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G.U.E.S.T-Survival Simulator
永遠の内側にて死すら死ぬ
しおりを挟む寒い、関節が痛い。おかげで目が覚めた。
薄っぺらい毛布にくるまって寝ていたようだ。
「……まさか、マジか……」
首のあたりがまだほんのり痛む。
口の中がひどく乾いてるが、自分の血で溺死したときの鉄臭さは残ってない。
身体が覚えているのは矢で撃たれた感触と後味の悪さだけだ。
だがはっきりと嫌な予感がした。
俺はついさっき矢が飛び出てきた部分を指先でなぞって、
「……もしかして、そういうことなのか……?」
起き上がり、部屋の中にある小さなドアを開けた。
便器、カーテン、バスタブ。トイレ兼風呂場の西洋式バスルームだ。
やっぱり洗面台があった、ところどころ割れている鏡の前で自分の姿を確かめる。
「……くそ。増えてやがる」
首の根元に内側から何かにこじ開けられたような傷跡があった。
これは間違いなく矢でぶち抜かれたときの傷だ。
見ているだけでぢくぢく痛む。
ここにきてやっと分かった、また死んだ。
あのとき爆発に巻き込まれて、次に自分の血で溺れて。
鏡に映る傷だらけで顔面蒼白なこの哀れな男は、この世界で二回くたばった。
どういうことなんだ? ゲームのようにリスポーンしたってことか?
主人公がエンディングまでこぎつけられるように復活したとでもいいたいのか?
おかげで腹をぶち抜かれ、首を串刺しにされて、体に一生消えない傷が三つもある。
……喉が渇いた。
ついでに少し頭を冷やしたくて、錆びだらけの蛇口をひねった。
ところが勢いよく出てきたのは茶褐色の液体だった。
お茶にも見えなくはないが、正常な判断力があればやばいものだと分かる。
一応確かめてみた――土と鉄の臭い、そしてそのまんまの味だ。
水はあきらめてはじまりの部屋に戻った。
こうなってしまった以上「どうすればいい」という思考で埋め尽くされていた。
「……ああ、腹減った」
でもその考えすらすぐに切り替わってしまう。
喉が渇いて、その次に空腹を覚えたからだ。
いつもだったら冷蔵庫をあさったり、コンビニに行ったりすれば済む話だ。
「……こんな世界に食べるものなんてあるのか?」
だが今はどうだ、こんな世界、こんな状況で食べるものはあるのか?
まともに飲める水すらあるかどうかすら怪しいのにどうすればいいんだ?
ここまで追い詰められて、今ようやく気付くことができた。
自分はいまサバイバルという局面に立たされている。
ゲームのタイトルどおり、この世界で生き延びなければならない。
食べ物も水も安全も、そして自分の命も、自分でどうにかしなければ。
しかし自分には何もない。
これといって何かを決意したり強い目標も持たず、漠然と生きていただけだ。
そんな人間が一体どうしてこの世界で生き残れるんだろうか。
「なあタカアキ、お前だったらどうするんだ?」
親友だったらどうしてる? いやアイツだったらなんとかやれるはずだ。
いろいろできるし、知識もそれなりにあるし、意外と行動力もある。
それに比べて俺はどうだ、なんとなくで生きた人間だぞ。
サバイバル技術なんてクソも知らない、0からのスタートといってもいい。
「誰か、誰でもいい、教えてくれよ……俺、どうなるんだ?」
小さなシェルターには誰もいない。何もない。
あるのはポケットの中のPDAぐらいだ。
この世界に来てからの日数が記録されていて、まだ一日しか経過してない。
こうやって思い悩んでいる間に、時間はどんどん流れていくんだろう。
「……いや」
ここがゲームの世界というなら、まだチャンスはある。
PDAを開くとステータス以外にも資源だとか、クラフトとかいうのもある。
クラフトというのを押してみた。
【P"DIY"-クラフト・アシスト・システムへようこそ!】
画面にそんな文字が浮かんで、左側にリストが現れた。
即席ナイフ、シングルショットガン、ジャンク銃、盾、バックパック、簡易ガスマスク……そういった感じで名前が並んでいる。
試しに即席ナイフを押してみると、画面右にイラストが出た。
適当な金属をそれっぽく研いだようないかにもな見てくれだ。
その下には『クラフトアシスト開始』と表示されていて。
【加工可能な金属片か金属20。ハンマーあるいはそれに類するもの、熱源が必要です】
とあった、おまけに作り方までご丁重に書いてある。しかし悲しいことに材料はない。
それでも条件を満たせばこれで作れるのかもしれない。
よく見ると飲料水の作り方だとか料理のレシピも乗ってる。
「……まだチャンスはあるってか?」
なんだかやっていけそうな気がした。
こういうときに変にやる気が働く俺は、やっぱり変なのだろうか。
「…………よし、もう一度いってみるか」
ほどなくしてPDAを握ったまま立ち上がった。
開けっ放しの扉をくぐった。そしてまた地上へと向かっていく。
外はさっきより夕日の色が強くなっている。
最初に来た時と変わらない風景が残っていた。
懲りずに、さっき自分が殺された場所へと向かうことにした。
「さっきはこの辺りで死んだよな、確か……」
確かこのへんだったはずだ。
放置された廃車の列の間を探すと――あった。
「うっわ……ここか……」
コンクリートの上に乾いた血の跡を発見、こぼしたトマトジュースの名残みたいだ。
しかも太い矢も転がっている。いうまでもなくこれはあれだ。
「げっ、こんなんでぶち抜かれたのかよ俺……」
これは間違いなく自分を貫いた矢だ。
矢じりは大きな刃のような形で、血で赤く染まっている。
こうしてみるとこんなものが刺さったらそりゃ死ぬわと思った。
「……そうか、やっぱり俺、死んだんだな」
いやな出来事を思い出しながらも矢を持ち上げると。
【分解可能!】
という小さなウィンドウが視界の中に表示された。
この矢を分解できる、ということだろうか。
「分解……なんだこれ。どうなるんだ?」
ウィンドウに聞いたって無駄か。目の前に浮かんだそれに指を近づけてみた。
指先がそっと触れると何も感触はなかったものの、
【分解しますか?】
と『YESかNO』かの選択肢が出てくる。少し迷ってから、YESを押した。
すると手に持っていた矢から重さが消えた。
すさまじい勢いでぼろぼろと崩れ始めて、あっという間に消えた。
【分解完了!】と一瞬だけ視界に浮かんで終わり。
「……それで? まさかこれで終わりか?」
まさかと思ってPDAの【DATA】から資源のタブを開く。
鉄だの銅だの砂糖だの炭だのと書かれたゲージがずらっと並んでる。
「そうか、やっぱりか」
しかし【鉄】と【木材】のゲージが少し増えてる。どうやらここに送られたみたいだ。
細かいことは分からないが、また一歩前進できたわけだ。
そうと分かれば、とりあえず何か【分解】して備えるべきだろうか。
だがこの辺りには何もない。あるとすればここ以外のどこかか。
「よし……よし、なんかわかってきたぞ。少しずつ進もう」
また進んだ、今度はさっき見かけたあの街並みだ。
あそこなら何かあるかもしれない、が。
……さっきのあの男はどうしたんだろう。
というかアイツにはどう見えたんだろうか。
人を殺したと思ったら突然消えた、とかそういう感じか?
「グゥルルルルルルルルルル……!」
「ん?」
いろいろ考えながら殺人現場から離れようとすると後ろから声が。
人間の出す声に近いが、なにかおかしい。
しかも背筋にぞわっと嫌な感じがした。
「おい、今度はなん――」
振り向いた。そこに真っ黒で獣みたいな毛むくじゃらの何かがすぐ近くにいた。
どう見たって成人男性を追い越す背丈で、しかもそいつは二足で立っている。
「だっ……えっ?」
それだけならまだいい。
犬のような顔が人の形をした何かを軽々と咥えている。
そいつはこちらを見るなり、ぶんと首を振って何かを地面に捨てた。
……さっき俺をぶち抜いたクソ野郎だったものだ、胴体と別れたらしい。
まずい。俺はヒトとイヌ科イヌ属が合体事故を起こしたような存在を見上げた。
「グゥル……ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
遅かった、大きく開いた口と鋭い牙が首を狙ってやってくる。
「――犬なんて大嫌いだ、くそったれ」
これでまた死ぬことになる。
押し倒されて、噛みつかれて、文字通り頭をねじ切られたのだから。
◇
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