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G.U.E.S.T-Survival Simulator

物言う短剣「ミセリコルデ」 略してミコ

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 ――誰もいない。

 いざ踏み込んだバスの中はいわゆる『肉屋』みたいな状態だ。
 薄暗く、天井には食肉に加工されたドッグマンの手足がぶら下がってた。
 床は赤黒く汚れて、バケツは内臓で満たされ、腐った肉の臭いでいっぱいだ。

「……うえ」

 それから虫がめっちゃいる、ホラー映画が一本とれそうな最悪の場所だ。
 飛んでくる蠅を追い払いながらもっと踏み込んだ。
 テーブルの上に大の字に寝かされたドッグマンの死体があった。
 肩にナイフが浅く突き刺さっていて、半開きの腹からうじゃうじゃと――

「……くそっ、ついに幻聴か。先が思いやられるな」

 目につくのは死体と虫ぐらいだ。
 ここにいると吐き気がする。さっさと出よう。飯が食えなくなる。

『あ……あの……』

 あまりに臭すぎて幻聴が聞こえた……わけあるか!
 間違いない、さっきの声だ!

「……どこだ!?」
『こっち……です』

 弱々しい声を辿るとドッグマンの死体。もっといえば刺さってるナイフだ。
 全長は三十センチほど、まるで十字架のような形をしている。

『すみません……抜いて、くれますか?』

 とても困ったことになった、声はそこからきている。
 間違いない、あろうことかナイフがしゃべってやがる。

「おい、ウソだろ? お前がしゃべってんのか?」
『……わたしを抜いて、おねがい。こんなのもうやだよ……』

 まあ別にナイフが言葉を発するぐらいならそれほど驚くことじゃないか。

「……待ってろ、今抜いてやる」

 声の持ち主を死体から引っこ抜いた。とてつもなく臭い上にずぶりと嫌な感触がした。

『ありがとう……! あの、わたし、ここでずっとひどいことされてて……焼かれたり叩かれたりして、使えないって怒られたりして、姿も元に戻らなくて……!』

 刀身からぐすぐす泣く声が聞こえる。
 いろいろと覚悟はしていたがまさか短剣が喋るなんて思ったことか。 

「少し落ち着け。まずお前はなんだ、なんでナイフが喋ってるんだ?」
『あっ……ごめんなさい。わたしは短剣の精霊、です』
「精霊だって?」
『うん……えーと、どう説明したらいいんだろう……』

 それでカルト集団を皆殺しにして、次はこいつとどう接すればいいんだ。
 とりあえず立っているだけで病気になりそうな台所から出ることにした。

「そりゃ奇遇だ、俺もさっき精霊とか呼ばれてたところだ。悪いほうのな」

 喋るナイフを手に外に出た。乾いた空気がやけにうまい、腐臭がしないとなおさらだ。

『あの、あなたってもしかして……』
「なんだ?」

 するとおっとりとした若い女の子の声で尋ねられた。
 良く聞こえるように、血の塊でべっとりなナイフを持ち上げた。

『……あの……あのっ、もしかして……プレイヤーさん、ですか?』

 ……今こいつはなんていった?
 プレイヤー? ゲームのプレイヤーってことか?

「おい、それってどういう……」

 こんな質問をするやつなんて普通、この世界にいるだろうか?
 だがぼんやりと感じる。こいつの質問は俺の境遇を分かったうえで向けられてる。

「……ああ、プレイヤーだ。認めたくはないけどな」

 いろいろとこいつにぶちまけたくなったが、我慢した。必要なことだけを伝えた――ああ、これでいいんだ。
 喋る短剣は少しだけ、間を空けて。

『……良かった、人間プレイヤーさんだったんだ。わたしは短剣の精霊のミセリコルデ、モンスターガールズオンラインのヒロインだよ』

 聞き覚えのある単語、そして割ととんでもないことを伝えてきた。
 モンスターガールズオンライン……略してMGO、もちろん聞き覚えがあるとも。
 だがここは立派な世紀末世界、かわいいAIたちなんて存在しない地獄だ。

「……MGO?」
『あなたはMGOのプレイヤー……さんだよね? なんか、そんな感じがするんだけど』

 おかしい、話が絶妙にかみ合わない。
 MGOが話にでてきて、しかもそのプレイヤーとして思われてる?
 自分の記憶がまだちゃんとしているならサービス開始はまだだ。
 肝心な時に名前が入力できず先へ進めなかったのもどうにか覚えてる。

「なあ、ミセリコルデだったか? 質問がある」

 俺は頭の中から、話を先に進めるための何かを片っ端から探した。

『う、うん。どうしたの?』
「あれの正式サービスはまだ始まってなかったよな? キャラクリエイトから先に進めなかったはずだ」
『えっ……?』
「ついでに言うとここはG.U.E.S.Tっていうサバイバルシミュレーターの世界だ。絶対にMGOなんかじゃない。どうなってるんだ?」

 どうにか質問すると、短剣はまたしばらく考え込んだ。
 さっきの倍ぐらい沈黙したあと、

『……もしかして、だけど』

 手元の話し相手はものすごく苦しそうな調子で答え始めた。

『プレイヤーさんたちがMGOの世界に転移したの……知らないのかな?』

 MGOの世界? あのかわいいヒロインだらけの世界に転移?
 おい、こいつはタチの悪いウソでもついて――なさそうだ。

「……お前本気で言ってるのか? MGOの世界に転移だって?」
『……待って。ここって、フランメリアじゃないの?』
「フランメリア?」

 その言葉を聞いて、PDAを取り出してメールを開く。
 間違いない、本文に『フランメリアへ向かえ』とある。

「どうも俺たちは情報交換しないといけないらしいな」
『う……うん、そうだね。えっと、何から話せばいいのかな?』

 こいつのおかげでとんでもないことに気づけた。
 この不毛なウェイストランドから抜け出せるかもしれないということ。
 そして俺たちはクソ面倒くさい事態に巻き込まれてるってことだ。

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