魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

文字の大きさ
上 下
25 / 581
G.U.E.S.T-Survival Simulator

羊は狼の皮を着た

しおりを挟む
 俺をずっと追い回すアルテリー・クランとは何か。
 奇跡の力とやらを手に入れた変態野郎がボスのカルト集団だそうだ。
 以前はずっと南の荒れ地に住む、ただの人食いの集まりだったらしい。

 次にシープハンター。 
 なんでもいわゆる人間狩りを専門とする役割を与えられた下っ端。
 奴隷狩りの経験があるやつとか、狩りの技術にたけているやつの仕事だ。
 
 最後にボルター・タウンについて。
 ここはあのハーバー・シェルターの東にある街だが、ドッグマンの住処でもある。
 だから150年経った今でも手付かずの物資がたくさん残されてるそうだ。

 そしてアルテリー・クランのリーダーは相当ご立腹だとか。
 物資集めは主にドッグマンのせいで難航。おまけに右腕的存在を失う。
 不死身の力を持っていると分かれば「そいつを食べれば不死身になれる」と生け捕りするよう命じるものの増援はことごとくやられる。

 要するに今までうまくいってたのにやけになってるそうだ。気の毒に、ざまあみろ。

「……で、他に何か隠してることはないか?」

 昼下がりの空の下、親切な情報提供者にそう尋ねた。
 目の前にはいろいろと教えてくれた半裸の男が一人。
 パンダがシンボルの中華料理店の壁にもたれて、両手で腹を抑えている。

「……これ以上言ったら殺すんだろ、化け物め」

 煤と砂で汚れたそいつの呼吸は弱い。
 腹も308口径の銃弾でぶち抜かれてる、もう長くはないと思う。

「その傷じゃもう何もできない。あんたはもう手遅れだ」

 もう一押しか。バッグに入ってたのペットボトルを投げた。
 手付かずの真っ青なスポーツドリンクが入った貴重な水分だ。

「……長くないのか」

 壁に背を預けてぐったりしてる元狂信者はあきらめたような顔をした。
 そこから転がってきたペットボトルを少し触ったあと、

「死ぬってことだよな?」
「ああ」

 完全にあきらめがついたんだろうか。
 目の前の男は「そうか」とキャップを開けて中身を軽く煽った。
 一口飲むと苦しそうにむせて。

「……もうすぐ、大規模な増援が送られてくる。お前の肉目当てにな」

 血と一緒に情報を吐いた。顔は真っ青だ。

「あんだけやったのにまだ増援が?」
「ボスは永遠の命をご所望のようだ。これでも俺たちはほんの一部さ」
「そいつらはいつ来る?」
「二日もしないうちに来るだろうな。一昨日ここに回されると言ってた」
「まさか俺一人のためにそこまでやってるわけじゃないよな?」
「どうだかな。この街にクソみたいにいやがるドッグマンもだろうが……」

 一通り喋ると、腹に穴の開いた男はむず痒そうにせき込んだ。
 血が飛び出て、飲みかけの青いドリンクの色が少し変わった。

 ……さて、このままにしておくわけにはいかない。9㎜口径のリボルバーを抜いた。

「……やっぱり殺すのか?」

 シリンダーを開けた。何発か弾が込められてる。
 質問には何も答えず、死にかけの男の目の前に転がした。
 撃鉄を起こして引き金を引けば、これで俺を殺すことだってできる。

「おい、どういうつもりだ……?」
「よく聞け」

 俺は相手の顔をしっかり見た。

「お前をこのまま生かすつもりはない。それにその傷じゃもう無理だろうな」
「……なんだって?」
「だから選べ。自分で死ぬか、そいつを俺に向けて殺されるかだ」

 このまま見殺しにすればこいつは苦しみながら死ぬ。
 かといってこいつに慈悲とトドメを与えるつもりはない。
 どう捻ってもこの男は永遠の敵だ、人食いのクソ野郎である。

「このまま殺すのはフェアじゃないってことだ。どっちがいい?」

 なら自分で死んでもらうか、敵として死んでもらうかの二択だ。

「……なあ、個人的な質問なんだが」

 死にかけの男は地面に落ちた銃を見つめながら、

「最後まで戦うやつと、あきらめる奴、どっちがカッコいいと思う?」

 いまいちよく分からない質問をしてきた。
 どうであれ、返答はとうの昔に決まっている。

「俺だったら戦うだろうな」

 そう答えた。すると信者だった男はどうにかリボルバーを拾った。
 それから腕を持ち上げて、撃鉄を起こし、銃口をこっちに向けて――

*パンッ!*

 撃たれた、でも弾は当たってない。そいつの銃口はわざと明後日に向けられている。

「おい、いいこと教えてやる」

 目の前の手からリボルバーがずり落ちた。

「北側にある自動車整備工場は俺たちの拠点キャンプになってる。回収した物資が集められてて、メンバーもほとんど残っちゃいない。お前なら一人でやれるだろうな」

 男はそういって残ったスポーツドリンクを飲みほして。

「――悪い。楽にしてくれないか。自殺なんて、やっぱ怖えよ」

 こっちに向けて、空になったペットボトルを転がした。

「最後に、何か言いたいことはあるか?」

 俺は背負っていた単発式のライフルを掴んだ。
 銃身を折って308口径の弾を込めて、撃鉄を起こして、構えた。

「ああ……そうだな。入らなきゃ良かったぜ、こんなクソみてぇなところ」
「確かにな。次は慎重に選べよ」

 「おう……」とあきらめたように笑う男の額めがけてトリガを引いた。
 銃声のあと、銃口の先で名も知らぬ誰かがまた死んだ。
 視界に【LevelUp!】と浮かんできた。

「……街の北側だな」

 リボルバーを拾った、さっそくあいつらのキャンプとやらに向かおう。

しおりを挟む
感想 456

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...