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G.U.E.S.T-Survival Simulator
逃げ出すための第一歩
しおりを挟む扉の向こう側は知らない世界だった。
コンクリートと金属でトンネルのように形作られた通路だ、天井や壁からはむき出しの配線やパイプがちらっと見える。
どうやらここには番号がふられた扉が一定の間隔で並んでいるようだ。
「いいか、今から車両用トンネルに向かうぞ。しっかりついてこい」
見知らぬ誰かは目の前で散弾銃のフォアエンドを前後させた。
じゃきっと独特な音がして空になった赤い薬莢がころっと落ちる。
銃口から独特な匂いが漂っていて、妙にリアリティがあった。
「わっ……分かった!」
それを見て……納得できないままこの状況を受け入れることにした。
いろいろと問い詰めたいが許してくれなさそうだ。
「行くぞ新兵、遅れるなよ」
散弾銃を持った男が駆け出す。
俺は慣れないブーツを履いたまま背中を追いかけた。
が、ちょうどそのタイミングでそこらじゅうからアラームが鳴りまくる。
まるでこの世の終わりを告げるような音だ、こんなものを聞きながらどこへ向かうんだろうか。
『ヒャッッハァァァーーッ! ハーバー・シェルターの皆様ごきげんよう! 君たちの大好きなアルテリーのお兄さんたちが遊びにきたよぉ! この前は良くも俺たちの親善大使をぶっ殺してくれたなァ!? そういうわけでみんな死ねや!』
……と考えていたら、えらくぶっ飛んだ放送も流れてきた。
おかげで今の心境は『夢ならマジで覚めてほしい』と『家に帰りたい』の二つだ。
なんだかどっちも叶いそうにない気がしてたまらないが。
「くそっ……! あのカルト野郎ども一体どうやって入ってきやがったんだ!?」
銃を持った男は走りながら不満がってる。
俺だってかなり不満だ。
そもそも自分がどういう状況に立たされているのかすら謎なのだから。
今はだめだ、ひとまず追いかけて余裕ができるまで後回しにしよう。
「……新兵、足元に気をつけろよ」
そう考えながら後を追っていると急に声をかけられた。
壁には『居住区』だの『食堂』だの案内が書かれてある。
男は振り向きもせずに居住区を抜けた先の通路を曲がっていく。
「足元?」
「ああ、さっき――」
特に意識せず相手を追いかけていたとき、一瞬、床が赤く染まっていたのが分かった。
気づいた時には遅かった。
「そこで何人かやった。死体を踏むなよ、新兵」
男の言葉より早く、俺の視力は通路のど真ん中で倒れた人間を見つけてしまう。
それも一人だけじゃない。何人も、人が倒れている。
「……は? やった?」
一歩踏み入れた直後、足にべっとりとした感触がした。
というかはっきり見てしまった。
妙な恰好をした男たちが武器を握りしめたまま倒れている。
半裸だったり、粗末な防具を身に着けていたり、装備はばらばらだ。
手にしている物も手造りの銃、粗末なつくりの弓、果てには工具と統一感がない。
「ああ、曲がり角でばったり遭遇ときた。まあ俺の敵じゃなかったがな」
「…………殺したのか?」
「なんとかな。こいつら、薬をキメてハイになってやがったぞ」
もう一つ共通する点がある。
薄汚くて、そして『ぶっ殺してやるぜ』といわんばかりの表情を浮かべたまま。
まるでこれから自分が殺されるとは微塵も思ってないように――死んでいる。
新鮮な赤色がコンクリートいっぱいに広がっている。
それに鉄のような臭いが強く漂っていた。
体の一部がえぐられたように吹き飛んでいたりひどいものだと頭が――
「……!!」
目に入って理解した。
クソ、ふざけんな!
胃の奥からひどい味がこみ上げて、我慢もできずマーライオン像に匹敵するぐらいその場にぶちまけた。
「……ここから先は慎重に行くぞ。気をしっかり持て」
こいつらを殺した男はゆっくりと慎重に先へと進んでいく。
けれどそいつはもうさっきまでの雰囲気とは違う。
銃をそれっぽく構えて、もし敵が現れても『死ね』と遠慮なく殺せそうな姿だ。
「……夢なら早く覚めてくれ、頼む」
自分の本能がここにいてはいけないと告げている。
ひどい状態になった口の中を床に向けて絞り出しながら、死体をよけて進んだ。
……間違いない。これは人生の中で最悪な部類の悪夢だ。
もしもこれが夢であってくれればの話だが。
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