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本編
時の精霊の空間③
しおりを挟む「……貴女は、同じクラスのデラクール伯爵令嬢ですよね?」
私が睨み付けながら問い掛けると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。あまりにも嬉しそうな笑みに毒気を抜かれそうになるけれど、これが私を油断させる為の、彼女の作戦なのかもしれないと思って気を引き締める。
私はゆっくりとデラクール伯爵令嬢に近付いて、拘束されているマックスの前に立った。マックスが私を見て、眉間にシワを寄せる。
「アリス、どうしてここに?」
「どうしてって、勿論マックスを……」
「分からないの?!アリスは脳筋なマックスを助けに来たに決まってるじゃない!馬鹿なの?!」
ちょ?!
なんでそこで敵である貴女が怒るの?!
人の彼氏を馬鹿呼ばわりしないでっ!!
「マックスは馬鹿じゃない!!」
「え?!アリスは、マックスが馬鹿じゃないと思ってるの?」
「当たり前でしょ?!というか、マックスからもっと離れて!!【物理障壁】!!【魔法障壁】!!」
「?!」
私は自分とマックスの周囲に物理と魔法、両方の防御障壁を張り、デラクール伯爵令嬢の様子を見る。デラクール伯爵令嬢は私の防御障壁を見て、何故だか少し悲しそうな顔をした。私の胸が、チクリと痛む。
―――なんで?
クラスで顔を合わせるくらいで、碌に話もした事がないのに。なんで胸が痛むの?
私がそう思っていると、デラクール伯爵令嬢の口が歪んで弧を描いた。
「殺る気満々なんだ。いいよ、ゲームだものね。眷属達よ、アリスの結界を壊して!!」
「……っ!!そう簡単には壊させない!!【闇の矢】!!」
マックスを拘束していた沢山の黒い手は、私が結界を張ると同時に弾かれていたけれど、デラクール伯爵令嬢の言葉を聞いて外から結界を壊そうと結界を押したり叩いたりしてくる。私は結界が壊れないように魔力を注いで強固にしつつ、闇魔法で攻撃していく。【闇の矢】は中級魔法だけど、沢山の矢を増産してタイミングをズラしながら射っていくと、デラクール伯爵令嬢のスカートをスパッと貫通した。
「……危ないな、私を殺す気?【時間逆行】!!」
「?!」
放った【闇の矢】が、デラクール伯爵令嬢に当たる前に次々と霧散していく。私は唇を噛み締めつつ、今度は【聖なる矢】を繰り出した。光属性は基本的に回復系ばかりだけど、少しだけ攻撃系の魔法も存在していて、【聖なる矢】も数少ない光属性の攻撃系魔法だ。上位魔法に位置しているので、当たれば【闇の矢】よりも高いダメージを与えられる。けれど、【聖なる矢】に対しても【時間逆行】を使用され、【闇の矢】よりも多少時間が掛かっているように感じたが、同じ様に霧散させられていく。アリスがどう倒したら良いか思考を巡らせていると、拘束の解けたマックスが私の隣に並んだ。
「マックス?」
「アリスばかりに戦わせられない。自分に結界を張って、身体強化と魔法剣で俺も戦う!」
「でも、デラクール伯爵令嬢には【時間逆行】が……っ」
そこで私は違和感を感じた。
結界に使用している魔力は消費しているけど、攻撃している方の魔力があまり消費していない事に。
まさか【時間逆行】って、魔法を発動前の状態に戻してしまうけど、魔法に使った魔力も使用者に戻って来るの?
デラクール伯爵令嬢は【時間逆行】を使用すればする程、魔力が減っていくのに、私の方は殆ど減っていかない。こんなの向こうにとってはジリ貧だ。【時間逆行】は高度な魔法のようだし、魔力消費も激しそうなのに。先に魔力が底をついてしまうかもしれないのに、どうして他の魔法は使って来ないの?
私の疑問を余所に、マックスが自身に結界を張って飛び出して行った。地面を蹴って大きく跳躍し、剣に炎を宿して振り下ろす。
デラクール伯爵令嬢も自身に結界を張り、マックスの攻撃を何とか防ぐけれど物理攻撃に対して【時間逆行】は使わないようだ。正確には使えないのかもしれない。
「今度は油断しない!炎よ、更なる熱を宿して如何なる者をも斬り裂け!!【地獄の業火】!!」
「なっ……?!」
デラクール伯爵令嬢が、驚愕して目を見開いた。マックスの剣に渦巻く赤黒い炎が、デラクール伯爵令嬢の結界を溶かしていく。そうして、渦巻く炎の中から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『【地獄の業火】を使うには魔力が足りていないぞ、マクシミリアン』
「……この声はファイス?!」
炎の中から聞こえてきたのは、フィーこと、フィリップ殿下の契約精霊である、火の最上位精霊ファイスの声だった。
* * *
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