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八の三
戦闘
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先程から、チリチリとした殺気が肌の上を刺激する。
自分を威嚇するかのようなそれは不快感と嫌悪感を煽り、小さく舌を打ち付けてそれらをなんとか流してしまおうと試みてみる。だがそんな事でそれが小さくなるはずもなく、首の周りを撫でながら亜里沙は第二校舎に足を踏み入れた。
要所要所に教師や警官が立って警戒しているとはいえ、少しばかり力を使って彼らの目を欺ければ難なく亜里沙は校舎内に入り込める。彼らに対しては少々悪いとは思うが、これが自分のやるべき事なのだからと言い聞かせて、亜里沙は人気の無い廊下を突き進む。
ここは、すでに『昇魔』達のテリトリーだ。自分が結界を張らずとも、『昇魔』達が勝手に張り巡らせた力のせいで、この校舎自体が異界へと変わり果てている。例え戦闘が激化しても、多少の事では外へと音など漏れ出る事はないだろう。
それにしても、だ。
「仕掛けてくるかと思ったけど……」
異物である自分が入り込んだのは当然察知しているはずなのに、痛いほどの静寂が校舎を包んでいる。
自分の隙を伺っているのか。それとも他の理由か。
歩調に慎重さを含ませて進む亜里沙が、右腕に意識を集中させた。
「翠の輝きもて、汝闇を切り裂きしもの」
紡がれた言葉は力を持ち、たちまちの内に具現化していく。
淡い翠色の光が亜里沙の手の甲に生まれ、瞬時に右腕を覆う手甲へと形を変えた。
鈍い銀色のそれは右の肘から手の甲までを覆い隠し、手首から手の甲にかけては大きな翠色の石がはめ込まれた実用性だけを前面に押し出した形をしている。
『翠刃光鞭』
それが、亜里沙の武器の名前だ。
感触を確かめるように右手を何度か握りしめた後、亜里沙は自分を落ち着けるかのように深呼吸をする。
まだ実戦を片手の指しか行っていないとはいえ、何度も訓練を繰り返してそれに慣れてきたのだ。武器を己の身体の一部としろ、とは、実技の最中何度も言われ続けた。
前回の戦闘でもそれを念頭に置いて扱ってきたのだ。今回も、同じようにしていれば間違った使い方をする事はない。
そう意識した途端、亜里沙が右手を横に凪ぐ。
甲の部分に埋め込まれた石から輝く鞭状の帯が伸び出し、突如現れた昇魔を切り裂いた。
それを合図に、床からずぶずぶと昇魔の群れが出現する。
「たいした歓迎ぶりね」
前回と同じく、下級に属する昇魔達だ。情報を得ようと考えるのは無駄だろうと考えながら、亜里沙は前後左右だけではなく天井まで溢れた昇魔達に攻撃の隙を与える事無く鞭を振るう。
一対多数という数の有利を活かそうとしたのだろう。だが、それを覆すほど亜里沙の力は昇魔達を上回っていた。
とはいえ、その場に足止めさせるには十分だと考え方を変えたのか、昇魔達はある程度の距離を保ちつつ攻撃を仕掛けてくる。
膠着状態は避けなくては、そう考えた瞬間、亜里沙の足首に何かが巻き付いた。
「え?」
ぞわり、と背筋に冷たいものが駆け上がる。
細く粘着質な糸のようなそれは、見た目とは違いかなりの強さで亜里沙の足首から上に巻き付くべく空を走ってきた。
糸を断ち切るために亜里沙の動きが一瞬鈍る。
それを好機と見て取った昇魔が、一斉に亜里沙に襲いかかる。
「っ!」
耳障りな声を上げながら、昇魔の一匹が鋭いかぎ爪を振り上げる。
思わず息を止めた亜里沙の横から、不意に一陣の風が吹き抜けた。
「何してるんだ、お前」
「っ!」
亜里沙の顔の横から生えたように太刀を振るった北斗が、ほとほと呆れたようにそう言いながら昇魔の顔に突き刺さった刃を引き抜いた。
僅かに肩の力を緩めた亜里沙を見てだろう。北斗は不機嫌そうに言い放った。
「無断で行動するからだ。一人でここに来るなっつったの忘れたのか」
「ごめんなさい」
かなりきつめの口調は心底怒っているのだと感じられるために、亜里沙は素直に謝罪の言葉を口にする。
頭から爪先まで、亜里沙が怪我負っていない事を確認した北斗が、内心で安堵の息をつく。それを表に出さなかったのは、ひとえに新人扱いをしないため、と自分に言い訳しながら。
それにしても、だ。
今までなりを潜めていていた昇魔達が、こうも活発に動き出してきた事に疑問を持ちつつも、北斗は自分が握る『陽炎』の向こう側で徐々に増えていく昇魔の群れに眉を顰めてしまった。
「なんかあったのか?」
「これといった事はしてないんだけど」
亜里沙の返答に、北斗は考え込むように眉間に浅く皺と作る。
どうやら本腰を入れて自分達を潰しに来たのだろうか。けれど、それにしては雑魚と言ってもいい妖力しか感じられない。
―小手調べ、か。
だとしたら、自分達も甘く見られたものだ。この程度の昇魔達で、自分達の足が鈍るとでも思っていたら、それは間違いというものだ。
「やれやれ……」
思わず漏れた言葉に、不思議そうに亜里沙が北斗を見遣る。
だだそれに答える事無く北斗は太刀を構える。一瞬の後、北斗が床を蹴りつけた。
一気に距離を縮めた事に驚いたのか、昇魔達に動揺が走る。それを見逃さずに、亜里沙が北斗のサポートへと回った。
力強く、相手を一刀両断にするかのように太刀を振る北斗と、対照的にまるで舞うかのように鞭を巧みに操る亜里沙の動き。まだまだぎこちないながらも、呼吸を合わせるかのように巧みに連携を取りながら、昇魔達の数を少しずつ減らしていく。
さして時間はかかっていないはずだが、二人共に肩で息をつきながらも警戒しつつ辺りを見回した。
動くものは二人以外にいない。異臭と塵とかした昇魔のなれの果てに、亜里沙が難しい顔でポツリと呟いた。
「どうして突然」
「しびれを切らしたか、邪魔になっただけだろうな」
「本腰を入れてくるって事?」
「……さぁな」
考え深げに返された返答に、亜里沙の眉根が一瞬だけ寄せられる。
自分で言った言葉とはいえども、本腰を入れてきたとというよりは自分達で遊んでいるのでは、といった感覚にとらわれるのだ。亜里沙でさえそう感じるのだから、実践を何度も積んできた北斗にとっては、さもあらん、な感触だったのだろう。
どちらにしろ、あまり歓迎出来る招待のされ方ではない。
情報すら力尽くで取り出すことも出来ず、相手の掌の上で転がされているだけでは、振り出しどころではなくその遙か遠くにいる状態でしかないのだ。
それに加えて……。
「焦ってるのか?」
「え?」
この昇魔達のトップに立つモノの機嫌を損ねたのか、それとも、自らが命を下して動きを取らせたのか。どちらにしろ、下級の昇魔達が暴走するには十分な何かを与えられたのだろう。
北斗の口から深々とした溜息が漏れ出ると、心配そうに亜里沙が視線を向けてくる。
それを傍目で見つつ、北斗は周囲を見回しながら僅かに口の端を歪めた。
今だに昇魔達が仕掛けた結界は有効だ。以前と同じようにループ状の結界となっているが、その強度は今回の方が強く張られている。出口を探そうにも、巧妙なまでに隠されたそれを探すには、かなりの時間と厄介さをこちらにかけてくることは経験上良く分かっているため、北斗は苦々しい気持ちと共に陽炎の刃先を小さく動かした。
「何時までもここに閉じ込められているのは、性に合わないんじゃない?」
「あ?」
僅かに険の入った声で北斗はそう切り返すが、無表情を保ったままの亜里沙は淡々とした声で疑問を口にする。
「深田水鳥。彼女にちょっかいをかけてくる可能性は?」
「……ゼロではない。けどな、奴等の巣はここともう一カ所だけだ」
北斗の視線が、窓の外の時計塔へと向けられた。
同じように視線を移した亜里沙も、幾分か眼を細めて薄汚れた外壁を見つめた。
何時もと同じく時を刻むその姿は、北斗や亜里沙の瞳には細く黒ずんだ糸に覆われた姿が見える。この第二校舎に張られている白い糸と絡み合いながら、中途から段々と黒ずんだ色に変える糸は、それでもしっかりと第二校舎と時計塔とを結び合わせていた。
複雑に絡み合いながら、最初にどちらが糸を放ったのかすらもが分からず、繭玉のような形を作ってはいるのだが、見える者にとっては悪寒と吐き気を催すような存在感を放っている。
「にしても」
「え?」
「鬱陶しいな、こいつは」
言わんとしていることを理解したのか、亜里沙も小さく頷いて同意を示すと周囲を見回し溜息をついた。
漂う殺気は、確実に二人を仕留めるための隙を狙い、視界の中に入らない昇魔達の気配なども含めれば、その数は数えるだけでも馬鹿らしくなるほどだ。
きっちりと着こなしている制服の第一ボタンを外し、僅かではあるが締め付け感を緩めた亜里沙は、自分自身を落ち着かせるために深く息を吐き出した。
呼吸が整ったことを確認し、北斗は亜里沙の先を行くように歩き出す。
窓から差し込んでいるはずの日の光は薄暗く、リノリウムの廊下は一歩踏み出すごとに鈍い音を立てる。奥に進めば進むほど光はなくなり、闇がその支配権を強くしていくように感じられ、息苦しさが徐々に強くなっていく。それだけではない。奥から流れる異臭は酷く生臭く、嘔吐感を伴うために思わず歩調が止まりそうになってしまう。
だが、そんなものになど頓着することなく、北斗は歩む速度を緩めることはない。それに必死になってついて行きながら、亜里沙は辟易しながらも気になったことを口にした。
「なんともないの?この臭い」
「鼻にはつくが、毎度現場に出ればこんなもんだ。
中心近くまで来た証拠でもあるからな」
「中心って、結界を張った昇魔がいるって事?」
「良く出来ました」
まるで幼子をあやすかのような口調に、亜里沙の瞳が一瞬だが険しくなる。それを楽しそうに眺めた後、北斗は真剣な表情で廊下の奥を睨み付けた。
臭気が強くなってくると同時に、緩やかだが強力な魔力が流れてくる。これほどはっきりとした敵対意思は初めてだが、それが自分たちを侮っての行動なのか、それとも逆の意思を持ってのことなのかが、今だに判断の迷うところだ。
だが、はっきりとしたことはただ一つ。
「いるな」
「えぇ」
独り言めいた北斗の言葉に、亜里沙も同意の言葉を返す。
目の間に広がるのは、いっそう濃くなった闇の塊。
じりじりと時間だけが過ぎるが、相手の出方が分からない以上はこちらから手を出すのは得策ではない。
ほんの僅かな時間のはずだが、二人の間には永劫に続くような錯覚を覚えた時だ。北斗が陽炎を無造作に動かした。
ガキン、と、鈍い音が周囲に響く。
一瞬驚いたように目を見開いた亜里沙だが、すぐさま臨戦態勢に入り目の前を見つめる。何かがいる、と、理解するよりも早く、無意識に自分に向かって飛んできた黒い刃物上の物体を叩き落とした。
北斗の時とは違い、鈍い音も立てずにどろりとした粘着質の物体が翠刃光鞭の鞭部分を伝い、廊下にぼとりと落ちる。次の瞬間、それは異音と異臭を放ちながら廊下を溶かし始めた。
酸を出すのか、と、北斗が内心で悪態を放つのを知ってだろうか。亜里沙が翠刃光鞭のを闇の奥めがけて放った。
中心を捕らえたと思ったのだが手応えはなく、空を切ったような鞭の動きに亜里沙は困惑したように翠刃光鞭を手元に戻す。
「無駄だ。この闇全体がやつの本体と同じだからな」
「この闇って……」
些か呆然としたようにそう呟き、亜里沙は廊下の奥底に広がる闇を見つめた。
廊下だけではなく天井一面までも占拠するほど巨大な闇が、昇魔の身体全体なのだと理解するのに数秒要してしまう。どう対処すべきかと考えあぐねた隙を逃さず、それは亜里沙の右足首を素早く捕まえると、そのまま自分の方へと引き寄せる。
無様に尻餅をつき、そのままずるりと引き寄せられかけた亜里沙だが、陽炎が鮮やかに一閃して闇と亜利沙の間を引き裂いた。
「大丈夫か?」
「……えぇ」
なんとかそれだけを押しだし、亜里沙は痛む右足首に視線を向ける。焼け爛れたような傷口だが、痛みを無視すれば動かせないこともないと判断し、亜利沙は慎重にその場で立ち上がる。
その様子を横目で確認した北斗が、淡々とした口調で亜里沙に命じた。
「俺の後ろに下がってろ」
小さく頷いて、亜里沙は北斗の背後に下がり周囲の気配を伺う。
元々亜里沙の能力は防御方面に長けている。攻撃を北斗が、防御を亜里沙が担うことによって連携を深めると言っていいだろう。いつでも北斗の守りを固めるために、亜里沙が素早く印を切り北斗の目の前にうっすらと光る壁を作り出す。
そっと詰めていた息を吐き出し、亜里沙はうごめく闇へと視線を向ける。嘔吐感と鳥肌しか生み出さないそれは、核となる部分をあちこちに移動させているためにこちらで核を固定させなくてはならない。北斗の守りとは別に結んでいた術を少しずつ伸ばしながら、闇にも感知されないように亜里沙は神経を一点に集中させた。
ちかり、と何かが瞬く。
瞬間的にそれを縛り上げ、亜里沙は叫ぶような声を上げた。
「北斗!」
「よし!」
翠刃光鞭と同色の糸が闇の一角を縛り上げている。絡め取ったそれを思い切り引き寄せれば、北斗はそれに向かって張りしだした。
ずるりと闇から引き離されたそれは、金属同士がこすれ合うような音を立てながら身体に巻き付いた糸をふりほどこうと暴れるような動きを見せる。
陽炎を正面に構え、北斗は一気に床を蹴りつける。
陽炎の刃が糸の間を潜り抜けて引きずり出された球体を二つに切り裂くと、耳をつんざくような音があたりに響き渡った。
思わず耳を塞ぎたくなるような異音が二人の耳朶をたたきつける。それを顔を顰めることでなんとかやり過ごし、目の前に広がっていた闇が徐々に薄れることを確認した北斗が、不意に表情を鋭いものにかけて窓の外へと視線を向けた。
「北斗?」
不思議そうに亜里沙が呼びかけていることすら気がつかないのか、北斗は表情を変えないままに時計塔へと目線を固定させた。
同様に時計塔へと視線を向けるが、亜里沙には今までと変わりない様子が映し出されている。不思議に思いながらも、気難しげな北斗の様子に黙って次の言葉を待つ。
「しくじったな」
「え?」
何のことか分からずにきょとんと目を見開き、亜里沙は北斗の言っている意味を考えるように眉根を寄せた。
その様子に小さく下を打ち付け、北斗が答えを示す。
「この結界の中心は今の昇魔じゃねえ」
「でも、ここの結界は解かれかけて」
「あの昇魔はトラップだ。
結界を解く代わりに、ここの本体を引き上げて時計塔の守りを固めてやがる」
慌てて窓の外を見た亜里沙が、わずかに息を飲み込む。確かに、北斗の言うとおり時計塔を包む繭が今まで以上の厚さと瘴気を纏わせ、まるで威嚇するかのような存在感を放っていた。
「頭のいいやつだな。これで生半可な手出しはできなくなった」
ぐしゃりと自分の前髪をつかみあげ、北斗は忌々しげに時計塔に視線を向けた。
これ以上後手に回れば、この学園にいる人間だけではなく周囲に暮らす人間にまで危害が及ぶ恐れがある。
やっかいだな、と内心で独りごちた北斗の耳に、冷静な亜里沙の声が響いた。
「危険でも、時計塔の内部に入るべきじゃないの」
「まぁな」
わずかに緊張をはらんでいることを悟られないようにしている亜里沙の態度に、北斗は長い息を吐き出すことで亜里沙がまだ新人であったことを思い出す。
実力がある分だけついつい忘れがちになるが、亜里沙にとってこれは初めての現場実習だ。ぎこちなさも緊張感も北斗に悟られないよう気をつけて行動しているため、こんな場合でしかそれを見せることはない。
仕方ないか。
そう判断した北斗は、軽く肩をすくめて眉間にしわを刻んだ亜里沙の頭をぽんぽんと叩き付けた。
きょとん、と目を見開いた亜里沙だが、すぐにその掌を交わして不機嫌そうに北斗を見上げた。
何かを言うべく口を開きかけるが、ふと感じた複数の気配に亜里沙はそちらへと視線を向ける。
「行くぞ」
大方物音を聞きつけた職員か警官かがこちらに向かってきてるのだろう。説明したところで理解できないであろうし、説明するのも面倒というものだ。
人気のない方向へと歩き出した北斗の後を、亜里沙も追いかけよと足を踏み出す。
だが、ふと何か気になったかのように、亜里沙はちらりと背後に視線を向けた。
今までの戦闘の跡は全く見えず、何事もなかったかのように普段通りの廊下が視界に入る。異臭も、昇魔の血痕すらも見当たらないそこは、どちらが現実だったのか一瞬ではあるが亜里沙の思考に混乱をもたらす。
だが、腕に装着されている翠刃光鞭は戦闘直後の熱を今だに残しており、実際に戦いがあったことを如実に示していた。
「おい」
先を行く北斗が、苛立った声を上げる。
胃の腑に残る重苦しい何かを抱え込んだまま、亜里沙は慌てたように北斗の後を追いかけた。
自分を威嚇するかのようなそれは不快感と嫌悪感を煽り、小さく舌を打ち付けてそれらをなんとか流してしまおうと試みてみる。だがそんな事でそれが小さくなるはずもなく、首の周りを撫でながら亜里沙は第二校舎に足を踏み入れた。
要所要所に教師や警官が立って警戒しているとはいえ、少しばかり力を使って彼らの目を欺ければ難なく亜里沙は校舎内に入り込める。彼らに対しては少々悪いとは思うが、これが自分のやるべき事なのだからと言い聞かせて、亜里沙は人気の無い廊下を突き進む。
ここは、すでに『昇魔』達のテリトリーだ。自分が結界を張らずとも、『昇魔』達が勝手に張り巡らせた力のせいで、この校舎自体が異界へと変わり果てている。例え戦闘が激化しても、多少の事では外へと音など漏れ出る事はないだろう。
それにしても、だ。
「仕掛けてくるかと思ったけど……」
異物である自分が入り込んだのは当然察知しているはずなのに、痛いほどの静寂が校舎を包んでいる。
自分の隙を伺っているのか。それとも他の理由か。
歩調に慎重さを含ませて進む亜里沙が、右腕に意識を集中させた。
「翠の輝きもて、汝闇を切り裂きしもの」
紡がれた言葉は力を持ち、たちまちの内に具現化していく。
淡い翠色の光が亜里沙の手の甲に生まれ、瞬時に右腕を覆う手甲へと形を変えた。
鈍い銀色のそれは右の肘から手の甲までを覆い隠し、手首から手の甲にかけては大きな翠色の石がはめ込まれた実用性だけを前面に押し出した形をしている。
『翠刃光鞭』
それが、亜里沙の武器の名前だ。
感触を確かめるように右手を何度か握りしめた後、亜里沙は自分を落ち着けるかのように深呼吸をする。
まだ実戦を片手の指しか行っていないとはいえ、何度も訓練を繰り返してそれに慣れてきたのだ。武器を己の身体の一部としろ、とは、実技の最中何度も言われ続けた。
前回の戦闘でもそれを念頭に置いて扱ってきたのだ。今回も、同じようにしていれば間違った使い方をする事はない。
そう意識した途端、亜里沙が右手を横に凪ぐ。
甲の部分に埋め込まれた石から輝く鞭状の帯が伸び出し、突如現れた昇魔を切り裂いた。
それを合図に、床からずぶずぶと昇魔の群れが出現する。
「たいした歓迎ぶりね」
前回と同じく、下級に属する昇魔達だ。情報を得ようと考えるのは無駄だろうと考えながら、亜里沙は前後左右だけではなく天井まで溢れた昇魔達に攻撃の隙を与える事無く鞭を振るう。
一対多数という数の有利を活かそうとしたのだろう。だが、それを覆すほど亜里沙の力は昇魔達を上回っていた。
とはいえ、その場に足止めさせるには十分だと考え方を変えたのか、昇魔達はある程度の距離を保ちつつ攻撃を仕掛けてくる。
膠着状態は避けなくては、そう考えた瞬間、亜里沙の足首に何かが巻き付いた。
「え?」
ぞわり、と背筋に冷たいものが駆け上がる。
細く粘着質な糸のようなそれは、見た目とは違いかなりの強さで亜里沙の足首から上に巻き付くべく空を走ってきた。
糸を断ち切るために亜里沙の動きが一瞬鈍る。
それを好機と見て取った昇魔が、一斉に亜里沙に襲いかかる。
「っ!」
耳障りな声を上げながら、昇魔の一匹が鋭いかぎ爪を振り上げる。
思わず息を止めた亜里沙の横から、不意に一陣の風が吹き抜けた。
「何してるんだ、お前」
「っ!」
亜里沙の顔の横から生えたように太刀を振るった北斗が、ほとほと呆れたようにそう言いながら昇魔の顔に突き刺さった刃を引き抜いた。
僅かに肩の力を緩めた亜里沙を見てだろう。北斗は不機嫌そうに言い放った。
「無断で行動するからだ。一人でここに来るなっつったの忘れたのか」
「ごめんなさい」
かなりきつめの口調は心底怒っているのだと感じられるために、亜里沙は素直に謝罪の言葉を口にする。
頭から爪先まで、亜里沙が怪我負っていない事を確認した北斗が、内心で安堵の息をつく。それを表に出さなかったのは、ひとえに新人扱いをしないため、と自分に言い訳しながら。
それにしても、だ。
今までなりを潜めていていた昇魔達が、こうも活発に動き出してきた事に疑問を持ちつつも、北斗は自分が握る『陽炎』の向こう側で徐々に増えていく昇魔の群れに眉を顰めてしまった。
「なんかあったのか?」
「これといった事はしてないんだけど」
亜里沙の返答に、北斗は考え込むように眉間に浅く皺と作る。
どうやら本腰を入れて自分達を潰しに来たのだろうか。けれど、それにしては雑魚と言ってもいい妖力しか感じられない。
―小手調べ、か。
だとしたら、自分達も甘く見られたものだ。この程度の昇魔達で、自分達の足が鈍るとでも思っていたら、それは間違いというものだ。
「やれやれ……」
思わず漏れた言葉に、不思議そうに亜里沙が北斗を見遣る。
だだそれに答える事無く北斗は太刀を構える。一瞬の後、北斗が床を蹴りつけた。
一気に距離を縮めた事に驚いたのか、昇魔達に動揺が走る。それを見逃さずに、亜里沙が北斗のサポートへと回った。
力強く、相手を一刀両断にするかのように太刀を振る北斗と、対照的にまるで舞うかのように鞭を巧みに操る亜里沙の動き。まだまだぎこちないながらも、呼吸を合わせるかのように巧みに連携を取りながら、昇魔達の数を少しずつ減らしていく。
さして時間はかかっていないはずだが、二人共に肩で息をつきながらも警戒しつつ辺りを見回した。
動くものは二人以外にいない。異臭と塵とかした昇魔のなれの果てに、亜里沙が難しい顔でポツリと呟いた。
「どうして突然」
「しびれを切らしたか、邪魔になっただけだろうな」
「本腰を入れてくるって事?」
「……さぁな」
考え深げに返された返答に、亜里沙の眉根が一瞬だけ寄せられる。
自分で言った言葉とはいえども、本腰を入れてきたとというよりは自分達で遊んでいるのでは、といった感覚にとらわれるのだ。亜里沙でさえそう感じるのだから、実践を何度も積んできた北斗にとっては、さもあらん、な感触だったのだろう。
どちらにしろ、あまり歓迎出来る招待のされ方ではない。
情報すら力尽くで取り出すことも出来ず、相手の掌の上で転がされているだけでは、振り出しどころではなくその遙か遠くにいる状態でしかないのだ。
それに加えて……。
「焦ってるのか?」
「え?」
この昇魔達のトップに立つモノの機嫌を損ねたのか、それとも、自らが命を下して動きを取らせたのか。どちらにしろ、下級の昇魔達が暴走するには十分な何かを与えられたのだろう。
北斗の口から深々とした溜息が漏れ出ると、心配そうに亜里沙が視線を向けてくる。
それを傍目で見つつ、北斗は周囲を見回しながら僅かに口の端を歪めた。
今だに昇魔達が仕掛けた結界は有効だ。以前と同じようにループ状の結界となっているが、その強度は今回の方が強く張られている。出口を探そうにも、巧妙なまでに隠されたそれを探すには、かなりの時間と厄介さをこちらにかけてくることは経験上良く分かっているため、北斗は苦々しい気持ちと共に陽炎の刃先を小さく動かした。
「何時までもここに閉じ込められているのは、性に合わないんじゃない?」
「あ?」
僅かに険の入った声で北斗はそう切り返すが、無表情を保ったままの亜里沙は淡々とした声で疑問を口にする。
「深田水鳥。彼女にちょっかいをかけてくる可能性は?」
「……ゼロではない。けどな、奴等の巣はここともう一カ所だけだ」
北斗の視線が、窓の外の時計塔へと向けられた。
同じように視線を移した亜里沙も、幾分か眼を細めて薄汚れた外壁を見つめた。
何時もと同じく時を刻むその姿は、北斗や亜里沙の瞳には細く黒ずんだ糸に覆われた姿が見える。この第二校舎に張られている白い糸と絡み合いながら、中途から段々と黒ずんだ色に変える糸は、それでもしっかりと第二校舎と時計塔とを結び合わせていた。
複雑に絡み合いながら、最初にどちらが糸を放ったのかすらもが分からず、繭玉のような形を作ってはいるのだが、見える者にとっては悪寒と吐き気を催すような存在感を放っている。
「にしても」
「え?」
「鬱陶しいな、こいつは」
言わんとしていることを理解したのか、亜里沙も小さく頷いて同意を示すと周囲を見回し溜息をついた。
漂う殺気は、確実に二人を仕留めるための隙を狙い、視界の中に入らない昇魔達の気配なども含めれば、その数は数えるだけでも馬鹿らしくなるほどだ。
きっちりと着こなしている制服の第一ボタンを外し、僅かではあるが締め付け感を緩めた亜里沙は、自分自身を落ち着かせるために深く息を吐き出した。
呼吸が整ったことを確認し、北斗は亜里沙の先を行くように歩き出す。
窓から差し込んでいるはずの日の光は薄暗く、リノリウムの廊下は一歩踏み出すごとに鈍い音を立てる。奥に進めば進むほど光はなくなり、闇がその支配権を強くしていくように感じられ、息苦しさが徐々に強くなっていく。それだけではない。奥から流れる異臭は酷く生臭く、嘔吐感を伴うために思わず歩調が止まりそうになってしまう。
だが、そんなものになど頓着することなく、北斗は歩む速度を緩めることはない。それに必死になってついて行きながら、亜里沙は辟易しながらも気になったことを口にした。
「なんともないの?この臭い」
「鼻にはつくが、毎度現場に出ればこんなもんだ。
中心近くまで来た証拠でもあるからな」
「中心って、結界を張った昇魔がいるって事?」
「良く出来ました」
まるで幼子をあやすかのような口調に、亜里沙の瞳が一瞬だが険しくなる。それを楽しそうに眺めた後、北斗は真剣な表情で廊下の奥を睨み付けた。
臭気が強くなってくると同時に、緩やかだが強力な魔力が流れてくる。これほどはっきりとした敵対意思は初めてだが、それが自分たちを侮っての行動なのか、それとも逆の意思を持ってのことなのかが、今だに判断の迷うところだ。
だが、はっきりとしたことはただ一つ。
「いるな」
「えぇ」
独り言めいた北斗の言葉に、亜里沙も同意の言葉を返す。
目の間に広がるのは、いっそう濃くなった闇の塊。
じりじりと時間だけが過ぎるが、相手の出方が分からない以上はこちらから手を出すのは得策ではない。
ほんの僅かな時間のはずだが、二人の間には永劫に続くような錯覚を覚えた時だ。北斗が陽炎を無造作に動かした。
ガキン、と、鈍い音が周囲に響く。
一瞬驚いたように目を見開いた亜里沙だが、すぐさま臨戦態勢に入り目の前を見つめる。何かがいる、と、理解するよりも早く、無意識に自分に向かって飛んできた黒い刃物上の物体を叩き落とした。
北斗の時とは違い、鈍い音も立てずにどろりとした粘着質の物体が翠刃光鞭の鞭部分を伝い、廊下にぼとりと落ちる。次の瞬間、それは異音と異臭を放ちながら廊下を溶かし始めた。
酸を出すのか、と、北斗が内心で悪態を放つのを知ってだろうか。亜里沙が翠刃光鞭のを闇の奥めがけて放った。
中心を捕らえたと思ったのだが手応えはなく、空を切ったような鞭の動きに亜里沙は困惑したように翠刃光鞭を手元に戻す。
「無駄だ。この闇全体がやつの本体と同じだからな」
「この闇って……」
些か呆然としたようにそう呟き、亜里沙は廊下の奥底に広がる闇を見つめた。
廊下だけではなく天井一面までも占拠するほど巨大な闇が、昇魔の身体全体なのだと理解するのに数秒要してしまう。どう対処すべきかと考えあぐねた隙を逃さず、それは亜里沙の右足首を素早く捕まえると、そのまま自分の方へと引き寄せる。
無様に尻餅をつき、そのままずるりと引き寄せられかけた亜里沙だが、陽炎が鮮やかに一閃して闇と亜利沙の間を引き裂いた。
「大丈夫か?」
「……えぇ」
なんとかそれだけを押しだし、亜里沙は痛む右足首に視線を向ける。焼け爛れたような傷口だが、痛みを無視すれば動かせないこともないと判断し、亜利沙は慎重にその場で立ち上がる。
その様子を横目で確認した北斗が、淡々とした口調で亜里沙に命じた。
「俺の後ろに下がってろ」
小さく頷いて、亜里沙は北斗の背後に下がり周囲の気配を伺う。
元々亜里沙の能力は防御方面に長けている。攻撃を北斗が、防御を亜里沙が担うことによって連携を深めると言っていいだろう。いつでも北斗の守りを固めるために、亜里沙が素早く印を切り北斗の目の前にうっすらと光る壁を作り出す。
そっと詰めていた息を吐き出し、亜里沙はうごめく闇へと視線を向ける。嘔吐感と鳥肌しか生み出さないそれは、核となる部分をあちこちに移動させているためにこちらで核を固定させなくてはならない。北斗の守りとは別に結んでいた術を少しずつ伸ばしながら、闇にも感知されないように亜里沙は神経を一点に集中させた。
ちかり、と何かが瞬く。
瞬間的にそれを縛り上げ、亜里沙は叫ぶような声を上げた。
「北斗!」
「よし!」
翠刃光鞭と同色の糸が闇の一角を縛り上げている。絡め取ったそれを思い切り引き寄せれば、北斗はそれに向かって張りしだした。
ずるりと闇から引き離されたそれは、金属同士がこすれ合うような音を立てながら身体に巻き付いた糸をふりほどこうと暴れるような動きを見せる。
陽炎を正面に構え、北斗は一気に床を蹴りつける。
陽炎の刃が糸の間を潜り抜けて引きずり出された球体を二つに切り裂くと、耳をつんざくような音があたりに響き渡った。
思わず耳を塞ぎたくなるような異音が二人の耳朶をたたきつける。それを顔を顰めることでなんとかやり過ごし、目の前に広がっていた闇が徐々に薄れることを確認した北斗が、不意に表情を鋭いものにかけて窓の外へと視線を向けた。
「北斗?」
不思議そうに亜里沙が呼びかけていることすら気がつかないのか、北斗は表情を変えないままに時計塔へと目線を固定させた。
同様に時計塔へと視線を向けるが、亜里沙には今までと変わりない様子が映し出されている。不思議に思いながらも、気難しげな北斗の様子に黙って次の言葉を待つ。
「しくじったな」
「え?」
何のことか分からずにきょとんと目を見開き、亜里沙は北斗の言っている意味を考えるように眉根を寄せた。
その様子に小さく下を打ち付け、北斗が答えを示す。
「この結界の中心は今の昇魔じゃねえ」
「でも、ここの結界は解かれかけて」
「あの昇魔はトラップだ。
結界を解く代わりに、ここの本体を引き上げて時計塔の守りを固めてやがる」
慌てて窓の外を見た亜里沙が、わずかに息を飲み込む。確かに、北斗の言うとおり時計塔を包む繭が今まで以上の厚さと瘴気を纏わせ、まるで威嚇するかのような存在感を放っていた。
「頭のいいやつだな。これで生半可な手出しはできなくなった」
ぐしゃりと自分の前髪をつかみあげ、北斗は忌々しげに時計塔に視線を向けた。
これ以上後手に回れば、この学園にいる人間だけではなく周囲に暮らす人間にまで危害が及ぶ恐れがある。
やっかいだな、と内心で独りごちた北斗の耳に、冷静な亜里沙の声が響いた。
「危険でも、時計塔の内部に入るべきじゃないの」
「まぁな」
わずかに緊張をはらんでいることを悟られないようにしている亜里沙の態度に、北斗は長い息を吐き出すことで亜里沙がまだ新人であったことを思い出す。
実力がある分だけついつい忘れがちになるが、亜里沙にとってこれは初めての現場実習だ。ぎこちなさも緊張感も北斗に悟られないよう気をつけて行動しているため、こんな場合でしかそれを見せることはない。
仕方ないか。
そう判断した北斗は、軽く肩をすくめて眉間にしわを刻んだ亜里沙の頭をぽんぽんと叩き付けた。
きょとん、と目を見開いた亜里沙だが、すぐにその掌を交わして不機嫌そうに北斗を見上げた。
何かを言うべく口を開きかけるが、ふと感じた複数の気配に亜里沙はそちらへと視線を向ける。
「行くぞ」
大方物音を聞きつけた職員か警官かがこちらに向かってきてるのだろう。説明したところで理解できないであろうし、説明するのも面倒というものだ。
人気のない方向へと歩き出した北斗の後を、亜里沙も追いかけよと足を踏み出す。
だが、ふと何か気になったかのように、亜里沙はちらりと背後に視線を向けた。
今までの戦闘の跡は全く見えず、何事もなかったかのように普段通りの廊下が視界に入る。異臭も、昇魔の血痕すらも見当たらないそこは、どちらが現実だったのか一瞬ではあるが亜里沙の思考に混乱をもたらす。
だが、腕に装着されている翠刃光鞭は戦闘直後の熱を今だに残しており、実際に戦いがあったことを如実に示していた。
「おい」
先を行く北斗が、苛立った声を上げる。
胃の腑に残る重苦しい何かを抱え込んだまま、亜里沙は慌てたように北斗の後を追いかけた。
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