魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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撃て、新兵。

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 戦闘態勢に入る周りに交じって近くの岩陰に入り込んだ。
 夕焼けのウェイストランドの大地を次々と車両が踏みならしていく。
 そして世紀末仕様の車たちが小さな町を威圧するように並ぶ。すごい数だ。 

 そこらへんの乗用車に無理やり砲塔を乗せたようなもの。小型乗用車の側面に火炎放射器をつなげたもの。補強されたスポーツカーのボンネットに杭を固定したもの。果てにはゴミ収集車に銃座が設けられたもの。
 なんて選り取り見取りなんだ、どれもこれも人殺しが得意そうだ。

「おい! 貴様ら!」

 その先頭にいたピックアップトラックから声がした。
 ルーフに無理やり銃座が取り付けられて、デカい機関銃がこっちを向いている。

「我々はアルテリー・クランの者だ! 話がある、武器をおさめよ!」

 助手席から誰かが下りてくる。
 スケルトンから剥がしたであろう鎧一式を着た男だ。

「私はシャーマンのマークド・デスだ! 貴様らに問おう、ここにシェルターのジャンプスーツを着た男はいないか!?」

 そいつはまだ新鮮な頭蓋骨をあしらった悪趣味極まりない鉄パイプを掲げた。

 ……どうやらマジで追いかけてきたらしい。
 そっと振り向くと、ここの人々からの訝し気な視線を感じた。
 黒い犬は不安そうにこっちを見ている、大人しくしてろと撫でてあげた。

「そいつがなんだってんだコスプレ野郎! ハロウィンはもうとっくに終わってるよ!」

 そんな問いかけに対してあのばあさんは堂々と立ち向かっていく。

「今の無礼な言葉、特別に許してやろう! いいかよく聞け! 我々は聖なる兄弟たちを殺めた悪魔を追っているのだ!」

 車に乗っていたやつらが威嚇するように次々と降り立つのが見えた。

「そりゃ立派なこった。で、その聖なる連中は一体どうしてそんなにお友達を連れてきたんだい?」
「率直に言おう、ご老人! 黒いジャンプスーツ姿の男を連れてこい! さもなくばここが地図上から消えるハメになるぞ!」
「はん、よくいうね! そんな古臭いやり方いったいどこで学んできたんだい?」

 数え切れないほどのアルテリーの連中が迫ってくる。
 今まで見た中で装備もかなり違う。
 まず防具だ、革鎧みたいなものを着ていたり、くず鉄で作ったような装甲で全身を覆ってるやつばかりだ。
 手にしてる武器も剣にせよ銃にせよ質のよさそうなものばかりで、一味違う。

「いいかい、手短に答えるよ。返事は「さっさとくたばれ」だ」

 けれども老人はひるまない。
 むしろそれ以上調子乗ったらてめーらこそ皆殺しだと言わんばかりだ。

「……ええい、やめだめんどくせー! 黙れクソババァ! こっちには戦車もあんだぞ! さっさと差し出さねーとてめえからぶち殺すぞコラァ!」

 結果的に交渉は綺麗に真っ二つになったようだ、戦闘開始である。

「はっ、戦車だって!? あんな北の機械カルトどもが作った豆戦車、一体誰がびびるってんだい! 成り上がりの分際でイキるんじゃないよ!」
「ひゃはははははははっ! 威勢のいいばーちゃんだなぁ!」
「おっかねー! いびり殺すつもりかぁ!?」
「うるせえ黙れ野郎ども! 交渉はもうおしまいだ! ぶっころ――」

 アルテリーどもがいざ全軍突撃、と動き出そうとしたときだった。
 ぱんっ、と西の丘の方からそんな音が聞こえた。

「すっっっ……うぅ?」

 狂信者どもを代表していた自称シャーマンの頭がばつっと弾けた。

『…………』

 降車したばかりの連中は「何があった?」とばかりに立ち止まっている。

「……お話おしまいだ、一人も生きて帰すんじゃないよ!」
「いぃぃぃやっほおおおおおおおおおおおぅぅぅぅっ!」
「待ってたぜボス! 愛してる!」
「ようこそ、プレッパータウンへ! 俺たちからの親愛の印だ!」

 次の瞬間、街の各所から一斉に銃声が響く。
 連続した発射音が、重々しい銃声が、後ろから何重にも重なってやってきた。
 ぽん、という音も聞こえてきた――すると列のど真ん中に着弾、派手な爆発を起こして肉の塊を吹っ飛ばす。

「なっ――ややややべえぞ! 全員散開しろぉぉぉぉ!」
「どうすればいいんだ!? 固まったらやばいよな!? か、隠れろォ!」
「おい機銃手! 狙撃手がいるぞ! 制圧しろ山の方だ早く早く早くッ!」

 ……アルテリーの連中は途端にばらけてしまった。
 あのばあさんはその場で狙いを定めて、小銃を何発か素早く撃つと。

「ふん、装備は立派になっても中身はまだまだだね。見た目通り面白い連中じゃないか」

 さっと同じ岩陰に入ってきて、アルゴ神父よりも攻撃的な笑みを見せにきた。
 その一方で俺はまだ何もできちゃいない。敵に向かって撃とうとしたが不発、弾が装填されてないどうやるんだ、安全装置は――クソ焦るな落ち着け!

「さあ新兵! アイツらが来るよ! リロードするから援護しな!」
「えっ……援護?」

 俺を押しのけるように隠れると、屈強なご老人は弾を一発ずつ込め始めた。
 たいしてこっちは援護ってなんだ? というところから始まるレベルだ。最前線で小銃をあちこちいじって弾を装填しようとしてるマヌケ野郎だ。

「何を怯んでいる貴様ら! 止まってたらいい的だぞ!? 車を突っ込ませろ!」
「見つけた! 丘の上にいやがった! 撃ちまくってひき肉に変えてやりなァ!」

 するとエンジンを唸らせる音や機銃の音が聞こえてくる。
 まさかと思って物陰から身を乗り出すと――

「ハノートス様のご加護をおぉぉぉぉぉ!」
「怯むな、俺たちには奇跡の業がある! 間合いを詰めりゃこっちの勝ちだ!」
「イィヤッハァァァァッ! 女は俺のもんだぜぇぇ!」

 ……車列と一緒に人の波がものすごい勢いでこっちに突っ込んできている。
 ヤバイ逃げろ。だがそこへ銃撃、ぱたたたた、と岩の後ろが甲高くノックされまくる。

「ひぃ!?」
『わっ!? う、撃ってきたよ……!?』

 ばしばしと嫌な音を立てて、銃弾の衝撃が伝わってきた。今までとはが違う。
 慌てて頭をひっこめるも矢がかすめていく、だめだ怖い、無理だろこれ。
 町中へ車が突っ込んでいく――運転手の頭が吹き飛んでいるのが見えた。

「なにしてんだ、援護しろっていっただろ!? このひよっこ!」
「え、援護ってどうすればいいんだよ!?」
「リロード中に撃てってことさ! なんでもいいから撃つんだ馬鹿者!」

 唖然としてたら急に脇腹にどすっと痛みが。あのババァ蹴りやがった。
 ついでに小銃を引っ手繰られて、右側から伸びたハンドルを引いて押し付けられる。ああなるほど、よく分かったよクソが!
 突き出された銃を奪い返して言われた通り身を乗り出した……が、

「うぅぉぉぉおおおおお! 死ねやぁぁぁぁッ!!」

 盾を持ったやつがとんでもないスピードで突っ込んで来た!
 とっさに構えた、胴体はだめだ、頭も隠れてる、それなら!

「く、来るなァァァァァッ!?」

 それほど防御されてない足にめがけてトリガを引きまくった。

*PAPAPAPAPAPAM!*

 連続した反動、何発か当たってくれたのか相手の足がもつれる。

「もらったぁぁぁぁぐふぅぅっ!?」

 標的は地面とキスした、目が合った、とどめを刺さないと。
 充血した目でにらみつけてくる顔にトリガを引こうとしたが。

 ぼすっ。
 またもどこからか銃声、くぐもった音を立ててその顔が弾けた。

「なあボス。サンディのやつ、今日は一段と張り切ってんな」

 突っ込んできたやつが死ぬとさっきのカジュアルな男が滑り込んでくる。

「余所者にいいところ見せたいのさ、アイツも女だったんだねぇ」
「そりゃ今年で18になるし仕方もないか?」

 そこに町中から機関銃の連続射撃、敵に向かって弾幕が降り注ぐ。
 火炎放射器を積んだ車がぼん、と爆ぜて運転手もろとも火だるまになった。

「よお余所者さん、こいつは知ってるか?」

 そいつはこんな滅茶苦茶になった状況でも笑っていた。
 手にはプラスチック製でオレンジ色の大型拳銃が握られている。
 いきなりそれを見せつけて「これなんだ?」だって? 状況ってもんを考えろ。

「悪いけどクイズなら後にしてくれないか!? 戦闘中だぞ!?」
「こいつはただの信号拳銃さ、こうやって使うんだよ!」

 言われてなんとなく分かった、映画とかでたまに見る信号弾撃つあれだ。
 その男は無邪気に撃鉄を起こすと、

「俺を見ろォォォォォォォォーーーーーーーーッ!」

 こっちに向かって導火線のついた缶を両手に突っ込んでくる男に発射。
 ぱしゅっと音を立てて光の弾がそいつの腹に飛び込む。
 そして熱々のフレアがむき出しの腹にぶっ刺さった。

「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーッ!?」

 カルト信者が燃えさかる腹を押さえながらダウン、もがき苦しんだ。
 岩の裏で届かぬ爆弾が爆ぜて肉の花火が飛び散る。ぼとぼとと生臭い雨も降ってきた。
 いやなものを見てしまった。クソ、クソクソ、血か肉か知らないが頭がべたべたする。

「こうすると人も殺せる。覚えとけ、きっと役に立つぞ」
「……アドバイスどうも」

 そうしてる間に矢が頭上を掠める、発射元を探った。
 丘にめがけて機銃を撃つ車、その陰に弓持ちがいた、構えて数発連射。
 当たったかどうかなんて分からなかった――はっきりしてるのはどこからか飛んできた銃弾が機銃手ガナーの頭を弾いたということだ。 

 敵は何人か突破してるようだが問題なさそうだ。
 踏み入った瞬間にバカみたいな量の銃撃がお迎えして縫い留めているからだ。

『一体どうなってやがる、くそったれ! 焼却師フレイマー! 出番がきたぞ!』

 ……そう思っていた矢先、急に車列から何かがぞろぞろとやってきた。

「……おいおい、なんだいあの不気味なのは?」

 それはこの好戦的なばあさんですら疑問に思うほどだったらしい。
 青い線みたいなのが刻まれたローブに、カラスのくちばしみたいなマスクをつけた変な連中が列を作って近づいているのだ。

『マナ・ディフェンド!』

 ところがそいつらが何かを唱えると、急に周りが青白い何かに包まれた。
 なんだあれは。幾何学で組み立てられたような青色の膜がそいつらを覆っている。

「いけっ! クソどもを焼き払って来い!」

 誰かの号令に従って、そいつらが前進してくる。
 町のどこかから連続した射撃が向けられる、が。

 ぺきっ。
 そんな乾いた音を立てて、発射体が光に弾かれていく。
 おいおい、あれじゃまるで魔法か何かじゃ……。

『ね、ねえ、聞いて!』

 異様な様子にうろたえていると、腰の短剣が声を上げた。

「なんだ!?」
『……あれ、魔法だよ!? わたしたちの世界の魔法を使ってるよ!?』
「……はぁ!?」

 ……マジか。
 こんな時に初めて見るのもなんだが、予想以上にすごかった。
 いやまて、なんであいつらがそんなの使えるんだ!?

「……マジで言ってんのかお前!? なんであいつらがそんなモン使ってるんだ!?」
『……間違いないよ、詠唱の時にマナの光が見えたから……』
「おい、お前さんたち! 一体何を話してるか分からんがこりゃ一体……!?」

 青い光をまとったマスクの連中がさらに迫ってくる。
 どこからか矢の雨がその列に降り注ぐが、青い膜に触れた途端に矢が砕ける。

「マジでを使ってるってことだよ!」

 俺は身を乗り出して、適当に狙いをつけて小銃を撃った。
 弾は青い力に弾かれ――ないで、端っこにいたやつが小さく揺らいだ。
 「ぐぉぉぉ」とか声が聞こえた。そいつは脇腹を痛そうに押さえて……倒れた?

「……あーいや、そうでもなかったらしい」
『……えっ? いま……魔法が……作用してなかった?』

 ……どういうことなんだ。
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