魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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G.U.E.S.T-Survival Simulator

カルト絶対ころすマンと化した羊は女の子を見つけられるか

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 道路を辿って北へ向かう途中、線路があった。昔は列車が走ってたんだろうか?
 錆びついた線路は荒野と山の見える西側へと伸びているみたいだ。

 その風景の中にやはり、また違和感を覚える。
 謎の木、白い塔、それに続いて山の方にはとんでもないものが鎮座していた。

 船だ。遠目で見る限り、船が山肌に埋まっていた。
 半身が見えない大きな木造船は帆と鼻先を空に向けている。あんなのなかったはずだ。
 少なくともこの街で暮らしている限りはあれを見落とすはずもない。

 待てよ……。線路に差し掛かったところで、俺は振り返る。
 反対側を見ると、廃れた街と荒野の姿が目に入る。
 目を凝らして街から外へ、広い世界の輪郭を探っていると。

「……まだあるのか? どうなってんだ」

 あった。遠くの風景の片隅にまたも違和感が。
 ちょうど街から外れたところに建物が立っている。大きな赤いレンガ造りが1つ。
 絶対に見落とすはずがないであろう場所にある倉庫みたいなそれを見て、考える。

「……変だ。やっぱりあんなのなかったはずだ」

 もっと目を凝らすと、まただ、荒野に平たい緑色があった。
 乾いた大地に不自然な形で小さな草原ができてる、一体どういうことだ?
 今まで何度も外を見る機会はあったが、あれだけ殺風景だった荒野はいつの間にか姿を変えてしまっている。

 もっと考えた。そういえばあの塔といい木といい、あるタイミングで目にしている。
 俺が死んだ後だ。生き返った後、街の外側に見慣れないものがあったりした。
 まさか俺が死ぬとあんな感じで何か増えてくのか? いや、まさかそんなわけないか。

「あと……二日か」

 しかし今はそれどころじゃない。
 線路を横切りながら悩んだ。やつらが本気でこっちにやってくるっていう話だ。
 いくら死ねないからと「全員かかってこい」と待ち構えるわけにもいかない。

 あの日から何人も仕留めてきた。
 理由は毎日武器を手に必死に追いかけてくるのもあるが、殆ど個人的な報復だ。

「……もしまた捕まったら、次はこれじゃすまないだろうな」

 嫌なことを思い出してしまってみぞおちのあたりがずきずきした。
 自分の胸を抑えた。黒い布地の裏には二度と消えない最悪の傷跡がある。

「俺が不死の力の源なんていったのは一体どこのどいつだ、くそったれ」

 ……とにかく『スタート地点』にはいつまでもいられない。
 早いうちに手を打たないとそのうち逃げ場すら失うことになる。

「この傷のことは一生恨んでやるからな、クソカルトども」

 ともあれ、ゆるやかな坂に差し掛かると……西からなにかの匂いを感じた。
 焼けた肉の香り、そこに腐った動物の獣臭さをミックスしたような。
 これは――あの生首添え焼きドッグマンを思い出す。

「……ここであの化け物を焼くやつなんてあいつらぐらいだな」

 匂いを辿ると、曲がってすぐ近くにある駐車場から煙が立っていた。
 あれが発生源か、姿勢を低くして近づく。

 まさかあれか? さっきのやつが言ってた修理工場っていうのはここだろう。

 駐車場周りが土嚢で囲まれていて、放置された車も壁として利用している。
 その内側には粗末な布で作られたキャンプが何個もあった。
 バスに鉄板や布を組み合わせてちょっとした小屋になってたり、どこから持ってきたのかテーブルや椅子が置かれていたりもする。

「……ほとんど誰も残っちゃいない、か」

 言われたことを思い出して、目の前の様子に集中した。

 まずキャンプのサイズだ、駐車場のスペースをかなり使っている。
 テントなどの数からして、人がいるとすれば十五人はいけそうか。
 内側では煙が何本か立っている――まだ人がいる証拠だ。
 しかし視線を少しだけ近くの道路に合わせてみれば、

 ……なるほど。アスファルトの上にドッグマンが転がっている。
 一つだけじゃない、二つ、四つ、六つ……いや六匹か。
 すぐそばには信者たちの姿もある、もちろん冷たくなった方の。

「手薄になったところに攻め込まれたって感じか?」

 さっき感じた腐った獣みたいな臭いの原因はあれか。
 となると――あいつの言ってたことは本当っぽいな。死体がほったらかしなのも人手が足りないのならうなずける。

「オーケー、そういうことならやってやるさ」

 さっそく背負っていた単発式のライフルを手にかけて――おっとそうだ。
 レベルアップしてレベルが3になっていた。PERKを一つ覚えられる。

 PDAからステータスを見てみるといくつかのスキルが『成長』していた。
 【小火器】と【近接】がSLEVスキルレベル1に、良く使った【投擲】スキルもSLEV2まで上がってる。一週間以上も戦い続けてたらいつのまにか育ってたようだ。

 獲得できる『PERK』は前より増えてる。好きなステータスを1上げる、何か食べると傷が治癒していく、などだ。
 中でも興味をひいたのが【丈夫な足腰】というPERKで、

『生存のためにウェイストランドの地べたを歩き続けた結果、あなたの足腰は駄獣だじゅうより丈夫に育ちました! 移動力にボーナスがついて、物資を一杯運べるようになるでしょう。』

 とあった、身体を強化するってことならこれにしよう。

「さあて、行くか」

 ――習得した、根拠はないがなんとなく足が丈夫になった気がする。

 姿勢を低くしたままキャンプの外側に近づいた。迫るほど人気を感じるようになって。

「――ったく、俺たちだけでどうしろってんだ!」

 人の声が聞こえた。積み上げられた土嚢の裏に飛び込んで『感覚』を働かせる。
 服の擦れる音、足音、息遣い、匂い、雰囲気――三人ぐらいか?

「まったくだ。何もかも"ボルターの怪"のせいだ。あいつのせいで動きがとれねえ、ドッグマンたちもここぞとばかりに来やがる」
「三人でここの物資を死守しろだと? あの野郎俺たちをなんだと思ってんだ!?」
「もう少しの辛抱だ、落ち着け。ドッグマンは火がありゃ襲ってこない。物資も山ほどある。ここで籠城してれば死にやしないさ」

 キャンプの中からは男の声が二人分聞こえる。

「おいお前ら。その増援だが……来るのはもっと後になりそうだぞ」
「……なんだと?」
「二日後じゃないのか!? どういうこった!」
「さっき無線で連絡がきた。あの『シドレンジャーズ』が介入してきたそうだ。しかもよりにもよってシエラ部隊のやつらが来やがった」
「シエラ……まさかあの一番ヤバイ部隊がきてるってのか?」
「ああ、あの常識外れの連中だ。数は少ないがかなり苦戦してる」

 土嚢の陰から少しだけ頭を出してみた。

「だったら俺たちはいつまでここにいればいいんだ?」
「長くても一週間以内には来るだろう。増援さえ来ればこちらものだ」
「一週間だぁ!? ふざけんなよ、たった三人しかいないんだぞ!?」

 ストーブにクラスチェンジしたドラム缶の周りに男が三名いる。
 網で肉を焼きながら淡々と状況を説明する男。
 細長い刃物を砥石でひたすら研ぎながら話を聞いているやつ。
 そしてドラム缶の前で座ってデカい声で絶望している人間が一人。

 話を聞く限り分かった、こいつらで最後だ。単発式のライフルの撃鉄を指で起こした。

「……あの不死身の化け物に手を出したからだ。きっとあいつは精霊だ」
「ああ……!? 精霊だぁ!? 何ふざけたこといってやがる!」
「あいつは人間じゃない、ウェンディゴだよ。冬に姿を現すおそろしい精霊のことだ。俺たちは眠りについていたあいつを起こしてしまったんだ」

 ……勝手に精霊扱いしやがって。
 土嚢に銃身を置いて照準をあわせる――すぐ近くにいる声のデカい奴。
 ありあわせの部品で作ったような短機関銃を持っている、優先目標だ。

「……精霊といえば、お前がさっきから研いでるそいつはどうだ?」
「だめだ。あれからずっと黙ってる。おまけにいくら研いでも刃がつかないときた、これじゃただのペーパーナイフだ」

 二人が動く。砥石とナイフを持った男がバスの中へ。拳銃を手にした一人がキャンプの東側へ向かっていく。

「使えないナイフだ。気味も悪いしさっさと捨てちまえ」
「こいつはいくら叩いても形が変わらないぐらい頑丈だ。加工して槍にでもするさ」

 座っているやつの胸めがけてトリガをゆっくり引いた。
 銃声、反動、やってくる衝撃を上半身で受け止める。

「なあ、どうせだし物資にある酒は飲んでもぐふぉっ……!?」

 一名ダウン、胸を押さえて苦しそうに転がった。

「っ……まずい! アイツだ! アイツがでたぞ!」

 粗悪な拳銃を手に一人がこっちに戻ってくる。
 ライフルは品切れだ――だが次の一手は考えてある、土嚢の陰に身を隠す。

「今のはなんだ!? まさか……」
「お前の言ってた精霊とやらだ! クソッ! 神出鬼没だな!」

 もう一人も戻ってきたか。足音が近づく、土嚢の後ろから荒い息遣いが聞こえる。
 手にしていたライフルの銃身を掴んで……よし、いまだ。

「よお、探したぞ」

 大声を上げながら飛び出す、少し離れたところにいた拳銃持ちが驚く。
 立ち上がった勢いを使って弾切れしたライフルをそいつにぶん投げた。

「こいつ――がはっ!」

 とっさに銃を向けられたものの、ストックがいい感じに顔面に命中。
 すかさずポケットから9㎜リボルバーを抜く。そのまま土嚢を乗り越えてダッシュ、相手の懐に突っ込む。

「な……ふざけやがって! この……」

 敵が立て直す、拳銃が向けられる、だがもう遅い。
 間合いを一気に詰めた。姿勢は落として相手の腹に肘を突き出すように。

「うおぉぉぉらぁぁッ!」
「おごっ……!?」

 頭突きできるぐらいまで踏み込んだ、肘を叩きこんでやった。
 よろめく相手の胸にリボルバーを押し付けて――二発発射。これで確実に死んだ。

「……忌々しいウェンディゴめッ! ぶち殺してやる!」

 最後の一人がヤケになりながらハンマーで殴りかかってきた。
 慌てる必要はない、足元に転がったライフルを拾って逆手に持つ。

「この世から去れ、悪霊めェェェ!」

 獲物を大きく振りかぶった男へとフルスイング。
 突っ込んで来た男の顎に銃床が当たった、何かが割れる感触が伝わる。

「あっ……がぁぁぁぁぁ!?」

 顔を抑えて仰け反る――隙だらけだ。PERKで強化された足腰で思いきり踏み込む。

「……おらぁッ!」

 逆さに持ったライフルの銃床を、その喉に叩きつけた。

「お゛……?」

 相手が倒れる。念入りにねじり込んだ。ぶぢぶぢと何かがつぶれる手触りがする。
 そいつは粘っこい血を吐いて、体を痙攣させて死んだ。

「化けて出てきたらぶっ殺してやるからな、クソカルトども」

 これで俺はボルター・タウンのカルト集団を壊滅させたことになる。
 ライフルを引き抜くと銃床がひび割れていたので『分解』した。

「……ふー……」

 やり切ったというか、解放されたというか。
 一仕事終えて、椅子代わりに置かれていた木箱に腰をかける。
 喉が渇いた、腹も減った、それ以前に疲れが一気にやってきた。

『……熱いよ……やだぁ……うう……臭くてきもちわるい……助けて……』

 ついに幻聴まで感じた。
 思えばあの日からずっと独り言ばっかだ、そのうち話し方を忘れてしまうんじゃ――ん?

『もう一人はやだよ……かえりたい……』

 また聞こえてきた、女の子の声だ。あのバスの中から聞こえてくるようだ。
 だが経験上、二回幻聴が聞こえたらそれは本物かもしれない。

「……おい、まさか誰かいるのか!?」

 俺は声の発生源を――いや、周りにはどう見たって人はいない、気配すら感じない。
 そばには小屋と化した魔改造バスがあった、たしかナイフ男が入っていった場所だ。

「――ここか!?」

 リボルバーを握りしめて、獣臭さが漂うバスの中へと飛び込んだ。 
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