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G.U.E.S.T-Survival Simulator
Nervous
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洗面台の鏡には青ざめた自分の顔がうつっていた。
目に矢が刺さったわけだが、幸いどこにも傷跡はない。
ともあれまた死んだ、でも一矢報いてやった。俺はやれる男なんだと教えてやった。
「最高の気分だよちくしょう……」
あれからどれくらい経ったか分からないが外へ出ることにした。
人を殺したとかそんな余韻に浸ったり悩んだりする余裕はない。
ところが地上では雨が降っていた。
信じられるか? こんな乾いた砂漠みたいな世界で雨が降ってるんだぞ?
「……雨、降るんだな」
思った以上に激しくて、どこかにある屋根がはげしい雨音を奏でている。
いや、今は驚いている場合じゃない。あれを回収しなければ。
俺は雨の中に飛び込んで、自分が死んだところへ向かった。
殺人現場はすぐ見つかった。あの車のそばだ、前に釘爆弾にぶち抜かれた場所である。
「……なあ、冗談なんざ言うつもりはないんだよ。信じてくれ」
が、近くで声がした。
車の陰に隠れて探る――歩道に男が二人いる。
槍持ちと弓持ちだ。おそらく俺を殺したやつらだ。
「だからなんなんだ、死体が消えたって。お前大丈夫かよ」
「本当に消えたんだよ、確かに見たんだ! 手ごたえもあった、確実に仕留めた、それだってのにやつの死体がないんだぞ!?」
「そうか、だがお前の相方は――」
「あいつに殺されたんだ! 仇もうってやった! なのに……」
……やっぱり死体が消えてたか。
物陰からそっと覗くと、二人はどこかへいこうとしている。
もう一人の手には矢を握っている、たぶん俺を殺したやつだ。
「お前の当てた矢とライフルしか残ってなかった、ってか?」
「そうだ、ああ、そうだ。どこかに消えやがったんだ、ありゃ幽霊だ」
「……やっぱり妙だな」
「おい、信じてくれないのか!?」
「そうじゃない、ここは……この『ボルタータウン』は何かおかしい。他の連中も妙なモンを見たって口を揃えてる」
「何かあったのか?」
「どうも説明できないが変なのがいやがる。武器をもった骨がいたらしい」
「骨? そりゃどういうことだ? 骨のお化けでもいるってのか?」
「その通りだ、剣を持った骨が襲い掛かってきたらしい。喋るナイフを拾ったとか言うやつもいたぞ。みんな本気で言ってやがる」
「……くそっ、冗談だろ。ここにいると頭がおかしくなりそうだ……」
「ここの物資を根こそぎ集めるまでしばらく滞在だとさ、最高だ」
シープハンターたちはどこかへ行ったみたいだ。
どうやらここは相当にやばいところらしい。
しばらくご滞在のカルト集団に、うろつくドッグマン、動く骨に死んでも蘇る幽霊、ホラー映画が1本作れそうだ。B級のだが。
「……頼む、ちゃんと残っててくれよ」
周りに誰もいないことを確認しながら自分の死んだ場所へ到着。
開きかけたボンネットの中にバッグが突っ込んである、無事だったか。
急いでぱんぱんに張った遺品を回収した。
あのとき何気なく放り込んでおいてよかった。
これで物資が手に入ったわけだし帰還する。
◇
……そんなわけでどうにかシェルターに戻ってこれた。
奪ったバッグの中身をひっくり返すといろいろ出てきた。
ペットボトル入りの水、何種類かの缶詰、ドクターソーダ、銃弾、錆びたナイフ、マルチツール、大量の釘、などなどだ。
ほかにも【サバイバルの初歩技術】という本も入ってる。
一仕事終えたせいか、いまさらにこの手に嫌な感覚が戻ってくる。
引き金を引いて、誰かの頭をぶち抜いた感触だ。
どう説明すればいいのか、自分の手でやってしまった、という手ごたえか。
とにかく誰かを殺したのだ、過程がどうであれそれは間違いない。
でも、もう俺は狩られるだけの羊じゃない、それだけは証明できた。
「……だめだ、今は考えるな、忘れちまえばいいんだクソクソクソ……」
震える手でドクターソーダの瓶を掴んで、キャップをむしり取る。
飲んだ、杏と薬臭さが混じった独特の味がする。
少しだけ落ち着いた。それからしばらく考えて、ポケットからPDAを取り出す。
……画面に『レベルアップしました!』と表示されてる。
ステータス画面で『PERK』にボーナスポイントを振れますとある。
死ぬ間際に見たあの文字は気のせいじゃなかったのか。
しかしどうしていきなりレベルが上がったんだろう?
「……で、なんでいきなり上がったんだ?」
ステータスをしばらく見ていると「XP取得履歴」というのがあった。
開くとXPを取得した履歴が書き込まれてる。
シェルターを脱出したから800XP、ハッキングに成功したから50XP、そしてアルテリーのやつを殺したから100XPだそうだ。
しかもメッセージがあって、
『ファーストキルおめでとう! 112様は戦いの童貞から脱せたみたいですね!』
と追加で50XPが振り込まれていた。こんな形で祝われて喜ぶと思ってんのか?
で、このPERKポイントは振ればいいのか、そしてそもそも振ってどうなるのか。
ともあれやってみなければ分からないのは確かか。
『PERK』のページを開くと、画面いっぱいにリストが表示された。
現在、ポイントを使って覚えることのできる能力の名前が並んでいるようだ。
移動力にボーナスがつくもの、荷物をいっぱい運べるようになるもの、動物に対してダメージが上がるもの、いろいろだ。
悩む、できることなら全部ほしいがそうもいかなさそうだ。
「……そもそも覚えてどうなるんだ? 何か変わるのか?」
まあPERKを習得してもその効果を実感できるかどうかはまだ分からない。
俺はよく考えたうえでリストにある【フォーカス!】というPERKを選んだ。
『あなたがこの人生で培ってきた感覚から驚くほどの精神力が生まれたようです! あなたは周りにある物、生物、違和感、そして身に降り注ぐ危険を直感的に感じ取ることができます! ちょっと体が敏感になっちゃいましたが……』
軽いノリでそう説明されてるがこれがよさそうだ。
覚えるのに高い『感覚』がいるそうで、今のステータス的にこれだと思った。
意を決して画面に触れた。
「……ん」
PERKを手に入れた直後、急に背筋に何かが走る。思わず背中がぴーんと伸びた。
なんだろうこの妙な感覚は。腹の底から喉にかけてくすぐったいような。
そして背中が、背骨に沿うように熱くなってきた。
両目に力がこもる。全身の『感覚』が整えられていくような感じがした。
「……ワーオ……」
思わず立ち上がる。身体が妙にすんなりと動く、まるで動かし方を熟知したように。
それだけじゃない、なんだかこう、周りにあるものが良く伝わってくる。
部屋中に漂う冷たくてほこりっぽい空気の流れ。地上に落ちる雨のかすかな衝撃。扉の向こうでしたたる水滴の重さが。
意識を集中すればここにあるすべてを近くしているような気がした。
「……ちょっと気持ち悪いな、これ」
……少し気味悪いが、これから生き残るための大きな力を得た感じはした。
しかしなんていえばいいのか……神経が敏感になって、気分が悪くなってきた。
ちょっと早いが今日は休もう。
夕食は余ったクラッカーとチーズスプレッドで軽く済ませた。
ついでに拾った石で壁に傷をつけた。一人と、四日目。
◇
目に矢が刺さったわけだが、幸いどこにも傷跡はない。
ともあれまた死んだ、でも一矢報いてやった。俺はやれる男なんだと教えてやった。
「最高の気分だよちくしょう……」
あれからどれくらい経ったか分からないが外へ出ることにした。
人を殺したとかそんな余韻に浸ったり悩んだりする余裕はない。
ところが地上では雨が降っていた。
信じられるか? こんな乾いた砂漠みたいな世界で雨が降ってるんだぞ?
「……雨、降るんだな」
思った以上に激しくて、どこかにある屋根がはげしい雨音を奏でている。
いや、今は驚いている場合じゃない。あれを回収しなければ。
俺は雨の中に飛び込んで、自分が死んだところへ向かった。
殺人現場はすぐ見つかった。あの車のそばだ、前に釘爆弾にぶち抜かれた場所である。
「……なあ、冗談なんざ言うつもりはないんだよ。信じてくれ」
が、近くで声がした。
車の陰に隠れて探る――歩道に男が二人いる。
槍持ちと弓持ちだ。おそらく俺を殺したやつらだ。
「だからなんなんだ、死体が消えたって。お前大丈夫かよ」
「本当に消えたんだよ、確かに見たんだ! 手ごたえもあった、確実に仕留めた、それだってのにやつの死体がないんだぞ!?」
「そうか、だがお前の相方は――」
「あいつに殺されたんだ! 仇もうってやった! なのに……」
……やっぱり死体が消えてたか。
物陰からそっと覗くと、二人はどこかへいこうとしている。
もう一人の手には矢を握っている、たぶん俺を殺したやつだ。
「お前の当てた矢とライフルしか残ってなかった、ってか?」
「そうだ、ああ、そうだ。どこかに消えやがったんだ、ありゃ幽霊だ」
「……やっぱり妙だな」
「おい、信じてくれないのか!?」
「そうじゃない、ここは……この『ボルタータウン』は何かおかしい。他の連中も妙なモンを見たって口を揃えてる」
「何かあったのか?」
「どうも説明できないが変なのがいやがる。武器をもった骨がいたらしい」
「骨? そりゃどういうことだ? 骨のお化けでもいるってのか?」
「その通りだ、剣を持った骨が襲い掛かってきたらしい。喋るナイフを拾ったとか言うやつもいたぞ。みんな本気で言ってやがる」
「……くそっ、冗談だろ。ここにいると頭がおかしくなりそうだ……」
「ここの物資を根こそぎ集めるまでしばらく滞在だとさ、最高だ」
シープハンターたちはどこかへ行ったみたいだ。
どうやらここは相当にやばいところらしい。
しばらくご滞在のカルト集団に、うろつくドッグマン、動く骨に死んでも蘇る幽霊、ホラー映画が1本作れそうだ。B級のだが。
「……頼む、ちゃんと残っててくれよ」
周りに誰もいないことを確認しながら自分の死んだ場所へ到着。
開きかけたボンネットの中にバッグが突っ込んである、無事だったか。
急いでぱんぱんに張った遺品を回収した。
あのとき何気なく放り込んでおいてよかった。
これで物資が手に入ったわけだし帰還する。
◇
……そんなわけでどうにかシェルターに戻ってこれた。
奪ったバッグの中身をひっくり返すといろいろ出てきた。
ペットボトル入りの水、何種類かの缶詰、ドクターソーダ、銃弾、錆びたナイフ、マルチツール、大量の釘、などなどだ。
ほかにも【サバイバルの初歩技術】という本も入ってる。
一仕事終えたせいか、いまさらにこの手に嫌な感覚が戻ってくる。
引き金を引いて、誰かの頭をぶち抜いた感触だ。
どう説明すればいいのか、自分の手でやってしまった、という手ごたえか。
とにかく誰かを殺したのだ、過程がどうであれそれは間違いない。
でも、もう俺は狩られるだけの羊じゃない、それだけは証明できた。
「……だめだ、今は考えるな、忘れちまえばいいんだクソクソクソ……」
震える手でドクターソーダの瓶を掴んで、キャップをむしり取る。
飲んだ、杏と薬臭さが混じった独特の味がする。
少しだけ落ち着いた。それからしばらく考えて、ポケットからPDAを取り出す。
……画面に『レベルアップしました!』と表示されてる。
ステータス画面で『PERK』にボーナスポイントを振れますとある。
死ぬ間際に見たあの文字は気のせいじゃなかったのか。
しかしどうしていきなりレベルが上がったんだろう?
「……で、なんでいきなり上がったんだ?」
ステータスをしばらく見ていると「XP取得履歴」というのがあった。
開くとXPを取得した履歴が書き込まれてる。
シェルターを脱出したから800XP、ハッキングに成功したから50XP、そしてアルテリーのやつを殺したから100XPだそうだ。
しかもメッセージがあって、
『ファーストキルおめでとう! 112様は戦いの童貞から脱せたみたいですね!』
と追加で50XPが振り込まれていた。こんな形で祝われて喜ぶと思ってんのか?
で、このPERKポイントは振ればいいのか、そしてそもそも振ってどうなるのか。
ともあれやってみなければ分からないのは確かか。
『PERK』のページを開くと、画面いっぱいにリストが表示された。
現在、ポイントを使って覚えることのできる能力の名前が並んでいるようだ。
移動力にボーナスがつくもの、荷物をいっぱい運べるようになるもの、動物に対してダメージが上がるもの、いろいろだ。
悩む、できることなら全部ほしいがそうもいかなさそうだ。
「……そもそも覚えてどうなるんだ? 何か変わるのか?」
まあPERKを習得してもその効果を実感できるかどうかはまだ分からない。
俺はよく考えたうえでリストにある【フォーカス!】というPERKを選んだ。
『あなたがこの人生で培ってきた感覚から驚くほどの精神力が生まれたようです! あなたは周りにある物、生物、違和感、そして身に降り注ぐ危険を直感的に感じ取ることができます! ちょっと体が敏感になっちゃいましたが……』
軽いノリでそう説明されてるがこれがよさそうだ。
覚えるのに高い『感覚』がいるそうで、今のステータス的にこれだと思った。
意を決して画面に触れた。
「……ん」
PERKを手に入れた直後、急に背筋に何かが走る。思わず背中がぴーんと伸びた。
なんだろうこの妙な感覚は。腹の底から喉にかけてくすぐったいような。
そして背中が、背骨に沿うように熱くなってきた。
両目に力がこもる。全身の『感覚』が整えられていくような感じがした。
「……ワーオ……」
思わず立ち上がる。身体が妙にすんなりと動く、まるで動かし方を熟知したように。
それだけじゃない、なんだかこう、周りにあるものが良く伝わってくる。
部屋中に漂う冷たくてほこりっぽい空気の流れ。地上に落ちる雨のかすかな衝撃。扉の向こうでしたたる水滴の重さが。
意識を集中すればここにあるすべてを近くしているような気がした。
「……ちょっと気持ち悪いな、これ」
……少し気味悪いが、これから生き残るための大きな力を得た感じはした。
しかしなんていえばいいのか……神経が敏感になって、気分が悪くなってきた。
ちょっと早いが今日は休もう。
夕食は余ったクラッカーとチーズスプレッドで軽く済ませた。
ついでに拾った石で壁に傷をつけた。一人と、四日目。
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