人質みたいな形になるわけだ。
「……おい新兵、借りるよ。散歩といこうじゃないか」
こうして戦場の中、二人仲良く肩を並べて――いやいやちょっと待て何するつもりだ。
「ぐぇっ……!? 借りる、って……!」
首がみしみし絞められて苦しい、というかほとんど持たれた状態で俺たちは進んだ。
とても悲しいことにその進行先というのは敵の眼前である。
「暴れるんじゃないよ! アレク、まだいるなら入ってきたやつらを片付けてきな!」
「はぁっ!? ちょっ……くるしっ……押すな……っ!?」
ああなるほど、これで防げるわけだ、盾には盾ってか?
これで俺は立派な肉盾となって――じゃねえよおい何してやがる!?
「なんだあいつ!? 奇跡の業が効かねえ!」
そんな様子はあっちからしても異常だったようだ。
肉盾に向かって面白いように炎やら氷の矢がぽんぽん飛んでくる。
もちろん少しでも触れた瞬間にすべてかき消されるのだが。
「はっ! こいつはいいね、このままぶっ潰すよ!」
『いっ……いちサンを離して!?』
「うおっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
スピードが上がる、ほぼ走るような感じで共に敵陣へと突っ込んでいく。
迫りくる肉盾を前に、あいつらは地獄を目の当たりにしたようにビビってた。
31
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる