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G.U.E.S.T-Survival Simulator
羊は逃げられない
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心は確実にすり減ってる。
ここには世話焼きな親友も、落ち着ける場所も、話す相手も存在しない。
元の世界でさんざん食わされたアイツの料理の味も忘れかけている。
「……家に帰りたい」
傷が増えた身体で、ふらふらと外をさまよっていた。
温かくて柔らかいベッドのある我が家はどこだ? もういい、全部夢ってことでいい、お願いだから元の世界に帰してくれ。
「おい見ろ! あいつまた来やがったぞ!」
道路に飛び出ると、さっきの連中がぞろぞろやってきた。
「……頼む、もうやめてくれ……俺のことなんかほっといてくれ……」
俺は跪いた。一体誰に届くのかもわからない命乞いだってした。
そんなことに構うことなく、バットを握った男がにやにやと近づいてくる。
「お前面白えな。殺しても殺しても生き返ってやがる。まさか奇跡の業か?」
わけのわからないことを言われた。
何のことか分からないが、とにかく首を横に振った。
「まあなんだっていい、痛い目見たくなかったらおとなしく俺たちについてこい。お前は今から羊になるんだ」
顎をバットの先端で持ち上げられて、趣味の悪い笑顔がこっちを見る。
抵抗したらお前で楽しんでやるとばかりの表情に、言われるがまま震える足で立った。
「ところでだが、まあ、その前にだ。お前、俺たちの仲間を何人殺したと思う?」
歩こうとした途端、急に得物が頬をなぞる。冷たい木材の触感に血の気が引いていく。
笑っている。そいつも、そいつらも、おもちゃを見つけた子供みたいに笑ってやがる。
周りの連中がじわじわ迫って、逃げ場が塞がれる、悲鳴すら上げられないほどに、狭く。
「……勘弁してくれ……!」
俺のその言葉をきっかけに、きれいなフルスイングが顔に飛んできた。
あんな『PERK』なんてとるんじゃなかった。鋭くなった感覚が、全力で頬骨をぶち砕く感触を余すことなく読み取り始めたのだから。
上げるはずだった悲鳴すら出せないまま、俺は生きながら全身をぶち壊された。
『……おい死んじまったぞこいつ! 誰だやりすぎたやつは!?』
ナタで切り付けられ、鈍器で手足を砕かれ、槍でぐりぐりと背中をえぐられながらも最後に感じ取ったのは、人の死にざまを面白がっていたということぐらいだ。
◇
逃げてやる、そうだ、こんなところから逃げてしまえ。
何度目か分からない死を経て、俺はこの街から逃げ出すことにした。
惨たらしい死から少しの間を置いた後、シェルターから着の身着のまま、外に広がる広い荒野へ走り出す。
「羊が出てきたぞ! 今度は生け捕りにしろォ!」
だがすぐにバレた、楽し気に笑う男たちが目ざとく俺を見つけてきた。
車の残骸をよけて、くぐって、飛び越えて。道路を踏んで、とんで、駆け抜けて。それでも追いかけるやつらの気配は途絶えない。
「行け、シープハンターども! あの生意気な羊をたっぷりいたぶってやれ!」
遠くにあった荒野が近づいてくるにつれ、後ろからひゅんひゅんと矢が追いかけてくる。
俺が走る限りは当たらないはず。そう思っていた矢先、背中にどすっと鈍い痛みが走った。
「かっ……はあ……ッ!?」
振り向かなくたって分かる、背中に矢が刺さった、肺が引っこ抜かれたような激痛だ。
残った酸素が血と共に一気に漏れ出した、それでも、赤い泡を吐きながら走った。
やがて見えてきたのは、オレンジ色の荒野だった。
こんなクソみたいな状況だというのに綺麗だ。求めていた広い世界がそこにある。
ただし願いが叶うことはなかった。二度目の痛みがまた背中に走って、ついに転んだ。
「どうだぁ? 肺を2つも潰される痛みは? 死にたくなる痛みだろ?」
後ろから声がした。だがもう、振り向けない。
血をどろどろと吐いて、胸に生えた矢じりを見ながら、せめて荒野に手を伸ばす。
「殺すなって言ってんだろ、馬鹿が! 生け捕りにしろとあれほど――!」
「うるせえ! どうせ生き返るんだ、まず徹底的に心を折ってから――!」
背中で言い争いを聞きながら、俺は死んだ。
◇
無様に死んでしばらく、肺に残った痛みの名残が消えるまで寝込んでいた。
そのまま引き籠ろうにも狭くて寒いシェルターにやはり耐え切れず、また外に出た。
が、好奇心で外に出たのが間違いだった。
「おいおい……マジかよ……」
街を彷徨っていたところやってきたのは、今度はひどい砂嵐だった。
どこからか砂の風があたりを深く覆い尽くし、そのせいで世界が茶色く染まっている。
「あのカルト野郎ども、なんでこんなにいるんだよ……!」
だがそんなことは別にいい。というかそれどころじゃない。
「気をつけろ! どこから襲ってくるかわからねェぞ!」
「あっちからも来たぞ! 分断されるな! 固まって防御しろ!」
「くそが! 一人やられちまった! 一体どうなってんだここは!?」
すぐ近く、砂嵐の向こうから男たちの攻撃的な声が聞こえる。
俺は倒壊した民家の中から様子を伺った、可能な限り音を立てずに。
「頭だ! 頭をぶっ壊せば倒せるぞッ!」
あいつらは何かと戦っている。その相手は――なんだあれガイコツが動いてるぞ。
「なんだよこのフザけたミュータントは!? しかもやたら強え……!」
「バラけるとまずいぞ! 密集して応戦しろおめーら!」
砂嵐のせいじゃなければ、人の骨が動いて戦っていた。
骨格模型から親しさを引いて錆びた武具を足したらちょうどそんな感じだ。
それも一つ二つとかそういうレベルじゃなく何十体といる。
「くそォッ! 死にぞこないの分際がはァっ!?」
叩きつけたバットを払われた男が、続けざまに剣で顔を刺された。
列からはぐれた人間に槍が突き出されて串刺しに。
それならばと銃で殴ろうとしたやつの喉に盾の縁がめり込む。
一体なんなんだあれは。骨――スケルトンたちが暴れまわってる。
適当に暴れてるわけじゃない、熟練の戦士みたいにきびきびしている。
「一旦引け! アイツらのペースに乗せられるな!」
「ヒャッハァー! 撃ち放題だぜェ!」
しかしあいつらだって馬鹿じゃない。離れて銃や弓を使えばいいのだから。
相手は骨だ、しかも頭を撃たれたやつはあっさりと倒れている。
まあそれでも同じのが何十体と迫っているわけだが、
「おいホネ野郎ども! だったらこいつはどうだッ!」
コートに身を包んだ男が立ち上がって銃みたいなものを構えた。
あれはなんだ? 銃のグリップみたいなものに空き缶が取り付けてある。
何なのかは嫌でも分かった。あのボンネットに仕込んであった殺人兵器だ。
缶を補強して火薬と釘を詰め込んだあの恐ろしいやつに違いない。
「ちょっ……馬鹿野郎! そいつは――」
「おまっ……やべえぞ! 全員防御しろォォ!」
「こんな時に使うんじゃねえバカヤロォォォォ!」
男がグリップから伸びている針金に指をかけた。
「とっておきだ! カンガンを食らいやがれェ!」
そいつはぞろぞろやってくるスケルトンに向けて思いっきり引いて――
*Zzbaaaaaaaaaaaaang!*
聞き覚えのあるとんでもない爆発音が響いた。
爆風が砂嵐の茶色ごとスケルトンたちをまとめて吹き飛ばす。
なんせあれは指向性をもった爆発と釘の嵐だ。あんなの食らえばドッグマンだってひとたまりもないはず。
「あちぃ……ッ! ぜ、全員殺った! お前ら、俺を見たか!?」
反動で壊れた残骸を手に男が叫んだ。両手は無事だ。
周りは「見届けたぞ!」「良くぶっ殺した!」とかいって賞賛している。
スケルトンたちは奇跡でも起きない限り立ち上がれないだろう。
あれはこのゲームにもともといた敵なのか?
だがもしそうなら、あの狂人たちの反応はおかしい。
シェルターから出たばかりの新兵よりこの世界を理解してるはずだ。
「おい見ろよこいつ、妙な兜なんてつけてやがる」
「こっちは鎧なんか着てるぞ。錆びがひどいがまだ使えそうだな」
「鉄製品か……ファクトリー製の装備か? それにしちゃボロすぎるが……」
アルテリーの連中は戦利品漁りに忙しそうだ。
砂嵐の中に飛び込むんじゃなかった、今日はもう帰ろう。
集中を解いてゆっくりと、崩れた家の中で起き上がろうとしたが。
がしゃり。
そんな音が後ろから聞こえた。金属が揺れてこすれるような音に近い。
「…………まずい」
こういうとき、決まって背後にはヤバイものがいるものだ。
だからそっと後ろに振り向いた。
「ハァーーーー、ハァァァァーーー」
例の骨、いやスケルトンが瓦礫の上に突っ立っていた。
空っぽのはずの目は赤く光って、口から独特の呼吸が漏れている。
甲冑を着ていて、身の丈ほどはある剣をこっちに振り上げていた。
「アアアアアアアアアアアァァァァァァ……!」
「ひっ!!」
いつもならそのまま死んでしまえばいいが、けれども恐怖が勝った、こいつはマジだ。
アルテリーのやつらなんかと比べ物にならないほどの殺意に思わず駆け出してしまった、もちろんあいつらのいる方へ。
「うっ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉッ!」
俺は追いかけているであろうそいつごと外に飛び出した。
「なっ……なんだおめー!? どこからきやがった!?」
「待てあいつだ! また出やがったぞ! 絶対逃がすな!」
ちょうど戦利品漁りの真っ最中だった狂人たちは面食らったみたいだ。
そりゃそうだ、死んだやつのはずがまた出てきてMPKまでするんだから。
せいぜい驚いててくれ、そしてそこをどけ。
「待て、殺すな貴様ら! 誰かそいつを捕まえろ!」
「ハンズリー様の命令だ! そいつは生け捕りにしろォ!」
戸惑うやつらの間を通り抜けようと走った。
武器を構え直したやつの横を、向けられた銃口の先をくぐる。
伸びてきた手をかがんで避ける。抱き着こうとする腕を振り払い。
「このっ! おとなしくしてやがれッ!」
視界いっぱいに銃のストックが飛び込んで来た。
脳に鈍い痛みがねじり込まれたかと思えば、とうとう意識が消えた。
◇
ここには世話焼きな親友も、落ち着ける場所も、話す相手も存在しない。
元の世界でさんざん食わされたアイツの料理の味も忘れかけている。
「……家に帰りたい」
傷が増えた身体で、ふらふらと外をさまよっていた。
温かくて柔らかいベッドのある我が家はどこだ? もういい、全部夢ってことでいい、お願いだから元の世界に帰してくれ。
「おい見ろ! あいつまた来やがったぞ!」
道路に飛び出ると、さっきの連中がぞろぞろやってきた。
「……頼む、もうやめてくれ……俺のことなんかほっといてくれ……」
俺は跪いた。一体誰に届くのかもわからない命乞いだってした。
そんなことに構うことなく、バットを握った男がにやにやと近づいてくる。
「お前面白えな。殺しても殺しても生き返ってやがる。まさか奇跡の業か?」
わけのわからないことを言われた。
何のことか分からないが、とにかく首を横に振った。
「まあなんだっていい、痛い目見たくなかったらおとなしく俺たちについてこい。お前は今から羊になるんだ」
顎をバットの先端で持ち上げられて、趣味の悪い笑顔がこっちを見る。
抵抗したらお前で楽しんでやるとばかりの表情に、言われるがまま震える足で立った。
「ところでだが、まあ、その前にだ。お前、俺たちの仲間を何人殺したと思う?」
歩こうとした途端、急に得物が頬をなぞる。冷たい木材の触感に血の気が引いていく。
笑っている。そいつも、そいつらも、おもちゃを見つけた子供みたいに笑ってやがる。
周りの連中がじわじわ迫って、逃げ場が塞がれる、悲鳴すら上げられないほどに、狭く。
「……勘弁してくれ……!」
俺のその言葉をきっかけに、きれいなフルスイングが顔に飛んできた。
あんな『PERK』なんてとるんじゃなかった。鋭くなった感覚が、全力で頬骨をぶち砕く感触を余すことなく読み取り始めたのだから。
上げるはずだった悲鳴すら出せないまま、俺は生きながら全身をぶち壊された。
『……おい死んじまったぞこいつ! 誰だやりすぎたやつは!?』
ナタで切り付けられ、鈍器で手足を砕かれ、槍でぐりぐりと背中をえぐられながらも最後に感じ取ったのは、人の死にざまを面白がっていたということぐらいだ。
◇
逃げてやる、そうだ、こんなところから逃げてしまえ。
何度目か分からない死を経て、俺はこの街から逃げ出すことにした。
惨たらしい死から少しの間を置いた後、シェルターから着の身着のまま、外に広がる広い荒野へ走り出す。
「羊が出てきたぞ! 今度は生け捕りにしろォ!」
だがすぐにバレた、楽し気に笑う男たちが目ざとく俺を見つけてきた。
車の残骸をよけて、くぐって、飛び越えて。道路を踏んで、とんで、駆け抜けて。それでも追いかけるやつらの気配は途絶えない。
「行け、シープハンターども! あの生意気な羊をたっぷりいたぶってやれ!」
遠くにあった荒野が近づいてくるにつれ、後ろからひゅんひゅんと矢が追いかけてくる。
俺が走る限りは当たらないはず。そう思っていた矢先、背中にどすっと鈍い痛みが走った。
「かっ……はあ……ッ!?」
振り向かなくたって分かる、背中に矢が刺さった、肺が引っこ抜かれたような激痛だ。
残った酸素が血と共に一気に漏れ出した、それでも、赤い泡を吐きながら走った。
やがて見えてきたのは、オレンジ色の荒野だった。
こんなクソみたいな状況だというのに綺麗だ。求めていた広い世界がそこにある。
ただし願いが叶うことはなかった。二度目の痛みがまた背中に走って、ついに転んだ。
「どうだぁ? 肺を2つも潰される痛みは? 死にたくなる痛みだろ?」
後ろから声がした。だがもう、振り向けない。
血をどろどろと吐いて、胸に生えた矢じりを見ながら、せめて荒野に手を伸ばす。
「殺すなって言ってんだろ、馬鹿が! 生け捕りにしろとあれほど――!」
「うるせえ! どうせ生き返るんだ、まず徹底的に心を折ってから――!」
背中で言い争いを聞きながら、俺は死んだ。
◇
無様に死んでしばらく、肺に残った痛みの名残が消えるまで寝込んでいた。
そのまま引き籠ろうにも狭くて寒いシェルターにやはり耐え切れず、また外に出た。
が、好奇心で外に出たのが間違いだった。
「おいおい……マジかよ……」
街を彷徨っていたところやってきたのは、今度はひどい砂嵐だった。
どこからか砂の風があたりを深く覆い尽くし、そのせいで世界が茶色く染まっている。
「あのカルト野郎ども、なんでこんなにいるんだよ……!」
だがそんなことは別にいい。というかそれどころじゃない。
「気をつけろ! どこから襲ってくるかわからねェぞ!」
「あっちからも来たぞ! 分断されるな! 固まって防御しろ!」
「くそが! 一人やられちまった! 一体どうなってんだここは!?」
すぐ近く、砂嵐の向こうから男たちの攻撃的な声が聞こえる。
俺は倒壊した民家の中から様子を伺った、可能な限り音を立てずに。
「頭だ! 頭をぶっ壊せば倒せるぞッ!」
あいつらは何かと戦っている。その相手は――なんだあれガイコツが動いてるぞ。
「なんだよこのフザけたミュータントは!? しかもやたら強え……!」
「バラけるとまずいぞ! 密集して応戦しろおめーら!」
砂嵐のせいじゃなければ、人の骨が動いて戦っていた。
骨格模型から親しさを引いて錆びた武具を足したらちょうどそんな感じだ。
それも一つ二つとかそういうレベルじゃなく何十体といる。
「くそォッ! 死にぞこないの分際がはァっ!?」
叩きつけたバットを払われた男が、続けざまに剣で顔を刺された。
列からはぐれた人間に槍が突き出されて串刺しに。
それならばと銃で殴ろうとしたやつの喉に盾の縁がめり込む。
一体なんなんだあれは。骨――スケルトンたちが暴れまわってる。
適当に暴れてるわけじゃない、熟練の戦士みたいにきびきびしている。
「一旦引け! アイツらのペースに乗せられるな!」
「ヒャッハァー! 撃ち放題だぜェ!」
しかしあいつらだって馬鹿じゃない。離れて銃や弓を使えばいいのだから。
相手は骨だ、しかも頭を撃たれたやつはあっさりと倒れている。
まあそれでも同じのが何十体と迫っているわけだが、
「おいホネ野郎ども! だったらこいつはどうだッ!」
コートに身を包んだ男が立ち上がって銃みたいなものを構えた。
あれはなんだ? 銃のグリップみたいなものに空き缶が取り付けてある。
何なのかは嫌でも分かった。あのボンネットに仕込んであった殺人兵器だ。
缶を補強して火薬と釘を詰め込んだあの恐ろしいやつに違いない。
「ちょっ……馬鹿野郎! そいつは――」
「おまっ……やべえぞ! 全員防御しろォォ!」
「こんな時に使うんじゃねえバカヤロォォォォ!」
男がグリップから伸びている針金に指をかけた。
「とっておきだ! カンガンを食らいやがれェ!」
そいつはぞろぞろやってくるスケルトンに向けて思いっきり引いて――
*Zzbaaaaaaaaaaaaang!*
聞き覚えのあるとんでもない爆発音が響いた。
爆風が砂嵐の茶色ごとスケルトンたちをまとめて吹き飛ばす。
なんせあれは指向性をもった爆発と釘の嵐だ。あんなの食らえばドッグマンだってひとたまりもないはず。
「あちぃ……ッ! ぜ、全員殺った! お前ら、俺を見たか!?」
反動で壊れた残骸を手に男が叫んだ。両手は無事だ。
周りは「見届けたぞ!」「良くぶっ殺した!」とかいって賞賛している。
スケルトンたちは奇跡でも起きない限り立ち上がれないだろう。
あれはこのゲームにもともといた敵なのか?
だがもしそうなら、あの狂人たちの反応はおかしい。
シェルターから出たばかりの新兵よりこの世界を理解してるはずだ。
「おい見ろよこいつ、妙な兜なんてつけてやがる」
「こっちは鎧なんか着てるぞ。錆びがひどいがまだ使えそうだな」
「鉄製品か……ファクトリー製の装備か? それにしちゃボロすぎるが……」
アルテリーの連中は戦利品漁りに忙しそうだ。
砂嵐の中に飛び込むんじゃなかった、今日はもう帰ろう。
集中を解いてゆっくりと、崩れた家の中で起き上がろうとしたが。
がしゃり。
そんな音が後ろから聞こえた。金属が揺れてこすれるような音に近い。
「…………まずい」
こういうとき、決まって背後にはヤバイものがいるものだ。
だからそっと後ろに振り向いた。
「ハァーーーー、ハァァァァーーー」
例の骨、いやスケルトンが瓦礫の上に突っ立っていた。
空っぽのはずの目は赤く光って、口から独特の呼吸が漏れている。
甲冑を着ていて、身の丈ほどはある剣をこっちに振り上げていた。
「アアアアアアアアアアアァァァァァァ……!」
「ひっ!!」
いつもならそのまま死んでしまえばいいが、けれども恐怖が勝った、こいつはマジだ。
アルテリーのやつらなんかと比べ物にならないほどの殺意に思わず駆け出してしまった、もちろんあいつらのいる方へ。
「うっ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉッ!」
俺は追いかけているであろうそいつごと外に飛び出した。
「なっ……なんだおめー!? どこからきやがった!?」
「待てあいつだ! また出やがったぞ! 絶対逃がすな!」
ちょうど戦利品漁りの真っ最中だった狂人たちは面食らったみたいだ。
そりゃそうだ、死んだやつのはずがまた出てきてMPKまでするんだから。
せいぜい驚いててくれ、そしてそこをどけ。
「待て、殺すな貴様ら! 誰かそいつを捕まえろ!」
「ハンズリー様の命令だ! そいつは生け捕りにしろォ!」
戸惑うやつらの間を通り抜けようと走った。
武器を構え直したやつの横を、向けられた銃口の先をくぐる。
伸びてきた手をかがんで避ける。抱き着こうとする腕を振り払い。
「このっ! おとなしくしてやがれッ!」
視界いっぱいに銃のストックが飛び込んで来た。
脳に鈍い痛みがねじり込まれたかと思えば、とうとう意識が消えた。
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