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G.U.E.S.T-Survival Simulator
ライフハック
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起きた。釘の嵐でずったずたにされた服も上半身ごと元通りだ。
あんな素晴らしい贈り物を作ってくれた馬鹿とそれにまんまとかかった馬鹿、どっちを憎めばいいんだろう。
「あれ作ったやつマジで許さないからな、覚悟しとけクソが」
無性に腹が立って、あと腹も減って、やけくそ気味に地上へ出た。
階段をのぼっていつもの殺人現場を通ってデストラップ跡地をスルー。
「……やっとついた。オーケー、二度とボンネットは調べない」
廃車だらけの道路を通り過ぎると、そこは大きな通りだった。
いろいろな建物や店舗が左右に並んでいて、かろうじて昔の形を残している。
おそらく以前はそれなりに栄えていたんだろう。もっとも今じゃ道路は雑草がこびりつき、正体不明の草木が町中で飛び出ているが。
空には健全な青色がどこまでも広がっている。ただ日差しがキツい。暑い。
「それで、どっから手をつければいいんだ?」
さて困った、このクソ暑い中一体どこから手をつければいいのか。
この崩壊した街に聞いたって答えは返ってこないか。
『そこの建物だ!』
なんてこった、こんなくだらない質問に誰か答えてくれた。
――なわけあるか! まずい、近くに誰かがいた!
『もう逃げられないぞぉ! ドッグマン! ぶっ殺してやる!』
『待て、これは隠れて待ち伏せしてやがるぞ! 入るんじゃねえ!』
『早くぶっ殺してバーベキューといこうぜ!』
このいかにもな口調はまずい、隠れないと。
あたりを見回して……近くに扉が開きっぱなしの場所があった。
「PawnShop」という看板のある小さな店へと急いで飛び込んだ。
それから扉を少しだけ閉めて、通りのほうを見てみると。
『ハンズリー様が「肉はまだか」だとさ、早くしろよお前ら』
『分かってる! それよりそこのカフェの中にいやがるぞ!」
『ああ? なんで分かんだよ?』
『匂いさ、獣くせぇからすぐわかる。グレネードをぶち込め!』
見覚えのある集団がいた。
厳密にいえば一人一人の顔なんて覚えちゃいない。
だがあの群れは良く知っている。
「……アルテリー、だったか。あのクソ野郎ども」
あの時、シェルターを襲撃した奴らだ。
ぼろ布をまとったような姿、ばらばらの武器、そして露出した肌。
てっきり自爆の際にくたばったと思ったがずいぶん元気そうだ。
『ほおらワンちゃん、餌の時間だ!』
『俺からもプレゼントだ! 残さず食えよ!』
男たちが通りにある店に何かを放り投げている。
ガラスが破れる音がしたあと、ぼん、と甲高い破裂音が響いた。
すると店の中から、
『――グルォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
真っ黒な毛むくじゃらの化け物が飛び出る。間違いなく俺の頭をねじ切ったやつだ。
『俺たちのシープハンターをよくもやってくれたな! くたばれ!』
先頭にいた男が銃を構える、化け物が近づいてきたところで二連射。
至近距離で打たれた黒い塊が大きく仰け反る。しかし動きは止まらず爪を振りかぶる。
そこへとどめの槍が投げ込まれる――頭に命中、見事にぶっ刺さった。
『やったぜ! 見たかよ今の!? 頭に命中、大当たりだ!』
『そりゃよかったな。さっさと運ぶぞ、ハンズリー様は気が短いからな』
あっという間にやられた怪物は連れ去られてしまった。
声のデカい連中を見届けて、俺は扉をきっちり閉じた。
「……あいつらがいるなんて聞いてないぞ……どうすんだよこれ」
ともかく会話を耳にして分かったことが三つ。
俺を矢で殺したのはシープハンターとかいうやつ、人名じゃないと思う。
そしてあの化け物はドッグマンというらしい。他にもまだいそうだ。
おかげでここは危険地帯だってことも分かったが、ひとまず店の中を探してみよう。
「食べ物は……なさそうだよなぁ」
ここはリスポン地点ぐらい狭い店だ。質屋だそうだが何も残っちゃいない。
カウンターには『閉店前につき貴金属類大放出』と雑に書かれていた。
もちろんケースの中は空っぽ。売り切れたか持ちだされたかは謎だ。
「……お?」
店内を物色しているとカウンター裏の奥に何かあった――小さな金庫だ。
いかにも数字を入力してくださいとばかりの電子ロック機能がついてる。
「なんだ、金庫か。パスなんて分かんないぞ?」
どうするべきか、近くでパスワードが書かれたメモや鍵がないか探すか?
そんな都合よくあるはずが――
いろいろ考えた結果とりあえず適当に押してみようとした時だった。
また視界に文字が。今度は『ハッキング可能!』とか表示されている。
「……マジかよ」
ハッキングなんて全然分からないがよしとしよう、迷わず『YES』を選択。
すると腕が勝手に動く。ポケットのPDAを無意識に引っこ抜く。
「おっ…おいなんだこれ!? なんか勝手に……」
PDAを金庫に向けると画面に『ハッキング中!』と表示された。
小さなウィンドウが開いて複雑な文字列がうごめき、進行度が10、50、100%と進んで、
『ハッキング完了!』
かちゃっと気持ちのいい音がした、まさかと思って扉を掴むと本当に開いた。
「これで俺もクラッカーの仲間入りか」
さて中には――モスグリーンのパックが二枚のくしゃくしゃの紙と一緒にされていて。
『兄貴、新しい商品のアテが見つかったぞ。ちょっとコネを使って軍から新品のMREを分けてもらえるようになったんだ。合法だから心配するなよ。賞味期限は例によって無限、仕入れコストも格安、こいつはマニアに売れるぞ。試しに二つ持ってきたから食ってみてくれ、きっと気に入るはずだ』
一枚目にはそう書かれていたものの、
『このクソ野郎、どうしてよりによってスパゲッティのやつを二つも送ってくるんだ。お前が送ったのは賞味期限永久のクソの塊だ! 向こうでなにしてるか知らんが二度とこんなモン持ってくるなよ! それから冷蔵庫にある飲み物を断りもなく持ってくな、次やったら殺してやる』
と、書きなぐってある。怒りのこもった汚い表現はともかく、もしかして食べ物か?
軍隊カラーなパックに触れると『MRE』と視界の中に浮かび上がってくる。
つまり食べ物ってことだ!
それだけじゃない、奥のほうに瓶が何本か入ってる。
手を伸ばしてみると……なんてこった、ドクターソーダだ。
「あの冷蔵庫以来だな、お久しぶり」
冷えてないのは残念だがこの際もうなんだっていい。
「よし……食わないなら俺がもらうからな」
そういって、戦利品を抱えて慎重に帰路についた。
◇
あんな素晴らしい贈り物を作ってくれた馬鹿とそれにまんまとかかった馬鹿、どっちを憎めばいいんだろう。
「あれ作ったやつマジで許さないからな、覚悟しとけクソが」
無性に腹が立って、あと腹も減って、やけくそ気味に地上へ出た。
階段をのぼっていつもの殺人現場を通ってデストラップ跡地をスルー。
「……やっとついた。オーケー、二度とボンネットは調べない」
廃車だらけの道路を通り過ぎると、そこは大きな通りだった。
いろいろな建物や店舗が左右に並んでいて、かろうじて昔の形を残している。
おそらく以前はそれなりに栄えていたんだろう。もっとも今じゃ道路は雑草がこびりつき、正体不明の草木が町中で飛び出ているが。
空には健全な青色がどこまでも広がっている。ただ日差しがキツい。暑い。
「それで、どっから手をつければいいんだ?」
さて困った、このクソ暑い中一体どこから手をつければいいのか。
この崩壊した街に聞いたって答えは返ってこないか。
『そこの建物だ!』
なんてこった、こんなくだらない質問に誰か答えてくれた。
――なわけあるか! まずい、近くに誰かがいた!
『もう逃げられないぞぉ! ドッグマン! ぶっ殺してやる!』
『待て、これは隠れて待ち伏せしてやがるぞ! 入るんじゃねえ!』
『早くぶっ殺してバーベキューといこうぜ!』
このいかにもな口調はまずい、隠れないと。
あたりを見回して……近くに扉が開きっぱなしの場所があった。
「PawnShop」という看板のある小さな店へと急いで飛び込んだ。
それから扉を少しだけ閉めて、通りのほうを見てみると。
『ハンズリー様が「肉はまだか」だとさ、早くしろよお前ら』
『分かってる! それよりそこのカフェの中にいやがるぞ!」
『ああ? なんで分かんだよ?』
『匂いさ、獣くせぇからすぐわかる。グレネードをぶち込め!』
見覚えのある集団がいた。
厳密にいえば一人一人の顔なんて覚えちゃいない。
だがあの群れは良く知っている。
「……アルテリー、だったか。あのクソ野郎ども」
あの時、シェルターを襲撃した奴らだ。
ぼろ布をまとったような姿、ばらばらの武器、そして露出した肌。
てっきり自爆の際にくたばったと思ったがずいぶん元気そうだ。
『ほおらワンちゃん、餌の時間だ!』
『俺からもプレゼントだ! 残さず食えよ!』
男たちが通りにある店に何かを放り投げている。
ガラスが破れる音がしたあと、ぼん、と甲高い破裂音が響いた。
すると店の中から、
『――グルォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
真っ黒な毛むくじゃらの化け物が飛び出る。間違いなく俺の頭をねじ切ったやつだ。
『俺たちのシープハンターをよくもやってくれたな! くたばれ!』
先頭にいた男が銃を構える、化け物が近づいてきたところで二連射。
至近距離で打たれた黒い塊が大きく仰け反る。しかし動きは止まらず爪を振りかぶる。
そこへとどめの槍が投げ込まれる――頭に命中、見事にぶっ刺さった。
『やったぜ! 見たかよ今の!? 頭に命中、大当たりだ!』
『そりゃよかったな。さっさと運ぶぞ、ハンズリー様は気が短いからな』
あっという間にやられた怪物は連れ去られてしまった。
声のデカい連中を見届けて、俺は扉をきっちり閉じた。
「……あいつらがいるなんて聞いてないぞ……どうすんだよこれ」
ともかく会話を耳にして分かったことが三つ。
俺を矢で殺したのはシープハンターとかいうやつ、人名じゃないと思う。
そしてあの化け物はドッグマンというらしい。他にもまだいそうだ。
おかげでここは危険地帯だってことも分かったが、ひとまず店の中を探してみよう。
「食べ物は……なさそうだよなぁ」
ここはリスポン地点ぐらい狭い店だ。質屋だそうだが何も残っちゃいない。
カウンターには『閉店前につき貴金属類大放出』と雑に書かれていた。
もちろんケースの中は空っぽ。売り切れたか持ちだされたかは謎だ。
「……お?」
店内を物色しているとカウンター裏の奥に何かあった――小さな金庫だ。
いかにも数字を入力してくださいとばかりの電子ロック機能がついてる。
「なんだ、金庫か。パスなんて分かんないぞ?」
どうするべきか、近くでパスワードが書かれたメモや鍵がないか探すか?
そんな都合よくあるはずが――
いろいろ考えた結果とりあえず適当に押してみようとした時だった。
また視界に文字が。今度は『ハッキング可能!』とか表示されている。
「……マジかよ」
ハッキングなんて全然分からないがよしとしよう、迷わず『YES』を選択。
すると腕が勝手に動く。ポケットのPDAを無意識に引っこ抜く。
「おっ…おいなんだこれ!? なんか勝手に……」
PDAを金庫に向けると画面に『ハッキング中!』と表示された。
小さなウィンドウが開いて複雑な文字列がうごめき、進行度が10、50、100%と進んで、
『ハッキング完了!』
かちゃっと気持ちのいい音がした、まさかと思って扉を掴むと本当に開いた。
「これで俺もクラッカーの仲間入りか」
さて中には――モスグリーンのパックが二枚のくしゃくしゃの紙と一緒にされていて。
『兄貴、新しい商品のアテが見つかったぞ。ちょっとコネを使って軍から新品のMREを分けてもらえるようになったんだ。合法だから心配するなよ。賞味期限は例によって無限、仕入れコストも格安、こいつはマニアに売れるぞ。試しに二つ持ってきたから食ってみてくれ、きっと気に入るはずだ』
一枚目にはそう書かれていたものの、
『このクソ野郎、どうしてよりによってスパゲッティのやつを二つも送ってくるんだ。お前が送ったのは賞味期限永久のクソの塊だ! 向こうでなにしてるか知らんが二度とこんなモン持ってくるなよ! それから冷蔵庫にある飲み物を断りもなく持ってくな、次やったら殺してやる』
と、書きなぐってある。怒りのこもった汚い表現はともかく、もしかして食べ物か?
軍隊カラーなパックに触れると『MRE』と視界の中に浮かび上がってくる。
つまり食べ物ってことだ!
それだけじゃない、奥のほうに瓶が何本か入ってる。
手を伸ばしてみると……なんてこった、ドクターソーダだ。
「あの冷蔵庫以来だな、お久しぶり」
冷えてないのは残念だがこの際もうなんだっていい。
「よし……食わないなら俺がもらうからな」
そういって、戦利品を抱えて慎重に帰路についた。
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