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G.U.E.S.T-Survival Simulator
外へ走れ羊たちよ
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何かを注射されたあと、しばらくしないうちに体力が戻った。
ショックで動かなかった手足もどうにか動くが、脇腹あたりがじわじわ熱くて痛い。
「まずは一安心ってところか。大丈夫か?」
あの男が背中に刺さってた矢をずぶっと引き抜きながら尋ねてきた。
追いかけられていた時よりもだいぶ声が穏やかだ。
謎の注射の効果で血が止まるまでひどく錯乱していた俺は、
「……まだ腹が、熱い」
どうにか半身だけ起こして、ジャンプスーツのジッパーを降ろした。
熱い、全身汗だくだ。シャツなんかは赤黒く染まっている。
「おい無理するな。塞がったばっかりだ、無理に動くとまた開くぞ」
「……さっきは何を打ったんだ?」
「フィクサー・スティムだ、代謝を活性化させて傷をふさぐ。習わなかったのか?」
「……そうか、良く分からないけど助かったのか?」
「少なくとも今すぐ死にはしないはずだ。弾は貫通してるから安心しろ」
「貫通……マジかよ」
ふたつ分かったことがある。
ひとつ、これはもう夢じゃない。ふたつ、銃で撃たれると傷が熱く感じる。
共通点はどっちも人生にあってほしくない要素だってことだ。
「それからお前は少し血を流しすぎた。輸血でもしてやりたいところなんだがな」
「……ああ、だからこんなにだるいのか」
みっつ、人間は血が足りなくなると意識がぼんやり、全身がだるくなる。
とても嫌なことに、床の浅い血だまりがどれくらい血を失ったかを物語っている。
「なあにすぐには死にやしないさ、飯でも食って寝りゃ元気になる。だが今は寝るんじゃないぞ、まだ終わっちゃいないからな」
「まだ何かあるのかよ、ちくしょう」
「いま俺たちは地上に向かってる。あそこには脱出に使える車両があったはずだが、たぶんあいつらが待ち構えてるだろうしな」
「つまり……待ち伏せされてる?」
「そういうことだ。覚悟しとけよお前ら」
酷くふらつくが、脇腹を抑えながら完全に立ち上がる。
改めて見渡すと、資材でも運搬するためなのか、かなり大きなエレベーターだ。
下ろすつもりだった箱や大男がすっぽり入りそうな鎧みたいなものが置いてある。
「待ち伏せしてるだって? じゃあ俺たちどうすればいいんだよ!」
「ちょっと待ってよ! このまま進んだら私たちどうなるの!?」
「い、いやだ……あいつらに食われたくない……」
「いや落ち着けよ! まだ上にあいつらがいると決まったわけじゃ」
「あいつらに捕まったら生きたまま食われるんだぞ!? そんなのごめんだ!」
「いやだ俺は行かないぞ殺されるぐらいならここから飛び降りる!」
「あきらめるな! あいつらがいようがみんなで力を合わせて戦えば」
「ロクに武器もないんですよ!? こんなのでどうやって戦えと!?」
周りは命からがら逃げだしてきたジャンプスーツ姿の住人でいっぱいだ。
みんな疲れ果てて、絶望していた。
ところが不意に違和感を覚えた。
なぜかは分からないが、あるいは血が足りないせいかもしれない。
ひしめく黒のジャンプスーツの中で、一人だけ落ち着いているやつがいたからだ。
「――――…………」
エレベーターの隅っこにガスマスクをつけたやつがいた。
息苦しそうな様子で、そして狭まった目元でそいつはじっと俺を見ている。
なんだろう、何か言いたそうだ、それにあいつを見ていると妙に不安を感じて――
「……ところで新兵、助けてやったんだから礼ぐらい言ってくれないか?」
意識にあの男の声が挟まって、はっと振り返ってしまった。
「あー……えっと……」
俺は命の恩人の姿を見た。
彼はいま、散弾銃に弾をちゃこちゃこ詰めている。
「セキュリティ所属のオフィサー・フィーニス、今日の今日まで皆勤賞のはずだったわけだが全部台無しだ」
二度も命を救ってくれた英雄には、声にも表情にも余裕があった。
「でだ、新兵。お前の名前は?」
「……俺は」
名乗ろうとしたがそこでまた何かを感じた。
端っこにいるガスマスクのやつが妙にこっちを凝視している。
「俺は……」
矢のように突き刺さる視線のせいでなぜか少し考えて。
「112。イチイチニだ。助けてくれてありがとう、フィーニスさん」
思わずいつもゲーム内で使っていた名前を答えた。
「……変な名前だなお前。まあなんだ、一つ借りだぞ」
「ああ、うん、返せるように頑張る」
「そうだな……無事に地上に出られたら安全な街まで逃げて、そこで一杯おごれよ? サボテン・ワインでいいぞ。期限は俺が生きてるうちだ」
……ちょっと待てよ、ここはゲームの世界だよな。
状況からしてアイツからもらったG.U.E.S.Tとかいうやつの世界なんだろう。
よりにもよってこれは「世紀末」系ゲームだったはずだ。
仮に無事に脱出できたとして、地上は安全なのか?
さっきの有様から思うに外はまさに『ヒャッハー』な連中だらけの世界に違いない。
くそ、こんな目にあうんだったらニッチなエロゲでも起動するべきだった。
『警告。シェルターの自己破壊装置が作動しました。機密保持およびハーバー・シェルター掌握の防止のため、リアクター爆破を開始します。居住者は五分以内に速やかに退去してください』
そこへ頭上から無機質な声が――さも他人事のように俺たちに語り掛けた。
『…………』
全員がぽかーんとしている。
そりゃそうだ、この状況でいきなりこんなん聞かされたら「は?」ってなる。
「おいおいおいおい……今、なんつった!?」
「シェルターには自爆装置があるって噂があったけどマジだったのか……。クソ! 誰だそんなクソみたいなシステム組み込んだのは!?」
「お、オフィサー・フィーニス! 一体どうなってるんだこれは!?」
「なんだあのひでえ放送は!? 機密保持のため五分以内にくたばれってか!?」
「オフィサー・フィーニス! 私たちどうすればいいの!?」
「文句は山の中なんかにシェルター作らせたお偉いさんがたに言え! それから昔ここを作った馬鹿が地獄の業火で焼かれてることを祈れ!」
そうこうしてるうちにエレベーターがゴールに近づいてきたみたいだ。
だが俺たちが生きていられる時間もカウントされている、残り五分もない。
「……よし。ちょうどいい、こいつを使うか」
フィーニスさんは積んであった人型の機械……みたいなものを調べはじめた。
「フィーニスさん、それは……?」
金属のフレームやらケーブルやらで複雑に形作られた『骨』みたいだ。
「エグゾシェル、外の世界で使われてるパワーアシスト付きの鎧だ。ま、軍用の強化外骨格ってやつさ」
フィーニスさんが人型の背面をいじると無骨な骨格の前面がぱっくり開く。
そこに背を向けて入り込めばちょうどすっぽり収まった。
そして人間を取り込んだ鋼鉄製のスーツはがちゃりと閉じて、
「いいかお前ら、停止したらすぐに駐車場まで走れ、使える車両があるはずだからそいつで全力で逃げろ。まあこんな状況だからさすがのアルテリーのやつらもお帰りになってるだろう」
さながらロボットと化した人間がずっしりと動き出した。
男のロマンがそこにあった。見た目が滅茶苦茶たのもしい。
おかげでどんよりしてた空気に少し希望が戻っていた。
「よ、よし、やってやる! 外の世界がなんだ、泥をすすってでも生きてやる!」
先頭にいたシェルター住人が一歩、踏み込んだ。
巨大なエレベーターが終着点へと持ち上がっていく。
全員が息をのんで身構えると、やがて昇った先に無数の足が並んでいるのが見えて。
「……ヒャッハァー! こいつらやっぱりきやがったぜぇ!」
「なっ、あっ――」
武器をもった小汚い男たちがずらりと道をふさいでいた。
戸惑う一人の頭に槍がぶん投げられて――見事にぶち抜かれた。
ショックで動かなかった手足もどうにか動くが、脇腹あたりがじわじわ熱くて痛い。
「まずは一安心ってところか。大丈夫か?」
あの男が背中に刺さってた矢をずぶっと引き抜きながら尋ねてきた。
追いかけられていた時よりもだいぶ声が穏やかだ。
謎の注射の効果で血が止まるまでひどく錯乱していた俺は、
「……まだ腹が、熱い」
どうにか半身だけ起こして、ジャンプスーツのジッパーを降ろした。
熱い、全身汗だくだ。シャツなんかは赤黒く染まっている。
「おい無理するな。塞がったばっかりだ、無理に動くとまた開くぞ」
「……さっきは何を打ったんだ?」
「フィクサー・スティムだ、代謝を活性化させて傷をふさぐ。習わなかったのか?」
「……そうか、良く分からないけど助かったのか?」
「少なくとも今すぐ死にはしないはずだ。弾は貫通してるから安心しろ」
「貫通……マジかよ」
ふたつ分かったことがある。
ひとつ、これはもう夢じゃない。ふたつ、銃で撃たれると傷が熱く感じる。
共通点はどっちも人生にあってほしくない要素だってことだ。
「それからお前は少し血を流しすぎた。輸血でもしてやりたいところなんだがな」
「……ああ、だからこんなにだるいのか」
みっつ、人間は血が足りなくなると意識がぼんやり、全身がだるくなる。
とても嫌なことに、床の浅い血だまりがどれくらい血を失ったかを物語っている。
「なあにすぐには死にやしないさ、飯でも食って寝りゃ元気になる。だが今は寝るんじゃないぞ、まだ終わっちゃいないからな」
「まだ何かあるのかよ、ちくしょう」
「いま俺たちは地上に向かってる。あそこには脱出に使える車両があったはずだが、たぶんあいつらが待ち構えてるだろうしな」
「つまり……待ち伏せされてる?」
「そういうことだ。覚悟しとけよお前ら」
酷くふらつくが、脇腹を抑えながら完全に立ち上がる。
改めて見渡すと、資材でも運搬するためなのか、かなり大きなエレベーターだ。
下ろすつもりだった箱や大男がすっぽり入りそうな鎧みたいなものが置いてある。
「待ち伏せしてるだって? じゃあ俺たちどうすればいいんだよ!」
「ちょっと待ってよ! このまま進んだら私たちどうなるの!?」
「い、いやだ……あいつらに食われたくない……」
「いや落ち着けよ! まだ上にあいつらがいると決まったわけじゃ」
「あいつらに捕まったら生きたまま食われるんだぞ!? そんなのごめんだ!」
「いやだ俺は行かないぞ殺されるぐらいならここから飛び降りる!」
「あきらめるな! あいつらがいようがみんなで力を合わせて戦えば」
「ロクに武器もないんですよ!? こんなのでどうやって戦えと!?」
周りは命からがら逃げだしてきたジャンプスーツ姿の住人でいっぱいだ。
みんな疲れ果てて、絶望していた。
ところが不意に違和感を覚えた。
なぜかは分からないが、あるいは血が足りないせいかもしれない。
ひしめく黒のジャンプスーツの中で、一人だけ落ち着いているやつがいたからだ。
「――――…………」
エレベーターの隅っこにガスマスクをつけたやつがいた。
息苦しそうな様子で、そして狭まった目元でそいつはじっと俺を見ている。
なんだろう、何か言いたそうだ、それにあいつを見ていると妙に不安を感じて――
「……ところで新兵、助けてやったんだから礼ぐらい言ってくれないか?」
意識にあの男の声が挟まって、はっと振り返ってしまった。
「あー……えっと……」
俺は命の恩人の姿を見た。
彼はいま、散弾銃に弾をちゃこちゃこ詰めている。
「セキュリティ所属のオフィサー・フィーニス、今日の今日まで皆勤賞のはずだったわけだが全部台無しだ」
二度も命を救ってくれた英雄には、声にも表情にも余裕があった。
「でだ、新兵。お前の名前は?」
「……俺は」
名乗ろうとしたがそこでまた何かを感じた。
端っこにいるガスマスクのやつが妙にこっちを凝視している。
「俺は……」
矢のように突き刺さる視線のせいでなぜか少し考えて。
「112。イチイチニだ。助けてくれてありがとう、フィーニスさん」
思わずいつもゲーム内で使っていた名前を答えた。
「……変な名前だなお前。まあなんだ、一つ借りだぞ」
「ああ、うん、返せるように頑張る」
「そうだな……無事に地上に出られたら安全な街まで逃げて、そこで一杯おごれよ? サボテン・ワインでいいぞ。期限は俺が生きてるうちだ」
……ちょっと待てよ、ここはゲームの世界だよな。
状況からしてアイツからもらったG.U.E.S.Tとかいうやつの世界なんだろう。
よりにもよってこれは「世紀末」系ゲームだったはずだ。
仮に無事に脱出できたとして、地上は安全なのか?
さっきの有様から思うに外はまさに『ヒャッハー』な連中だらけの世界に違いない。
くそ、こんな目にあうんだったらニッチなエロゲでも起動するべきだった。
『警告。シェルターの自己破壊装置が作動しました。機密保持およびハーバー・シェルター掌握の防止のため、リアクター爆破を開始します。居住者は五分以内に速やかに退去してください』
そこへ頭上から無機質な声が――さも他人事のように俺たちに語り掛けた。
『…………』
全員がぽかーんとしている。
そりゃそうだ、この状況でいきなりこんなん聞かされたら「は?」ってなる。
「おいおいおいおい……今、なんつった!?」
「シェルターには自爆装置があるって噂があったけどマジだったのか……。クソ! 誰だそんなクソみたいなシステム組み込んだのは!?」
「お、オフィサー・フィーニス! 一体どうなってるんだこれは!?」
「なんだあのひでえ放送は!? 機密保持のため五分以内にくたばれってか!?」
「オフィサー・フィーニス! 私たちどうすればいいの!?」
「文句は山の中なんかにシェルター作らせたお偉いさんがたに言え! それから昔ここを作った馬鹿が地獄の業火で焼かれてることを祈れ!」
そうこうしてるうちにエレベーターがゴールに近づいてきたみたいだ。
だが俺たちが生きていられる時間もカウントされている、残り五分もない。
「……よし。ちょうどいい、こいつを使うか」
フィーニスさんは積んであった人型の機械……みたいなものを調べはじめた。
「フィーニスさん、それは……?」
金属のフレームやらケーブルやらで複雑に形作られた『骨』みたいだ。
「エグゾシェル、外の世界で使われてるパワーアシスト付きの鎧だ。ま、軍用の強化外骨格ってやつさ」
フィーニスさんが人型の背面をいじると無骨な骨格の前面がぱっくり開く。
そこに背を向けて入り込めばちょうどすっぽり収まった。
そして人間を取り込んだ鋼鉄製のスーツはがちゃりと閉じて、
「いいかお前ら、停止したらすぐに駐車場まで走れ、使える車両があるはずだからそいつで全力で逃げろ。まあこんな状況だからさすがのアルテリーのやつらもお帰りになってるだろう」
さながらロボットと化した人間がずっしりと動き出した。
男のロマンがそこにあった。見た目が滅茶苦茶たのもしい。
おかげでどんよりしてた空気に少し希望が戻っていた。
「よ、よし、やってやる! 外の世界がなんだ、泥をすすってでも生きてやる!」
先頭にいたシェルター住人が一歩、踏み込んだ。
巨大なエレベーターが終着点へと持ち上がっていく。
全員が息をのんで身構えると、やがて昇った先に無数の足が並んでいるのが見えて。
「……ヒャッハァー! こいつらやっぱりきやがったぜぇ!」
「なっ、あっ――」
武器をもった小汚い男たちがずらりと道をふさいでいた。
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